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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1192183
審判番号 不服2007-27961  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-11 
確定日 2009-02-05 
事件の表示 特願2002-311697「光学素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月25日出願公開、特開2003-207644〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成14年10月25日の出願であって、平成19年6月4日付け拒絶理由通知に対して、同年8月3日付けで手続補正がされたが、同年9月6日付けで拒絶査定され、これに対し、同年10月11日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年11月12日に手続補正がなされたものである。

第2 平成19年11月12日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年11月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
(以下、下線は当審で付加したものである。)

1.本件補正前及び本件補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲内でなされたものである。

特許請求の範囲の補正のうち、請求項1の補正(以下「補正1」という)について検討する。
補正1は、本件補正前の、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向能を有する基材を調製する工程と、
前記基材上に少なくとも重合性液晶材料を含む液晶層形成用組成物を積層し、所定の液晶規則性を有する液晶層を形成する工程と、
前記液晶層に活性放射線を照射して、光学機能層とする光学機能層形成工程と、
前記光学機能層を形成した後に、光学機能層に対して液晶層を重合(架橋)させる前の等方相を呈する温度以上の温度で熱処理を行う熱処理工程と、
前記の光学機能層形成工程の後、前記配向能を有する基材上に形成された光学機能層を被転写材上に転写する転写工程と、
を含んでなることを特徴とする光学素子の製造方法。」

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向能を有する基材を調製する工程と、
前記基材上に少なくとも重合性液晶材料を含む液晶層形成用組成物を積層し、所定の液晶規則性を有する液晶層を形成する工程と、
前記液晶層に活性放射線を照射して、光学機能層とする光学機能層形成工程と、
前記光学機能層を形成した後に、光学機能層に対して液晶層を重合(架橋)させる前の等方相を呈する温度以上の温度で熱処理を行う熱処理工程と、
前記の光学機能層形成工程の後、前記配向能を有する基材上に形成された光学機能層を被転写材上に転写する転写工程と、
を含んでなり、
前記配向能を有する基材が延伸フィルムであり、
前記熱処理工程の温度範囲が、80℃?120℃である、ことを特徴とする、光学素子の製造方法。」(以下、この発明を「本願補正発明」という。)
と補正するものである。

前記補正1は、以下の補正からなる。

(1) 本件補正前の「配向能を有する基材」を、「延伸フィルム」に限定する補正。

(2) 本件補正前の「熱処理工程」の「温度範囲」を「80℃?120℃」に限定する補正。

したがって、補正1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-349947号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

記載事項ア
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は光硬化型液晶性組成物および当該組成物から形成される液晶フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】光硬化型液晶性物質は、ポリマーネットワーク液晶を用いた光拡散型ディスプレイ、ポリマー安定化強誘電性液晶ディスプレイなどの能動素子、光重合誘発型液晶相分離フィルム、あるいは光硬化により耐久性を高めた各種光学フィルム等への応用が近年報告され、その需要は高まり、またその光学的な性質や物性にも注目されている(J.L.Fergason et.al.,SID Dig.Tech.Paper,16,68(1985),P.S.Drzaic,J.Appl.Phys.,60,2142(1986),T.Fujisawaet.al.,1989 Japan Display,690(1989)など)。ここで上記光学フィルムとは、光硬化型液晶性物質を配向形成・光硬化後に当該液晶性物質層に基づく特異な光学的特性を発現するフィルムである。」

