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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1192781
審判番号 不服2007-19330  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-11 
確定日 2009-02-09 
事件の表示 特願2003-288524「偏波保持光ファイバ及びこの偏波保持光ファイバを用いた光波長変換器」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月 3日出願公開、特開2005- 55795〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成15年8月7日の特許出願であって、平成19年6月7日付けで拒絶査定がなされ、同年7月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年8月9日に手続補正がなされたものである。

II.平成19年8月9日付け手続補正についての補正却下の決定
[I]補正却下の決定の結論
平成19年8月9日付け手続補正を却下する。

[II]理由
1.本件補正の内容
平成19年8月9日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本願特許請求の範囲の請求項1を
「コアと、該コアの外周に設けられたクラッドと、前記コアの両側に設けられた2つの応力付与部材とを備えた石英ガラス系の偏波保持光ファイバであって、前記コアは、中心部に位置する第1コアと該第1コアの外周に設けられた第2コアからなり、前記第2コアは前記第1コアより低い屈折率を有し、前記クラッドは前記第2コアより高くかつ前記第1コアより低い屈折率を有し、前記クラッドに対する前記第1コアの比屈折率差△1が2.5%以上、前記クラッドに対する前記第2コアの比屈折率差△2が-0.8%以下であり、前記応力付与部材の間隔Rと前記第1コアの直径D1との比R/D1が2.5乃至10、かつ前記応力付与部材の間隔Rが7μm乃至17μmであり、前記第1コアの直径D1と前記第2コアの直径D2との比D1/D2が0.3乃至0.8であり、波長1550nmにおける非線形係数が15/W/Km以上であり、カットオフ波長が1500nm以下であり、波長1550nmにおける分散が-9ps/nm/km乃至9ps/nm/km、波長1550nmにおける分散スロープが0.024ps/nm2/km以下であり、かつ波長1550nmにおける偏波クロストークが-20dB/100m以下であることを特徴とする偏波保持光ファイバ。」と補正することを含むものであり、特許請求の範囲を減縮するものであると認められるので、以下に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について、独立特許要件の検討を行う。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-207136号公報(以下、「引用例」という。)には、図とともに次の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光ファイバ、非線型性光ファイバ、それを用いた光増幅器、波長変換器、及び光ファイバの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、高強度(高光密度)の光が媒質中を伝搬すると、媒質中において、誘導ラマン効果や四光波混合などの様々な非線型光学現象が生じることが知られている。これらの非線型光学現象は、光ファイバ中における光伝送時にも生じるものであり、このような光ファイバ中での非線型光学現象は、光増幅や波長変換などに用いることができる(例えば、国際公開WO99/10770号参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】光ファイバの非線型性は、次式の非線型係数γ
γ=(2π/λ)×(n_(2)/A_(eff))
によって表される。ここで、λは光の波長、n_(2)は光ファイバ中での非線型屈折率、A_(eff)は光ファイバの有効断面積である。この式より、非線型係数γを大きくするためには、光ファイバのコア内に添加されるGeO_(2)の添加濃度を高くして非線型屈折率n_(2)を高くするとともに、コアとクラッドとの比屈折率差を大きくして有効断面積A_(eff)を小さくすれば良い。
【0004】しかしながら、上記のような構成条件を適用して非線型係数γを大きくした場合、光ファイバのカットオフ波長λcが長くなってしまうという問題を生じる。特に、光ファイバ中で発生する四光波混合を用いて波長変換を行おうとすると、励起光の波長を光ファイバの零分散波長付近とする必要がある。これに対して、上記の構成ではカットオフ波長λcが零分散波長よりも長くなり、シングルモードでなくなることから、波長変換の効率が低下してしまう。
【0005】また、近年、光伝送システムに用いられる信号光の波長帯域を拡大するため、光増幅器として通常用いられているEDFAの増幅帯域だけでなく、さらに短波長側である波長1.45μm?1.53μmのSバンド波長帯域の利用が検討されている。このSバンド波長帯域に対しては、増幅波長帯域から外れていてEDFAを用いることができないため、有効な光増幅器がない。また、ラマン増幅器を用いようとすると、高非線型性の光ファイバでは、カットオフ波長λcが波長1.3μm?1.5μm程度の励起光波長よりも長くなり、ラマン増幅の効率が低下してしまう。
【0006】本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、充分な非線型性を有するとともに、カットオフ波長が短くなる光ファイバ、非線型性光ファイバ、それを用いた光増幅器、波長変換器、及び光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】このような目的を達成するために、本発明による光ファイバは、(1)屈折率の最大値がn_(1)であるコア領域と、コア領域の外周に設けられ、屈折率の最小値がn_(2)(ただしn_(2)<n_(1))である第1クラッド領域と、第1クラッド領域の外周に設けられ、屈折率の最大値がn_(3)(ただしn_(2)<n_(3)<n_(1))である第2クラッド領域とを少なくとも備えるとともに、(2)波長1.55μmの光に対する諸特性として、11μm^(2)以下の有効断面積と、2mのファイバ長において0.7μm以上1.6μm以下のカットオフ波長λcと、18/W/km以上の非線型係数と、を有することを特徴とする。
【0008】この光ファイバでは、シングルクラッド構造ではなく、コア領域の外周に第1及び第2クラッド領域を設けたダブルクラッド構造を用いている。これにより、非線型係数γを大きくするために、コア内に添加されるGeO_(2)の添加濃度を高くして非線型屈折率を高くし、また、コアとクラッドとの比屈折率差を大きくして有効断面積A_(eff)を小さくした場合でも、カットオフ波長λcを充分に短くすることが可能となる。また、この構成では、分散スロープを負にすることができる。」

