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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  E02D
管理番号 1191676
審判番号 無効2007-800076  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-04-18 
確定日 2009-02-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第3052135号発明「既設杭の引抜き装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の特許第3052135号に係る出願は、平成10年11月20日に出願され、平成12年4月7日に、その請求項1に係る発明につき、特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人より平成19年4月16日付けで、請求項1に係る発明についての特許に対し本件無効審判の請求がなされ、次いで、被請求人より平成19年7月17日付けで答弁書が、平成19年11月5日付けで上申書が提出され、これに対し請求人より平成19年12月3日付けで弁駁書が、平成19年12月19日付けで上申書が提出された。

なお、請求人は、本件の特許権につき移転登録手続及び不当利得金の返還等を請求する訴えを大阪地方裁判所に提起した(平成17年(ワ)第1238号、以下、「地裁事件」という。)が、平成19年10月30日に請求を棄却する旨の判決が言い渡され、移転登録手続の請求部分についての判決は確定している。

第2 本件発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「打込機に連結され、既設杭の最大外径よりも大きい内径をもつ円筒状のケーシングと、このケーシングの下部に、油圧シリンダによる駆動でケーシング内に突出するように取付けられたチャック爪とを備えた既設杭の引抜き装置において、
上記油圧シリンダは上記ケーシングの上部に取付けられ、この油圧シリンダのロッド端部と上記チャック爪とを連結ロッドで連結してあり、
上記チャック爪は円弧状のカム溝を有し、このカム溝を上記ケーシングの下部に固定した軸に挿通してあり、
上記油圧シリンダの縮小動作で上記連結ロッドが上昇することにより上記チャック爪が上記ケーシング外に略垂直姿勢に退出し、上記油圧シリンダの伸長動作で上記連結ロッドが下降することにより上記チャック爪が上記ケーシング内に略水平姿勢に突出するようにしてなる
ことを特徴とする既設杭の引抜き装置。」

第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、次の無効理由を挙げ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証を提出している。
[無効理由]
本件特許の請求項1に係る発明は、本件出願前に、日本国内で行われた「神戸新港第7突堤サイロ基礎杭撤去工事」(以下、「神戸第7突堤工事」という。)において公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができない。

[証拠方法]
・審判請求書に添付されたもの
甲第1号証の1ないし9:写真の写し
甲第2号証:被請求人作成に係る「工事マスター一覧表」の写し
甲第3号証:地裁事件において提出された、平成17年5月31日付け、株式会社岡田組代表取締役岡田和代の陳述書(1)
甲第4号証:地裁事件における、平成18年7月25日の岡田和代の本人調書
甲第5号証:地裁事件における、平成17年7月25日付けの株式会社岡田組専務取締役岡田直久の陳述書
甲第6号証:地裁事件における、平成18年7月18日の岡田直久の証人調書
甲第7号証:地裁事件における、平成17年7月26日付けの市川米生の陳述書
甲第8号証:地裁事件における、平成18年7月18日の市川米生の証人調書
甲第9号証:地裁事件における、平成17年7月25日付けの株式会社岡田組岡田健司の陳述書
甲第10号証:地裁事件における、平成18年7月18日の岡田健司の証人調書
甲第11号証:地裁事件における、平成17年9月16日付け証拠説明書(4)

・平成19年12月3日付け弁駁書に添付されたもの
甲第12号証:図面の写し
甲第13号証:請求人作成の図面の写し
甲第14号証の1ないし6:写真の写し
甲第15号証の1及び2:請求人作成にかかる概略地図

・平成19年12月19日付け上申書に添付されたもの
甲第16号証の1及び2:神戸第7突堤工事で使用された装置の図面
甲第17号証:神戸第7突堤工事現場の杭伏図

2.被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、「神戸第7突堤工事」においては、本件発明は完成しておらず、また、「神戸第7突堤工事」は公然と実施されたものではないから、本件発明は、日本国内において公然と実施された発明ではない旨主張し、上申書とともに乙第1、2号証を提出した。

