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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない F27D
管理番号 1192612
審判番号 訂正2008-390089  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2008-08-20 
確定日 2009-02-09 
事件の表示 特許第3137625号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許の手続の経緯
本件特許第3137625号の手続の経緯の概要は、次のとおりである。
なお、本件特許に係る出願は、国内優先権主張を伴う平成8年特許願第116621号(原出願)の出願の一部を新たな出願としたものである。
・原出願の出願日 :平成8年5月10日
・原出願の優先権主張日:平成7年5月11日
(以下「本件優先日」という。)
(基礎とされた出願:特願平7-113143号)
・新たな出願をした日:平成12年2月22日
(特願2000-44051号)
・特許権の設定登録日:平成12年12月8日
特許番号 :特許第3137625号
発明の名称 :「不定形耐火物の吹付け施工方法」
特許権者 :AGCセラミックス株式会社
(旧商号 旭硝子セラミックス株式会社)
請求項数 :10(設定登録時)
・特許異議申立日(宮越典明):平成13年8月24日
特許異議申立日(黒崎播磨株式会社):平成13年8月27日
(異議2001-72286号)
・訂正請求書提出日 :平成14年10月9日(請求項数7)
・特許異議決定日 :平成14年10月16日(起案日)
特許異議決定の結論:「訂正を認める。特許第3137625号の
請求項1ないし7に係る特許を維持する。」

2 本件訂正審判の手続の経緯
本件審判事件の手続の経緯は、以下のとおりである。
・審判請求日 :平成20年8月20日
請求の趣旨 :特許第3137625号の明細書を、
本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり
訂正することを認める、との審決を求める。
(以下、本件訂正審判の請求に係る訂正を
「本件訂正」と、請求書に添付した訂正明細書を
「本件訂正明細書」という。)
・上申書(関連無効審判請求人 黒崎播磨株式会社)提出日
:平成20年9月24日付け
・訂正拒絶理由通知日:平成20年9月26日(起案日)
・意見書提出日 :平成20年10月30日付け

3 関連無効審判の手続の経緯
本件特許について無効審判の請求がされた。その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
・審判請求日 :平成18年11月30日
審判請求人 :黒崎播磨株式会社
請求の趣旨 :「特許第3137625号の請求項1に係る特許を
無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。
との審決を求める。」
・審決日 :平成19年8月3日(起案日)
審決の主文 :「特許第3137625号の請求項1に係る発明
についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。」
・審決取消訴訟提起日:平成19年9月4日
(平成19年(行ケ)第10310号)
・訂正審判請求日 :平成19年11月14日
・審決取消決定日 :平成19年11月30日
決定の主文 :「特許庁が無効2006-80251号事件に
ついて平成19年8月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は原告の負担とする。」
・訂正請求書提出日 :平成19年12月20日付け
・審判事件弁駁書提出日:平成20年2月7日付け
・補正許否の決定日 :平成20年2月25日(起案日)
・審判事件答弁書・訂正請求書提出日:平成20年3月28日付け
・審決日 :平成20年5月22日(起案日)
審決の主文 :「訂正を認める。
特許第3137625号の請求項1に記載された
発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。」
・審決取消訴訟提起日:平成20年7月1日
(平成20年(行ケ)10245号)

第2 請求の要旨、訂正の内容及び訂正後の特許請求の範囲
この審判請求の要旨は、「特許第3137625号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」ことを請求の要旨とするところ、その内容は、審判請求書によれば、以下の1から10のとおりのものと認められる。
1 請求項1において、耐火性粉末を「球状化されていない」耐火性粉末に限定する。
2 請求項1において、アルミナセメントを「球状化されていない」アルミナセメントに限定する。
3 請求項1において、不定形耐火物用粉体組成物を「球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く」不定形耐火物用粉体組成物に限定する。
4 請求項1において、不定形耐火物用粉体組成物に加える水の量を「不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、水を8?10重量部」に限定する。
5 請求項1において、「特徴とする」を、「特徴とし、」とし、その後に「前記急結剤の注入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準の重量で0.05?3重量部である」を挿入する。
6 請求項1において、「急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設け」を挿入する。
7 請求項1において、「前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入し」を挿入する。
8 請求項1において、「前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する」を挿入する。
9 表2における「シャモット粗粒」、「シャモット中粒」及び「シャモット細粒」の記載を、それぞれ「ボーキサイト粗粒」、「ボーキサイト中粒」及び「ボーキサイト細粒」に訂正する。
10 請求項2?7を請求項2?22とする。
(以下、これらの事項をその項番号により、それぞれ「訂正事項1」、「訂正事項2」…という。)
そして、訂正後の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
耐火性骨材、平均粒径30μm以下の球状化されていないアルミナセメント、平均粒径30μm以下の球状化されていない耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物(球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く)100重量部に対して、水を8?10重量部加えて混練されてなり、かつ、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上である自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付け、急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設け、前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入し、前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用することを特徴とし、前記急結剤の注入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準の重量で0.05?3重量部である不定形耐火物の吹付け施工方法。
【請求項2】
耐火性骨材、平均粒径30μm以下のアルミナセメント、平均粒径30μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、水を7重量部以上15重量部以下加えて混練されてなり、かつ、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上である自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記圧縮空気と急結剤を、同位置に設けられた急結剤注入口と圧縮空気注入口からそれぞれ前記坏土中に注入する吹付け施工方法。
【請求項3】
前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入する請求項2に記載の吹付け施工方法。
【請求項4】
前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける請求項2または3に記載の吹付け施工方法。
【請求項5】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項2?4のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項6】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項2?5のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項7】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項2?6いずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項8】
耐火性骨材、平均粒径30μm以下のアルミナセメント、平均粒径30μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、水を7重量部以上15重量部以下加えて混練されてなり、かつ、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上である自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入する吹付け施工方法。
【請求項9】
前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける請求項8に記載の吹付け施工方法。
【請求項10】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項8または9に記載の吹付け施工方法。
【請求項11】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項8?10のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項12】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項8?11のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項13】
耐火性骨材、平均粒径30μm以下のアルミナセメント、平均粒径30μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、水を7重量部以上15重量部以下加えて混練されてなり、かつ、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上である自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける吹付け施工方法。
【請求項14】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項13に記載の吹付け施工方法。
【請求項15】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項13または14の吹付け施工方法。
【請求項16】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項13?15のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項17】
耐火性骨材、平均粒径30μm以下のアルミナセメント、平均粒径30μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、水を7重量部以上15重量部以下加えて混練されてなり、かつ、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上である自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記急結剤が、粉末として混入される吹付け施工方法。
【請求項18】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項17に記載の吹付け施工方法。
【請求項19】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項17または18に記載の吹付け施工方法。
【請求項20】
耐火性骨材、平均粒径30μm以下のアルミナセメント、平均粒径30μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、水を7重量部以上15重量部以下加えて混練されてなり、かつ、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上である自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える吹付け施工方法。
【請求項21】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項20に記載の吹付け施工方法。
【請求項22】
耐火性骨材、平均粒径30μm以下のアルミナセメント、平均粒径30μm以下の耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、水を7重量部以上15重量部以下加えて混練されてなり、かつ、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上である自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する吹付け施工方法。」
(以下、本件訂正後の請求項1から22を、それぞれ「訂正後請求項1」、「訂正後請求項2」…といい、これに対し、本件訂正前の請求項1から7を、それぞれ「訂正前請求項1」、「訂正前請求項2」…という。)

第3 訂正拒絶理由の概要
平成20年9月26日付けの訂正拒絶理由通知における拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
請求項1についての訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
しかし、請求項1についての訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、次の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、特許法第126条第5項に規定する要件に適合するものではない。

[理由]
訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。



1 「吹付工法の最近の進歩」(セラミックデータブック‘ 91 工業製品技術協会 平成3年(1991年))
2 特開平7-69745号公報
(以下、それぞれ「刊行物1」、「刊行物2」という。)