記載事項イ
「【0024】次いで液晶物質について説明する。液晶物質としては、特に限定されるものではなく、例えばネマチック液晶、カイラルネマチック液晶、スメクチック液晶、カイラルスメクチック液晶、ディスコチックネマチック液晶、カイラルディスコチックネマチック液晶、ディスコチックカラムナー液晶、カイラルディスコチックカラムナー液晶などの液晶性を呈する低分子液晶および/または高分子液晶が挙げられる。なお本発明でいう液晶物質とは、1種単独の液晶化合物および少なくとも2種以上の液晶化合物からなる液晶性組成物を意味するものである。また液晶化合物としては、例えば二量体、三量体乃至数量体のいわゆるオリゴマーや重合体物をも本発明では包含する。また液晶物質中に、例えばアクリル基、メタクリル基、ビニル基、アリル基、フタルイミド基などの光重合性官能基を有するか否かについても特に制限されるものでもない。さらに光重合性官能基を有する液晶物質を用いる場合および/または後述にて説明する任意成分である非液晶性の光重合性化合物を配合する場合、本発明の光硬化性液晶性組成物に占める光重合性官能基としては、光重合性官能基等量として通常10mmol/g以下、好ましくは0.01?5mmol/g、さらに好ましくは0.1?3mmol/gとなるように上述にて説明した一般式1で表される非液晶性化合物との組成比を調整することが望ましい。
【0025】上記低分子液晶として具体的には、液晶性が既知である例えばビフェニル誘導体、フェニルベンゾエート誘導体、スチルベン誘導体など広く知られているカラミティック(棒状)液晶化合物、トリフェニレン誘導体、トルクセン誘導体などのディスコティック(円盤状)液晶化合物等を基本骨格としたものが挙げられる。また高分子液晶としては、例えば液晶性ポリエステルに代表される縮合系高分子液晶、ビニル重合系高分子液晶、ポリシロキサン系高分子液晶、エポキシ系高分子液晶などを例示として挙げることができる。また液晶物質としては、ライオトロピック性またはサーモトロピック性のどちらを用いることができるが、サーモトロピック性を示すものがフィルム化プロセスなどの面でより好適である。以上説明した、一般式1で表される非液晶性化合物および液晶物質とから少なくとも本発明の光硬化型液晶性組成物を得ることができる。
【0026】また当該組成物としては、最終的に得られる組成物が、光硬化性および液晶性を示すものであれば、必要に応じて任意成分として一般式1で表される非液晶性化合物以外の非液晶性を示す光重合性物質、光反応開始剤などを適宜配合することができる。光重合性物質としては、光照射を行うことにより重合・硬化しうるアクリル基、メタクリル基、ビニル基、アリル基、フタルイミド基などの官能基を有する非液晶性化合物または非液晶性組成物を意味し、その構造・組成比などについては特に制限されるものではない。光重合性物質を配合する場合、本発明の組成物に対して通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは5?30重量%で配合することができる。」

記載事項ウ
「【0029】以上説明した光硬化型液晶性組成物は、配向基板または配向膜と当該組成物から形成される光硬化後の液晶層との密着性を改良できるという、これまでの光硬化型液晶では得ることが困難であった効果を有するものである。したがって本発明の光硬化型液晶性組成物を用いて液晶フィルムを作成した際には、上記密着性に優れた当該フィルムを得ることができる。
【0030】本発明の液晶フィルムは、支持フィルムまたは配向膜を有する支持フィルムに配し、熱処理、光照射工程を踏んで得ることが望ましい。支持フィルムとしては、液晶配向用フィルムとして利用できるフィルムであれば特に限定されるものではないが、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポレケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロース、表面鹸化処理を施したトリアセチルセルロース、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などのプラスチックフィルムおよび当該フィルムに直接ラビング処理を施したラビングプラスチックフィルムが挙げられる。
【0031】上記支持フィルムには、必要に応じて一軸または二軸延伸操作を適宜加えても良い。・・・」

記載事項エ
「【0035】次いで上記の如き支持フィルム上または配向膜上に光硬化型液晶性組成物を配する方法について説明する。当該方法としては、光硬化型液晶性組成物の溶液を調整して行う溶液塗布を好適な方法として本発明では推奨する。ここで当該組成物を溶解することができる溶剤としては、本発明の光硬化型液晶性組成物の特性を損なうことなく溶解することができ、塗布した際に支持フィルムまたは配向膜の配向能を侵すことがなく、さらには乾燥によって溶剤成分を除去できるものであれば特に限定されない。・・・」

