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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1190472
審判番号 不服2007-4206  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-09 
確定日 2009-01-05 
事件の表示 特願2000- 80961「光電変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月 6日出願公開、特開2001- 60707〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年3月22日(優先権主張 平成11年6月18日)の出願であって、平成18年7月7日付けで手続補正がなされたが、平成19年1月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月9日付けで拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年3月9日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「 【請求項1】
光線が入射する側から順に、透明基板、透明導電膜、光電変換層を含む光電変換ユニットおよび裏面電極が積層された光電変換装置であって、
前記透明基板と前記透明導電膜との間にさらに中間膜が形成され、
前記光電変換層の分光感度特性が最大となる前記光線の波長をλ[nm]として、(λ-50)nm以上(λ+50)nm以下の波長域における平均反射率R1と、前記中間膜を形成しない状態での前記波長域における平均反射率R2とが、R1<R2×0.8の関係を満たし、前記中間膜が、前記透明基板側から順に、高屈折率膜および低屈折率膜の2層から形成され、前記低屈折率膜の膜厚が1nm?15nmの範囲に調整され、前記高屈折率膜の膜厚が20nm?70nmの範囲に調整されていることを特徴とする光電変換装置。」
と補正された。
上記補正は、平成18年7月7日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「高屈折率膜」の膜厚について、「20nm?70nmの範囲に調整されている」との限定を付加するものであるので、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成14年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-154647号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

ア.「1.屈折率nが1.8以上で厚みdが0.15μm以上の透明導電膜が透明基板上に形成された積層体において、該透明導電膜と該透明基板の間に、n=1.35?1.55の低屈折率透明膜をnd=0.045?0.075μmの膜厚に該透明導電膜と接するように、かつn=1.8?2.5の高屈折率透明膜をnd=0.015?0.045μmの膜厚に該透明基板と接するように形成したことを特徴とする透明導電性積層体。」(特許請求の範囲第1項)

イ.「6.請求項1記載の透明導電性積層体の該透明導電膜上にアモルファスシリコン又はポリシリコンを形成し、その上に裏面電極を形成してなる太陽電池。」(特許請求の範囲第6項)

ウ.「第1図は本発明の透明導電積層体の一別の断面図である。
本発明の透明導電膜11としては、ITO、SnO_(2):F、SnO_(2):Sb、ZnO:Alなどが代表的に用いられるが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。これらは、建築用ヒートミラー、太陽電池用透明導電基板、表示用透明導電基板、電磁遮蔽ガラス、自動車用や航空機用又は車輌用電熱風防ガラス、紫外線カツトガラス等として利用することができる。
本発明のn=1.35?1.55の透明薄膜12としてはMgF_(2)、SiO_(2)やこれらの混合物又はSiO_(2)を主成分とした複合酸化物例えばZrSi_(x)O_(y)、TiSi_(x)O_(y)等を用いることができるが本発明の範囲はこれに限定されるものではない。特にスパッタリングで成膜することを考慮すると耐久性も兼ね備えたSiO_(2)やSiO_(2)を主成分とした複合酸化物例えばZrSi_(x)O_(y)が有利である。
本発明のn=1.8?2.5の透明薄膜13としては、ZrO_(2)、Ti0_(2)、Ta_(2)O_(5)、ZnO,In_(2)O_(3)、SnO_(2)、ITO等多数の候補があるが、それでも本発明の範囲はこれに限定されるものではない、特にスパッタリングで成膜することを考えた場合には、価格、耐久性等をも考慮して選択する必要があり、TiO_(2)、SnO_(2)等が有力である、一方、生産性を考えた場合には、後段の透明導電膜と同じ材料を用いることで、プロセスを共通化することができる可能性も検討の価値がある。」(第4頁左上欄第7行?同頁右上欄第14行)

