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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1191203
審判番号 不服2007-9515  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-05 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2004- 85345「現像装置のドクターブレード,現像装置,画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月 6日出願公開、特開2005-274756〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年3月23日付けの出願であって、原審において平成18年6月14日付けで通知した拒絶理由に対して、同年8月8日付けで手続補正書が提出された後、平成19年2月20日付けで拒絶査定がなされたものであり、これに対し、同年4月5日付けで審判請求がなされるとともに、同年4月27日付けで手続補正書が提出され、その後、平成20年8月19日付けで、当審の審尋に対する回答書が提出されたものである。


第2 平成19年4月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年4月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正には、特許請求の範囲を次のように補正しようとする事項が含まれている。

(補正前)
「【請求項1】現像剤との接触部の材質がDiamond Like Carbonからなり,現像装置が備える現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接されて該現像剤の層厚を規制する現像装置のドクターブレードにおいて,
前記現像ローラ表面に対して,現像剤の付着量が0.2?0.3mg/cm^(2)となるように付勢されてなることを特徴とするドクターブレード。
【請求項2】前記接触部の平均表面粗さが前記現像剤の平均粒子径の略8分の1から略6分の1の範囲内に形成されてなる請求項1に記載の現像装置のドクターブレード。
【請求項3】請求項1又は2のいずれかに記載の現像装置のドクターブレードを具備してなることを
特徴とする現像装置。
【請求項4】請求項3に記載の現像装置を具備してなることを特徴とする画像形成装置。」

(補正後)
「【請求項1】現像剤との接触部の材質がDiamond Like Carbonからなり,現像装置が備える現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接されて該現像剤の層厚を規制する現像装置のドクターブレードにおいて,
前記現像ローラ表面に対して,現像剤の付着量が0.2?0.3mg/cm^(2)となるように付勢されてなると共に,前記現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接される接触部の平均表面粗さが前記現像剤の平均粒子径の略8分の1から略6分の1の範囲内に形成されてなり,さらに,前記接触部の初期の平均表面粗さが約0.80?1.05μmであることを特徴とするドクターブレード。
【請求項2】請求項1に記載の現像装置のドクターブレードを具備してなることを特徴とする現像装置。
【請求項3】請求項2に記載の現像装置を具備してなることを特徴とする画像形成装置。」

この補正事項は、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項1を引用していた請求項2について、接触部の平均表面粗さを「初期の平均表面粗さが約0.80?1.05μmである」と限定するとともに請求項1とし、補正前の請求項3,4をそれぞれ請求項2,3とするものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、及び、同第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

そこで、補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.記載不備について
追加された「初期の平均表面粗さが約0.80?1.05μmである」において、「約」というのはどの範囲のものまでを含むのか不明確な表現であるから、本願補正発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.進歩性について
本願補正発明には、上記2.で示した記載不備があるが、ここでは、一応、そのまま認定して、進歩性の判断を検討する。

(1)引用例
(1-1)刊行物1
原審の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平9-160457号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(1a)「【請求項1】 シート状のポリウレタンゴム成形体からなり、トナーが付着した移動部材表面を摺擦する画像形成装置用ブレードであって、前記ポリウレタンゴム成形体表面に、炭素をプラズマ重合した低摩擦層が複合化されていることを特徴とする画像形成装置用ブレード。」

(1b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ドラム状またはベルト状の感光体や現像ユニット内のロール等の移動部材表面を摺擦する画像形成装置用ブレードおよび摺擦部材に関し、より詳細には、転写工程後の感光体表面に付着したトナーを清掃除去するクリーニングブレードや、現像ユニット内のロール表面を摺擦してトナーを帯電させるトナー帯電ブレード等として使用されるブレードに関する。」

(1c)「【0025】本発明でポリウレタンゴム成形体の表面に複合化される低摩擦層は、炭素をプラズマ重合して形成される層であり、いわゆるDLC(diamond-like carbon)層と呼ぶことができる。DLC層は、プラズマ処理装置を用い、例えば、原料ガスとしてCH_(4)を用いて、温度20?25℃、真空度0.1Torr、高周波(RF)電力100?300Wの状態でCH_(4)を30?100CCM流し、成膜時間20?100分で形成することができる。DLC層の膜厚は、10μm以下、好ましくは5μm以下のものが用いられる。」

