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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1191496
審判番号 不服2006-21066  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-21 
確定日 2009-01-23 
事件の表示 特願2004-213047「冷媒配管の洗浄方法、及び空気調和装置の更新方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-333121〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、平成15年2月7日に出願された特願2003-30312号(以下「原出願」という。)の一部を平成16年7月21日に新たな特許出願としたものであって、平成18年8月9日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年8月22日)、同年9月21日に拒絶査定不服の審判が請求され、同年10月20日付けで手続補正がなされたものである。

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年10月20日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「熱源ユニット(2)に対して複数の利用ユニット(5)が冷媒配管(6、7)を介して接続されることで構成されており、作動冷媒としてR22を使用し、かつ、鉱油系の冷凍機油を使用する空気調和装置(1)の前記冷媒配管を流用しつつ、作動冷媒をHFC系冷媒からなる作動冷媒に変更する際に、R32を40wt%以上含むR32とR125との混合冷媒を洗浄剤として用い、前記冷媒配管内に湿り状態の前記洗浄剤を流すことによって前記冷媒配管内を洗浄し、残留する冷凍機油を除去する、冷媒配管の洗浄方法。」

2.刊行物
(1)原査定の拒絶理由に引用された、原出願の出願前、日本国内で頒布された刊行物である特開平7-83545号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

ア.「【請求項1】室内機及び室外機を備えた空気調和機の作動冷媒を塩素を含む弗化炭化水素系冷媒から塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒に変更する空気調和機の冷媒変更方法において、
前記室外機中に前記塩素を含む弗化炭化水素系冷媒を内蔵したまま回収運転を行った後に、前記室外機を前記塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒に適合した新冷凍機油を内蔵した新室外機に置換し、前記室外機と前記室内機とを真空引きし、前記塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒を前記空気調和機に封入した後、所定時間だけ前記空気調和機を運転し、その後に前記塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒と前記新冷凍機油とを入替える入替え作業を行い、前記所定時間の運転と前記入替え作業からなる洗浄運転を所定回数以上繰り返すことを特徴とする空気調和機の冷媒変更方法。
【請求項2】前記所定回数は前記空気調和機に残留する前記塩素を含む弗化炭化水素系冷媒の濃度に基づいて定めたことを特徴とする請求項1に記載の空気調和機の冷媒変更方法。
【請求項3】前記塩素を含まない冷媒はHFC32,HFC125,HFC134a,HFC143aおよびHFC152aのいずれか、またはそれらの組合せからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空気調和機の冷媒変更方法。
【請求項4】前記新室外機は前記室外機とは圧縮機のみが異なることを特徴とする請求項1に記載の空気調和機の冷媒変更方法。
【請求項5】室内機及び室外機を備えた空気調和機の作動冷媒を塩素を含む弗化炭化水素系冷媒から塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒冷媒に変更する空気調和機の冷媒変更方法において、
前記室外機と前記室内機を接続する液冷媒配管及びガス冷媒配管と、制御信号伝送線との中の少なくとも1つをそのまま流用し、前記室外機と前記室内機とを、前記塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒に対応した新室外機及び新室内機に置換した後に真空引きし、前記塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒を封入することを特徴とする空気調和機の冷媒変更方法。
【請求項6】真空引きを行い塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒冷媒を封入した後、所定時間だけ前記空気調和機を運転し、その後に前記塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒と前記新冷凍機油とを入替える入替え作業を行い、前記所定時間の運転と前記入替え作業からなる洗浄運転を所定回数以上繰り返すことを特徴とする請求項5に記載の空気調和機の冷媒変更方法。
【請求項7】室内機及び室外機を備えた空気調和機の作動冷媒を塩素を含む弗化炭化水素系冷媒から塩素を含まない弗化炭化水素系混合冷媒に変更する空気調和機の冷媒変更方法において、
前記室外機中に前記塩素を含む弗化炭化水素系冷媒を内蔵したまま回収運転を行った後に、前記室外機を前記塩素を含まない弗化炭化水素系混合冷媒に適合した新冷凍機油を内蔵した新室外機に置換し、前記室外機と前記室内機とを真空引きし、前記塩素を含まない弗化炭化水素系混合冷媒の少なくとも1成分を有する洗浄冷媒を前記空気調和機に封入した後、所定時間だけ前記空気調和機を運転し、その後に前記洗浄冷媒と前記新冷凍機油とを入替える入替え作業を行い、前記所定時間の運転と前記入替え作業からなる洗浄運転を所定回数以上繰り返すことを特徴とする空気調和機の冷媒変更方法。
【請求項8】前記室外機と前記室内機を制御する制御信号を伝送する制御信号伝送線と、置換した新室外機あるいは新室内機間に伝送信号フォーマットを変換する伝送信号変換装置を取り付け、前記洗浄運転指令を伝送することを特徴とする請求項5又は請求項7に記載の空気調和機の冷媒変更方法。
【請求項9】室内機及び室外機を備えた空気調和機の作動冷媒を塩素を含む弗化炭化水素系冷媒から塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒に変更する空気調和機の冷媒変更方法において、
前記室外機中に前記塩素を含む弗化炭化水素系冷媒を内蔵したまま回収運転を行った後に、前記室外機を前記塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒に適合した新冷凍機油を内蔵した新室外機に置換し、前記室外機と前記室内機とを真空引きし、前記塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒を前記空気調和機に封入した後、所定時間だけ前記空気調和機を運転し、その後に前記塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒と前記新冷凍機油とを入替える入替え作業を行い、前記所定時間の運転と前記入替え作業からなる洗浄運転を所定回数以上繰り返した後に冷媒が変更されたことを示す表示物を前記空気調和機に設置することを特徴とする空気調和機の冷媒変更方法。
【請求項10】前記塩素を含まない冷媒はHFC32,HFC125,HFC134a,HFC143aおよびHFC152aのいずれか、またはそれらの組合せからなることを特徴とする請求項5又は請求項7または請求項9に記載の空気調和機の冷媒変更方法。」(【特許請求の範囲】)