エ.「[作用]
そもそも色ムラの発現する原因は透明基板上に該基板より十分大きな屈折率を有する透明薄膜が形成された場合に、該高屈折率薄膜の上下界面における光の干渉作用である。このため、分光スペクトル中に反射(透過)率の極大・極小(リップル)を生じる。ここで該高屈折率薄膜の膜厚が変化すると、この極大・極小の位置(波長)が変化し色調の変化となって観測されるのである。あるいは視角が変化した場合も同様に、分光スペクトル中の極大・極小の位置(波長)の変化が色調の変化となって観測される。
本発明において、該高屈折率薄膜11と該透明基板10の間に形成される低/高屈折率の透明膜は、この該高屈折率膜と該透明基板との界面における反射を防止する働きをする。この結果、等価的には、この界面が消失したことになり、該高屈折膜内における光の干渉作用がなくなり、反射(透過)におけるリップルが消失するのである。従って、膜厚、視角の変化に伴う色調変化も感知されなくなる。
・・・(略)・・・つまり、リップルの大きさは薄膜の上下界面におけるフレネル係数の積に比例するのである。従って、上下どちらかの界面におけるフレネル係数をゼロにすることができればリップルは消失することになる。界面のフレネル係数をゼロにすることは、この界面を反射防止することに他ならない。反射防止膜の最も単純なものは単層の反射防止膜であり、これは界面を形成している2種類の材料の屈折率の積の平方根(中間屈折率になる)の屈折率を有する材料を、反射防止したい波長の1/4の光学的厚みに形成することにより達成される。これが、前記した従来技術におけるリップル抑制ガラスに用いられている下地層の意味である。
本発明においては、この中間屈折率の1/4λ層の代わりに低/高屈折率の透明2層膜とすることにより、全体の膜厚を薄くすることを意図している。即ち、中間屈折率単層膜では、光学膜厚で0.13μm程度必要だったものが、低/高2層膜とすることにより請求の範囲第1項に記載の通り、2層の合計でも0.065?0.12μmとすることができるのである。
・・・(略)・・・
この反射防止作用は、厳密には特定の単一の波長(主波長)でしか成立しないので、他の周辺の波長においては反射防止効果は完全ではなく、若干のリップルが残存する。故に、上に述べた色調変化も若干残存し、感知される場合がある。」(第4頁右上欄第15行?第5頁右上欄第13行)

オ.「又、特にある特定の波長範囲に相当する色調を嫌うような場合には、その波長範囲内に2つの波長を設定し、これらがλ_(1)、λ_(2)に相当するように上層膜及び下地2層膜の屈折率及び層厚を調整してやることができる。例えば、赤系統の色調を嫌う場合にはλ_(1)=0.58μm、λ_(2)=0.65μm等とすることにより、この範囲の波長域のリップルを抑制することができる。」(第5頁右下欄第20行?第6頁左上欄第7行)

カ.「実施例1
ガラス基板を真空槽内にセットし、l×10^(-6)Torrまで排気した後Arと酸素の混合ガスを導入してl×10^(-2)?1×10^(-3)Torrの圧力中でチタンのターゲットをDCスパッタしてTiO_(2)の膜をガラス基板上に120Å形成した。この膜の屈折率は2.4でありnd=0.029μmに相当する。次いで同じくArと酸素の混合ガスの1×10^(-1)?1×10^(-)2Torrの圧力中でZr:Si=1:9の合金ターゲットをDCスパッタしてZrSi_(x)O_(y)の膜を400Å形成した。この膜の屈折率は1.52であり、nd=0.061μmに相当する。この上にイオンブレーティングによりITO薄膜を8000Å形成した。別に同様にして成膜したITO膜の屈折率を測定したところ2.0であった。これをサンプル1とした(第1図の構成)。このサンプルの分光反射/透過特性を第8図の81に示した。このグラフからリップル防止の主波長λ_(2)=0.63μmに相当する。」(第6頁左下欄第6行?同頁右下欄第4行)

キ.「又、太陽電池用透明導電性基板においては、低抵抗と共に変換効率向上のためにやはり高透過率が要求されるので本発明は有効である。」(第8頁左上欄第4?7行)

ク.上記アの「n=1.35?1.55の低屈折率透明膜をnd=0.045?0.075μmの膜厚に」との記載から、低屈折率透明膜の膜厚を計算すると、低屈折率透明膜の膜厚はd=29?56nm(小数点以下を四捨五入)の範囲であることは明らかであり、上記アの「n=1.8?2.5の高屈折率透明膜をnd=0.015?0.045μmの膜厚に」との記載から、同様に、高屈折率透明膜の膜厚は、d=6?25nmの範囲であることは明らかである。

