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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1191191 |
審判番号 | 不服2007-1855 |
総通号数 | 111 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-01-18 |
確定日 | 2009-01-15 |
事件の表示 | 特願2002- 91479「電子写真感光体の製造方法及び電子写真感光体」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 9日出願公開、特開2003-131405〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成14年3月28日(優先日、平成13年8月10日)の出願であって、平成18年11月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年1月18日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月13日付けで明細書に係る手続補正がなされたものである。 さらに、平成19年4月11日付けで審査官により作成された前置報告書について、平成20年6月30日付けで審尋がなされたが、審判請求人からは回答書の提出がなかったものである。 第2.平成19年2月13日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成19年2月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「円筒状導電性支持体上に少なくとも感光層を形成し、該感光層のガラス転移点以上の温度で加熱乾燥した後、水蒸気圧20mmHg以上の環境下に保持することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。」 から 「円筒状導電性支持体上に、疎水化処理されている金属酸化物粒子及びバインダー樹脂を含む下引き層を形成した後感光層を形成し、該感光層のガラス転移点以上の温度で加熱乾燥した後、水蒸気圧20mmHg以上の環境下に保持することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。」 に補正された。 上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「円筒状導電性支持体上に少なくとも感光層を形成し」に関して、「円筒状導電性支持体上に、疎水化処理されている金属酸化物粒子及びバインダー樹脂を含む下引き層を形成した後感光層を形成し」と補正したものであって、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.独立特許要件について (1)刊行物に記載された発明 (刊行物1について) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-140677号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審にて付与した。) ア.「【特許請求の範囲】 【請求項1】 導電性基体上に感光層を塗布形成してなる電子写真感光体において、感光層がその水分含有量を製造後1日以内に飽和させる処理を施したものである電子写真感光体。 【請求項2】 導電性基体上に感光層を塗布形成した電子写真感光体を温度25?60℃、湿度50?100%RHの雰囲気下に、1?24時間保存し、感光層の含有水分量を飽和させることからなる電子写真感光体の製造方法。」 イ.「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、製造後使用前に経時変化しない電子写真感光体およびその製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術と問題点】電子写真感光体は未使用状態においても経時により電気的特性や画像特性が変化することが知られており、実際に電子写真装置に組み込まれて使用されるまでの輸送、保管履歴等によって大幅に特性劣化が起きている場合がある。 【0003】特に感光層は電気的に誘電体と考えてよく、その特性は含有水分によって影響を受けやすい。中でも電子写真プロセス終了後の感光体から除去されないで残留する電荷(いわゆる残留電位)は、感光層の絶対水分量が少ない場合には上昇する傾向があり、これによって画像コントラストの低下、地汚れ、感度低下を生じさせる。 