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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G03G
審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  G03G
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03G
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G03G
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03G
管理番号 1192895
審判番号 無効2007-800022  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-02-06 
確定日 2009-02-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第3721355号「現像ブレードの製造方法及び現像ブレード用金型」の特許無効審判事件についてされた平成19年10月31日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10413号、平成20年2月29日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認めない。 特許第3721355号の請求項1ないし請求項5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成14年11月12日 特許出願(特願2002-328641号) 平成17年 8月31日 特許査定
平成17年 9月16日 設定登録(特許第3721355号)
平成19年 2月 6日 特許無効審判請求(無効2007-8000 22号)
平成19年 4月 2日 上申書提出(請求人)
平成19年 5月25日 答弁書提出(被請求人)
平成19年 5月29日 上申書提出(請求人)
平成19年 5月29日 手続補正書提出(請求人)
平成19年 7月31日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成19年 7月31日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成19年 7月31日 口頭審理
平成19年 8月31日 上申書提出(被請求人)
平成19年 9月 3日 上申書提出(請求人)
平成19年10月31日 審決(審判請求成立)
平成19年12月11日 知的財産高等裁判所出訴
(平成19年(行ケ)第10413号)
平成20年 1月30日 訂正審判請求(訂正2008-390013) 平成20年 2月29日 決定(特許法第181条第2項の規定に基づく 審決取消し(差戻し))
平成20年 6月 9日 訂正請求
(訂正2008-390013はみなし取下げ)
平成20年 7月 8日 訂正拒絶理由通知
平成20年 8月 7日 意見書(被請求人)
平成20年10月22日 上申書(請求人)
平成20年12月 2日 上申書(請求人)

第2 訂正について
1.訂正の内容
本件訂正の内容は、特許第3721355号に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)を、訂正請求書に添付した全文訂正明細書のとおり訂正しようとするものであって、その具体的内容は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】
シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって、上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設けるとともに、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に、成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設けて、上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたことを特徴とする現像ブレードの製造方法。」を、
「【請求項1】
シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって、上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設けるとともに、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に、成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設けて、上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたことを特徴とする現像ブレードの製造方法。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3について、
「【請求項3】
少なくとも1対の型部材を組合わせて成り、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体と、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部とを有する、シリコーンゴムから成る現像ブレードを射出成形するための現像ブレード用金型であって、上記金型のゲートを、上記金型の上記リブ部に対応する部分に設けたことを特徴とする現像ブレード用金型。」を、
「【請求項3】
少なくとも1対の型部材を組合わせて成り、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体と、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部とを有する、シリコーンゴムから成る現像ブレードを射出成形するための現像ブレード用金型であって、上記金型のゲートを、上記金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに設けたことを特徴とする現像ブレード用金型。」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】について、
「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ブレード本体にリブ部を設けて、ゲートをブレード本体側ではなく、上記リブ部に設けることにより、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドのない現像ブレードを製造することが可能であることを見いだし、本発明に到ったものである。
すなわち、請求項1に記載の発明は、シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって、上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設けるとともに、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に、成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設けて、上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の現像ブレードの製造方法において、上記金型内に金属板から成るインサート部材を配置して、上記現像ブレードをインサート成形により製造するようにしたものである。」を、
「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ブレード本体にリブ部を設けて、ゲートをブレード本体側ではなく、上記リブ部に設けることにより、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドのない現像ブレードを製造することが可能であることを見いだし、本発明に到ったものである。
すなわち、請求項1に記載の発明は、シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって、上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設けるとともに、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に、成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設けて、上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の現像ブレードの製造方法において、上記金型内に金属板から成るインサート部材を配置して、上記現像ブレードをインサート成形により製造するようにしたものである。」と訂正する。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】について、
「【0007】
また、請求項3に記載の発明は、少なくとも1対の型部材を組合わせて成り、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体と、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部とを有する、シリコーンゴムから成る現像ブレードを射出成形するための現像ブレード用金型であって、上記金型のゲートを、上記金型の上記リブ部に対応する部分に設けたものである。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の現像ブレード用金型において、上記リブ部の幅方向の長さをブレード本体の幅方向の長さの10?200%としたものである。
また、請求項5に記載の発明は、請求項3または請求項4に記載の現像ブレード用金型において、上記金型内に、金属板から成るインサート部材を保持する手段を設け、インサート成形により、金属板の支持部材付きの現像ブレードを作製することができるようにしたものである。」を、
「【0007】
また、請求項3に記載の発明は、少なくとも1対の型部材を組合わせて成り、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体と、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部とを有する、シリコーンゴムから成る現像ブレードを射出成形するための現像ブレード用金型であって、上記金型のゲートを、上記金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに設けたものである。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の現像ブレード用金型において、上記リブ部の幅方向の長さをブレード本体の幅方向の長さの10?200%としたものである。
また、請求項5に記載の発明は、請求項3または請求項4に記載の現像ブレード用金型において、上記金型内に、金属板から成るインサート部材を保持する手段を設け、インサート成形により、金属板の支持部材付きの現像ブレードを作製することができるようにしたものである。」と訂正する。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】について、
「【0012】
なお、上記実施の形態では、リブ部3の側面側にゲート16を設けた場合について説明したが、ゲート位置はこれに限るものではなく、例えば、図4に示すように、リブ部3に対応する部分の裏面側に設けるなど、ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていればよい。
また、上記例では、ブレード本体2を金属板4上に保持した現像ブレード1について説明したが、これに限るものではない。例えば、上記図7に示した、ブレード本体22を金属板21に挟み込んだタイプのものであっても、図5に示すように、ブレード本体2Aに、ブレード本体2Aの裏面側から上記ブレード本体2Aの幅方向に突出するリブ部3Aを設け、金型の上記リブ部3Aに対応する箇所(ここでは、リブ部3Aの側面側とした)にゲート16を設けてインサート成形するようにすれば、上記実施の形態と同様に、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」を、
「【0012】
なお、上記実施の形態では、リブ部3の側面側にゲート16を設けた場合について説明したが、ゲート位置はこれに限るものではなく、例えば、図4に示すように、リブ部3に対応する部分の裏面側でブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分に設けるなど、ブレード本体2側ではなくリブ部3側のブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分に設けられていればよい。
また、上記例では、ブレード本体2を金属板4上に保持した現像ブレード1について説明したが、これに限るものではない。例えば、上記図7に示した、ブレード本体22を金属板21に挟み込んだタイプのものであっても、図5に示すように、ブレード本体2Aに、ブレード本体2Aの裏面側から上記ブレード本体2Aの幅方向に突出するリブ部3Aを設け、金型の上記リブ部3Aに対応する箇所(ここでは、リブ部3Aの側面側とした)にゲート16を設けてインサート成形するようにすれば、上記実施の形態と同様に、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」と訂正する。

(6)訂正事項6
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】について、
「【0013】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する際に、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設け、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際には、現像ブレード成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設け、成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたので、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」を、
「【0013】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する際に、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設け、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際には、現像ブレード成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設け、成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたので、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」と訂正する。

2.訂正拒絶理由の概要
これに対して、当審で通知した平成20年7月4日付け訂正拒絶理由の概要は次のとおりである。

「(1)訂正事項1について
訂正事項1における、「成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲート部を設けて、」を「成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設けて、」と訂正することは、以下に述べる理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。(以下において、下線は当審で付与したものである。)

(A)被請求人の主張
被請求人は、本件訂正請求書の9頁ないし11頁において、以下のように主張している。

『(4)請求の原因
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
すなわち、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設けて」との記載を、「成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設けて」とすることにより、成形用金型のうち「リブ部」に対応する部分において「ゲート」を設ける箇所が「上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみ」に限定されることを明確にしている。

(イ)願書に添付した明細書又は図面の記載の範囲内であること
まず、訂正前の本件特許明細書には、
「本例では、図1にも示すように、上記金型10のゲート16を、上記キャビティ13の、上記リブ部3に対応する部分の側面側に設けることにより、図示しない射出装置から注入される、ブレード本体2とリブ部とを成形するための材料(例えば、シリコーンゴムなど)を、上記リブ部3の側面側から上記キャビティ13内に導入して固化して上記構成の現像ブレード1を成形するようにしている。」(段落【0009】)
との記載がある。このように、訂正前の本件特許明細書には、「リブ部3」の側面側に対応する部分(それは、成形用金型のうち、リブ部3のブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分でもある。)に「ゲート」を設けることが記載されている。
また、訂正前の本件特許明細書には、
「なお、上記実施の形態では、リブ部3の側面側にゲート16を設けた場合について説明したが、ゲート位置はこれに限るものではなく、例えば、図4に示すように、リブ部3に対応する部分の裏面側に設けるなど、ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていればよい。」(段落【0012】)
との記載があり、成形用金型において、「ゲート」を「リブ部3」の「側面側」に対応する部分に代えて、「リブ部3」の「裏面側」に対応する部分に設けることが記載されている。
さらに、ゲートを成形用金型のうちリブ部の「側面側」に対応する部分に代えて、リブ部の「裏面側」に対応する部分に設ける場合においても、【図4】から明らかであるが、成形用金型のうち、リブ部の「裏面側」の「ブレード本体の側面側の近傍の部分」に対応する部分に設けられていることが分かる。また、リブ部の「裏面側」に対応する部分に設けることは、あくまでリブ部の「側面側」に変わる箇所の例示にすぎないことは、「例えば、図4に示すように、リブ部3に対応する部分の裏面側に設けるなど、」とあることから明らかであり、「リブ部3」の「裏面側」に対応する部分に限定されるものではなく、「ブレード本体の側面側の近傍の部分」に対応する部分であればよい(したがって、リブ部の「側面側」に対応する部分でも「裏面側」に対応する部分でもない箇所、例えば、リブ部の上面側に対応する部分であっても、「ブレード本体の側面側の近傍の部分」に対応する部分でありさえすればよい)ことが分かる。
そして、【図1】及び【図4】においては、成形用金型のうち、「リブ部」の「ブレード本体の側面側の近傍の部分」に対応する部分「のみ」にゲートが設けられている。
このように、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面の記載の範囲内においてなされている。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正前の請求項1の記載において「リブ部」に「ゲート」を設けること自体は記載されている。訂正事項1は、成形用金型のうち「リブ部」に対応する部分において、その「ゲート」を設ける箇所を「ブレード本体の側面側の近傍の部分」に対応する部分のみに限定したものである。
したがって、訂正事項1は、請求項1について、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。』