第4 当審の判断
1 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否について
それぞれの訂正事項についての訂正について、訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否について検討する。
(1) 訂正事項1から3について
(ア) 訂正事項1についての訂正は、訂正前請求項1における「耐火性粉末」を「球状化されていない耐火性粉末」に、訂正事項2は、訂正前請求項1における「アルミナセメント」を「球状化されていないアルミナセメント」に、訂正事項3は、訂正前請求項1における「不定形耐火物用粉体組成物」を「不定形耐火物用粉体組成物(球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く)」にするものである。
本件特許に係る願書に添付した明細書(審決注:平成14年10月9日付けの訂正請求により訂正されたもの。以下、「本件特許明細書」という。)には、「これらの耐火性粉末の一部として、アルミナやヒュームドシリカ等の平均粒径が10μm以下、好ましくは5μm以下の耐火性超微粉を使用すると、組成物の坏土に加える水の量を減らすことができ、かつ混錬後の坏土に良好な流動性を付与できる。耐火性粉末の一部として、平均粒径が30μm以下の球状化された粒子からなる粉末を使用することによっても坏土に良好な流動性を付与できる。」(段落【0015】)との記載があり、この記載によれば、不定形耐火物用粉末の成分には「球状化された粒子からなる」粉末もあること、この発明においては、「球状化された粒子からなる」粉末ではない、すなわち、「球状化されていない」粉末がまず使用されるものであること、が示されていると認められる。
そうすると、これらの訂正は、「耐火性粉末」を、そのうちの「球状化されていない耐火性粉末」に、「アルミナセメント」を、そのうちの「球状化されていないアルミナセメント」に、「不定形耐火物用粉体組成物」を、そのうちの「不定形耐火物用粉体組成物(球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く)」に、それぞれ限定するものである。
よって、訂正事項1から3についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ) そして、発明の具体例として、本件特許明細書に、「耐火物の結合部を構成する耐火性粉末として、Al_(2)O_(3)とCaOの含有量がそれぞれ55重量%と36重量%で平均粒径が9μmのアルミナセメント、Al_(2)O_(3)の純度が99.6重量%で平均粒径が4.3μmのバイヤーアルミナ及びSiO_(2)の純度が93重量%で平均粒径が0.8μmのヒュームドシリカを用いた。また、分散剤としてP_(2)O_(5)とNa_(2)Oの含有量がそれぞれ60.4重量%と39.6重量%のテトラポリリン酸ナトリウムの粉末を用いた。」(段落【0025】)と記載されているが、ここにおいて、粉末について球状にしようとする処理が施されたことは記載されていないから、これらの粉末は「球状化されていない」粉末であると認められる。
そうすると、訂正事項1から3についての、訂正前請求項1における「耐火性粉末」を「球状化されていない耐火性粉末」に、訂正前請求項1における「アルミナセメント」を「球状化されていないアルミナセメント」に、訂正前請求項1における「不定形耐火物用粉体組成物」を「不定形耐火物用粉体組成物(球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く)」にする訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
よって、 訂正事項1から3についての訂正は、特許法第126条第3項に規定する要件に適合するものである。
(ウ) また、訂正事項1から3についての訂正は、「耐火性粉末」を「球状化されていない耐火性粉末」に、「アルミナセメント」を「球状化されていないアルミナセメント」に、「不定形耐火物用粉体組成物」を「不定形耐火物用粉体組成物(球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く)」に、それぞれ限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
よって、 訂正事項1から3についての訂正は、特許法第126条第4項に規定する要件に適合するものである。
(エ) したがって、訂正事項1から3についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

(2) 訂正事項4について
(ア) 訂正事項4についての訂正は、訂正前請求項1における、「100重量部に対して、水を7重量部以上15重量部以下加えて混錬」を、「100重量部に対して、水を8?10重量部加えて混錬」に訂正するもので、粉体組成物へ加える水の割合を限定するものである。
よって、訂正事項4についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ) そして、本件特許明細書の表1及び表2に、水の割合がそれぞれ「9重量%」(実施例1、実施例1’)、「10重量%」(実施例2、実施例2’)及び「8重量%」(実施例7、実施例7’、実施例7”)の実施例が記載されており、段落【0026】には、これらの例について「耐火性骨材と耐火性粉末及び分散剤を調合して表1に示す粉体組成物を調合し、各組成物に表1に示す量の水(耐火性骨材と耐火性粉末は内掛け重量%、他はいずれも外掛け重量%)を加え」と記載されている。
そうすると、「不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して8?10重量部の水を加えて混錬」にすることは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
よって、 訂正事項4についての訂正は、特許法第126条第3項に規定する要件に適合するものである。
(ウ) また、訂正事項4についての訂正は、粉体組成物へ加える水の割合を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
よって、 訂正事項4についての訂正は、特許法第126条第4項に規定する要件に適合するものである。
(エ) したがって、訂正事項4についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

(3) 訂正事項5について
(ア) 訂正事項5についての訂正は、訂正前請求項1における、「特徴とする」を、「特徴とし、」とし、その後に「前記急結剤の注入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準の重量で0.05?3重量部である」を挿入するものである。
訂正事項5についての訂正は、訂正前請求項1における「急結剤」の注入量の割合を限定する訂正である。
よって、訂正事項5についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ) そして、本件特許明細書には、「急結剤の注入量は、水と分散剤を除く粉体組成物100重量部に対して、乾量基準の重量で0.05?3重量部とするのが好ましい。」(段落【0022】)との記載がある。訂正事項5における「前記粉体組成物100重量部」には「少量の分散剤」を含み、その分散剤は「粉体組成物の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.02?1重量部」(段落【0016】)という微量であって、粉体組成物100重量部におけるその有無が乾量基準の重量で「0.05?3重量部」の範囲に影響を与えるものではないから、急結剤の注入量は、「少量の分散剤」の有無によらず、「粉体組成物の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して」乾量基準の重量で「0.05?3重量部」の範囲とすることは記載されていたものといえ、「前記急結剤の注入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準の重量で0.05?3重量部である」とすることは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
よって、 訂正事項5についての訂正は、特許法第126条第3項に規定する要件に適合するものである。
(ウ) また、訂正事項5についての訂正は、「急結剤」の注入量の割合を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
よって、 訂正事項5についての訂正は、特許法第126条第4項に規定する要件に適合するものである。
(エ) したがって、訂正事項5は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

(4) 訂正事項6について
(ア) 訂正事項6についての訂正は、訂正前請求項1における「かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付け」の後に「急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設け」を挿入するものである。
訂正事項6についての訂正は、訂正前請求項1の「圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入」する際における圧縮空気と急結剤の注入位置を限定する訂正である。
よって、訂正事項6についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ) そして、本件特許明細書には、「急結剤の注入口は、圧縮空気の注入口の下流又は圧縮空気の注入口と同位置とするのが好ましい。」(段落【0011】)との記載がある。
そうすると、訂正前請求項1において、「急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設け」ることは、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
よって、 訂正事項6についての訂正は、特許法第126条第3項に規定する要件に適合するものである。
(ウ) また、訂正事項6についての訂正は、訂正前請求項1の「圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入」する際における圧縮空気と急結剤の注入位置を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
よって、 訂正事項6についての訂正は、特許法第126条第4項に規定する要件に適合するものである。
(エ) したがって、訂正事項6は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

(5) 訂正事項7について
(ア) 訂正事項7についての訂正は、訂正前請求項1における「かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付け」の後に「前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入し」を挿入するものである。
この訂正は、訂正前請求項1の「圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入」する際における圧縮空気と急結剤の注入態様を限定するものである。
よって、訂正事項7についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ) そして、本件特許明細書に、「急結剤の注入口を圧縮空気注入口と同位置にする場合の一つの態様としては、坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用し、急結剤が注入される。」(段落【0011】)との記載がある。
そうすると、訂正前請求項1において、「前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入」することは、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、 訂正事項7についての訂正は、特許法第126条第3項に規定する要件に適合するものである。
(ウ) また、訂正事項7についての訂正は、訂正前請求項1の「圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入」する際における圧縮空気と急結剤の注入態様を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
よって、 訂正事項7についての訂正は、特許法第126条第4項に規定する要件に適合するものである。
エ したがって、訂正事項7についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

(6) 訂正事項8について
(ア) 訂正事項8についての訂正は、訂正前請求項1における「圧送ポンプ」について、「前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する」と限定するものである。
したがって、訂正事項8についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ) そして、本件特許明細書に、「圧送ポンプとしては、市販品を入手できることから、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用するのが好ましい。」(段落【0023】)との記載がされている。
そうすると、訂正前請求項1における「圧送ポンプ」について、「前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する」と訂正することは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
よって、 訂正事項8についての訂正は、特許法第126条第3項に規定する要件に適合するものである。
(ウ) また、訂正事項8についての訂正は、訂正前請求項1における「圧送ポンプ」について、「前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する」と限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
よって、 訂正事項8についての訂正は、特許法第126条第4項に規定する要件に適合するものである。
(エ) したがって、訂正事項8についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