「【0126】光ファイバ内の所定部位に応力付与部を設けると、偏波面保持光ファイバが得られる。図15に、そのような偏波面保持光ファイバである光ファイバの他の実施形態の断面構造を示す。この光ファイバにおいては、コア領域10を挟む左右両側に、B_(2)O_(3)添加SiO_(2)からなる応力付与部40がそれぞれ形成されている。このような構成の偏波面保持光ファイバでは、応力付与部40が損失要因となって伝送損失が劣化する場合があるが、直交偏波間のランダムなカップリングを抑制することができる。これにより、伝送される信号光の品質を良好に保持することが可能となる。
【0127】このような構成からなる光ファイバの製造方法は、図1に示した構成からなる光ファイバについて上述した製造方法とほぼ同様であるが、第5の工程において中間ガラスロッドの外周上に第2クラッド領域30となるガラス体を形成したものを、そのまま光ファイバプリフォームとせず、これを第3中間ガラス体として、さらに加工を行う。
【0128】すなわち、得られた第3中間ガラス体の第1クラッド領域または第2クラッド領域に開孔して、開孔部を形成する。そして、その開孔部内に、応力付与部40となるガラスロッドを挿入して、光ファイバプリフォームを作成する。この光ファイバプリフォームを加熱線引することによって、応力付与部40を有する構成からなる光ファイバが得られる。
【0129】上記した製造方法について、その一例を説明する。ここでは、コア用ガラスロッドについては、コア内の屈折率分布形状をほぼ放物線状とし、GeO_(2)添加濃度を最大で30mol%とした。また、加熱一体化時のコア用ガラスロッドの外径は8mmであった。一方、第1クラッド用ガラスパイプについては、第1クラッド内の屈折率分布形状をほぼステップ状とし、F添加濃度を最大で1.5mol%とした。
【0130】また、加熱一体化時の第1クラッド用ガラスパイプの外径は32mm、内径は9mmであった。得られた第1クラッド用ガラスパイプは、SF_(6)を300cm^(3)/min、Cl_(2)を200cm^(3)/min、加熱温度1500℃(パイロスコープで測定したガラス表面の最高温度)でエッチングして、表面を平滑にした。
【0131】加熱一体化前の空焼きについては、Cl_(2)を500cm^(3)/min、加熱温度1500℃で空焼きを行った。加熱一体化時のパイプ内の雰囲気ガスは、塩素200cm^(3)/min、酸素300cm^(3)/minとし、パイプ内の減圧度は1kPaとした。
【0132】また、加熱一体化については、加熱温度を1700℃、第1クラッド用ガラスパイプの内周表面の粗さを3μm以下、コア用ガラスロッドの外周表面の粗さを2μm以下、コア用ガラスロッドにおける外周表面から厚さ2μm以内の領域でのGeO_(2)濃度の最大値を3mol%とする条件を適用して加熱一体化を行い、気泡のない外径30mmの中間ガラスロッド(第1中間ガラスロッド)を得た。
