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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200625301 審決 特許
不服200717080 審決 特許
不服20062586 審決 特許
不服20072731 審決 特許
不服2006876 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1192518
審判番号 不服2005-16568  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-30 
確定日 2009-02-12 
事件の表示 平成7年特許願第508087号「改良された錠剤コーティング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成7年3月9日国際公開、WO95/06462、平成9年2月25日国内公表、特表平9-501947〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成6年5月11日(パリ条約による優先権主張1993年8月30日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年8月19日付け拒絶理由通知書に対して、その指定期間内の平成17年1月13日付けで手続補正がなされたが、平成17年6月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年8月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.平成17年8月30日付の手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年8月30日付の手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正後の本願発明

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は以下のように補正された。
「【請求項1】 (a) 40?90重量%の糖類および10?60重量%のポリマーコーティング成分からなる混合物を溶融紡糸して粒子を形成し、
(b) 粒子を水と合わせ、水性溶液を形成し、
(c) 錠剤を水性溶液と接触させ、そして
(d) 錠剤を乾燥する:
の工程からなる、医薬錠剤をコーティングするための方法。」

本件補正は、補正前請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項である「糖類およびポリマーコーティング成分からなる混合物」を、
「40?90重量%の糖類および10?60重量%のポリマーコーティング成分からなる混合物」と限定するものであって、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でする補正であり、かつ、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

(2)引用刊行物
A.特表昭63-503515号公報(原査定で引用された文献1)
B.特表平3-500164号公報(原査定で引用された文献2)

本願優先権主張日前に頒布されたことが明らかな上記A及びBの各刊行物には、それぞれ以下のことが記載されている。

・刊行物Aの記載事項
(A-1)
「1.薬剤のタブレット、食料品、菓子類及び類似物を保護フイルムによつてコーティングする方法であつて、ポリデキストローズと可塑剤と粘着防止剤と第2のフイルムホーマーとを水に混ぜて水性のコーティング懸濁液を形成する工程、前記コーティング懸濁液の効果的な量を前記タブレット等に噴霧して前記タブレット等の上にフイルムを形成する工程、及び前記タブレット等の上のフイルムのコーティングを乾燥する工程からなるコーティング方法。」(特許請求の範囲第1項)
(A-2)
「…ケルギンLVは、メルク社のケルコデビジョンの製品のソジウムアルギネートであり、…アルコレツクF-100は、アメリカンレシチン社の製品の水に混ぜうるレシチンであり、処方においては粘着防止剤として使用され、…、そしてPEG8000は、ポリエチレングリコール8000であり、…」(公報第4頁左下欄第1?9行)
(A-3)
「実施例 7
ポリデキストローズは、メトセルE5のようなセルローズ系のポリマーと結合されることができて、ビタミンタブレットをコーティングする際に、ポリデキストローズの優れた接着剤とセルローズ系のポリマーの優れた湿気遮断壁とを得ることができる。処方の例はつぎのとおりである。
% グラム
ポリデキストローズ 34.24 246.5
メトセルE5 34.24 246.5
(中略)
Y-5HTレーキは、ペンシルベニア州、ウェストポイントのカラーコン社によって作られたFD&Cイエローナンバー5のレーキである。処方は、720グラムの固体を含み、4080ミリリツトルの水に混ぜられて、全重量が4800グラムの水性のコーティング懸濁液を与える。メトセルE-5は、ダウケミカル社によって作られたヒドロキシプロピルメチルセルローズである。水性のコーティング懸濁液は、コーティング平鍋の中のタブレットの上に、…の条件で、噴霧される。」(公報第6頁左上欄第4行?同頁右上欄第6行)
(A-4)
「実施例 8
彫り込まれたロゴスを持ったビタミンタブレットに橋を架けることなしにコーティングを適用するのに、特に適合した処方の別の例は、実施例7に示したポリデキストローズ対メトセルの比率50%対50%の代わりに、75%対25%を持ち、下に列挙される。
% グラム
ポリデキストローズ 51.36 369.8
メトセルE-5 17.12 123.3
ケルギンLV 4.18 30.1
アルコレツクF-100 2.51 18.1
トリアセチン 2.09 15.0
PEG8000 6.27 45.1
Y-6HTレーキ 12.50 90.0
TiO_(2) 4.00 28.8」(公報第6頁右上欄第7?21行)