(7) 訂正事項9について
訂正事項9についての訂正は、本件特許明細書の表2における「シャモット粗粒」、「シャモット中粒」及び「シャモット細粒」の記載が誤記であるとして、それぞれ「ボーキサイト粗粒」、「ボーキサイト中粒」及び「ボーキサイト細粒」にするものである。
本件特許に係る願書に最初に添付した明細書(以下、「本件当初明細書」という。)には「耐火性骨材として上記シャモットの代わりにボーキサイトを用いた試験結果を表2に示す。」(段落【0034】)との記載があり、この記載によれば表2は、表1の耐火性骨材である各「シャモット」を別の種類の耐火性骨材である各「ボーキサイト」に変えたものの試験結果が記載されるものであると認められる。そうすると、表2の各「シャモット」の記載はそれぞれ各「ボーキサイト」の誤記であると認められる。
したがって、表2における各「シャモット」の記載を各「ボーキサイト」とする訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであるといえ、又、本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
よって、訂正事項9についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

(8) 訂正事項10について
訂正事項10についての訂正は、本件特許明細書の特許請求の範囲の訂正前請求項2から7である、
「【請求項2】 前記圧縮空気と急結剤を、同位置に設けられた急結剤注入口と圧縮空気注入口からそれぞれ前記坏土中に注入する請求項1に記載の吹付け施工方法。
【請求項3】 前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入する請求項1又は2に記載の吹付け施工方法。
【請求項4】 前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける請求項1?3のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項5】 前記急結剤が、粉末として混入される請求項1?4のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項6】 前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項1?5のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項7】 前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項1?6のいずれかに記載の吹付け施工方法。」
を、本件訂正明細書の特許請求の範囲(上記「第2」)の訂正後請求項2から22にするものである。
この訂正は、具体的には、請求項の記載の形式を、次のように変えたものであることが認められる。すなわち、訂正前請求項2を訂正前請求項1の内容を取り込んでこれを独立項の訂正後請求項2にし、訂正前請求項3から7については、引用する訂正前請求項のうち訂正前請求項1を直接引用するものをそれぞれ独立項の訂正後請求項8、13、17、20、22にし、引用する訂正前請求項のうち訂正前請求項2から6いずれかを引用するもののうち、訂正前請求項1を直接又は間接に引用しないものを、それぞれ訂正後請求項3から7にし、さらに、訂正前請求項3から7において引用する訂正前請求項において、訂正前請求項1を直接引用するもの(訂正後請求項8、13、17、20)をさらに直接又は間接に引用するものを、それぞれ訂正後請求項9から12、14から16、18、19、21にしたものであることが認められる。
訂正前請求項2から7と訂正後請求項2から22との対応関係をまとめると、以下のとおりになる。

以上によれば、この訂正は、訂正後請求項2以下において特許請求の範囲を減縮する訂正後請求項1を引用しない形式に改めたものであると認められ、その内容に何ら変更がないから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する(平成19年7月10日判決言渡、平成18年(行ケ)第10485号判決参照)。
したがって、訂正事項10についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。
また、この訂正は、内容を何ら変更するものではないから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかであって、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
よって、訂正事項10についての訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

(9) まとめ
上記のとおり、訂正事項1から8についての訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、訂正事項9についての訂正は、誤記の訂正を目的とするものであって、本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、訂正事項10についての訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第2項又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

2 独立特許要件について
請求項1についての訂正は、上記のとおり、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであるから、進んで、同条第5項の規定に適合するか、すなわち、「訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明」である、訂正後請求項1されている事項により特定される発明が「特許出願の際独立して特許を受けることができるもの」であるかについて検討することとする。

2-1 訂正後請求項1に記載された事項により特定される発明
訂正後請求項1に記載されている発明は、以下のとおりのものである。
「耐火性骨材、平均粒径30μm以下の球状化されていないアルミナセメント、平均粒径30μm以下の球状化されていない耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物(球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く)100重量部に対して、水を8?10重量部加えて混練されてなり、かつ、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上である自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付け、急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設け、前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入し、前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用することを特徴とし、前記急結剤の注入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準の重量で0.05?3重量部である不定形耐火物の吹付け施工方法。」(以下、この発明を「本件訂正発明」という。なお、下線は、訂正前請求項1からの変更箇所を示す。)

2-2 訂正拒絶理由通知に記載した拒絶の理由について
訂正拒絶理由における、本件訂正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとはいえない、とする理由は、上記「第3」に記載したとおり、本件訂正発明はその出願前に頒布された刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものである。
以下、この理由について検討する。

2-2-1 刊行物の記載
(1) 刊行物1
刊行物1は、本件特許の優先権主張日の前である平成3年8月26日に発行された「吹付工法の最近の進歩」と題する論稿であり、次のとおりの記載があることが認められる。
1a 「吹付施工は成形枠が不要であり,応急かつ局部補修が可能であるなど,施工面において多くの利点を有しているため,増加の傾向にある.しかし,品質的には,レンガ,流し込みに比較して十分とはいえず,また,吹付施工時の発塵およびリバンドロスが問題であった.」(231頁左欄「1.はじめに」1から5行)
1b 「従来の一般的な冷間用乾式吹付材はバインダー量が多く配合されており,かつ吹付水分も多く必要とするため,品質的には十分なものとはいえなかった.
従って,バインダー量が非常に少ない耐食性の優れた高密度ローセメントキャスタブルを吹付け可能にすべく,いかに吹付水分を減少し,かつ混練度の向上を図り,吹付施工の重要特性である高接着率を確保するかを主として検討した.
特に,ローセメントキャスタブルで使用している超微粉を十分に分散させ,吸付水分量の減少化を図ることによって,従来の吹付材に比較して,品質的に高密度および高強度の施工体を得るとともに,施工時の発塵の減少,接着率の向上を図るべく,種々検討を行った.」(「2.1 開発の基本的な考え方」)
1c 「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系の代表的なローセメントキャスタブルを選定し,吹付施工が可能なように分散剤の種類,量および急結剤の種類,量等の検討を行った.また,吹付材としての最適粒度構成^(1))の検討も加え,吹付システム^(2?4))として乾式,半湿式,湿式に区分し,合計5種の吹付システムにおいて比較テストを実施した.各種吹付システムの概要を表1に示す^(5)).」(「2.2各種吹付システムの比較」)
1d 「

」(231頁右欄中段)
1e 「各種吹付システムの吹付水分と接着率の関係を図1に示す.ショットキャスト法以外の吹付システムについては,吹付水分を減少すると接着率は低下し,標準乾式法,分散剤溶液添加法はその傾向が顕著である.ショットキャスト法は吹付前にミキサーで十分混練しているため,吹付水分に関係なく高接着率が得られるが,ポンプ圧送するため高水分領域でしか吹付けできない欠点がある.スラリー添加法およびプレミキシング法は低水分領域においても比較的良好な接着率を示している.」(「(1)各種吹付システムの接着率について」)
1f 「

」(232頁左欄中段)
1g 「各種吹付システムの吹付水分と1000℃焼成後の見掛気孔率の関係を図2に示す.吹付水分の減少に従ってほぼ直線的に見掛気孔率が低下し,各種吹付システム間の差は少ない.
高密度の品質を得るには,吹付水分の減少が必要である.」(「(2)各種吹付システムの品質について」)
1h 「


」(232頁左欄下段)
1i 「次に,吹付水分と1000℃焼成後の曲げ強度の関係を図3に示す.吹付水分が減少すれば曲げ強度は増加し,かつ低水分領域においては,吹付水分のわずかの低下により著しく曲げ強度が向上する傾向にあり,吹付水分をできるだけ減少させることは,強度向上に大きく寄与する.」(「(3)各種吹付システムの強度について」)
1j 「

」(232頁右欄中段)