[証拠方法]
乙第1号証:平成19年7月25日付け、株式会社カンキの証明書
乙第2号証:平成19年10月16日付け、株式会社山王パイルの証明書

第4 甲号各証に記載された事項
甲第1号証の1ないし9は、地裁事件において被請求人が乙第40号証の94ないし102として提出した写真であると請求人が主張しているものであり、当該写真には、次の事項が示されている。
(1a)甲第1号証の4は「97」の番号が付され、「工事名 新港7突堤サイロ基礎杭撤去工事 油圧伸縮装置付 φ800ケーシング l=17,000」と記載された黒板とともに、ケーシングが写されており、ケーシングに付された16の数字の近傍に油圧伸縮装置が取り付けられ、ロッドが油圧伸縮装置からケーシングに付された15、14の数字の方向に延びていることが示されている。
(1b)甲第1号証の6は「99」の番号が付され、「工事名 新港7突堤サイロ基礎杭撤去工事 油圧伸縮装置付 φ800ケーシング l=17,000」と記載された黒板とともに、ケーシングが写されており、ケーシングに付された3の数字の近傍にカム溝を有するチャック爪が取り付けられ、ロッドがチャック爪からケーシングに付された4、5、6の数字の方向に延びていること、チャック爪がケーシング外に略垂直姿勢に位置していることが示されている。
(1c)甲第1号証の7は「100」の番号が付され、「工事名 新港7突堤サイロ基礎杭撤去工事 油圧伸縮装置付 φ800ケーシング l=17,000」と記載された黒板とともに、1から17までの数字が付されたケーシングが示されている。
(1d)甲第1号証の9は「102」の番号が付され、「伸縮爪部材」と記載されたボードとともに、一端に連結部材が軸により回動可能に取り付けられた爪が示され、該爪は円弧状の溝が設けられていることが示されている。

甲第2号証は、被請求人である株式会社岡田組の「工事マスター一覧表」であり、次の事項が記載されている。
(2a)神戸市中央区小野浜町の「新港7突1号サイロ基礎杭撤去工事/神戸7突50」は平成10年6月10日に着工し、平成10年10月20日に完了したこと。
(2b)神戸市中央区小野浜町の「新港7突1号サイロ基礎杭撤去工事/神戸7突658」は平成10年7月18日に着工し、平成10年9月5日に完了したこと。