イ.「これにより、オゾン層が破壊される作用が生じることが明らかになってきた。そのため、人体に有害な紫外線を上空で遮る働きをするオゾン層を保護するために、塩素を含む弗化炭化水素系物質の全廃が決定されている。空気調和機や冷凍機の冷媒として広く用いられているHCFC22もその対象であり、いわゆる特定フロンであるCFC類よりはオゾン層破壊に対する影響が小さいものの、数年以内に代替することが要求されている。
現在、HCFC22等の従来冷媒の代替候補として検討されている新冷媒として、例えばオゾン層破壊の原因である塩素を含まない弗化炭化水素のHFC32、HFC125、HFC134a、HFC143a、HFC152aいずれか、あるいはそれらの中のいくつかを混合した複数混合冷媒が有望と考えられている。」(段落【0003】)

ウ.「一方、冷媒が変わると、冷凍機油もそれに対応したものに変える必要が生じる。しかしながら、上述の新冷媒は鉱物油やアルキルベンゼン等を主体とする従来冷凍機油に対して相溶性が著しく低いので、従来の冷凍機油とともには使用することができない。そこで、エーテル系やエステル系等分子極性により新冷媒との相溶性を確保した新冷凍機油が用いられることとなる。
ところで、新冷媒を適用した冷凍サイクル中に、塩素系物質を含む従来冷凍機油や従来冷媒が残留や混入すると、新冷媒や新冷凍機油の化学的変化の原因となる。例えば、酸の発生による冷凍サイクル内材料の腐食があげられ、製品の信頼性を著しく低下させる恐れがある。」(段落【0007】、【0008】)