【0004】そこで、このような問題を回避するため、従来は電子写真感光体(以下、感光体ともいう)を非透湿材料で包装して保管環境による湿度変化の影響を極力避けるようにしているが(特開平2-239278号、特開平3-251886号、特開平4-128165号公報参照)、このような方法では、長期保管においては感光体の吸脱湿が少からずあるため感光体の電気的特性が経時変化するのを防止できなかった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような点に鑑みてなされたもので、電子写真感光体の製造後使用前における電気的特性の経時変化を防止した電子写真感光体を得ることを目的とする。」 ウ.「【0014】 【実施例】以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。 【0015】実施例1 直径80mm、長さ340mmのアルミニウムドラム上にポリアミド樹脂を主成分とする0.5μmの中間層を設けた後、その中間層上に下記組成の電荷発生層形成液を浸漬塗工し、100℃、10分間乾燥して0.2μmの電荷発生層を形成した。次いで該電荷発生層上に下記組成の電荷輸送層形成液を浸漬塗工し、120℃、30分間乾燥して膜厚24μmの電荷輸送層を設けた。 〈電荷発生層形成液〉 【化1】 〈電荷輸送層形成液〉 【化2】 ポリカーボネート 300g シリコーンオイル 1g テトラヒドロフラン(THF) 2090g 【0016】上記の如く電荷輸送層を形成した後、それぞれ次に示す調湿条件に調整したチャンバー内に所定時間保管し、取りだして感光体各層の絶対水分含有量および初期感光体特性を測定した。測定結果を表1および表2にそれぞれ示す。 〈調湿条件〉 (1) 30℃、90%RHの雰囲気下に6時間保管 (2) 30℃、90%RHの雰囲気下に12時間保管 調湿無し 15?25℃、30?80%の雰囲気下に12時間保管 (注)調湿無しは一般的な空調室内に放置したため、雰囲気は上記範囲で変動した。 〈評価装置〉 電気的特性:リコー社製感光ドラム電気特性評価装置 画像特性 :NSカルコンプ7010プリンター 【表1】 ┏━━━━━━━┳━━━━━┳━━━━━┳━━━━━┓ ┃ ┃ 加湿(1) ┃ 調湿(2) ┃ 参考 ┃ ┣━━━━━━━╋━━━━━╋━━━━━╋━━━━━┫ ┃ 中間層 ┃ 4.0 ┃ 6.1 ┃ 6.0 ┃ ┣━━━━━━━╋━━━━━╋━━━━━╋━━━━━┫ ┃ 電荷輸送層 ┃ 0.1 ┃ 0.2 ┃ 0.2 ┃ ┗━━━━━━━┻━━━━━┻━━━━━┻━━━━━┛ (注)表中、「参考」は、調湿(1)、(2)と同じ雰囲気下で24時間保管したもの。各数字は重量%を表わす。 【表2】 ┏━━━━━━━┳━━━━━┳━━━━━┳━━━━━┓ ┃ ┃ 調湿(1) ┃ 調湿(2) ┃ 調湿無し ┃ ┣━━━━━━━╋━━━━━╋━━━━━╋━━━━━┫ ┃残留電位(V)┃ -18 ┃ -6 ┃ -53 ┃ ┣━━━━━━━╋━━━━━╋━━━━━╋━━━━━┫ ┃飽和電位(V)┃-1225┃-1143┃-1330┃ ┣━━━━━━━╋━━━━━╋━━━━━╋━━━━━┫ ┃感度(lux・sec)┃ 1.15 ┃ 1.15 ┃ 1.43 ┃ ┣━━━━━━━╋━━━━━╋━━━━━╋━━━━━┫ ┃画像地汚れ ┃ なし ┃ なし ┃ あり ┃ ┗━━━━━━━┻━━━━━┻━━━━━┻━━━━━┛ 【0017】 表2から明らかなように、感光層を塗布形成し室温に下げた後、速やかに高湿度雰囲気下に6時間、あるいは12時間保管された電子写真感光体の初期特性は、そのような調湿を施さないものに比較して残留電位が低く、感度に優れ、画像地汚れが発生していない。」(当審注:上記(1)(2)は原文では丸付き数字。【表1】において、加湿は、調湿の誤記と認める。) エ.「【0020】 【発明の効果】以上のように、本発明によれば、感光層を塗布乾燥して形成する電子写真感光体を製造後1日経過するまでに高湿雰囲気下に保管し、感光層の含有水分量を強制的に飽和させることにより、製造後使用する間に保管環境が変化しても、残留電位、感度および画像地汚れなどの特性が劣化しない電子写真感光体が得られる。」 したがって、上記の事項を総合すると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。) 「アルミニウムドラム上にポリアミド樹脂を主成分とする中間層を設けた後、感光層を形成し、120℃で加熱乾燥した後、30℃、90%RHの雰囲気下に6時間、あるいは12時間保管される、電子写真感光体の製造方法。」 (刊行物2について) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-34956号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。(下線は当審にて付与した。) オ.「【請求項1】 導電性支持体上に設けた電荷発生層の上に電荷輸送層を塗工後、該電荷輸送層のガラス転移点以上の温度での熱処理工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。」 カ.「【0010】このような、感度と耐久性の問題点の解消、及び安定した感光体を得る目的で、通常感光体を製造後、室温での1週間以上にもわたるエージングプロセスを取り入れている。この操作を行うことにより、電荷発生層と電荷輸送層のなじみや電荷輸送材の分散性が良くなり、安定した性能の電子写真感光体が得られるとされている。しかしながら、この方法では感度、耐久性の改善の面ではまだまだ不十分であり、また1週間以上のエージングが必要であるため、生産性が非常に悪いものとなる。そのためにこのエージング法にかわる方法が当該分野で強く望まれているのが実情である。 【0011】本発明の目的は、まさにこの点にあり、かかる課題を解決するものとして、電荷輸送層の塗工後、電荷輸送層のガラス転移点以上の温度での熱処理工程を有することにより、短時間で前記のエージング操作と同じ効果を得ながら、さらには電荷輸送層での微結晶発生や界面欠陥等のモルホロジー的な欠陥の改善による、感光体の感度及び耐久性の向上、並びに生産性の向上に特に効果的である電子写真感光体の製造方法を提供することにある。」 キ.「【0021】本発明の電子写真感光体の製造方法は、前記の電荷輸送層を電荷発生層上に塗工後、該電荷輸送層のガラス転移点以上の温度で熱処理工程を施すものであり、本発明における熱処理とは、加熱乾燥工程又は予め任意の温度で乾燥を行った後の加熱エージング工程を意味する。本発明の電子写真感光体の製造方法における熱処理温度は、電荷輸送層のガラス転移点以上であり、好ましくはガラス転移点より20℃高い温度を超えない範囲である。熱処理温度がガラス転移点以下であると、前記のモルホロジー的要因の改善がなされず、感光体の感度、耐久性が不十分となり、ガラス転移点より20℃高い温度を超えると逆にモルホロジー変化が著しく、感度の低下を招く。ここで電荷輸送層のガラス転移点は、別途電荷輸送層の薄膜を作製し、示差熱分析(例えばDSC210、セイコー電子(株)製)や粘弾性試験(例えばレオバイブロン、レオメトリックス社製)により予め知ることができる。また一般的には、前記の電荷輸送層のガラス転移点は50?200℃であり、この温度以上の温度が、実際に熱処理を行なう温度となる。」 ク.「【0025】 【実施例】以下、実施例、比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 【0026】実施例1 X型無金属フタロシアニン4.1g、ポリビニルブチラール(エスレックBM-2、積水化学(株)製)4.1g、シクロヘキサノン200g、ガラスビーズ(直径1mm)650gをサンドミルに入れ、4時間溶解、分散を行ない、電荷発生層用塗料を調製した。該塗料を用い表面を鏡面仕上げしたアルミニウムシリンダー(直径40mm)に乾燥後の膜厚が0.15μmになるように浸漬塗工し、乾燥した。次に、式(1) 【0027】 【化1】 【0028】で示されるヒドラゾン化合物80g、ポリカーボネート樹脂(レキサン131-111、エンジニアリングプラスチックス(株)製)80gをジオキサン450gに溶解し、電荷輸送層用塗料を作製した。該塗料を用いて先に塗工した電荷発生層上に乾燥後の膜厚が25μmになるように塗工し、オーブン中110℃で1時間乾燥を兼ねて熱処理した。尚、別途同じ方法で作製した電荷輸送層のガラス転移点(Tg)を示差熱分析法(DSC210、セイコー電子(株)製)により測定したところ、101.3℃であった。 【0029】以上のようにして作製したドラム状電子写真感光体について、をドラムゼログラフィー試験機にて電子写真特性を評価した。まず、-5.5kVのコロナ電圧で帯電させ、初期表面電位V_(0 )を測定した。つぎに、暗所にて2秒間放置後の表面電位V_(2) を測定した。ついで発振波長790nmの半導体レーザー(1μW)を照射し、半減露光量E_(1/2) 、残留電位V_(R) を測定した。その結果、それぞれ、-790V、-780V、0.35μJ/cm^(2) 、-0.6Vであった。