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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1191183
審判番号 不服2006-25842  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2000-343064「電子写真感光体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月 9日出願公開、特開2001-312079〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、特許法第41条に基づく優先権を主張して平成12年11月10日(優先日、平成12年2月22日)に出願され、その特許請求の範囲に係る発明は、願書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。 (以下、「本願発明」という。)

「【請求項1】 導電性支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層が、下記一般式(1)で表される電荷輸送剤、ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】


(1)
(一般式(1)中、Ar_(1),Ar_(2),Ar_(3),Ar_(4),Ar_(5)及びAr_(6)は、置換基を有してもよいアリーレン基、縮合多環基、複素環基のいずれかを表し(Ar_(1)?Ar_(3)、Ar_(4)?Ar_(6)は、それぞれお互いに結合して炭素環または複素環基を形成してもよい)、X_(1)?X_(4)は下記一般式(2)又は水素原子を表し、X_(1)?X_(4)の少なくとも一つは、一般式(2)で表される構造である。
【化2】


(2)
(一般式(2)中、sは0?4の整数を表し、R_(1)?R_(5)は、それぞれ、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有してもよい複素環基のいずれかを表し、これらは互いに同一でも異なっていてもよい。)Yは、直接結合、又は2価の有機残基を表す。)」

2.引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな特開平10-312070号公報(引用文献1)、特開平10-312071号公報(引用文献2)、特開平6-27692号公報(引用文献3)及び特開平10-186691号公報(引用文献4)には、以下の事項が記載されている。

<引用文献1>
(1a) 感光層に電荷輸送物質とポリカーボネート樹脂とを含有する電子写真感光体について
「【0030】
【実施例】
実施例1
X線回折スペクトルにおいて、ブラック角(2θ±0.2°)9.3°、10.6°、13.2°、15.1°、15.7°、16.1°、20.8°、23.3°、27.1°に強い回折ピークを示すチタニウムオキシフタロシアニン顔料1.0部をジメトキシエタン14部に加え、サンドグラインダーで分散処理をした後、ジメトキシエタン14部と4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 (三菱化学(株)社製)14部を加え希釈し、さらに、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)社製、商品名デンカブチラール#6000-C)0.5部と、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド(株)社製、商品名UCAR(商標登録)PKHH)0.5部をジメトキシエタン6部、4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 6部の混合溶媒に溶解した液と混合し、分散液を得た。この分散液を75μmに膜厚のポリエステルフィルムに蒸着されたアミノ蒸着層の上に乾燥後の重量が0.4g/m^(2) になる様にワイヤーバーで塗布した後、乾燥して電荷発生層を形成させた。この上に前記表-1の化合物No.2を70部と下記に示すポリカーボネート樹脂100部をテトラヒドロフラン900部に溶解した塗布液を塗布、乾燥し、膜厚20μmの電荷輸送層を形成させた。
【0031】
【化3】



(1b) 表-1の化合物No.2について
「【0016】
【表1】



(1c) 発明の効果について
「【0043】
【発明の効果】
本発明の電子写真用感光体は移動度、感度が非常に高く、かつ、かぶりの原因となる残留電位が小さく、とくに光疲労が少ないために繰返し使用による残留電位の蓄積や、表面電位および感度の変動が小さく耐久性に優れるという特徴を有する。」

上記摘記事項をまとめると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「下記の化合物(表-1の化合物No.2)を、ポリカーボネート樹脂と混合して、電荷輸送層の形成に使用すること。




<引用文献2>
(2a) 感光層に電荷輸送物質とポリカーボネート樹脂とを含有する電子写真感光体について
「【0030】【実施例】
実施例1
X線回折スペクトルにおいて、ブラック角(2θ±0.2°)9.3°、10.6°、13.2°、15.1°、15.7°、16.1°、20.8°、23.3°、27.1°に強い回折ピークを示すチタニウムオキシフタロシアニン顔料1.0部をジメトキシエタン14部に加え、サンドグラインダーで分散処理をした後、ジメトキシエタン14部と4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 (三菱化学(株)社製)14部を加え希釈し、さらに、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)社製、商品名デンカブチラール#6000-C)0.5部と、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド(株)社製、商品名UCAR(商標登録)PKHH)0.5部をジメトキシエタン6部、4-メトキシ-4-メチルペンタノン-2 6部の混合溶媒に溶解した液と混合し、分散液を得た。この分散液を75μmに膜厚のポリエステルフィルムに蒸着されたアミノ蒸着層の上に乾燥後の重量が0.4g/m^(2) になる様にワイヤーバーで塗布した後、乾燥して電荷発生層を形成させた。この上に前記表-1の化合物No.1 70部と下記に示すポリカーボネート樹脂
【0031】
【化2】



