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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服200520859 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1191939 |
審判番号 | 不服2005-3967 |
総通号数 | 111 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-03-07 |
確定日 | 2009-02-04 |
事件の表示 | 特願2001-331598「レチノイドとベンゾトリアゾールシリコーンを含む組成物、特に化粧組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月26日出願公開,特開2002-179545〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成13年10月29日(パリ条約による優先権主張2000年10月30日,フランス国)の出願であって,平成16年11月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対し平成17年3月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同年4月4日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成17年4月4日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年4月4日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願発明 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は, 「生理的に許容される媒体中に,少なくとも一のレチノイドと,少なくとも一のベンゾトリアゾールシリコーンを含む組成物であって,該ベンゾトリアゾールシリコーンは,以下の式: 式(1)(略) 又は 式(2)(略) [式(1)及び(2)において, -Rは,同一又は異なって,C_(1)-C_(10)アルキル,フェニル,3,3,3-トリフルオロプロピル基から選ばれるが,R基の数の少なくとも80%がメチルであり, -rは0乃至50の整数であり,sは1乃至20の整数であり, -uは1乃至6の整数であり,tは0乃至10の整数であり,t+uは3以上であり, -記号Aは,以下の式(3): 式(3)(略) (式(3)中, -Yは同一又は異なってC_(1)-C_(8)アルキル基,ハロゲン及びC_(1)-C_(4)アルコキシ基であるが,C_(1)-C_(4)アルコキシ基の場合,同じ芳香族核の2つの隣接Y基は,一緒になって,アルキリデン基が1乃至2の炭素原子を含むアルキリデンジオキシ基を形成することができ, -XはO又はNHを表し, -Zは水素又はC_(1)-C_(4)アルキル基を表し, -nは0乃至3の整数であり, -mは0又は1であり, -pは1乃至10の整数を表す) に相当する,ケイ素原子に直接結合された一価の基を表す]の一に相当するベンゾトリアゾールから選ばれるものである組成物であり, ただし, ・以下の式: 式(略) (式中,nは0から5までの範囲の整数であり, n’は1から16までの範囲の整数であり, Rはアミノ酸の側鎖を示し,Xは式:-CO-,-O-CO-,-NH-CO-,-SO_(2)-,-NH-CO-CO-,-O-CO-CO-で表される基から選択された基を示し, R’は直鎖又は分岐で,飽和又は不飽和で,ヒドロキシル化された又はヒドロキシル化されていない,C_(6)-C_(22)アルキル基又はC_(6)-C_(22)アミノアルキル基を示し,該アミン官能基はアセタミドの形態で保護されているか又は保護されていないか,又は,1又は2の低級アルキル基で置換されており, ただし,X=-CO-の場合,R’は上記で定めたアミノアルキル基であり, Q^(+)はH^(+)又は有機又は無機カチオンを示す)で表されるヒスチジン誘導体並びに有機又は無機酸との前記ヒスチジン誘導体の付加塩; ・(A)(i)ポリアルキレンポリアミン; (ii)ポリアルキレンポリアミンのアルキル化誘導体; (iii)ポリアルキレンポリアミンにアルキルカルボン酸を付加した生成物; (iv)ポリアルキレンポリアミンにケトンを,および,アルデヒドを付加した生成物; (v)ポリアルキレンポリアミンにイソシアナートを,およびイソチオイアナートを付加した生成物; (vi)ポリアルキレンポリアミンにアルキレンオキシドを,または,ポリアルキレンオキシドブロックポリマーを付加した生成物; (vii)ポリアルキレンポリアミンの4級化誘導体; (viii)ポリアルキレンポリアミンにシリコーンを付加した生成物; (ix)ポリアルキレンポリアミンおよびジカルボン酸のコポリマーから選択されるポリアルキレンポリアミンまたはその誘導体の1つ; (B)ポリビニルイミダゾール; (C)ポリビニルピリジン; (D)ポリアルキレンポリアミン(A)(i)から(A)(ix)までに以下の式: 