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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1193103 |
審判番号 | 不服2007-1722 |
総通号数 | 112 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-01-17 |
確定日 | 2009-02-19 |
事件の表示 | 特願2002- 91474「電子写真感光体及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月31日出願公開、特開2003-307866〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、特許法第41条に基づく優先権を主張して平成14年3月28日(優先日、平成14年2月13日)に出願され、その特許請求の範囲に係る発明は、平成18年6月16日付の手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。) 「導電性支持体上に少なくとも有機層である下引き層、及び感光層を塗布してなる電子写真感光体において、前記支持体は無切削管にブラスト処理或いは研磨処理を施されており、その表面粗さがRmaxで2.0?5.0μmかつRaで0.1?0.5μmであることを特徴とする電子写真感光体。」 2.刊行物に記載された発明 (刊行物1について) 原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな特開2001-249477号公報には、以下の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。) (1-a) 【請求項1】電子写真用感光体の支持基体の表面に高圧水を噴射して、概表面を粗面化することを特徴とする、電子写真用感光体の支持基体の表面処理方法。 【請求項2】前記高圧水の噴射圧力Pが1×108?1.5×108Paであり、前記高圧水が前記支持基体に衝突する際の衝撃圧力Fが4400?5400Paであることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理方法。 【請求項3】前記高圧水の噴射水量が29?44m3/hであることを特徴とする、請求項2に記載の表面処理方法。 【請求項4】前記高圧水を噴射する際、前記高圧水を噴射する高圧水ノズルが前記支持基体を少なくとも貫く軸の周りを相対的に移動するとともに、前記高圧水ノズルが軸に沿った方向に相対的に移動するように、前記高圧水ノズルと前記支持基体との位置関係を変化させることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理方法。 【請求項5】前記支持基体の表面に当たる高圧水の最大幅をL、前記軸方向の高圧水が重複して当たる幅をhとしたとき、h/L値が0?0.9であることを特徴とする、請求項4に記載の表面処理方法。 【請求項6】前記高圧水ノズルは水平面を基準として下向きに0?20゜の高圧水ノズル斜角を持って配設されており、前記高圧水ノズルと前記支持基体の前記軸がなす角度のうち上側の角度は70?90°であり、下記式(2); α>γ/2 (1) (式(1)中、αは高圧水ノズル斜角、γは高圧水ノズルから噴射される前記軸方向の高圧水の噴射角を示す。)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の表面処理方法。 【請求項7】前記支持基体の表面に高圧水を噴射して、概表面を粗面化した後、前記支持体の表面に圧搾エアを噴射することを特徴とする、請求項1に記載の表面処理方法。 【請求項8】支持基体表面を電子写真装置内での回転軸方向の一端から他端まで測定長さ0.8mm毎に表面粗さを測定し、この測定を前記支持基体の周方向に1゜毎に繰り返して得られる、それぞれの表面粗さ測定値の算術平均値が最大高さRmaxで0.1?4μmであり、中心線平均粗さRaで0.1?2μmであることを特徴とする電子写真用感光体。」(【特許請求の範囲】) (1-b) 「本発明の目的は上記の問題点を解消し、支持基体表面が干渉縞を防止できる程度に、かつ均一に粗面化され、画像斑のない電子写真感光体および、低コストで、画像品質に影響を及ぼすことなく、電子写真用感光体の干渉縞を防止するための、支持基体の表面処理方法を提供することである。」