記載事項オ
「【0040】塗布・乾燥工程の段階は、まず支持フィルム上に均一に光硬化型液晶性組成物層を形成させることが目的であるが、該光硬化型液晶性組成物の種類によっては、溶剤が除去される温度でサーモトロピックに、または溶剤が除去される過程においてライオトロピックに配向が完了している場合もあり得る。しかしながら、通常、液晶を配向させるために、またはより均一な配向状態を得るために、次の熱処理工程を行うことが本発明においては望ましい。
【0041】熱処理は、光硬化型液晶性組成物の液晶転移点以上の温度で行う。すなわち該光硬化型液晶性組成物の液晶状態で配向させるか、または、一旦液晶相を呈する温度範囲よりもさらに高温の等方性液体状態にした後、液晶相を呈する温度範囲にまで温度を下げることにより行う。液晶相を呈する温度範囲内で温度を変化させる方法も採用することができる。例えば、同じネマチック相を呈する温度範囲内で、高温で熱処理し、液晶を概ね配向させた後、温度を下げることによって液晶配向の秩序度を増す方法、またはネマチック相を呈する温度で熱処理しネマチック配向させた後、温度を下げてスメクチック相などのより高次の液晶相で配向させる方法なども本発明では用いることができる。
【0042】熱処理温度は、光硬化型液晶性組成物の組成比および当該組成物を構成する液晶物質の種類によって異なるため一概には言えないが、通常40℃?220℃、好ましくは50℃?180℃、さらに好ましくは60℃?160℃の範囲で行われる。」

記載事項カ
「【0044】熱処理終了後、光照射を行うことによって、液晶状態において形成した配向状態を固定化した液晶フィルムを得ることができる。光照射に用いられる光の波長は特に限定されず、電子線、紫外線、可視光線、赤外線(熱線)を必要に応じて用いることができる。通常、紫外光または可視光線が用いられ、波長150?500nm、好ましくは250?450、さらに好ましくは300?400nmの照射光が好適に用いられる。」

記載事項キ
「【0047】また光照射は、数回に分けて行っても良く、たとえば加熱下で一度光照射を行ってある程度光硬化型液晶性組成物を硬化させた後、冷却し、さらに光照射を行う等、より光反応の反応率を向上させる方法を採用することもできる。さらに本発明では、光照射の後に熱処理を行い未反応部位をさらに反応させる、いわゆるエージングを行っても構わない。いずれにせよ光照射を行う温度は、用いられる光硬化型液晶性組成物の種類によって適宜調整する必要がある。」

記載事項ク
「【0049】以上の如くして得られる本発明の液晶フィルムは、上述した光硬化型液晶性組成物の性質故に光硬化後の液晶層と支持フィルムとの層間密着性に非常に優れるものである。また所望の配向状態を均一に固定化することができることから、その配向状態に応じて、例えば液晶表示素子に用いられる光学機能性フィルム、具体的には視野角改良フィルム、色補償フィルム、複屈折型位相差補償フィルム、ヘッドアップディスプレイなどに使用される旋光子フィルムとして用いることもできる。上記の如き用途に本発明の液晶フィルムを用いた際には、光学性能、信頼性、取り扱い性、力学強度の面で非常に好適なフィルムとなり得るなど、その工業的利用価値は極めて高い。」

以上、記載事項ア?クから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「支持フィルムに一軸または二軸延伸操作を加える工程と、
前記支持フィルム上に少なくとも光重合性官能基を有する液晶物質を含む光硬化型液晶性組成物を塗布し、液晶を配向させるための熱処理工程と、
光照射を行うことによって、液晶状態において形成した配向状態を固定化する工程と、
光照射の後に熱処理を行い未反応部位をさらに反応させるエージングと、
を含んでなり、
前記支持フィルムが一軸または二軸延伸操作を加えられたものである、
液晶フィルムの製造方法。」

次に、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-242461号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

記載事項ケ
「【0009】光学異方性フィルム(A)は、光学的に負の一軸性を示す液晶物質が液晶状態において形成したハイブリッド配向を固定化して得ることができる。ハイブリッド配向状態を固定化した液晶フィルム(光学異方性フィルム(A))は、ハイブリッド配向を形成しうる液晶物質をフィルム化することによって得ることができる。・・・本発明においては、当該液晶分子をハイブリッド配向させ、当該配向状態をガラス固定化や熱・光架橋反応による固定化等によって固定化して得られる液晶フィルムを光学異方性フィルム(A)として使用することが最も好ましい。
【0010】ハイブリッド配向を固定化した液晶フィルムは、配向基板上に形成されたままの形態(配向基板/(配向膜)/液晶フィルム)、配向基板とは異なる透明基板フィルム等に液晶フィルムを転写した形態(透明基板フィルム/液晶フィルム)、または液晶フィルムに自己支持性がある場合には液晶フィルム単層形態(液晶フィルム)のいずれの構成であっても光学異方性フィルム(A)として使用することができる。前記透明基板フィルムとしては、例えばフジタック(富士写真フィルム社製)、コニカタック(コニカ社製)などのトリアセチルセルロースフィルム、TPXフィルム(三菱化成社製)、アートンフィルム(日本合成ゴム社製)、ゼオネックスフィルム(日本ゼオン社製)、アクリプレンフィルム(三菱レーヨン社製)等が挙げられる。
【0011】また透明基板フィルムへの転写方法としては、液晶フィルム層に接着剤を塗布し、配向基板とは異なる前記透明基板フィルムをラミネートした後に接着剤を硬化した後、配向基板を剥離する方法等を採用することができる・・・」