式(略) (式中,R基は,同一でも異なっていてもよく,H,または直鎖または環状の,飽和または不飽和のC_(1)-C_(6)アルキル基を示し,nは1から3の整数を示す)の1-ビニルイミダゾールモノマーを付加した生成物; (E)塩基性側鎖を含むアミノ酸をベースとしたポリマー; (F)ポリマー(A)(i)から(A)(ix),(B),(C),(D),および(E)の架橋誘導体から選ばれるポリアミンポリマー;及び ・ブチルヒドロキシトルエン,ブチルヒドロキシアニソール,α,β,γ,δ-トコフェロール,ノルジヒドログアヤレチン,没食子酸プロピル,ビタミンC脂肪酸エステル,ソルビン酸から選ばれる油溶性抗酸化剤; を含まない組成物。」と補正された。 上記補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項として「ただし,・・・を含まない」という限定事項を付加するものであって,平成18年改正前特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,補正後の請求項1に記載した発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。 (2)引用例の主な記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先件主張の日前に頒布されたことが明らかな特開平2-142713号公報(以下,「引用例A」という。)には,次の事項が記載されている。 a-1.「ビタミンA酸と,紫外線吸収剤の一種又は二種以上とを含有することを特徴とする皮膚外用剤。」(特許請求の範囲) a-2.「ビタミンA酸は,上皮組織の正常の分化を調節するのに本質的な役割を演じているビタミンAの活性型として知られており,角化症の治療薬として,また皮膚の表皮に局部適用してコラーゲン線維の損失,異常な弾性線維の過剰生成を抑制し,真皮結合組織の日光障害を修復して光による皮膚の加齢変化を回復または防止する作用のある物質として注目されている。」(公報1頁左下欄下から6行?右下欄2行) a-3.「しかしながらビタミンA酸は構造的にきわめて不安定であり,光,空気,熱,酸,金属イオン等により容易に種々の異性化,分解,重合等を起こすため,安定に皮膚外用剤に配合することが難しく,特に表皮への塗布後の光劣化による効力の減少が問題であった。」(公報1頁右下欄3行?8行) a-4.「本発明者等は,このような事情に鑑み,真に優れたビタミンA酸の効能を発揮する皮膚外用剤を得るべく鋭意研究を重ねた結果,ビタミンA酸と紫外線吸収剤とを組み合わせることによってビタミンA酸の安定性が高められ,その効能発現が著しく改良されることを見出し,本発明を完成するに至った。」(公報1頁右下欄10行?16行) a-5.「本発明に係る皮膚外用剤に配合される紫外線吸収剤は従来皮膚外用剤に汎用されている任意の紫外線吸収剤とすることができ,かかる紫外線吸収剤の代表的な化合物を例示すれば以下のとおりである。 (イ)安息香酸系紫外線吸収剤 ・・・・ (ロ)アントラニル酸系紫外線吸収剤 ・・・・ (ハ)サリチル酸系紫外線吸収剤 ・・・・ (ニ)桂皮酸系紫外線吸収剤 ・・・・ (ホ)ベンゾフェノン系紫外線吸収剤 ・・・・ (ヘ)シリコーン系桂皮酸誘導体紫外線吸収剤 ・・・・ (ト)その他の紫外線吸収剤 ・・・・」(公報2頁左上欄下から10行?3頁左上欄7行) a-6.「本発明の皮膚外用剤には上記した必須成分の他に通常化粧品やい薬品等の外用剤に用いられる他の成分,例えば油分,湿潤剤,酸化防止剤,界面活性剤,防腐剤,保湿剤,香料,水,アルコール,増粘剤,色剤,粉末,薬剤等を必要に応じて適宜配合することができる。」(公報3頁左上欄下から4行?右上欄2行) 同じく,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先件主張の日前に頒布されたことが明らかな特開平2-282319号公報(以下,「引用例B」という。)