以上の記載事項からみて、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。
「屈折率nが1.8以上で厚みdが0.15μm以上の透明導電膜が透明基板上に形成された積層体において、該透明導電膜と該透明基板の間に、n=1.35?1.55の低屈折率透明膜をd=29?56nmの膜厚に該透明導電膜と接するように、かつn=1.8?2.5の高屈折率透明膜をd=6?25nmの膜厚に該透明基板と接するように形成し、該透明導電膜上にアモルファスシリコン又はポリシリコンを形成し、その上に裏面電極を形成してなる太陽電池。」(以下「引用例発明」という。)

3.対比
(1)引用例発明と本願補正発明とを対比すると、引用例発明の「透明導電膜」、「透明基板」、「低屈折率透明膜」、「高屈折率透明膜」、「アモルファスシリコン又はポリシリコン」、「裏面電極」及び「太陽電池」は、本願補正発明の「透明導電膜」、「透明基板」、「低屈折率膜」、「高屈折率膜」、「光電変換層」、「裏面電極」及び「光電変換装置」にそれぞれ相当する。

(2)引用例発明の「低屈折率透明膜」、「高屈折率透明膜」は、透明導電膜と該透明基板の間に形成されるものであるから、本願補正発明の「中間膜」に相当する。

(3)引用例発明の「太陽電池」は、「透明導電膜上にアモルファスシリコン又はポリシリコンを形成し、その上に裏面電極を形成してなる太陽電池」であるので、透明基板の側から、光線が入射することは明らかであり、引用例発明は、本願補正発明と「光線が入射する側から順に、透明基板、透明導電膜、光電変換層を含む光電変換ユニットおよび裏面電極が積層された光電変換装置」である点で共通する。

したがって、引用例発明と本願補正発明とは、
「光線が入射する側から順に、透明基板、透明導電膜、光電変換層を含む光電変換ユニットおよび裏面電極が積層された光電変換装置であって、
前記透明基板と前記透明導電膜との間にさらに中間膜が形成され、
前記中間膜が、前記透明基板側から順に、高屈折率膜および低屈折率膜の2層から形成されている光電変換装置。」
である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。

相違点1
本願補正発明では、「前記光電変換層の分光感度特性が最大となる前記光線の波長をλ[nm]として、(λ-50)nm以上(λ+50)nm以下の波長域における平均反射率R1と、前記中間膜を形成しない状態での前記波長域における平均反射率R2とが、R1<R2×0.8の関係を満た」すのに対し、引用例発明では、そのようなことが明らかでない点。

相違点2
本願補正発明では、「前記低屈折率膜の膜厚が1nm?15nmの範囲に調整され、前記高屈折率膜の膜厚が20nm?70nmの範囲に調整されている」のに対し、引用例発明では、低屈折率透明膜の膜厚は29?56nmであり、高屈折率透明膜の膜厚は6?25nmである点。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア.光電変換装置の変換効率を高くするために、光電変換層の分光感度特性が大きい波長における反射率が低い方が好ましいことは、太陽電池の分野において周知である(例えば、原査定の備考に示した特開平10-19388号公報(【0064】、図9)、同じく特開平2-224279号公報(第6頁左上欄第8行?第7頁左上欄第7行)、特開昭57-126173号公報(第2頁左下欄第19行?同頁右下欄4行)を参照。)。