(B)本件特許明細書に記載されている事項
被請求人が上記(A)において訂正の根拠として言及している【図1】及び【図4】は、それぞれ以下に示すものである。

【図1】


【図4】

上記【図1】に記載のリブ部3は、ブレード本体2の一方の側面部から他方の側面部に亘って一様な幅方向の長さを有して形成されたものであって、成形用金型のゲート15は、リブ部3の左右の側面部に対応する部分に1つずつ設けられている。
また、上記【図4】に記載のリブ部3は、【図1】に記載のリブ部3と同様に、ブレード本体2の一方の側面部から他方の側面部に亘って一様な幅方向の長さを有して形成されたものであって、成形用金型のゲート15は、リブ部3の左右の側面部付近の後側に対応する部分に1つずつ設けられている。
また、ゲートの位置等に関して、本件特許明細書の段落【0010】に以下のように記載されている。
「【0010】
このとき、上記リブ部3の寸法としては、図3に示すように、厚みtをブレード本体2の厚みTの20?80%とすることが好ましく、50%前後とすることが特に好ましい。上記厚みtがブレード本体2の厚みTの20%未満である場合には、キャビティ13のリブ部3に相当する部分が狭くなって、成形材料を十分にキャビティ13内に充填することができず、ブレード本体2にヒケが発生しやすくなる。また、上記厚みtがブレード本体2の厚みTの80%を超えると、リブ部3とブレード本体2の厚みとの間の段差が小さくなるため、ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすい。
また、上記リブ部3の幅方向の長さlについては、ブレード本体2の幅方向の長さLの10?200%とすることが好ましく、20%前後とすることが特に好ましい。上記長さlがブレード本体2の長さLの10%未満である場合には、ゲート16の位置とブレード本体2との位置が近すぎるので、ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすくなる。」
このように、本件特許明細書の上記段落【0010】には、現像ブレード成形用金型に設けられるゲートはブレード本体に対する距離、すなわち、【図3】におけるブレード本体の後端部との距離を考慮して設ければよいことが明示的に記載されており、ゲートの設置箇所についてそれ以外の制限条件が存在することについて何ら記載されていない。

(C)本件訂正前の請求項1に記載されているリブ部
本件訂正前の請求項1には、リブ部の構成に関して「・・・ブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設ける」と規定されているだけであって、リブ部の長手方向の長さ、形状、配置位置、個数については何ら規定していない。
また、現像ブレード成形用金型に設けられるゲートの位置はリブ部に対応するものである限り任意であるものとされている。
そして、上記(B)で指摘したように、本件特許明細書には、訂正前の請求項1に係るリブ部の構成についてのこのような認定を妨げる記載事項は何ら存在しない。

(D)訂正事項1の内容についての検討
「成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設け」ることが上記【図1】または【図4】に記載されているか、または、【図1】または【図4】に記載されている事項から自明な事項であるかについて以下に検討する。
本件訂正後の請求項1において、リブ部がブレード本体の一方の側面部から他方の側面部に亘って一様な幅方向の長さを有して形成されたものであることについて何ら規定していないから、本件訂正後の請求項1におけるリブ部は、本件訂正前のリブ部と同様に、任意の長手方向の長さ、形状、配置位置、個数のものを含む。
そして、上記のことは、口頭審理調書における被請求人の、『リブ部は、「ウエルド、ヒケ、及びバリの発生がない」という効果を奏するものであれば、長手方向の長さ、形状、配置位置、個数について限定されるものではない。』、『本件発明において、「リブ部」という用語は「突出部」という用語と同義語である。本件明細書の図面上はブレード全長に亘って設けられているが、これは単なる実施例を示したものにすぎない。』という陳述内容を考慮しても明らかである。
ここで、「リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分」における、「ブレード本体の側面側」の技術的意義は必ずしも明確でなく、「リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分」は、「ブレード本体の側面部に最も近いリブ部の側面部の近傍の部分」を意味するものとも考えられるが、被請求人の上記「(4)請求の原因 ア 訂正事項1」の「(イ)願書に添付した明細書又は図面の記載の範囲内であること」における下線を付した複数の箇所における、「?側」の意味内容と被請求人の主張内容を総合的に考慮すると、「リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分」は、「リブ部であって上記ブレード本体の側面部の近傍の部分」を意味するものであると判断される。
そこで、「リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分」は、「リブ部であって上記ブレード本体の側面部の近傍の部分」を意味するものとして、以下に検討する。
前述したように、本件訂正後の請求項1において、リブ部の長手方向の長さやリブ部の配置位置は規定されていない。
しかしながら、「リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分」は、「リブ部であって上記ブレード本体の側面部の近傍の部分」を意味するものとする場合には、リブ部の一方の側面部はブレード本体の側面部の近傍になければならないので、リブ部の長手方向の長さが短いもの(例えばブレード本体の長手方向長さの1/20のもの)に対しては、リブ部の配置位置をブレード本体の側面部の付近とし、成形用金型のゲートはこのリブ部に対応する部分にのみ設けることを実質的に意味する。
前述したように【図1】、【図4】には、「リブ部3がブレード本体2の一方の側面部から他方の側面部に亘って一様な幅方向の長さを有して形成されたもの」であって、「成形用金型のゲート15は、リブ部3の左右の側面部に対応する部分に1つずつ設けられている」ものが記載されているだけであって、リブ部の長手方向の長さが短いものや、リブ部が複数配置され、そのうちの両端部のリブ部のみにゲートが設けられているものは記載されていない。
そして、リブ部3の長手方向の長さが短いものとした場合において、少なくとも1つのリブ部3をブレード本体2の一方の側面部の付近に配置し、成形用金型のゲートを1つとしてそのリブ部に対応する部分にのみ設けることは【図1】、【図4】に何ら記載されておらず、また、【図1】、【図4】の記載等からみて当業者にとって自明であるということもできない。
【図1】や【図4】に記載されているものにおいて、リブ部3の長手方向の長さを短いものとする場合、リブ部3をブレード本体2の長手方向の中央部に対応する部分に配置したり、リブ部3を複数個設け、それぞれのリブ部3に対応する部分に成形用金型のゲートを設けること等は、容易に想定される事項である。
これに対して、被請求人は、上記「(A)被請求人の主張」において摘記したように、『リブ部3」の側面側に対応する部分(それは、成形用金型のうち、リブ部3のブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分でもある。)に「ゲート」を設けることが記載されている。』と主張しているが、上記【図1】や上記【図4】に記載されているように、リブ部3がブレード本体の一方の側面部から他方の側面部に亘って一様な幅方向の長さを有して形成されること、及び、成形用金型のゲートがリブ部の左右の側面部に対応する部分に1つづつ設けられていることを規定した場合に限り、リブ部3がブレード本体の側面部の近傍の部分を有するものであって、ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに成形用金型のゲートを設けるということができるのに対して、本件訂正後の請求項1において、リブ部の長手方向の長さやリブ部の配置位置、個数について何ら規定しておらず、本件訂正後の請求項1に記載した事項のみにより、リブ部がブレード本体の側面部の近傍の部分を有しているということ、及び、ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみに成形用金型のゲートを設けているということはできない。
そして、本件特許明細書には、リブ部がブレード本体の一方の側面部から他方の側面部に亘って均一な断面形状を有しなければならないことが記載されていないばかりでなく、リブ部の長手方向の長さ、形状、配置位置、個数について制限する記載事項は存在しない。
すなわち、被請求人の上記(A)において、下線を付した箇所の主張は、本件特許明細書に記載した事項に基づくものではない。
さらに、被請求人が上記(A)で摘記している、訂正前の本件特許明細書の段落【0012】には、
「なお、上記実施の形態では、リブ部3の側面側にゲート16を設けた場合について説明したが、ゲート位置はこれに限るものではなく、例えば、図4に示すように、リブ部3に対応する部分の裏面側に設けるなど、ブレード本体2側ではなくリブ部3側に設けられていればよい。」
とあり、ゲートは現像ブレード成形用金型のブレード本体2側ではなくリブ部3側に対応する部分に設けられさえすればよいことが実質的に記載されていることからみても、ゲートを現像ブレード成形用金型の「ブレード本体の側面側の近傍の部分」に対応する部分のみに設けることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の事項ではない。

(E)小括
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(2)訂正事項2について
本件特許の請求項1は現像ブレードの製造方法に係るものであるのに対し、請求項3は現像ブレードを製造するための現像ブレード用金型に係るものであるが、その訂正内容は訂正事項1と同様である。
そして、上記(1)において、訂正事項1に対して示したのと同様の理由により、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1により請求項1に係る発明が訂正されたことに伴う発明の詳細な説明の訂正である。
したがって、訂正事項1が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないのであるから、訂正事項3も同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項2により請求項3に係る発明が訂正されたことに伴う発明の詳細な説明の訂正に係るものである。
したがって、訂正事項2が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないのであるから、訂正事項4も同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1及び訂正事項2に伴い明細書の段落【0012】を訂正するものである。
そして、訂正事項1及び訂正事項2が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないのであるから、訂正事項5も同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、上述したように、明細書の段落【0013】を、
「【0013】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する際に、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設け、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際には、現像ブレード成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設け、成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたので、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」
と訂正しようとするものであるが、「現像ブレード成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設け」るとする訂正は、上記「(1)訂正事項1について」において検討したように、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
また、訂正事項6により、本件訂正後の請求項1に係る発明は、現像ローラの成形用金型のリブ部に対応する部分であっても、「ブレード本体の側面側の近傍の部分」に対応する部分以外にはゲートを設けず、「ブレード本体の側面側の近傍の部分」に対応する部分のみにゲートを設けるようにしたことにより、「現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる」という効果を有するものとされたこととなるが、このことは本件特許明細書には何ら記載も示唆もされていなく、当業者にとって自明でない事項である。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないので、本件訂正請求は特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項に規定する要件を満たしていない。」

3.被請求人の意見の概要
これに対して、被請求人は、平成20年8月7日付けの意見書で、以下のように主張している。(下線は当審で付与したものである。)

『そして、この問題点を解決するために、
「図10に示すように、金型30のゲート34’をブレード本体22の両サイド部22s,22sにそれぞれ設ける方法も考えられる」(本件明細書2頁44行から45行まで)
ところ、
「この場合には、ブレード本体22にゲート34’を直結させているため、図10(b)に示すように、ヒケ22yやバリが発生しやすい」(本件明細書2頁45行から47行まで)
という問題点がみられたとある。
そして、
「本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのない現像ブレードを製造する方法と、上記現像ブレードの射出成形に用いられる現像ブレード用金型を提供することを目的とする。」(本件明細書2頁49行から3頁1行まで)
とあるように、このような問題点を解決するものが本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載全体において開示されている発明である。すなわち、本件特許発明は、ブレード本体の「両サイド部」(=ブレード本体の側面側)に対応する部分にのみゲートを設けるという技術的思想(従来技術)を改良したものといえる。そのことは、上記引用した本件明細書の発明の詳細な説明と関連する図面の記載からも明らかである。言い換えれば、ブレード本体の「両サイド部」(=ブレード本体の側面側)に近い部分には少なくとも「リブ部」を設け、その「リブ部」に対応する部分に「ゲート」を設けるとの技術的思想が創作されたのである。』(意見書第3頁第16行?第4頁第11行)

