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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1193090
審判番号 不服2006-25346  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-09 
確定日 2009-02-19 
事件の表示 特願2003-424415「強析出型オーステナイトステンレス系耐熱鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成17年7月7日出願公開、特開2005-179755〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年12月22日の出願であって、平成18年10月2日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月9日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年12月11日付けで手続補正がされ、当審により平成20年7月30日付けでこの手続補正が却下されるとともに、同日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年9月1日付け手続補正書により補正され、再度、平成20年10月2日付けでこの手続補正が却下されるとともに、同日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年10月24日付け手続補正書により補正されたものである。

2.平成20年10月24日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年10月24日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)手続補正の内容
平成20年10月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を、次の(1-1)から次の(1-2)のとおりに補正するものである。

(1-1)
「【請求項1】
ボロンを0.01超?0.10質量%含む耐熱鋼(但し、wt%で、C:0.078%、Si:0.68%、Mn:1.67%、P:0.001%、S:0.002%、Cr:18.15%、Ni:11.90%、Nb:0.38%、N:0.072%、B:0.069%、Ce:0.016%を含む鋼を除く)を、耐熱鋼が通常使用される高温、高応力下で使用することによって、耐熱鋼の結晶粒界に生成するクリープボイド表面にボロンを偏析させ、これによって該表面をボロンで被覆して、クリープボイドの成長を抑制し、クリープボイド成長による破断に対して自己修復性を発現させることを特徴とした、前記高温使用による耐熱鋼の自己修復方法。
【請求項2】
該ボロン偏析による自己修復性の発現が、妨害元素である硫黄を、0.003質量%以下に低減し、硫化物形成元素であるセリウムを0.002?0.020質量%含有せしめることによって硫黄を固定化し、除去してなるボロン含有耐熱鋼を、耐熱鋼が通常使用される高温で使用することによって行われることを特徴とする、請求項1記載の高温使用による耐熱鋼の自己修復方法。
【請求項3】
該耐熱鋼が、セリウム0.002?0.020質量%、ボロン0.01超?0.10質量%、ニオブ、あるいはタンタルを含む強析出型のオーステナイトステンレス系耐熱鋼である、請求項1または2記載の高温使用による耐熱鋼の自己修復方法。
【請求項4】
該耐熱鋼として、Cを0.04?0.10質量%、Siを1.00質量%以下、Mnを2.00質量%以下、Pを0.03質量%以下、Sを0.003質量%以下、Niを9.00?13.00質量%、Crを17.00?20.00質量%、Ceを0.002?0.020質量%、Bを0.01超?0.10質量%、Nb+Taを0.3?1.00質量%、残部が鉄と不可避的元素からなる組成を有し、クリープボイド表面には硫黄が偏析されることなく、ボロンが偏析される強析出型のオーステナイトステンレス系耐熱鋼を使用することを特徴とする、請求項1ないし3の何れか1項記載の高温使用による耐熱鋼の自己修復方法。
【請求項5】
耐熱鋼が通常使用される高温、高応力下で使用することによって、結晶粒界に生成するクリープボイド表面にボロンのみが偏析し、該クリープボイド表面がボロンで被覆されるように成分調整されてなることを特徴とする、前記高温使用による自己修復性を有してなる、ボロンを0.01超?0.10質量%含有してなる耐熱鋼(但し、wt%で、C:0.078%、Si:0.68%、Mn:1.67%、P:0.001%、S:0.002%、Cr:18.15%、Ni:11.90%、Nb:0.38%、N:0.072%、B:0.069%、Ce:0.016%を含む鋼を除く)。
【請求項6】
ボロン偏析に対して妨害元素として作用する硫黄が0.003質量%以下、硫化物形成元素であるセリウムを0.002?0.020質量%含有し、ボロンを0.01超?0.10質量%含有してなる、請求項5記載の高温使用による自己修復性を有してなる耐熱鋼。
【請求項7】
該耐熱鋼が、セリウム0.002?0.020質量%、ボロン0.01超?0.10質量%、ニオブ、あるいはタンタルを含む強析出型のオーステナイトステンレス系耐熱鋼である、請求項5または6記載の高温使用による自己修復性を有してなる耐熱鋼。
【請求項8】
Cを0.04?0.10質量%、Siを1.00質量%以下、Mnを2.00質量%以下、Pを0.03質量%以下、Sを0.003質量%以下、Niを9.00?13.00質量%、Crを17.00?20.00質量%、Ceを0.002?0.020質量%、Bを0.01超?0.10質量%、Nb+Taを0.3?1.00質量%、残部が鉄と不可避的元素からなる組成を有し、クリープボイド表面には硫黄が偏析されることなく、ボロンが偏析される強析出型のオーステナイトステンレス系耐熱鋼である、請求項5ないし7記載の何れか1項記載の高温使用による自己修復性を有してなる耐熱鋼。」