には,次の事項が記載されている。 b-1.「式: 式(略) ・・・のベンゾトリアゾール官能基をもつジオルガノポリシロキサンであって・・・であるジオルガノポリシロキサンを化粧品中に使用すること。」(特許請求の範囲の請求項1) b-2.「本発明者は,ベンゾトリアゾール官能基をもつある種のジオルガノポリシロキサンが,280?360nmの広い波長範囲における良好な濾光特性を伴う良好な化粧品特性を驚くべきほどに示すことを見出した。このジオルガノポリシロキサンは特に優れた脂肪溶解性を示し,そのために,化粧品中で用いる油溶性媒体中での使用が可能となる。ベンゾトリアゾール官能基をもつこのジオルガノポリシロキサンは,その良好な濾光能力ならびに油脂性物質および通常の化粧品溶媒中への良好な溶解性に加えて,優れた化学的および光化学的安定性を示し,かつこれが十分に許容される皮膚および毛髪に対して柔らかさを与える。」(公報5頁左上欄3行?15行) 同じく,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先件主張の日前に頒布されたことが明らかな特開平6-32717号公報(以下,「引用例C」という。)には,次の事項が記載されている。 c-1.「ビタミンAおよび/またはその脂肪酸エステルの一種または二種以上と共に,水溶性ベンゾフェノン系化合物の一種または二種以上を配合したことを特徴とする皮膚外用剤」(特許請求の範囲) c-2.「本発明に用いられる水溶性ベンゾフェノン系化合物としては2-ヒドロキシー4-メトキシベンゾフェノンー5-スルホン酸(以下ベンゾフェノンー4)およびその塩,2-ヒドロキシー4-メトキシベンゾフェノンー5-スルホン酸ナトリウム(以下ベンゾフェノンー5)2,2-ジヒドロキシー4,4’-ジメトキシベンゾフェノンー5,5’-ジスルホン酸ジナトリウム(以下ベンゾフェノンー9)などが例示される。」(公報段落番号[0009]) c-3.実施例1として水溶性のベンゾフェノンー5を配合した場合,ビタミンAのエステルである酢酸レチノールの含有量が調製直後を100としたときに,40℃で1ヵ月保管後も97のレベルに維持されたことが示される一方,比較例1として,油溶性のベンゾフェノン系の紫外線吸収剤であるベンゾフェノンー3を用いた場合,酢酸レチノールの含有量が調製直後を100とした場合,40℃で1ヵ月保管後に67まで低下したことが示されている。(公報段落番号[0014](表1)) 同じく,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先件主張の日前に頒布されたことが明らかな特開平6-32713号公報(以下,「引用例D」という。)には,次の事項が記載されている。 d-1.「ビタミンAおよび/またはその脂肪酸エステルの一種または二種以上と共に,(A)ブチルヒドロキシトルエン(以下BHTと略する。),ブチルヒドロキシアニソール(以下BHAと略する。),α,β,γ,δ-トコフェロール,ノルジヒドログアヤレチン,没食子酸プロピル,ビタミンC脂肪酸エステル,ソルビン酸からなる群から選ばれる油溶性抗酸化剤の一種または二種以上,(B)エチレンジアミン四酢酸塩の一種または二種以上,(C)ベンゾフェノン系化合物の一種または二種以上,を配合したことを特徴とする皮膚外用剤。」(特許請求の範囲) d-2.実施例4として,酢酸レチノールに対して,油溶性抗酸化剤としてのdl-αートコフェロール,エチレンジアミン四酢酸塩としてのエデト酸三ナトリウム,(C)成分としてのベンゾフェノンー2を配合した場合,ビタミンAのエステルである酢酸レチノールの含有量が調製直後を100%としたときに,40℃で2ヵ月保管後も99%のレベルに維持されたことが示される一方,比較例4として,ビタミンAであるレチノールに対してベンゾフェノンー2および上記(A)成分は配合するものの,上記(B)成分にあたるものは配合しなかった場合,レチノールの含有量が調製直後を100%としたときに,40℃で2ヵ月保管後に22%まで低下したことが示されている。(公報段落番号[0021](表2)) 同じく,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先件主張の日前に頒布されたことが明らかな特開平6-32714号公報(以下,「引用例E」という。)には,次の事項が記載されている。 e-1.