(1d)「【0059】(実施の形態3)実施の形態1および実施の形態2で製造したブレード組立体をトナー帯電ブレードとして、画像形成装置の図4に示す一成分現像方式の現像ユニットに組み込み、複写操作を行った。
【0060】図4に示すように、画像形成装置内に設けられた感光体31に近接して現像ユニット本体32が配置されており、その底部にはトナー33が収容されている。現像ユニット本体32の下方には回転自在のマグネットロール(移動部材)34が枢着されており、マグネットロール34は感光体31表面とほぼ接するように現像ユニット本体32の開口部から一部露出している。また、現像ユニット本体32内の上部には、マグネットロール34を摺擦するトナー帯電ブレード35の上端部に亜鉛処理鋼板で形成されたブレードホルダ36を接着したブレード組立体37が装着されている。
【0061】図4に示す現像ユニットにおいては、図示しない帯電コロトロンにより帯電された後、画像情報が露光された感光体31が回転しながら、マグネットロール34と摺擦する。このマグネットロール34には、ブレード組立体37により、感光体31とは逆極性の静電荷が帯電されており、トナー33は当該マグネットロール34に付着して感光体31表面に移行される。
【0062】ブレード組立体37は、摺擦面に低摩擦性のDLC層が形成されているので、D層を有さないブレードを用いた場合と比較して、トナー帯電ブレード35自体の摩耗および当該ブレードへのトナー33の付着量が大幅に減少した。」
なお、上記【0059】【0060】記載の「図4」は、「図3」の誤記とみられる。また、【0062】の「D層を有さないブレード」は、「DLC層を有さないブレード」の誤記である。

(1e)図3は以下のとおりである。



これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「現像ユニット本体32に回転自在に枢着されたマグネットロール34に摺擦してトナーを帯電させる、現像ユニット本体32にブレードホルダ36を介して組み込まれたトナー帯電ブレード35であって、
トナー帯電ブレード35は、摺擦面に炭素をプラズマ重合した低摩擦性のDLC(diamond-like carbon)層が形成されており、これにより、DLC層を有さないブレードを用いた場合と比較して、トナー帯電ブレード35自体の摩耗および当該ブレードへのトナー33の付着量を大幅に減少させた、
トナー帯電ブレード35。」

(1-2)刊行物2
同じく、原審の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平6-149034号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】 トナー担持体にトナーを供給し、その供給されたトナーをトナー層厚規制部材によって均一な薄層として該トナー担持体上に形成した後、その薄層のトナーで潜像保持体上の静電荷像を顕像化する現像装置において、該トナー担持体及び/又は該トナー層厚規制部材は少なくとも該トナーに接するところが炭素又は炭素を主成分としてなることを特徴とする現像装置。」

(2b)「【0012】本発明においては、トナー担持体及び/又はトナー層厚規制部材の表面に設けられる炭素または炭素を主成分とするもの(層又は膜)とは、SP^(3)軌道を有するダイヤモンドと類似のC-C結合を有する物質で形成される。しかし、SP^(2)軌道を有するグラファイトと類似の構造を持つ物質でもかまわないし、非晶質性のものでもかまわない。さらに好ましくは、膜状のものが望ましいが、微粒子状のもの、島状の膜ピンホールを有する膜でもかまわない。」

(2c)「【0015】トナー担持体上に形成するトナー薄層の量は現像装置の種類によって異なるが、例えばトナー担持体上に0.3?0.5mg/cm^(2)の薄層にトナー量を規制し、トナー担持体の回転速度を潜像保持体の2?4倍速にして現像する方法と、トナー担持体上に0.8?1.2mg/cm^(2)の薄層にトナー量を規制し、トナー担持体と潜像保持体とを等速度で回転し現像する方法がある。
【0016】前者においては、トナー層をほぼ単層から2層程度になるように規制するためトナー帯電量はトナー担持体の帯電特性に依存することも可能であり、トナー層厚規制部材の帯電性は多少劣っていても良い。しかし、規制力が強くかかるためにトナーにかかる負荷が大きく、融着や摩耗を起こしやすい。融着を起こすとトナーとの摩擦帯電特性が変化し、トナー帯電量低下、地汚れが発生する。また、摩耗すると、トナー担持体との設定にずれが生じ、トナー薄層の厚さが不均一となり画像乱れを生じる。
【0017】一方、後者では規制力を比較的弱くできるため融着や摩耗は低減するが、トナー層が3?5層の多層を形成する。トナー担持体に近いトナー(トナー層の下側に位置するトナー)はトナー担持体の帯電特性により帯電するが、遠いトナー(トナー層の上側に位置するトナー)はトナー担持体とほとんど帯電できないために帯電量が低く、逆極性トナーも多く発生し、地汚れを引き起こしてしまう。従って、この場合、トナー層厚規制部材にトナーとの帯電性に優れたものを用いる必要がある。」