3.対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1) 引用発明の「支持フィルムに一軸または二軸延伸操作を加える工程」と、本願補正発明の「配向能を有する基材を調製する工程」とを比較すると、

ア 引用発明の「支持フィルム」は、本願補正発明の「基材」に相当する。

イ また、本願補正発明の「配光性を有する基材を調製する工程」とは、延伸フィルムを用いることである(本願の当初明細書の段落【0046】及び【0047】の記載から、本願補正発明の基材調製工程とは、延伸フィルムを用いることである点、が記載されている。
「1.基材調製工程
本発明の光学素子を製造するに際しては、まず配向能を有する基材が準備される。このような配向能を有する基材としては、基材そのものが配向能を有するものである場合と、図1に示すように透明基板1上に配向膜2が形成されて配向能を有する基材3として機能するものとを挙げることができる。以下、それぞれを第1実施態様および第2実施態様として説明する。
【0047】a.第1実施態様本実施態様は、基材そのものが配向能を有する態様であり、具体的には基材が延伸フィルムである場合を挙げることができる。このように延伸フィルムを用いることにより、その延伸方向に沿って液晶材料を配向させることが可能である。・・・」)。

したがって、両者は、相当関係にある。

(2) 引用発明の「前記支持フィルム上に少なくとも光重合性官能基を有する液晶物質を含む光硬化型液晶性組成物を塗布し、液晶を配向させるための熱処理工程」と、本願補正発明の「前記基材上に少なくとも重合性液晶材料を含む液晶層形成用組成物を積層し、所定の液晶規則性を有する液晶層を形成する工程」とを比較すると、

ア 引用発明の「基材」、「光重合性官能基を有する液晶物質」、「光硬化型液晶性組成物」、「塗布」は、本願補正発明の「基材」、「重合性液晶材料」、「液晶層形成用組成物」、「積層」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「液晶を配向させる」とは、塗布した液晶の層に含まれる液晶の分子の向きに規則性を持たせることであるから、引用発明の「液晶を配向させるための熱処理工程」は、本願補正発明の「所定の液晶規則性を有する液晶層を形成する工程」に相当する。

したがって、両者は、相当関係にある。

(3) 引用発明の「光照射を行うことによって、液晶状態において形成した配向状態を固定化する工程」と、本願補正発明の「前記液晶層に活性放射線を照射して、光学機能層とする光学機能層形成工程」とを比較すると、

ア 引用発明の「光照射」は、本願補正発明の「液晶層に活性放射線を照射」に相当する。

イ 引用発明の「液晶状態において形成した配向状態を固定化する」ことによって、引用発明の液晶の層が、光学機能を安定的にもつことになるので(記載事項ク「・・・所望の配向状態を均一に固定化することができることから、その配向状態に応じて、例えば液晶表示素子に用いられる光学機能性フィルム、具体的には視野角改良フィルム、色補償フィルム、複屈折型位相差補償フィルム、ヘッドアップディスプレイなどに使用される旋光子フィルムとして用いることもできる。」)、「液晶状態において形成した配向状態を固定化する」とは、「光学機能層とする光学機能層形成」することに相当すると言える。

以上から、両者は相当関係にある。

(4) 引用発明の「光照射の後に熱処理を行い未反応部位をさらに反応させるエージング」と、本願補正発明の「前記光学機能層を形成した後に、光学機能層に対して液晶層を重合(架橋)させる前の等方相を呈する温度以上の温度で熱処理を行う熱処理工程」とを比較すると、

ア 引用発明の「光照射の後」と、本願補正発明の「前記光学機能層を形成した後」は、上記3 (3) イで示したものと同じ理由から、相当関係にあると言える。

イ 引用発明の「熱処理を行い未反応部位をさらに反応させるエージング」と、本願補正発明の「光学機能層に対して液晶層を重合(架橋)させる前の等方相を呈する温度以上の温度で熱処理を行う熱処理工程熱処理を行う熱処理工程」とは、共に「光学機能層に対して熱処理工程」を行う点で一致する。

