• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60G
管理番号 1192710
審判番号 不服2006-25164  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-06 
確定日 2009-02-12 
事件の表示 平成 8年特許願第182290号「動力車用車輪懸架装置調整システム」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月 4日出願公開、特開平 9- 30228〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、パリ条約に基づく優先権主張を伴う平成8年7月11日(優先日、1995年7月15日 独国)の出願であって、平成18年7月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月6日に本件審判の請求がなされるとともに、同年11月28日付けで手続補正(前置補正)がなされたものである。

【2】平成18年11月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年11月28日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
平成18年11月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 一つの車輪と車体との間隔を、前記車輪の実際の間隔を測定するセンサ装置と前記実際の間隔の異常状態を検出する評価装置とを用いて目標間隔に調整するための動力車用車輪懸架装置調整システムにおいて、
評価装置(8)が、少なくとも二つの車輪(2,3)の実際の間隔〔h(実際値 左車輪),h(実際値 右車輪)〕の変化を検出して、下限閾値(S1)及び上限閾値(S2)と比較するとともに、所定のタイムウィンドウ(tT)の範囲内で、一つの車輪(3)の実際の間隔〔h(実際値 右車輪)〕の変化が下限閾値(S1)以下であり且つ他の車輪(2)の実際の間隔〔h(実際値 左車輪)〕の変化が上限閾値(S2)を越えているときに、下限閾値を下回っていることを検知したセンサ装置(6)に欠陥(7)があるとの判断を行ない、調整過程の間、評価装置(8)は非作動状態にあることを特徴とする動力車用車輪懸架装置調整システム。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「評価装置(8)」について「センサ装置(5,6)に欠陥(7)があるとの判断を行ない」としていたのを「下限閾値を下回っていることを検知したセンサ装置(6)に欠陥(7)があるとの判断を行ない」との限定を付加して特定したものである。上記補正事項は、本件補正前の請求項1に記載された事項に、上記限定を付加するものであるから、平成18年改正前特許法(以下「旧法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下で検討する。

2.引用例とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開昭61-282110号公報(以下「第1引用例」という。)には、「車高検出器故障検出装置」に関して、図面とともに次のア?ウの事項が記載されている。
ア 「第1図に示す1が、車体のフロント側下面に取付けられる前輪側の車高検出器、2は、車体のリヤ側下面に取付けられる後輪側の車高検出器であり、これら車高検出器1,2は、例えば、その取付位置から路面までの高さに応じた車高検出信号DH_(1),DH_(2)を出力する超音波距離測定装置によって構成される。また、3は車速検出器であり、例えば、エンジンに接続された変速機の出力側回転数に応じた車速検出信号DVを出力する。
これら2個の車高検出器1,2及び車速検出器3の各検出信号DH_(1),DH_(2),DVは、マイクロコンピュータ4を有する制御装置に供給される。マイクロコンピュータ4は、入出力ポート、演算処理装置(CPU) 、RAM,ROM等の記憶装置等を具え、その入力側ポートに前記車高検出信号DH_(1),DH_(2)及び車速検出信号DVが入力される。そして、これらの検出信号DH_(1),DH_(2),DVと自己の出力信号とに基づいて、その判断の結果としての、故障があることを表す異常信号又は正常であることを表す正常信号のいずれかの故障判断信号を出力する。