被請求人が上記主張において言及している図10は、以下に示すものである。

【図10】


『すなわち、本件特許発明は、ブレード本体の「両サイド部」(=ブレード本体の側面側)に対応する部分にのみゲートを設けるという技術思想(従来技術)を改良したものといえる。そのことは、上記引用した本件明細書の発明の詳細な説明と関連する図面の記載からも明らかである。言い換えれば、ブレード本体の「両サイド部」(=ブレード本体の側面側)に近い部分には少なくとも「リブ部」を設け、そのリブ部に対応する部分に「ゲート」を設けるとの技術的思想が創作されたのである。
このように、本件特許発明は、従来一般的な方法である「多数のゲート」を設けたのでは「ウェルド」が出やすいので、ブレード本体の「両サイド部」(=ブレード本体の側面側)に対応する部分のみ「ゲート」を設けたところ、今度は「ヒケ」や「バリ」が出やすいという別の問題が生じたので、その箇所に(=ブレード本体の側面側の近傍に)「リブ」を設け、ブレード本体に直接には成形材料を注入しない構成にしたというものである。
したがって、「リブ部」を設ける際にも、少なくとも、ブレード本体の「両サイド部」(=ブレード本体の側面側)に近い部分に「リブ部」を設け、その箇所に「ゲート」を設ける必要があることは明らかである。
この際、ウェルド、ヒケ、バリなどの発生を抑えるという効果との関係においては、ブレード本体の「両サイド部」に近い部分であれば、「リブ部」の「側面側」であれ、「裏面側」であれ、どの箇所に相当する部分に「ゲート」を設けるかは重要でない。そのことは、発明の実施の形態に係る段落【0012】の記載並びに【図1】及び【図4】からも明らかである。これに対し、例えば、ブレード本体の長手方向の中心に短い幅のリブを設け、そこに相当する部分にゲートを設けたのでは、成形材料が左右均一に流れるとは限らず、ヒケが発生するおそれもある。』(意見書第4頁、第4?28行)

『しかし、「リブ部」がブレード本体の長手方向全長にわたって延在する均一の幅を有するものには限定されないという点は争わないが、・・・「ウェルド」の発生を抑えるために、ブレード本体の「両サイド部」(=ブレード本体の側面側)に近い部分に「リブ部」を設ける必要があることは明らかである。
したがって、本件訂正「後」の請求項1の発明における「リブ部」は、少なくとも、ブレード本体の「両サイド部」(=ブレード本体の側面側)に近い部分に設けられることが必要であることが明確にされている(したがって短幅のリブ部が1個のみ存在し、かつ当該リブ部がブレード本体長手方向中央付近に配置されるような構成は除外されている。)。
それ以外の部分の「リブ部」の長さ、形状などについても、「ウェルド、ヒケ、及びバリの発生がない」という本件特許発明の効果を阻害しない限りにおいて、任意であるにすぎない。』(意見書第6頁第22行?第7頁第8行)

4.訂正の可否についての当審の判断
(1)訂正事項1に係る訂正前の特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項について
上記「2.訂正拒絶理由の概要」における「(B)本件特許明細書に記載されている事項」で指摘したように、本件特許明細書に、「【0010】このとき、上記リブ部3の寸法としては、図3に示すように、厚みtをブレード本体2の厚みTの20?80%とすることが好ましく、50%前後とすることが特に好ましい。上記厚みtがブレード本体2の厚みTの20%未満である場合には、キャビティ13のリブ部3に相当する部分が狭くなって、成形材料を十分にキャビティ13内に充填することができず、ブレード本体2にヒケが発生しやすくなる。また、上記厚みtがブレード本体2の厚みTの80%を超えると、リブ部3とブレード本体2の厚みとの間の段差が小さくなるため、ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすい。上記リブ部3の幅方向の長さlについては、ブレード本体2の幅方向の長さLの10?200%とすることが好ましく、20%前後とすることが特に好ましい。上記長さlがブレード本体2の長さLの10%未満である場合には、ゲート16の位置とブレード本体2との位置が近すぎるので、ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすくなる。」と記載されている。
「上記厚みtがブレード本体2の厚みTの20%未満である場合には、キャビティ13のリブ部3に相当する部分が狭くなって、成形材料を十分にキャビティ13内に充填することができず、ブレード本体2にヒケが発生しやすくなる」と記載されていること、及び、請求項1に係る発明においてリブ部の厚みをブレード本体の厚みの20?80%と規定されていることから、ゲート16がキャビティ13内においてブレード本体2に相当する部分から離れた箇所に設けられるものであって、ゲート16から射出された成形材料はリブ部3に相当する部分を流れた後にブレード本体2に相当する部分に充填されることは明らかである。
また、「上記リブ部3の幅方向の長さlについては、ブレード本体2の幅方向の長さLの10?200%とすることが好ましく、20%前後とすることが特に好ましい。上記長さlがブレード本体2の長さLの10%未満である場合には、ゲート16の位置とブレード本体2との位置が近すぎるので、ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすくなる。」と記載されているから、訂正拒絶理由において指摘しているように、「本件特許明細書の上記段落【0010】には、現像ブレード成形用金型に設けられるゲートはブレード本体2に対する距離、すなわち、【図3】におけるブレード本体の後端部との距離を考慮して設ければよいことが明示的に記載されて」おり、本件特許明細書には、ゲート16を成形用金型におけるブレード本体2に近い部分に配置するとウェルドが発生してしまうことが実質的に示されているのである。
そして、上記の技術的事項に対応するものとして、請求項4において、リブ部の幅方向の長さをブレード本体2の幅方向の長さの10?200%とすることが規定されている。
本件訂正前の特許明細書には、訂正事項1に係る用語である「ブレード本体の側面側」及び「近傍」が使用されていないばかりでなく、「近傍」という概念に関連する記載としては、段落【0010】における、「・・・ゲート16の位置とブレード本体2との位置が近すぎるので、ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすくなる。」があるだけである。
そうすると、訂正事項1に係る「リブ部であって上記ブレード本体の側面側の近傍側の部分」なる技術的概念は本件訂正前の特許明細書に記載された事項でなく、また、自明な事項でもない。
ところで、幾何学的な意味において、「点Pを中心として任意の半径で円を描いたとき、その円内の点全体の集合をPの近傍という」ことは周知の事項である。
したがって、上記段落【0010】の記載を参酌すると、本件特許明細書には、ゲートを成形用金型のブレード本体2の後端部の任意の点に対応する部分、または、成形用金型のリブ部であってブレード本体2の後端部の任意の点の近傍に含まれる部分に対応する部分に設けるとウェルドが発生してしまうことにより、本件発明の目的を達成することができないことが明確に示されているということができる。

(2)訂正事項1に係る、【図1】、【図4】、【図5】に示されている事項について
訂正拒絶理由において指摘しているように、「上記【図1】に記載のリブ部3は、ブレード本体2の一方の側面部から他方の側面部に亘って一様な幅方向の長さを有して形成されたものであって、成形用金型のゲート15は、リブ部3の左右の側面部に対応する部分に1つずつ設けられ」、また、「上記【図4】に記載のリブ部3は、【図1】に記載のリブ部3と同様に、ブレード本体2の一方の側面部から他方の側面部に亘って一様な幅方向の長さを有して形成されたものであって、成形用金型のゲート15は、リブ部3の左右の側面部付近の後側に対応する部分に1つずつ設けられている」から、上記【図1】には、ゲート16をリブ部3の側面部に相当する部分に設けたものが記載されており、上記【図4】にはゲート16をリブ部3の後端の近傍にあるリブ部3の後端部に対応する部分に設けたものが記載されているので、上記【図1】及び【図4】には、ゲート16をリブ部3の側面部またはリブ部3の側面部またはリブ部3の側面部の近傍に対応する部分に設けたことが記載されているということはできるが、ゲート16を成形用金型のブレード本体2に近い部分、すなわちブレード本体2の近傍に対応する部分に設けることは何ら記載されてない。
そして、上記【図1】及び【図4】には、リブ部3がブレード本体2の1方の側面側(=ブレード本体2の両サイド部)から他方の側面側に亘って形成されている場合において、ゲート16を成形用金型のリブ部3の側面部に対応する部分、または、リブ部3の後端部における、リブ部3の側面部後端の近傍に対応する部分に設けることが記載または示唆されてはいるが、同時に、ブレード本体2の後端部の近傍に含まれ、ウェルドが発生する程度にブレード本体2の後端部に近い箇所に対応する部分に設けてはならないことも示されているということができる。
上記の事項は、上記【図1】及び【図4】、または【図5】において、それぞれ、ゲート16がブレード本体2の後端部から離れた箇所に対応する部分に設けられていることからみても確認することができる。
また、上記【図1】及び上記【図4】、または【図5】を参照することにより、「リブ部であってブレード本体2の側面側(=ブレード本体2の両サイド部)の近傍の部分」は必然的に、「リブ部であってブレード本体2の側面側後端(=ブレード本体2の両サイド部後端部)の近傍の部分」であって、上述したように、本件訂正前の特許明細書の段落【0010】において、ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすくなるためゲートを設けないことが明記されていた箇所を含むものである。
さらに、段落【0010】、【0012】及び【図4】の記載事項を総合して考慮すると、成形材料はリブ部を介して注入されるのであるから、成形用金型のリブ部は、ブレード本体2の後端部から所定距離だけ離れた位置でありさえすれば、どの位置に設けられてもよいということがわかる。
したがって、【図1】及び【図4】または【図5】に記載されている技術的事項を参酌したとしても、本件訂正前の特許明細書に、「成形用金型の上記リブ部であって上記ブレード本体2の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設け」ることが記載されていないばかりでなく、そのような箇所にゲートを設けることが、当業者にとって自明な技術的事項でないことは明らかである。