エ.「本発明の目的は、従来冷媒を使用していた既存機器を流用して、最小限の変更で、容易にかつ経済的に冷凍サイクルを新冷媒に対応したものに変更する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、従来冷媒を使用していた既存機器を流用して新冷媒に対応するように変更しても、機器の信頼性を確保しかつ性能を損なわない、空気調和機の冷媒変更方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、特殊な装置を使用することなく、極力冷媒を大気中に放出しないでオゾン層を破壊せず、リサイクルをも可能として、環境に害を与えずかつ経済的な、空気調和機の冷媒変更方法を提供することにある。」(段落【0010】?【0012】)

オ.「一方、複数の室内機20a、20b、20cには各々冷媒配管で連結された、室内熱交換器21a、21b、21cと室内膨張装置23a、23b、23cと、吸い込み温度、吹き出し温度、リモコンスイッチ25a、25b、25c、または室外制御装置8qからの情報により室内送風機22a、22b、22cと室内膨張装置23a、23b、23cとを制御する室内制御装置24a、24b、24cとを備えており、それぞれ筐体中に収容されている。これら室外機10qと室内機20a、20b、20cとは、ガス冷媒配管31および液冷媒配管32により接続されている。」(段落【0024】)

カ.「以下、このように構成した本発明の一実施例について、その作業手順を図1の作業フロー図にしたがい、順次説明する。
初めに(第1のステップ)、従来冷媒であるHCFC22の冷媒回収運転を行う。これは、冷凍サイクル中の従来冷媒および従来冷凍機油を、なるべく大気中に放出しないで室外機10qを取り外すために行うものである。その手順は、まず、室外機10qの液側阻止弁12を閉じて冷房の試運転モードにし、しばらく運転する。試運転モードは、従来の空気調和機に通常備えられている機能であり、室内機のON/OFF、設定温度に拘わらず、連続して運転するモードである。液側阻止弁12qを閉じた状態で冷房運転を行うと、室外熱交換器に凝縮した液冷媒が室内機に流れることができないので、徐々に室外機10q中に冷媒が回収されていく。保護装置が動作しない範囲で運転を続け、頃合を見計らいガス側阻止弁11qを閉じた後、試運転モードを解除し停止する。この作業により、冷凍サイクル中の冷媒の大部分は室外機に回収された状態となる。室内機と配管中に残ったわずかの冷媒を放出した後、室外機10qをガス冷媒配管31及び液冷媒配管32から取り外せば、大気中に放出される冷媒を最小限にとどめて、冷媒回収専用装置等を用いることなく冷媒を回収できる。
次に(第2のステップ)、室外機を交換する。従来冷媒を取り除いた旧室外機10qを、新冷媒、例えばHFC32/HFC125/HFC134a混合冷媒に対応した新室外機10と交換し、ガス冷媒配管31、液冷媒配管32、制御信号伝送線33を連結する。新室外機10では、新冷媒の熱力学特性や輸送特性等の物性に適合する新冷凍機油、例えばポリオールエステル系オイルの特性に合致する必要がある。そのため、おしのけ容積や圧縮比等の圧縮機諸元、圧縮機運転周波数制御方法や膨張装置絞り量制御方法、冷凍サイクル制御用バイパス流量、受液器やアキュムレータなどの容器類容積、熱交換器容量、パス配列、部品の耐圧構造、圧縮機給油量、アキュムレータ返油量、配管径、新冷媒/新冷凍機油対応材料の使用、水分を吸着するドライヤの設置等の点を旧室外機から変更している。圧縮機、熱交換器、制御装置等をパッケージ化した室外機を交換することにより、交換作業を容易に実施できる。」(段落【0027】、【0028】)