甲第3号証には、次の陳述事項が記載されている。
(3a)「平成10年5月、バイブロ工法による既設ペデスタル杭の引抜きの現場(神戸)を専務が受注しました。」(30頁下から2?1行)
(3b)「私は…これらをヒントに杭を掴む爪、すなわちチャック爪とデッコカンを…イメージしたところ、うっすら円弧状のカム溝が浮かび始め、…円弧状のカム溝を具体化させました(爪巾50ミリ・爪長さ390ミリ・カム溝巾は、40ミリのピンが入るように42ミリ・カム溝長さ19ミリ)。」(32頁9?17行)
(3c)「イ.平成10年6月5日の朝、森氏が、…爪4個と副資材(爪を接続するピン、ブラケット等)を注文しました。…注文をした後、森氏は、大正倉庫において、φ600の鋼管(長さ1m20cmくらい)を立てて、ガスで切断して、1つの縦穴を開け、カム溝の台座2枚に穴をあけて縦穴のほぼセンターにそれぞれ左右1枚ずつ溶接しました。同夕方頃、…カム溝の加工が施された爪6個とその他副資材を、…持ち帰り、その爪に1mくらいの鉄の棒を溶接した後、先に用意してあるケーシングにそれをセットし、ここに引き抜き装置の原型ができあがりました。」(33頁12?22行)
(3d)「チャック爪を稼動させる油圧シリンダーについては…ミニユンボのアーム部分のシリンダーを採用しましたが、ミニユンボ用のため油圧圧力が弱く、平成10年6月30日に専務の指示でワキタにて別途油圧シリンダーを調達しました。その際、連結ロッドは在庫品と坂本鋼材から調達し、止め金具は甲斐金物で、ケーシングは、…三共スチールで調達しました。この作業中に油圧シリンダーの上下運動を案内するカム溝を森氏が考案し取り付けました。」(34頁20行?35頁2行)
(3e)「開発の方は、その後も平成10年7月項から10月項までの間に、カム溝の改良を引き続いて6回ほど施した末、どうにか形になって行きました。」(35頁3?4行)
(3f)「第1回実験でφ430ペデスタル杭L=15mの施工を行った時、チャック爪と連結ロッドの接続部が蝶番のような動きにならず、杭の胴体を掴んだ時に、連結ロッドがその反力で外へ向いて折れ曲がる現象が起きた…。
その解決策としては、…1つであった関節をもう1つ追加して計2つの関節の仕組みとすることとし、これによって解決しました。そして、これにより略水平かつ垂直運動する運びとなりました(平成10年10月項)。」(35頁9?17行)
(3g)「ハ.第2回実験(守口)は、平成10年10月ころ、山王パイルの林氏から、…連絡が入りました。…
そこで私は、未完成の杭抜き装置をこの現場(守口)で実験的に使用することを決定し、段取りに取りかかりました。この実験現場は、アースオーガによる回転掘進実験であったため、チャック爪と連結ロッドをつないでいる関節部分がその回転摩擦により故障したので、回転方向に逆らうように保護用のカバーを工場の森氏が取り付けました。」(36頁1?11行)

甲第4号証には、証人の証言の一部として、次の陳述事項が記載されている。
(4a)平成10年に神戸市が発注する第7突堤のペデスタル杭の引き抜き現場を受注し、ペデスタル杭の引き抜く工法を社内で検討したこと(14頁21行?15頁3行)。
(4b)爪を垂直方向に突出させるとの提案、油圧シリンダーの力をロッドで下に伝える方法、油圧シリンダーをケーシングの上に抱かせること、爪にカム溝を設けることが提案されたこと(15頁4?末行)。
(4c)平成10年6月23日に第1回現場実験を行ったが、実施は成功とはいえなかったこと(17頁12?13行)。

