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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800236 審決 特許
不服200815319 審決 特許
不服200625545 審決 特許
不服200829241 審決 特許
不服200824338 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1192942
審判番号 不服2007-22835  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-20 
確定日 2009-02-17 
事件の表示 平成 5年特許願第296008号「置換ベンズイミダゾール類の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 8月 9日出願公開、特開平 6-219946〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明

本願は、平成5年11月2日(パリ条約による優先権主張1992年11月6日、ドイツ(DE))の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成19年9月19日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「下記式(I)で表される化合物を有効成分とする寄生性原生動物の防除剤:
【化1】(構造式は省略。)
式中、
X^(1)、X^(2)、X^(3)およびX^(4)は、各場合共互いに独立して、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を表すか;或は各場合共1から6個の炭素原子と1から13個の同一もしくは異なるハロゲン原子を有する各場合共直鎖もしくは分枝のハロゲノアルキル、ハロゲノアルコキシ、ハロゲノアルキルチオ、ハロゲノアルキルスルフィニルまたはハロゲノアルキルスルホニルを表すか;或はハロゲンおよび/または1から4個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝アルキルおよび/または1から4個の炭素原子と1から9個の同一もしくは異なるハロゲン原子を有する直鎖もしくは分枝のハロゲノアルキルからなる群より選ばれる同一もしくは異なる置換基で一置換もしくは多置換されていてもよい1から5個の炭素原子を有する二価のジオキシアルキレンを表すが、ここで、これらの置換基X^(1)、X^(2)、X^(3)およびX^(4)の少なくとも1つが水素およびハロゲン以外であり、
R^(5)は、OH、CN、NH_(2)、C_(1)-C_(6)-アルコキシ、1?5-ハロゲノC_(1)-C_(6)-アルコキシ、C_(1)-C_(6)-アルキルチオ、1?5-ハロゲノC_(1)-C_(6)-アルキルチオ、C_(2)-C_(6)-アルケノキシ、C_(3)-C_(6)-アルキノキシ、アシル化されていてもよいアミノもしくはモノ-(C_(1)-C_(6)アルキル)アミノを表し、ここで、アシル化されている場合のアシル基はC_(1)-C_(6)-アルコキシカルボニルまたはC_(1)-C_(6)-アルキルカルボニルである。」(以下、「本願発明」という。)

2.原査定の理由

原査定の拒絶の理由は、「発明の詳細な説明をみるに、各請求項規定の式(I)の化合物について、その原生動物防除作用が薬理データを以て一応具体的に記載されているのは、【0188】-【0192】のごく一部の箇所(実施例A)に過ぎないし、かかる実施例Aの記載においてさえ、「活性化合物」として具体的にどのような構造のベンズイミダゾール誘導体を採用したのか全く不明であり、少なくとも本願明細書中には、式(I)に包含される全てのベンズイミダゾール誘導体について、表1記載の原生動物抑制率と同等のデータ結果が得られることが、具体的な実験に基づき十分に確認されているとはいえなないから、発明の詳細な説明には、本願の請求項中の式(I)に包含される全ての化合物を薬効成分として採用する態様についてまで、当業者が容易に理解かつ実施し得る程度に、その目的、構成及び効果が十分に記載されているとはいえない。」として、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。

3.当審の判断

(1)医薬用途発明の記載要件

医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分として記載されている物質名やその化学構造だけではその有用性を予測することは困難であるから、当業者が実施をすることができる程度に医薬についての用途発明が記載されているというためには、発明の詳細な説明において、当該物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載により裏付ける必要があり、出願時の技術常識を考慮しても、その裏付けがされていない発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないとすべきである。

(2)本願発明の内容
本願明細書【0003】?【0006】には、「多ハロゲン置換されているベンズイミダゾール類およびそれらが示す駆虫薬、コクシジウム抑制薬および有害生物防除剤としての作用は開示されている[ドイツ特許出願公開第2 047 369号]。しかしながら、それらの作用は全ての場合に必ずしも満足されるものではない。
本発明は、寄生性原生動物、特にコクシジアの防除用薬剤としての、式(I)
(中略)
を有する置換ベンズイミダゾール類の使用に関する。」と記載されている。
本願特許請求の範囲の記載に加えて、これらの記載を斟酌すると、本願発明は、従来の駆虫薬、コクシジウム抑制薬又は有害生物防除剤において使用されたことのなかったベンズイミダゾール類を有効成分とする、寄生性原生動物の防除剤としての作用を有する、医薬についての用途発明に関するものである。
そこで、上記(1)で述べた医薬用途発明の記載要件の観点から、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものであるか否かを検討する。