キ.「次のステップ(第3のステップ)では、真空引きを行い新冷媒を封入する。すなわち、室内機20a、20b、20cとガス冷媒配管31と液冷媒配管32中の空気および冷凍サイクル内に残留する従来冷媒を排出する真空引きが終了したら、ガス側阻止弁11、液側阻止弁12を開き、新冷媒を封入する。
さらに次のステップ(第4のステップ)は、洗浄運転である。これは、先に実施した試運転モードで空気調和機を所定時間運転して、冷凍サイクル中に新冷媒と新冷凍機油を循環させるもので、冷媒と冷凍機油の循環により室内機20a、20b、20cとガス冷媒配管31と液冷媒配管32中に残留している従来冷凍機油を圧縮機に戻し、残留濃度を薄めるものである。洗浄運転を実施する所定時間としては、冷凍機油が冷凍サイクル内をおおむね一巡する程度を考慮し、例えば2時間とする。所定時間経過後、空気調和機を停止する。
次のステップ(第5のステップ)では、冷媒と冷凍機油を入れ替える。冷媒を液側阻止弁12等から回収するとともに、圧縮機1を新室外機10より取り外して圧縮機1内にある冷凍機油を排出する。そして未使用の新冷凍機油を圧縮機1に封入して、新室外機10に戻す。さらに真空引きを実施して、新冷媒を封入する。
この第5のステップと更にもう1つ前の第4のステップとを繰り返すことにより、冷凍サイクル中に残留する従来冷媒および従来冷凍機油は、初期残留量より徐々に減少していく。この作業を所定回数繰り返して、従来冷媒および従来冷凍機油の残留濃度が、機器の信頼性を維持できる範囲まで微量となるようにする。」(段落【0030】)

ク.「ところで、本実施例では最終的に新冷媒としてHFC32/HFC125/HFC134a混合冷媒を動作流体に用いる空気調和機に変更することを目指している。しかし、洗浄運転では冷凍サイクル中の塩素系物質回収が目的であり、この作業中には空気調和の必要がないので、洗浄運転に用いる冷媒には冷凍能力が要求されない。したがって、最終的に使用する冷媒以外の冷媒を用いて洗浄運転を実施することもできる。特に本実施例のように混合冷媒を用いる場合は、その成分中の1成分である冷媒を単独で用いて洗浄すれば、安価な冷媒で洗浄できるとともに、材料や冷凍機油との適合性も確認されている物質なので適用に関しての不都合もない。ただし、混合冷媒中の成分の中には、燃焼性の高いものや入手が困難な物もあるので、この点への配慮が必要である。」(段落【0034】)

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物1には、次の発明が記載されている。

「新室外機10と複数の室内機20a、20b、20cがガス冷媒配管31と液冷媒配管32により接続されることで構成されており、作動冷媒としてHCFC22を使用し、かつ、鉱物油を使用した空気調和機のガス冷媒配管31と液冷媒配管32をそのまま流用して、作動冷媒を塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒からなる作動冷媒に入替える際に、塩素を含まないHFC32、HFC125、HFC134a、HFC143aおよびHFC152aのいずれか、またはそれらの組合せからなる冷媒を洗浄運転に用いる冷媒として洗浄運転に用い、洗浄運転に用いる冷媒を循環させることによって、冷媒配管内を洗浄し、残留している従来冷凍機油の残留濃度を薄める、冷媒配管の洗浄方法。」

(2)同じく、特開2001-141340号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

ア.「一方、接続配管5、7については、配管長が長い場合や、パイプシャフトあるいは天井裏など建物に埋設されている場合、新規配管に交換することは困難で、しかも老朽化しにくいため、CFC系冷媒やHCFC系冷媒を用いた冷凍サイクル装置で使用していた接続配管5、7をそのまま使用できれば、配管工事が簡略化できる。
しかし、CFC系冷媒やHCFC系冷媒を用いた冷凍空調装置で使用していた接続配管5、7には、CFC系冷媒やHCFC系冷媒を用いた冷凍空調装置の冷凍機油である鉱油が残留している。」(段落【0009】、【0010】)

イ.「この発明は、このような問題点を解消するためになされたものであり、配管の洗浄を迅速にかつ環境に支障なく行える洗浄装置および洗浄方法を得るとともに、冷凍空調装置において使用する冷媒を交換するために装置の更新を行うときに配管の洗浄を行い、洗浄した既設配管を用いることで配管の再設置工事を簡略化する冷凍空調装置を提供することを目的とする。」(段落【0017】)