【0032】100部をテトラヒドロフラン900部に溶解した塗布液を塗布、乾燥し、膜厚20μmの電荷輸送層を形成させた。このようにして得た2層からなる感光層を有する電子写真感光体によって感度すなわち半減露光量を測定したところ0.42μJ/cm^(2) であった。半減露光量はまず、感光体を暗所で50μAのコロナ電流により負帯電させ、次いで20ルックスの白色光を干渉フィルターに通して得られた780nmの光(露光エネルギー10μW/cm^(2) )で露光し、表面電位が-450Vから-225Vまで減衰するのに要する露光量を測定することにより求めた。さらに露光時間を9.9秒とした時の表面電位を残留電位として測定したところ、-1Vであった。この操作を2000回繰り返したが、残留電位の上昇はみられなかった。
【0033】又該電荷輸送層の電界強度E=2e+5 (V/cm)、温度21℃下におけるホールドリフト移動度をTOF法により測定したところ、2.2e-5 (cm^(2) /Vs)であった。該電荷輸送物質(前記表-1の化合物No.1)のイオン化ポテンシャル、分極率及び双極子モーメントを、MOPAC93により計算したところ、イオン化ポテンシャル=8.07eV、分極率αcal=93.7(Å^3)及び双極子モーメントPcal=0.79(D)であった。
【0034】実施例2
実施例1で用いたアリールアミン系化合物の代わりに、前記表-1の化合物No.2を用いる以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を得た。
次いで実施例1と同様にして感度、残留電位、移動度、を測定し、イオン化ポテンシャル、分極率及び双極子モーメントを計算した。この結果を実施例1の感光体についての測定結果と共に表-2に示す。」(表-2は省略)
(2b) 表-1の化合物No.1について
「【0019】
【表1】


(2c) 発明の効果について
「【0056】
【発明の効果】 本発明の電子写真感光体は移動度、感度が非常に高く、かつ、かぶりの原因となる残留電位が小さく、とくに光疲労が少ないために繰返し使用による残留電位の蓄積や、表面電位および感度の変動が小さく耐久性に優れるという特徴を有する。」

上記摘記事項をまとめると、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「下記の化合物(表-1の化合物No.1)を、ポリカーボネート樹脂と混合して、電荷輸送層の形成に使用すること。




<引用文献3>
(3a) 特定のトリフェニルアミン系化合物と、ポリカーボネート樹脂及びポリアリレート樹脂とを含有する感光層を有する電子写真感光体について
「【請求項1】 導電性基体の上に、下記一般式(I)で表される化合物と、ビスフェノールZカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂およびポリアリレート樹脂から選択された一つ、ビスフェノールZポリカーボネート樹脂とポリエステルカーボネート樹脂との混合物もしくはポリマーアロイ、またはビスフェノールZポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂との混合物もしくはポリマーアロイとを含有する感光層を設けてなることを特徴とする電子写真感光体。
【化1】


(I)
(式中、R_(1)はアルキル基を示し、R_(2)及びR_(3)はそれぞれ水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、又は置換アミノ基を示す)
【請求項2】 感光層が、電荷発生層と電荷輸送層からなり、電荷輸送層が、結着樹脂中に前記一般式(I)で表される化合物を含有してなることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。」
(3b) 発明の目的(課題)について
「【0004】 本発明は、上記のような従来技術における問題点を改善することを目的とするものである。すなわち、本発明の目的の一つは、明確に帯電し、良好な感度を有する電子写真感光体を提供することにある。本発明の他の目的は、帯電性、感度等の経時的劣化の生じない電子写真感光体を提供することにある。本発明の更に他の目的は、帯電性、感度等の電気的耐久性と、耐摩擦性、トナーフイルミング性等の機械的耐久性を同時に満足する電子写真感光体を提供することにある。」
(3c) ビスフェノールZポリカーボネートについて
「【0022】 これ等結着樹脂について更に具体的に説明すると、ビスフェノールZポリカーボネートは、次の基本単位を有するものである。
【化12】

