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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62D
管理番号 1191091
審判番号 不服2005-2308  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-10 
確定日 2009-01-16 
事件の表示 特願2002-230847号「コンバインにおける動力伝達装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月12日出願公開、特開2003- 72584号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願の発明
本願は、平成6年11月17日(以下「遡及出願日」という。)に出願された特願平6-283688号をもとの出願として、特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願(特願平8-275657号)としたものについて、この新たな特許出願をもとの出願として、同じく、同条同項の規定によって、平成14年8月8日に更に新たな特許出願としたものであって、その発明は、平成16年9月29日の手続補正に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】左右一対の走行クローラを備えた走行機体に、エンジンと脱穀部とを搭載し、走行機体の前部に刈取前処理装置を備えたコンバインにおいて、
第1油圧ポンプと、それから供給される油圧で作動する第1油圧モータとから成る走行用の油圧式駆動手段からの動力を、左右一対の遊星歯車機構を介して走行車両における左右一対の走行クローラへの出力軸に伝達させるように構成する一方、第2油圧ポンプと、それから供給される油圧で作動する第2油圧モータとから成る旋回用の油圧式駆動手段からの動力を、前記一方の遊星歯車機構と他方の遊星歯車機構とに互いに逆方向の回転を付与するように伝達し、前記走行用及び旋回用の両油圧式駆動手段の出力調節にて、前記左右の走行クローラの駆動速度及び駆動方向を任意に調節可能に構成し、 前記第1油圧モータからの動力を分岐して前記刈取前処理装置を駆動するためのPTO軸に伝達するように構成したことを特徴とするコンバインにおける動力伝達装置。」(以下「本願発明」という。)

