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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 B23K 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 B23K |
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管理番号 | 1191066 |
審判番号 | 無効2008-800020 |
総通号数 | 111 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-03-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-02-05 |
確定日 | 2008-12-17 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2862413号発明「レーザーマーキング方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2862413号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許第2862413号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願は、平成3年10月2日に出願され、平成10年12月11日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。 2.これに対して、平成20年2月5日に請求人SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社により、本件特許発明についての無効審判請求がなされた。 3.被請求人ポリプラスチックス株式会社は、平成20年4月25日に審判事件答弁書及び訂正請求書の提出し、これに対して、請求人より平成20年6月10日に審判事件弁駁書が提出された。 4.請求人より平成20年9月30日付けで口頭審理陳述要領書が提出され、被請求人より平成20年9月30日付けで口頭審理陳述要領書が提出され、平成20年9月30日に第1回口頭審理が実施された。 第2 訂正請求について 1.訂正請求の内容 平成20年4月25日付けの訂正請求は、本件特許第2862413号の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は対比の便宜のために当審で付与したものである。 (1)訂正事項a 特許請求の範囲の項の請求項1を、訂正前の 「ポリアルキレンテレフタレート樹脂を主体としこれに難燃剤を配合してなる、ASTM D2863に規定された試験法で測定した限界酸素指数が22%以上の熱可塑性樹脂塑性物からなる成形品もしくは該樹脂塑性物によって被覆された成形品の表面に、スキャン式のNd:YAGレーザーを照射してマーキングを行うことを特徴とするレーザーマーキング方法」 から、 「ポリアルキレンテレフタレート樹脂を主体としこれに難燃剤を配合してなる、ASTM D2863に規定された試験法で測定した限界酸素指数が25%以上の熱可塑性樹脂塑性物からなる成形品もしくは該樹脂塑性物によって被覆された成形品の表面に、スキャン式のNd:YAGレーザーを照射してマーキングを行うことを特徴とするレーザーマーキング方法」 に訂正する。 (2)訂正事項b 特許明細書の段落番号【0003】に記載した「22%」を「25%」に訂正する。 (3)訂正事項c 特許明細書の段落番号【0004】に記載した「22%」(2カ所)を「25%」に訂正し、「好ましくは限界酸素指数が25%以上のものであり、特に好ましくは限界酸素指数が28%以上のものであり」を「好ましくは限界酸素指数が28%以上のものであり」に訂正する。 (4)訂正事項d 特許明細書の段落番号【0005】に記載した「22%」(2カ所)をそれぞれ「25%」に訂正する。 (5)訂正事項e 特許明細書の段落番号【0006】に記載した「22%」を「25%」に訂正する。 (6)訂正事項f 特許明細書の段落番号【0009】に記載した「実施例1?4」を「参考例1?2、実施例1?2」に訂正し、「22%以上の樹脂組成物」を「22%以上あるいは25%以上の樹脂組成物」に訂正する。 (7)訂正事項g 特許明細書の段落番号【0010】の表1中、「実施例1」を「参考例1」に、「実施例2」を「参考例2」に、「実施例3」を「実施例1」に、「実施例4」を「実施例2」に、それぞれ訂正する。 (8)訂正事項h 特許明細書の段落番号【0011】に記載した「22%」を「25%」に訂正する。 2.訂正の適否に対する判断 これらの訂正事項について検討する。 (1)訂正事項aについて 訂正事項aは、熱可塑性樹脂組成物の限界酸素指数を22%以上から25%以上と限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。