【0133】そして、その第1中間ガラスロッドを外径9mmまで延伸した後、その外周部を外径6mmまでHF溶液により研削して、(コア径)/(第1クラッド径)=0.40に調整した。また、この第1中間ガラスロッドとは別に、第2クラッド領域30の内周側部分となる第2クラッド用ガラスパイプを作成した。この第2クラッド用ガラスパイプは、ほぼ純SiO_(2)で外径32mm、内径9mmのSiO_(2)ガラスパイプとした。そして、第2クラッド用ガラスパイプ内に第1中間ガラスロッドを挿入し、加熱一体化して、外径30mmの第2中間ガラスロッドを得た。
【0134】次に、得られた第2中間ガラスロッドの外周上に、第2クラッド領域30の外周側部分となるガラス体を、第2クラッド用ガラスパイプと同様のほぼ純SiO_(2)のSiO_(2)ガラスとして、VAD法またはOVD法によって合成して、第3中間ガラス体を作成した。ここで、(第2クラッド径)/(第1クラッド径)=10.8とした。
【0135】さらに、この第3中間ガラス体を外径36mmまで延伸した。このとき、延伸後の第3中間ガラス体のコア領域10部分の外径は1.3mm、第1クラッド領域20部分の外径は3.3mmであった。この第3中間ガラス体の第2クラッド領域30部分に、図15に示す応力付与部40となる2つの開孔部を形成した。これらの開孔部は、2つの開孔部の中心同士の距離を15.2mm、それぞれの開孔部の外径を10mmとした。また、2つの開孔部それぞれの中心、コア領域10及び第1クラッド領域20の中心は、ほぼ一直線上になるようにした。
【0136】形成された開孔部の内周表面の粗さが2μm以下になるまで研摩し、研摩材や研削くず等の異物を除去するように、水、アルコール、王水で洗浄した。そして、応力付与部40となるガラスロッドとして、外径9mmのB_(2)O_(3)添加SiO_(2)ガラスロッドを開孔部に挿入し封止して、光ファイバプリフォームを作成した。
【0137】以上の製造方法及び製造条件によって作成された光ファイバプリフォームを加熱線引して、図15に示した構造の光ファイバを得た。ここで、開孔部に挿入されたガラスロッドは、線引時の加熱によってクラッド領域と一体化されて、応力付与部40となる。得られた光ファイバの構成は、コア領域10の外径2r_(1)=4.6μm、比屈折率差Δ^(+)=3.0%、第1クラッド領域20の外径2r_(2)=11.6μm、比屈折率差Δ^(-)=-0.5%、第2クラッド領域30の外径2r_(3)=125μmであった。
【0138】また、波長1.55μmの光に対する諸特性は、
分散=+0.01ps/km/nm、
分散スロープ=+0.042ps/km/nm^(2)、
有効断面積Aeff=10.6μm^(2)、
カットオフ波長λc=1349nm、
零分散波長=1550nm、
伝送損失=1.5dB/km、
モードフィールド径=3.75μm、
非線型係数γ=20.2/W/km、
偏波間のクロストーク=-20dB(ファイバ長1km)
で、良好な特性の光ファイバ(非線型性光ファイバ)が得られた。」

