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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1191204
審判番号 不服2007-9667  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-05 
確定日 2009-01-15 
事件の表示 特願2000-285099「現像装置及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月27日出願公開、特開2002- 91169〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯等
本願は、平成12年9月20日の出願であって、平成19年2月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月7日付けで手続補正がなされ、その後平成20年7月7日付けで当審からの前置報告書の内容についての審尋がなされ、同年8月7日付けで審尋に対する回答書が提出されたものであって、「現像装置及び画像形成装置」に関するものである。
そして、平成19年5月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。

「 【請求項1】
非磁性体のスリーブと、当該スリーブ内に固定配置された複数の磁極を備えた磁石ローラとを備えて構成され、前記スリーブを回転させてその外周面に磁性を有する現像剤を磁気吸着させて磁気ブラシを形成し、前記潜像担持体と前記スリーブとの間に電界を印加しながら前記スリーブと対向する潜像担持体表面に当該磁気ブラシを摺擦させる現像装置において、
前記潜像担持体を取り除いたときの潜像担持体に対向する部分でのスリーブ上磁気ブラシを形成する穂の単位面積あたりの本数が36本/mm^(2)以上49本/mm^(2)以下であり、前記磁気ブラシを形成するキャリアの磁場1KOeにおける磁化の強さは、60emu/g以下であり、前記磁気ブラシを形成するキャリアの平均粒径は、30μm以上50μm以下である
ことを特徴とする現像装置。
【請求項2】
前記キャリアの磁場1KOeにおける磁化の強さは、40emu/g以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の現像装置。
【請求項3】
非磁性体のスリーブと、当該スリーブ内に固定配置された複数の磁極を備えた磁石ローラとを備えて構成され、前記スリーブを回転させてその外周面に磁性を有する現像剤を磁気吸着させて磁気ブラシを形成し、前記潜像担持体と前記スリーブとの間に電界を印加しながらこの現像剤担持体と対向する潜像担持体表面に当該磁気ブラシを摺擦させる現像装置において、
前記現像剤中のトナーは、非磁性トナーである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の現像装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に係る現像装置を用いる
ことを特徴とする画像形成方式。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に係る現像装置を備えた
ことを特徴とする画像形成装置。」

ここで、上記請求項1における補正事項は、本件補正前の請求項1における「30本/mm^(2)」を「36本/mm^(2)」とするものであって、上記補正は平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。

2.原審における拒絶理由及び拒絶査定の理由の概要
2.1 原審における拒絶理由の概要
原審における、平成18年12月5日付けの拒絶理由通知の概要は以下に示すとおりである。

『[2]この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)<転記省略>
(2)請求項2に係る発明は、「潜像担持体を取り除いたときの潜像担持体に対向する部分におけるスリーブ上磁気ブラシを形成する穂の単位面積あたりの本数が30本/mm^(2)以上であること」を特徴としているから、キャリアの粒径、磁石ローラの磁極配置、磁力の強さ、トナーの種類、現像バイアス(直流か交流か、また、交流の場合はその周波数)、スリーブの周速、潜像担持体を近づけた時の現像ギャップ等の諸条件がどうであるかにかかわらず、請求項2に係る発明に含まれることになるが、そのようなものすべてが、発明の詳細な説明の段落【0025】等に記載された作用効果を奏しうることを証明した実験結果は何ら開示されておらず、それらの条件にかかわらず、穂の単位面積あたりの本数を30本/mm^(2)以上の条件さえ満たせば、上記の作用効果を満たしうることを理論的に立証されてもいないことから、請求項2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できるとは認められない。
請求項2の記載を引用する請求項3?7に係る発明も同様である。
よって、請求項2?7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。』

2.2 原審における拒絶査定の理由の概要
原審における、平成19年2月26日付け拒絶査定における拒絶の理由の概要は以下に示すとおりである。

『この出願については、平成18年12月5日付け拒絶理由通知書に記載した理由[2]によって、拒絶をすべきものである。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。

備考

理由[2](1)について
<転記省略>
理由[2](2)について
明細書の記載を参照しても、キャリアの平均粒径に関しても、30?100μmの数値範囲のすべての領域において、良好な結果が得られることを客観的に示した根拠は何ら示されていない。
また、意見書の記載を参照しても、先の拒絶理由通知において指摘した、磁石ローラの磁極配置、磁力の強さ、トナーの種類、現像バイアス(直流か交流か、また、交流の場合はその周波数)、スリーブの周速、潜像担持体を近づけた時の現像ギャップの諸条件に関しては、何ら反論がなされておらず、依然として拒絶理由は解消されない。』