2.引用された刊行物とその記載事項及び引用発明
(1)これに対して、原査定の拒絶理由において、本願の遡及出願日よりも前に頒布された刊行物として引用された、特開平3-169745号公報(以下「引用例」という。)には、「作業用車両の走行装置」に関して、次の(a)?(f)の事項が記載されている。
(a)「エンジンの回転駆動力で作動する走行用油圧ポンプと、走行用油圧ポンプから供給される油で作動する走行用油圧モータと、走行用油圧モータにより駆動する左右のクローラ等の回転駆動体とを備えた作業用車両の走行装置において、エンジンの回転駆動力で作動する旋回用油圧ポンプと、旋回用油圧ポンプにより作動する旋回用油圧モータと、走行用油圧モータの回転駆動力により回転する駆動入力軸を介して各サンギヤを連結した一対の遊星歯車機構とを有し、遊星歯車機構のプラネタリギヤを左右の回転駆動体の各駆動軸の対向する一端側にそれぞれ連結し、一対の遊星歯車機構のリングギヤを、それらの少なくとも一方が回転した時には両プラネタリギヤの回転数に差が生じるように回転・停止自在に構成し、各リングギヤを伝達手段を介して旋回用油圧モータに連結し、旋回用油圧モータの出力軸から遊星歯車機構に至る駆動径路に、リングギヤの回転を停止させるブレーキ装置を設けたことを特徴とする作業用車両の走行装置。」(第1頁左下欄第5行?同右下欄第5行)
(b)「本発明は、走行用油圧モータで走行するアスファルト・フィニッシャ等の作業用車両の走行装置に関する。」(第1頁右下欄第8?10行)
(c)「以下、図面により本発明の実施例について説明する。
第1図は本発明の実施例に係る作業用車両の走行装置を示し、作業用車両としてアスファルト・フィニッシャに適用した場合について説明する。
図において、1はアスファルト・フィニッシャKに搭載したエンジンで、このエンジン1の出力軸1Aに可変容量形の走行用油圧ポンプ2及び可変容量形の旋回用油圧ポンプ3とが設けられている。
走行用油圧ポンプ2は、・・・走行用油圧モータ5に接続し、旋回用油圧ポンプ3は、・・・旋回用油圧モータ7に接続している。
8は右側の遊星歯車機構で、サンギヤ9と、3枚のプラネタリギヤ10・・・と、リングギヤl1とから構成され・・・クローラ17からなる回転駆動体の駆動伝達部17Aに接続している。
18は左側の遊星歯車機構で、サンギヤl9と、3枚のプラネタリギヤ20・・・と、リングギヤ21とから構成され・・・クローラ27からなる回転駆動体の駆動伝達部27Aに接続している。」(第3頁右上欄第6行?同右下欄第4行)
(d)「そして、両遊星歯車機構8,l8のサンギヤ9,l9は、駆動入力軸28の両端に連結し、駆動入力軸28の途中に設けた第1ギャ28Aは、第2ギャ29を介して、走行用油圧モータ5の出力軸5Aの途中に設けた第3ギヤ5Bに連結している。・・・
また、旋回用油圧モータ7の出力軸7Aには、その途中に第4ギヤ7Bが設けられ・・・第4ギヤ7Bは・・・第5ギヤ32Aに噛み合い、支持軸32には、その途中に第6ギヤ32Bが、他端に第7ギヤ33が固定されている。第7ギヤ33は、リングギヤ21の外周ギャ21Aに噛み合っている。 第6ギヤ32Bは・・・第8ギヤ34Aに噛み合い、支持軸34の他端に固定した第9ギヤ34Bは右側の遊星歯車機構8のリングギヤ11の外周ギヤ11Aに噛み合っている。・・・旋回用油圧モータ7の出力軸7Aが回転すると、・・・その回転が上述の歯車列を介してリングギヤ11,21に伝達され、リングギヤ11,21は相互に反対方向に同一量回転するようになっている。」(第3頁右下欄第5行?第4頁左上欄第11行)
(e)「そして、また、本実施例においては、作業用車両としてアスファルト・フィニッシャKに適用した場合について説明しているが、これに限定されることなく例えばクレーン車にも適用することができる。」(第5頁左下欄第13?17行)
(f)「〔発明の効果〕・・・本発明によれば、1つの走行用油圧モータの回転を左右の遊星歯車機構を介して左右の回転駆動体の駆動軸に機械的に伝達するので、左右の回転駆動体の作用する走行負荷に差があっても、・・・直進時、左右の回転駆動体は同一回転数で回転し、直進性を確保することができる。勿論、直進性の確保とともに作業用車両の旋回機能を確保することが要求されるが、旋回時には左右の遊星歯車機構のプラネタリギヤの出力回転数に回転差を発生させて左右の回転駆動体に回転数の差を設けることができるので、円滑に作業用車両は旋回することができる。」(第5頁左下欄第19?右下欄15行)
上記引用例記載事項(a)?(f)及び第1,2図を総合すると、一般に、作業用車両は機体に走行装置を備え、エンジンからの動力を動力伝達装置を介して走行装置に伝達していることは明らかであるから、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「エンジン1の回転駆動力で作動する走行用油圧ポンプ2と、走行用油圧ポンプ2から供給される油で作動する走行用油圧モータ5と、走行用油圧モータ5により駆動する左右一対のクローラ17,27を備えた走行装置を有する作業用車両の機体において、走行用油圧ポンプ2と、それに接続されている走行用油圧モータ5とからの動力を、左右一対の遊星歯車機構8,18を介して作業用車両における左右一対のクローラ17,27からなる駆動伝達部17A、27Aに伝達させる一方、旋回用油圧ポンプ3と、旋回用油圧ポンプ3から供給される油で作動する旋回用油圧モータ7とからの動力を、一方の遊星歯車機構8と他方の遊星歯車機構18とに相互いに反対方向の同一量回転するように伝達し、走行用油圧ポンプ2、旋回用油圧ポンプ3は可変容量形でエンジン1の出力軸1Aに設けられ、直進時には左右のクローラ17,27は同一回転数で回転し、旋回時には左右の遊星歯車機構8,18のプラネタリギヤ30の出力回転数に回転差を発生させて左右のクローラ17,27に回転数の差を設けている作業用車両の動力伝達装置。」

(2)また、拒絶査定時において、コンバインに関する常套手段を開示するものとして、実願平2-59621号(実開平4-19134号)のマイクロフィルム、実願平5-8416号(実開平6-60322号)のCD-ROM及び特開平6-30640号公報の各刊行物(以下「周知例」という。)が引用されたが、これらのいずれにも、「左右一対の走行クローラを備えた走行機体に、エンジンと脱穀部とを搭載し、走行機体の前部に刈取前処理装置(部)を備えたコンバイン」及び「当該コンバインにおいて、走行用の油圧無段変速装置から分岐して取り出した動力を用いて、刈取前処理装置(部)を駆動し、刈取前処理装置(部)の駆動速度と走行速度とをほぼ同調させるようにしている」ことが示されている。