ウ.「次に本発明の洗浄手順について説明する。既設配管19、20に接続されている交換の必要な空調装置、利用側熱交換器を取り外し、図1のように既設配管19、20に洗浄装置12、バイパス管6を接続する。接続後冷凍サイクル全体を真空引きした後、R407Cを適量充填する。その後圧縮機1を運転し、四方弁の流れ方向を図1の実線方向に設定する。このときの冷凍サイクルの運転状況は以下のようになる。圧縮機1から吐出された高温高圧のガス冷媒はまず油分離器2を通過する。この段階でガス冷媒と一緒に圧縮機1から吐出された冷凍機油は油分離器2で分離され圧縮機1吸入側に戻される。高温高圧のガス冷媒はその後四方弁3を通過し、高低圧熱交換器4によってガスが一部冷却され液となり、高圧の気液二相冷媒になる。この高圧の気液二相冷媒は既設配管19、バイパス管6、既設配管20を通過した後、減圧装置8によって低圧の気液二相冷媒に減圧される。この後高低圧熱交換器4で加熱され低圧のガスになる。次に分離装置9を通過し、この際、既設配管19、20内で洗浄された鉱油が分離され、鉱油は分離装置9に保持される。低圧の冷媒ガスは圧縮機1の吐出温度が高くなりすぎないよう熱源側熱交換器10で温度を下げられた後、四方弁3、アキュムレータ11を経て圧縮機1に吸入される。」(段落【0033】)

エ.「一方、気液二相混合流で洗浄する場合、二相流は気液が混合して流れるため流れの乱れ具合が液単相、ガス単相を流す場合よりも大きくなる。そのため気液二相冷媒中の液冷媒の乱れが配管壁面付近で大きくなり、壁面に付着している鉱油を壁面から引き剥がす作用を行う。壁面から引き剥がされた鉱油は冷媒中を移動するので、移動速度は冷媒と同じとなる。従ってR407Cとのせん断力で引っ張って移動させて洗浄することに比べ高速で冷媒を移動させることが可能となり、鉱油の洗浄が速やかに短時間で行われる。なお、鉱油の洗浄特性は、配管から鉱油を引き剥がす能力に依存する。鉱油を引き剥がす能力は気液二相流の乱れ具合によって決定され、二相流の乱れ具合は、二相流中の液、ガスの割合、および二相流の流速によって決定される。従ってこれらの二相流を流す条件としては、配管中の鉱油をどれぐらいの時間で、どの量まで洗浄するかで決定される。」(段落【0034】)

オ.「なお既設配管19、20に洗浄冷媒を気液二相混合流で供給できるような構成であれば前記のような構成に限定されることなく配管の洗浄を行うことが可能となる。
配管を洗浄する洗浄冷媒としてはR407Cに限るものではなく、他のHFC系の単一冷媒や混合冷媒でもよく、例えばR32(微燃性・無毒)、R125(不燃性・無毒)、R134a(不燃性・無毒)、R410A(不燃性・無毒)、R404A(不燃性・無毒)で洗浄を行ってもよい。またプロパンやブタンなどのHC系冷媒およびその混合冷媒、アンモニア、炭酸ガス、水などの自然冷媒を用いてもよい。また二相流としては、同一洗浄液のガス化されたものと洗浄液との組み合わせに限らず、別種のガスと液を組み合わせてもよい。例えば、空気と水を混合した二相流で洗浄を行ってもよい。」(段落【0039】、【0040】)

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物2には、次の発明が記載されている。

「既設配管を用い冷媒を交換する際に、R410Aを洗浄冷媒として用い、既設配管内に気液二相混合流で供給するとにより、既設配管内を速やかに短時間で洗浄し、壁面に付着している鉱油を壁面から引き剥がす既設配管の洗浄方法。」

