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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B06B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B06B
管理番号 1192732
審判番号 不服2007-9528  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-05 
確定日 2009-02-12 
事件の表示 特願2001-358109「振動リニアアクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月27日出願公開、特開2003-154315〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年11月22日の出願であって、平成19年3月1日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月5日に拒絶査定不服審判請求がなされると共に、同年5月7日付で手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「携帯情報端末の基板に取り付けられる振動リニアアクチュエータにおいて、
前記基板に取り付けられ、底面に前記基板に電気的接続されると共に後記コイル部と電気的接続する電極部を有する基台部と、
前記基板に対して垂直方向に振動自在となるように弾性体を介して支持された可動子と、
前記基台部に固定された固定子と、
前記基台部に蓋をし、前記可動子および固定子を覆うカバーケースとを備え、
前記可動子は永久磁石を有し、前記固定子は、磁性を持った金属物質からなるヨーク部と、前記可動子に対し振動磁界を発生し且つコイル中心線が前記基板に対して垂直方向となるコイル部とを有し、
前記可動子の永久磁石と前記固定子のコイル部とを対向配置すると共に、前記永久磁石と前記コイル部との対向空間内に前記ヨーク部の一部を延出し、このヨーク部の一部と永久磁石とが、前記可動子の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されていること
を特徴とする振動リニアアクチュエータ。」
と補正された。

上記補正は、実質的に、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「振動磁界を発生するコイル部」について「振動磁界を発生し且つコイル中心線が基板に対して垂直方向となるコイル部」と限定すると共に、可動子の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されている「可動子の永久磁石と、固定子のヨーク部」について、「可動子の永久磁石と固定子のコイル部とを対向配置すると共に、前記永久磁石と前記コイル部との対向空間内にヨーク部の一部を延出し、このヨーク部の一部と永久磁石」と限定するものであって、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-117721号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポケットベル、腕時計、携帯電話あるいは盲人用信号受信機等の携帯機器を携帯する者に対して、電子ブザーの音による発呼の代わりに、音を主な手段としない振動による報知信号を発生する振動モジュールに関するものである。」

・「【0032】図1,図2において、バネ310は、加振重量100とカシメ等により接合され、駆動コイルブロック200に溶着等の接合により固着される。駆動コイルブロック200は、駆動コイル220を樹脂製の駆動コイル枠210で保持して構成される。
【0033】また、加振重量100を構成しているラジアル方向に着磁された磁石110と、駆動コイルブロック200の駆動コイル220は、微小な間隙を有し、各々の径方向で対向している。駆動コイル220に端子510を通して供給される駆動電流と磁石により縦軸方向の電磁力を発生し、加振重量100の重量とバネ310により決定される共振周波数近辺で、加振重量が振動モジュールの縦軸方向に振動する。
【0034】ケース410、ケース420は、前記バネと加振重量を接合された駆動コイルブロック200を収納する。端子510は駆動コイルブロック200に設けられ、駆動コイル220の端末と接続されて、外部より駆動コイルに駆動電流を供給する。
【0035】加振重量100は、ラジアル方向に着磁された単一のリング磁石110を、重り120に接着剤等で接合して構成されている。」

・「【0049】駆動コイルブロック200は前述したように、駆動コイル220を樹脂製の駆動コイル枠210で保持する構成である。・・・さらに、コイル枠212には、端子510が設けられている。端子510と駆動コイル220とは電気的に接続され、外部よりの駆動電流により駆動コイル220には磁束が発生する。
【0050】駆動コイルへの電流供給経路として図1、図2では端子としたが、他の方法としては、リード線、フレキシブル基板も使用可能である。なお、図1、図2の実施例では、端子は3本であるが、1本は基板等へ安定に固着するためのものであり、電気的には不要である。」

・「【0114】
【発明の効果】この発明は、以上説明したように、
(1)ラジアル方向に単一磁極対になるように着磁されたリング形のラジアル異方性永久磁石を備えた加振重量を、往復運動させて振動を発生させるようにした。
【0115】このために、磁石は駆動コイルと全周で対向するので、電磁力の発生効率が著しく高く、単一の磁石としたことにより、部品点数が少なく、部品費、加工費が削減される効果を有する。」