かかるマイクロコンピュータ4は、通常状態では、記憶装置のROMに予め記憶された図示しないメインプログラムに従って、例えば、車速と車高とに基づいて高速走行時にはばね定数を高くして走行安定性を確保すると共に、低速走行時にはばね定数を低くして乗心地を向上させる一般走行時の車高制御処理を実行する。
そして、このマイクロコンピュータ4が、上記一般走行時の車高制御処理を実行しつつこれと併せて、記憶装置のROMに予め記憶された第2図に示す、例えば100msec毎に実行されるタイマ割込処理プログラムに従って、この発明に係わる車高検出器故障診断処理を実行する。」(第2頁右下欄第6行?第3頁左上欄第20行)
イ 「今、車両が走行状態にあるものとして、この状態で所定時間毎に第2図の割込処理プログラムが実行されると、まず、ステップ1で車速検出器3の車速検出信号DVを読み込み、これに基づいて車速値Vを算出する。次いで、ステップ2に移行して、車両が走行状態にあるか否かを判定する。このとき、車両は走行状態にあり、走行中であると判定されるため、ステップ3に移行する。
ステップ3では、前輪側車高検出器1の車高検出信号DH_(1)を読み込み、これに基づき前輪側車高値H1aを算出してそれを第1車高値記憶領域に一時記憶し、次に、ステップ4に移行して、記憶装置の第2車高値記憶領域に記憶されている前輪側車高検出器1の前回の検出車高値H1bを読み出し、次いで、ステップ5に移行して、ステップ3で読み込まれた今回の検出車高値H1aとステップ4で読み出された前回の検出車高値H1bとを比較することにより、両車高値H1a,H1bが等しいか否かを判定する。
このとき、例えば、第3図に示すケース(1)のように、前輪側の前回の車高検出時から今回の車高検出時までの間に車高差が生じておらず両検出車高値H1a,H1bが等しい値を示している場合には、ステップ5でH1a=H1bであると判定されるため、ステップ16に移行して、後輪側車高検出器2の車高検出信号DH_(2)を読み込み、これに基づき後輪側車高値H2aを算出してそれを第3車高値記憶領域に一時記憶し、次に、ステップ17に移行して、記憶装置の第4車高値記憶領域に記憶されている後輪側車高検出器2の前回の検出車高値H2bを読み出し、次いで、ステップ18に移行して、ステップ16で読み込まれた今回の検出車高値H2aとステップ17で読み出された前回の検出車高値H2bとを比較することにより、両車高値H2a,H2bが等しいか否かを判定する。
このとき、ケース(1)では、後輪側の前回の車高検出時から今回の車高検出時までの間に車高差が生じておらず両検出車高値H2a,H2bが等しい値を示しているため、ステップ18においてH2a=H2bであると判定される。そのため、ステップ19に移行して、予め記憶装置に設けたられたカウンタ値記憶領域の内容であるカウンタ値C(通常は初期設定において0に設定される)をクリアし、次いで、ステップ10に移行して、カウンタ値Cが、予め設定された所定値Kより大であるか否かを判定する。
このとき、カウンタ値Cは0であって所定値Kよりは小さい値であるため、ステップ10においてC<Kと判定される。そのため、ステップ15に移行して、2個の車高検出器1,2が共に正常に作動しているものと判断した結果として、2個の車高検出器1,2が共に正常状態であることを表す正常信号を出力する。
次に、ステップ12に移行して、前輪側の前回の検出車高値H1bが記憶されている第2車高値記憶領域の内容を前輪側の今回の検出車高値H1aで書替え、次いで、ステップ13に移行して、後輪側の前回の検出車高値H2bが記憶されている第4車高値記憶領域の内容を後輪側の今回の検出車高値H2aで書替え、これで割込処理を終了してメインプログラムに復帰する。
而して、ケース(1)のように、前輪側車高検出器1から出力されている前輪側車高検出信号DH_(1)に基づく前輪側検出車高値H1が所定時間以上連続して変化していない時に、後輪側車高検出器2から出力されている後輪側車高検出信号DH_(2)に基づく後輪側検出車高値H2も同様に所定時間以上連続して変化していない場合には、車両に姿勢変化が生じておらず、両車高検出器1,2は共に正常な車高検出信号DH_(1),DH_(2)を出力しているものと判断することができる。
また、ケース(4)のように、2個の車高検出器1,2の各車高検出信号DH_(1),DH_(2)に基づく検出車高値H1,H2が所定時間の後に共に変化している場合には、ステップ5の判定によって、前記ステップ16?ステップ18の処理と同様のステップ6?ステップ8に移行し、そのステップ8の判定によって、前記ステップ18と同様の処理を実行するステップ9に移行するため、その後のステップ10の処理をへてステップ15の正常信号が出力される。