(VI)


(3d) ポリアリレート樹脂について
「【0024】 又、ポリアリレート樹脂は、例えば次の基本構成単位を有するものである。
【化14】


(VIII)
(式中、R_(8)、R_(9)及びX_(1)?X_(4)は上記したものと同じ意味を有する。)」


<引用文献4>
(4a) ポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂を有する電子写真感光体形成用の塗布組成物について
「【請求項1】 有機光導電性化合物と、バインダー樹脂とを溶剤中に、溶解あるいは分散してなり、かつ脂肪族不飽和炭化水素を含有することを特徴とする電子写真感光体用塗布液組成物。
【請求項2】 前記有機光導電性化合物が電荷発生剤および/または電荷輸送剤であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体用塗布液組成物。
【請求項3】?【請求項6】(省略)
【請求項7】 前記バインダー樹脂がポリカーボネート樹脂と、ポリエステル樹脂との混合物であることを特徴とする請求項1または5記載の電子写真感光体用塗布液組成物。
【請求項8】 前記バインダー樹脂がポリカーボネート樹脂と、ポリエステル樹脂および/またはポリアリレート樹脂との混合物であることを特徴とする請求項1または5記載の電子写真感光体用塗布液組成物。」
(4b) 具体例について
「 【0059】 実施例1(積層型感光体)
【0060】 【化1】(省略)
【0061】 上記構造式(化1)で示す電荷発生剤であるビスアゾ系顔料2部と、フェノキシ樹脂(PKHH:ユニオンカーバイド社製)1部と、1,4-ジオキサンを97部とをボールミル分散機で12時間分散して分散液を調製し、これをタンクに満たし、直径80mm、長さ348mmのアルミ製円筒状支持体(アルミドラム)を浸漬、引き上げて塗工し、室温にて1時間乾燥を行い、厚さ約1μmの電荷発生層をアルミドラム上に形成した。
【0062】
【化2】