「ビタミンAおよび/またはその脂肪酸エステルの一種または二種以上と共に,(A)ブチルヒドロキシトルエン(以下BHTと略する。),ブチルヒドロキシアニソール(以下BHAと略する。),α,β,γ,δ-トコフェロール,ノルジヒドログアヤレチン,没食子酸プロピル,ビタミンC脂肪酸エステル,からなる群から選ばれる油溶性抗酸化剤の一種または二種以上,(B)アスコルビン酸,アスコルビン酸塩,イソアスコルビン酸,イソアスコルビン酸塩,ソルビン酸,ソルビン酸塩の一種または二種以上,(C)ベンゾフェノン系化合物の一種または二種以上,を配合したことを特徴とする皮膚外用剤。」(特許請求の範囲) e-2.実施例1として,ビタミンAの酢酸エステルである酢酸レチノールに対して,油溶性抗酸化剤としてのBHT,(B)成分としてのソルビン酸,および(C)成分として油溶性のベンゾフェノンー3を配合した場合,酢酸レチノールの含有量が調製直後を100%としたときに,40℃で2ヵ月保管後も97%のレベルに維持されたことが示される一方,比較例4として,レチノールに対してベンゾフェノンー2および(A)成分にあたるものは配合するものの,上記(B)成分にあたるものは配合しなかった場合,レチノールの含有量が調製直後を100%としたときに,40℃で2ヵ月保管後に41%まで低下したことが示されている。(公報段落番号[0017](表1)、[0021](表2)) 同じく,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先件主張の日前に頒布されたことが明らかな特開2000-7560号公報(以下,「引用例F」という。)には,次の事項が記載されている。 f-1.「ビタミンA,レチナール,およびビタミンAの生体変換可能な前駆体から選択される少なくとも1つのレチノイドと,以下の式(I): 式(I)(略) (式中,nは0から5までの範囲の整数であり, n’は1から16までの範囲の整数であり, Rはアミノ酸の側鎖を示し, Xは式:-CO-,-O-CO-,-NH-CO-,-SO_(2)-,-NH-CO-CO-,-O-CO-CO-で表される基から選択された基を示し, R’は直鎖又は分岐で,飽和又は不飽和で,任意にヒドロキシル化された,C_(6)からC_(22)アルキル基又はC_(6)からC_(22)アミノアルキル基を示し,該アミン官能基はアセタミドの形態で保護されているか,または,1または2の低級アルキル基で置換されており, ただし,X=-CO-の場合,R’は上記で定めたアミノアルキル基であり, Q^(+)はH^(+)又は有機または無機カチオンを示す)で表される少なくとも1つのヒスチジン誘導体並びに有機又は無機酸との式(I)の化合物の付加塩とを含んで成ることを特徴とする配合物。」(特許請求の範囲,請求項1) f-2.「本発明は,レチノイドファミリーの少なくとも1つの化合物を含有する,新規な化粧品および/または皮膚科学用組成物,特にスキンケア用組成物に関する。より詳細には,本発明は,少なくとも1つのヒスチジン誘導体およびレチノイドファミリーの少なくとも1つの化合物を含んで成る安定な組成物に関する。」(公報段落番号[0001]) f-3.「レチノイドと式(I)のヒスチジン誘導体以外に,本発明による配合物は,優位には,少なくとも1つのサンスクリーン剤をさらに含有する。サンスクリーン剤の添加によって,ポリアミノポリマーとレチノイドとの配合物の安定性を強化することが可能であり,その一方,レチノイドの紫外線ダメージ作用を制限可能である。このような成分は,UVAおよび/またはUVBに活性な親水性または親油性サンスクリーン剤ファミリーから選択可能である。たとえば,ケイヒ酸誘導体,・・・,ベンゾフェノン誘導体,・・・,WO-93-04665に記載のスクリーニングポリマーおよびスクリーニングシリコーン,・・・が挙げられる。」(公報,段落番号[0046]) 同じく,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先件主張の日前に頒布されたことが明らかな特開平10-330245号公報(以下,「引用例G」という。)には,次の事項が記載されている。 g-1.「ビタミンA,およびビタミンAの生体変換可能な前駆体から選択される少なくとも1つのレチノイドと, (A)(i)ポリアルキレンポリアミン; (ii)ポリアルキレンポリアミンのアルキル化誘導体; (iii)ポリアルキレンポリアミンにアルキルカルボン酸を付加した生成物; (iv)ポリアルキレンポリアミンにケトンを,および,アルデヒドを付加した生成物; (v)ポリアルキレンポリアミンにイソシアナートを,およびイソチオシアナートを付加した生成物; (vi)ポリアルキレンポリアミンにアルキレンオキシドを,または,ポリアルキレンオキシドブロックポリマーを付加した生成物; (vii)ポリアルキレンポリアミンの4級化誘導体; (viii)ポリアルキレンポリアミンにシリコーンを付加した生成物; (ix)ポリアルキレンポリアミンおよびジカルボン酸のコポリマーから選択されるポリアルキレンポリアミンまたはその誘導体の1つ; (B)ポリビニルイミダゾール; (C)ポリビニルピリジン; (D)ポリアルキレンポリアミン(A)(i)から(A)(ix)までに式(I): 