(3)訂正事項1に係る被請求人の主張について
これに対して、前記「(A)被請求人の主張」において摘記したように、被請求人は訂正請求書において、『「リブ部3」の側面側に対応する部分(それは、成形用金型のうち、リブ部3のブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分でもある。)』としている。
しかも、被請求人は、訂正拒絶理由通知に対する意見書において、請求項1に係る発明は、被請求人が乙2号証として提出した現像ブレードのように、リブ部3の側面部がブレード本体の両サイド部から離れた箇所に形成されたもの(【図1】や【図4】に記載されているようなリブ部がブレード本体の両サイド部の後端に形成されないもの)を含むものと主張している。
しかしながら、リブ部3の側面部がブレード本体の両サイド部から離れた任意の箇所に形成される場合に、【図1】及び【図4】の記載にのみ基づいて、訂正事項1に係る、「成形用金型の上記リブ部であって、上記ブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分のみにゲートを設け」が、本件訂正前の特許明細書に記載された事項であるとすることができないことは明らかである。
また、リブ部3の側面部がブレード本体の両サイド部から離れた任意の箇所に形成される場合でも、「ブレード本体の側面側の近傍の部分」は必然的に「ブレード本体の後端側の近傍の部分」を含むのであるから、前述した理由により本件訂正前の明細書に記載した事項ではない。
さらに、被請求人は訂正拒絶理由通知に対する意見書において、本件発明は【図10】に記載されている従来技術を改良したものである旨主張しているが、【図10】として記載されている従来技術は、成形用金型のブレード本体の両サイド部に対応する部分にそれぞれのゲートを設けるものであって、ブレード本体にリブ部を設けるものではない。
しかも、上記【図10】(b)には、成形用金型のブレード本体の両サイド部に対応する部分にそれぞれゲートを設けてる同時に成形材料を注入すると、ブレード本体の中央部分にヒケ22yが発生することが示されている。 被請求人が提出した乙第2号証のような、両サイド部の近くにのみ短幅のリブを設けたものにおいて、成形用金型のそれぞれのリブ部に対応する部分のゲートから成形材料を同時に注入した場合には、【図10】(b)に示されるのと同様に、ブレード本体の中央部分にヒケが発生してしまうことは明らかである。
要するに、短幅の成形材料注入用リブ部をブレード本体の後端部であって両サイド部の近くにそれぞれ設けて、2つのゲートから同時に成形材料を注入することができないことは、本件明細書に記載されている事項から当業者にとって自明な技術的事項であるということができる。
そして、【図1】、【図4】、【図5】には、リブ部3がブレード本体2の両サイド部に亘ってブレード本体2の後端部に形成される場合に、ゲートが成形用金型におけるブレード本体の両サイド部の近くであって、ブレード本体の後端部から所定距離だけ離れて箇所に対応する部分に設けることができることが示されているのである。
以上述べた理由により、被請求人の前記「3.被請求人の意見の概要」で摘記した主張を採用することはできない。

(4)訂正事項1についてのまとめ
訂正事項1により、リブ部の厚みがブレード本体の厚みの20?80%であるときに、ゲート16が成形用金型のリブ部であってブレード本体2の側面側(ブレード本体2の両サイド部)の近傍の部分に対応する部分のみに設けられたものは、ゲート16がブレード本体2の後端部の任意の点の近傍の部分に対応する部分に設けられている場合であっても、ゲート16が成形用金型のリブ部であってブレード本体の後端部から離れてた箇所に対応する部分に設けられているときと同様に、ウェルド、バリ、ヒケ等が発生しないこととされたこととなる。
しかも、被請求人が乙第2号証として提出した現像ブレードのような、短幅のリブ部がブレード本体の両サイド部から離れて設けられているものであっても、ゲートがリブ部であってブレード本体の両サイドの近傍に対応する部分のみに設けられたものであれば、ゲート16がブレード本体2の後端部の任意の点の近傍の部分に対応する部分に設けられている場合であっても、ゲート16が成形用金型のリブ部であってブレード本体の後端部から離れてた箇所に対応する部分に設けられているときと同様にウェルド、バリ、ヒケ等が生じないものとされたのである。
上述の事項は、上記(1)ないし(3)で述べた理由により、本件訂正前の特許明細書等に記載した技術的事項ではなく、また、当業者にとって自明な事項でもない。
したがって、訂正事項1が本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術事項を導入するものであることは明らかであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内でしたものということはできない。

(5)訂正事項2ないし訂正事項6について
訂正事項2ないし訂正事項6も、訂正事項1について判断した理由と同様の理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内でしたものということはできない。

5.訂正の可否についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、訂正拒絶理由書に示した理由は妥当であり、平成20年6月9日付けの訂正請求は、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項(ただし、平成14年法律第24号附則3条第1項の規定により、同法第2条の規定による改正後の特許法の規定は、同法附則第1条第2号に定める日(平成15年7月1日)以後の特許出願について適用され、同日前にした特許出願については、なお従前の例によるものとされているため、本件訂正請求については、同法による改正前の特許法第126条第2項が適用されることになる。)の規定に適合しないから、本件訂正は認められない。

第3 本件発明
平成20年6月9日付けの訂正請求は、上記のとおり認められないから、本件特許の請求項1ないし請求項5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」、「本件発明5」という。)は、願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の記載からみて、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって、上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設けるとともに、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に、成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設けて、上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたことを特徴とする現像ブレードの製造方法。
【請求項2】 上記金型内に、金属板から成るインサート部材を配置して、上記現像ブレードをインサート成形により製造することを特徴とする請求項1に記載の現像ブレードの製造方法。
【請求項3】 少なくとも1対の型部材を組合わせて成り、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体と、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部とを有する、シリコーンゴムから成る現像ブレードを射出成形するための現像ブレード用金型であって、上記金型のゲートを、上記金型の上記リブ部に対応する部分に設けたことを特徴とする現像ブレード用金型。
【請求項4】 上記リブ部の幅方向の長さを、上記ブレード本体の幅方向の長さの10?200%としたことを特徴とする請求項3に記載の現像ブレード用金型。
【請求項5】 上記金型内に、金属板から成るインサート部材を保持する手段を設けたことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の現像ブレード用金型。」

第4.請求人の主張の概要、及び、請求人が提出した証拠
1.請求人の主張の概要
(1)無効理由1
請求項1ないし請求項5に記載された発明は、本件出願前に公然知られた、請求人が開発した甲1号証の現像ブレードに係る発明、及び、甲第5号証ないし甲第8号証、甲第12号証ないし甲第13号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
請求項1ないし請求項5に記載された発明は、甲第8号証ないし甲第13号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)無効理由3
請求項1、請求項3、及び請求項4並びに発明の詳細な説明に記載された「リブ部」が如何なるものか、特に、「タブ」との違いが不明確であり、また、厚さのみが限定されている「リブ部」の具体的な構造が不明であり、「リブ部」がどのように構成されているのか不明確である。
したがって、本件特許の「発明の詳細な説明」の記載は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということができないので、本件特許は特許法第36条第4項第1号の規定に反するものであり、また、厚さのみが限定されている「リブ部」の具体的な構造が不明であり、「リブ部」がどのように構成されるのか明確でないので、本件特許は特許法第36条第6項第2号の規定に反するものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、請求項1ないし請求項5に記載された発明についてなされた特許は無効とすべきものである。

(4)無効理由4
本件特許発明の真の発明者は、請求人開発ブレード1、2を開発した請求人会社の社員らであり、本件特許は、発明者でない者であってその発明者について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してなされたものであって、特許法第123条第1項第6号の規定により無効にされるべきものである。

2.証拠方法
(1)甲第1号証: 請求人開発ブレード1の実物
(2)甲第2号証: 2001年(平成13年)7月25日付にて件外ブラザー工業株式会社に承認を受けた納入仕様書
(3)甲第3号証: 請求人開発ブレード2の実物
(4)甲第4号証: 2002年1月17日作成の請求人開発ブレード2の設計図
(5)甲第5号証: 1990年(平成2年)1月10日発行の「図解プラスチック成形加工用語辞典」工業調査会
(6)甲第6号証: 1995年(平成7年)1月31第2版発行の廣恵章
利・本吉正信著「プラスチック成形加工入門(第2版)」日刊工業新聞社
(7)甲第7号証: 昭和55年1月10日初版発行の廣恵章利・深沢勇著「やさしいプラスチック金型」三光出版社
(8)甲第8号証: 特開平11-231647号公報
(9)甲第9号証: 特開平9-244404号公報
(10)甲第10号証: 昭和54年5月30日初版発行の廣恵章・本吉正信著「プラスチック成形加工入門」88?90頁、日刊工業新聞社
(11)甲第11号証: 昭和60年12月10日第2版発行の白石順一郎著「射出成型用金型(第2版)」日刊工業新聞社
(12)甲第12号証: 1989年(平成元年)初版発行の青葉堯著「射出成形・金型マニュアル」工業調査会
(13)甲第13号証: 1982年(昭和57年)5月10日改訂版発行の瀬戸正二監修「射出成形」株式会社プラスチックス・エージ
(14)甲第14号証: 1998年(平成10年)2月23日付件外ブラザー工業株式会社からの請求人宛て依頼書
(15)甲第15号証: 平成11年1月22日付請求人作成の製品図面
(16)甲第16号証: 請求人開発ブレードの件外ブラザー工業株式会社への納入実績表
(17)甲第17号証: 平成17年2月24日付拒絶理由通知書
(18)甲第18号証: 平成17年4月28日付意見書
(19)甲第19号証: 平成17年5月20日付拒絶理由通知書
(20)甲第20号証: 平成17年7月22日付意見書
(21)甲第21号証: 1989年6月1日5版発行の小川伸著「プラスチック工業辞典」工業調査会
(22)甲第22号証: 昭和61年増訂2版発行の「学術用語集、化学編」文部省、社団法人日本化学会

第5.被請求人の主張の概要、及び、被請求人が提出した証拠
1.被請求人の主張の概要
(1)無効理由1について
(1-1)甲第1号証の現像ブレード(請求人開発ブレード)が特許法第29条第1項第2号公然実施をされた発明に該当することについて、請求人は立証を行っておらず、被請求人の本件発明1ないし本件発明5が、本件出願前に甲第1号証の現像ブレードに係る発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできず、本件発明は、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(1-2)請求人が開発した甲第1号証の現像ブレードは、成形に使用されているシリコーンゴムを調べた結果、トランスファー成形により製造されたものであって、被請求人が開発の本件発明に係る現像ブレードの製造方法で使用している射出成形を採用して製造したものではない。
シリコーンゴムを用いる射出成形とシリコーンゴムを用いるトランスファー成形は、使用する成形材料等が大きく異なり、本件発明1ないし本件発明5は、甲第1号証の現像ブレードに係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(2)無効理由2について
(2-1)答弁書における主張
甲第9号証は、ゴム材を無圧下にて流し込む一種の注型成形法によることを開示しているのであって、射出成形法を明示的に排除しているものであるから、本件発明1ないし本件発明5は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2-2)平成19年8月31日付け上申書における主張
被請求人は、上記上申書の提出と同時に2通の見解書を乙第13号証及び乙第14号証として提出すると共に、上記上申書における予備的主張として、仮に甲第9号証に係る現像ブレードの製造方法が無圧下にて成形材料を注入する注型成形ではないとしても、甲第9号証に係る現像ブレードの製造方法は、トランスファー成形方法を用いるものと推定され、少なくとも射出成形を含まないものであるから、上記1.(1-2)と同様の理由により、本件発明1ないし本件発明5は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと主張している。