【0063】 一方、電荷輸送剤として上記構造式(化2)で示されるヒドラゾン系化合物100部と、バインダー樹脂として粘度平均分子量39,000のポリカーボネート樹脂(Z-400:三菱瓦斯化学社製)100部と、さらに添加剤として2-ペンテンを0.1部加え、ジクロロメタン800部に溶解し、電荷輸送層塗工用塗布液を調製した。
上記のようにして形成された電荷発生層上に電荷輸送層塗工用塗布液を浸漬塗工し、80℃で1時間乾燥を行い、厚さ約20μmの電荷輸送層を形成し、積層機能分離型感光体サンプルA(0日保存)を作製した。さらに前記の電荷輸送層塗工用塗布液を冷暗所にて120日保存後浸漬塗工に使用し、上記と同様の手法で感光体サンプルB(120日保存)を作製した。こうして作製したサンプルA,Bはいずれも均一な塗膜を有し、感光層の剥離などは起こらなかった。
これらのサンプルA,Bを市販の複写機(SF-8870:シャープ社製)に搭載し、A4サイズの紙を用いて複写テストを行った。初期および40,000(40K)回使用後に現像部での感光体表面電位、具体的には帯電電位を見るために、露光プロセスを除いた暗中での感光体表面電位(帯電電位)V0、除電後の感光体表面電位(残留電位)VR、感度を見るために露光を行ったときの白地部分の感光体表面電位VLを測定した。これらの結果を表1に示す。いずれのサンプルにおいても初期も、繰り返し使用後もきれいな画像が得られた。また、残留電位の上昇などの感光体の帯電特性の変化も認められなかった。
【0064】 実施例2
バインダー樹脂として粘度平均分子量38,000のポリカーボネート樹脂(C-1400:帝人化成社製)80部と、粘度平均分子量22,000のポリエステル樹脂(V-290:東洋紡社製)20部と、添加剤2-メチル-2-ブテン0.1部を用いたほかは、実施例1と同様に感光体サンプルA,Bを作製し、評価した。感光層の剥離は見られず、均一な塗膜が形成された。評価結果を表1に示す。サンプルA,Bともに初期も、繰り返し使用後もきれいな画像が得られた。また、残留電位の上昇などの感光体の帯電特性の変化も認められなかった。
【0065】 実施例3
バインダー樹脂として粘度平均分子量39,000ポリカーボネート樹脂(Z-400:三菱瓦斯化学社製)90部と、粘度平均分子量43,000のポリアリレート樹脂(U-100:ユニチカ社製)10部と、添加剤1-オクテン0.01部を用いたほかは、実施例1と同様に感光体サンプルA,Bを作製し、評価した。評価結果を表1に示す。サンプルA,Bともに初期にはきれいな画像が得られた。繰り返し使用すると、わずかに残留電位の上昇が見られたが、画像には変化は見られなかった。
【0066】 実施例4
バインダー樹脂として粘度平均分子量38,000ポリカーボネート樹脂(C-1400:帝人化成社製)40部と、粘度平均分子量43,000のポリアリレート樹脂(U-100:ユニチカ社製)40部と、粘度平均分子量21,000のポリエステル樹脂(V-290:東洋紡社製)20部と、添加剤2-メチル-2-ブテン1部を用いたほかは、実施例1と同様に感光体サンプルA,Bを作製し、評価した。評価結果を表1に示す。サンプルA,Bともに感光層の剥離は見られず、均一な塗膜が形成された。初期も、繰り返し使用後もきれいな画像が得られ、残留電位の上昇などの感光体の帯電特性の変化も認められなかった。
【0067】 実施例5
バインダー樹脂として4,4′-(1-メチルエチリデン)ビスフェノールと4,4′-(1-シクロヘキシリデン)ビスフェノールを6:4で共重合させて合成した粘度平均分子量45,000のポリカーボネート樹脂80部と、粘度平均分子量22,000のポリエステル樹脂(V-290:東洋紡社製)20部と、添加剤1-ペンテン10部を用いたほかは、実施例1と同様に感光体サンプルA,Bを作製し、評価した。評価結果を表1に示す。サンプルA,Bともに感光層の剥離は見られず、均一な塗膜が形成された。初期にはきれいな画像が得られ、繰り返し使用後には、わずかに残留電位の上昇が見られたが、画像には変化は見られなかった。」
(4c) ポリアリレート樹脂及びポリエステル樹脂を併用することによる効果について
「【0039】 電荷輸送層3に用いられるバインダー樹脂は、電荷発生層2に用いられるバインダー樹脂と実質的に異ならない。たとえば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、エポキシ、ウレタン、セルロースエーテル、および前記の樹脂を構成するのに必要なモノマの共重合体等が挙げられる。これらの樹脂の中で、安定した電気特性、機械的強度、感光体の製造コストを考慮すると、ポリカーボネート樹脂が好ましい。特に、粘度平均分子量が約30,000?約60,000であるポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂の共重合体あるいはポリカーボネート樹脂と前記樹脂のモノマを繰返し成分とする共重合体が好ましい。また、これらのポリカーボネートに対して、たとえばポリエチレンテレフタレートに代表される芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分から構成されるポリエステル樹脂やポリアリレートなどのカルボキシル基、ヒドロキシル基などの官能性基を有する官能性モノマーと前記樹脂のモノマーとの共重合体を混合してもよい。特に粘度平均分子量が約20,000から50,000のポリエステル樹脂や粘度平均分子量が約30,000から約50,000のポリアリレートが、繰り返し使用時の電気特性や画像特性、および感光体の製造コストを考慮すると好ましい。」

3.対比
本願発明と、引用文献1又は2に記載の発明とを対比すると、
引用文献1に記載の発明における化合物(表-1の化合物No.2)及び引用文献2に記載の発明における化合物(表-1の化合物No.1)は、本願発明の一般式(1)で示される化合物に該当するものである。
したがって、本願発明と、引用文献1又は2に記載の発明とは、
「導電性支持体上に少なくとも感光層を有する電子写真感光体において、該感光層が、下記一般式(1)で表される電荷輸送剤、及びポリカーボネート樹脂を含有する電子写真感光体。