(2) 刊行物2
刊行物2(特開平7-69745号公報)は、本件特許の優先権主張日の前である平成7年3月14日に公開された公開特許公報であり、次のとおりの記載があることが認められる。
2a 「比較的少量の水を混合したときにフリーフロー性を示すアルミナスピネル系流し込み耐火物の坏土となる組成物を提供する。」(1頁下欄【目的】)
2b 「アルミナ質骨材、スピネル質骨材および粒径74μm以下のアルミナセメントを含む粉末から主としてなる組成物であって、粒径74μm以下の粉末の一部分が粒径5μm以下のアルミナ微粉末とされ、組成物中に粒径5μm以下のアルミナ微粉末を2?15重量%とアルミナセメントを2?15重量%含み、外掛けで6重量%の水と混合したとき、JIS-R5201規格のセメントフローコーンを使用して無振動で30秒間放置した後のフロー値が160mm以上であることを特徴とするアルミナスピネル系流し込み耐火物用組成物。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
2c 「本発明は、その施工を容易とする優れた流動性を備え、耐火物施工体の嵩比重が大きいアルミナスピネル系流し込み耐火物用組成物に関する。」(段落【0001】【産業上の利用分野】)
2d 「…一般に、流し込み耐火物に加える水を多くすれば流し込み耐火物の流動性はよくなるが、施工された耐火物の密度が低くなる他、骨材がセグリゲーション(偏在化)して不均質化しやすいので、加える水の量を少なくして流動性を良くする工夫を必要とする。」(段落【0005】)
2e 「現在、アルミナスピネル系流し込み耐火物では、フリーフロー性を示すほど流動性の優れたものは知られていない。充填密度と均質性を犠牲にすることなくフリーフロー性のある流し込み耐火物を提供できれば、バイブレータの使用を省略でき、さらにはポンピング圧送による流し込み耐火物の施工の機械化と省力化がさらに進展すると期待される。」(段落【0008】)
2f 「本発明は取鍋などの内張りに使用されるアルミナスピネル系流し込み耐火物について、フリーフロー性のある、施工性の優れた流し込み耐火物を提供することを目的とする。」(段落【0009】【発明が解決しようとする課題】)
2g 「本発明は前述の課題を達成すべくなされたものであり…アルミナ質骨材、スピネル質骨材および粒径74μm以下のアルミナセメントを含む粉末から主としてなる組成物であって、粒径74μm以下の粉末の一部分が粒径5μm以下のアルミナ微粉末とされ、組成物中に粒径5μm以下のアルミナ微粉末を2?15重量%とアルミナセメントを2?15重量%含み、外掛けで6重量%の水と混合したとき、JIS-R5201規格のセメントフローコーンを使用して無振動で30秒間放置した後のフロー値が160mm以上であることを特徴とする。」(段落【0010】)
2h 「本発明のアルミナスピネル系流し込み耐火物用組成物では、粒径74μm以下(200メッシュの篩を通過する粒径)の耐火物の結合部を形成する粉末中に2?15重量%のアルミナセメントの他に粒径5μm以下の粒径のアルミナ微粉末が組成物に対して2?15重量%含まれていることで水と混合された坏土の流動性を顕著に向上させている。アルミナ微粉末の粒径は、配合量のわりに流動性を向上させる効果が大きいことから、好ましくは粒径2μm以下とする。」(段落【0011】)
2i 「【実施例】…骨材原料として、電融アルミナクリンカー(粗粒3?10mm、中粒3mm以下、数値は粒径で、以下いずれも同じ)、焼成アルミナクリンカー(中粒0.59mm以下、小粒0.3mm以下)および合成スピネルクリンカー(中粒1mm以下)を使用した。また、結合部を形成する粒径74μm以下の粉末として、焼成アルミナ粉末(43μm以下)、合成スピネル粉末(74μm以下)、アルミナ微粉末(平均粒径約1.5μm)、ヒュームドシリカ(平均粒径約0.8μm)および粘土微粉末(平均粒径約2μm)を使用した。
アルミナセメントとして電気化学工業社製のブレーン値が6000?10000のアルミナセメントA(Al_(2) O_(3) の含有量が80重量%のもの)と、ブレーン値が約5000のアルミナセメントB(Al_(2) O_(3) の含有量が75重量%のもの)とを選び、分散剤として無水ピロリン酸ソーダ(A)およびヘキサメタリン酸ソーダ(B)を使用し、表1と表2に示すアルミナスピネル系流し込み耐火物用組成物を調合して試験に供した。」(段落【0023】から【0025】)
2j 「

」(段落【0027】)
2k 「

」(段落【0032】)
2l 「坏土の流動性は、調合した流し込み耐火物用組成物を万能ミキサーに入れ、外掛けで5.5?6重量%の水を加えて混合した坏土を、JIS-R5201規格のセメントフローコーンに流し込み、フローコーンを抜き取って振動を加えない状態で30秒後に流し込み耐火物の広がり径(直交する2方向の広がり径の測定値の平均値)を測定してフロー値とし、これらの結果を表3にまとめて示した。…」(段落【0028】)
2m 「…ポンピング圧送により混合した流し込み耐火物を施工箇所に流し込むなどの機械化を行えば、作業環境がさらに改善されるとともに、省力化と施工期間の短縮が同時に達成できるので、本発明によるアルミナスピネル系流し込み耐火物用組成物の産業上の利用効果は多大である。」(段落【0037】)

2-2-2 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、吹付け施工は「成形枠が不要であり,応急かつ局部補修が可能であるなど,施工面において多くの利点を有している」(摘示1a)、しかし、「品質的には,レンガ,流し込みに比較して十分とはいえず,また,吹付施工時の発塵およびリバンドロスが問題であった」(摘示1a)、「従来の一般的な冷間用乾式吹付材はバインダー量が多く配合されており,かつ吹付水分も多く必要とするため,品質的には十分なものとはいえなかった」(摘示1b)として、「バインダー量が非常に少ない耐食性の優れた高密度ローセメントキャスタブルを吹付け可能にすべく,いかに吹付水分を減少し,かつ混練度の向上を図り,吹付施工の重要特性である高接着率を確保するかを主として検討し」、「特に,ローセメントキャスタブルで使用している超微粉を十分に分散させ,吸付水分量の減少化を図ることによって,従来の吹付材に比較して,品質的に高密度および高強度の施工体を得るとともに,施工時の発塵の減少,接着率の向上を図るべく,種々検討を行った」(摘示1b)ことが記載されている。
そして、「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系の代表的なローセメントキャスタブルを選定し,吹付施工が可能なように分散剤の種類,量および急結剤の種類,量等の検討を行った.また,吹付材としての最適粒度構成^(1))の検討も加え,吹付システム^(2?4))として乾式,半湿式,湿式に区分し,合計5種の吹付システムにおいて比較テストを実施した.」(摘示1c)ことが記載され、それら5種の吹付けシステムの概要が表1(摘示1d)に示されるところ、その表1の「Wet」の「Method」の欄には、「Shot cast method」の記載とともに、図が示されている。
そして、その表1の下側には、「GR:Grain」、「FP:Finepowder」、「BD:Binder」、「DP:Dispersant」、「HA:Hardening accelerator」との記載があり、これらはそれぞれ、「骨材」、「微粒子」、「結合剤」、「分散剤」、「急結剤」を意味すると認められる。そして、急結剤は水とともに添加されることが認められる。
以上の記載によれば、上記「比較テスト」を実施した上記「Shot cast method」(摘示1eにおいてこれを「ショットキャスト法」と称しているので、以下で「ショットキャスト法」ということとする。)の吹付けシステムは、Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、及び分散剤をミキサーで水を加えて混合し、その混合物をポンプにより吹付けノズルに送給し、さらにその混合物に添加装置を介して送給される急結剤及び水並びにエアを添加し吹付けノズルから吹き付けるものであることが認められる。
刊行物1に記載された「ショットキャスト法」においては、ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、分散剤及び水を「吹付前にミキサーで十分混練している」(摘示1e)ものであり、「ポンプ圧送する」(摘示1e)ことが認められるから、上記「混合物」は混練された坏土ということができ、その「ポンプ」は圧送ポンプということができる。また、圧送は配管によってなされること、吹付けのために添加される「エア」は圧縮空気を用いることが通常であると認められる。そして、その坏土は吹付けが必要な場所、すなわち施工現場、に圧送され、圧縮空気と急結剤等を前記坏土に注入した後に吹付けが必要な箇所、すなわち施工箇所、に吹き付けられるものであるから、坏土を圧送ポンプと圧送配管によって吹付け施工現場に圧送し、吹付けノズルから施工箇所に吹き付けるということができる。
以上の記載及び認定によれば、刊行物1には、
「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、及び分散剤の粉体組成物に水を加えて混練されてなる坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって吹付け施工現場に圧送し、圧縮空気及び急結剤を前記坏土中に注入した坏土を、吹付けノズルから施工箇所に吹き付けるローセメントキャスタブルの吹付け施工方法」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

