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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1193037
審判番号 不服2005-3372  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-24 
確定日 2009-02-19 
事件の表示 平成10年特許願第220855号「現像装置および画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月25日出願公開、特開2000- 56569〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯等
本願は、平成10年8月4日の出願であって、平成17年1月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月28日付けで手続補正がなされ、当審において、平成19年6月12日付けで上記手続補正が却下されるとともに、同日付けで平成16年10月20日付けで補正された本願明細書に対して、拒絶理由が通知され、平成19年8月10日付けで、意見書とともに手続補正書が提出されたものであり、「現像装置および画像形成装置」に関するものである。

2.当審において通知した拒絶理由の概要
平成19年6月12日付けで当審から通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

『[5]本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項、及び、第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


・・・<中略>・・・
(7)本願明細書に記載された「磁極の配置と磁極の磁力に対する画像の評価」のための実験(段落【0057】?【0062】、実験結果は表1?表5にある。)は、実験条件の一部のみを明らかにしているだけであるから(例えば、好適な磁力範囲を決める実験では、設定したN2とS2の磁力値)、前記評価のための実験は、当業者が容易に実施できる程度に記載されていない。
したがって、本願発明は、当業者がその効果を確認することができない。
・・・<後略>・・・』

3.審判請求人による手続補正、及び、意見書における主張
上記拒絶理由に対し、審判請求人は、平成19年8月10日付けの手続補正により、特許請求の範囲に係る発明を以下のものとした。(請求項3ないし請求項13に係る発明の転記は省略。)

「【請求項1】 複数の固定磁石体を内蔵し、その固定磁石体に対して相対的に回転する円筒体を有し、その円筒体の表面に、磁性体のキャリアと非磁性体のトナーとで構成される現像剤を吸着して搬送し、所定の現像位置で現像を行う現像剤担持体と、
前記現像剤担持体に対向して配置され、現像剤を撹拌して前記現像剤担持体まで搬送する現像剤撹拌搬送手段と、
前記現像剤担持体に対向し、前記現像剤撹拌搬送手段よりも回転方向下流側かつ現像位置よりも上流側に配置される第1現像剤規制部材と、
前記現像剤担持体に対向し、前記現像剤撹拌搬送手段よりも回転方向下流側かつ第1現像剤規制部材よりも上流側に配置される第2現像剤規制部材とを備えた現像装置において、
前記現像剤担持体が内蔵する複数の固定磁石体の磁極のうち、現像剤汲上げ極として前記第2現像剤規制部材に対向して配置される磁極の磁束密度の範囲は55mT?70mTであり、現像極として現像位置に配置される磁極と現像剤汲上げ極としての磁極とがなす極間角度の範囲は115度?130度であり、現像剤剥離極としての磁極が現像剤撹拌搬送手段に対向して配置され、現像剤剥離極と現像極との間に、現像剤剥離極と同極性の磁極が現像剤回収極として配置されることを特徴とする現像装置。
【請求項2】 複数の固定磁石体を内蔵し、その固定磁石体に対して相対的に回転する円筒体を有し、その円筒体の表面に、磁性体のキャリアと非磁性体のトナーとで構成される現像剤を吸着して搬送し、所定の現像位置で現像を行う現像剤担持体と、
前記現像剤担持体に対向して配置され、現像剤を撹拌して前記現像剤担持体まで搬送する現像剤撹拌搬送手段と、
前記現像剤担持体に対向し、前記現像剤撹拌搬送手段よりも回転方向下流側かつ現像位置よりも上流側に配置される第1現像剤規制部材と、
前記現像剤担持体に対向し、前記現像剤撹拌搬送手段よりも回転方向下流側かつ第1現像剤規制部材よりも上流側に配置される第2現像剤規制部材とを備えた現像装置において、
前記現像剤担持体が内蔵する複数の固定磁石体の磁極のうち、現像剤剥離極として前記現像剤撹拌搬送手段に対向して配置される磁極の磁束密度の範囲は45mT?65mTであり、現像極として現像位置に配置される磁極と現像剤剥離極としての磁極とがなす極間角度の範囲は195度?210度であり、現像剤剥離極と現像極との間に、現像剤剥離極と同極性の磁極が現像剤回収極として配置されることを特徴とする現像装置。」

また、審判請求人は平成19年8月10日付け意見書において、上記拒絶理由(以下、「拒絶理由(7)」という。」に対して、以下のように反論している。(2番目の下線は当審で付与。)

「項目[5](7)について 審判官殿は、本願明細書の段落[0057]?[0062]に記載の「磁極の配置と磁極の磁力に対する画像の評価」のための実験について、実験条件の一部のみを明らかにしているだけであるから、当業者が容易に実施できる程度に記載されていないと指摘しておられるが、実験条件の一部のみを記載しているのは、他の条件を記載する必要がないためである。
前述の実験では、1つの条件を変化させて他の条件を固定して評価するので、実験条件として、前述の段落[0057]?[0062]に記載されている以外の条件は、評価に影響しない。したがって、実験条件としては一部、たとえば変化させる条件のみを記載しておけば充分であり、当業者であれば、記載された条件に基づいて、前記評価のための実験を容易に実施することができ、本願発明の効果を確認することができる。
したがって本願の発明の詳細な説明は、当業者が容易に実施できる程度に記載されたものであり、項目[5](7)で指摘された拒絶理由は解消しているものと確信する。」