さらに、5万回上記操作を繰り返した後、V_(0 )、V_(2) 、E_(1/2 )、V_(R )をそれぞれ測定したところ、それぞれ、-770V、-760V、0.35μJ/cm^(2) 、-3.7Vであり、高感度、高耐久性を示した。」 ケ.「【0044】以上の結果について、実施例1?6は表1に、実施例7?12と比較例1?6は表2に、実機テストは表3にそれぞれ示した。 【0045】 【表1】 」 上記表1の記載から、ポリカーボネートを結合剤(バインダー樹脂)とした実施例1?5の電荷輸送層のTgは、98.3?105.3℃であるから、ほぼ100℃前後といえる。 したがって、上記の事項を勘案すると、刊行物2には、以下の技術的事項が開示されていると認められる。(以下、「刊行物2に記載の事項」という。) 「電子写真感光体の製造方法において、導電性支持体上に設けた電荷発生層の上に電荷輸送層を塗工後、該電荷輸送層のガラス転移点以上の温度で、加熱乾燥・加熱エージング処理を行うこと。」 「導電性支持体上に設けた電荷発生層の上に、ポリカーボネートをバインダー樹脂とする電荷輸送層を塗工後、熱処理を行う、電子写真感光体の製造方法において、該電荷輸送層のガラス転移点を100℃前後とすること。」 (2)対比 本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。 まず、刊行物1発明における 「アルミニウムドラム」、「ポリアミド樹脂」、「中間層」は、それぞれ、 本願補正発明における 「円筒状導電性支持体」、「バインダー樹脂」、「下引き層」に相当し、 刊行物1発明における「ポリアミド樹脂を主成分とする中間層」と、本願補正発明における「疎水化処理されている金属酸化物粒子及びバインダー樹脂を含む下引き層」とは、「バインダー樹脂を含む下引き層」で一致する。 また、本願の明細書の段落【0051】及び【0059】【表1】等を参照すると、「感光体Aを30℃/75%RH環境下でさらに24時間放置した感光体を感光体B」とした「実施例1」の水蒸気圧が「23.870mmHg」であることから、刊行物1発明における「30℃、90%RHの雰囲気下」が、「水蒸気圧20mmHg以上の環境下」であることは明らかである。 したがって、刊行物1発明における「30℃、90%RHの雰囲気下に6時間、あるいは12時間保管される」は、本願補正発明における「水蒸気圧20mmHg以上の環境下に保持する」に相当する。 そして、刊行物1発明における「120℃で加熱乾燥した後」と、本願補正発明における「該感光層のガラス転移点以上の温度で加熱乾燥した後」とは、「所定温度で加熱乾燥した後」で共通する。 そうすると、本願補正発明と、刊行物1発明とは、 「円筒状導電性支持体上に、バインダー樹脂を含む下引き層を形成した後、感光層を形成し、所定温度で加熱乾燥した後、水蒸気圧20mmHg以上の環境下に保持する、電子写真感光体の製造方法。」 の点で一致し、以下の2点で相違する。 [相違点1]「所定温度で加熱乾燥」に関して、本願補正発明においては、「感光層のガラス転移点以上の温度で加熱乾燥」であるのに対し、刊行物1発明においては、「感光層のガラス転移点以上の温度」であるか不明な点。 [相違点2]「バインダー樹脂を含む下引き層」に関して、本願補正発明においては、「疎水化処理されている金属酸化物粒子及びバインダー樹脂を含む下引き層」であるのに対し、刊行物1発明においては、「疎水化処理されている金属酸化物粒子」についての特定がない点。 (4)判断 上記相違点について検討する。 (相違点1について) まず、刊行物1発明においては、120℃で加熱乾燥を行っているが、感光層(電荷輸送層)のガラス転移点が不明であるため、120℃が、「感光層のガラス転移点以上の温度」であるか不明である。 しかしながら、例えば、特開平8?152723号公報(段落【0019】?【0027】)には、刊行物1の【化2】と同じ化合物(段落【0021】【化1】D-1参照)を電荷搬送物質とし、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂をバインダー樹脂とした電荷搬送層(電荷輸送層)のガラス転移温度が【表1】に記載されており、バインダー樹脂に対する電荷搬送物質の割合(重量比)を上げるほどガラス転移温度は低下し、電荷搬送物質とバインダー樹脂をほぼ等量としたもの(9:10、比較例2)のガラス転移温度は、73.7℃(重量比が3:10である実施例1では、113.2℃)であることから、電荷搬送物質とバインダー樹脂が等量で含まれる刊行物1発明の感光層(電荷輸送層)のガラス転移点はおそらく120℃よりも低いと推測できる。 したがって、刊行物1発明においても、「感光層のガラス転移点以上の温度で加熱乾燥」を満たしている蓋然性が高いといえる。 