・図1には、底面に端子510を延出させる平板状の底部ケース420、該底部ケース420に対して垂直方向に振動するようにバネ310を介して支持された加振重量100、コイル中心線が該底部ケース420に対して垂直方向となる駆動コイル220、該底部ケース420に蓋をし、加振重量100および駆動コイルブロック200を覆うカップ状の上部ケース410が示され、さらに、リング磁石110と駆動コイル220とが、加振重量100の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されている構成が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「携帯機器の基板に固着される縦軸方向に振動する振動モジュールにおいて、
前記基板に固着され、底面に前記基板に電気的に接続されると共に後記駆動コイル220と電気的に接続する端子510を延出させる平板状の底部ケース420と、
前記平板状の底部ケース420に対して垂直方向に振動するようにバネ310を介して支持された加振重量100と、
前記平板状の底部ケース420とカップ状の上部ケース410に収納された駆動コイルブロック200と、
前記平板状の底部ケース420に蓋をし、前記加振重量100および駆動コイルブロック200を覆うカップ状の上部ケース410とを備え、
前記加振重量100はリング磁石110を有し、前記駆動コイルブロック200は、樹脂製の駆動コイル枠210と、前記加振重量100に対し縦軸方向の電磁力を発生し且つコイル中心線が前記平板状の底部ケース420に対して垂直方向となる駆動コイル220とを有し、
前記加振重量100のリング磁石110と前記駆動コイルブロック200の駆動コイル220とを対向配置すると共に、前記リング磁石110と前記駆動コイル220とが、前記加振重量100の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されていること
とする縦軸方向に振動する振動リニアアクチュエータ。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「携帯機器の基板に固着される」態様は前者の「携帯情報端末の基板に取り付けられる」態様に、後者の「縦軸方向に振動する振動モジュール」は前者の「振動リニアアクチュエータ」に、それぞれ相当する。
そして、後者の「底面に基板に電気的に接続されると共に駆動コイル220と電気的に接続する端子510を延出させる平板状の底部ケース420」と前者の「底面に基板に電気的接続されると共にコイル部と電気的接続する電極部を有する基台部」とは、「底面に基板に電気的接続されると共にコイル部と電気的接続する電極部を露出する基台部」との概念で共通する。
また、後者の「平板状の底部ケース420」と「(携帯機器の)基板」は互いに平行な関係にあることが明らかであると共に、後者の「バネ310」と「加振重量100」はそれぞれ前者の「弾性体」と「可動子」に相当するから、後者の「平板状の底部ケース420に対して垂直方向に振動するようにバネ310を介して支持された加振重量100」は実質的に前者の「基板に対して垂直方向に振動自在となるように弾性体を介して支持された可動子」に相当する。
次に、後者の「駆動コイルブロック200」は前者の「固定子」に相当するから、後者の「平板状の底部ケース420とカップ状の上部ケース410に収納された駆動コイルブロック200」と前者の「基台部に固定された固定子」とは、「基台部の上面側に配置された固定子」との概念で共通する。
さらに、後者の「カップ状の上部ケース410」は前者の「カバーケース」に、後者の「リング磁石110」は前者の「永久磁石」に、後者の「加振重量100に対し縦軸方向の電磁力を発生」する態様は前者の「可動子に対し振動磁界を発生」する態様に、前者の「駆動コイル220」は前者の「コイル部」に、それぞれ相当する。
加えて、後者の「リング磁石110と駆動コイル220とが、加振重量100の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されている」態様と前者の「永久磁石とコイル部との対向空間内にヨーク部の一部を延出し、このヨーク部の一部と永久磁石とが、可動子の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されている」態様とは、「永久磁石とコイル部とが、可動子の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されている」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「携帯情報端末の基板に取り付けられる振動リニアアクチュエータにおいて、
前記基板に取り付けられ、底面に前記基板に電気的接続されると共に後記コイル部と電気的接続する電極部を露出する基台部と、
前記基板に対して垂直方向に振動自在となるように弾性体を介して支持された可動子と、
前記基台部の上面側に配置された固定子と、
前記基台部に蓋をし、前記可動子および固定子を覆うカバーケースとを備え、
前記可動子は永久磁石を有し、前記固定子は、前記可動子に対し振動磁界を発生し且つコイル中心線が前記基板に対して垂直方向となるコイル部を有し、
前記可動子の永久磁石と前記固定子のコイル部とを対向配置すると共に、前記永久磁石と前記コイル部とが、前記可動子の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されている
振動リニアアクチュエータ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
基台部において電極部を「露出する」態様に関し、本願補正発明は、電極部を「有する」としているところから、電極部が基台部自体に設けられているのに対し、引用発明は、電極部を「延出させる」としているところから、電極部が基台部自体に設けられているとまではいえない点。
[相違点2]
固定子が基台部「の上面側に配置された」態様に関し、本願補正発明は、基台部「に固定された」としているのに対し、引用発明は、基台部「の上面側に収納された」ものではあるが、固定される部位については明確にされていない点。
[相違点3]
固定子に関し、本願補正発明は、「磁性を持った金属物質からなるヨーク部」を有しているのに対し、引用発明は、かかるヨーク部を有していない点。
[相違点4]
可動子の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されている態様に関し、本願補正発明は、永久磁石とコイル部と「の対向空間内にヨーク部の一部を延出し、このヨーク部の一部と永久磁石と」のギャップを対象としているのに対し、引用発明は、ヨーク部を有しないため、単に永久磁石とコイル部とのギャップを対象にしている点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1及び2について
例えば、原査定時に周知例として提示された特開2001-269619号公報(平成13年10月2日公開、【0001】、【0019】?【0021】の記載及び【図1】等参照。)にも開示されているように、携帯情報端末(携帯電子機器)の基板に取り付けられ、底面に前記基板に電気的に接続されると共にコイル部(巻線32)と電気的に接続する電極部(電気接続端子14a)を有する基台部(底面板12)を設け、さらに該基台部の上面に固定子(ステータ)を固定する構成は、振動アクチュエータ(振動モータ)の分野において周知の構成であるといえる(必要であれば、特開2000-166173号公報の【図2】も参照。)。
そうすると、引用発明の基台部(平板状の底部ケース420)において上記周知の構成を採用し、相違点1及び2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜改変し得る設計的事項にすぎないというべきである。