(3)無効理由3について
本件特許明細書の発明の詳細な説明に「タブ」なる用語は使用されておらず、「リブ部」と「タブ」の類似点及び相違点を明らかにする必要は全くない。
また、「リブ部」のブレード本体の長手方向の長さについて何ら限定がない以上は、「リブ部」がいかなる長さであっても本件特許公報記載の作用効果を有する趣旨であり、何ら不明確な点はない。

(4)無効理由4について
請求人が開発した現像ブレードはトランスファー成形により製造されるものであって、射出成形により製造されるものではない。
本件各特許発明は、従来技術のトランスファー成形に代えて射出成形を採用したことを必須の構成要件としており、請求人が開発した現像ブレードとは無関係である。

2.被請求人が提出した証拠
(1)乙第1号証: 被請求人従業員中島正作成 平成19年2月27日付陳述書
(2)乙第2号証: 被請求人による本件発明1の実施品
(3)乙第3号証: 書籍「プラスチック成形加工基礎と実務 射出成形
から二次加工まで」平成17年12月28日発行(日刊工業新聞社)
(4)乙第4号証: 書籍「図解 プラスチック成形加工用語辞典」平成2年1月10日発行(株式会社工業調査会)
(5)乙第5号証: 書籍「テキストシリーズプラスチック成形加工学VI先端成形加工技術」平成11年12月25日発行(株式会社シグマ出版)(6)乙第6号証: 書籍「プラスチック成形加工入門」(第2版)平成7年1月31日発行(日刊工業新聞社)
(7)乙第7号証: 書籍「ゴム工業便覧」(第四版)平成6年1月20日発行(社団法人日本ゴム協会)
(8)乙第8号証: 書籍「シリコーンハンドブック」平成2年8月31日発行(日刊工業新聞社)
(9)乙第9号証: 書籍「ゴム用語辞典」平成9年9月30日発行(社団法人日本ゴム協会)
(10)乙第10号証: 書籍「射出成形加工の不良対策」平成15年11月30日発行(日刊工業新聞社)
(11)乙第11号証: 書籍「初歩プラシリーズ やさしい射出成形の不良対策 -高品質の射出成型品を得るために-」(第6版)平成18年4月10日発行(株式会社三光出版社)

第6.当審の判断
本件では、明細書の記載不備(無効理由3)、進歩性の判断(無効理由2)、公然実施及び進歩性の判断(無効理由1)、冒認(無効理由4)の順に判断することが妥当と考えられるので、無効理由3、無効理由2、無効理由1、無効理由4の順番で検討する。

1.無効理由3(明細書の記載不備)について
(1)本件特許明細書に記載された事項
本件特許明細書には、「リブ部」に関して以下の記載がある。(下線は当審で付与。)

(1-1)請求項1に、「ブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設ける」という記載があり、同じく請求項3に、「上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部」という記載があり、同じく請求項4に、「上記リブ部の幅方向の長さを、上記ブレード本体の幅方向の長さの10?200%とした」という記載がある。

(1-2)「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ブレード本体にリブ部を設けて、ゲートをブレード本体側ではなく、上記リブ部に設けることにより、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドのない現像ブレードを製造することが可能であることを見いだし、本発明に到ったものである。
すなわち、請求項1に記載の発明は、シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって、上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設けるとともに、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際に、成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設けて、上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の現像ブレードの製造方法において、上記金型内に金属板から成るインサート部材を配置して、上記現像ブレードをインサート成形により製造するようにしたものである。
【0007】
また、請求項3に記載の発明は、少なくとも1対の型部材を組合わせて成り、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体と、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部とを有する、シリコーンゴムから成る現像ブレードを射出成形するための現像ブレード用金型であって、上記金型のゲートを、上記金型の上記リブ部に対応する部分に設けたものである。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の現像ブレード用金型において、上記リブ部の幅方向の長さをブレード本体の幅方向の長さの10?200%としたものである。
・・・(省略)・・・。」

(1-3)「【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき説明する。
図1は、本実施の形態に係わる現像ブレードの製造方法を示す図で、本例では、現像ブレード1として、現像ロールと接触するブレード本体2に、上記ブレード本体2の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレード1の幅方向に突出するリブ部3を設けたものを、支持部材である金属板4上に保持したものを、射出成形(インサート成形)により作製する。なお、同図において、4sは金属板4の位置決め穴、4kは取付穴である。
図2は、上記射出成形に用いる金型10の要部を示す断面図で、11は固定型、12は可動型、13は上記固定型11と可動型12により形成された、上記ブレード本体2とリブ部3とを成形するためのキャビティ、・・・・15は図示しない射出成形機から圧送される成形材料を上記キャビティ13内に導入するためのランナーで、16はゲートである。
【0009】
本例では、図1にも示すように、上記金型10のゲート16を、上記キャビティ13の、上記リブ部3に対応する部分の側面側に設けることにより、図示しない射出装置から注入される、ブレード本体2とリブ部3とを成形するための材料(例えば、シリコーンゴムなど)を、上記リブ部3の側面側から上記キャビティ13内に導入して固化して上記構成の現像ブレード1を成形するようにしている。このように、ゲート16をブレード本体2側にではなく、上記リブ部3側に設けることにより、現像ロールと接触するブレード本体2にはバリやヒケ、あるいは、ウェルドのない現像ブレード1を製造することができる。
【0010】
このとき、上記リブ部3の寸法としては、図3に示すように、厚みtをブレード本体2の厚みTの20?80%とすることが好ましく、50%前後とすることが特に好ましい。
上記厚みtがブレード本体2の厚みTの20%未満である場合には、キャビティ13のリブ部3に相当する部分が狭くなって、成形材料を十分にキャビティ13内に充填することができず、ブレード本体2にヒケが発生しやすくなる。また、上記厚みtがブレード本体2の厚みTの80%を超えると、リブ部3とブレード本体2の厚みとの間の段差が小さくなるため、ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすい。
また、上記リブ部3の幅方向の長さlについては、ブレード本体2の幅方向の長さLの10?200%とすることが好ましく、20%前後とすることが特に好ましい。上記長さlがブレード本体2の長さLの10%未満である場合には、ゲート16の位置とブレード本体2との位置が近すぎるので、ブレード本体2のゲート16付近にウェルドが発生しやすくなる。
【0011】
このように、本実施の形態によれば、現像ロールと接触するブレード本体2に、上記ブレード本体2の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレード1の幅方向に突出するリブ部3を設けるとともに、インサート部材として金属板4が配置された金型10のゲート16を、キャビティ13の、上記リブ部3に対応する部分に設けてインサート成形することにより、現像ブレード1を成形するようにしたので、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」

(1-4)「【0013】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する際に、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の上記接触面とは反対側の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みの20?80%であるリブ部を設け、上記現像ブレードを射出成形にて製造する際には、現像ブレード成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設け、成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにしたので、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのない現像ブレードを容易に製造することができる。」

(2)検討
本件明細書の上記摘記箇所の記載(特に下線を付した箇所)によれば、本件発明は、成形材料注入用のゲートをブレード本体に対応する部分に設けて直接ブレード本体に成形材料を注入することに代えて、金型内のキャビティにおけるブレード本体の現像ロールとの接触面とは反対側の「リブ部」に対応する部分の側面側に設け、射出装置から注入されるブレード本体と「リブ部」とを成形するための材料(例えば、シリコーンゴムなど)をブレード本体の厚さよりも薄い「リブ部」を経由してキャビティ内に導入して固化して現像ブレードを成形することにより、ブレード本体の現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのない現像ブレードを製造するようにしたものである。
してみると、本件の請求項1ないし請求項2の「現像ブレードの製造方法」に係る発明における「リブ部」は、「リブ部」を経由して成形材料を金型内のキャビティに流入させることにより所望の効果を期待できるものであれば、その形状などについて特に規定する必要がないことは明らかである。
同様に、本件の請求項3ないし請求項5の「現像ブレード用金型」に係る発明における「リブ部」も、「リブ部」を経由して成形材料を金型内のキャビティに流入させることにより所望の効果を期待できるものであれば、その形状などについて特に規定する必要がないことは明らかである。
すなわち、本件明細書には実施例として、図1、図4、図5に記載されているような、現像ブレードの長手方向に沿って、端から端まで均一な厚さと幅方向の長さの「リブ部」としたものしか記載されていないが、ブレード本体のブレード本体と現像ロールとの接触面とは反対側からブレードの幅方向に突出する「リブ部」を設けるとともに、この「リブ部」に対応する部分にゲートを設け、成形材料をこのゲートから金型内に注入して現像ブレードを製造することにより、現像ロールとの接触面にバリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのない現像ブレードを製造することができるのであるから、ブレード本体に設けられる「リブ部」を実施例として記載されている、現像ブレードの長手方向に沿って、端から端まで均一な厚さと幅方向の長さのものに限定する必要はなく、成形材料を、ゲートから金型内の「リブ部」を介してブレード本体部に注入することにより、バリやヒケ、あるいは、ウェルドなどのないものを得ることが期待されるものでありさえすれば、「リブ部」の厚さ以外の構成について特に規定する必要はないものということができる。
また、本件特許明細書に、「タブ」という用語は使用されていないので、本件特許明細書において、「リブ部」と「タブ」の類似点及び相違点を明らかにする必要は存在せず、「リブ部」と「タブ」の類似点及び相違点が明らかでないという請求人の主張を採用することはできない。
なお、口頭審理調書に記載されているように、リブ部は、「ウエルド、ヒケ、及びバリの発生がない」という効果を奏するものであれば、長手方向の長さ、形状、配置位置、個数について限定されるものではないことは被請求人自身が認めている事項である。

(3)小括
以上述べた理由により、本件明細書に記載の「リブ部」の技術的意義は明確であり、当業者は理解できるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されており、本件特許は特許法第36条第4項第1号の規定に反するものではなく、また、特許請求の範囲に記載の「リブ部」の技術的意義は明確であるので、本件の請求項1ないし請求項5に係る発明についての特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものでもなく、請求人が主張する無効理由3には理由がない。

2.無効理由2について
(1)甲第9号証に記載された事項(下線は当審で付与。)
(1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 一方突き合せ面に薄板ばね部材を保持する保持部が形成された一方金型と,一方突き合せ面と密着可能な他方突き合せ面に薄板ばね部材の先端部と対向して現像剤規制部形成用の凹部が形成されかつこの凹部に液状のゴム材を注入するための注入口が設けられた他方金型とを備えた現像剤薄層形成部材の製造装置において、
前記注入口を前記凹部の幅方向中央部に近接する位置に設け、該注入口と前記凹部の幅方向中央部とを前記他方金型に設けた流し込み用凹部を介して連通させたことを特徴とする現像剤薄層形成部材の製造装置。」