(3)有効成分の具体的構造及び薬理活性に関する明細書の記載
明細書において、薬理データが記載されているというためには、有効成分として使用する化合物に関して、その具体的な構造を明らかにすることができないといった特段の事情がある場合を除き、個別の化合物の化学構造を明らかにした上で、該化合物と対応づけられた薬理活性試験のデータが示されていることが必要である。
そこで、本願発明の有効成分とされる式(I)で表される化合物についての個別の化合物の化学構造が明らかにされている記載、すなわち個別の化合物の全体構造が一義的に特定される記載、又は、その薬理活性に関連する記載を、本願明細書中から摘記すると次のようになる。

(A)式(Ia)及びそれに引き続く表(【0039】?【0043】)
(B)式(Ib)及びそれに引き続く表(【0074】?【0083】)
(C)式(Ic)及びそれに引き続く表(【0098】?【0101】)
(D)「この活性化合物は、動物生産および動物飼育における家畜、飼育、動物園、実験室および試験動物およびペットに存在している寄生性原生動物を駆除するに適していると共に温血動物に対して好ましい毒性を示す。これらは、有害生物の発育段階の全てもしくはいくつかの段階、並びに耐性を示す種および通常の感受性を示す種に対して活性を示す。該活性化合物を用いて寄生性原生動物を駆除することにより、病気、死亡および生産量低下(例えば、肉、ミルク、ウール、革、卵、蜜などの生産における)を少なくし、その結果として、より経済的で簡潔な動物生産が可能になる。
(中略)
本発明に従う薬剤は、特に稚魚、例えば体長が2-4cmのコイなどを処理するに適切である。これらの薬剤はまた、ウナギを太らせるに特に適切である。」(【0106】?【0116】)
(E)「既製調剤は、10ppm-20重量%、好適には0.1-10重量%の濃度で活性化合物を含有している。
(中略)
比較的多量に投与する場合、その日に渡ってそれらをいくつかの個々の服用量に分割することも好都合であり得る。」(【0158】?【0167】)
(F)「本発明に従う化合物は更に、寄生虫(虫)の中に含まれる種々の魚寄生虫に対して活性を示す。
(中略)
並びにIsopoda(等脚類)およびAmphipoda(端脚類)の目のものが含まれる。」(【0168】?【0169】)
(G)「実施例A
ニワトリのコクシジウム症
アイメリア・アセルブリナ(Eimeria acervulina)、E.マキシマ(E. maxima)およびE.テネラ(E. tenella)の非常に高い毒性を示す株である、腸内コクシジウム症の病原体の胞子形成接合子のうを40000個、9から11日才のヒヨコに感染させた。
感染の3日前および感染の8日後(実験の終了時)、この活性化合物を規定濃度で該動物餌の中に混ぜた。
McMasterチャンバを用いて排泄物中の接合子のう数を測定した[Engelbrechtおよび共同研究者著「薬剤および獣医用薬剤における寄生生物学的処理方法」(Parasitologische Arbeitsmehoden in Medizin und Veterinaermedizin)、172頁、Akademie-Verlag、Berlin (1965)参照]。
以下に示す表の中に、個々の病原体に関する、活性化合物用量および接合子のう排泄(%)を示す。この表において、100%は活性なしを意味しており、0%は完全な作用を示すこと、即ち接合子のうが排泄されないことを意味している。

(【0188】?【0192】)
(H)「 化合物Iaの製造に関する実施例
実施例1
(中略)
*)内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)が入っているデュテロクロロホルム(CDCl3)またはヘキサデュテロ-ジメチルスルホキサイド(DMSO-d6)の中で1H-NMRスペクトルを記録した。この化学シフトを、ppmで表すδ値として示す。」(【0193】?【0228】)
(I)「 化合物Ibの製造実施例:
実施例Ib-1:
(中略)
*)内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)が入っているデュテロクロロホルム(CDCl3)またはヘキサデュテロ-ジメチルスルホキサイド(DMSO-d6)の中で1H-NMRスペクトルを記録した。この化学シフトを、ppmで表すδ値として示す。」(【0257】?【0269】)
(J)「 化合物Icの製造実施例:
実施例Ic-1:
(中略)
*)内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)が入っているデュテロクロロホルム(CDCl3)またはヘキサデュテロ-ジメチルスルホキサイド(DMSO-d6)の中で1H-NMRスペクトルを記録した。この化学シフトを、ppmで表すδ値として示す。」(【0277】?【0294】)