イ.一方、引用例には、上記2.(1)エの「発明において、該高屈折率薄膜11と該透明基板10の間に形成される低/高屈折率の透明膜は、この該高屈折率膜と該透明基板との界面における反射を防止する働きをする。」、同じく上記2.(1)エの「この反射防止作用は、厳密には特定の単一の波長(主波長)でしか成立しない」との記載、及び、上記2.(1)キの「太陽電池用透明導電性基板においては、低抵抗と共に変換効率向上のためにやはり高透過率が要求されるので本発明は有効である。」との記載、上記2.(1)オの「特にある特定の波長範囲に相当する色調を嫌うような場合には、その波長範囲内に2つの波長を設定し、これらがλ_(1)、λ_(2)に相当するように上層膜及び下地2層膜の屈折率及び層厚を調整してやることができる。」との記載がある。
これらの記載によれば、引用例発明は、光電変換装置の変換効率を高くすることを目的としており、引用例発明の低屈折率透明膜と高屈折率透明膜による反射防止作用は波長(主波長)に依存するものであるところ、引用例発明は、所望の波長にあわせて、屈折率及び層厚を調整するものであるといえる。
してみれば、引用例発明において、上記周知の事項を踏まえて、光電変換装置の変換効率向上のために、高屈折率透明膜および低屈折率透明膜により低反射率(高透過率)とする波長波長(主波長)を光電変換層の分光感度特性が大きい波長とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

ウ.また、引用例発明においても、反射率を低くすることを目的とし、反射率は波長に依存するものである以上、低反射率となる波長範囲はできるだけ広い方が好ましく、その波長範囲での反射率の値は低い方が好ましいことは当然のことである。
そして、本願の発明の詳細な説明を参酌しても、低反射率とする波長の範囲を光電変換層の分光感度特性が大きい波長の±50nmの範囲とすること、及び、中間膜を形成した状態の平均反射率を中間膜を形成しない状態での前記波長域における平均反射率の0.8倍以下とすることに、設計的事項以上の技術的意義は認められず、当業者が適宜決定しうる数値といわざるを得ない。

エ.したがって、引用例発明において、上記周知の事項を踏まえて、高屈折率透明膜および低屈折率透明膜により低反射率(高透過率)とする波長(主波長)を光電変換層の分光感度特性が大きい波長とするにあたり、「前記光電変換層の分光感度特性が最大となる前記光線の波長をλ[nm]として、(λ-50)nm以上(λ+50)nm以下の波長域における平均反射率R1と、前記中間膜を形成しない状態での前記波長域における平均反射率R2とが、R1<R2×0.8の関係を満た」すように調整することは、当業者であれば適宜なし得る設計事項にすぎない。

(2)相違点2について
ア.本願補正発明の高屈折率膜及び低屈折率膜の膜厚については、本願の明細書の発明の詳細な説明には「【0023】第1の中間層1,31は、第2の中間層2,32よりも屈折率が高い高屈折率膜として形成することが好ましい。・・・(略)・・・第1の中間層の膜厚の好ましい範囲は5nm以上100nm以下であるが、上記範囲の下限については20nm、特に25nmがさらに好ましく、上限については70nm、特に60nmがさらに好ましい。」との記載、「【0024】一方、第2の中間層2,32は、第1の中間層1,31よりも相対的に屈折率が低い低屈折率膜として形成することが好ましい。・・・(略)・・・第2の中間層の膜厚は、1nm以上が好ましく、60nm以下が好ましい。」との記載があり、実施例1?3、参考例4?5及び比較例1?6として、以下の表のとおりの高屈折率膜及び低屈折率膜の膜厚と波長450?500nmにおける平均反射率を有する光電変換装置が記載されている。

[表] 波長450?500nmにおける
高屈折率膜 低屈折率膜 平均反射率
実施例1 68nm 3nm 10.23%
実施例2 31nm 7nm 13.57%
実施例3 45nm 15nm 9.84%
参考例4 29nm 33nm 9.21%
参考例5 20nm 35nm 8.71%
比較例1 なし なし 17.41%
比較例2 なし 30nm 17.91%
比較例3 18nm 28nm 14.25%
比較例4 なし 30nm 14.3 %
比較例5 なし 30nm 13.9 %
比較例6 なし 30nm 8.78%
(※比較例2,4?6は、透明導電膜(SnO2:F膜)の膜厚が、それぞれ200nm、460nm、600nm、790nm)