また、刊行物2には、「導電性支持体上に設けた電荷発生層の上に電荷輸送層を塗工後、該電荷輸送層のガラス転移点以上の温度で、加熱乾燥・加熱エージング処理を行う」点が開示されており、かつ、刊行物2の実施例1?5(上記表1参照)にも示されるように、「ポリカーボネートをバインダー樹脂とする電荷輸送層のガラス転移点を100℃前後とする」構成も従来周知といえる。 そして、刊行物1発明及び刊行物2に記載の事項は、ともに感光体の感度の向上を目的としているから、刊行物1発明に、刊行物2に記載の事項を適用することは、当業者が容易に為し得たことである。 してみると、刊行物1発明に、刊行物2に記載の事項を適用し、「感光層のガラス転移点以上の温度で加熱乾燥」させることは、当業者が容易に為し得たことである。 (相違点2について) 次に、「疎水化処理されている金属酸化物粒子及びバインダー樹脂を含む下引き層」については、原査定の拒絶理由において引用文献7として引用された特開平11-237750号公報に加えて、特開平8-328283号公報、特開平4-229872号公報、特開平11-15183号公報、等にも記載されており、例えば、特開平8-328283号公報に記載のものは、帯電特性、残留電位特性等を良好とするべく、下引き層に「メチルハイドロジェンポリシロキサン処理された二酸化チタン」を含有させているように、「疎水化処理されている金属酸化物粒子」を用いて、感光層の接着性の改善、画像性能や電気特性の向上を図ることは、周知技術といえる。 そして、感光層の接着性の改善、画像性能や電気特性の向上を図ることは、当該技術分野における当然の目的・課題であって、刊行物1発明及び刊行物2に記載の事項の課題とも共通している。 したがって、相違点2は当業者が適宜採用できる設計的事項に過ぎない。 (本願補正発明が奏する効果に関して) そして、上記相違点1及び2によって本願補正発明が奏する「電気特性及び画像特性が良好」、「感光体の生産性にも優れている」という効果も、刊行物1に「感度に優れ、画像地汚れが発生していない」との効果の記載があるように、一般的なものであって、格別のものとはいえない。 以上のとおりであるから、相違点1及び2に係る構成の変更は、当業者が適宜為し得たことである。 (5)まとめ 以上のように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3.補正却下の決定についてのむすび したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成19年2月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであり、特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「円筒状導電性支持体上に少なくとも感光層を形成し、該感光層のガラス転移点以上の温度で加熱乾燥した後、水蒸気圧20mmHg以上の環境下に保持することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。」 2.引用刊行物 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用された刊行物1、2、及び、その記載事項は、前記第2.2.ア.?ケ.で示したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、上記第2.2.で検討した本願補正発明から「円筒状導電性支持体上に・・・感光層を形成し」に関して、「疎水化処理されている金属酸化物粒子及びバインダー樹脂を含む下引き層を形成した後」と限定した点を削除したものである。 そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2.2.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載の事項、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-11-12 |
結審通知日 | 2008-11-18 |
審決日 | 2008-12-01 |
出願番号 | 特願2002-91479(P2002-91479) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菅野 芳男 |
特許庁審判長 |
赤木 啓二 |
特許庁審判官 |
伏見 隆夫 淺野 美奈 |
発明の名称 | 電子写真感光体の製造方法及び電子写真感光体 |
代理人 | 長谷川 曉司 |