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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1193228
審判番号 不服2005-19480  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-07 
確定日 2009-02-24 
事件の表示 特願2001-573085「紡織繊維、織物および布の仕上げ処理」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月11日国際公開、WO01/75216、平成15年10月 7日国内公表、特表2003-529673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年4月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年4月4日(CH)スイス連邦共和国、2000年6月16日(CH)スイス連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成16年9月17日付けで手続補正書が、平成17年5月30日付けで誤訳訂正書と手続補正書が提出されたが、同年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月4日付けで手続補正がなされ、平成19年3月13日付けで平成17年11月4日付けの手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶理由が通知され、平成19年10月2日付けで誤訳訂正書が、同月3日付けで意見書及び手続補正書が、同月5日付けで手続補足書が、同年11月12日付けで上申書が提出され、さらに、平成20年5月30日付けで上申書が、同年6月2日付けで手続補足書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?18に係る発明は、平成17年5月30日付け及び平成19年10月2日付けで提出された誤訳訂正書により訂正され、並びに平成16年9月17日付け、平成17年5月30日付け及び平成19年10月3日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、特許請求の範囲には次の記載がされている。

「 【請求項1】 紡織繊維または布、および担体材料上の撥水性仕上げ処理層または撥油性仕上げ処理層を含む繊維製品において、上記仕上げ処理層が少なくとも2成分を有し、その第一の成分が少なくとも1種類の分散剤を含有しそして第二成分が少なくとも1種類の分散された相を含み、該分散される層が少なくとも1種類のコロイドを含み、分散剤および分散された相がゲル状態で存在しそして分散された相のコロイドがゲスト-成分として、該コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮される様に、ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布していることを特徴とする、繊維製品。
【請求項2】 担体材料と撥水性仕上げ処理層または撥油性仕上げ処理層との間にプライマー層を追加的に有し、該プライマー層が撥水性仕上げ処理層または撥油性仕上げ処理層の接着および結合を改善している、請求項1に従う繊維製品。
【請求項3】 繊維材料が天然の材料を含有しそしてプライマー層が繊維材料に関して膨潤低下性でそして架橋性の成分を含有する、請求項2に記載の繊維製品。
【請求項4】 担体材料が合成-および再生繊維、織物または布よりなりそしてプライマー層が変性された担体材料表面または架橋した天然または合成の、水酸基、カルボニル基、アミノ基またはチオール基含有ポリマーで形成されている、請求項2に記載の繊維製品。
【請求項5】 繊維、織物および布よりなるグループから選択される繊維担体材料に撥水性または撥油性仕上げ処理層を適用する方法において、少なくとも1種類の分散剤および少なくとも2種類の成分を含む分散された相を含む分散物を担体材料に適用し、その際に該分散された相が少なくとも1種類のコロイドを含み、そして該分散剤および該分散された相がゲル状態で存在しそして分散された相のコロイドがゲスト-成分として、該コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮される様に、ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布しており;そして該担体材料を乾燥し、分散物をゾル状態からゲル状態に変換する各段階を含むことを特徴とする、上記方法。
【請求項6】 仕上げ処理層を約5%の乾燥度まで乾燥する、請求項5に記載の仕上げ処理法。
【請求項7】 上記分散物を、疎水性分散剤を水中に乳化して油/水-型エマルジョンを生成しそして次いでその中に、分散された相を乳化することによって製造する、請求項5に記載の仕上げ処理法。
【請求項8】 仕上げ層の適用前に担体材料にプライマー層を適用する段階を追加的に含み、該プライマー層が撥水性または撥油性仕上げ処理層の接合性を改善する、請求項5に記載の仕上げ処理法。
【請求項9】 反応性基を、担体材料に撥水性または撥油性仕上げ処理層を共有結合させるために与え、該反応性基が担体材料に直接的にまたはプライマー層を介して間接的に結合させる、請求項5に記載の仕上げ処理法。
【請求項10】 担体材料が木綿物質でありそしてプライマー層が担体材料中に含浸される架橋剤含有溶液よりなり、プライマー層を形成し、木綿繊維中に水が侵入するのを防止しそしてそれによって繊維の膨潤を最小限にする、請求項8に記載の仕上げ処理法。
【請求項12】 プライマー層が部分的にエーテル化されたヘキサメチロールメラミン誘導体またはジメチロールエチレン尿素誘導体を含有する、請求項11に記載の仕上げ処理法。
【請求項13】 担体材料が繊維、織物および布よりなるグループから選択される合成または再生物質であり、該担体材料ポリマーの表面が変性されて、結合した水酸基またはカルボニル基を含む、請求項9に記載の仕上げ処理法。
【請求項14】 担体材料がポリエステル材料でありそしてその表面が0.01?1%の部分鹸化度で変性されている、請求項13に記載の仕上げ処理法。
【請求項15】 担体材料が繊維、織物および布よりなるグループから選択された合成または再生材料でありそして担体材料に反応性基含有ポリマーを適用しそして該ポリマーを架橋することによってプライマー層を形成し、ポリマーに間接的に結合した水酸基、カルボニル基、アミノ基および/またはチオール基を担体材料の表面で生じさせる、請求項9に記載の仕上げ処理法。
【請求項16】 反応性基含有ポリマーを多糖類、リグニン、ポリビニルアルコールよりなるグループから選択しそして架橋をイソシアネートおよびα-アミル化生成物のグループから選択される化合物によって行う、請求項15に記載の仕上げ処理法。
【請求項17】 分散物が少なくとも1種類の分散剤、分散された相および少なくとも1種類の結合剤を含む、請求項9に記載の仕上げ処理法。
【請求項18】 適用すべき分散物が、分散剤、およびバインダー水溶液中に乳化された分散された相を含有するエマルジョンを含有する、請求項17に記載の仕上げ処理法。」
(審決注:特許請求の範囲には、請求項11が記載されていない。)