3.対比
本願発明と刊行物1に記載された発明を対比する。
刊行物1に記載された発明の「新室外機10」は、本願発明の「熱源ユニット(2)」に相当し、同様に、
「室内機20a、20b、20c」は「利用ユニット(5)」に、
「ガス冷媒配管31と液冷媒配管32」は「冷媒配管(6、7)」に、
「HCFC22」は、その化学式がCHClF_(2)であることから、「R22」に、
「鉱物油」は「鉱油系の冷凍機油」に、
「空気調和機」は「空気調和装置(1)」に、
「塩素を含まない弗化炭化水素系冷媒」は「HFC系冷媒」に、
「入替え」は「変更」に、
「HFC32」はその化学式がCH_(2)F_(2)であることから、「R32」に、
「HFC125」はその化学式がCHF_(2)CF_(3)であることから、「R125」に、
「組合せからなる冷媒」は「混合冷媒」に、
「洗浄運転に用いる冷媒」は冷媒そのものを洗うために用いることから、「洗浄剤」に、
「循環させる」は「流す」に、
「残留している従来冷凍機油」は「残留する冷凍機油」に、
「残留濃度を薄める」は濃度が薄まることにより当該物質が取り除かれることであるから、「除去する」に、
それぞれ相当する。

したがって、上記両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「熱源ユニットに対して複数の利用ユニットが冷媒配管を介して接続されることで構成されており、作動冷媒としてR22を使用し、かつ、鉱油系の冷凍機油を使用する空気調和装置の前記冷媒配管を流用しつつ、作動冷媒をHFC系冷媒からなる作動冷媒に変更する際に、R32とR125との混合冷媒を洗浄剤として用い、洗浄剤を流すことによって前記冷媒配管内を洗浄し、残留する冷凍機油を除去する、冷媒配管の洗浄方法。」

[相違点]
洗浄剤について、
本願発明では、R32を40wt%以上含むR32とR125との混合冷媒を用い、冷媒配管内に湿り状態の洗浄剤を流すものであるのに対して、
刊行物1に記載された発明では、R32とR125との混合冷媒を洗浄剤として用いる点。

4.当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
本願発明と刊行物2に記載された発明を対比する。

刊行物2に記載された発明の「既設配管」は、本願発明の「冷媒配管」に相当し、同様に、
「交換」は「変更」に、
「R410A」はR32とR125との重量比50:50の混合物であることから、「R32を40wt%以上含むR32とR125との混合冷媒」に、
「洗浄冷媒」は冷媒そのものを洗うために用いることから、「洗浄剤」に、
「気液二相混合流」は飽和蒸気と飽和液とが共存している状態の冷媒であることから、「湿り状態」に、
「壁面に付着している鉱油」は「残留する冷凍機油」に、
「引き剥がす」は「除去」に、
それぞれ相当する。

したがって、刊行物2に記載された発明は、
「冷媒配管を流用し冷媒を変更する際に、R410Aを洗浄剤として用い、冷媒配管内に湿り状態で供給することにより、冷媒配管内を洗浄し、残留する冷凍機油を除去する冷媒配管の洗浄方法。」と言い換えることができる。

そして、刊行物1及び2に記載された発明は、いずれも、HCFC系冷媒を用いた既存の冷媒配管を流用しHFC系冷媒に入れ替える際の、既存の冷媒配管の洗浄方法という極めて密接した技術分野に属する発明であり、しかも、刊行物1に記載された発明は、R22を使用する空気調和機の既設冷媒配管を流用する際に、R32とR125との混合冷媒を洗浄剤として用いるものであるから、R32とR125との混合冷媒の重量比が50:50であるR410Aを湿り状態で供給することにより冷凍機油の洗浄を速やかに短時間で行うようにした刊行物2に記載された発明を刊行物1に記載された発明に適用することは、当業者が容易に想到し得たものである。

さらに、本願発明の奏する効果は、刊行物1及び2に記載された発明並びに周知の技術事項から当業者が予測できた範囲内のものである。

よって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本件のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-19 
結審通知日 2008-11-25 
審決日 2008-12-10 
出願番号 特願2004-213047(P2004-213047)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上原 徹  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 長崎 洋一
清水 富夫
発明の名称 冷媒配管の洗浄方法、及び空気調和装置の更新方法  
代理人 小野 由己男  

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