また、図15を参照すれば、コア領域10が中心部に位置し、その周囲に第1クラッド領域20が設けられ、第1クラッド領域20の外周に第2クラッド領域30が設けられ、第1クラッド領域20の両側には応力付与部40が設けられていることがみてとれる。

3.引用発明
上記記載によれば、図15に示される構造の光ファイバは、石英ガラス系の非線形性偏波面保持光ファイバであると認められ、段落【0137】及び【0138】には、そのサイズ及び諸特性が記載されている。
ここで、比屈折率差Δ^(+)及び比屈折率差Δ^(-) は、それぞれ、コア領域10と第2クラッド領域30との比屈折率差及び第1クラッド領域20と第2クラッド領域30との比屈折率差であることが引用例の図1等を参照すれば理解される。
また、この光ファイバは、段落【0135】以降に記載されているように、外径が1.3mmのコア領域10部分、外径が3.3mmの第1クラッド領域20部分を有する外径が36mmの第3中間ガラス体に、中心同士の距離が15.2mmでそれぞれの外径が10mmの2つの開孔部を設け、この開口部に応力付与部40となるガラスロッドを挿入した光ファイバプリフォームを加熱線引したものであり、この光ファイバプリフォームにおいて、応力付与部40となるガラスロッドが挿入された開口部間の距離は5.2mmであるところ、段落【0137】に記載されているように、加熱線引によりコア領域10の外径が1.3mmから4.6μmに縮小されていることから、応力付与部40間の距離も同程度の割合で縮小し、18.4μm程度であると考えられる。
したがって、引用例には、
「中心部に位置するコア領域10の外径が4.6μm、前記コア領域の周囲に設けられた第1クラッド領域20の外径が11.6μm、前記第1クラッド領域20の外周に設けられた第2クラッド領域30の外径が125μm、前記第1クラッド領域20の両側に設けられた応力付与部40間の距離が18.4μm、前記コア領域10と前記第2クラッド領域30との比屈折率差Δ^(+)が3.0%、第1クラッド領域20と第2クラッド領域30との比屈折率差Δ^(-)が-0.5%であって、波長1.55μmの光に対する諸特性が分散=+0.01ps/km/nm、分散スロープ=+0.042ps/km/nm^(2)、カットオフ波長λc=1349nm、非線型係数γ=20.2/W/km、偏波間のクロストーク=-20dB(ファイバ長1km)の石英ガラス系の非線形性偏波面保持光ファイバ。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

4.対比
本願補正発明と引用発明を対比するに、引用発明の「コア領域10」、「第1クラッド領域20」、「第2クラッド領域30」、「応力付与部40」、「コア領域10と第2クラッド領域30との比屈折率差Δ^(+)」、「第1クラッド領域20と第2クラッド領域30との比屈折率差Δ^(-)」及び「石英ガラス系の非線形性偏波面保持光ファイバ」がそれぞれ本願補正発明の「第1コア」、「第2コア」、「クラッド」、「応力付与部材」、「前記クラッドに対する前記第1コアの比屈折率差△1」、「前記クラッドに対する前記第2コアの比屈折率差△2」及び「石英ガラス系の偏波保持光ファイバ」に相当する。
ここで、引用発明の比屈折率差Δ^(+)は、本願補正発明が規定する2.5%以上の3.0%であり、また、引用発明における応力付与部40間の距離とコア領域10の外径との比は、18.4/4.6=4.0で、本願補正発明が応力付与部材の間隔Rと第1コアの直径D1との比R/D1として規定する2.5乃至10の範囲内であり、また、引用発明におけるコア領域10の外径と第1クラッド領域20の外径との比は、4.6/11.6=0.4で、本願補正発明が前記第1コアの直径D1と前記第2コアの直径D2との比D1/D2として規定する0.3乃至0.8の範囲内である。
また、引用発明の「分散=+0.01ps/km/nm」、「カットオフ波長λc=1349nm」、「非線型係数γ=20.2/W/km」及び「偏波間のクロストーク=-20dB(ファイバ長1km)」との波長1.55μmの光に対する特性は、それぞれ、本願補正発明の「波長1550nmにおける分散が-9ps/nm/km乃至9ps/nm/km」、「カットオフ波長が1500nm以下」、「波長1550nmにおける非線形係数が15/W/Km以上」及び「波長1550nmにおける偏波クロストークが-20dB/100m以下」との要件を満たすものである。

