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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1192688
審判番号 不服2006-13760  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-29 
確定日 2009-02-12 
事件の表示 特願2001-357413「電子写真装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年5月30日出願公開、特開2003-156870〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯等
本願は、平成13年11月22日の出願であって、平成18年5月30日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年18年8月23日に手続補正(審判請求書の「請求の理由」の追加)がなされ、平成20年8月22日付で当審にて拒絶理由が通知され、同年10月28日付で意見書と共に手続補正書が提出されたものであり、「電子写真装置」に関する。

2.当審における拒絶理由の概要
・平成20年8月22日付で当審から拒絶理由を通知するに際しての本願の特許請求の範囲・請求項1?2は以下の通りである。

『【特許請求の範囲】
【請求項1】表面離型層で被覆された弾性層を有し、互いに圧接回転する定着体及び加圧体と、定着体及び加圧体の少なくとも一方が加熱する加熱手段とを有し、トナーの未定着像を担持する記録媒体を定着体と加圧体との間に搬送して加熱及び加圧することにより、該未定着像を記録媒体上に定着させる電子写真装置において、
該定着体は、弾性層が絶縁性ゴムで形成され、表面離型層がフッ素樹脂のコート層又はチューブ構造であり、該加圧体は、弾性層が導電性または絶縁性ゴムで形成され、表面離型層がフッ素樹脂チューブ構造である定着装置を有し、該トナーが価数の異なる二種以上の金属塩を含有し、トナー全質量に対し最も多く含まれる金属塩の含有量をa(質量%)、次に多く含まれる金属塩の含有量をb(質量%)としたとき、a及びbが下記式(1)で表される関係であることを特徴とする電子写真装置。
式(1)
2.0≧a≧0.1
1.0≧b≧0.01
7.5≧a/b≧1.1
ただしa、bの質量は無水物換算値を表す。
【請求項2】 前記a(質量%)のトナー全質量に対し最も多く含まれる金属塩が凝集開始剤であり、かつ前記b(質量%)の次に多く含まれる金属塩が凝集停止剤であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真装置。』

・平成20年8月22日付で当審から通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
『本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項第1?2号に規定する要件を満たしていない。

A-1.各請求項でいう「金属塩」の具体的・技術的な意味内容や包含する範囲が不明確であり、そのため、各請求項で示される本願発明の特徴的構成が不明となっている。
そもそも電子写真装置用のトナーに配合される「金属塩」には、ステアリン酸金属塩(滑剤)やサリチル酸金属塩(荷電制御剤)などの有機金属塩を始めとして多種多様なものがあるところ、明細書に具体的に記載され説明されているのは、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化ナトリウムから選択される特定の金属塩化物の無機塩、2種からなる特定の組合せのみである。
明細書の記載は、クレームをサポートしていないし、当業者容易実施性の点でも不備であると指摘される。

A-2.請求項1については、仮に、「金属塩」が上記特定の金属塩化物の無機塩2種の組合せに限定されたとしても、やはり、明細書の記載でサポートされているものとは認められない。
すなわち、該特定金属塩は、水系媒体中で樹脂粒子を塩析・凝集させて
トナー粒子化させる凝集開始剤、凝集停止剤として使用され、そのゆえに、トナー粒子中に均一且つ希薄に存在し(15段落)、しかも、トナー粒子表面からは洗浄水により除去されている(54段落)ので、明細書記載の所期の作用効果が奏されるものと認められるところ、請求項1では、該特定金属塩の分布状況・由来・配合目的が一切示されておらず、本願明細書にて具体的に作用効果が確認されているものと合致していないからである。 』

3.審判請求人による手続補正、及び、意見書における主張
・上記拒絶理由に対し、審判請求人は、平成20年10月28日付手続補正により、特許請求の範囲・請求項1?2を以下のものとした。

『【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面離型層で被覆された弾性層を有し、互いに圧接回転する定着体及び加圧体と、定着体及び加圧体の少なくとも一方が加熱する加熱手段とを有し、トナーの未定着像を担持する記録媒体を定着体と加圧体との間に搬送して加熱及び加圧することにより、該未定着像を記録媒体上に定着させる電子写真装置において、
該定着体は、弾性層が絶縁性ゴムで形成され、表面離型層がフッ素樹脂のコート層又はチューブ構造であり、
該加圧体は、弾性層が導電性または絶縁性ゴムで形成され、表面離型層がフッ素樹脂チューブ構造である定着装置を有し、
該トナーが価数の異なる二種以上のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、鉄あるいはアルミニウムの三価の金属塩、及びチタンあるいは四価の金属塩から選択される無機金属塩を含有し、トナー全質量に対し最も多く含まれる金属塩の含有量をa(質量%)、次に多く含まれる金属塩の含有量をb(質量%)としたとき、a及びbが下記式(1)で表される関係であることを特徴とする電子写真装置。
式(1)
2.0≧a≧0.1
1.0≧b≧0.01
7.5≧a/b≧1.1
ただしa、bの質量は無水物換算値を表す。
【請求項2】 前記トナーが樹脂粒子を水系媒体中で塩析/融着させて得られたトナーであり、前記a(質量%)のトナー全質量に対し最も多く含まれる無機金属塩が凝集開始剤であり、かつ前記b(質量%)の次に多く含まれる無機金属塩が凝集停止剤であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真装置。』