そして、熱可塑性樹脂組成物の限界酸素指数を25%以上とする点は、特許明細書の段落【0004】において、「好ましくは限界酸素指数が25%以上のものであり、」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項b?hについて 訂正事項b?hは、特許明細書の発明の詳細な説明の訂正前の記載を、訂正された特許請求の範囲に整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3 当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は、「特許第2862413号の明細書の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、その理由として、概ね、以下のように主張している。 (1)無効理由1 本件特許発明は、甲第2号証及び甲第3号証を参照すると、甲第1号証に記載された発明であり若しくはそれに基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2)無効理由2 発明の詳細な説明において、難燃剤・助剤の種類及び量が記載されていないので、追試不可能であり、特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載されていないので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 そして、証拠方法として、以下の甲第1乃至甲第7号証が提出されている。 甲第1号証 特開平3-24161号公報 甲第2号証 「プラスチック読本」改訂第16版第367ページ 1989年5月10日発行 (株)プラスチックス・エージ 甲第3号証 「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」第360ページ 1989年12月22日発行 日刊工業新聞社 甲第4号証 ASTM D2863-91の写し 甲第5号証 JIS K7201-1976の写し 甲第6号証 ASTM D2863-00の写し 甲第7号証 JIS K7201-1:1999の写し 2.被請求人の主張 被請求人は、本件特許発明は、甲第1号証に記載の発明とは、明確に区別されると共に、甲第1号証に記載の発明から容易に成し得たものではないことは明白であり、また、発明の詳細な説明に記載の実施例は、当業者が容易に追試可能であって、特許明細書に記載不備は存在しない旨、主張している。 第4 無効理由についての検討 1.無効理由1について (1)本件特許発明 本件特許発明は、訂正明細書(以下、「本件特許明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「ポリアルキレンテレフタレート樹脂を主体としこれに難燃剤を配合してなる、ASTM D2863に規定された試験法で測定した限界酸素指数が25%以上の熱可塑性樹脂塑性物からなる成形品もしくは該樹脂塑性物によって被覆された成形品の表面に、スキャン式のNd:YAGレーザーを照射してマーキングを行うことを特徴とするレーザーマーキング方法」 (2)甲各号証の記載内容 ア 甲第1号証 甲第1号証の第2ページ左上欄第2?10行には、 「〔産業上の利用分野〕 本発明は、レーザー光線を用いて記載可能であるか又は記載された高分子物質からなる成形材料、半製品又は完成部材に関する。 本発明の目的は、多の物質及び使用特性を損うことなく、レーザー光線を用いて十分コントラストにとんだ記載をすることができるようにポリマー材料を調節することができる方法を提供することである。」、 第3ページ右下欄第20行?第4ページ左上欄第4行には、 「例1?14では、半製品及び完成部材の記載のために、波長1064nmのNd-YAG-レーザーをパルス振動数8KHz及びレーザー効率約5Wのパルス操作で使用する。」、 第4ページ左下欄第14?18行には、 「例12 自消性に調整されたPBT100部及びCHP1.4部からなる成形材料より製造されたコンデンサー容器(Kondensatorbecher)上にK=4.8で、黄-緑色下地上の黒色文字を生じせしめる。」 第4ページ右下欄第4?9行には、 「例14 自消性に調整され、ガラス繊維で強化されたPBT100部及びCHP0.4部からなる成形材料より製造された配線盤(Steckerleisten)上に、K=3.9で、ほぼ白色の下地上の黒色文字を生じせしめる。」 と記載されており、これらの記載によると、甲第1号証には、 「自消性に調整されたPBT及びCHPからなる成形材料より製造されたコンデンサー容器上に、Nd-YAG-レーザーを照射して黒色文字を生じせしめる方法」 が記載されていると認められる。 イ 甲第2号証 甲第2号証の第367ページ左欄17-18行には 「一般に自消性と言われるプラスチックは,酸素指数が約27以上であるとされている。」 と記載されている。 ウ 甲第3号証 甲第3号証の表5.40には、各種有機臭素化合物によるGF30%強化PBTの難燃化の例が記載されている。 エ 甲第4,6号証 甲第4,6号証には、ASTM D2863で規定された試験方法が記載されている。 オ 甲第5,7号証 甲第5,7号証には、JIS K7201で規定された試験方法が記載されている。 (3)対比 そこで、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを比較すると、両者は、「ポリアルキレンテレフタレート樹脂を主体とした熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の表面に、Nd:YAGレーザーを照射してマーキングを行うレーザーマーキング方法」である点で一致し、成形品を構成するポリアルキレンテレフタレート樹脂を主体とした熱可塑性樹脂組成物が、本件特許発明では、「難燃剤を配合し、ASTM D2863に規定された試験法で測定した限界酸素指数が25%以上」としたものであるのに対し、引用発明は、「自消性に調整されたPBTにCHPを添加した」ものである点(以下、「相違点1」という。)、及び、照射するレーザーが、本件特許発明では、「スキャン式」であるのに対して、引用発明では、どのような方式であるのが不明である点(以下、「相違点2」という。)で相違する。 (4)当審の判断 上記相違点について検討する。 ア 相違点1について 甲第2号証を参照すると、「自消性に調整した」とは、「JIS K7201で規定される酸素指数を27%以上とした」ということであり、また、甲第4?7号証を参照すると、「JIS K7201で規定される酸素指数」と「ASTM D2863で規定された試験方法で測定した限界酸素指数」とは同じ意味である。 一方で、自消性に調整するために難燃剤を配合することは必須であり、本件出願前より周知の技術である。 なお、上記の点については、両当事者間に争いはない(第1回口頭審理調書 参照)。 以上のことより、引用発明の「自消性に調整されたPBT及びCHPからなる成形材料」である熱可塑性樹脂組成物は、難燃剤を配合し、ASTM D2863に規定された試験法で測定した限界酸素指数が27%以上であると認められるので、相違点1は実質的な相違点ではない。 この点に関して、被請求人は平成20年9月30日付け口頭審理陳述要領書において、「甲第1号証で示されているのは、あくまでもCHP等の添加によりPBTのマーキング性が向上したことである。・・(中略)・・・ 甲第1号証の全体の記載内容から見て、自消性に調整されたPBT自体(CHP無添加)が、そうでないPBT自体(CHP無添加)に比べてマーキング性に優れているか否かについては甲第1号証には全く記載も示唆もされていない」(第2頁第12?16行)と主張している。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0006】には、「本発明において、成形され或いは被覆されてレーザーマーキングに供される上記の如き樹脂組成物には、限界酸素指数が25%以上に維持される範囲で、必要に応じて公知の添加剤等を加えることができる。例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤、離型剤、界面活性剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を配合することも可能である。また、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、ガラスビーズ等の繊維状、板状、粉粒状の無機化合物を併用してもよい。」と記載されていることから、本件特許発明は、例えば紫外線吸収剤等の公知の添加剤を配合した樹脂組成物を含むと解される。そうすると、甲第1号証に記載されたPBTは、CHP等の添加物質を含有したものであるとしても自消性に調整されたPBTである以上、本件特許発明の「限界酸素指数25%以上の熱可塑性樹脂組成物」に含まれると解するのが相当である。 よって、被請求人の上記主張は採用することができない。 イ 相違点2について レーザーマーキング方法の分野において、「スキャン式」のレーザーを用いることは、本件出願前より周知の技術であり、前記周知の技術を引用発明に採用することに困難性はなく、また、採用したことにより格段の作用効果を奏するものでもない。 ウ そうしてみると、本件特許発明は、引用発明及び周知の技術から当業者が容易に想到し得るものである。 2.無効理由2について 本件特許明細書の段落番号【0005】には、 「本発明において使用可能なものとしては、かかる限界酸素指数の規定を満足する限り特に制約はないが、熱可塑性樹脂に各種難燃剤、難燃助剤を配合することによって限界酸素指数を25%以上とした熱可塑性樹脂組成物が好ましく、優れたレーザーマーキングが可能である。 中でもポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートを主体とし、これに難燃剤を配合してなるものが好ましい。 難燃剤としては有機系難燃剤と無機系難燃剤があり、例えばリン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、塩素系難燃剤、アンチモン系難燃剤等が挙げられるが、これに限定されるものではなく、対象とする個々の熱可塑性樹脂に応じてこれに難燃性を付与し得る物質であればいずれも可能である。またこれらの物質の添加量は特に限定されるものではなく、対象とする樹脂および配合する難燃剤等の種類に応じて、限界酸素指数を25%以上とし得る量を配合すればよい。」 と記載されている。 そして、上記摘記事項における難燃剤として、具体的な難燃剤は本件出願前より周知であり、また、難燃剤の配合割合を増やしていくことにより、限界酸素指数も上がることも技術常識であって、難燃剤を配合することにより、限界酸素指数を25%以上とすることが困難であるとも認められない。