従って、このケース(4)の場合にも前記ケース(1)の場合と同様に、前輪側車高検出値H1及び後輪側車高検出値H2が共に所定時間の間に変化しているのは2個の車高検出器1,2が共に正常に作動しているからであると判断することができる。
一方、ケース(2)のように、前輪側車高検出値H1が変化していないにもかかわらず後輪側車高検出値H2が所定時間の間に変化している場合には、ステップ1?ステップ5、ステップ16及びステップ17をへてステップ18でH2a≠H2bと判定され、また、ケース(3)のように、前輪側車高検出値H1が所定時間の間に変化しているときに後輪側車高検出値H2のみが変化していない場合には、ステップ1?ステップ7をへてステップ8でH2a=H2bと判定される。
そのため、ケース(2)及び(3)の場合には、いずれもステップ14に移行して、従前のカウンタ値Cに所定値Nを加算し、これを新たなカウンタ値Cとしてカウンタ値記憶領域の内容を書替え、次いで、ステップ10に移行する。その後、ケース(2)又はケ-ス(3)の状態が所定時間以上連続すると、上述した処理が繰り返されてカウンタ値Cが大きくなり、そのカウンタ値Cが所定値Kよりも大となると、ステップ10において、C>Kであると判定される。そのため、ステップ11に移行して、2個の車高検出器1,2のうちいずれか一方が、故障しているために1つの値しか出力していないものと判断し、その結果として2個の車高検出器1,2のうち少なくとも一方が故障していることを表す異常信号を出力する。
而して、このケース(2)及びケース(3)のように、前輪側車高検出信号DH_(1)に基づく前輪側検出車高値H1か、又は、後輪側車高検出信号DH_(2)に基づく後輪側検出車高値H2のいずれか一方のみが変化して他方が変化していない場合には、一方の車高検出器1,2が故障しているために異常な車高検出信号DH_(1),DH_(2)を出力しているものと判断することができる。」(第4頁左下欄第20行?第6頁左上欄第18行)(ただし、ステップの後の番号は全て丸囲み文字にて表記されていたが、この摘記においては丸囲みを外した。)
ウ 「なお、上記実施例では、車高検出器を車体前後に2個設けた場合について説明したが、それに限定されるものではなく、4個の車輪にそれぞれ関連させて4個の車高検出器を設ける等、車高検出器は3個以上であってもよいことはもちろんである。」(第9頁左上欄第12行?同第17行)
ここで、記載事項ウによれば、「車高検出器を4個の車輪にそれぞれ関連させて4個の車高検出器を設ける」ことが示唆されており、斯かる示唆に従えば、車高検出器は車輪の設置位置における車高を測定しているということができる。
また、記載事項アによれば、「マイクロコンピュータ4」は「一般走行時の車高制御処理を実行する」とともに、「車高検出器故障診断処理を実行する」ものでもあり、複数の機能を統合しているものであるといえる。
図面とともに上記各記載事項を総合すると、第1引用例には、
「一つの車輪の設置位置での車高を、前記車高を測定する車高検出器と前記装置の異常状態を検出する車高検出器故障診断処理を実行するマイクロコンピュータ4とを用いて一般走行時の車高制御処理を実行するマイクロコンピュータ4において、
車高検出器故障診断処理を実行するマイクロコンピュータ4が、少なくとも二つの車輪の設置位置での車高の変化を検出して、所定時間の間で、一つの車輪の設置位置での車高が変化していないことを検出し且つ他の車輪の設置位置での車高が変化していることを検出したときに、いずれかの車高検出器が故障しているとの判断を行ない、一般走行時の車高制御処理を実行しつつこれと併せて、車高検出器故障診断処理を実行する、一般走行時の車高制御処理を実行するマイクロコンピュータ4。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平5-319050号公報(以下「第2引用例」という。)には、「車高センサの故障検出装置」に関して、次のエの事項が記載されている。
