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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B44C
管理番号 1192714
審判番号 不服2006-28111  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-14 
確定日 2009-02-12 
事件の表示 特願2003- 25067「転写フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月19日出願公開、特開2004-230855〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本願は、平成15年1月31日の出願であって、平成18年10月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月14日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

本願の発明は、平成18年9月25日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「支持フィルム(1)と、該支持フィルム(1)上に形成された剥離層(2)、該剥離層(2)上に形成され模様(6)を表す印刷層(4)および該印刷層(4)上に形成された接着剤層(5)を有し、前記印刷層(4)に転写時における貼付方向に沿って空気の逃げ道となる空気通路(7)を形成し、該空気通路(7)の幅(t)を1mm以下としたことを特徴とする転写フィルム。」

2.引用された刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された特開昭63-185700号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。)
ア.「(1)基台の表面に設けた離形剤層上に、合成樹脂を主体とするゾル状材料を用いて表示体を設け、乾燥させた前記表示体の表面に感圧性接着剤を塗布することを特徴とする離形剤処理材料を用いた表示装飾体の製造方法。」(特許請求の範囲)
イ.「〔実施例〕
以下、この発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
第1図と第2図のように、先ず基台1の一方表面に離形剤層2を設けた離形剤処理材料を用意する。
上記基台1には、紙のほか、合成樹脂シートや各種金属箔等を用いることができる。
次に、基台1に設けた離形剤層 上に第3図の如く、合成樹脂を主体とするゾル状材料を用いて表示体3を印刷し、これを乾燥させる。
上記表示体3に用いるゾル状材料は、塩化ビニル樹脂を主体とし、これにスクリーン用インキ、可塑剤、安定剤、顔料等を混合したり、スクリーン用インキを単用することにより、離形剤層2上へ付着性が良く、しかも十分な厚みのある文字や数字、模様を形成することが可能である。
ちなみに、表示体3に用いるゾル状材料の具体的な組成の一例を示すと、塩化ビニル樹脂粉末100gに対し、可塑剤50g、安定剤25?35g、硬化剤樹脂10?35g、ポリエステル樹脂5g、顔料を混合し、これをゾル状にしたものであり、文字や模様の形成は、スクリーン印刷や型等一般的な各種印刷手段が用いられる。
次に、表示体3の表面に第4図の如く、合成樹脂系全般や天然性接着剤等の感圧性接着剤4を塗布する。この塗布は、表示体3の表面にのみ行なうように、表示体3の形成と同じパターンの印刷手段や型を用いる。」(第2頁右上欄第6行?左下欄第14行)
ウ.「第10図は表示体3が文字の場合の一例であり、基台1上に対して表示体3を逆文字状態で印刷し、これを転写すると第11図のように正規の文字となるようにする。
また、表示体3は、各文字色を変えたり、一つの文字を多色にしたり、第10図の如く、分割文字としてもよいと共に、多色の印刷により、例えばステンドグラスのような模様の装飾体とすることもできる。」(第2頁右下欄第3行?第11行)
エ.第1図?第4図として、



オ.第10図、第11図として、


第10図及び第11図、及び、摘記事項ウ.から、「表示体を縦方向に分割形状としたこと」が記載されているということができる。

上記の事項をまとめると、引用刊行物には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「引用刊行物記載の発明」という。)
「基台の表面に設けた離形剤層上に、合成樹脂を主体とするゾル状材料を用いて表示体を設け、乾燥させた前記表示体の表面に感圧性接着剤を塗布した、表示装飾体であって、表示体に縦方向に分割形状とした表示装飾体」

3.対比
本願発明(前者)と引用刊行物記載の発明(後者)と対比する。
まず、後者における「基台」、「離形剤層」、「表示体」、「感圧性接着剤」、「表示装飾体」は、それぞれ、前者における「支持フィルム」、「剥離層」、「模様を表す印刷層」、「接着剤層」、「転写フィルム」に相当する。
次に、後者は、「表示体を縦方向に分割形状とした」構成によって、分割された表示体間に隙間が形成されており、「表示装飾体」を目的物に貼付ける際に、該隙間が空気の逃げ道となる空気通路となり得ることは明らかである。
そして、後者における「表示装飾体」の貼付方向を「表示体」の横方向(左右方向)とすることは当業者が適宜採用できる設計的事項であるから、後者の「表示体を縦方向に分割形状とした」構成は、前者の「前記印刷層(4)に転写時における貼付方向に沿って空気の逃げ道となる空気通路(7)を形成し」に相当する。
したがって、両者は、
「支持フィルムと、該支持フィルム上に形成された剥離層、該剥離層上に形成され模様を表す印刷層および該印刷層上に形成された接着剤層を有し、前記印刷層に転写時における貼付方向に沿って空気の逃げ道となる空気通路を形成した、転写フィルム」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点:空気通路に関して、前者は、「該空気通路(7)の幅(t)を1mm以下とした」のに対して、後者には、そのような特定がない点。