2.3 前置報告書に記載された事項の概要
平成19年7月6日付け前置報告書に記載された事項の概要は以下に示すとおりである。

『この審判請求に係る出願については、下記の通り報告する。


請求項1についての補正は、誤記の訂正を目的とするものと認められる。

そこで、補正後の請求項1に係る発明について以下に検討する。

発明の詳細な説明の記載を参照すると、平成19年5月7日付け手続補正書によって補正された明細書の段落【0024】には、「請求項1の発明によれば、・・・・現像領域で穂高の揃った緻密な穂から形成される磁気ブラシとなり、ハーフトーン領域でのザラツキがなく、また、低濃度部での孤立ドット再現性が良くなり、ベタ濃度も高く、ラインや文字の鮮鋭度も優れた高画質な画像が得られる。」と記載されていることから、請求項1に係る発明によってもたらされる作用効果は、上記のとおりのものと考えられる。

一方、請求項1に係る発明に含まれる範囲について検討すると、請求項1に係る発明は、非磁性体のスリーブと、当該スリーブ内に固定配置された複数の磁極を備えた磁石ローラとを備えて構成され、前記スリーブを回転させてその外周面に磁性を有する現像剤を磁気吸着させて磁気ブラシを形成し、前記潜像担持体と前記スリーブとの間に電界を印加しながら前記スリーブと対向する潜像担持体表面に当該磁気ブラシを摺擦させる現像装置であるという前提の構成を有するものにおいて、
(1)スリーブ上磁気ブラシを形成する穂の単位面積あたりの本数が36本/mm^(2)以上49本/mm^(2)以下(2)磁気ブラシを形成するキャリアの磁場1KOeにおける磁化の強さが60emu/g以下
(3)磁気ブラシを形成するキャリアの平均粒径が30μm以上50μm以下という3種類の数値範囲の条件を満たすものをすべて含むものである。
そこで、請求項1に係る発明に含まれるものがすべて上記の作用効果を奏しうるかどうかについて検討する。
当初明細書の段落【0021】?【0023】に、実施例1として、上記(1)に関して49本/mm^(2)で、(2)に関して40emu/gで、(3)に関して35μmの例の開示と、実施例2として、上記(1)に関して36本/mm^(2)で、(2)に関して60emu/gで、(3)に関して50μmの例の開示の開示があり、どちらも良好な結果を得られた旨が示されており、一方、比較例として、上記(1)に関して25本/mm^(2)で、(2)に関して65emu/gで、(3)に関して35μmの例の開示があり、良好な結果が得られない旨が記載されている。
しかしながら、上記(1)について36本/mm^(2)以上49本/mm^(2)以下のすべての範囲、上記(2)の60emu/g以下のすべての範囲、上記(3)の30μm以上50μm以下のすべての範囲を組み合わせたすべての領域において、良好な作用効果を得られることを客観的に示した事実は何ら開示されていない。

また、(1)の穂の単位面積あたりの本数の数値範囲の妥当性に関しても、実施例1、実施例2及び比較例の評価は、段落【0013】?【0014】に示されているように、ドラムの径が60mm、ドラムの線速が240mm/秒、現像スリーブの径が20mm、スリーブ線速が600mm/秒、現像ギャップが0.4mm、ドクタギャップが0.4mmという条件のもとで実験を行ったものであり、その結果、穂の単位面積あたりの本数が36本/mm^(2)以上49本/mm^(2)以下のものが良好な結果が得られたことを根拠としているが、ドラムの径、ドラムの線速、現像スリーブの径、スリーブ線速、現像ギャップ、ドクタギャップを、異なる条件にすれば、良好な結果が得られる数値範囲は異なるものと考えられ、さらに、明細書には明確に開示されていない、磁石ローラの磁極配置、磁力の強さ、トナーの種類、現像バイアス(直流か交流か、また、交流の場合はその周波数)等の条件次第で、良好な作用効果を奏しうる範囲は異なるものと考えられるから、特定の条件下の実験から導き出された「36本/mm^(2)以上49本/mm^(2)以下」とした数値範囲が、そのような条件を取り除いた場合においても、普遍的に良好な結果が得られる数値範囲を示しているとは認められず、そのことを客観的な事実に基づいて示した根拠も、明細書、意見書、及び、審判請求書には何ら
開示されていないことから、上記(1)の条件がすべての現像装置において良好な作用効果を奏しうる範囲を示すものとは認められない。