したがって、両者はともに
「コアと、該コアの外周に設けられたクラッドと、前記コアの両側に設けられた2つの応力付与部材とを備えた石英ガラス系の偏波保持光ファイバであって、前記コアは、中心部に位置する第1コアと該第1コアの外周に設けられた第2コアからなり、前記第2コアは前記第1コアより低い屈折率を有し、前記クラッドは前記第2コアより高くかつ前記第1コアより低い屈折率を有し、前記クラッドに対する前記第1コアの比屈折率差△1が2.5%以上、前記応力付与部材の間隔Rと前記第1コアの直径D1との比R/D1が2.5乃至10、前記第1コアの直径D1と前記第2コアの直径D2との比D1/D2が0.3乃至0.8であり、波長1550nmにおける非線形係数が15/W/Km以上であり、カットオフ波長が1500nm以下であり、波長1550nmにおける分散が-9ps/nm/km乃至9ps/nm/km、かつ波長1550nmにおける偏波クロストークが-20dB/100m以下である偏波保持光ファイバ。」の発明である点で一致する。

一方、次の点で相違する。
a.本願補正発明は、「前記クラッドに対する前記第2コアの比屈折率差△2が-0.8%以下」であるのに対し、引用発明は、本願補正発明の「前記クラッドに対する前記第2コアの比屈折率差△2」に相当する「第1クラッド領域20と第2クラッド領域30との比屈折率差Δ^(-)」が「-0.5%」である点。
b.本願補正発明は、「前記応力付与部材の間隔Rが7μm乃至17μm」であるのに対し、引用発明は、本願補正発明の「前記応力付与部材の間隔R」に相当する「応力付与部40間の距離」が「18.4μm」である点。
c.本願補正発明は、「波長1550nmにおける分散スロープが0.024ps/nm^(2)/km以下」であるのに対し、引用発明は、本願補正発明の「波長1550nmにおける分散スロープ」に相当する「波長1.55μmの光に対する分散スロープ」が「+0.042ps/km/nm^(2)」である点。

5.相違点についての検討
相違点aについて検討するに、引用発明は、引用例の段落【0008】に記載されているように、コア領域の外周に第1及び第2クラッド領域を設けたダブルクラッド構造を用いることにより、カットオフ波長λcを充分に短くすることが可能となり、また、分散スロープを負にすることもできるというものであるから、カットオフ波長λcをさらに短くすることや分散スロープを小さくするために、比屈折率差Δ^(- )を本願補正発明のごとく「-0.8%以下」とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものと認められる。
さらにいえば、原査定で引用した本願出願前に頒布された特開2003-114349号公報の段落【0051】?【0053】、同じく特開2003-177266号公報の段落【0059】、【0060】には、1550nmでの波長分散の絶対値を小さくするとともに低分散スロープを小さくするには、本願補正発明でいう比屈折率差Δ2が-0.1%より大きいと設計しにくくなり、この値は-1%?0.5%とすることが好ましい旨が記載されていることからみても、引用発明において、「第1クラッド領域20と第2クラッド領域30との比屈折率差Δ^(-)」を-0.8%以下とすることは、通常の設計事項の範囲内であり、当業者が容易に採用できたものと認められる。

相違点bについて検討するに、引用発明において、偏波面保持の機能が応力付与部40間の距離に依存することは原理的に明らかであるから、応力付与部40間の距離を適宜変更して、本願補正発明で規定する範囲のものとすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
さらにいえば、本願出願前に頒布された特開2003-57479号公報の段落【0012】には、通常の通信用などの偏波面保持ファイバにあっては、応力付与部間の距離が12?17μm程度である旨記載されており、また、柏田他,偏波保持型高非線形性分散シフトファイバ,電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会講演論文集1,1998年9月7日,p.149, C-3-15の図1には、偏波保持型高非線形性分散シフトファイバにおいて、応力付与部材の間隔を15μmとしたものが記載されていることを考えれば、引用発明において、応力付与部40間の距離をこの程度のものとして、本願補正発明が規定する範囲内のものとすることに困難性は認められない。
なお、引用発明において、応力付与部40間の距離を12?17μmとした場合に、この間隔とコア領域10の外径=4.6μmとの比は、2.6?3.7であり、本願補正発明の「応力付与部材の間隔Rと第1コアの直径D1との比R/D1が2.5乃至10」との要件を満たしている。