(2d)「【0018】図2には本発明で用いるトナー層厚規制部材の一例を示す。図中61は金属基体、62はその金属基体上に形成された炭素又は炭素を主成分とした層又は膜である。金属基体61には従来公知の金属等が使用される。層又は膜62にはプラズマCVD法などによって形成することができる。また、必要に応じて導電性または絶縁性の中間層を導入しても良い。形状も上記のようなブレード状に限らず、例えばローラの様なものでも良い。トナー担持体のトナーに接するところに炭素又は炭素を主成分とした層又は膜を形成する手法は、前記のトナー層厚規制部材と同じである。」

(2e)図2の(a)は以下のとおりである。



(2f)「【0027】実施例4(a)トナー層厚規制部材の作製
導電性プライマーを塗布したSUSの薄板に、プラズマCVD法を用いて炭素又は炭素を主成分とする層を形成してトナー層厚規制部材とした。プラズマCVD法における作製条件は、実施例1と同じである。
(b)トナー担持体の作製
SUS芯金に約50μm厚のシリコン樹脂をコートしたものを用いた潜像保持体に対して2.5倍速で回転させる。
(c)トナーの調製
実施例1と同じもの。
【0028】上記のトナー担持体、トナー層厚規制部材及びトナーを図1に示した現像装置に適用して、これを実機に装着し、テスト画像を出力した。10枚出力時、画像は充分な濃度が得られ、地汚れのない良好なものであった。この時のトナー担持体上のトナー帯電量は-12.2μc/g、トナー付着量は0.50mg/cm^(2)であった。さらに、1万枚画像出力時でも同様に濃度も良好で地汚れもない良好な画像が得られた。この時のトナー担持体上のトナー帯電量は-11.9μc/g、トナー付着量は0.49mg/cm^(2)であった。
【0029】実施例5 トナー層厚規制部材とトナー担持体との間隔を拡げてトナー付着量が多くなるように変更し、トナー担持体の回転速度を潜像保持体と同じにした以外は実施例4と同様にして画像形成を行なった。10枚出力時、画像は充分な濃度が得られ、地汚れもない良好な画像が得られた。このときのトナー担持体上のトナー帯電量は-9.6μc/g、トナー付着量は1.12mg/cm^(2)であった。さらに、1万枚画像出力時でも同様に濃度も良好で地汚れもない良好な画像が得られた。この時のトナー担持体上のトナー帯電量は-9.7μc/g、トナー付着量は1.09mg/cm^(2)であった。
【0030】実施例6 (略)
【0031】実施例7 (略)
【0032】比較例4 トナー層厚規制部材としてSUSの薄板のみを用いた以外は、実施例4と同通にして画像形成とした。この比較トナー層厚規制部材を用いたときのテスト画像10枚出力時では、充分な濃度が得られ、地汚れもない良好な画像が得られた。このときのトナー担持体上のトナー帯電量は-10.1μc/g、トナー付着量は0.45mg/cm^(2)であった。しかし、1万枚画像出力時では画像濃度が低下してあり、さらに地汚れも観察された。この時のトナー担持体上のトナー帯電量は-3.6μc/g、トナー付着量は0.33mg/cm^(2)であった。さらに、このトナー層厚規制部材を観察したところ表面にトナーが融着していることがわかった。」

これら記載によれば、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「トナー担持体に供給されたトナーを均一な薄層としてトナー担持体上に形成する、現像装置のトナー層厚規制部材であって、
トナー層厚規制部材は、少なくともトナーに接するところが、炭素又は炭素を主成分とした、ダイヤモンドと類似のC-C結合を有する物質の層であり、
トナー付着量0.50mg/cm^(2) 程度において、1万枚画像出力時でも濃度が良好で地汚れもない良好な画像が得られる、
トナー層厚規制部材。」