エ 「こうして車輪速度からバネ上の挙動を判別し、車輪速度の平均変動量△Vwが、閾値Vref 以下の場合には、車両にはバネ上振動が生じていないと判断し、何も行なわず「RTN」に抜けて本ルーチンを一旦終了する。一方、平均変動量△Vwが閾値Vref より大きいと判断されれば、続いて、車高センサ41ないし44からの車高SHiの時間当たりの変化量△SHiが、予め定めた基準値γより大きいか否かの判断を行なう(ステップS160)。変化量△SHの添え字iは、左右前後の各車輪を示す。この変化量△SHiは、図6に示すように、100msec毎に実行される割込処理ルーチンにおいて、各車高センサ41ないし44からの今回(変数n )の検出値SHi(n )を入力し(ステップS200)、前回(変数n-1 )との偏差の絶対値を変化量△SHiとして求め(ステップS210)、車高センサのデータを更新する(ステップS220)ことにより、簡単に求めることができる。・・・車高センサ41ないし44が検出する車高SHiの時間当たりの変化量△SHiが、基準値γより大きいと判断された場合には、ステップS150での判断(△Vw>Vref )と合わせて、車高センサ41ないし44は車体のバネ上共振の発生に追従して車高の変動を検出していると判断できるから、車高センサ41ないし44は正常と判断して、故障フラグFSを値0にリセットし(ステップS170)、そのまま「RTN」に抜けて本ルーチンを終了する。一方、変化量△SHiが基準値γ以下と判断された場合には、車両にバネ上の大きな動き(ピッチングやあおりなどのバネ上共振)が生じているにもかかわらず、車高センサ41ないし44がこれに見合う車高変化を検出していないことから、車高センサ41ないし44の異常と判断し、故障フラグFSに値1をセットして(ステップS180)、「RTN」に抜けて本ルーチンを終了する。」(【0031】?【0032】段落)

3.発明の対比
(1)本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「所定時間の間」は本願補正発明の「所定のタイムウィンドウ(tT)の範囲内」に相当し、同様に「故障」は「欠陥(7)」に相当する。そして、引用発明の「車輪の設置位置での車高」は、車高が車体と路面との間隔として認識されるものであるので、車輪の設置位置での特定の場所と車体との間隔である限りにおいて、本願補正発明の「車輪と車体との間隔」に対応するものといえ、引用発明の車高検出器は、その「車高を測定する」ものであるので、特定の場所と車体との実際の間隔を測定する装置である限りにおいて本願補正発明の「車輪の実際の間隔を測定するセンサ装置」に対応するものであるといえ、引用発明の「車輪の設置位置での車高」は、実際に測定される値でもあるので、車輪の設置位置での特定の場所と車体との実際の間隔である限りにおいて、本願補正発明の「車輪の実際の間隔」に対応するものであるといえる。また、引用発明の「車高検出器故障診断処理を実行するマイクロコンピュータ4」は、特定の装置の異常状態を検出する装置である限りにおいて、本願補正発明の「評価装置」に対応するものであるといえる。また、引用発明の「一般走行時の車高制御処理を実行するマイクロコンピュータ4」は、特に明示はないものの「例えば、車速と車高とに基づいて高速走行時にはばね定数を高くして走行安定性を確保すると共に、低速走行時にはばね定数を低くして乗心地を向上させる」(記載事項ア)ものであるので、何らかの目標値に基づいて車高を制御するものであることは明白であるから、本願補正発明の「目標間隔に調整するための動力車用車輪懸架装置調整システム」に対応するものであるといえる。また、引用発明においては故障判断に際して、検出した値と閾値との比較を行っていないが、一つの車輪の設置位置での実際の間隔の変化と他の車輪の設置位置での実際の間隔の変化に基づいて、いずれかのセンサ装置に欠陥があるとの判断を行なう限りにおいて、本願補正発明と共通する判断を行っているといえる。
(2)以上の対比から、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおりに認定できる。
[一致点]「一つの車輪の設置位置での特定の場所と車体との間隔を、前記特定の場所と車体との間隔の実際の間隔を測定するセンサ装置と前記実際の間隔の異常状態を検出する評価装置とを用いて目標間隔に調整するための動力車用車輪懸架装置調整システムにおいて、
評価装置が、少なくとも二つの車輪の設置位置での特定の場所と車体との実際の間隔の変化を検出して、所定のタイムウィンドウの範囲内で、一つの車輪の設置位置での特定の場所と車体との実際の間隔の変化と他の車輪の設置位置での実際の間隔の変化に基づいて、センサ装置に欠陥があるとの判断を行なう、動力車用車輪懸架装置調整システム。」である点。