・刊行物Bの記載事項
(B-1)
「(1)繊維に紡ぐことが可能な材質で容易に水に溶解する紡がれた繊維の塊と、その繊維の塊上に分布または包含された医薬とからなる、繊維状薬物組成物。
(2)材質が糖またはセルロースである、請求項1に記載の繊維状薬物組成物。
(3)材質が糖である、請求項2に記載の繊維状薬物組成物。」(特許請求の範囲請求項1?3)
(B-2)
「…医薬として有用な多くの薬物化合物が実際に糖の如く容易に溶解し紡績可能な材質と結合され、その生成組成物が医薬の悪化または効力の低下を招くことなく溶融紡績により更に繊維化可能であることが見出された。…例えば糖または糖に似た物質で繊維構造を溶融紡績により作ることが可能で、水、唾液または他の漿液に迅速に溶解し、無害で医薬に合う材質であれば、本発明の実施に使用できる。」(公報第3頁右下欄第22?同第4頁第9行)
(B-3)
「如何なる材質でも、繊維に紡績することが可能で容易に水に溶解するものであれば、本発明の担体材として使用することができる。現在好まれている材質は、蔗糖、果糖、ぶどう糖、マニトール、ソルビトール、グルコース、乳糖および麦芽糖の様な糖類、およびメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルまたはエチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩の様な水溶性のセルロースを含む材質である。」(公報第5頁左下欄第23行?同頁右下欄第6行)

(3)対比
上記刊行物Aにおける、特許請求の範囲第1項の記載に加えて、実施例7(A-3)の記載を併せると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていることになる。

「薬剤のタブレットを保護フイルムによつてコーティングする方法であって、以下に示す成分を水に混ぜて水性のコーティング懸濁液を形成する工程、前記コーティング懸濁液の効果的な量を前記タブレットに噴霧して前記タブレットの上にフイルムを形成する工程、及び前記タブレットの上のフイルムのコーティングを乾燥する工程からなるコーティング方法。
% グラム
ポリデキストローズ 51.36 369.8
メトセルE-5 17.12 123.3
ケルギンLV 4.18 30.1
アルコレツクF-100 2.51 18.1
トリアセチン 2.09 15.0
PEG8000 6.27 45.1
Y-6HTレーキ 12.50 90.0
TiO_(2) 4.00 28.8」