4.当審の判断
(1)明細書記載事項(下線は当審で付与。)
拒絶理由(7)で指摘している本願の段落【0057】ないし【0062】の記載事項は、以下のとおりである。

「 【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
表1?表5は、磁極の配置と磁極の磁力に対する画像の評価を示している。磁極の位置は、円筒体67の上の現像極からの角度位置によって記述され、磁極の磁力は、G(ガウス;10^(-1)mT)を単位として記述される。画像の評価としては、画像の不具合であるタイガーマーク、Light Density、Grits、撹拌むらおよび混色の現れ方を示している。符号「〇」は、画像の不具合が全く現れなかったことを示し、符号「Δ」は、少し現れたことを示し、符号「×」は、完全に現れたことを示し、符号「-」は、画質を評価していないことを示している。ここでは、画像の不具合を顕著に発生させるために、現像剤中のトナーの濃度を実使用状態よりも約2?3割ほど減少させ、磁性体であるキャリアの濃度を増加させて、複写を行った。」

また、上記【表1】ないし【表5】に関して、以下の記載がある。

「 【0063】
表1によれば、汲上げ極N2の磁力範囲が45mT?70mTであれば、画像の不具合が少ない(評価B)ので、汲上げ極N2の磁力として適当であることがわかる。また、汲上げ極N2の磁力範囲が55mT?60mTであれば、画像の不具合がさらに少ない(評価A)ので、汲上げ極N2の磁力としてさらに適当であることがわかる。
【0064】
表2によれば、剥離極S2の磁力範囲が45mT?65mTであれば、画像の不具合が少ない(評価B)ので、剥離極S2の磁力として適当であることがわかる。また、剥離極S2の磁力が55mTであれば、画像の不具合がさらに少ない(評価A)ので、剥離極S2の磁力としてさらに適当であることがわかる。
【0065】
表3によれば、汲上げ極N2の角度位置が現像極N1から115度?130度の範囲内であれば、画像の不具合が少ない(評価B)ので、汲上げ極N2の位置として適当であることがわかる。また、汲上げ極N2の角度位置が現像極N1から120度の位置であれば、画像の不具合がさらに少ない(評価A)ので、汲上げ極N2の位置としてさらに適当であることがわかる。
【0066】
表4によれば、剥離極S2の角度位置が現像極N1から195度?210度の範囲内であれば、画像の不具合が少ない(評価B)ので、剥離極S2の位置として適当であることがわかる。また、剥離極S2の角度位置が現像極N1から205度?210度の範囲内にあれば、画像の不具合がさらに少ない(評価A)ので、剥離極S2の位置としてさらに適当であることがわかる。
【0067】
表5によれば、回収極S3の角度位置が現像極N1から260度?280度の範囲内であれば、画像の不具合が少ない(評価B)ので、回収極S3の位置として適当であることがわかる。また、回収極S3の角度位置が現像極N1から270度の位置であれば、画像の不具合がさらに少ない(評価A)ので、回収極S3の位置としてさらに適当であることがわかる。」