甲第5号証には、次の陳述事項が記載されている。
(5a)「平成10年6月にバイブロ工法による既設ペデスタル杭の引抜きの現場(神戸)を私が受注しました。」(17頁15?16行)
(5b)「ケーシング内にチャック爪を突出させる為、円弧状のカム溝の打合せを、社長、市川氏とでして…円弧状のカム溝を具体化する為に、…爪巾50ミリ・爪長さ390ミリと決定し、カム溝巾は40ミリのピンが入るように42ミリとし、カム溝長さは190ミリとしました。」(19頁1?6行)
(5c)「1.平成10年6月5日朝、森氏が、…爪4個と副資材を注文しました。…注文をした後森氏は、…φ600の鋼管(長さ1m50cmくらい)を立て、1つの縦穴をガスで切断し、カム溝を誘導するためのブラケット(台座)2枚にボール盤で穴を開け、縦穴のほぼセンターにそれぞれ左右1枚ずつ溶接しました。
同夕方頃、…爪1個に1mくらいの鉄の棒を直接溶接した後、先に用意してあったブラケットの穴にカム溝を合わせました。
次にそれを固定させるために、40ミリのピンを向かって右側のブラケットの外穴から差し込みカム溝を通過させ、左側のブラケットの内側の穴から通し、ここに引き抜き装置の原型ができあがりました(図7)。」(19頁22行?20頁7行)
(5d)「チャック爪を稼動させる油圧ユニットは小坂氏に用意してもらい、油圧シリンダーについては、…ミニユンボのアーム部分のシリンダーを採用しましたが、ミニユンボ用のため油圧圧力が弱く、平成10年6月30日に私の指示でワキタにて別途油圧シリンダーを調達しました。その際連結ロッドは在庫品と坂元鋼材から調達し、止め金具は甲斐金物で、ケーシングは…三共スチールで調達しました。この作業中に油圧シリンダーの上下運動を案内するカム溝(図8の17、18)を森氏が考案し取り付けました。」(21頁5?12行)
(5e)「その後も平成10年7月項から10月項までの間に、カム溝の改良を引き続いて6回ほど施した末、どうにか形になって行きました。」(21頁13?14行)
(5f)「第1回実験(神戸)でペデスタル杭L=15mの施工を行った時、何本かではなく最初の1本目にチャック爪と連結ロッドの接続部が蝶番のような動きにならなかったのと、杭の先端を掴んだのではなく、連結ロッドが短尺で片側1本であったことから杭の胴体を掴んだ時に、連結ロッドがその反力で外へ向いて折れ曲がり、…片側であった連結ロッドと爪を両側(対角)に取り付け直し、2本の爪の仕組みにより引抜いたものであります。丁度、このときに並行して井上氏が予め会社から聞いていたユンボの関節の仕組みと自分のアイデアとをミックスして出来上がったものが、井上氏発案の2つの関節の仕組み(図9の14)であります。」(21頁19?末行)
(5g)「第2回実験(守口)は、山王パイルの林氏から、…連絡が入り施工しました。
…この実験現場は、アースオーガーによる回転掘進実験であったため、チャック爪と連結ロッドをつないでいる関節部分がその回転摩擦により故障したので、回転方向に逆らうように保護用のカバーを工場の森氏が取り付けました(図10)。」(22頁7?13行)

甲第6号証には、証人の証言の一部として、次の陳述事項が記載されている。
(6a)平成10年6月23日に神戸第7七突堤工事現場で、爪をケーシングに取り付けて実験をしたこと(6頁6?20行)。
(6b)6月23日の実験では、ファイ430のペデスタル杭だったが,実際の杭径がファイ580あったこと,使用したケーシングは600であったこと、ケーシングが思うように入っていかないという現象が生じたので、カム溝の付いた爪と連結ロッド,ユンボの油圧シリンダーをケーシングに取り付ける作業を行ったこと、杭はちぎれて抜けたこと(7頁12行?8頁21行)。
(6c)次に7月の末に実験を行ったこと、このときのケーシングはファイ800であったこと、杭はうまく抜けなかったこと(8頁22行?9頁5行)。
(6d)第1回目はちょうど17メーターのケーシングのちょうど真ん中ぐらいに爪の位置があったこと、第2回目は,連結ロッドを伸ばし、ケーシングの先端から3メーターぐらいの位置に爪の位置が来ていたこと、爪のすぐ上の関節部分が1関節であったこと(9頁6?17行)。
(6e)8月に実験を行ったこと、このときのケーシングはファイ700であったこと(9頁18?24行)。

甲第7号証には、証人の証言の一部として、次の陳述事項が記載されている。
(7a)平成10年頃、ペデスタル杭を引き抜く工事の見積もり依頼があり、爪を油圧シリンダーで開閉する方法を(株)武智工務所の特許公報の内容を参考にし、その不合理なところを解決するために油圧シリンダーをケーシング上部に取り付けることを提案したこと、爪に長い穴をあけて爪を滑らせて杭を掴む工法を考えたことが記載されている(8頁14?24行)。

甲第8号証には、証人の証言の一部として、次の陳述事項が記載されている。
(8a)平成10年頃、ペデスタル杭を引き抜く工事の見積もり依頼があっことを記憶していること、現場は神戸第7突堤の現場であったこと、爪で杭の底をつかむ装置を開発することになり、ケーシング上部に油圧シリンダーを取り付けること、油圧シリンダーの力をロッドで下に伝えることを提案したこと、専務が爪を垂直方向に動かすことを提案したこと、社長が爪に長い穴を設けることを提案したことが記載されている(5頁11行?6頁18行)。