したがって、両者は、「前記光学機能層を形成した後に、光学機能層に対して、熱処理を行う熱処理工程」である点一致する。

(5) 引用発明の「前記支持フィルムが一軸または二軸延伸操作を加えられたものである」と、本願補正発明の「前記配向能を有する基材が延伸フィルムであり、」に相当する。

(6) 引用発明の「液晶フィルムの製造方法」は、本願補正発明の「光学素子の製造方法」に相当する。

したがって、上記(1)?(6)の対比考察から、本願補正発明と引用発明とは、
「配向能を有する基材を調製する工程と、
前記基材上に少なくとも重合性液晶材料を含む液晶層形成用組成物を積層し、所定の液晶規則性を有する液晶層を形成する工程と、
前記液晶層に活性放射線を照射して、光学機能層とする光学機能層形成工程と、
前記光学機能層を形成した後に、光学機能層に対して熱処理を行う熱処理工程と、
を含んでなり、
前記配向能を有する基材が延伸フィルムである、
光学素子の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1

光学機能層を形成した後に、光学機能層に対して熱処理を行う熱処理工程の温度として、本願補正発明は「液晶層を重合(架橋)させる前の等方相を呈する温度以上の温度」であり、かつ、その温度範囲の設定が「熱処理工程の温度範囲が、80℃?120℃である」のに対し、引用発明にはその旨、明記されていない点。

相違点2

光学素子の製造工程として、本願補正発明は、「前記の光学機能層形成工程の後、前記配向能を有する基材上に形成された光学機能層を被転写材上に転写する転写工程」を有するのに対し、引用発明には、そのような工程は記載されていない点。

4.当審の判断

前記相違点1、2について、それぞれ検討する。

相違点1について

光学機能層を形成した後に、光学機能層に対して熱処理工程(熱エージング)行う際の設定温度として、

(1)取り扱う液晶材料が等方相を呈する温度以上の温度に設定することは、従来周知の事項である。
(光学機能フィルムの製造方法の工程として、重合性液晶化合物で構成された層に活性放射線を照射して光重合を行った後、熱エージング処理を行う工程を開示した、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-281480号公報の記載(例えば、実施例1,3など)を参照のこと。
(「【0074】
【実施例1】
<1> 配向処理された基板の作製とスペーサの散布・・・
【0078】<2> 重合性液晶混合物の作製・・・
【0081】こうして得られた混合物は、少なくとも室温付近から46℃まではネマチック液晶状態、46℃以上では等方状態となる物であった。さらには光開始剤を、この混合物に対して0.5重量%混ぜ、これを基板間に挟持する重合性液晶混合物とした。・・・【0090】<4> 重合性液晶混合物を液晶配向状態において光硬化基板間に挟持された重合性液晶混合物を、25℃の温度の配向状態において、フィルム基板側から紫外線照射し硬化させた。その際に、紫外線強度は350nm光で測定して1平方cm当たり1mWであり、照射時間は3分間とした。紫外線照射後、雰囲気温度150℃で1時間のエージングを行った。・・・
【0096】
【実施例3】
【0102】<2> 重合性液晶混合物の作製・・・
【0104】こうして得られた重合性液晶混合物は、少なくとも室温付近から64℃まではネマチック液晶状態であり、64℃以上では等方状態となる。さらには光開始剤を、この混合物に対して0.5重量%混ぜ、これを基板間に挟持する重合性液晶混合物とした。【0108】<4> 重合性液晶混合物を液晶配向状態において光硬化基板間に挟持された重合性液晶混合物を、30℃の温度にして、基板間に電界を印加した配向状態においてフィルム基板側から紫外線照射させ硬化させた。その際に、基板間の電圧は50Hz,10Vとした。また紫外線強度は350nm光で測定して1平方cm当たり1mWとし、照射時間は3分間とした。紫外線照射後、雰囲気温度150℃で1時間のエージングを行った。」)