4.当審の判断
(相違点について)
上記相違点について検討する。
印刷層(表示体)の模様の形状、大きさ、間隔等は、当業者が適宜決定できる事項であるから、転写フィルムの印刷層を分割して、隙間を形成する際に、印刷層の外観性、意匠性等も考慮に入れて、隙間(空気通路)の幅を1mm以下とすることは、当業者が適宜採用できる設計的事項に過ぎない。
(本願発明が奏する効果について)
そして、本願発明が奏する「印刷層を横断する様にして空気を逃がすことができるので、貼付工程における空気溜りの発生を防ぐことができ、空気溜りによる外観不良を防止すると共に、使用中に保護層や印刷層が剥離を防止することができる。」(段落【0063】)との効果についても、例えば、特開平5-155199号公報、特開平6-240505号公報、特開平11-268123号公報、特開2001-199194号公報などに示されるように、転写フィルムの分野において、貼付の際に空気抜きを行い、空気溜りのない外観性に優れたものを提供することは周知の技術的課題であり、かつ、空気通路の幅を1mm以下とした数値限定にも格別の技術的意義は見出せないから、当該効果は格別のものとはいえない。
よって、上記相違点は、当業者が適宜為し得たことである。

5.請求人の主張
請求人は、請求の理由において、
「・構成要件B;印刷層(4)に転写時における貼付方向に沿って空気の逃げ道となる空気通路(7)を形成し、該空気通路(7)の幅(t)を1mm以下とする。」
「この点、引用文献1には、
『・・・印刷層による模様の形状に大きな制限を加えないで、印刷層における空気溜りの発生を効果的に防止することができる転写フィルムの創出を技術的課題とし』と云う本願の技術的課題への認識に係る記載は全く認められないし、勿論のことではあるが、この課題を解決するための本願請求項1の上記した構成要件Bに係る記載は認められない。」と、
引用刊行物(引用文献1)記載の発明には、「本願の技術的課題への認識に係る記載が認められない」旨(主張1)、及び、「課題を解決するための『印刷層(4)に転写時における貼付方向に沿って空気の逃げ道となる空気通路(7)を形成し、該空気通路(7)の幅(t)を1mm以下とする』という構成要件の記載がない」旨(主張2)、主張している。
上記主張について、検討する。
(主張1について)
まず、「・・・印刷層による模様の形状に大きな制限を加えないで、印刷層における空気溜りの発生を効果的に防止することができる転写フィルムの創出を技術的課題とし」については、転写フィルムを貼付する際に、空気溜りの発生を防止することは、前記4.のとおり、周知の技術的課題である。
そして、引用刊行物記載の発明において、第10図及び第11図に記載の表示装飾体を貼付する際に、貼付方向を横方向(左右方向)とし、分割された表示体間の隙間を空気通路とする程度のことは、記載がなくとも、当業者であれば、当然採用できる事項である。
また、引用刊行物には、「(IV)表示体の表面に設けた感圧性接着剤によって、単に押しつけるだけで貼付けが行なえ、だれにでも簡単に、目的の場所に貼ることができる。」(第3頁右上欄第1行?第3行)との記載もあるように、貼付の容易性が認識されており、「だれにでも簡単に」という課題・効果には、「空気溜まり」の発生なく貼付が行われることも当然包含される。
したがって、引用刊行物に本願の技術的課題への認識に係る記載がないとの主張は当を得たものとはいえない。
(主張2について)
前述のとおり、引用刊行物記載の発明における「表示体を縦方向に分割形状とした」構成は、本願発明の「前記印刷層(4)に転写時における貼付方向に沿って空気の逃げ道となる空気通路(7)を形成し」に相当する。
そして、前記4.で検討したとおり、印刷層(表示体)の模様の形状、大きさ、間隔等は、当業者が適宜決定できる事項であるから、転写フィルムの印刷層を分割して、隙間を形成する際に、印刷層の外観性、意匠性等も考慮に入れて、隙間(空気通路)の幅を1mm以下とすることは、当業者が適宜採用できる設計的事項に過ぎない。
以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-27 
結審通知日 2008-11-18 
審決日 2008-12-01 
出願番号 特願2003-25067(P2003-25067)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神尾 寧  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 淺野 美奈
木村 史郎
発明の名称 転写フィルム  
代理人 渡辺 一豊  

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