・相違点3及び4について
例えば、特開2000-78823号公報(平成12年3月14日公開、【0008】、【0033】、【0034】の記載及び【図13】等参照。)にも開示されているように、可動子(振動子)の推力を向上させるために、永久磁石とコイル部(捲線コイル)との対向空間内にヨーク部(鉄心41)の一部を延出し(延長部44,45を形成し)、このヨーク部の一部と永久磁石とが、可動子の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置することは、振動アクチュエータ(電磁駆動機構)の分野における周知技術である(必要であれば、特開平7-303363号公報の【図3】も参照。)。
また、振動アクチュエータにおけるヨーク部が、通常、磁性を持った金属物質から構成されることは技術常識である。
ところで、引用発明において、可動子の推力向上は当然に要求されるべき課題であるといえる。
そうすると、引用発明において、かかる課題の下に、上記周知技術を採用し、相違点3及び4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も、引用発明、上記周知の構成及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、上記周知の構成及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願の発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成18年12月27日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「携帯情報端末の基板に取り付けられる振動リニアアクチュエータにおいて、
前記基板に取付けられ、底面に前記基板に電気的接続されると共に後記コイル部と電気的接続する電極部を有する基台部と、
前記基板に対して垂直方向に振動自在となるように弾性体を介して支持された可動子と、
前記基台部に固定された固定子と、
前記基台部に蓋をし、前記可動子および固定子を覆うカバーケースとを備え、
前記可動子は永久磁石を有し、前記固定子は磁性を持った金属物質からなるヨーク部と前記可動子に対し振動磁界を発生するコイル部とを有し、前記可動子の永久磁石と、前記固定子のヨーク部とが、前記可動子の振動方向に垂直な方向のギャップを有して対向状態に配置されていること
を特徴とする振動リニアアクチュエータ。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、実質的に、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「振動磁界を発生するコイル部」について「振動磁界を発生し且つコイル中心線が基板に対して垂直方向となるコイル部」との限定を省くと共に、「可動子の永久磁石と、固定子のヨーク部」について「可動子の永久磁石と固定子のコイル部とを対向配置すると共に、前記永久磁石と前記コイル部との対向空間内にヨーク部の一部を延出し、このヨーク部の一部と永久磁石」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比した際の相違点は、前記「2.(3)」で検討した相違点1ないし3のみとなるため、前記「2.(4)」での検討内容を踏まえれば、本願発明も、引用発明、上記周知の構成及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、上記周知の構成及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-08 
結審通知日 2008-12-09 
審決日 2008-12-22 
出願番号 特願2001-358109(P2001-358109)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B06B)
P 1 8・ 121- Z (B06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安食 泰秀  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 仁木 浩
小川 恭司
発明の名称 振動リニアアクチュエータ  
代理人 石原 勝  

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