2-2-3 本件訂正発明と引用発明との対比
(1) 本件訂正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、及び分散剤の粉体組成物」も、本件訂正発明の「耐火性骨材、平均粒径30μm以下の球状化されていないアルミナセメント、平均粒径30μm以下の球状化されていない耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物(球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く)」も、ともに「不定形耐火物用粉体組成物」であるといえる。
すると、本件訂正発明と引用発明とは、
「不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなる坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付ける不定形耐火物の吹付け施工方法」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。
a 不定形耐火物用粉体組成物が、本件訂正発明においては、「耐火性骨材、平均粒径30μm以下の球状化されていないアルミナセメント、平均粒径30μm以下の球状化されていない耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物(球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く)」であるのに対し、引用発明においては、「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、及び分散剤の粉体組成物」であり、本件訂正発明においては、その不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、本件訂正発明においては、「水を8?10重量部加えて混練されて」なるのに対し、引用発明においては、その不定形耐火物用粉体組成物100重量部に加えて混錬されてなる水の割合は明らかではなく、かつ、得られる坏土の流動性が、本件訂正発明においては、「上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、該コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上である自己流動性」であるのに対し、引用発明においては、ポンプ圧送が可能な流動性ではあるものの、その具体的な値は明らかではない点
b 急結剤及び圧縮空気の坏土への注入について、本件訂正発明においては、「急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設け」、「前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入」するのに対し、引用発明においては、急結剤及び圧縮空気の坏土への注入口の位置関係がどうであるのか、圧縮空気の少なくとも一部が急結剤の注入に使用されるのか、明らかではない点
c 圧送ポンプとして、本件訂正発明においては、「ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用」するのに対し、引用発明においては、どのようなポンプを使用するかは明らかではない点
d 急結剤の注入量が、本件訂正発明においては、「前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準の重量で0.05?3重量部」であるのに対し、引用発明においては、明らかではない点
(以下、それぞれ「相違点a」、「相違点b」、「相違点c」、「相違点d」という。)