(4)検討
まず最初に、本願明細書において、これら(A)?(J)の記載において、薬理データと言える記載、すなわち、有効成分として使用する個別の化合物の化学構造が明らかにされた上で、該化合物と対応づけられた薬理活性試験のデータが示されている記載があるか否かを検討すると、上記(A)?(J)の記載のみならず、明細書の全記載においても、このような薬理データと言える記載はなされていない。
次に、唯一定量的なデータを伴って記載されている実施例A及び表I(上記(G))の記載が、薬理データに相当するものと言えるか否かについて検討する。
上記実施例A及び表I(【表18】)においては、確かに活性データとしては、未処理の対照と比較して、完全な阻害活性を示す旨のデータが記載されているものの、該試験で使用された化合物に関しては、本文中では単に「活性化合物」とするだけであるし、また、表I中では「実施例番号」に対応する欄が空欄となっており、具体的に如何なる化学構造を有する化合物が使用されたのかを特定する記載がなされていない。
なお、表I中で「実施例番号」の欄が空欄であるということは、上記(H)?(J)で摘示した全ての実施例に対応する約220の化合物が、みな同一のデータを示すものであると意味していると解することも一応可能ではあるものの、その旨の記載が明細書に見あたらないとともに、さらにそのようなことは技術的に到底首肯できないものであることから、そのように解することは合理的ではない。
そして、上記したように、試験した化合物について具体的な化学構造が明らかにされていないということは、当業者にとっても、表Iにおいて「完全な」阻害作用を示すとされる化合物が、本願発明において有効成分とされている式(I)の化合物に対応するものなのか否かが確認できないことであり、当然のことながら、式(I)に係る化合物が「寄生性原生動物の防除剤」という医薬用途を有していることの裏付けとなる記載として甚だ不適格なものといわなければならないし、また、本願発明に関して有効成分として使用する化合物の具体的な構造を明らかにすることができないといった特段の事情があるものとすることもできない。
したがって、かかる実施例A及び表Iの記載をもって、本願発明において有効成分とされている式(I)の化合物の薬理データと同視し得る記載とすることができない。
さらに、本願発明の用途に関連した記載である上記(D)?(F)の記載は、薬理活性に関する記載としては何れも定性的なものに止まるだけでなく、有効成分となる化合物に関しても、単に「活性化合物」とか「本発明に従う化合物」等とするだけであって、その具体的構造が明らかにされておらず、これでは到底薬理データと同視し得る記載とすることはできない。
また、有効成分の具体的な化学構造が明らかにされている上記(A)?(C)及び(H)?(J)の各記載を見ても、本願発明において「有効成分」とされる化合物の化学構造やその製造方法を、単に開示するだけに止まり、各化合物に対応する薬理活性データ又はそれに類する記載がなされているものでもない。
一方、上記3.(2)で記載したように、本願発明は、従来寄生性原生動物の防除剤として使用されたことのなかった特定の化学構造を有するベンズイミダゾール類を有効成分とする寄生性原生動物の防除剤に関するものであるというのであるからから、式(I)で表される化合物の該防除剤としての活性・作用が当業者にとって技術常識であったものとすることもできない。

(5)小括
以上、要するに、本願明細書の発明の詳細な説明には、単に式(I)化合物について寄生性原生動物の防除効果についての医薬用途が形式的に述べられているのみであって、上記化合物が示す具体的な活性の程度や感染の治療に対する効果について何ら開示がないのであるから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を容易に実施することができる程度に、その目的、構成及び効果が記載されているとはいえない。

なお、請求人は、平成17年5月2日付け意見書においてアクセル・ハーバーコーン博士の宣誓書に添付して、また、審判請求書の手続補正に係る平成19年11月2日付けの手続補正書とともに比較実験報告書として、式(I)で表される化合物のいくつかが原生動物防除効果を奏することの具体的データを提示した上で、「当業者であれば、式(I)で表されるベンズイミダゾール化合物が、コクシジア原生動物防除効果を奏することは容易に確認できること」として、本願明細書の記載には不備はない旨主張する。
しかしながら、特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものか否かの判断にあたっては、あくまで願書に添付した明細書の記載を対象とし、そしてこれを理解するために利用できるものは、出願時の当業者の有する技術常識であるのに対して、請求人が提示した上記実験報告書等に記載された内容が本願出願時における当業者の技術常識であったとすることができないので、上記請求人の主張は採用することができない。

4.むすび

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、式(I)で表される化合物が寄生性原生動物の防除効果をもたらすことが、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載によって裏付けられておらず、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を容易に実施をすることができる程度に、その目的、構成及び効果が記載したものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-28 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-26 
出願番号 特願平5-296008
審決分類 P 1 8・ 531- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 元浩  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 瀬下 浩一
谷口 博
発明の名称 置換ベンズイミダゾール類の使用  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  
代理人 小田島 平吉  

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