したがって、上記(1)?(3)の条件の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できるとは認められないことから、請求項1に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できるとは認められないとともに、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に開示された内容を超えるものを含むものである。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。 請求項2?5に係る発明についても同様である。
以上のことから、請求項1?5に係る発明は、原査定の理由[2](2)によって拒絶すべきものである。』

3.審判請求人の主張
審判請求人は、前記審尋に対する平成20年8月7日付け回答書において、上記前置報告における穂の単位面積あたりの本数の数値範囲の妥当性に関する指摘に対して、以下のように反論している。(以下において、下線は当審判で付与した。)

『2)について
この点の指摘については、審判請求書の請求の理由(平成19年6月18日付けで提出した手続補正書の記載事項)で反論している。
なお、この反論について、以下に再度記載する。
「本願発明は、小粒径で磁化の低い範囲のキャリアを用いて、緻密な磁気ブラシを形成する点に特徴を有するものである。
基本的には、本発明の磁気ブラシの穂の密度は、主に、キャリア粒径と磁化によって決まる。それ故、審査官の指摘されている、磁石ローラの磁極配置、トナーの種類、現像バイアス(直流か交流か、また、交流の場合はその周波数)、スリーブの周速、潜像担持体を近づけた時の現像ギャップ等は、少なくとも磁気ブラシの穂の密度を制御する主な要因ではなく、磁気ブラシの穂の密度とは直接関係しない。(・・・中略)。
したがって、基本的には、本発明の磁気ブラシの穂の密度は、主に、キャリア粒径と磁化によって決まるのであり、審査官の指摘されている、磁石ローラの磁極配置、トナーの種類、現像バイアス(直流か交流か、また、交流の場合はその周波数)、スリーブの周速、潜像担持体を近づけた時の現像ギャップ等は、磁気ブラシの穂の密度とは直接関係しない。したがって、本願の特許請求の範囲の記載内容で、磁気ブラシの密度を規定することができる。」
したがって、審査官の前置報告書の判断及び認定には誤解があると思料する。』

4.当審の判断
本願は、同一出願人に係る特願2000-51644号(特開2001-242711号公報参照)、特願2000-72596号(特開2001-265121号公報参照)等の後願に該当するものであって、本願発明は、これら先願に記載されたものと基本的に同じ構成を有する2成分現像装置に関する。
そこで、これら先願の明細書に記載されている事項を参酌することにより、上記「3.審判請求人の主張」における、請求人の反論が妥当であるのかについて検討する。
上記特願2000-51644号の明細書(以下、「先願明細書」という。)に記載されている現像装置は以下の【図2】に示されるものであって、本願の【図2】に相当する。

そして、先願明細書の発明の詳細な説明に、以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)

「【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、本発明にしたがって、現像剤を現像剤担持体に汲み上げて、現像剤担持体上に磁気ブラシを形成し、潜像担持体に現像剤を摺擦させて潜像を可視像化する現像装置にして、上記現像剤担持体が非磁性スリーブと当該スリーブ内に固定配置された磁石ローラとからなり、当該磁石ローラが現像剤汲み上げ磁極、現像剤搬送磁極、現像剤穂立ちのための主磁極を備えるような現像装置において、上記主磁極の法線方向磁束密度の減衰率が40%以上、好ましくは50%以上であり、上記スリーブの表面に不規則な凹凸パターンが形成されているように構成することで、解決される。減衰率とは、スリーブ表面上の法線方向磁束密度のピーク値からとスリーブ表面から1mm離れたところでの法線方向磁束密度のピーク値の差をスリーブ表面上の法線方向磁束密度のピーク値で割った比率である。磁極の減衰率が大きくなるということは、磁気ブラシの立ち上がり・倒れの間の穂立ち幅が小さくなることで、その結果、磁気ブラシは短く且つ密に立ち上がる。
【0013】減衰率を大きくするには、その磁極を形成する磁石の選択によって実現可能である。また以下の実施の形態の項で述べるように、実験的に、磁極の半値幅を狭くすることで、その減衰率が大きくなることが判明している。当該半値幅を22°以下、望ましくは18°以下で構成するのが良い。半値幅とは、法線方向の磁力分布曲線の最高法線磁力(頂点)の半分の値(例えばN極によって作製されている磁石の最高法線磁力が120mT(ミリテスラ)であった場合、半値50%というと60mTである。半値80%という表現もあり、この場合には96mTとなる)を指す部分の角度幅のことである。主磁極の半値幅を狭くする一つの方策として、その磁力形成を補助する補助磁極を形成することが考えられる。半値幅が狭くなれば、磁気ブラシの穂立ち位置が主極に近づき、現像ニップ自体も狭くなる。上記補助磁極は、主磁極の現像剤搬送方向上流側及び/又は下流側に形成する。上流側と下流側の両方の他、上流側か下流側のいずれか一方に形成することができ、いずれもそれぞれ利点を有する。」