よって、これらの配合量を種々変更することにより、限界酸素指数を25%以上とすることは、当業者であれば、実施できるものである。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載されていないとすることはできない。 第5 むすび 以上のとおりであり、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 レーザーマーキング方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】ポリアルキレンテレフタレート樹脂を主体としこれに難燃剤を配合してなる、ASTM D2863に規定された試験法で測定した限界酸素指数が25%以上の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品もしくは該樹脂組成物によって被覆された成形品の表面に、スキャン式のNd:YAGレーザーを照射してマーキングを行うことを特徴とするレーザーマーキング方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、レーザー光を利用して樹脂成形品または樹脂により被覆された成形品の表面に鮮明な文字、記号等のマークを付与するレーザーマーキング方法およびこれによって良好なマーキングが行われた成形品に関する。 【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】 樹脂成形品に、再現性良く、簡便かつ高速にマーキングする方法として、近年、レーザー光を使ったマーキング方法が提案されている。例えば、レーザー光線を照射してマーキングを行うにあたり、成形品材料に、染料と珪素含有無機化合物または珪素を含有する染料を添加する方法(特開昭56-14995号公報)、金属珪酸塩等の放射線吸収物質を添加する方法(特開昭59-118926号公報)、無機質充填剤として水和アルミナを20%以上添加する方法(特開昭59-187050号公報)、燐酸塩を含む顔料を添加する方法(特開平2-204888号公報)、非黒色の無機鉛化合物を添加する方法(特開平2-48984号公報)、非白色のチタン酸金属塩を添加する方法(特開平3-10884号公報)、黒色有機染料を添加する方法(特開昭60-155493号公報)、金属水酸化物又は/及び金属含水化合物と着色剤を含有させる方法(特開昭60-166488号公報)等がある。これらの方法は、いずれも、照射するレーザー光を選択的に吸収する特定の物質を添加してなる樹脂成形品にレーザー光を照射することにより、レーザー光を照射した部分を局所的に加熱し、樹脂表層部の添加物又は樹脂に融解、気化、炭化等の熱的な変化を起こさせることによりマーキングを行うものである。しかしながら、上記のように特定の物質を添加すると、樹脂あるいは樹脂組成物が本来有していた諸特性を損なうおそれがあるばかりか、これらの物質の配合のため、樹脂のコンパウンドの工程が複雑になりコストアップにつながるという欠点も有する。 【0003】 【課題を解決するための手段】 本発明者は、上記課題の解決のため鋭意研究した結果、特定の難燃特性を有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形品にレーザー光を照射することにより、鮮明なコントラストを持った黒色のマーキングが可能であることを見出し、本発明に到達した。 即ち、本発明はポリアルキレンテレフタレート樹脂を主体としこれに難燃剤を配合してなる、ASTM D2863に規定された試験法で測定した限界酸素指数が25%以上の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品もしくは該樹脂組成物によって被覆された成形品の表面に、スキャン式のNd:YAGレーザーを照射してマーキングを行うことを特徴とするレーザーマーキング方法に関するものである。 【0004】 以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、レーザーマーキングを行うにあたり、ASTM D2863に規定された試験法で測定した限界酸素指数が25%以上の熱可塑性樹脂組成物を用いることを特徴とする。限界酸素指数が25%未満の熱可塑性樹脂組成物を用いたのでは、レーザー照射により付与されるマーキングが不鮮明であったり、コントラストが不十分なものとなり、好ましい状態のマーキングが困難である。好ましくは限界酸素指数が28%以上のものであり、このようなものを用いれば特に鮮明な黒色系のマーキングが可能である。ここで限界酸素指数とは、室温における所定の試験条件下において、酸素と窒素の混合気体中で試験材料が燃焼を維持するのに必要な最小の酸素濃度を容量パーセントで示したものであり、樹脂の難燃性の1つの指標となるものである。 【0005】 本発明において使用可能なものとしては、かかる限界酸素指数の規定を満足する限り特に制約はないが、熱可塑性樹脂に各種難燃剤、難燃助剤を配合することによって限界酸素指数を25%以上とした熱可塑性樹脂組成物が好ましく、優れたレーザーマーキングが可能である。中でもポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートを主体とし、これに難燃剤を配合してなるものが好ましい。