2-2-4 相違点についての判断
(1) 相違点aについて
(ア) 刊行物2に記載された組成物及びそれから形成した坏土について
刊行物2は、「比較的少量の水を混合したときにフリーフロー性を示す」(摘示2a)、「その施工を容易とする優れた流動性を備え、耐火物施工体の嵩比重が大きいアルミナスピネル系流し込み耐火物用組成物に関する」(摘示2c)発明についての公開特許公報であること、上記発明は、流し込み施工法において使用される耐火物用組成物についての従来技術において「一般に、流し込み耐火物に加える水を多くすれば流し込み耐火物の流動性はよくなるが、施工された耐火物の密度が低くなる他、骨材がセグリゲーション(偏在化)して不均質化しやすいので、加える水の量を少なくして流動性を良くする工夫を必要とする」(摘示2d)という課題があり、「充填密度と均質性を犠牲にすることなくフリーフロー性のある流し込み耐火物を提供できれば、バイブレータの使用を省略でき、さらにはポンピング圧送による流し込み耐火物の施工の機械化と省力化がさらに進展すると期待される」(摘示2e)として、「アルミナスピネル系流し込み耐火物について、フリーフロー性のある、施工性の優れた流し込み耐火物を提供することを目的とする」(摘示2f)ものであることが認められる。
そして、そこには、「粒径74μm以下…の耐火物の結合部を形成する粉末中に2?15重量%のアルミナセメントの他に粒径5μm以下の粒径のアルミナ微粉末が組成物に対して2?15重量%含まれていることで水と混合された坏土の流動性を顕著に向上」(摘示2h)させることができるという知見により、粒径5μm以下の粒径というアルミナの超微粉を所定量含ませることにより、比較的少量の水を混合したときに所定以上のフリーフロー性を示す摘示2bで示される耐火物用組成物が提供されたことが記載されている。
その耐火物用組成物の具体例として、表1、表2において、具体的な組成物が挙げられている。表1、表2における原料について記載すると認められる摘示2iによれば、表2(摘示2j)における左欄の上から「電融アルミナ 粗粒」、「同上 中粒」、「焼成アルミナ 中粒」、「同上 細粒」及び1行とんで「合成スピネル 中粒」、は、それぞれ、「電融アルミナクリンカー」の「粗粒3?10mm」及び「中粒3mm以下」であり、「焼成アルミナクリンカー」の「中粒0.59mm以下」及び「小粒0.3mm以下」であり、「合成スピネルクリンカー」の「中粒1mm以下」であって、「骨材原料」であると認められる。
また、表2における左欄の「合成スピネル 中粒」の上と下の「同上 粉末」(すなわち、「焼成アルミナ」の「粉末」、「合成スピネル」の「粉末」)、「アルミナ微粉末」、「ヒュームドシリカ」は、それぞれ「焼成アルミナ粉末(43μm以下)」、「合成スピネル粉末(74μm以下)」、「アルミナ微粉末(平均粒径約1.5μm)」、「ヒュームドシリカ(平均粒径約0.8μm)」であって、結合部を形成する粉末であると認められ、「分散剤B」は、「ヘキサメタリン酸ソーダ」であり分散剤である。そして、何れの粒子も球状にしようとする処理を施したことは記載されていないから、球状化されていない粉末であると認められる。
その表2に挙げられている組成物のうち、例えば、例7の流し込み耐火物用組成物(以下「引用組成物」という。)は、骨材原料(電融アルミナの粗粒(3?10mm)「28」(重量%(表2左上欄)。以下同じ。)、同中粒(3mm以下)「12」、焼成アルミナの細粒(0.3mm以下)「10」及び合成スピネルの中粒(1mm以下)「15」)と、結合部を形成する粉末(焼成アルミナ粉末(43μm以下)「18」、合成スピネル粉末(74μm以下)「5」、アルミナ微粉末(平均粒径約1.5μm)「8」及びヒュームドシリカ(平均粒径約0.8μm)「1」)と、アルミナセメントB「3」及びヘキサメタリン酸ソーダ「0.05」が配合されているものである。
そして、刊行物2の表3(摘示2k)の「例7」の行には、引用組成物に「混合水量 外掛重量%」で「5.5」の水を加えて混練された坏土の「流動性 フロー値 mm」が「215」であることが認められる。この「流動性 フロー値 mm」は、「JIS-R5201規格のセメントフローコーンに流し込み、フローコーンを抜き取って振動を加えない状態で30秒後に流し込み耐火物の広がり径(直交する2方向の広がり径の測定値の平均値)」(摘示2l)であるから、その「セメントフローコーン」は「70mmφ?100mmφ×60mmの長円錐台形」のものであると認められる。
そうすると、刊行物2には、引用組成物100重量部に対して5.5重量部の水を加えて混錬されてなり、70mmφ?100mmφ×60mmの長円錐台形のセメントフローコーンに流し込み、フローコーンを抜き取って振動を加えない状態で30秒後に流し込み耐火物の広がり径が215mmである坏土が記載されているといえる。
そして、その坏土は「ポンピング圧送」可能なものである(摘示2m)と認められる。
(イ) 対比
本件訂正発明の耐火物用粉体組成物と引用組成物とを対比すると、引用組成物における「骨材原料」(電融アルミナの粗粒、同中粒、焼成アルミナの細粒及び合成スピネルの中粒)は、本件訂正発明の「耐火性骨材」に、引用組成物におけるアルミナ微粉末(平均粒径約1.5μm)及びヒュームドシリカ(平均粒径約0.8μm)粉末は、平均粒径30μm以下の耐火性粉末であって、球状にしようとする処理が施されたことは記載されておらず、アルミナセメントではないから、これは、本件訂正発明の「平均粒径30μm以下の球状化されていない耐火性粉末(アルミナセメントを除く)」に、引用組成物における「アルミナセメントB」はブレーン値が約5000(摘示2i)であるから平均粒径は30μm以下といえ、球状にしようとする処理が施されたことは記載されてはいないから、本件訂正発明の「平均粒径30μm以下の球状化されていないアルミナセメント」に、引用組成物における「ヘキサメタリン酸ソーダ」は、本件訂正発明の「分散剤」に、それぞれ該当し、引用組成物における「ヘキサメタリン酸ソーダ0.05重量%」は、本件訂正発明の「少量の分散剤」ということができ、さらに、引用組成物は、上記のとおり「球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物」ではない。
したがって、本件訂正発明の不定形耐火物用粉体組成物と引用組成物は、ともに、
「耐火性骨材、平均粒径30μm以下の球状化されていないアルミナセメント、平均粒径30μm以下の球状化されていない耐火性粉末(アルミナセメントを除く)及び少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物(球状化された耐火性粉末又は球状化されたアルミナセメントの少なくとも1つを含む不定形耐火物用粉体組成物を除く)」
であるといえる。
さらに、引用組成物に水を加えて混錬されてなる坏土の流動性を測定した「セメントフローコーン」は、本件訂正発明に係るコーン型(上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のもの)と同底面積であって本件訂正発明のコーン型に比し高さが低く上底面積も小さく、本件訂正発明に係るコーン型に完全に内包される形であって、体積が約半分のものである。そうすると、同じ試料を両者のコーン型を使用して測定すれば、本件訂正発明に係るコーン型を使用した方が広がりが大きくなる、すなわち「コーンフロー値」が大きくなることは、明らかである(同等厚さに広がると仮定すれば、後者は前者における約1.4倍、前者において215mmの坏土であれば後者において300mm超、と計算される。)。
したがって、本件訂正発明の不定形耐火物用粉体組成物に水を所定量加えて混練されてなる坏土と引用組成物に水を加えて混練されてなる坏土は、ともに、
「上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が200mm以上となる自己流動性を有する坏土」
であるといえる。
(ウ) 判断
引用発明は、吹付け施工であって「成形枠が不要であり,応急かつ局部補修が可能であるなど,施工面において多くの利点を有している」ものであり、「バインダー量が非常に少ない耐食性の優れた高密度ローセメントキャスタブル」を使用してその「超微粉を十分に分散させ,吸付水分量の減少化を図ることによって,従来の吹付材に比較して,品質的に高密度および高強度の施工体を得るとともに,施工時の発塵の減少,接着率の向上を図るべく」検討を行なったものであり、具体的には、吹付け材の粉体組成物として「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系の代表的なローセメントキャスタブル」を選定し,「吹付施工が可能なように分散剤の種類,量および急結剤の種類,量等」,「吹付材としての最適粒度構成^(1))」の検討を加えて実施した5種の吹付システムの一つである。
それら5種の吹付システムの比較テストにおいて得られた施工体は、図1(摘示1f)によれば「ショットキャスト法以外の吹付システムについては,吹付水分を減少すると接着率は低下」(摘示1e)することが示され、図2(摘示1h)によれば「吹付水分の減少に従ってほぼ直線的に見掛気孔率が低下し,各種吹付システム間の差は少ない」(摘示1g)として、「高密度の品質を得るには,吹付水分の減少が必要」(摘示1g)であると記載されている。さらに、図3(摘示1j)によれば、「吹付水分が減少すれば曲げ強度は増加し,かつ低水分領域においては,吹付水分のわずかの低下により著しく曲げ強度が向上する傾向」(摘示1i)にあることが示され、「吹付水分をできるだけ減少させることは,強度向上に大きく寄与する」(摘示1i)ことが記載され、さらに、同図によれば、「ショットキャスト法」においては、同じ水の割合の他の吹付けシステムに比し曲げ強度が有意に大きい施工体が得られることが認められる。
そして、引用発明の吹付け施工方法における「吹付水分」は、図1から図3のプロットによれば、概ね10?14%であることが認められ、その「吹付水分」の範囲において、「吹付前にミキサーで十分混練しているため,吹付水分に関係なく高接着率が得られる」(摘示1e)とされるものの、「ポンプ圧送するため高水分領域でしか吹付けできない欠点がある」(摘示1e)とされている。そうすると、引用発明の方法における、概ね10?14%の「吹付水分」は「高水分領域」であって、施工体の品質からみて好ましくないけれども、「ポンプ圧送」をする必要があるため、「高水分領域」にせざるをえなかったものであることが認められる。
すると、引用発明の吹付け施工方法は、「吹付前にミキサーで十分混練しているため,吹付水分に関係なく高接着率が得られ」(摘示1e)、「吹付施工の重要特性」(摘示1b)とされる接着性に優れるものであって、かつ、同じ水の割合の他の吹付けシステムに比し曲げ強度が大きい施工体が得られる、という優れた特性を有する施工方法であるものの、その坏土はポンプ圧送を可能とするためには「高水分領域」(「吹付水分」が概ね10?14%の範囲)のものにせざるをえないものであって、高水分であるために高品質(見掛気孔率が低く、曲げ強度が大きい)施工体が得られないという欠点があるものであったことが認められる。
そうすると、引用発明には、上記「高水分領域」より低水分でポンプ圧送をすることができる坏土があれば、引用発明の吹付け施工方法に使用し、付着率が高く、低見掛気孔率で高曲げ強度の施工体を得ようとする強い動機付けがあるといえる。
そして、刊行物2には、上記「高水分領域」(概ね10?14%)より低水分でポンプ圧送をすることができるとされる坏土が記載されているのである。
そうすると、刊行物2に接した当業者であれば、引用発明の吹付け施工方法の上記欠点を解消し得、低見掛気孔率で高曲げ強度の施工体が得られることを期待して、引用発明において、刊行物2に記載された坏土をその吹付け材として使用することは、ごく自然の発想であって、容易に想到し得たことということができる。
その使用に当たっては、刊行物1の摘示1cに記載されているとおり、分散剤及び急結剤の種類及び量並びに吹付け材としての最適粒度構成についての調整を適宜行ない引用発明の吹付け施工方法にとって好適な吹付け材とすることは当然のことということができる。
また、加える水の割合についても引用発明において引用組成物から形成される吹付け施工用坏土を使用するに当たっては、その水分調整を適宜行ない引用発明の吹付け施工方法にとって好適な範囲とすることも当然のことということができる。
すなわち、引用組成物には幅があり、引用組成物の範囲においてそれに包含される成分、組成、粒度及びその分布なども様々なものが包含されるから、その成分組成に応じて加える好適な水の割合を増減することはあることである(例えば、骨材の嵩比重、粒度分布、粉粒体の乾燥の程度により添加する水の割合を増減して流動性等を調整する必要がある等)。加えて、用いる施工装置その他の施工状況は一律ではないから、それらに応じて添加する水の割合を増減することはあることである(例えば、ポンプやエアの圧送力、配管径の大小によっては、添加する水の割合を増減等して流動性等を調整する必要がある等)。
このように、吹付け施工用の粉体組成物における詳細な成分、組成、粒度、施工装置その他の施工状況等に対応して、粉体組成物に添加する水の割合は適宜増減することがあるのであるから、引用組成物を引用発明の吹付け施工方法に使用するに当たって、吹付け施工用の粉体組成物における詳細な成分、組成、粒度、施工装置その他の施工状況等に対応して混練時に添加する水の割合を増加して、例えば「粉体組成物100重量部に対して8?10重量部」程度とすることは、適宜なし得ることということができる。
そもそも、本件訂正発明は、混練時に添加する水の割合を「8?10重量部」と規定しているが、本件訂正明細書にはその特定の範囲に特段の技術的な意義があることは記載されるものではない。すなわち、本件訂正明細書には、「粉体組成物100重量部に対して加える水の量は、粉体組成物に配合される主要原料である骨材の比重や気孔率によって変化するが、自己流動性を付与するために必要な坏土中の水分量には自ら下限があり、粉体組成物100重量部に対して4重量部以上(比重が大きく気孔率が小さい電融アルミナ等の骨材の場合には4.5重量部で自己流動性を付与できる)の水分を加える。」(段落【0017】)、「ポンプ圧送する坏土中の水分、すなわち粉体組成物に加える水分は、施工された不定形耐火物の気孔率を小さくして耐火物としての良好な特性を確保できるように、粉体組成物100重量部に対して15重量部以下である。さらには12重量部以下とするのが好ましい。坏土中の水分が少なければ、坏土中に含まれる耐火性骨材が沈降して坏土が不均質化するのを抑制でき、気孔率が小さく均質な組織の不定形耐火物の施工体が得られる。」(段落【0018】)と記載されるのみである。むしろ「急結剤の注入口を圧縮空気の注入口と同位置にすると、急結後の坏土の空送負荷区間は、ノズル配管部のみでよく、注入する空気量を低下できるため、特に低水量(実施例と同じ基準で好ましくは5?7%)で施工されるので不定形耐火物で発生する粉塵量を低下させうる。」(段落【0011】)、「急結剤の注入筒所を圧縮空気の注入口と同位置にした場合には、急結後の坏土の空送負荷区間は短くでき、注入する空気量を低下できるため、特に低水量(実施例と同じ基準で好ましくは5?7%)で施工できるので、得られる不定形耐火物の嵩比重をさらに大きくでき、また発生する粉塵量を低下させることができる。」(段落【0041】)と、急結剤及び圧縮空気の注入条件を変えることによって「5?7%」とでき、それが好ましいとすら記載されているのである。
そうすると、本件訂正明細書には、混練時に添加する水の割合は、不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して15重量部以下、さらには12重量部以下、好ましくは「5?7%」とされるように広範な範囲で使用することができるものとされおり、実施例の粉体組成物について8?10重量部が使用されているとしても、多様な「不定形耐火物用粉体組成物」を含み、また、施工装置その他の施工状況を包含する本件訂正発明において、混練時に添加する水の割合を「不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して8?10重量部」とすることに特段の技術的意義があるとは認められない。
(エ) まとめ
以上のとおり、引用発明において、相違点Aに係る本件訂正発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本件訂正明細書を検討しても、本件訂正発明がこの点によって格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。
(オ) 審判請求人の主張
審判請求人は、平成20年10月30日付けの意見書において、以下の主張をすると認められる。
(a) 本件訂正発明の「耐火性骨材」の最大粒径は、吹付け施工用の組成物の技術常識から3mm前後であって、最大粒径10mmのような大きな粒子径のものを含むものではないところ、最大粒径10mmを含む引用組成物の「骨材原料」は、本件訂正発明の「耐火性骨材」であるとはいえない(意見書第2頁からの1.(1)のうち4頁15行まで)。
(b) 引用組成物は流し込み施工用の組成物であり、「骨材原料」の最大粒径が本件訂正発明の「耐火性骨材」の最大粒径より大きい。流し込み施工用組成物から形成される坏土がポンプ圧送可能であるからといって、これを湿式吹付け施工に用いた場合にポンプ圧送可能であるとはいえないから、引用組成物を引用発明に適用することはできない(意見書第2頁からの1.(1)の4頁16行から最後(6頁14行)まで)。
(c) 引用組成物は特定割合の水を混合することで、耐食性、流動性及び施工性をバランスさせているのであって、水をその特定割合より多く混合すると耐食性が低下することは当業者に自明であるから、引用組成物の水の割合を増やして8?10重量部することは当業者の技術常識に逆行する(意見書6から7頁(2))。