第3 当審で通知した拒絶の理由の概要
当審で通知した拒絶理由は、「本件出願は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 」というものであって、具体的には、次に示す理由1、理由2を含むものである。
(本願に関する記載は、平成19年10月2日付け誤訳訂正及び同月3日付け手続補正前のものである。)

理由1:特許法第36条第6項第1号
明細書の段落【0014】?【0017】の記載からすると、「分散された相と分散剤の自己組織化」が本願発明の特徴点であり、かつ、技術的に重要な点であると考えられるところ、請求項1?35には、このための「特別の分散された相と特別の分散剤との組み合わせ」を発明特定事項として記載していないため、これらの請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載するところの課題を解決することができるとは認めることができず、したがって、請求項1?35に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 (平成19年3月13日付け拒絶理由通知の理由a))

理由2:特許法第36条第4項
請求項1には、「分散剤および分散された相がゲル状態で存在」すること、「分散された相のコロイドが分散剤中に異方性に分布」していること、その結果「コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されて存在」していること、「仕上げ処理層と周囲雰囲気との間に仕上げ処理層の面を形成」していることが発明特定事項として記載されているが、発明の詳細な説明には、どのような物質を用いてどのような条件を調整すれば上記の現象が生じるのかについて、わかりやすく説明されておらず、また、確認もされていないので、本願の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。請求項2?35に係る発明についても同様である。(同理由b)、c))
また、実施例1?8には、本願のすべての請求項に係る発明の発明特定事項である、「分散剤および分散された相がゲル状態で存在」すること、「分散された相のコロイドが分散剤中に異方性に分布」していること、「コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されて存在」していること、「仕上げ処理層と周囲雰囲気との間に仕上げ処理層の面を形成」していることについて、データをともなって記載されていないから、これらの実施例によっても、本願発明の発明特定事項が実際にそのとおりであることを具体的に確認できず、したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。(同理由g)(エ))