難燃剤としては有機系難燃剤と無機系難燃剤があり、例えばリン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、塩素系難燃剤、アンチモン系難燃剤等が挙げられるが、これに限定されるものではなく、対象とする個々の熱可塑性樹脂に応じてこれに難燃性を付与し得る物質であればいずれも可能である。またこれらの物質の添加量は特に限定されるものではなく、対象とする樹脂および配合する難燃剤等の種類に応じて、限界酸素指数を25%以上とし得る量を配合すればよい。 【0006】 本発明において、成形され或いは被覆されてレーザーマーキングに供される上記の如き樹脂組成物には、限界酸素指数が25%以上に維持される範囲で、必要に応じて公知の添加剤等を加えることができる。例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤、離型剤、界面活性剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を配合することも可能である。また、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、ガラスビーズ等の繊維状、板状、粉粒状の無機化合物を併用してもよい。 【0007】 本発明においては、かかる樹脂組成物からなる成形品あるいは該樹脂組成物を印刷、塗布、多重成形等によって被覆した樹脂、セラミック、金属等の成形品に対し、その所望位置にレーザー光線を照射するだけで、容易に鮮明なマーキングが行われる。所望の形状のマーキングを行うためには、例えば、レーザー光を適当な大きさのスポットにして対象物の表面を走査する方法、レーザー光をマスクすることによって所望形状のレーザー光とし、これを対象物の表面に照射する方法等が挙げられる。使用されるレーザーの種類としては特に限定はないが、例えば炭酸ガスレーザー、ルビーレーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー、エキシマレーザー、YAGレーザー等が挙げられる。なかでも波長が1.06μmであることを特徴とするNd:YAGレーザーが好ましい。その発振形態は連続発振であってもパルス発振であっても構わないが、特に適したものはQスイッチを用いた連続発振であるスキャン式のNd:YAGレーザーである。 【0008】 【実施例】 以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。 【0009】 参考例1?2、実施例1?2及び比較例1?3 表1に示す如く、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)に難燃剤/難燃助剤を配合した限界酸素指数が22%以上あるいは25%以上の樹脂組成物を用い、射出成形により50mm×70mmで厚さ3mmの平板を成形した。次に、この平板にスキャン式のNd:YAGレーザー(日本電気(株)製レーザーマーカーSL475E)を用いてマーキングを行った。マーキング条件は下記の通りである。一方、比較のため、限界酸素指数が22%未満の樹脂組成物についても、同様にして平板を成形し、レーザーによるマーキングを試みた。結果を表1に示す。 〔レーザーマーカーSL475Eによるマーキング条件〕 レーザー発振器:SL114K レーザーの種類:連続発振式Nd:YAGレーザー 出力:50W以上 マーキング文字数:40文字 マーキング方式:一筆書き方式 マーキング部でのパワー:1W スキャンスピード:100mm/sec バイトサイズ:30μm Qスイッチ周波数:3kHz 処理時間:3sec 【0010】 【表1】 【0011】 【発明の効果】 以上の説明並びに実施例により明らかなように、限界酸素指数が25%以上の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品もしくは該樹脂組成物によって被覆された成形品の表面にレーザー光を照射する本発明のレーザーマーキング方法によれば、樹脂組成物が本来有する諸特性を損なうことなく、黒色系の極めて鮮明なマーキングが可能であり、しかもマーキング速度が速く、自動化、工程管理が容易である等の特徴も有するものであり、実用性の高いものである。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2008-10-17 |
結審通知日 | 2008-10-22 |
審決日 | 2008-11-05 |
出願番号 | 特願平3-255204 |
審決分類 |
P
1
113・
536-
ZA
(B23K)
P 1 113・ 121- ZA (B23K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 由紀夫 |
特許庁審判長 |
前田 幸雄 |
特許庁審判官 |
菅澤 洋二 尾家 英樹 |
登録日 | 1998-12-11 |
登録番号 | 特許第2862413号(P2862413) |
発明の名称 | レーザーマーキング方法 |
代理人 | 溝部 孝彦 |
代理人 | 古谷 聡 |
代理人 | 溝部 孝彦 |
代理人 | 義経 和昌 |
代理人 | 持田 信二 |
代理人 | 義経 和昌 |
代理人 | 古谷 聡 |
代理人 | 松井 光夫 |
代理人 | 持田 信二 |