(a)の主張について
本件訂正発明において「耐火性骨材」の粒径については、何ら規定するものではないから、審判請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではないが、仮に、本件訂正発明の「耐火性骨材」の最大粒径は、審判請求人が技術常識と主張する3mm前後以下、あるいは、本件訂正明細書の実施例で用いられている5mm以下に限定されるものであると解するとしても、引用組成物の「骨材原料」は、その一部の電融アルミナ粗粒に10mmの粒子を含み得るものの、具体的な粒度構成を明らかにするものではないから、引用組成物の粒度構成が10mmの粒子を含むものである、ということもできない。よって、審判請求人の、引用組成物の「骨材原料」に10mmの粒子が含まれるとする主張も、適切ではない。
さらに加えて、仮に引用組成物の電融アルミナ粗粒の粒度構成が10mmの粒子を含むものであったとしても、引用発明において引用組成物を吹付け材として使用するに当たって行われる、「吹付材としての最適粒度構成^(1))の検討」(摘示1c)によって、引用組成物の「骨材原料」の最大粒径は、審判請求人が粒度構成について主張する技術常識によれば、より小さい適切な粒度構成に調整され結果的に10mmの粒子を含まないものに調整されるのであるから、引用組成に10mmの粒子を含むことが、引用組成物から形成される坏土を引用発明の吹付け施工方法に適用することの妨げになるものではない。
よって、審判請求人の上記主張は、上記判断を左右するものではない。
(b)の主張について
刊行物2に係る坏土は、粉体組成物に「粒径5μm以下の粒径のアルミナ微粉末が組成物に対して2?15重量%」含ませることにより「坏土の流動性を顕著に向上させている」(摘示2h)ものであって、ポンプ圧送性がある(摘示2m)とされているものである。そして、刊行物2に係る坏土に包含される引用組成物に5.5重量%(外掛け)の水を混錬して形成される坏土のコーンフロー値は215mmであって、コーンフロー値が「180mm以上であればポンプ圧送による施工が可能な自己流動性を備えている」(特開平6-287075号公報(関連無効審判における甲2刊行物)段落【0015】。コーンフロー値は刊行物2と同等の方法により測定した値)と、ポンプ圧送による施工が可能な自己流動性よりも十分大きい流動性を有するものであるから、刊行物2に接した当業者であれば、引用組成物から比較的少量の水を混錬して形成される坏土は、具体的データはないものの、ポンプ圧送をすることができるものであると理解するのが自然である。
そして、上記のとおり、引用組成物を吹付け材として使用するに当たっては、刊行物1に記載されるとおり「吹付材としての最適粒度構成^(1))の検討」(摘示1c)が行われて適宜適切な粒度構成に調整されるのであって、審判請求人の上記(a)で主張する技術常識によれば、その「骨材原料」の最大粒径は小さく調整されるのであるから、そのように調整された吹付け施工用の組成物から形成される坏土であれば、ポンプ圧送時の粗骨材の分離や配管の閉塞の可能性は通常低減することが予想される。そうすると、たとえ引用発明の湿式吹付け施工方法において刊行物2にいうポンプ圧送性よりも高いポンプ圧送性が必要であるとしても、引用組成物から形成される坏土を引用発明の吹付け施工方法に使用すると「ポンプ圧送可能であるとはいえない」と当業者が予測するとはいえない。それにもかかわらず、引用組成物から形成される坏土を使用すると「ポンプ圧送可能であるとはいえない」と当業者が予測する、とする適切な根拠理由は示されてはいない。
なお、審判請求人が提出した実験報告書(参考資料2)には、刊行物2の「実施例の表1中の例3の組成物」「明細書に記載の原料を用いて、表1に記載の配合量に従い…調合した」もの(以下、「実験組成物」という。)から形成される坏土について吹付け試験が実施されたことが記載され、その「5.実験結果(その1)」(3から4頁)において、添加水量外掛け6.5重量%、フロー値168mmとされる坏土は、ポンプ圧送することができなかったことが示されている。しかし、「実験組成物」は、例7の組成物である「引用組成物」とは異なるものであるし、しかも、「実験組成物」の具体的な組成(「骨材原料」の粒度など)は明らかにされておらず、刊行物2の例3の組成物を用いたといえるものである否かの確認ができないものである。加えて、「実験組成物」において、添加水量外掛け6.25重量%とした坏土(実験したものより水割合が低い。)のものとされる「写真3」(スケールが付されていない。)によっては、実験で用いた坏土のコーンフロー値を確認することもできない。すなわち、この実験報告書(参考資料2)は、その「実験組成物」及び坏土が試験資料として適切なものであったかを判断することすらできない等の不適切なものである。このような実験報告書(参考資料2)は、引用組成物から形成される坏土を使用すると「ポンプ圧送可能であるとはいえない」と当業者が予測する、とする根拠として適切なものとはいえない。
よって、審判請求人の主張は、採用することができない。
(c)の主張について
引用発明の吹付け施工方法において、上記(ウ)のとおり、「高水分領域」(概ね10?14%)の坏土を吹付け施工することができたことが示されており、それよりも低水分の坏土を使用すれば、より低見掛気孔率、高曲げ強度の施工体が得られることが予測されるのである。そうすると、当業者は、引用組成物に添加する水の割合を8?10重量部としたとき得られる施工体は、概ね6%としたとき得られる施工体よりも気孔率の増加や曲げ強度の低下があることを予測するとしても、概ね10?14%としたとき得られる施工体よりは低見掛気孔率、高曲げ強度のものであることを、予測すると認められる。
そうすると、審判請求人のいうとおり水をその特定割合より多く混合すると耐食性が低下することが当業者に自明であるとしても、引用組成物から坏土を形成する際における混練時に添加する水の割合を、6%よりは多いが概ね10?14%よりは少ない範囲である、8?10重量部の範囲とすることが妨げられるものではない。
審判請求人は、参考資料2の「6.実験結果(その2)」(4から5頁)において、添加水量外掛け9重量%、フロー値256mmとされる坏土がポンプ圧送することができなかったことが示されていることをその主張の根拠の一つにするようである。しかし、実験報告書(参考資料2)は、少なくとも、その「実験組成物」及び坏土は試験資料として適切なものであったかを判断することができないような不適切なものであり、根拠とすることができるものではないことは、上記(b)のとおりである。
よって、審判請求人の主張は、採用することができない。