甲第9号証には、次の陳述事項が記載されている。
(9a)第1回実験現場(神戸)のペデスタル杭の引抜現場では、油圧シリンダーの取り付け及び油圧の配管調整に関しては、小阪重機氏によって取り付け調整されたこと(3頁13?18行)。

甲第10号証には、証人の証言の一部として、次の陳述事項が記載されている。
(10a)平成10年6月10日ごろ、神戸市の第7突堤の工事現場を担当したこと(2頁20?末行)。
(10b)6月22日から杭の除去工事を行ったこと、当初は600のケーシングを用い、油圧装置と爪のない状態で行ったが、うまくいかなかったこと(3頁16?23行)。
(10c)現場で引抜き装置の実験を行ったこと、ケーシングに油圧装置、ロッド、カム溝の付いた爪を取り付けたこと、油圧の調整は小坂さんほかの方が行ったこと(4頁11?22行)。
(10d)6月23日に杭の引き抜きを実際に行ったこと、杭の太さは430に対して、(実際は)580あり、使用したケーシングの径は600で小さすぎたこと(5頁12行?6頁1行)。
(10e)完全に抜けたのは8月に入ってからであったこと(4頁9?10行)、ケーシングの太さを700に変え、爪の関節を2個にしてから完全に抜けたこと(6頁4?6行)。
(10f)乙第40号証の94ないし101は、神戸第7突堤工事の現場の写真であること、撮った時期は7月であること(6頁13?22行)。
(10g)乙第40号証の102は、爪の関節が2つあるから、8月に入ってから撮った写真であること(7頁5?12行)。

甲第11号証は、被請求人の地裁事件における代理人が提出した証拠説明書であり、乙第40号証の94、95、97ないし102は、平成10年7月頃、乙第40号証の96は、平成10年8月頃、いずれも被請求人の社員が撮影した写真であることが記載されている。

甲第13号証は、請求人が作成した「バイブロ仕様杭引き抜きケーシング先端チャック部」の図面であり、次の図が示されている。


第5 無効理由の判断
1.「神戸第7突堤工事」等で実施された発明
以上の甲第1号証ないし甲第11号証の記載事項を総合的に検討すると、「神戸第7突堤工事」等に関して、次のような事実が認められる。
(ア)被請求人は、平成10年6月「神戸第7突堤工事」の現場においてペデスタル杭の引き抜き工事に着工した(記載事項(2a)、陳述事項(5a)参照)。
ペデスタル杭は、直径430ミリとされているが、直径580ミリあった(陳述事項(6b)(10d)参照)。

(イ)被請求人は、爪を使用することなくバイブロ工法により既設のペデスタル杭の撤去する工法を施行したが、杭の先端を完全に撤去ができなかったため、油圧シリンダによる駆動でケーシング内に突出するように取付けられ、円弧状のカム溝を有するチャック爪を使用する装置を開発した。該チャック爪は、ケーシングに対し垂直方向に動くように取付けられるものであり、また、油圧シリンダはケーシングの上部に設けるものであり、油圧シリンダの力をロッドで下方のチャック爪に伝えるものである(陳述事項(3b)(3c)(4b)(5a)?(5c)(7a)(8a)参照)。