(1-2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、一方突き合せ面に薄板ばね部材を保持する保持部が形成された一方金型と,一方突き合せ面と密着可能な他方突き合せ面に薄板ばね部材の先端部と対向して現像剤規制部形成用の凹部が形成されかつこの凹部に液状のゴム材を注入するための注入口が設けられた他方金型とを備えた現像剤薄層形成部材の製造装置に関する。」

(1-3)「【0007】上記現像装置を用いて高品質印字を達成するには、現像ローラ11に担持されたトナー(T)を現像剤薄層形成部材21によって均一に層厚規制・帯電する必要がある。そのため、現像剤薄層形成部材21の現像剤規制部22は、表面に凹凸や歪みがなく,幅方向(図4中紙面と直交方向)に真直であることが求められている。
【0008】なお、現像剤規制部22の断面形状は、現像ローラ11に所定の線圧を掛けられるように、図5に示す如く半円形状とされることが多い。また、現像剤規制部22は、現今の現像ローラ11の小径化に合わせて,例えば半径r=1?3mm程に小さく形成されている。」

(1-4)「【0009】ここにおいて、現像剤薄層形成部材の製造装置を図6に示す。かかる製造装置は、一方突き合せ面32に薄板ばね部材23を保持する保持部(保持凹部33)が形成された一方金型31と,一方突き合せ面32と密着可能な他方突き合せ面42に薄板ばね部材23の先端部(23a)と対向して現像剤規制部形成用の凹部43が形成されかつこの凹部43に液状のゴム材を注入するための注入口45が設けられた他方金型41とを備えている。注入口45は、図7に示す如く、他方金型41の幅方向中央部より外れた位置に凹部43と直結するように設けられている。
【0010】例えば、温度が170℃の液状のゴム材(シリコンゴム)を注入口45から流し込むと、当該ゴム材は凹部43内に流入する。こうして、凹部43内に充填された液状のゴム材が固化すると、薄板ばね部材23の先端部23aに現像剤規制部22が形成される。」

(1-5)「【0010】例えば、温度が170℃の液状のゴム材(シリコンゴム)を注入口45から流し込むと、当該ゴム材は凹部43内に流入する。こうして、凹部43内に充填された液状のゴム材が固化すると、薄板ばね部材23の先端部23aに現像剤規制部22が形成される。」

(1-6)「【0011】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記製造装置では、現像剤規制部形成用の凹部43の断面形状が小さいので、粘性のある液状のゴム材と当該凹部43の内壁面との間の抵抗が大きく,しかもゴム材から発生するガスの気体抵抗も加わり、ゴム材が凹部43の両端部まで流れ込まずに寸法不足が生じたり,端部でゴムが剥がれたり,ダレ等が生じることがある[図9(A),(B),(C)]。
【0012】そこで、注入口45を他の箇所(例えば、図7に示す部位A1,A2)にも設け、これら注入口45からゴム材を同時に注入することがなされることがあるが、これでは凹部43内でゴム材がぶつかり合うため、図10に示す如く、ぶつかり合った箇所においてゴム材に歪み(k)が生じる。かかる歪み(k)のある現像剤規制部22を用いて、現像ローラ11上のトナー(T)を層厚規制・帯電すると、用紙に黒スジ(または白スジ)等が発生する。
【0013】また、ゴム材の成形温度を例えば150℃まで下げて,流れ込みをよくすることがなされることがあるが、これでは加流不足でゴム材の低分子シロキサンの成分が染み出し、現像装置に組み込んだ場合に現像ローラ11や感光体2を汚染して、ハーフトーン部や文字が白く抜ける白抜け現象が発生してしまう。
【0014】また、現像剤規制部22にゴム材注入痕(g)が残ってしまうため、黒スジや印字濃度ムラ等が生じやすい。
【0015】本発明は、上記事情に鑑み、薄板ばね部材の幅寸法が大きい場合でも,その先端部に凹凸や歪み等がない現像剤規制部を形成することができる現像剤薄層形成部材の製造装置を提供することにある。」

(1-7)「【0016】
【課題を解決するための手段】本発明は、一方突き合せ面に薄板ばね部材を保持する保持部が形成された一方金型と,一方突き合せ面と密着可能な他方突き合せ面に薄板ばね部材の先端部と対向して現像剤規制部形成用の凹部が形成されかつこの凹部に液状のゴム材を注入するための注入口が設けられた他方金型とを備えた現像剤薄層形成部材の製造装置において、前記注入口を前記薄板ばね部材の幅方向中央部と対向しかつ前記凹部に近接する位置に設け、該注入口と前記凹部とを前記他方金型に設けた流し込み用凹部を介して連通させたことを特徴とする。
【0017】かかる発明では、ゴム材を注入口から注入すると、当該ゴム材は流し込み用凹部を介して直ちに凹部の幅方向中央部に流入し、当該中央部から各端部へ向けて流動する。
【0018】したがって、ゴム材を凹部の端部まで円滑に流し込むことができ、寸法不足や端部での剥がれは生じない。また、凹部内でゴム材がぶつかり合うことがないので、歪みも発生しない。また、ゴム材の成形温度を下げなくてすむので、加流不足となることもなく、現像ローラを汚染することもない。さらに、現像剤規制部にゴム材注入痕を残さない。」

(1-8)「【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。本現像剤薄層形成部材の製造装置は、図1および図2に示す如く、基本的構成は従来例(図6,図7)と同様とされているが、注入口45を現像剤規制部形成用の凹部43の幅方向中央部に近接する位置に設け、該注入口45と凹部43の幅方向中央部とを他方金型41に設けた流し込み用凹部44を介して連通させた構成とされている。
【0020】なお、従来例(図6,図7)と共通する構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略化又は省略する。
【0021】流し込み用凹部44は、その高さh1が凹部43の高さh2よりも低くなるように,かつ注入口45から凹部43中央部に近づくにつれてその幅方向寸法が次第に増大するように形成されている。
【0022】本製造装置を用いて製造された現像剤薄層形成部材21は、図3に示す如く、例えばA3サイズ用紙幅よりも幅寸法が大きい薄板バネ部材23と,この薄板バネ部材23の先端部23aの幅方向全長にわたって形成された現像剤規制部22からなる。
【0023】次に、この実施形態の作用について説明する。現像剤薄層形成部材21を製造するには、まず薄板バネ部材23を一方金型31の保持凹部33に保持させる。次に、他方金型41をその他方突き合せ面42が一方突き合せ面32と密着するように上方から載置する。
【0024】こうして、両金型(31,41)が突き合わされたところで、例えば温度が170℃の液状のゴム材(例えば、シリコンゴム)を注入口45から注入すると、当該ゴム材は流し込み用凹部44を介して直ちに凹部43の幅方向中央部43mに流入し、当該中央部43mから各端部(43a,43b)に向けて流動する。
【0025】この際,ゴム材は、凹部43内でぶつかり合うこともなく,幅方向中央部43mから各端部(43a,43b)までの距離も長くはないので、当該各端部(43a,43b)まで円滑に流し込むことができる。
【0026】したがって、現像剤規制部22の寸法不足や端部での剥がれ,ダレ,歪みは発生しない。また、ゴム材の成形温度を下げなくてすむので、加流不足となることもなく、現像装置に組み込んだ場合に現像ローラ11を汚染することもない。
【0027】しかして、この実施形態によれば、注入口45を現像剤規制部形成用の凹部43の幅方向中央部43mに近接する位置に設け、該注入口45と凹部43の幅方向中央部43mとを他方金型41に設けた流し込み用凹部44を介して連通させたので、薄板ばね部材23の幅寸法が大きい場合でも,その先端部23aに凹凸や歪み等がない現像剤規制部22を形成することができる。」

(1-9)「【0028】
【発明の効果】本発明によれば、注入口を現像剤規制部形成用の凹部の幅方向中央部に近接する位置に設け、該注入口と凹部の幅方向中央部とを他方金型に設けた流し込み用凹部を介して連通させたので、薄板ばね部材の幅寸法が大きい場合でも,その先端部に凹凸や歪み等がない現像剤規制部を形成することができる。」

(1-10)以下の【図1】及び【図3】に、流し込み用凹部44の形状に相当する扇形の突部が現像剤規制部22の後端部に薄板ばね部材の表面に沿って形成されることが示されている。

【図1】

【図3】



(1-11)上記(1-6)で摘記した段落【0014】における、従来例の製造方法により製造した現像剤規制部はゴム材注入痕(g)が残ってしまうため、黒スジや印字濃度ムラ等が生じやすいという記載と、【図4】、【図6】、【図8】を参照することにより、甲第9号証に係る断面形状が半円形状の現像剤規制部は現像ローラ11との接触面を半円形状の断面における頂点部に有することがわかる。

甲第9号証に記載されている現像剤薄膜層形成部材は「成形加工」により製造されるものであるということができることを考慮に入れて、上記摘記事項を総合して勘案すると、甲第9号証には、以下の発明が実質的に記載されている。(以下、「甲第9号証第1発明」という。)

「シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像剤薄層形成部材を製造する方法であって、上記現像剤薄層形成部材の薄板ばね部材23の先端部23aに設けられ、上記現像剤薄膜層形成部材の現像ローラ11との接触面を頂点部に有する断面形状が半円形状の現像剤規制部22の幅方向中央部の後端部に、その高さが上記現像剤規制部22の高さよりも低い扇形の突出部が薄板ばね部材23の表面に沿って形成されるとともに、上記現像剤薄膜形成部材を成形加工により製造する際に、他方金型の上記突出部に対応する部分に注入口45を設けて、上記シリコーンゴムを上記注入口45から上記金型内に注入して上記薄膜層形成部材を製造する薄膜層形成部材の製造方法。」

また、甲第9号証には、以下の発明も実質的に記載されている。(以下、「甲第9号証第2発明」という。)

「一方金型と他方金型からなる一対の金型を組合わせて成り、上記現像剤薄膜層形成部材の薄板ばね部材23の先端部23aに設けられ、現像剤薄膜層形成部材の現像ローラ11との接触面を頂点部に有する断面形状が半円形状の現像剤規制部22と、上記現像剤規制部22の幅方向中央部の後端部から薄板ばね部材23の後端部方向に突出する、その高さが上記現像剤規制部22の高さよりも低い扇形の突出部を薄板ばね部材23の表面に沿って有する、シリコーンゴムから成る現像剤薄膜層形成部材を成形加工するための現像剤薄膜層形成部材用金型であって、上記金型の注入口を、上記金型の上記突出部に対応する部分に設けた現像剤薄膜層形成部材用金型。」