(2) 相違点bについて
(ア) 引用発明は、「圧縮空気並びに急結剤及び水を前記坏土に注入した坏土を、吹付けノズルから施工箇所に吹き付ける」湿式吹付け施工法であるところ、その坏土に注入する急結剤は、吹付け材の施工箇所における付着性を向上させ、坏土が流れ落ちること(ダレ)を防止する程度に施工箇所における流動性を低下させ、坏土が流れ落ちること(ダレ)を防止する等のために使用する薬剤であると認められ、引用発明において、その機能を発揮せしめるにはその急結剤を坏土により良好に分散させる必要があることは自明のことである。
ところで、コンクリートやモルタルなどの湿式吹付け施工法における急結剤と圧縮空気の湿式吹付け材への注入に際して、急結剤を良好に分散させるなどのために湿式吹付け材に注入される圧縮空気の少なくとも一部を使用して急結剤を注入することは本件特許の優先日前において慣用されている手段であり(必要ならば、例えば、特開昭61-72173号公報(以下「周知例A」という。)等参照)、その際圧縮空気の全部を使用する場合は急結剤注入口と圧縮空気注入口とが同位置になることは当然として、圧縮空気の一部を使用する場合は圧縮空気の湿式吹付け材への推進力付与、急結剤の分散等の機能を考慮すれば、急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流に設けることは通常の発想であり、何ら格別困難なことではない(上記周知例Aもその配置である。)。
そうすると、坏土に急結剤を良好に分散させる必要があることが自明な引用発明において、急結剤及び圧縮空気を注入するにあたり、「急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設け」、「前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入」することは、当業者が必要に応じ適宜なし得る程度の設計事項であると認められる。
そして、本件訂正明細書を検討しても、本件訂正発明がこの点によって格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。
(イ) 審判請求人の主張
審判請求人は、平成20年10月30日付けの意見書において、コンクリートまたはモルタルの吹付け施工方法と不定形耐火物の吹付け施工方法においては、吹付け材の流動性を低下させる時間スケールとメカニズムが相違するから、コンクリートまたはモルタルの技術が、常に不定形耐火物組成物に同じように採用できるものとはいえない(意見書第8から9頁2.)と主張する。
しかしながら、吹付け材へ急結剤を添加する技術的意義は、上記のとおり、吹付け材の流動性を急速に低下させ、施工箇所において、付着性を向上させ吹付け材が流れ落ちること(ダレ)を防止すること等にあるから、コンクリートやモルタルや不定形耐火物など吹付け材が異なることによって、上記技術的意義に相違が生ずることはないと認められる。そして、審判請求人が主張する「吹付け材の流動性を低下させる時間スケールとメカニズム」の相違とはどのようなもので、その相違がコンクリート又はモルタルの技術の引用発明への適用において具体的どのような妨げになるのか等、その具体的根拠理由を審判請求人は何ら明らかにするものではない。
よって、この主張は、上記判断を左右するに足りるものではない。

(3) 相違点cについて
湿式吹付け材や不定形耐火物の坏土を圧送するためのポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプは、本件特許の優先日前においてごく慣用されている技術にすぎず(必要ならば、例えば周知例A及び「不定形耐火物の施工機械の進歩」(セラミックデータブック‘ 87 工業製品技術協会 昭和62年(1987年)190頁「表2」及び「4・1 圧送機械」の項等参照)、引用発明の圧送ポンプは、上記慣用のピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプであるか、そうでないとしても、これらのポンプとすることは当業者が適宜なし得る程度の設計事項であると認められる。
そして、本件訂正明細書を検討しても、本件訂正発明がこの点によって格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

(4) 相違点dについて
引用発明における「急結剤」とは、坏土、モルタル、コンクリートなど吹付け材の施工箇所における付着性を向上させ、坏土が流れ落ちること(ダレ)を防止する程度に施工箇所における流動性を低下させ、坏土が流れ落ちること(ダレ)を防止する等のために使用する薬剤であると認められ、このような急結剤が湿式吹付け施工方法において本件特許の優先日前慣用されているものであることは、刊行物1に記載のとおりである。
そして、急結剤の上記機能が種類及び量などに依存することや、吹付け材の組成などに対応して適切な種類の急結剤を選択した上で、所期の機能を発揮せしめるべくその量を調整することも、本件特許の優先日前において湿式吹付け施工方法において慣用されている技術である。
そうすると、引用発明において、使用する吹付け材及び急結剤の種類に応じ、急結剤の適切な添加割合を実験する等して検討し、選定することは当業者の通常の創作力の範囲内のことである。
そして、本件訂正明細書を検討しても、本件訂正発明がこの点によって格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

(5) 効果について
本件訂正明細書の段落【0040】?【0041】の【発明の効果】の欄には
(a) 「本発明の不定形耐火物の吹付け施工方法によれば、流し込みによる施工方法と比べて型枠が不要であるなどによって顕著な省力化が達成でき、工期も顕著に短縮できるという利点が得られる。また、粉体組成物に所要の水分加えて混練してある自己流動性を有する坏土をポンプ圧送して吹付け施工することにより、施工体の気孔率が従来の吹付け施工方法による施工体の気孔率と比べて顕著に小さくでき、流し込み施工された不定形耐火物の施工体に劣らない嵩比重、すなわち良好な耐食性を有する不定形耐火物の施工体が得られる。この不定形耐火物の施工体は、従来の吹付け施工法による嵩比重の小さい不定形耐火物の施工体と比べて耐火物としての特性が顕著に優れている。」
(b) 「また、吹付け施工時のリバウンドによるロスが非常に少ないので不定形耐火物の施工歩留がよく、粉塵がほとんど発生しないので作業環境も良好である。特に、急結剤の注入筒所を圧縮空気の注入口と同位置にした場合には、急結後の坏土の空送負荷区間は短くでき、注入する空気量を低下できるため、特に低水量(実施例と同じ基準で好ましくは5?7%)で施工できるので、得られる不定形耐火物の嵩比重をさらに大きくでき、また発生する粉塵量を低下させることができる。このような省力化と良好な作業環境の確保は、今後の産業の存続と発展に不可欠な要件でもあるので、その産業上の価値は多大である。」
と記載されている。
しかるに、これらの効果は、引用発明の湿式吹付け施工方法自体の効果であるか、この方法において低い水の割合の坏土を適用した場合に予想される効果の範囲内の効果であって、格別のものとは認められない。

2-2-5 まとめ
以上のとおり、本件訂正発明は、その出願前(優先権主張日前)に頒布された刊行物である刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本件訂正は特許法第126条第5項に規定する要件に適合しないから、本件訂正の請求は、認容することができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-28 
結審通知日 2008-12-02 
審決日 2008-12-26 
出願番号 特願2000-44051(P2000-44051)
審決分類 P 1 41・ 121- Z (F27D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三崎 仁寺本 光生  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 守安 太郎
平塚 義三
青木 千歌子
吉水 純子
登録日 2000-12-08 
登録番号 特許第3137625号(P3137625)
発明の名称 不定形耐火物の吹付け施工方法  
代理人 小野 誠  
代理人 川口 義雄  
代理人 坪倉 道明  
代理人 大崎 勝真  
代理人 金山 賢教  
代理人 渡邉 千尋  

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