(ウ)被請求人は、平成10年6月23日に、神戸第7突提工事の現場において、直径600mmの円筒状のケーシングにチャック爪、杭の先端がちぎれてうまく引き抜くことができなかった(陳述事項(4c)(6a)?(6c)(10b)?(10d)参照)。チャック爪は17mのケーシングの真ん中ぐらいの位置にあり、また、チャック爪はロッドとは1関節で連結されていた(陳述事項(6d))。
この作業において、次の発明が実施されたと認められる。
「バイブロ工法で用いる打込機に連結され、既設のペデスタル杭の最大外径よりも大きい直径600mmの内径をもつ円筒状のケーシングと、このケーシングに、油圧シリンダによる駆動でケーシング内に突出するように取付けられたカム溝を有するチャック爪とを備えた既設杭の引抜き装置であって、
油圧シリンダはケーシングの上部に取付けられ、
チャック爪はケーシングの中ほどに取付けられ、
油圧シリンダのロッド端部に連結した連結ロッドに上記チャック爪を1関節で連結してあり、
チャック爪は円弧状のカム溝を有し、このカム溝を、ケーシングに溶接したブラケットに固定したピンに挿通しており、
上記油圧シリンダの縮小動作で上記連結ロッドが上昇することにより上記チャック爪が上記ケーシング外に退出し、上記油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することにより上記チャック爪がケーシング内に突出する既設杭の引抜き装置。」(以下「実施発明1」という。)

(エ)被請求人は、その後、カム溝の形状について様々な試作品を作り、同年7月末ごろケーシングを直径800mmのものに替えて、神戸第7突提工事の現場で、杭引き抜き作業を行ったが、この作業でも、うまく杭を引き抜くことができなかった(陳述事項(6c))。チャック爪の位置は17mのケーシングの下から3mぐらいであり、チャック爪はケーシング外に退出した際、略垂直姿勢となるものであった(甲第1号証の4、6、陳述事項(6c)(6d))。
この作業において、次の発明が実施されたと認められる。
「バイブロ工法で用いる打込機に連結され、既設のペデスタル杭の最大外径よりも大きい直径800mmの内径をもつ円筒状のケーシングと、このケーシングに、油圧シリンダによる駆動でケーシング内に突出するように取付けられたカム溝を有するチャック爪とを備えた既設杭の引抜き装置であって、
油圧シリンダは17mケーシングの上部に取付けられ、
チャック爪はケーシングの下から3m程度のところに取付けられ、
油圧シリンダのロッド端部に連結した連結ロッドに上記チャック爪を1関節で連結してあり、
チャック爪は円弧状のカム溝を有し、このカム溝を、ケーシングに溶接したブラケットに固定したピンに挿通しており、
上記油圧シリンダの縮小動作で上記連結ロッドが上昇することにより上記チャック爪が略垂直姿勢に退出し、上記油圧シリンダの油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することにより上記チャック爪がケーシング内に突出する既設杭の引抜き装置。」(以下「実施発明2」という。)

(オ)被請求人は、同年8月上記装置のケーシングを直径700mmのものに変更した(陳述事項(6e)(10e))。また、油圧シリンダの連結ロッドとチャック爪とを2関節で連結するように改良した(陳述事項(10e))。
この改良された装置を用い、杭の引き抜き作業を行ったところ、杭の引き抜き作業に成功した(陳述事項(10e))。
この作業において、次の発明が実施されたと認められる。
「バイブロ工法で用いる打込機に連結され、既設のペデスタル杭の最大外径よりも大きい直径700mmの内径をもつ円筒状のケーシングと、このケーシングに、油圧シリンダによる駆動でケーシング内に突出するように取付けられたカム溝を有するチャック爪とを備えた既設杭の引抜き装置であって、
油圧シリンダのロッド端部に連結した連結ロッドに上記チャック爪を2関節で連結してあり、
チャック爪は円弧状のカム溝を有し、このカム溝を、ケーシングに溶接したブラケットに固定したピンに挿通しており、
上記油圧シリンダの縮小動作で上記連結ロッドが上昇することにより上記チャック爪が略垂直姿勢に退出し、上記油圧シリンダの油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することにより上記チャック爪がケーシング内に突出する既設杭の引抜き装置。」(以下「実施発明3」という。)