(段落【0005】) (1-c) 「本発明に使用される支持基体としては、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、亜鉛、チタン等の金属及び、それらの合金からなるドラム、ベルトまたはシート等が挙げられ、また、プラスチック、紙等の支持基体表面にアルミニウム、チタン等の金属及びそれらの合金を真空蒸着法によって被膜形成させたものが挙げられる。本発明の電子写真感光体に使用する支持基体は、画像上の干渉縞や支持基体表面の凹凸による画像斑を防止するためには、支持基体のおおよそ全表面において、JIS B0601による表面粗さにおいて、最大高さRmaxが0.1?4μmであり、中心線平均粗Raが0.1?2μmであることが必要である。詳細には、まずJIS B0651による触針式表面粗さ測定器を用いて、支持基体表面を電子写真装置内での回転軸方向の一端から他端まで最大高さRmax(基準長さ0.8mm)および中心線平均粗さRa測定(測定長さ0.8mm、カットオフ値0.25mm)し、この測定を前記支持基体の周方向に1゜毎に繰り返して算術平均を求める。このようにして求めた最大高さRmaxが0.1?4μmであり、中心線平均粗さRaが0.1?2μmであれば、本発明の電子写真感光体としての条件を満たすことになる。」(段落【0009】) (1-d) 「最大高さRmaxが0.1μm未満または中心線平均粗さRaが0.1μm未満の場合、干渉縞を防止することができない。最大高さRmaxが4μmを超えるか中心線平均粗さRaが2μmを超える場合は支持基体表面の凹凸による画像斑が発生してしまう。本発明の電子写真感光体を得るためには支持基体の表面に高圧水を噴射して該表面を粗面化することにより得ることができる。本発明に使用される高圧水としては純水、蒸留水、水道水などが挙げられる。支持基体の表面処理とともに、支持基体表面の洗浄を行う場合は、蒸留水あるいは純水を用いるのが好ましい。」(段落【0010】) (1-e) 「上記のように粗面化され、前述の表面粗さに粗面化された支持基体は、必要に応じて洗浄、乾燥工程を経た後、感光層が形成される。支持基体表面には、所望により下引き層が形成される。下引き層は公知の樹脂を用いて形成されるが、膜厚4?10μmの範囲、特に、4?6μmの範囲に設定することが好ましい。下引き層の上には感光層が設けられる。 単層感光体の場合、感光層は主に電荷発生剤、電荷輸送剤および結着樹脂からなり、その膜厚は5?100μmが好ましい。積層感光体の場合は、電荷発生剤と結着樹脂を含む電荷発生層および、電荷輸送剤と結着樹脂を含む電荷輸送層とが、この順序または逆の順序で下引き層の上に設けらる。電荷発生層の膜厚は0.3?1μmの範囲、特に、0.3?0.7μmの範囲に設定することが好ましい。また、電荷輸送層の膜厚は20?40μmの膜厚で形成すればよい。」(段落【0018】) (1-e) 「【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、支持基体がドラムである場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の表面処理方法における第1の実施形態を模式的に示したものである。図2は高圧水ノズル16付近の拡大図である。・・・(中略)・・・ 表面処理される円筒状の支持基体11は、・・・(以下、略)」(段落【0020】?【0022】) 上記の事項をまとめると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。) 「アルミニウム等からなる円筒状の支持基体表面に樹脂により下引き層を形成し、該下引き層の上に感光層を形成した電子写真感光体であって、前記支持基体は無切削管に高圧水噴射による粗面化処理を施されており、その表面粗さがRmaxで0.1?4.0μmであり、Raで0.1?2.0μmである、電子写真感光体」 (刊行物2について) 原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用され、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな特開2001-100595号公報には、以下の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。) (2-a) 「【請求項1】アルミニウム合金からなる円筒状の導電性基体上に有機材料からなる下引き層,感光層を備えてなる電子写真用感光体において、前記導電性基体が無切削管からなり基体表面が乾式ブラスト処理により表面粗さがRmax で0.1μmないし2.0μmに粗面化されていることを特徴とする電子写真用感光体。 【請求項2】下引き層が透明または着色された均一系樹脂層からなることを特徴とする請求項1記載の電子写真用感光体。 