ところで、引用発明において使用されている以下の各成分の具体的化合物名は、(A-2)又は(A-3)を参照すると、それぞれ次のとおりである。
(a)『メトセルE-5』はヒドロキシプロピルメチルセルローズ。(A-3)
(b)『ケルギンLV』はソジウムアルギネート。(A-2)
(c)『アルコレツクF-100』はレシチン。(A-2)
(d)『PEG8000』ポリエチレングリコール8000。(A-2)
(e)『Y-6HTレーキ』はFD&Cイエローナンバー5のレーキ。(A-3)
一方、本願補正発明における、「糖類」及び「ポリマーコーティング成分」に関しては、明細書において以下の記載がなされている。
(ア)「糖類が、…ポリデキストロース、…からなる群より選ばれる、…」(【請求項3】)
(イ)「コーティング成分のポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、…、アルギン酸ナトリウム、…およびそれらの組合せからなる群より選ばれる、…」(【請求項4】)
(ウ)「ポリマーコーティング成分が、トリアセチン、…、ポリエチレングリコール…からなる群より選ばれる少なくとも一つの可塑剤を含む、」
(【請求項6】)
(エ)「…ポリマーコーティング成分に着色剤、不透明剤および滑剤を含ませることができる。…適切な着色剤の例には、…FD&C…イエローレーキ…が含まれる。…金属酸化物は好ましい不透明剤であり、二酸化チタンは特に好ましい不透明剤である。」(明細書翻訳文第9頁第9?21行)
そこで、これら(ア)?(エ)の各記載を考慮しつつ、引用発明と本願補正発明とを対比すると、
前者におけるはポリデキストローズは後者の糖類に((ア)参照)、
前者におけるメトセルE-5((a)及び(イ)参照)、ケルギンLV((b)及び(イ)参照;「ソジウムアルギネート」はアルギン酸ナトリウムと同義)、アルコレツクF-100((c)及び(ウ)参照)、トリアセチン、PEG8000、Y-6HTレーキ及びTiO_(2)(すなわちポリデキストロース及びアルコレツクF-100(レシチン)を除く成分)は、何れも後者のポリマーコーティング成分に、
それぞれ対応するものと解せらせる。
また、『アルコレツクF-100』のレシチンについても、引用発明においては粘着防止剤として使用されている(A-2)ものであるが、本願明細書の「ポリマーコーティング成分は、…、そして少なくとも一つの可塑剤、着色剤、不透明剤、滑剤(glidants)、着香剤、希釈剤、充填剤、増量剤およびポリマーコーティングに使用するのに適した他の成分を含みうる。」(明細書翻訳文第8頁第5?8行)との記載から見て、本願補正発明におけるコーティング成分に含まれるものと解することができる。
そうすると、結局引用発明におけるポリデキストロース以外の成分は、全て本願補正発明のポリマーコーティング成分に対応するものである。
そして、引用発明におけるポリデキストロースと、それ以外の成分との重量比率は51.36%対48.64であり、この値は本願補正発明における糖類とポリマーコーティング成分との重量比に相当するものである。
したがって、本願補正発明は、以下の点で一致している。
「 (a) 40?90重量%の糖類および10?60重量%のポリマーコーティング成分からなる混合物を、
(b) 水と合わせ、水性溶液を形成し、
(c) 錠剤を水性溶液と接触させ、そして
(d) 錠剤を乾燥する:
の工程からなる、医薬錠剤をコーティングするための方法。」
そして、以下の点で相違する。
[相違点]本願補正発明では、糖類及びポリマーコーティング成分からなる混合物を、水と合わせる前に、溶融紡糸して粒子を形成するのに対して、引用発明では単に水と混ぜている点。

(4)判断
以下、上記相違点について検討する。

刊行物Bに記載のように、担体材として水溶性の糖化合物を使用する医薬製剤についてこれを溶融紡糸して、いわゆる「綿菓子」状にすると、水に迅速に溶解するようになることが記載されている。((B-1)?(B-3))
そして、ポリデキストロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースは、医薬の担体成分としても使用されているもの(例えば、特開昭62-292732号公報特許請求の範囲及び公報第2頁左下欄参照)であることから、上記刊行物Bの記載に触れた当業者ならば、ポリデキストロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースといった水溶性の糖化合物を主成分とする引用発明に係る医薬製剤に対して、刊行物Bに記載の手法を適用してみようとすることは、格別の創意工夫を伴うことなく想到することである。
また、水に迅速に溶解するといった効果に関しても刊行物Bの記載から予測しうるものである。
したがって、本願補正発明は、上記刊行物A及びBの記載に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明
平成17年8月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項に係る発明は、同年1月13日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
【請求項1】 (a) 糖類およびポリマーコーティング成分からなる混合物を溶融紡糸して粒子を形成し、
(b) 粒子を水と合わせ、水性溶液を形成し、
(c) 錠剤を水性溶液と接触させ、そして
(d) 錠剤を乾燥する:
の工程からなる、医薬錠剤をコーティングするための方法。」

(2)引用刊行物
原査定で引用された刊行物A及びB並びにその記載事項は、上記2.(2)で記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.において記載した本願補正発明において特定されていた、糖類およびポリマーコーティング成分の各重量%の限定を外したものに相当するので、結局本願発明は、本願補正発明をそのまま含み、かつ、糖類およびポリマーコーティング成分の各重量%に関し、より広範囲のものを含むことになる。
そうすると、糖類およびポリマーコーティング成分の各重量%に関し、より限定された本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、刊行物A及びBの記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとされるのであるから、本願発明も同様な理由により、刊行物A及びBの記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物A及びBの記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2008-09-04 
結審通知日 2008-09-09 
審決日 2008-09-22 
出願番号 特願平7-508087
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長部 喜幸榎本 佳予子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 谷口 博
川上 美秀
発明の名称 改良された錠剤コーティング方法  
代理人 西村 公佑  
代理人 高木 千嘉  

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