(カ)さらに、被請求人は、同年10月頃、大阪府守口市内のNTTの現場でのペデスタル杭の撤去工事において、アースオーガを用いた装置の実験を行い、関節部分に保護カバーを付けた(陳述事項(3g)(5g))。
この作業において、次の発明が実施されたと認められる。
「アースオーガに連結されたケーシングと、このケーシングに、油圧シリンダによる駆動でケーシング内に突出するように取付けられたカム溝を有するチャック爪とを備えた既設杭の引抜き装置であって、
油圧シリンダのロッド端部に連結した連結ロッドに上記チャック爪を連結してあり、チャック爪と連結ロッドとの関節部分に保護用カバーを設けている既設杭の引抜き装置。」(以下「実施発明4」という。)

(キ)被請求人は、同年7月項から10月項までの間に、カム溝の改良を6回ほど施した(陳述事項(3e)(5e))。また、チャック爪と連結ロッドを2つの関節で連結する仕組みとし、同年10月頃、チャック爪が略水平姿勢と略垂直姿勢とにスムーズに運動する装置を開発した(陳述事項(3f))。

2.対比・判断
(1)本件発明と実施発明1との対比
まず、実施発明1が、「油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することによりチャック爪がケーシング内に略水平姿勢に突出する」ものであるか否かについて検討する。
実施発明1は、「油圧シリンダのロッド端部に連結した連結ロッドにチャック爪を1関節で連結」したものである。
甲第3号証には、チャック爪を連結ロッドと2関節で連結されるようにし、同年10月頃、チャック爪が略水平姿勢と略垂直姿勢とにスムーズに運動するようにしたこと(陳述事項(3f))が示されていることからみて、平成10年6月23日に実施された実施発明1において、チャック爪が略水平姿勢に突出するものであったとはいえない。
請求人も、甲第13号証として連結ロッドにチャック爪を1関節で連結した装置の爪の動作を提示し、連結ロッドにチャック爪を1関節で連結したものにおいては、油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降する際、チャック爪がケーシング内に「略水平姿勢」に突出することはないと主張している。
そうすると、実施発明1は、本件発明を特定するために必要な「油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することによりチャック爪がケーシング内に略水平姿勢に突出する」との事項を具備してるとはいえない。
したがって、本件発明が実施発明1であるとすることはできない。

(2)本件発明と実施発明2との対比
本件発明と実施発明2とを対比すると、実施発明2は、「油圧シリンダのロッド端部に連結した連結ロッドにチャック爪を1関節で連結」したものであり、実施発明1と同様に、本件発明を特定するために必要な「油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することによりチャック爪がケーシング内に略水平姿勢に突出する」との事項を具備してるとはいえない。
したがって、本件発明が実施発明2であるとすることはできない。

(3)本件発明と実施発明3との対比
実施発明3が、「油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することによりチャック爪がケーシング内に略水平姿勢に突出する」ものであるか否かについて検討する。
実施発明3は、「油圧シリンダのロッド端部に連結した連結ロッドにチャック爪を2関節で連結」したものである。
甲第3号証には、連結ロッドにチャック爪の連結を2つの関節の仕組みとすることによって杭の胴体を掴んだ時に、連結ロッドがその反力で外へ向いて折れ曲がる現象を解決したこと、及び、平成10年10月項、略水平かつ垂直運動するようになったことが示されている(陳述事項(3f))。
しかし、チャック爪がケーシング内にどの程度突出するかは、連結ロッドと2関節で連結されているだけでなく、連結ロッドの長さや関節部の長さ、チャック爪やカム溝の形状や取り付け位置等により異なるから、実施発明3のチャック爪が連結ロッドと2関節で連結されているとしても、チャック爪がケーシング内に略水平姿勢に突出するか否かは明らかでない。
そして、甲第3号証、甲第5号証には、チャック爪のカム溝は平成10年7月項から10月項までの間に6回ほど改良が施されたこと(陳述事項(3e)(5e))が示されていることを合わせ考慮すると、「神戸第7突堤工事」においては、チャック爪を連結ロッドと2関節で連結する仕組みとし、さらにカム溝を改良した結果、平成10年10月項に、チャック爪が上記ケーシング内に略水平姿勢に突出するようになったと認められる。
そうすると、平成10年8月に実施された実施発明3において、チャック爪が略水平姿勢に突出するものであったとはいえない。