相違点cについて検討するに、引用例の段落【0008】には、ダブルクラッド構造とすることにより、分散スロープを負にすることができる旨が記載されており、引用発明において、分散スロープを本願補正発明のごとく、0.024ps/nm^(2)/km以下とすることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
さらにいえば、原査定で引用した前記特開2003-177266号公報の段落【0022】?【0024】には、非線形性偏波面保持光ファイバにおいて、波長分散スロープが小さいことが望ましい旨記載され、また、好ましい範囲として0.001?0.019 ps/nm^(2)/kmが例示されている。
そして、その段落【0055】には、波長分散の絶対値が小さいことと波長分散スロープが小さいこととが良く両立する条件として、本願発明でいう第1コアの外径D1が3?8μmであり、第2コアの外径D2との比率D1/D2が0.3?0.85が望ましいと記載されているところ、引用発明のコア領域10の外径は4.6μmであり、第1クラッド領域20の外径は11.6μmであり、引用発明は、前記段落【0055】の条件を満たしているから、引用発明において、分散スロープを本願補正発明のごとく、0.024ps/nm^(2)/km以下とすることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。

また、本願補正発明が奏する効果も引用例に記載された事項に基づいて当業者が予測可能なものであって、格別のものとはいえない。

6.むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていないので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成19年8月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「コアと、該コアの外周に設けられたクラッドと、前記コアの両側に設けられた2つの応力付与部材とを備えた石英ガラス系の偏波保持光ファイバであって、前記コアは、中心部に位置する第1コアと該第1コアの外周に設けられた第2コアからなり、前記第2コアは前記第1コアより低い屈折率を有し、前記クラッドは前記第2コアより高くかつ前記第1コアより低い屈折率を有し、前記クラッドに対する前記第1コアの比屈折率差△1が1.8%以上、前記クラッドに対する前記第2コアの比屈折率差△2が-0.1%以下であり、前記応力付与部材の間隔Rと前記第1コアの直径D1との比R/D1が2.5乃至10、前記第1コアの直径D1と前記第2コアの直径D2との比D1/D2が0.3乃至0.8であり、波長1550nmにおける非線形係数が15/W/Km以上であり、カットオフ波長が1500nm以下であり、波長1550nmにおける分散が-9ps/nm/km乃至9ps/nm/km、波長1550nmにおける分散スロープが0.029ps/nm2/km以下であり、かつ波長1550nmにおける偏波クロストークが-20dB/100m以下であることを特徴とする偏波保持光ファイバ。」

2.判断
本願発明は、上記本願補正発明において「前記応力付与部材の間隔Rが7μm乃至17μmであり」との限定を削除するとともに、「前記クラッドに対する前記第1コアの比屈折率差△1が2.5%以上」、「前記クラッドに対する前記第2コアの比屈折率差△2が-0.8%以下」及び「波長1550nmにおける分散スロープが0.024ps/nm2/km以下」との事項をそれぞれ、「前記クラッドに対する前記第1コアの比屈折率差△1が1.8%以上」、「前記クラッドに対する前記第2コアの比屈折率差△2が-0.5%以下」及び「波長1550nmにおける分散スロープが0.029ps/nm2/km以下」としたものに相当する。
したがって、本願補正発明は、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらにこれに技術的限定をしたものであるところ、本願補正発明が上記II.[II]2?4において検討したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明が同様の理由により引用発明に基づき当業者が容易に発明できたものであることは明らかである。

3.むすび
したがって、本願発明は、上記引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-08 
結審通知日 2008-12-09 
審決日 2008-12-22 
出願番号 特願2003-288524(P2003-288524)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 幸浩大石 敏弘  
特許庁審判長 稲積 義登
特許庁審判官 三橋 健二
服部 秀男
発明の名称 偏波保持光ファイバ及びこの偏波保持光ファイバを用いた光波長変換器  

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