(1-2)
「【請求項1】
添加物としてCを0.04?0.10質量%、Siを1.00質量%以下、Mnを2.00質量%以下、Pを0.03質量%以下、Sを0.03質量%以下、Niを9.00?13.00質量%、Crを17.00?20.00質量%、Ceを0.002?0.020質量%、Bを0.01超?0.10質量%、Nb+Taを0.3?1.00質量%含有し、残部が鉄と不可避的元素であるオーステナイト系ステンレス鋼からなり、クリープボイドが発生する高温、高応力下で使用される耐熱鋼であって、結晶粒界に生成するクリープボイド表面にBのみが偏析して被覆することを特徴とする強析出型耐熱鋼。」

(2)補正の却下についての当審の判断
本件補正は、補正前の請求項1?7を削除し、補正前の請求項5を引用する補正前の請求項8を独立形式で記載し、請求項1に項番を繰り上げたものといえる。
そして、補正後の請求項1は、補正前の請求項5及び8に記載の特定事項である「自己修復性を有してなる」という事項を削除するものであり、また、「Sを0.03質量%以下」という事項を含むものである。
本件補正後の特許請求の範囲の記載は、上記(1-2)のとおりであるところ、補正前の請求項5及び8に記載の特定事項である「自己修復性を有してなる」という事項を削除する補正について、補正前の請求項8において引用する補正前の請求項5には、「自己修復性を有してなる」と記載されており、この「自己修復性を有してなる」という特定事項を削除することにより、補正前には、自己修復性を有するものに限定されていたものを、補正後は、自己修復性を有さないものまで拡張するものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
また、Sを「0.03質量%以下」とする補正事項は、補正前の「0.003質量%以下」に比べて、Sの含有範囲を0.003質量%を超え0.03質量%以下の範囲において明らかに拡張するものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
以上の点を踏まえると、本件補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるもの、いわゆる「限定的減縮」を目的とするものとはいえないし、いわゆる「請求項の削除」、誤記の訂正、若しくは、いわゆる「明りょうでない記載の釈明」のいずれをも目的とするものともいえないから、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれかの事項を目的とするものとはいえない。

(3)むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明についての審決
(1)本願発明
上記「2.」で示したように、本件補正は却下されたから、本願に係る発明は、平成18年9月11日付け手続補正書により補正された原査定時の明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載されたとおりのものといえる。そのうちの請求項1及び請求項5に係る発明は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ボロンを0.01超?0.10質量%含む耐熱鋼(但し、wt%で、C:0.078%、Si:0.68%、Mn:1.67%、P:0.001%、S:0.002%、Cr:18.15%、Ni:11.90%、Nb:0.38%、N:0.072%、B:0.069%、Ce:0.016%を含む鋼を除く)を、耐熱鋼が通常使用される高温、高応力下で使用することによって、耐熱鋼の結晶粒界に生成するクリープボイド表面にボロンを偏析させ、これによって該表面をボロンで被覆して、クリープボイドの成長を抑制し、クリープボイド成長による破断に対して自己修復性を発現させることを特徴とした、前記高温使用による耐熱鋼の自己修復方法。」