イ.本願補正発明は、「低屈折率膜の膜厚が1nm?15nmの範囲に調整され、前記高屈折率膜の膜厚が20nm?70nmの範囲に調整され」たものであるが、上記アのとおり、本願の明細書の発明の詳細な説明には、高屈折率膜及び低屈折率膜がともに形成されていないものを除くと、低屈折率膜の膜厚については、3nmより薄いものについては記載がなく、低屈折率膜の膜厚の下限である1nmに設計的事項以上の技術的意義を認めることができない。
また、参考例4,5のものは低屈折率膜の膜厚の下限である15nm以上のものであるが、これらは、低屈折率の膜厚が、本願補正発明の低屈折率膜の膜厚の上限の15nmよりも厚いにもかかわらず、これらの平均反射率は、本願補正発明の実施例である実施例1?3のものよりも低くなっており、低屈折率膜の膜厚の上限である15nmにも設計的事項以上の技術的意義を認めることができない。
また、本願の明細書の発明の詳細な説明には、高屈折率膜の膜厚については、20nm以下のものは、高屈折率膜が形成されていないもの(比較例1、比較例4?6)しか記載されておらず、また70nm以上のものは記載されていない。特に、高屈折率膜が形成されていないものである比較例5,6においては、本願補正発明と同等程度(R2×0.8)以下の低反射率を実現しているものである。したがって、低屈折率膜の膜厚の下限である20nm及び上限である70nmに設計的事項以上の技術的意義を認めることができない。

ウ.さらに、膜による反射防止の効果(反射率)は、低屈折率膜及び高屈折率膜の膜厚だけでなく、それらの屈折率やその他の積層される各層の屈折率や厚さとも関係していることは、技術上明らかであることを踏まえれば、低屈折率膜及び高屈折率膜の膜厚の範囲のみを限定した、本願補正発明の上記相違点2に係る構成に設計的事項以上の技術的意義を認めることはできない。

エ.そして、引用例発明は、引用例の上記2.(1)オの「特にある特定の波長範囲に相当する色調を嫌うような場合には、その波長範囲内に2つの波長を設定し、これらがλ1、λ2に相当するように上層膜及び下地2層膜の屈折率及び層厚を調整してやることができる。」との記載のとおり、特定の波長に対応させるために低屈折率膜、高屈折率膜の膜厚を調整するものであるから、上記(1)エのとおり、引用例発明において、高屈折率透明膜および低屈折率透明膜により低反射率(高透過率)とする波長(主波長)を光電変換層の分光感度特性が大きい波長とするにあたり、高屈折率透明膜および低屈折率透明膜の膜厚を調整することは、当業者であれば適宜なし得る程度ことにすぎず、上記ア?ウのとおり、低屈折率膜の膜厚及び高屈折率膜の膜厚の数値範囲に、臨界的意義や技術上の意義は特段認められないから、高屈折率透明膜および低屈折率透明膜の膜厚を調整するにあたり、「低屈折率膜の膜厚が1nm?15nmの範囲に調整され、前記高屈折率膜の膜厚が20nm?70nmの範囲に調整され」るものとすることは、当業者であれば適宜なし得る設計事項である。

(3)したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年7月7日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
光線が入射する側から順に、透明基板、透明導電膜、光電変換層を含む光電変換ユニットおよび裏面電極が積層された光電変換装置であって、
前記透明基板と前記透明導電膜との間にさらに中間膜が形成され、
前記光電変換層の分光感度特性が最大となる前記光線の波長をλ[nm]として、(λ-50)nm以上(λ+50)nm以下の波長域における平均反射率R1と、前記中間膜を形成しない状態での前記波長域における平均反射率R2とが、R1<R2×0.8の関係を満たし、前記中間膜が、前記透明基板側から順に、高屈折率膜および低屈折率膜の2層から形成され、前記低屈折率膜の膜厚が1nm?15nmの範囲に調整されていることを特徴とする光電変換装置。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2 2」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明から、平成18年7月7日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「高屈折率膜」の膜厚について、「20nm?70nmの範囲に調整されている」との限定を省くものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 4」で検討したとおり、引用例発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-30 
結審通知日 2008-10-31 
審決日 2008-11-14 
出願番号 特願2000-80961(P2000-80961)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 博生加藤 万里子  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 西村 直史
稲積 義登
発明の名称 光電変換装置  
代理人 鎌田 耕一  

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