「【0016】上記現像装置4の構成を図2に基づいて説明する。現像装置4内には、現像剤担持体である現像ローラ41が感光体ドラム1に近接するように配置されていて、双方の対向部分には、感光体ドラムと磁気ブラシが接触する現像領域が形成されている。現像ローラ41では、アルミニウム、真鍮、ステンレス、導電性樹脂などの非磁性体を円筒形に形成してなる現像スリーブ43が不図示の回転駆動機構によって時計回り方向に回転されるようになっている。本実施例においては、感光体ドラム1のドラム径が60mmで、ドラム線速が240mm/秒に設定され、現像スリーブ43のスリーブ径が20mmで、スリーブ線速が600mm/秒に設定されている。したがって、ドラム線速に対するスリーブ線速の比は2.5である。また感光体ドラム1と現像スリーブ43との間隔である現像ギャップは0.4mmに設定されている。現像ギャップは、従来ではキャリア粒径が50μmであれば0.65mmから0.8mm程度、言い換えれば、現像剤粒径の10倍以上に設定されていたが、本実施例では10倍以下(0.55mm)に設定するのが良い。これより広くすると望ましいとされる画像濃度が出にくくなる。」

「【0024】法線方向の磁力密度の減衰率を考察するにあたり、改めて図3に戻る。当該図は法線磁力パターンを示すもので、実線は現像スリーブ表面上の磁束密度を測定して円チャートグラフであり、破線は現像スリーブ表面から1mm離れたところでの法線方向の磁束密度を測定した円チャートグラフである。測定に使用した計測装置はADS社製ガウスメーター(HGM-8300)並びにADS社製A1型アキシャルプローブであり、円チャートレコーダにて記録した。
【0025】第1例での磁石ローラによる観測では、主磁極P1bのスリーブ表面上の法線方向の磁束密度は95mTを示し、スリーブ表面から1mm離れた部分での法線方向磁束密度は44.2mTであり、磁束密度の変化量は50.8mTの磁力差であった。この時の法線方向磁束密度の減衰率(スリーブ表面上の法線方向磁束密度のピーク値からとスリーブ表面から1mm離れたところでの法線方向磁束密度のピーク値の差をスリーブ表面上の法線方向磁束密度のピーク値で割った比率)は53.5%である。主磁石の最高法線磁力が95mTである時の半値は47.5mTで、その半値幅は22°である。この主磁極の半値幅22°を境に、それより大きくすると異常画像の発生があることが確認された。
【0026】主磁極P1bの上流側に位置する主磁極磁力形成補助磁石P1aのスリーブ表面上の法線方向磁束密度は93mTを示し、スリーブ表面上から1mm離れた部分での法線方向磁束密度は49.6mTであり、磁束密度の変化量は43.4mTの磁力差であった。この時の法線方向磁束密度の減衰率は46.7%である。主磁極P1bの下流側に位置する主磁極磁力形成補助磁石P1cのスリーブ表面上の法線方向磁束密度は92mTを示し、スリーブ表面上から1mm離れた部分での法線方向磁束密度は51.7mTであり、磁束密度の変化量は40.3mTの磁力差であった。この時の法線方向磁束密度の減衰率は43.8%である。本例では、磁石ローラ上に発生した磁力線に沿って形成された磁気ブラシは、主磁極P1bに形成されるブラシ部分のみが感光体に接し、感光体上の静電潜像を顕像化する。この際、感光体が接しない状態で測定すると当該箇所での磁気ブラシの長さは約1.5mmで、従来の磁石ローラで形成される磁気ブラシ(約3mm)よりも穂立ちが短く、密になった状態を作り出すことが可能となった。現像剤規制部材と現像スリーブの間の距離が従来と同じである場合には、現像剤規制部材を通過する現像剤量が同じであるので、現像領域にある磁気ブラシは短く、密になっていることが確認できた。この現象は図3の法線磁力パターンからも理解でき、現像スリーブ表面から1mm離れたところでの法線磁束密度が大きく減少しているので、磁気ブラシは現像スリーブより離れたところではブラシチェーンを形成することができず、磁気ブラシが短く現像スリーブ表面に密に形成することとなる。ちなみに従来の磁石ローラでは、主磁極のスリーブ表面上の法線方向磁束密度は73mTを示し、スリーブ表面上から1mm離れた部分での法線方向磁束密度は51.8mTであり、磁束密度の変化量は21.2mTの磁力差であった。この時の法線方向磁束密度の減衰率は29%である。