「【請求項5】
耐熱鋼が通常使用される高温、高応力下で使用することによって、結晶粒界に生成するクリープボイド表面にボロンのみが偏析し、該クリープボイド表面がボロンで被覆されるように成分調整されてなることを特徴とする、前記高温使用による自己修復性を有してなる、ボロンを0.01超?0.10質量%含有してなる耐熱鋼(但し、wt%で、C:0.078%、Si:0.68%、Mn:1.67%、P:0.001%、S:0.002%、Cr:18.15%、Ni:11.90%、Nb:0.38%、N:0.072%、B:0.069%、Ce:0.016%を含む鋼を除く)。」

(2)平成20年10月2日付け当審拒絶の理由の概要
一方、平成20年10月2日付け当審拒絶の理由の概要は、次のとおりのものである。

平成18年9月11日付け手続補正書による補正は、請求項1及び5において、「(但し、wt%で、C:0.078%、Si:0.68%、Mn:1.67%、P:0.001%、S:0.002%、Cr:18.15%、Ni:11.90%、Nb:0.38%、N:0.072%、B:0.069%、Ce:0.016%を含む鋼を除く)」を特定事項とする限定を付加するものを含むものであるが、「wt%で、C:0.078%、Si:0.68%、Mn:1.67%、P:0.001%、S:0.002%、Cr:18.15%、Ni:11.90%、Nb:0.38%、N:0.072%、B:0.069%、Ce:0.016%を含む鋼を除く」という特定事項について、この特定組成の鋼を除くという技術思想が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されているとはいえないし、かかる技術思想が当業者に自明のことともいえないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(3)当審の判断
平成18年9月11日付け手続補正書による補正により追加された、請求項1及び5における、「wt%で、C:0.078%、Si:0.68%、Mn:1.67%、P:0.001%、S:0.002%、Cr:18.15%、Ni:11.90%、Nb:0.38%、N:0.072%、B:0.069%、Ce:0.016%を含む鋼を除く」という特定事項について、願書に最初に添付した明細書又は図面の特許請求の範囲の請求項8の「Cを0.04?0.10質量%、Siを1.00質量%以下、Mnを2.00質量%以下、Pを0.03質量%以下、Sを0.003質量%以下、Niを9.00?13.00質量%、Crを17.00?20.00質量%、Ceを0.002?0.020質量%、Bを0.005?0.10質量%、Nb+Taを0.3?1.00質量%、残部が鉄と不可避的元素からなる組成を有し、クリープボイド表面には硫黄が偏析されることなく、ボロンが偏析される強析出型のオーステナイトステンレス系耐熱鋼である、請求項5ないし7記載の何れか1項記載の高温使用による自己修復性を有してなる耐熱鋼。」という記載及び【表2】「ボロン添加水準を変えた低硫黄セリウム添加SUS347鋼の基本組成(mass%)」のA2のC:0.078、Si:0.68、Mn:1.67、P:0.001、S:0.002、Cr:18.15、Ni:11.90、Nb+Ta:0.38、N:0.072、B:0.069、Ce:0.016、という表示によれば、「wt%で、C:0.078%、Si:0.68%、Mn:1.67%、P:0.001%、S:0.002%、Cr:18.15%、Ni:11.90%、Nb+Ta:0.38%、N:0.072%、B:0.069%、Ce:0.016%、残部が鉄と不可避的元素からなる組成を有するオーステナイトステンレス系耐熱鋼」が記載されていたとすることはいえるものの、「wt%で、C:0.078%、Si:0.68%、Mn:1.67%、P:0.001%、S:0.002%、Cr:18.15%、Ni:11.90%、Nb:0.38%、N:0.072%、B:0.069%、Ce:0.016%を含む鋼」については記載されていたということはできず、したがって、かかる鋼を除くという補正事項が記載されていたということができない。
してみると、この特定組成の鋼を除くという特定事項が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されているとはいえないし、かかる特定事項が当業者に自明のことともいえないから、前記特定事項を付加する補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものということはできない。

以上のように、平成18年9月11日付け手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものとはいえない。

したがって、この出願は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものといえる。

4.むすび
以上のとおり、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-05 
結審通知日 2008-12-09 
審決日 2009-01-05 
出願番号 特願2003-424415(P2003-424415)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (C22C)
P 1 8・ 572- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 平塚 義三
青木 千歌子
発明の名称 強析出型オーステナイトステンレス系耐熱鋼  

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