・また、審判請求人は、上記拒絶理由に対して 以下のように主張している。
『ご指摘事項A-1について
ご指摘ありました「・・・「金属塩」の具体的・技術的な意味内容や包含する範囲が不明瞭であり、・・・」との点につきまして、上記請求項に示しましたとおり、本意見書と同日付け提出の手続補正書にて、明確化いたしました。
すなわち、「金属塩」の具体的・技術的な意味内容や包含する範囲として、上記のとおり「価数の異なる二種以上のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、鉄あるいはアルミニウムの三価の金属塩、及びチタンあるいは四価の金属塩から選択される無機金属塩を含有し、トナー全質量に対し最も多く含まれる金属塩の含有量をa(質量%)、次に多く含まれる金属塩の含有量をb(質量%)」と明確化するものであります。
また、本願実施例は、特許法施行規則25条による様式30のハに、「発明の実施の形態を記載し、必要があるときは、これを具体的に示した実施例を記載する。その発明の形態は、特許出願人が最良と思うものを少なくとも一つ掲げて記載する。」とありますので、当該様式に則り、上記金属塩群の代表例をもって記載するものであります。
従いまして、以上のとおりでありますので補正した請求項について、当該ご指摘の事項は明確であると思量いたします。

ご指摘事項A-2について
ご指摘の「・・・請求項1では、該特定金属塩の分布状況・由来・配合目的が一切示されておらず、本願明細書にて具体的に作用効果が確認されているものと合致していないからである。」との点につきまして、以下のとおり明確であると思量いたします。
すなわち、本願段落番号(0015)でも示してあります様に「塩析/融着させて製造したトナーは、トナー中に塩類が均一且つ稀薄に存在する」と示すことから、「トナー樹脂粒子を水系媒体中で塩析/融着させて製造」することが明確であり、当業者であれば、こうしたトナーの製造方法を良く知るところでありますので、その「金属塩の分布状況」についても、どの程度の、どの様なのものであるかを知るところのものであります。
そして、本願発明では、こうした知られたトナーの製造方法において、その「金属塩」の含有量を上記式(1)のとおりとしたものであります。その方法は、段落番号(0054)にも記載の様な方法にて実施することができ、その具体的なやり方は当業者が常識的に行うことができるものであります。』

4.当審の判断
(a)特許法第36条第6項第1号に規定する要件について
審判請求人は、【請求項1】の「金属塩」を「価数の異なる二種以上のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、鉄あるいはアルミニウムの三価の金属塩、及びチタンあるいは四価の金属塩から選択される無機金属塩」と限定した。
そこで検討するに 、該「無機金属塩」限定では、例えば、本件明細書【0118】?【0119】で、メルカプトシラン系連鎖移動剤の代替物として適宜使用できる連鎖移動剤であり「使用量としては、全トナー質量の0.01?5質量%が好ましい」と説明されている「亜硫酸ナトリウム」、「重亜硫酸ナトリウム」、「重亜硫酸カリウム」などの「無機金属塩」も対象内となる。
そして、それら連鎖移動剤の含有量は、本願発明・式(1)で規定する最多含有の無機金属塩の値域「2.0≧a(質量%)≧0.1」や次に多く含まれる無機金属塩の値域「1.0≧b≧0.01」と全く重複している。
してみると、該「無機金属塩」限定の新【請求項1】は、依然として、明細書で説明されている内容から逸脱した、種々雑多な態様を広く包含するものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないといわざるを得ない。

(b)特許法第36条第4項に規定する要件について
明細書の発明の詳細な説明欄や実施例欄で開示、説明されているのは、最多含有の無機金属塩が水系媒体中のトナー樹脂粒子の凝集開始剤の塩素塩であり、次に多く含まれる無機金属塩が水系媒体中のトナー樹脂粒子の凝集停止剤の塩素塩である僅かな態様のみであり、新【請求項2】で示される付加構成を伴う態様のごく一部に過ぎない。
してみると、本願明細書には、新【請求項1】の発明について当業者が容易に追試できる程度に記載がなされているとは認められない。

(c)特許法第36条第6項第2号に規定する要件について
審判請求人は、新【請求項1】について、「価数の異なる二種以上のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、鉄あるいはアルミニウムの三価の金属塩、及びチタンあるいは四価の金属塩から選択される無機金属塩」と規定したこと、且つ、請求項1・式(1)の含有量の規定があることから、「無機金属塩」の具体的な種類や内容は、当業者にとって明確である旨反論している。
しかし、上記「4.(a)」で検討した「メルカプトシラン系連鎖移動剤の代替物として適宜使用できる連鎖移動剤」の「亜硫酸ナトリウム」の事例からも明らかなように、無機金属塩の種類の規定も、式(1)の含有量の規定も、明細書で説明されている種類・内容・配合趣旨とは別異の種々雑多な無機金属塩を排除する規定として機能していない。
先の拒絶理由でも指摘したとおり、「無機金属塩」自体を実施例相当に厳密に規定せず、配合目的「水系媒体中で樹脂粒子を塩析・凝集させてトナー粒子化させる凝集開始剤・凝集停止剤」も規定せず、配合量についてもトナー配合用無機金属塩として極ありふれた範囲を示す「式(1)の含有量規定」のみでは、従来技術のトナーと区別することはできない。
してみると、新【請求項1】は、本願発明を明確に示しているとは言えず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件出願は、特許法第36条第4項及び第6項第1?2号に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-18 
結審通知日 2008-11-25 
審決日 2008-12-09 
出願番号 特願2001-357413(P2001-357413)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G03G)
P 1 8・ 536- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高松 大  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 淺野 美奈
伏見 隆夫
発明の名称 電子写真装置  

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