(1-3)刊行物3
原審の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平8-69173号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(3a)「【請求項1】弾性を有し、現像剤を担持する現像剤担持体に、規制部材を介して所定の厚さを有する現像剤の層を形成したのち、静電潜像を保持する保持体に接触させることにより、上記保持体の静電潜像を現像する現像方法において、
上記現像剤の軟化点が80℃以上120℃以下で、上記規制部材の表面の粗さが、上記現像剤の体積平均粒径に対して、0.05倍ないし0.8倍であることを特徴とする非磁性一成分現像方法。」

(3b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、電子写真方式によって感光体に形成された潜像を現像するための現像方法ならびに現像装置に関する。」

(3c)「【0008】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、今日、複写機あるいはプリンタなど電子写真方式を用いている装置に対して消費電力の削減が望まれており、これらの装置で最も電力を消費する定着工程における消費電力を低減するために、低いエネルギーで定着が可能なトナーすなわち物性としての軟化点の低いトナーが要求されている。
【0009】また、カラープリンタでは、複数の色を有するトナーの溶融および混色によりさまざまな色を再現していることから、溶融特性のよいトナーすなわち軟化点の低いトナーが、同様に、要求されている。
【0010】物理的特性としての軟化点を低くすることは、規制部材へのトナーの固着を防止するために不利益であるばかりでなく、実質的に、規制部材へのトナーの固着を引き起こす問題がある。」

(3d)「【0027】帯電ブレード102は、たとえば、0.05?0.5mm、好ましくは、0.1?0.2mm、より好ましくは、0.15mmの厚さを有する板状の金属材料であって、たとえば、ステンレス、リン青銅、鉄、ニッケルアルミニウム、銅あるいは黄銅などにより形成される。なお、帯電ブレード102の形状としては、ローラ状またはブロック状であってもよい。」

(3e)「【0047】「表面粗さ」従来技術の項でも既に説明したように、トナーと規制部材すなわち帯電ブレードとの固着は、トナーと規制部材との間の摩擦および感光体の外周面の移動速度と現像ローラの外周面の移動速度の差に起因する摩擦などのトナーに対する機械的負担によるものであることが知られている。しかしながら、感光体の外周面の移動速度と現像ローラの外周面の移動速度の差は、現像装置から感光体に供給すべきトナー量すなわちトナー供給量およびユーザにより要望される最大画像濃度などにより予め規定される。従って、ここでは、トナーと規制部材との間の摩擦を、規制部材の表面の平滑性すなわち表面粗さの関数として捕らえる。なお、表面粗さの計測方法としては、JIS (日本工業規格) B0601表6に規定されている十点平均粗さRzによるものとする。また、表面粗さRzの測定は、 (小坂研究所製) 接触式表面粗さ計SE-40Dを用いた。」

(3f)「【0048】次に、トナーの「軟化温度」と規制部材の「表面粗さ」とについて、実験により得られた結果とともに、説明する。
[実験1]図2に示されている現像装置4の規制部材102として、表面粗さRzを変化させたSUS304ステンレスの板状ブレードにより合計1万枚の画像出力を行ない、1万枚後のブレード上のトナー固着量を調べた。ここでは、軟化点95℃の低軟化点トナーを用いた。また、トナーの体積平均粒径は、8μmとした。なお、ブレード102に固着したトナーは、画像出力前 (未使用時) のブレードの重量と1万枚の画像出力を終了したブレードの重量とを精密天秤により測定することより求めるものとする。
【0049】図4は、板状ブレードの表面粗さとトナー固着量の関係を示すグラフである。図4から明らかなように、帯電ブレードの表面粗さRzが大きくなる (粗くなる) ほどトナー固着量が低減される。これに対して、表面粗さRzが0.3μm以下になると、トナー固着量は、25mg (ブレード長210mmに対して) を越えて急速に増加される。
【0050】既に説明したように、帯電ブレードにトナーが固着することで、筋状の不良画像が生じたりトナーの帯電不良による現像ローラからのトナー落ちが生じることから、帯電ブレードへのトナーの固着量は、実験によりまた経験的に (ブレード長10mmあたり) 1.2mg以下に抑制される必要がある。従って、ブレードの表面粗さRzは、好ましくは、0.3μm以上に設定される。」