請求人は、「神戸第7突堤工事」で用いられた爪は、甲第13号証のような状態でケーシング内部に入るものであり、このことは関節部の可動が1箇所であろうが2箇所であろうが同じである旨主張し(弁駁書10頁19?24行)、さらに平成19年12月19日付け上申書において、甲第16号証の1、2を提出し、甲第16号証の2は、「神戸第7突堤工事」で用いられた装置の全体図である旨主張している。
しかし、実施発明3は、チャック爪とロッドの関節部が2関節になっているものであるところ、甲第13号証、甲第16号証の2は、チャック爪とロッドの関節部が1関節であるから、実施発明3が、甲第13号証、第16号証の1、甲第16号証の2のとおりのものであったとすることはできない。
また、仮に実施発明3が、2関節であって、かつ甲第13号証のような状態でケーシング内部に入るものであったとしても、甲第13号証にはチャック爪が、ケーシング内部に略45度程度の角度で突出するものであることが示されており、チャック爪が略水平姿勢に突出するものではない。

したがって、実施発明3は、本件発明を特定するために必要な「油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することによりチャック爪がケーシング内に略水平姿勢に突出する」との事項を具備しているとはいえないから、本件発明が、実施発明3であるとすることはできない。

(4)本件発明と実施発明4との対比
実施発明4は、「油圧シリンダのロッド端部に連結した連結ロッドにチャック爪を連結」したものであるが、油圧シリンダーの取付位置や、チャック爪の形状、取り付け部の構造、連結ロッドとチャック爪を連結部の構成等が不明であり、本件発明を特定するに必要な事項を具備しているとはいえない。
仮に、実施発明4が実施発明3と同様に、油圧シリンダがケーシングの上部に取付けられ、油圧シリンダのロッド端部に連結した連結ロッドにチャック爪を2関節で連結してあり、チャック爪は円弧状のカム溝を有し、このカム溝を、ケーシングに溶接したブラケットに固定したピンに挿通している引抜き装置である場合について検討する。
上記のとおり、甲第3号証には、平成10年10月頃、チャック爪がケーシング内に略水平に突出するようになったことが示されている。しかし、その正確な日付は、請求人の提出した証拠からは明らかでない。
一方、実施発明4は、平成10年10月に実施されたことが示されているが、実施された日付は、請求人の提出した証拠からは明らかでなく、実施発明4のチャック爪が「ケーシング内に略水平姿勢に突出する」ように改良されたものであったとすることはできない。
したがって、本件発明が、実施発明4であるとすることはできない。

(5)その他の証拠方法
請求人が提出したその他の証拠方法には、実施発明1ないし4が、「油圧シリンダの伸長動作で連結ロッドが下降することによりチャック爪がケーシング内に略水平姿勢に突出する」との事項を具備していることは何ら示されていない。

3.判断のむすび
以上のとおり、本件発明は、本件出願前に、「神戸第7突堤工事」あるいは「大阪府守口市内のNTTの現場でのペデスタル杭の撤去工事」において実施された発明であるとすることはできないから、当該実施が公然と行われたものであるか否かについて検討するまでもなく、本件発明は、日本国内において、公然実施された発明であるとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-08 
結審通知日 2008-02-13 
審決日 2008-02-26 
出願番号 特願平10-330968
審決分類 P 1 113・ 112- Y (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 陽  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 家田 政明
岡田 孝博
登録日 2000-04-07 
登録番号 特許第3052135号(P3052135)
発明の名称 既設杭の引抜き装置  
代理人 木村 俊之  
代理人 鈴江 正二  
代理人 冨宅 恵  
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