2.1 本件発明1について
(1)本件発明1(前者)と甲第9号証第1発明(後者)との対比
前記「1.無効理由3(明細書の記載不備)について」において指摘したように、前者の「リブ部」は、長手方向の長さ、形状、配置位置、個数について限定されるものではないので、後者の「現像剤薄膜層形成部材」、「現像ローラ11」、「現像剤規制部22」、「他方金型」、「現像剤規制部22の幅方向中央部の後端側から薄板ばね部材23の後端部方向に突出する・・・扇形の突出部」、「注入口」は、それぞれ、前者の「現像ブレード」、「現像ロール」、「ブレード本体」、「成形用金型」、「リブ部」、「ゲート」に相当し、また、前者の「射出成形」は成形加工の一種であるといえるので、両者は、
「シリコーンゴムから成る成形材料を用いて現像ブレードを製造する方法であって、上記現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体に、上記ブレード本体の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みが、上記ブレード本体の厚みより小さいリブ部を設けるとともに、上記現像ブレードを成形加工にて製造する際に、成形用金型の上記リブ部に対応する部分にゲートを設けて、上記成形材料を上記ゲートから上記金型内に注入して上記現像ブレードを製造するようにした現像ブレードの製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(1-1)相違点1
前者は、ブレード本体の現像ロールとの接触面とは反対側の端部にリブ部を設けるものであるのに対し、後者のブレード本体(現像剤規制部22)は現像剤薄膜層形成部材の薄板ばね部材23の先端部23aに設けられ、現像ロール(現像ローラ11)との接触面を頂点部に有する断面形状が半円形状のものであって、その後端部にリブ部を設けるものである点。

(1-2)相違点2
前者の成形加工方法は射出成形であるのに対して、後者は成形加工方法の種類について特定していない点。

(1-3)相違点3
前者のリブ部は、その厚みがブレード本体の厚みの20?80%と規定されているのに対して、後者のリブ部(扇形の突出部)の厚みは、ブレード本体の厚みよりも小さいものの、その厚みとブレード本体(現像剤規制部22)の厚みの比率の範囲について特定していない点。

(2)判断
(2-1)相違点1について
本件発明1における、「ブレード本体の現像ロールとの接触面とは反対側の端部」は、本件特許明細書の記載内容からみて、ブレード本体における現像ロールとの接触面の裏側の面の端部を意味するのではなく、ブレード本体の先端側に形成された現像ロールとの接触面に対して、その接触面と同じ面側における後側のブレード本体の端部を意味するものであることは明らかである。
そして、現像ブレードのブレード本体がブレード本体の端部の反対側に現像ロールとの接触面を有するものとすることは、例えば、後記の特開平10-307473号公報、特開平11-24397号公報、特開平11-15267号公報、特開2002-116622号公報に記載されているように、本件出願前に周知の技術的事項にすぎない。
してみると、甲第9号証第1発明において、ブレード本体(現像剤規制部22)の後端部の反対側が現像ロール(現像ローラ11)との接触面となるようにして、相違点1に係る構成を有するものとすることは適宜行われることにすぎない。

(2-2)相違点2について
(2-2-1)被請求人は、前記第4.1.(2-1)で指摘したように、「甲第9号証は、ゴム材を無圧下にて流し込む一種の注型成形方法によることを開示しているのであって、射出成形法を明示的に排除しているものであるから、本件発明1ないし本件発明5は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。」と主張しているので、この点について検討しておく。

(2-2-2)甲第9号証における「流し込む」という用語の技術的意義について
被請求人は、甲第9号証に係る発明が、無圧下での注型成形であることの根拠として、上記(1-5)で摘記した箇所の、「ゴム材を注入(シリコンゴム)を注入口から流し込む」等における、「流し込む」という用語を用いていることを挙げている。
しかしながら、「流し込む」という用語は、甲第8号証[第90頁]の他に、例えば特開昭48-20880号公報(2頁右上欄8行)、特開昭64-55218号公報(3頁右上欄12行、4頁左上欄13行)、特開平2-147309号公報(公報2頁右下欄18行、3頁右上欄20行)、特開平3-104074号公報(2頁左上欄1行、同頁右下欄5行)、特開平5-301260号公報(【0014】参照)、特開平7-223246号公報(【0021】参照)、特開平9-216227号公報(【0002】、【0005】参照)、特開平9-219532号公報(【0012】)、特開平10-24453号公報(【0016】)、特開2000-229335号公報(【0003】、【0005】)、特開2000-233269号公報、特開2000-233269号公報(【0008】)、特開2000-317611号公報(【0006】、【0007】、【0008】、【0011】)に記載されているように、射出成形などの加圧成形において普通に用いられているものである。
してみると、甲第9号証において、注入口から「流し込む」という用語が用いられているので、甲第9号証に記載の発明は、ゴム材を無圧下で流し込むものであって、射出成形を明示的に排除するものであるとする被請求人の主張を採用することはできない。

(2-2-3)甲第9号証における関連部分の記載について
上記(1-6)で摘記した箇所に、従来技術には、現像剤規制部形成用の凹部43の断面形状が小さいので、粘性のある液状のゴム材と凹部43の内壁面との間の抵抗が大きく、しかもゴム材から発生するガスの気体抵抗も加わり、ゴム材が凹部43の両端部まで流れ込まずに寸法不足が生じたり、端部でゴムが剥がれたり、ダレ等が生じるという欠点があったことが記載されている。
そして、上記(1-6)で摘記した箇所に、甲第9号証に係る発明は、ゴム材を注入口から注入すると、当該ゴム材は流し込み用凹部を介して直ちに凹部の幅方向中央部に流入し、当該中央部から各端部へ向けて流動するから、ゴム材を凹部の端部まで円滑に流し込むことができ、寸法不足や端部での剥がれは生じないし、凹部内でゴム材がぶつかり合うことがないので、歪みも発生しないことが記載されている。
仮に、被請求人が主張するように、甲第9号証に係る発明が、ゴム材を無圧下で流し込む一種の注型成形方法によるものであれば、ゴム材に作用する重力のみにより流し込み用凹部を介して凹部43に注入する方がゴム材に対する抵抗は大きくなり、前記(1-4)で摘記した段落【0009】における従来技術と比較して、凹部43の両端部にゴム材を円滑に流し込むことがより困難となるものと考えられる。
したがって、当業者は、甲第9号証に係る発明は、シリコーンゴムを加圧し、流し込み用凹部を介して凹部43に注入するものと理解するのが当然である。

(2-2-4)被請求人の上申書における主張について
前記前記第4.1.(2-2)で指摘したように、被請求人は、平成19年8月31日付け上申書において2通の「見解書」を提出するとともに、「予備的主張」として、甲第9号証に係る発明が加圧成形法を使用するものであっても、甲第9号証に係る発明はトランスファー成形を採用したものであって、少なくとも本件発明1が採用している射出成形を含まないものである旨主張している。
しかしながら、甲第1号証に係る発明において、その成形加工方法の種類は特定されていないものの、上記(2-2-3)で指摘したように、甲第1号証に係る発明において、「リブ部」に注入される成形材料に圧力を加えなければならないことは、当業者に容易に理解されることである。
してみると、甲第1号証に係る発明において、成形材料に圧力を加える成形加工方法として周知である射出成形を採用しようとすることは当業者にとって、容易に想起し得ることである。

(2-2-5)本件出願前の周知技術について
シリコーンゴムからなる現像ブレードを射出成形により製造することは、甲第8号証である特開平11-231647号公報(段落【0036】等参照)の他に、例えば、特開平9-325603号公報(段落【0019】等参照)、特開平10-180797号公報(段落【0093】?【0097】等参照)、特開平10-307473号公報(段落【0030】参照)、特開平11-15267号公報(段落【0041】?【0042】)、特開平11-24397号公報(段落【0002】等参照)、特開平11-231647号公報(段落【0036】?【0046】等参照)、特開2000-89562号公報(段落【0012】、【0016】?【0023】参照)、特開2001-198945号公報(段落【0038】?【0041】等参照)、特開2002-116622号公報(段落【0030】、【0051】?【0057】等参照)に記載されているように、本件出願前に周知の技術的事項である。

(2-2-5)相違点2についてのまとめ
甲第9号証第1発明の現像ブレード(現像剤薄膜層規制部材)の製造方法に係る発明は、液体シリコーンゴムを加圧して金型内に注入する際に、従来技術を採用する際に生じる問題点を解決するものであり、甲第9号証に接した当業者は、シリコーンゴムからなる現像ブレードの成形加工方法として周知である射出成形方法においても同様の問題が発生することを予想できるものであり、甲第9号証第1発明における成形加工方法として射出成形を採用してみることは当業者が容易に想起する事項である。
してみると、甲第9号証第1発明における成形加工方法として射出成形方法を採用することにより相違点2に係る構成を有するものとすることは当業者が適宜行うことであり、したがって、相違点2に格別のことを認めることはできない。

(2-3)相違点3について
甲第9号証第1発明において、突出部の高さが現像剤規制部22の高さの20?80%に含まれるものとして、相違点3に係る構成を有するものとすることは当業者が適宜行うことである。

(2-4)本件発明1の効果について
口頭審理の調書に記載されているように、本件発明1の、現像ブレードの現像ロールとの接触面に「ウェルド、ヒケ、及びバリの発生がない」ということは、本件発明1が従来の製造方法と比較して、良品の割合を多くすることができることを意味するのであって、ウェルド、ヒケ、及びバリの発生を完全になくすことを意味するのではない。
そして、本件発明1と甲第9号証第1発明は、いずれも、「リブ部」にゲート部を設けることによって、「ウェルド」及び「ヒケ」の発生をなくすという効果が奏されるものである。
以下に、本件発明1の効果について、「ウェルド」、「ヒケ」、「バリ」の順に、検討することとする。

(2-4-1)「ウェルド」について
甲第9号証の上記2.(1-7)で摘記した段落【0017】に、ゴム材がぶつかり合うことがないので歪みが発生しないという効果を有することが記載されており、甲第9号証に記載の歪みが本件明細書に記載のウェルドに相当するので、甲第9号証第1発明も本件発明1と同じくウェルドの発生を防止する効果を有していることは明らかである。
したがって、本件発明1における現像ブレードの現像ロールとの接触面にウェルドの発生をなくすることができるという効果は、甲第9号証第1発明に基づいて当業者が容易に予想できる事項である。