(3g)図4は、以下のとおりである。


(3h)「【0051】図5には、ブレードの表面粗さRzと現像ローラに形成されるトナーの薄層の層厚 (層形成量) の関係が示されている。図5から明らかなように、ブレードの表面粗さRzが6.5μm以上では、表面粗さRzが6.5μm未満の場合に比較して、現像ローラ上のトナー薄層の層厚がおおむね1/2以下に減少される。これにより、初期における画像濃度が低下され、十分な画像濃度が確保できなくなる問題が生じている。なお、トナー層形成量 (層厚) は、実験によりまた経験的に、少なくとも、0.6mg/cm^(2)以上であることが好ましく、従って、ブレードの表面粗さRzは、0.3μm以上6.5μm未満が、より好ましいことが認められる。
【0052】ここで、表面粗さRzをトナーの粒径に比較した値 (表面粗さRz/トナー粒径rすなわちRz/r) で示すと、Rz/rが0.05?0.8の範囲で、帯電ブレードへのトナー固着量が画像に影響を与えないレベルで、かつ、現像ローラのトナーの層厚が良好な画像濃度を提供できることが認められる。」

(1-4)刊行物4
原審の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された実願昭59-183260号(実開昭61-99855号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物4」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(4a)「従来技術
従来、電子写真装置等の現像装置おいて現像剤の層厚を規制する部材として、先端を先細状に形成しこの先端を現像剤搬送体としての現像スリーブ表面に近接させて搬送されてくる現像剤の層厚を規制するドクターブレードが知られている。この場合、ドクターブレード先端と現像スリーブ表面間の間隙で搬送されてくる現像剤を相当な力で圧縮する為、その先端面に現像剤が固着する傾向がある。この現像剤の固着は、層厚規制により形成される現像剤薄層にスジを発生させ、その結果、得られる画像上に白スジが現われ画像品質が低下する。」(明細書第2頁)

(4b)「加えて、ドクターブレード4の先端面4a1の表面粗さが、トナー固着を発生させない様に設定されている。第3図に示す如く、一般に、凹凸のある金属表面Mにトナーを押し付けた場合、トナー粒子T1の粒径Dに対して金属表面Mの表面粗さL(凹凸の山と谷間の距離)がその1/2よりも大きいときに、トナー粒子が表面の凹部に捕捉されトナー固着が発生する傾向がある。従って、本例のドクターブレード4においては、先端面4a1にその表面粗さが使用するトナーTの最小粒径の1/2以下となる様に仕上げ加工を施してある。・・・(中略)・・・以上の如く、トナー固着の発生を防止する為、ドクターブレード4の先端形状と支持態様及び層厚規制を行う先端面4a1の表面粗さを最適設定することにより、トナー固着の発生が確実に防止され、安定してスジ等が無い層厚が均一なトナー薄層を形成することができる。・・・(中略)・・・使用するトナー粒子の最小粒径が約5μmの場合、表面粗さが3?5μmのときにはトナー固着が発生したが、1.2μmのときには発生しなかった。」(明細書第5頁最下行?第7頁第6行)

(2)対比・判断
そこで、本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の「現像ユニット本体32」「マグネットロール34」「トナー」は、それぞれ、本願補正発明の「現像装置」「現像ローラ」「現像剤」に相当し、
刊行物1記載の発明の「マグネットロール34に摺擦してトナーを帯電させる、現像ユニット本体32にブレードホルダ36を介して組み込まれたトナー帯電ブレード35」は、マグネットロール34表面に形成されるトナーの層厚を規制するものでもあることは当然であるから、本願補正発明の「現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接されて該現像剤の層厚を規制する現像装置のドクターブレード」に相当し、
刊行物1記載の発明の「トナー帯電ブレード35は、摺擦面に炭素をプラズマ重合した低摩擦性のDLC(diamond-like carbon)層が形成されており」は、トナーとの接触部分がDLC層であることは明らかであるから、本願補正発明の「現像剤との接触部の材質がDiamond Like Carbonからなり」に相当するということができる。

そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
「現像剤との接触部の材質がDiamond Like Carbonからなり,現像装置が備える現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接されて該現像剤の層厚を規制する現像装置のドクターブレード。」

[相違点]
本願補正発明では、「前記現像ローラ表面に対して,現像剤の付着量が0.2?0.3mg/cm^(2)となるように付勢されてなると共に,前記現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接される接触部の平均表面粗さが前記現像剤の平均粒子径の略8分の1から略6分の1の範囲内に形成されてなり,さらに,前記接触部の初期の平均表面粗さが約0.80?1.05μmである」のに対し、
刊行物1記載の発明では、そのような特定がない点。