3.発明の対比
(1)本願発明と上記引用発明とを対比すると、両者の対応関係は以下のとおりである。
引用発明の「走行用油圧ポンプ2」と「走行用油圧モータ5」とは、本願発明でいう「第1油圧ポンプ」と「第1油圧モータ」に相当し、「走行用の油圧式駆動手段」を構成するものであって、同様に、「旋回用油圧ポンプ3」と「旋回用油圧モータ7」とは、「第2油圧ポンプ」と「第2油圧モータ」に相当し、「旋回用の油圧式駆動手段」を構成するものである。また、引用発明の「作業用車両の機体」は、本願発明の「走行機体」に相当する。
そして、上記の各油圧式駆動手段と、左右一対の遊星歯車機構8,18及び左右一対のクローラ17,27との関連構成は、引用発明と本願発明との間で相違するところがなく、また、引用発明も「可変容量形の走行用油圧ポンプ2及び可変容量形の旋回用油圧ポンプ3」としているところを参酌すると、引用発明においても、本願発明と同様に、「走行用及び旋回用の両油圧式駆動手段の出力調節にて、左右の走行クローラの駆動速度及び駆動方向を任意に調節可能に構成」しているものといえる。
更に、本願発明でいう「コンバイン」は、一般に「作業用車両」の一態様とみることができる。
(2)以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「左右一対の走行クローラを備えた走行機体に、エンジンを搭載した作業用車両において、第1油圧ポンプと、それから供給される油圧で作動する第1油圧モータとから成る走行用の油圧式駆動手段からの動力を、左右一対の遊星歯車機構を介して走行車両における左右一対の走行クローラへの出力軸に伝達させるように構成する一方、第2油圧ポンプと、それから供給される油圧で作動する第2油圧モータとから成る旋回用の油圧式駆動手段からの動力を、前記一方の遊星歯車機構と他方の遊星歯車機構とに互いに逆方向の回転を付与するように伝達し、前記走行用及び旋回用の両油圧式駆動手段の出力調節にて、前記左右の走行クローラの駆動速度及び駆動方向を任意に調節可能に構成した作業用車両における動力伝達装置」である点。
[相違点]
本願発明では、作業用車両が「脱穀部を搭載し、走行機体の前部に刈取前処理装置を備えたコンバイン」であって、「第1油圧モータからの動力を分岐して刈取前処理装置を駆動するためのPTO軸に伝達するように構成」しているのに対し、引用発明では、「コンバイン」や、上記のPTO軸に係る言及がない点。

4.当審の判断
上記の相違点について検討すると、左右一対の走行クローラを備える作業用車両の一つとして、脱穀部を搭載すると共に、走行機体の前部に刈取前処理装置(刈取前処理部)を備えたコンバインがあることは上記の各周知例を挙げるまでもなく、よく知られているところであり、上記の引用例の記載事項(f)で指摘されている「左右の回転駆動体の作用する走行負荷に差があっても・・・直進性を確保すること」や、「直進性の確保とともに作業用車両の旋回機能を確保」して「円滑に・・・旋回すること」は、上記のコンバインに限らず、左右一対の走行クローラを備える、通常の作業用車両に共通して必要とされることであるから、引用発明における動力伝達装置をコンバインの動力伝達装置に適用することは、当業者であれば、普通に考える程度の事項といえる。
ところで、コンバインを始めとする、各種の作業機を備える一般的な作業用車両では、作業機用の動力を車両本体側から取り出すためのPTO(動力取出)軸が設けられているが、コンバインの場合には、上記の各周知例に「走行用の油圧無段変速装置から分岐して取り出した動力を用いて、刈取前処理装置(部)を駆動し、刈取前処理装置(部)の駆動速度と走行速度とをほぼ同調させるようにしている」ことが示されているように、作業機である刈取前処理装置の駆動速度と、車両の走行速度とが、直進状態・旋回状態に係わりなくほぼ同調することが求められるから、引用発明における「走行用」と「旋回用」の、それぞれの油圧式駆動手段(油圧ポンプと当該ポンプで作動する油圧モータ)をコンバインの動力伝達装置に適用すれば、刈取前処理部用のPTO軸を、「走行用」の油圧式駆動手段、すなわち、走行用の第1油圧モータからの動力を分岐させるよう構成することは、当業者であればごく普通に行われる設計事項といえる。
そうすると、引用発明において、上記相違点で指摘したように本願発明と同様の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る程度のことであり、その作用効果においても格別な差異を見い出すことができない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知例に基いて当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-05 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-26 
出願番号 特願2002-230847(P2002-230847)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小関 峰夫  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 渡邉 洋
中川 真一
発明の名称 コンバインにおける動力伝達装置  

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