(2)検討
本願の発明の詳細な説明が、当業者が特許請求の範囲に記載された発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許請求の範囲に記載された発明が明確であるかについて、以下に検討する。
上記【表1】ないし【表5】の実験結果は、本願の【図2】に示される第1規制部材63及び第2規制部材64を有する現像装置が組み込まれた【図1】に示される複写機を用いて実際に複写を行うことによって得られた画像(以下、「複写画像」という。)の品質を評価したものであることが、上記段落【0062】に記載されている。
ここで、上記【表1】と【表3】を参照すると、汲上げ極N2の磁力範囲、及び、汲み上げ極N2の角度位置の範囲はそれぞれ、複写画像の品質に対して大きな影響を与えるものであることがわかり、上記【表2】と【表4】を参照すると、剥離極S2の磁力範囲、及び、剥離極S2の角度位置の範囲はそれぞれ、複写画像の品質に大きな影響を与えるものであることがわかり、さらに、【表5】を参照すると、回収極S3の角度位置の範囲は複写画像の品質に大きな影響を与えるものであることがわかる。。
そして、【表1】には実験のパラメータとして汲上げ磁極N2の磁力の値みが示されており、汲上げ極N2の磁力が400Gや750Gである場合に、複写画像に不具合が発生するため、汲上げ極N2の適正磁力範囲は450?700Gであることが示され、【表3】には実験のパラメータとして汲上げ磁極N2の角度位置のみが示されており、汲上げ極N2の角度位置が110度や135度である場合に、複写画像に不具合が発生するため、汲上げ極N2の適正角度範囲が115?130度であることが示されている。
次に、上記【表2】には実験のパラメータとして剥離極S2の磁力の値のみが示されており、剥離極S2の磁力が400Gや700Gである場合に、複写画像に不具合が発生するため、剥離極S2の適正磁力範囲は450?650Gであることが示され、【表4】には実験のパラメータとして剥離極S2の角度位置のみが示されており、剥離極S2の角度位置が190度や215度であるものは、複写画像に不具合が発生するため、剥離極S2の適正角度範囲は195?210度であることが示されている。
しかしながら、【表1】の実験結果を得るための実験時における汲上げ磁極N2の角度位置、剥離極S2の磁力及び角度位置、回収極S3の角度位置、【表3】の実験結果を得るための実験時における汲上げ磁極N2の磁力、剥離極S2の磁力及び角度位置、回収極S3の角度位置について記載されておらず不明である。
また、【表2】の実験結果を得るための実験時における汲上げ磁極N2の磁力及び角度位置、剥離磁極S2の角度位置、回収極S3の角度位置、【表4】の実験結果を得るための実験時における汲上げ磁極N2の磁力及び角度位置、剥離磁極S2の磁力、回収極S3の角度位置について記載されておらず不明である。
さらに、【表5】の実験結果を得るための実験時における汲上げ磁極N2の磁力及び角度位置、剥離極S2の磁力及び角度位置について記載されておらず不明である。
そしてまた、第1規制部材63や第2規制部材64の具体的構成や現像磁極N1の磁力等についても記載されておらず不明である。
要するに、【表1】ないし【表5】の実験結果に対して影響を与えることが明らかなパラメータの値や実験条件について十分に記載されておらず、実験内容が不明であるため、当業者が追試を行うことにより、【表1】ないし【表5】の実験結果を得て、発明の効果を確認することはできない。
したがって、前記拒絶理由で指摘した理由により、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし請求項13に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

次に、請求項1ないし請求項13に係る発明が明確であるかについて、請求項1及び請求項2にかかる発明を例にして検討する。
請求項1に係る発明は、現像剤汲上げ極の磁束密度の範囲が55mT?70mTであり、現像極として現像位置に配置される磁極と現像剤汲上げ極としての磁極とがなす極間角度の範囲が115度?130度であると規定するものである。
また、請求項2に係る発明は、現像剤剥離極の磁束密度の範囲が45mT?65mTであり、現像極として現像位置に配置される磁極と現像剤剥離極としての磁極とがなす極間角度の範囲角度の範囲が195度?210度であると規定するものである。
そして、審判請求人は、上記平成19年8月10日付け意見書において、「前述の実験では、1つの条件を変化させて他の条件を固定して評価するので、実験条件として、前述の段落[0057]?[0062]に記載されている以外の条件は、評価に影響しない。したがって、実験条件としては一部、たとえば変化させる条件のみを記載しておけば充分であり、当業者であれば、記載された条件に基づいて、前記評価のための実験を容易に実施することができ、本願発明の効果を確認することができる。」と主張している。
したがって、【表1】ないし【表5】の実験は、一つの条件を変化させて他の条件を固定したものであること、及び、【0057】?【0062】に記載されている条件(汲上げ極の磁力及び角度位置、剥離極の磁力及び角度位置、回収極の角度位置)が評価に影響を与えることは、審判請求人も認めている事項であることがわかる。
そうすると、【表1】の実験結果は現像剤汲上げ極を特定の角度位置に固定して実験することにより得られたものにすぎず、現像剤汲み上極の角度位置が115度?130度の範囲に亘って複写画像が良好な品質であるという効果が奏せられるものとは考えられないし、【表3】の実験結果は現像剤汲上げ極が特定の磁束密度の値であるものに対して実験を行ったものにすぎず、現像剤汲み上極の磁束密度が55mT?70mTの範囲に亘って複写画像が良好な品質であるという効果が奏せられるものとは考えられない。
また、【表2】の実験結果は現像剤剥離極を特定の角度位置に固定して実験することにより得られたものにすぎず、現像剤剥離極の角度位置が195度?210度の範囲に亘って複写画像が良好な品質であるという効果が奏せられるものとは考えられないし、【表4】の実験結果は現像剤剥離極が特定の磁束密度の値であるものに対して実験を行ったものにすぎず、現像剤剥離極の磁束密度が45mT?65mTの範囲に亘って複写画像が良好な品質であるという効果が奏せられるものとは考えられない。
以上のことから、請求項1及び請求項2に係る発明は、効果を奏することが確認できないものを含むものであるので、依然として明確でない。
また、同様の理由により、本願の特許請求の範囲の請求項3ないし請求項13に係る発明も依然として明確でない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項、及び、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-10 
結審通知日 2008-12-16 
審決日 2009-01-05 
出願番号 特願平10-220855
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G03G)
P 1 8・ 536- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 六車 江一北川 清伸  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 淺野 美奈
赤木 啓二
発明の名称 現像装置および画像形成装置  
代理人 杉山 毅至  
代理人 西教 圭一郎  

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