(2)また、熱エージングのように、光学素子の製造過程において熱処理を行う際に、基材などに対し、該熱による悪影響を与えない温度範囲で処理するように配慮することも、光学素子の製造分野において、従来周知の手段である。
(例えば、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-31914号公報の記載「【0010】本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、プラスチックフィルムを基材とする液晶フィルムなどの耐熱性の低い被接着物の接続に用いられて、被接着物の耐熱性を超えない温度にて圧着しても、十分良好で安定した接着特性及び導通特性を与えることができる異方性導電フィルムを提供することを目的とする。」や、特開2001-168510号公報の記載(「【0011】ハンダを用いる場合、環境への配慮から、鉛フリーハンダを用いることが好ましい。また、低温実装が可能であり、樹脂フィルム基板への熱の影響を小さくできるという点から、融点は230℃以下、さらには200℃以下、特には100?190℃であることが好ましい。なお、ソフトビームなどの非接触熱源を用いてハンダ付けを行う場合には、局部的に接合部のみを250?260℃まで加熱することができるので、Sn-Ag系などの融点が230℃を超える鉛フリーハンダを用いても、樹脂フィルム基板への熱の影響を小さく抑えることができる。」)を参照のこと。)

してみれば、引用発明の熱エージング処理における設定温度として、上記(1)、(2)の周知の事項を考慮し、基材及び光学機能層に用いる液晶材料の性質に応じて、基材に影響を与えない温度範囲であり、かつ、取り扱う液晶材料が等方相を呈する温度以上の温度範囲に設定することは、当業者であれば適宜採用する程度のものにすぎない。

さらに、本願補正発明では、熱処理工程の温度設定範囲として、特に80?120℃の範囲に限定しているが、該温度範囲は、本願明細書の記載
(【0101】すなわち、本発明の光学素子の熱処理方法は、上述した基材調製工程において調製された基材と、この基材上に上述した光学機能層形成工程により形成された光学機能層とを有する光学素子に対して、もしくは転写工程が行われた場合は、被転写材およびその表面に転写された光学機能層を有する光学素子に対して、転写側の基材がTACフィルム等の場合は80?120℃の範囲内の温度で、また、転写側の基材がガラスの場合は180?240℃の範囲内、好ましくは190℃?230℃の範囲内、特に200℃?220℃の範囲内の温度で熱処理が行われる点に特徴を有する。
【0102】本発明においては、上記温度範囲より低い温度で熱処理が行われた場合は、密着性が十分でないことから好ましくなく、上記温度範囲より高い温度で熱処理が行われた場合は光学機能層もしくは基材、さらには被転写材等に際してダメージを与える可能性があることから好ましくない。」)
から明らかなように、光学機能層を載せる基材の材質(耐熱温度など)によって、適宜決定されるものであり、また、該温度範囲は、光学機能層として用いる重合性液晶材料の物性値(等方性を有する温度など)によっても変わるものであるから、本願補正発明の記載に、これら基材の材質及び液晶材料の特定が記載されていない以上、該限定された温度範囲に臨界的意義は見いだせない。
すなわち、本願補正発明の上記温度範囲の限定は、単に、基材及び光学機能層に用いる液晶材料の性質に応じて、基材に影響を与えない温度範囲であり、かつ、取り扱う液晶材料が等方相を呈する温度以上の温度範囲に設定する以上の、技術的意義はない。

したがって、引用発明に、上記(1)、(2)の従来周知の手段を採用して、本願補正発明の上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者であれば容易に想到する程度の事項である。

相違点2について

光学素子の製造工程として、基材上に光学機能層を形成した後、該形成後の機能層を、転写材上に転写して用いることは、従来周知の手法(例えば、引用例2の上記記載事項ケを参照のこと)である。
したがって、引用発明において、光照射により、液晶状態において形成した配向状態を固定化した層(光機能性を有する層)を、上記従来周知の手法を採用し、被転写材上に転写して用いて、本願補正発明の上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者であれば適宜なす程度の事項である。

また、本願補正発明によってもたらされる効果は引用例1、2の記載及び周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお、本願補正発明(本件補正後の請求項1)の記載からは、「前記配向能を有する基材上に形成された光学機能層を被転写材上に転写する転写工程」は「光学機能層形成工程の後」であれば何時でも良い、としか解されないので、上記の結論に至ったが、たとえ、該「転写工程」を行う時期を「熱処理工程」の前もしくは後のいずれかに特定したとしても、依然として、上記相違点2は、引用発明及び従来周知の事項からみて、当業者が容易になし得る程度の事項である。
この点につき、念のため、以下に補足理由を述べる。