[相違点1]本願補正発明は動力車用車輪懸架装置調整システムの制御対象及びセンサ装置の測定対象が一つの車輪と車体との間隔であるのに対して、引用発明は車輪の設置位置における車高である点。
[相違点2]本願補正発明は評価装置が、少なくとも二つの車輪(2,3)の実際の間隔〔h(実際値 左車輪),h(実際値 右車輪)〕の変化を検出して、下限閾値(S1)及び上限閾値(S2)と比較するとともに、所定のタイムウィンドウ(tT)の範囲内で、一つの車輪(3)の実際の間隔〔h(実際値 右車輪)〕の変化が下限閾値(S1)以下であり且つ他の車輪(2)の実際の間隔〔h(実際値 左車輪)〕の変化が上限閾値(S2)を越えているときに、下限閾値を下回っていることを検知したセンサ装置(6)に欠陥(7)があるとの判断を行うのに対して、引用発明は故障判断に際して、検出した値と閾値との比較を行っていない点。
[相違点3]本願補正発明は調整過程の間、評価装置(8)は非作動状態にあるのに対して、引用発明はマイクロコンピュータ4が一般走行時の車高制御処理を実行しつつこれと併せて、車高検出器故障診断処理を実行する点。

4.相違点の判断
(1)相違点1について
引用発明の車高検出器は車輪の設置位置における車高を測定しているのは前述のとおりであるが、斯かる車高の変化は、タイヤの変形を考慮しなければ車輪の取付けられた車軸と車体との間隔の変化と一致することは自明であるといえる。一方、本願補正発明においては車輪と車体との「実際の間隔」を測定しているが、より具体的に車輪のどの部分と車体との間隔を測定するのかを考えるにあたって【0005】段落を参照すると、「有利には車輪と車軸の実際の間隔の変化を検出」するとしている。ここで、車輪と車軸は一体的に取付けられて構成されるものである以上、相互間に間隔があることもその間隔が変化することも想定できないので、前記【0005】の記載において、「車輪」は車体の誤記であるとするのが妥当といえる。そうしてみると、本願補正発明の明細書においてタイヤの変形を考慮した記載は無いので、本願補正発明において「車輪の実際の間隔の変化を検出」するにあたって車体と車軸の実際の間隔の変化を検出するのは、実質的に車輪の設置位置における車高の変化を検出していることと同様であるといえる。また仮に車輪の他の箇所と車体との間隔の変化を検出したとしても、同様の理由により車高の変化を検出することと実質的に同様であるといえる。したがって、測定値の変化を検出するにあたって、引用発明において車輪の設置位置における車高を測定することに代えて車輪と車体との間隔を測定して、本願補正発明の相違点1に係る構成とすることに格別の困難性は要しない。
(2)相違点2について
第2引用例には、「車高センサ41ないし44が検出する車高SHiの時間当たりの変化量△SHiが、基準値γより大きいと判断された場合には、・・・車高センサ41ないし44は正常と判断」(記載事項エ)するとあるように、車高センサが異常であるか否かを判断するにあたって、検出した値と閾値との比較を行うことが記載されている。また、車高センサの検出値を2つの閾値と比較することは適宜行いうる周知の技術である(周知例:実願平5-62685号(実開平7-31418号)のCD-ROM 図15、【0024】段落の「車高制御不感帯しきい値」、【0040】段落の「両しきい値X_(B)?X_(R)」 参照)。また、センサからの信号のレベルが低いものが存在した場合に、斯かるセンサを故障したものと判定することは普通になされることであるといえ、例えば実開平2-56942号(実開平4-16008号)のマイクロフィルムの明細書第4頁第4行?同第6行には「車高センサ7の故障は、・・・出力変化が長時間ないこと・・・から検出できる。」と記載されている。そして、引用発明において前記第2引用例に記載された事項を採用することに特段の支障があるとは言えず、その際に適宜前記周知技術を考慮することにより、一つの車輪の設置位置での実際の間隔の変化と下限閾値とを比較すると共に他の車輪の設置位置での実際の間隔の変化と上限閾値とを比較して、本願補正発明の相違点2に係る構成とすることに、格別の困難性は要しない。
(3)相違点3について
診断装置による診断を実行するにあたって、診断に都合の良い状態となったことを開始条件とすることは周知の事項であるといえる(周知例:特開平3-90410号公報 第3頁左上欄第1行?同第7行 参照)。そして、前記診断に都合の良い状態として診断内容に対応して適宜の状態を選択することは設計上の事項であるといえ、斯かる状態を診断装置の検出対象である物理量が変化してしまうような他の制御を実行していない状態とすることに、特段の創意は要しないといえる。したがって、引用発明において前記事項を考慮して、一般走行時の車高制御処理を実行している間は車高検出器故障診断処理を実行しないようにすることにより、本願補正発明の相違点3に係る構成とすることに、格別の困難性は要しない。