式(I)(略) (式中,R基は,同一でも異なっていてもよく,H,または直鎖または環状の,飽和または不飽和のC1-C6アルキル基を示し,nは1から3の整数を示す)の1-ビニルイミダゾールモノマーを付加した生成物; (E)塩基性側鎖を含むアミノ酸をベースとしたポリマー; (F)ポリマー(A)(i)から(A)(ix),(B),(C),(D),および(E)の架橋誘導体から選択される少なくとも1つのポリアミンポリマーとを含んで成る配合物。」(特許請求の範囲,請求項1) g-2.「本発明は,レチノイドファミリーの少なくとも1つの化合物を含有する,新規な化粧品および/または皮膚科学用組成物,特にスキンケア用組成物に関する。より詳細には,本発明の主題は,少なくとも1つのポリアミンポリマーおよびレチノイドファミリーの少なくとも1つの化合物を含んで成る安定な組成物である。」(公報,段落番号[0001]) g-3.「レチノイドおよびポリアミンポリマーに加えて,本発明による配合物はより優位には,少なくとも1つのサンスクリーン剤をさらに含有する。サンスクリーン剤の添加によって,ポリアミンポリマーとレチノイドとの配合物の安定性を強化することが可能であり,その一方,レチノイドの紫外線ダメージ作用を制限可能である。このような成分は,UVAおよび/またはUVBに活性な親水性または親油性サンスクリーン剤ファミリーから選択可能である。たとえば,ケイヒ酸誘導体,・・・,ベンゾフェノン誘導体,・・・,WO-93-04665に記載のスクリーニングポリマーおよびスクリーニングシリコーン,・・・が挙げられる。」(公報,段落番号[0057]) (3)対比 引用例Aには.「ビタミンA酸と,紫外線吸収剤の一種又は二種以上とを含有することを特徴とする皮膚外用剤。」(以下,「引用発明」という。)が記載されている(上記a-1.)。ここで,「ビタミンA酸」はレチノイン酸とも呼ばれ,レチノイドに包含されるものであり,皮膚外用剤は通常生理的に許容される媒体を含有する(上記a-6.)ものであるから,本願補正発明と引用発明とを対比すると,両者は,「生理的に許容される媒体中に,少なくとも一のレチノイドと,少なくとも一の紫外線吸収剤を含む組成物」である点で一致し,一方,前者においては,該紫外線吸収剤が,特定のベンゾトリアゾールシリコーンであるのに対して,後者においてはとくに限定がない点で相違する。 (4)当審の判断 そこで,この相違点について以下に検討する。 レチノイドが,皮膚の加齢変化を回復又は防止する等の有効な作用を有する(上記a-2.)ものの,構造的に極めて不安定であり,光,空気,熱,酸,金属イオン等により容易に分解すること(上記a-3.)は広く知られており,この不安定さの問題を解決する方法として,引用発明は,紫外線吸収剤を配合するものである。 ところで,皮膚化粧品用紫外線吸収剤として代表的なベンゾフェノンー2やベンゾフェノンー3は,それ単独ではレチノイドの残存量を大きく減少させたり(上記c-3.比較例),抗酸化剤とともに配合しても,レチノイドの残存量を大きく減少させる(上記d-2.比較例およびe-2.比較例)ことが知られており,この問題を解決するために,紫外線吸収剤として知られているもののなかからレチノイドを分解する作用を有しないものを選択すること(引用例C)や,紫外線吸収剤のレチノイド分解作用を抑える成分を配合させること(引用例D,E)が試みられてきた。 そうすると,引用発明の紫外線吸収剤として,紫外線吸収剤として知られているもののなかからそれ単独でレチノイドを分解することなくレチノイドを安定化できるものを選択しようとすることは,当業者が当然行うべきことである。 一方,引用例Bには,特定の構造を有するベンゾトリアゾール官能基をもつジオルガノポリシロキサンを化粧品中に使用すること(上記b-1.),このジオルガノポリシロキサンは,優れた脂肪溶解性を示し,良好な濾光能力ならびに油脂性物質および通常の化粧品溶媒中への良好な溶解性に加えて,優れた化学的および光化学的安定性を示すこと(上記b-2.)が記載されている。 そして,この特定の構造を有するベンゾトリアゾール官能基をもつジオルガノポリシロキサンは,本願補正発明のベンゾトリアゾールシリコーンと重複するものである。 