<補足理由>
引用発明においても、上記転写工程を取り入れる場合、その転写タイミングは、エージング処理(機能層の最終架橋工程)の前もしくは後の2つのタイミングが想定されるが、その双方のタイミングとも、従来周知である。
(例えば、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-277990号公報には、転写層(硬化性を有する)を(被)転写材に転写する際に、転写層の完全硬化処理後に転写を行う技術思想(従来例として)と、転写層の完全硬化処理前に転写を行う技術思想、の両方が開示されている。
<転写工程が完全硬化処理後の記載箇所>
(「【0004】本発明は転写箔の保護層を問題にする。転写箔の保護層としては、一般に・・・
(2)活性エネルギー線硬化性樹脂・・・
が使用されている。・・・活性エネルギー線硬化樹脂とここで言っているのは、紫外線硬化性樹脂と電子線硬化性樹脂を包合する言葉である。液状で基材シートに塗布し紫外線を当てて硬化させるのが紫外線硬化性樹脂保護層である。液状で基材シートに塗布し電子線を当てて硬化させるのが電子線硬化性樹脂保護層である。両方を含めここでは活性エネルギー線とよぶがこれは成熟した用語ではない。
【0005】
【発明が解決しようとする問題点】
・・・
【0006】(2)活性エネルギー線硬化性樹脂保護層の欠点
活性エネルギー線硬化性樹脂保護層の転写箔は、保護層として活性エネルギー線を当てて架橋硬化させた活性エネルギー線硬化性樹脂を用い、対象物に転写箔を転写させる。活性エネルギー線転写箔保護層は、エネルギー線照射量を増やし、樹脂の架橋密度を高めることにより耐薬品性、耐摩耗性を向上できる。しかし架橋密度を高めると、保護層が硬くなりすぎ、脆くなる。十分な柔軟性がないので、転写時に成形品曲面部やコーナー部に位置する保護層にクラックが発生する。」)及び、
<転写工程が完全架橋処理前の記載箇所>
(【0078】
【発明の効果】本発明の転写箔は成形品への転写時にクラックを生じない程度に電子線で予備架橋された保護層を基材シート上に形成し、さらにその上に、接着層を設けたものであるから、成形品に転写したあと紫外線または電子線によって最終架橋させることにより、転写時にクラックを生じず、耐薬品性、耐摩耗性に優れた保護層を与える事ができる。・・・」)
したがって、上記従来周知の事項から、引用発明における転写工程のタイミングとして、エージング(完全架橋処理)の前後のいずれのタイミングを選択するかは、当業者であれば適宜選択する程度の事項であると言える。

まとめ

よって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.本件補正についての結び

以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成19年11月12日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項1及び22に係る発明は、本願の平成19年8月3日付けで手続補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び22に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向能を有する基材を調製する工程と、
前記基材上に少なくとも重合性液晶材料を含む液晶層形成用組成物を積層し、所定の液晶規則性を有する液晶層を形成する工程と、
前記液晶層に活性放射線を照射して、光学機能層とする光学機能層形成工程と、
前記光学機能層を形成した後に、光学機能層に対して液晶層を重合(架橋)させる前の等方相を呈する温度以上の温度で熱処理を行う熱処理工程と、
前記の光学機能層形成工程の後、前記配向能を有する基材上に形成された光学機能層を被転写材上に転写する転写工程と、
を含んでなることを特徴とする光学素子の製造方法。」

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及びその記載事項は、前記「第2 2.引用例」において、「引用例1」、「引用例2」に関し、記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2 3.対比及び4.当審の判断」で検討した本願補正発明から、(1)本件補正前の「配向能を有する基材」を、「延伸フィルム」とする限定と、本件補正前の「熱処理工程」の「温度範囲」を「80℃?120℃」とする限定を省いたもの、に該当する。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明について、前記「第2 4.当審の判断」で記載した内容と同様の理由により、本願発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願発明によってもたらされる効果は引用例1の記載及び周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明は、原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2に記載された発明、及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-02 
結審通知日 2008-12-05 
審決日 2008-12-17 
出願番号 特願2002-311697(P2002-311697)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 憲竹村 真一郎  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 越河 勉
村田 尚英
発明の名称 光学素子の製造方法  
代理人 横田 修孝  
代理人 紺野 昭男  
代理人 吉武 賢次  
代理人 中村 行孝  

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