そこで、相違点について検討する。

まず、刊行物1記載の発明は、その構成(上記一致点の構成ともいえる)を有することにより、DLC層を有さないブレードを用いた場合と比較して、トナー帯電ブレード35自体の摩耗および当該ブレードへのトナーの付着量を大幅に減少させたものであり、この効果は、本願明細書の【0005】に記載された「本発明によれば、現像装置のドクターブレードにおいて、現像剤との接触部の材質がDiamond Like Carbonであるものであれば、耐摩耗性が高いため、現像剤が融着しにくい表面状態を長期間維持できる。」と同様のものであるということができる。
そして、上記相違点に係る本願補正発明は、基本的に、ブレードへのトナー融着の発生に関係する、接触部の表面粗さの好適化に関するものであるといえる。

しかしながら、ブレードの表面粗さが、ブレードへのトナー融着の発生に関係し、そのために好適化が必要なことは、刊行物3,4に記載されている。すなわち、刊行物3には、ブレードの表面粗さが小さいと固着(融着といってよい)が急速に増加することが指摘されており、刊行物4には、ブレードの表面粗さが大き過ぎても固着(融着)が発生する(その第3図は基本的に本願の図4(b)と同じである。)ことが記載されている。また、このことは、周知でもある(必要ならば、特開平6-186838号公報(前置報告で例示。【0065】等)、特開2001-42641号公報(【0063】?【0066】)を参照)。
そして、ブレードの表面粗さとトナー粒径との関係について注目することも、刊行物3,4に記載されている。
さらに、本願補正発明は、「前記現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接される接触部の平均表面粗さが前記現像剤の平均粒子径の略8分の1から略6分の1の範囲内に形成されてなり,さらに,前記接触部の初期の平均表面粗さが約0.80?1.05μmである」というもの(現像剤の平均粒子径は約6μm)であるが、そのようなブレードの表面粗さとトナー粒径との数値関係は、特別な値ではなく、本願出願前に周知の程度といえる(必要ならば、前置報告で例示された、上記特開平6-186838号公報(【0051】【0065】等)、特開平11-272067号公報(【0054】【0084】)を参照)。
加えて、本願補正発明では、ブレードの表面粗さというが、平均表面粗さの定義が示されておらず、発明の詳細な説明には、測定器の名称はあるがRa、Rz、その他の表面粗さのどれであるかは不明であるから、平均表面粗さの数値の意味が正確には理解されないことや、表面粗さといっても、凹凸を構成する山と谷の高さ関係だけでなく、山と山の間隔も、トナー粒子の流動性や滞留(本願の図4(b)で示される)に影響する要素であることは当然であるが、この点は規定されていないこと、さらには、「略8分の1から略6分の1の範囲内」「平均表面粗さが約0.80?1.05μm」という記載で「略」「約」という不正確な表現を用いていることなど、本願補正発明には不十分な点もある。

次に、本願補正発明の「前記現像ローラ表面に対して,現像剤の付着量が0.2?0.3mg/cm^(2)となるように付勢されてなる」との発明特定事項について、請求人は、これは、ブレードの付勢力が強くてトナー融着が発生しやすい条件でありブレードの付勢力を特定したものである旨を主張している。
確かに、現像ローラ表面での現像剤の付着量が少ないということは、ブレードの付勢力(当接圧)が強いことが関係しているということはできる。
しかし、現像ローラ表面での現像剤の付着量の数値が決まれば、ブレードの付勢力(当接圧)の数値が決まるというほど単純なものではない。現像ローラ表面での現像剤の付着量が、ブレードの付勢力(当接圧)だけでなく、現像ロールの表面粗さ、ブレードの形状等の影響を受けることは、本願出願前、周知の事項である。必要ならば、特開2001-42641号公報(【0014】?【0016】等)、特開昭61-228479号公報(第2図等)、特開2000-172067号公報(図3(b)等)、特開平1-191878号公報(第10図(a)等)を参照。
したがって、本願補正発明において、ドクターブレードが「前記現像ローラ表面に対して,現像剤の付着量が0.2?0.3mg/cm^(2)となるように付勢されてなる」との表現からは、ドクターブレードの付勢力がかなり大きいことは、技術常識から理解されるとしても、ブレードの付勢力(当接圧)を正確には特定できない。
また、一般に、ブレードの付勢力(当接圧)が大きくなると、ブレードや現像ローラへのトナー融着が発生しやすいことも、本願出願前に周知の事項である。例えば、刊行物2の【0015】?【0017】、上記特開2001-41641号公報の【0063】?【0066】、特開平6-324526号公報の【0012】【0025】【0095】【0099】等、特開平7-44019号公報の【0010】、特開平6-236107号公報の【0014】を参照。
しかも、ブレードへのトナー融着に関係する要因は、ブレードの付勢力(当接圧)だけではなく、トナー材料の物性(軟化点等)、現像ローラの回転速度やその表面粗さ、ブレードの接触角度などもある(上記例示文献や刊行物3を参照)。
加えて、本願発明で規定される現像ローラ表面での現像剤の付着量「0.2?0.3mg/cm^(2)」は、特別な値ではなく、周知の程度のものである(原審の拒絶査定の例示文献を参照)。