(4)作用効果等について
上記の相違点1?3に係る構成を併せ備える本願補正発明の作用効果について検討しても、引用発明及び第2引用例、上記各周知の技術から、当業者が予測しうる域を超えるものがあるとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び第2引用例、各周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、旧法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり、決定する。

【3】本願発明について
1.本願発明
平成18年11月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成18年6月22日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】 一つの車輪と車体との間隔を、前記車輪の実際の間隔を測定するセンサ装置と前記実際の間隔の異常状態を検出する評価装置とを用いて目標間隔に調整するための動力車用車輪懸架装置調整システムにおいて、
評価装置(8)が、少なくとも二つの車輪(2,3)の実際の間隔〔h(実際値 左車輪),h(実際値 右車輪)〕の変化を検出して、下限閾値(S1)及び上限閾値(S2)と比較するとともに、所定のタイムウィンドウ(tT)の範囲内で、一つの車輪(3)の実際の間隔〔h(実際値 右車輪)〕の変化が下限閾値(S1)以下であり且つ他の車輪(2)の実際の間隔〔h(実際値 左車輪)〕の変化が上限閾値(S2)を越えているときに、センサ装置(5,6)に欠陥(7)があるとの判断を行ない、調整過程の間、評価装置(8)は非作動状態にあることを特徴とする動力車用車輪懸架装置調整システム。」(以下「本願発明」という。)

2.引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項は、上記「【2】2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、「評価装置(8)」に関する発明特定事項である「下限閾値を下回っていることを検知したセンサ装置(6)に欠陥(7)があるとの判断を行ない」を、「センサ装置(5,6)に欠陥(7)があるとの判断を行ない」とすることにより、上記発明特定事項の構成を除いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に上記したような発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「【2】4.」に記載したとおり、引用発明及び第2引用例、各周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明の上位概念発明である本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用発明及び第2引用例、各周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び第2引用例、各周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-26 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-29 
出願番号 特願平8-182290
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60G)
P 1 8・ 575- Z (B60G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 良隆  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 中川 真一
佐藤 正浩
発明の名称 動力車用車輪懸架装置調整システム  
代理人 藤田 アキラ  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