【0027】実験値では半値幅を小さくすることによって減衰率が高まることが判明している。半値幅を小さくするには、磁石の幅(スリーブ円周方向での幅)を小さくすることによって達成できる。例えば、上記第1の例では磁石P1b,P1a,P1cの磁石幅が2mmで、P1bの半値幅が16°であるが、1.6mm幅の磁石では主磁極の半値幅は12°であった。半値幅を狭くすることにより隣り合う磁石に回り込む磁力線量が増え、スリーブ表面より離れた部分での法線磁束密度が低下する。磁石ローラと現像スリーブの間には、磁石ローラが固定され現像スリーブが回転するのに必要な空間と現像スリーブの肉厚分とに基づく実質空隙が存在し、接線磁束密度位置が実質的に現像スリーブ側に集中するので、法線磁束密度はスリーブ表面から遠ざかるほど低下するのである。
【0028】減衰率の高い磁石ローラを使用すると磁気ブラシは短く密に形成される。これに対して、減衰率の低い従来の磁石ローラでは磁気ブラシは長く疎に形成される。これは、減衰率の大きい磁石により形成された磁界は隣の磁石(例えばP1bに対するP1a,P1c)に引き付けられやすくなり、法線方向に磁束が広がるよりも接線方向に磁束が回り込む寄与が高くなり、法線方向の磁束密度が小さくなることによって法線方向に磁気ブラシが形成されにくくなり、短く且つ密に磁気ブラシが形成されるのである。例えば減衰率の高い磁石P1bに形成される磁気ブラシは細長く個別に形成されるよりも隣り合って短く形成された方が安定する。減衰率の低い従来の磁石ローラでは現像剤の汲み上げ量を少なくしても磁気ブラシは短くならず、ほぼ前述した磁気ブラシと同等の長さとなってしまう。
【0029】減衰率を高くするには、主磁極と隣り合う主磁極形成補助磁石を(スリーブ周方向において)主磁極位置に近づけることでも達成可能である。こうすることにより、主磁極から発せられる磁力線が隣り合う主磁極形成補助磁極に流れ込む磁力線が増すことになって、減衰率が高くなる。」

先願明細書に、現像ギャップを0.4mmと従来のものより小さくすることに加えて、現像ギャップ部における磁束密度の減衰率を大きくして磁気ブラシの長さを従来例のものより短くし、磁気ブラシを密に立ち上げる(磁気ブラシを形成する穂の単位面積あたりの本数を多くする)ことにより高画質の画像が得られること、及び、現像ギャップや磁気ブラシの長さは従来例のものとし、現像ローラ表面の現像剤の量と磁束密度を増加させることにより現像ローラ表面の磁気ブラシの密度を調整することによっては、高画質の画像が得られないことが示されている。
また、先願明細書に示されている上記事項が誤りであるという理由は見当たらない。
そうすると、請求項1に係る発明が、上記「1.手続の経緯等」において摘記したように、磁気ブラシを形成する穂の単位面積あたりの本数の範囲、キャリアの磁化の強さの範囲、及び、キャリアの平均粒径の範囲を決めたことによっては、高画質の画像得るという本願発明の目的を達成することができないことは明らかである。
してみると、本願の請求項1ないし請求項5に係る発明は、原査定の拒絶の理由と同じ理由により、発明の詳細な説明に記載したものでない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の記載は、その請求項1ないし請求項5に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-17 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2000-285099(P2000-285099)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 紀本 孝
大森 伸一
発明の名称 現像装置及び画像形成装置  
代理人 奥山 雄毅  

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