そして、DLC層を有するブレードを用いたときに、採用される現像ローラ表面での現像剤の付着量又はブレードの付勢力(当接圧)に応じて、ブレードの接触部であるDLC層の表面粗さを、トナーの平均粒子径も考慮しつつ、トナー融着が発生しないように好適化することは、これまで述べてきた知見を有する当業者が、その通常の創作能力を発揮すれば、困難なことではない。

これらのことを勘案すると、刊行物1記載の発明において、刊行物2?4の記載事項、及び周知技術を考慮して、本願補正発明のごとく、「前記現像ローラ表面に対して,現像剤の付着量が0.2?0.3mg/cm^(2)となるように付勢されてなると共に,前記現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接される接触部の平均表面粗さが前記現像剤の平均粒子径の略8分の1から略6分の1の範囲内に形成されてなり,さらに,前記接触部の初期の平均表面粗さが約0.80?1.05μmである」ようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

また、本願補正発明と刊行物2記載の発明とを対比しても、本願補正発明と刊行物1記載の発明との対比で示したのと同じ相違点があり、その相違点の判断については、やはり本願補正発明と刊行物1記載の発明との対比で示した相違点の判断と同様な理由から、刊行物2記載の発明において、刊行物1,3,4の記載事項、及び周知技術を考慮して、本願補正発明のごとくなすことは、当業者が容易になし得ることである。

(3)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明1
平成19年4月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成18年8月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載の事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】現像剤との接触部の材質がDiamond Like Carbonからなり,現像装置が備える現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接されて該現像剤の層厚を規制する現像装置のドクターブレードにおいて,
前記現像ローラ表面に対して,現像剤の付着量が0.2?0.3mg/cm^(2)となるように付勢されてなることを特徴とするドクターブレード。」

2.引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平9-160457号公報(上記「第2 3.(1)」で示した「刊行物1」)、特開平6-149034号公報(同「刊行物2」)の記載事項及び記載された発明は、上記「第2 3.(1)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明1は、本願補正発明から、「前記現像ローラ表面に形成される現像剤に圧接される接触部の平均表面粗さが前記現像剤の平均粒子径の略8分の1から略6分の1の範囲内に形成されてなり,さらに,前記接触部の初期の平均表面粗さが約0.80?1.05μmであること」という限定事項を省いたものに相当する。

本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、
本願発明1では、現像ローラ表面に対して,現像剤の付着量が0.2?0.3mg/cm^(2)となるように付勢されてなるのに対し、刊行物1記載の発明では、そのような付着量に基づく付勢については記載されていない点でのみ相違点するが、
この相違点については、上記「第2 3.(2)」で示した相違点の判断と同様の理由で(但しここでは刊行物3,4を用いる必要はない。)、刊行物1記載の発明において、本願発明1の如くすることは、当業者が容易になし得ることである。

また、本願発明1と刊行物2記載の発明とを対比しても、同様の相違点のみであるから、刊行物2記載の発明において、本願発明1の如くすることは、やはり当業者が容易になし得ることである。

したがって、本願発明1は、刊行物1,2記載の発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-12 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2004-85345(P2004-85345)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 537- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伏見 隆夫大仲 雅人  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 淺野 美奈
赤木 啓二
発明の名称 現像装置のドクターブレード,現像装置,画像形成装置  
代理人 本庄 武男  

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