また,引用例Bに記載のジオルガノポリシロキサンは,引用例FおよびGに,レチノイドを必須成分とするスキンケア用組成物において,任意添加成分であるサンスクリーン剤すなわち紫外線吸収剤の具体例として挙げられているものである(上記f-3.およびg-3.)。 そうすると,皮膚化粧品用の成分として優れた性質を有し,しかも,優れた化学的および光化学的安定性を示す,すなわち,それ自体が安定でありレチノイドと併用してもレチノイドを分解しないであろうことが予想され,さらに引用例F,Gにおいて,レチノイドを必須成分とするスキンケア用組成物への併用が記載されている,引用例Bに記載されたベンゾトリアゾール官能基をもつジオルガノポリシロキサンを,引用発明の紫外線吸収剤として選択することは,当業者が容易に想到し得ることである。 そして,ベンゾトリアゾールシリコーンをレチノイドに配合することによる効果についても,本願明細書に記載されている「実施例1」(製造例)および「実施例2」(評価の結果)では,ベンゾトリアゾールシリコーンを配合した場合(組成物B)にレチノールの重量%濃度が調整直後0.106%だったものが,2ヵ月間45℃で保存した後に,0.103%であったのに対して,ベンゾトリアゾールシリコーンを配合しなかった場合(組成物A)では調製直後0.108%だったものが,2ヵ月間45℃で保存した後に,0.102%であったことを示すにすぎないものであり,当業者の予測できないものとはいえない。 したがって,本願補正発明は,引用例A?Gに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について 平成17年4月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下,「本願発明」という。) 「【請求項1】生理的に許容される媒体中に,少なくとも一のレチノイドと,少なくとも一のベンゾトリアゾールシリコーンを含む組成物であって,該ベンゾトリアゾールシリコーンは,以下の式: 式(1)(略) 又は 式(2)(略) [式(1)及び(2)において, -Rは,同一又は異なって,C_(1)-C_(10)アルキル,フェニル,3,3,3-トリフルオロプロピル基から選ばれるが,R基の数の少なくとも80%がメチルであり, -rは0乃至50の整数であり,sは1乃至20の整数であり, -uは1乃至6の整数であり,tは0乃至10の整数であり,t+uは3以上であり, -記号Aは,以下の式(3): 式(3)(略) (式(3)中, -Yは同一又は異なってC_(1)-C_(8)アルキル基,ハロゲン及びC_(1)-C_(4)アルコキシ基であるが,C_(1)-C_(4)アルコキシ基の場合,同じ芳香族核の2つの隣接Y基は,一緒になって,アルキリデン基が1乃至2の炭素原子を含むアルキリデンジオキシ基を形成することができ, -XはO又はNHを表し, -Zは水素又はC_(1)-C_(4)アルキル基を表し, -nは0乃至3の整数であり, -mは0又は1であり, -pは1乃至10の整数を表す) に相当する,ケイ素原子に直接結合された一価の基を表す]の一に相当するベンゾトリアゾールから選ばれるものである組成物。」 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及びその主な記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は,前記2で検討した本願補正発明を特定するために必要な事項である「ただし,・・・を含まない」という限定事項を除いたものである。 そうすると,本願発明に含まれる本願補正発明が,前記「2.(4)」に記載したとおり,引用例A?Gに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例A?Gに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり,本願発明は,引用例A?Gに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-09-03 |
結審通知日 | 2008-09-09 |
審決日 | 2008-09-24 |
出願番号 | 特願2001-331598(P2001-331598) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 胡田 尚則、福井 美穂 |
特許庁審判長 |
塚中 哲雄 |
特許庁審判官 |
谷口 博 弘實 謙二 |
発明の名称 | レチノイドとベンゾトリアゾールシリコーンを含む組成物、特に化粧組成物 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 志賀 正武 |