(1)」
である点で一致し、 下記の点でのみ相違する。

相違点:本願発明においては、感光層を構成する樹脂としてさらに、ポリエステル樹脂をも含有するのに対して、引用文献1又は2に記載の発明は、ポリエステル樹脂を含有することについて記載がない点。

4.判断
相違点について検討する。
引用文献3及び4には、電子写真感光体の感光層を形成するために、電荷輸送物質と共に使用するバインダー樹脂として、ポリカーボネート樹脂と、ポリエステル樹脂を併用することが記載されている(3a,4b)。また、両樹脂を併用することによる利点として、引用文献3には、低温環境での効果以外は、本願明細書の段落【0004】に記載するものとほぼ同じ内容が記載されており(3b)、引用文献4には、ポリカーボネート樹脂は、安定した電気特性、機械的強度の点で望ましいこと、さらに、混合して使用する樹脂として、ポリエステルやポリアリレートが、繰り返し使用時の電気特性や画像特性の点で好ましいことが記載されている(4c)。
そうであれば、引用文献1及び引用文献2に記載の発明の電子写真感光体の感光層として、機械的強度に優れるポリカーボネート樹脂とともに、繰り返し使用時の電気的特性に優れるポリエステル樹脂(ポリアリレート樹脂も、ポリエステル樹脂の範疇に含まれる)を、それらの樹脂の持つ両者の利点に着目して、両樹脂を混合して使用することを試みることは、当業者であれば容易に想到するところである。
なお、本件審判請求人は、本願発明の効果として、低温時の電気特性の悪化を改善することを挙げ、効果の非予測性を主張するが、本願発明の目的効果は、それのみではないことは、本願明細書の段落【0004】、【0072】、【0098】等の記載から明らかであり、それらの目的の大部分が、引用文献3にも示されている。一方、本願明細書に記載された具体例においては、作製した各電子写真感光体の電気特性の評価を、確かに、5℃、10%RHの条件でしか行っていないが、本願発明の電子写真感光体が、特に5℃、10%RHの条件下でのみ使用するものであることを限定している訳でもないから、低温時の電気特性の悪化を改善することのみで、格段の効果とすることは妥当ではない。
また、本願比較例3、6及び7の測定結果と比較して、実施例1乃至7の測定結果は、ほぼ同程度のものにしか過ぎないから、本願発明の構成を特に選択し、組み合わせる必然性にも乏しいものである。
さらに、審判請求人は、意見書及び審判請求書において、各評価項目、すなわち、摩擦係数、摩耗量、E_(1/2)、VL、Vrごとに、ポリエステル樹脂を単独で使用している比較例1に対する、実施例1乃至3の比をとり、それらを、各樹脂比率ごとに掛け合わせた値(a)(b)(c)(d)(e)の積及び、比較例1に対する比較例5乃至7について同様に求めた値(f)(g)(h)(i)(j)の積との比較から、実施例の感光体は、「総合的評価」が各段に優れていると主張する。
しかしながら、同様の計算を、ポリカーボネート樹脂を単独で使用する比較例2の値を使用して、同様の手法で、(a)?(e)の積、(f)?(j)の積を求め、比較すると、PC/PEの組成比が、25/75、50/50、75/25の順で、ほぼ、(a)?(e)の積に対して(f)?(j)の積が、97.4%、115.6%、116.7%という数値が算出される。すなわち、ポリエステル樹脂単独の場合に比較すれば、樹脂を混合した場合の「総合的評価」は改善されるとしても、ポリカーボネート樹脂単独の場合に比較すれば、樹脂を混合した場合の「総合的評価」は劣るものである。 そして、各評価項目の比の値について、各項目の重み付けを何ら考慮せずに単に掛け合わせただけものが、そもそも「総合的評価」としての意義を有するかどうか疑問である。
これらのことより、本願発明により奏される効果は、公知の従来技術と比較して、特に優れていることは確認できない。
よって、相違点は、引用文献1乃至4に記載された発明に基づいて当業者が容易に為し得たことである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、引用文献1乃至4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-12 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2000-343064(P2000-343064)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 中田 とし子
淺野 美奈
発明の名称 電子写真感光体  
代理人 吉村 俊一  

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