【請求項3】下引き層の膜厚が0.1μmないし5μmの範囲内であることを特徴とする請求項1または2記載の電子写真用感光体。」(【特許請求の範囲】) (2-b) 「【従来の技術】 電子写真プロセスにおいて、画像を形成するに際して電子写真用感光体(以下、単に感光体とも称する)への露光光としてコヒーレントな光が用いられた場合、感光体の基体表面での反射光の位相が揃う場合に光学干渉が生じる。この光学干渉は画像に干渉縞模様として現れて画像障害となる。」(段落【0002】) (2-c) 「この対策として、感光体では、基体表面での反射光を散乱させたり吸収したりして反射光の光学干渉を防ぐ工夫が施されている。例えば、基体表面を加工する場合に表面粗さ形状が不規則となるようなバイト加工を施して光を乱反射させたり、あるいは、基体表面に反射光を散乱させる機能を有する下引き層を設けたりすることが行われる。下引き層に光散乱機能を付与するためには、一般に、無機酸化物微粒子などを分散含有させることが行われる。」(段落【0003】) (2-d) 「【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、バイト加工はバイトの先端刃先が加工中に変化することにより、再現性のよい加工形状の確保が困難である。また、下引き層は一般に樹脂液を浸漬塗工して形成され、光の散乱を目的にしてナイロンなどの樹脂液中に無機酸化物微粒子,例えば酸化チタン微粒子などを分散した塗布液が用いられるが、分散塗布液中で酸化チタン微粒子などは凝集し浸漬塗工の際に表面欠陥の核となり外観欠陥および画像欠陥を発生する要因となる。」(段落【0004】) (2-e) 「【課題を解決するための手段】 上記の課題は、この発明によれば、アルミニウム合金からなる円筒状の導電性基体上に有機材料からなる下引き層,感光層を備えてなる電子写真用感光体において、導電性基体が無切削管からなり基体の表面が乾式ブラスト処理により表面粗さがRmax で0.1μmないし2.0μmに粗面化されている電子写真用感光体とすることによって解決される。」(段落【0007】) (2-f) 「基体素管としてアルミニウム合金からなる無切削管を用い、その表面を乾式ブラスト処理で表面粗さがRmax で0.1μmないし2.0μmの範囲内となるよう加工することにより、基体表面はランダムに粗面化され、基体表面からの反射光は乱反射して光学干渉を起こさなくなり、しかも無切削管表面のピット状欠陥の悪影響を、要求される寸法精度を損なうことなく、しかもバイト切削などよりも安価に、除去することができる。表面粗さがRmax で0.1μm未満であると反射光が光学干渉を起こさない程度に充分に乱反射せず、また、無切削管表面のピット状欠陥の悪影響が除去しきれない。また、表面粗さがRmax で2.0μmを超えるとその上に下引き層を良好に塗工することが難しくなる。」(段落【0008】) (2-g) 「このような基体上に形成される下引き層は、光学干渉を考慮する必要はなく、電気特性とその繰り返し使用時の安定性,温湿度環境の変化に対する安定性を考慮した透明または着色された均一系樹脂層からなる単層でよい。積層構造にする必要はなく生産性良く安価に形成できる。また、下引き層の膜厚は、ピット状の欠陥の影響は除去されているので、0.1μmないし5μmの範囲内でよい。膜厚が0.1μm未満では均一な膜厚の下引き層を形成することが難しく、5μmを超えると要求される電気特性を有する下引き層を得ることが難しくなる。下引き層の形成に用いる樹脂塗布液は、均一系で無機酸化物微粒子を分散させた分散液ではないので、微粒子の凝集などの問題は発生せず、外観良好な下引き層を容易に形成することができる。」(段落【0009】) (2-h) 「アルミニウム合金素管としては抽伸精度の良い無切削管が用いられる。その外表面を、乾式ブラスト処理で表面粗さをRmax で0.1μmないし2.0μmの範囲内にランダムに加工する。乾式ブラストに用いる研磨材としては、サンド,アルミナ,カーボランダムなど通常用いられるものはいずれも用いることができる。 次に、導電性基体の乾式ブラスト加工面上に単層の樹脂層からなる下引き層を浸漬塗工により形成する。下引き層用の樹脂としては、導電性などの電気特性,繰り返し使用時の特性安定性,温湿度環境変化に対する安定性に優れた樹脂が用いられ、ポリアミド系樹脂である各種ナイロンなど通常下引き層に用いられる樹脂はいずれも問題なく用いることができる。下引き層の膜厚は0.1μm?5μmとされる。 この下引き層上に、有機材料からなる電荷発生層,電荷輸送層を順次浸漬塗工して感光層を形成して感光体とする。」(段落【0011】?【0013】) したがって、刊行物2には、次の事項が記載されているといえる。 ・無切削管であるアルミニウム合金素管を、ブラスト処理して表面を粗面化し、その上に有機層からなる下引層を形成し、さらにその上に、感光層を設けて、電子写真用感光体を作製すること、及び、 ・粗面化の程度は、Rmax で0.1?2.0μm程度とすること。 3.対比 本願発明と、刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における、「アルミニウム等からなる円筒状の支持基体」、「樹脂により下引き層を形成し」は、それぞれ、本願発明における「導電性支持体」、「有機層である下引き層・・・を塗布し」に相当するから、刊行物1発明における「アルミニウム等からなる円筒状の支持基体表面に樹脂により下引き層を形成し、該下引き層の上に感光層を形成した電子写真感光体」は、本願発明における「導電性支持体上に少なくとも有機層である下引き層、及び感光層を塗布してなる電子写真感光体」に相当する。 したがって、両者は、 「導電性支持体上に少なくとも有機層である下引き層、及び感光層を塗布してなる電子写真感光体において、前記支持体は粗面化処理を施されており、その表面粗さがRmax で2.0?4.0μmかつRaで0.1?0.5μmである電子写真感光体。」である点で一致し、 下記の点でのみ相違する。 [相違点]粗面化処理に関して、本願発明は、「無切削管にブラスト処理或いは研磨処理」とするのに対して、刊行物1発明においては、「無切削管」について記載がなく、「高圧水の噴射による粗面化処理」としている点。 4.判断 相違点について検討する。 まず、刊行物2には、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる無切削管を、ブラスト処理して、粗面化することが記載されている。 また、原審の拒絶理由通知にも引用された、特開平9-179323公報(段落【0014】、【0035】等参照)、及び、特開平8-194323号公報(段落【0008】、【0028】等参照)にも示されるように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる無切削管を研磨することにより、Raが0.04?0.5μm、Rmaxが2.5μm程度に粗面化することはよく知られている。 してみると、感光体の支持体を粗面化処理する際に、アルミニウムからなる無切削管をブラスト処理あるいは研磨処理することは、通常採用される手段であるから、上記相違点は、当業者が適宜行う設計的事項にすぎない。 そして、本願明細書において、「【0049】 本発明によれば、導電性支持体の表面粗さRmax の値が小さくなくとも、干渉縞の生じない良好な感光体を得ることが出来る。また、表面粗さRmax の値を小さくしなくてもよいことから、ブラスト処理等に使用される粒子の径を小さくする必要がなく、その分加工時間を抑えることができ、結果として安価で良好な感光体を得ることが出来る。特に、コヒーレント光を使用し画像を形成する際においても、本発明の感光体を使用すれば光学干渉による干渉縞等の画像欠陥を発生しない。」とする効果に関して、Rmax の範囲は、刊行物2にも示唆されているように、導電性支持体上に形成する下引層や、感光層の構成とも関連して選択されるものであり、電子写真用感光体の設計に当り、適宜、吟味選択されるものである。 さらに、本願発明で規定するRmax、Raの範囲は、刊行物2に加えて、前出の特開平9-179323公報、及び、特開平8-194323号公報にも記載されるとおり、当該技術分野において何ら特異な範囲ではないから、それによる干渉縞の抑制という効果についても、予測し得る程度のものであって、格別のものではない。 よって、前記相違点に係る構成の変更は、刊行物1乃至2に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に為し得たことである。 5.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、刊行物1乃至2に記載された発明及び周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-12-19 |
結審通知日 | 2008-12-24 |
審決日 | 2009-01-07 |
出願番号 | 特願2002-91474(P2002-91474) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菅野 芳男 |
特許庁審判長 |
赤木 啓二 |
特許庁審判官 |
淺野 美奈 伏見 隆夫 |
発明の名称 | 電子写真感光体及び画像形成装置 |
代理人 | 長谷川 曉司 |