(2-4-2)「ヒケ」について
本件明細書の、上記1.(1-3)で摘記した段落【0010】の最初の下線を付した部分に、リブ部の厚みtが20%未満であると成形材料を十分にキャビティ13内に充填することができず、ブレード本体2にヒケが発生しやすくなることが記載されている。
一方、甲第9号証の上記2.(1-8)で摘記した段落【0018】に、甲第9号証に係る現像ブレード(現像剤薄膜形成部材)の製造方法によればゴム材を凹部の端部(43a、43b)まで円滑に流し込むことができ、寸法不足や端部での剥がれが生じないことが記載されている。
甲第9号証に係る現像ブレード(現像剤薄膜形成部材)の製造方法において、ゴム材を凹部の端部まで十分に充填することができないのであれば、本件明細書に記載されているようにヒケが発生することは明らかであるので、甲第9号証における現像ブレードの製造方法は、本質的にヒケの発生をなくするという効果を有しているといえる。
したがって、本件発明1における現像ブレードの現像ロールとの接触面にヒケの発生をなくすることができるという効果は、甲第9号証第1発明に基づいて当業者が容易に予想できる事項である。

(2-4-3)「バリ」について
本件発明1に係る現像ブレードの製造方法における、「バリ」の発生がないという効果は請求項1に記載した事項のみにより奏されるものではない。 すなわち、本件発明1に係る現像ブレードの製造方法において、「現像ブレードにおける現像ロールとの接触面に発生するバリ」は、ブレード本体の軸方向の左右両端部のみに発生するものであって、通常の金型を用いた成形加工において発生するバリのように、金型同士の合わせ面の間に発生するものとは全く異なるものである。
そして、バリの発生度合いは、本件明細書の【図2】における可動型12の角部の形状や加工精度に影響されるものであって、例えば、角部が比較的大きな半径を有する完全な円弧状のものである場合にはバリは発生しないが、角部の加工時に切り込み等が発生する場合にバリが発生する。
同様のことは、甲第9号証の【図1】に記載されている他方金型41にも当てはまり、ブレード本体(現像剤規制部22)の現像ロール(現像ローラ11)との接触面に発生するバリは、他方金型41の凹部の両端部(43a、43b)のみに発生するものであって、その発生度合いは各端部(43a、43b)における角部の形状や加工精度に影響される。
ところで、甲第9号証第1発明に係る現像ブレード(現像剤薄膜形成部材)の製造方法は、ゴム材を現像剤規制部22の各端部(43a、43b)まで円滑に流し込むことにより、薄板ばね部材23の幅寸法が大きい場合でも現像剤規制部22の各端部(43a、43b)における寸法不足、剥がれ、ダレの発生がない現像剤規制部22を形成するという課題を解決したものである[上記2.(1-6)で摘記した段落【001】、及び、【図9】等参照。]。
甲第9号証に係る現像ブレード(現像剤薄膜層形成部材)の製造方法が、現像ロール(現像ローラ11)との接触面である現像剤規制部22の各端部(43a、43b)に寸法不足、剥がれ、ダレが発生しないことにより良好な画像形成特性を有する現像ブレード(現像剤薄膜層形成部材)を製造しようとするものである以上、甲第9号証第1発明において現像ロール(現像ローラ11)との各端部(43a、43b)に画像形成特性にとって有害なことが明らかであるバリが発生しないようにすることは当業者にとって普通のことである。
すなわち、甲第9号証第1発明において、ブレード本体(現像剤規制部22)の左右の各端部(43a、43b)の現像ロール(現像ローラ11)との接触面にバリが発生しないように工夫して良好な画像形成特性を有する現像ブレード(現像剤薄膜層形成部材)を製造することは、甲第9号証第1発明の技術課題からみて、当業者が適宜行うべき事項である。
してみると、バリの発生がないという効果は、請求項1に記載された事項のみによって奏されるものではないとともに、本件発明1における、現像ブレードの現像ロールとの接触面にバリが発生しないという効果を有するものとすることは、甲第1号証第1発明に基づいて当業者が容易に予測し得たものである。

(2-4-4)効果についてのまとめ
上述のとおり、本件発明1における、現像ブレードの現像ロールとの接触面における「ウェルド、ヒケ、及びバリの発生がない」という効果は、いずれも甲第9号証第1発明に基づいて、当業者が容易に予測し得たものにすぎない。

(3)まとめ
したがって、本件発明1は、甲第9号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に従属する請求項2に係る発明であり、本件発明1の発明特定事項に加えて、
「金型内に金属板から成るインサート部材を配置して、上記現像ブレードをインサート成形により製造すること」という限定を加えたものである。
これに対して、甲第9号証には、一方金型内に金属板からなる薄板ばね部材を配置して現像剤薄層形成部材を製造することが記載されている。
そして、甲9号証に記載されている、一方金型内に金属板からなる薄板ばね部材を配置して現像剤薄膜形成部材を製造することは、本件発明2における、「金型内に金属板から成るインサート部材を配置して、上記現像ブレードをインサート成形により製造すること」という限定事項に相当する。
したがって、本件発明2は、本件発明1と同様の理由により、甲9号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.3 本件発明3について
(1)本件発明3(前者)と甲第9号証第2発明(後者)の対比
後者の「金型」、「現像剤薄膜層形成部材」、「現像ローラ11」、「現像剤規制部22」、「他方金型」、「現像剤規制部22の幅方向中央部の後端側から薄板ばね部材23の後端部方向に突出する・・・扇型の突出部」、「注入口」は、それぞれ、前者の「型部材」、「現像ブレード」、「現像ロール」、「ブレード本体」、「成型用金型」、「リブ部」、「ゲート」に相当し、前者の「リブ部」は、ブレード本体の端部からその幅方向に突出するものであり、また、前者の「射出成形」は成形加工の一種であるといえるから、両者は、
「少なくとも一対の型部材を組み合わせて成り、現像ブレードの現像ロールとの接触面を有するブレード本体と、上記ブレード本体の幅方向の端部から上記ブレードの幅方向に突出する、その厚みがブレード本体の厚みより小さいリブ部を有する、シリコーンゴムから成る現像ブレードを成形するための現像ブレード用金型であって、上記金型のゲートを、上記金型の上記リブ部に対応する部分に設けた現像ブレード用金型。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(1-1)相違点1’
前者は、ブレード本体の現像ロールとの接触面とは反対側の端部にリブ部を設けるものであるのに対し、後者のブレード本体(現像剤規制部22)は現像剤薄膜層形成部材の薄板ばね部材23の先端部23aに設けられ、現像ロール(現像ローラ11)との接触面を頂点部に有する断面形状が半円形状のものであって、その後端部にリブ部を設けるものである点。

(1-2)相違点2’
前者の成形加工方法は射出成形であるのに対して、後者は成形加工方法の種類について特定していない点。

(1-3)相違点3’
前者のリブ部は、その厚みがブレード本体の厚みの20?80%と規定されているのに対して、後者のリブ部(扇形の突出部)の厚みは、ブレード本体の厚みよりも小さいものの、その厚みとブレード本体(現像剤規制部22)の厚みの比率の範囲について特定していない点。

(2)判断
(2-1)相違点1’について
相違点1’は、前記2.1(2-1)で示した相違点1と同じであり、したがって、前記2.1(2-1)で示したのと同様の理由により、甲第9号証第2発明において、相違点1’に係る構成を有するものとすることは、当業者が適宜行うことにすぎない。

(2-2)相違点2’について
相違点2’は、前記2.1(2-2)で示した相違点2と同じであり、したがって、前記2.1(2-2)で示したのと同様の理由により、甲第9号証第2発明において、相違点2’に係る構成を有するものとすることは、当業者が適宜行うことにすぎない。

(2-3)相違点3’について
相違点3’は、前記2.1(2-3)で示した相違点3と同じであり、したがって、前記2.1(2-2)で示したのと同様の理由により、甲第9号証第2発明において、相違点3’に係る構成を有するものとすることは、当業者が適宜行うことにすぎない。

(2-4)本件発明3の効果について
本件発明3の効果は、金型のゲートを金型の「リブ部」に対応する部分に設けてシリコーンゴムを金型内に注入したことにより、本件発明1と同様、現像ブレードの現像ロールとの接触面に「ウェルド、ヒケ、及びバリの発生がない」現像ブレードを得ることができるというものである。
してみると、前記2.1(2-4)で示したのと同様の理由により、本件発明3の効果は、甲第9号証第2発明に基づいて、当業者が容易に予測し得たものである。

(3)まとめ
したがって、本件発明3は、甲第9号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.4 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3に従属する請求項4に係る発明であり、本件発明3の発明特定事項に加えて、
「上記リブ部の幅方向の長さを、上記ブレード本体の幅方向の長さの10?200%とした」という限定を加えたものである。
これに対して、甲第9号証には、リブ部「突出部」の幅方向の長さをブレード本体(現像剤規制部22の幅方向の長さと略同じとしたものが記載されている。
甲第9号証第2発明において、リブ部(扇形の突出部)の幅方向の長さを上記のような範囲に含まれるようなものとすることは当業者が適宜行うことである。
したがって、本件発明4は、本件発明3と同様の理由により、甲第9号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.5 本件発明5について
本件発明5は、本件発明3または本件発明4の発明特定事項に加えて、
「上記金型内に、金属板から成るインサート部材を保持する手段を設けた」
構成を付加したものである。
ところで、甲第9号証の段落【0023】や【図1】に、薄板バネ部材23を一方金型31の保持凹部に保持することが記載されている。
したがって、本件発明5は、甲第9号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.6 小括
上述した理由により、本件の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に係る本件発明1ないし本件発明5は、甲第9号証に記載された発明、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求人が主張する無効理由2には理由がある。

3.無効理由1について
請求人が提出した甲第1号証の現像ブレード(請求人開発ブレード)が特許法第29条第1項第1号の本件出願前に公然知られた発明に該当することについて、請求人は立証を行っていない。
そうであるとすると、被請求人の本件発明1ないし本件発明5が、甲第1号証の現像ブレードの発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、請求人が主張する無効理由1には理由がない。

4.無効理由4について
請求人は、被請求人が甲第1号証の現像ブレード(請求人開発ブレード)が使用されている製品を解体することにより請求人開発のブレードを見て、それを基に本件を出願したことについて、立証を行っていない。
したがって、請求人が主張する無効理由4には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし本件発明5は、請求人の主張する無効理由2のとおり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
したがって、本件発明1ないし本件発明5に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第162条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-10-16 
結審通知日 2007-10-19 
審決日 2009-01-06 
出願番号 特願2002-328641(P2002-328641)
審決分類 P 1 113・ 537- ZB (G03G)
P 1 113・ 841- ZB (G03G)
P 1 113・ 536- ZB (G03G)
P 1 113・ 152- ZB (G03G)
P 1 113・ 121- ZB (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神 悦彦  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 木村 史郎
大森 伸一
登録日 2005-09-16 
登録番号 特許第3721355号(P3721355)
発明の名称 現像ブレードの製造方法及び現像ブレード用金型  
代理人 米田 潤三  
代理人 皿田 秀夫  
代理人 竹田 稔  
代理人 伊藤 真  
代理人 川田 篤  
代理人 斎藤 晴男  
代理人 木村 耕太郎  

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