第4 当審の判断
(本願に関する記載は、平成19年10月2日付け誤訳訂正及び同月3日付け手続補正後のものである。)
1.特許法第36条第6項第1号について
(1)請求項1に係る特許を受けようとする発明、すなわち、請求項1に係る発明
請求項1に係る発明は、上記「第2」の【請求項1】に記載したとおり、
「紡織繊維または布、および担体材料上の撥水性仕上げ処理層または撥油性仕上げ処理層を含む繊維製品において、上記仕上げ処理層が少なくとも2成分を有し、その第一の成分が少なくとも1種類の分散剤を含有しそして第二成分が少なくとも1種類の分散された相を含み、該分散される層が少なくとも1種類のコロイドを含み、分散剤および分散された相がゲル状態で存在しそして分散された相のコロイドがゲスト-成分として、該コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮される様に、ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布していることを特徴とする、繊維製品。」であるところ、これを分節すると、
「(a)紡織繊維または布、および担体材料上の撥水性仕上げ処理層または撥油性仕上げ処理層を含む繊維製品において、
(b)上記仕上げ処理層が少なくとも2成分を有し、
(c)その第一の成分が少なくとも1種類の分散剤を含有し
(d)そして第二成分が少なくとも1種類の分散された相を含み、
(e)該分散される層が少なくとも1種類のコロイドを含み、
(f)分散剤および分散された相がゲル状態で存在し
(g)そして分散された相のコロイドがゲスト-成分として、
(h)該コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮される様に、ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布している
(i)ことを特徴とする、繊維製品。」
となる。

(2)発明の詳細な説明に記載したもの
本願発明の属する技術分野は、「撥水性および撥油性紡織繊維および布並びに紡織繊維、織物および布の仕上げ処理法」に関するものであって(本願明細書の段落【0001】)、その課題は、「繊維の特に撥水および撥油処理の為の新規の仕上げ処理法を実現」することであり(同【0010】)、その具体的手段は、「仕上げ処理成分の空間的自己組織化を可能とする”ゲスト-ホスト”系として分散物系を使用することである。”ゲスト”-成分および”ホスト”-成分(それぞれ分散された相および分散剤)の自己組織化によって、仕上げ処理層内の”ホスト”-成分の内部に”ゲスト”-成分(即ち分散された相)が異方性的に分布され、ゲスト”成分は完成仕上げ処理層中におよび仕上げ処理層の表面の所に集中しており、適用された仕上げ処理層とその周囲雰囲気との間の相界面のところの物理的、化学的および物理化学的性質がそれによって支配されている」(同【0014】)ものである。
そこで、「”ゲスト-ホスト”系」について検討するに、本願明細書に「ゲスト」がどのようなものであり、「ホスト」がどういうものであるかという明確な定義はなされていないところ、一般的に、「ホスト」と「ゲスト」の関係は、「ホスト分子が形成する空間にゲスト分子が弱い相互作用によって取り込まれている。」(塩川二朗監修、「MARUZEN カーク・オスマー化学大辞典」、昭和63年9月20日、丸善株式会社発行、1288頁、「包接」の項)ものであり、また、「単独の分子または分子集合体が、規則的に連続してできる三次元的な空間に、他の原子や分子が、一定の組成比で包み込まれた構造の物質をいう。空間を与える側の物質をホスト化合物、取り込まれる物質をゲスト化合物と呼んでいる。」(高分子学会、高分子辞典編集委員会編、「新版高分子辞典」、1991年8月10日、株式会社朝倉書店発行、430頁、「包接化合物」の項)ものであって、ゲストとホストは、両者の組み合わせによって定まるものであり、この化合物はゲストであり、この化合物はホストである、というように単独でその性質を有するものではない。
そうしてみると、本願明細書に、本願発明における「”ゲスト-ホスト”系」、すなわち分散された相と分散剤の組み合わせの一般的な代表例について説明されておらず、また、一般的に、どのような性状のものを組み合わせれば本願発明で有用とされる「空間的自己組織化を可能とする”ゲスト-ホスト”系」が形成されるかについても説明されていない以上、本願明細書に記載された「”ゲスト-ホスト”系」とは、実施例1?8に具体的に記載された、「特別の分散された相と特別の分散剤とを組み合わせたもの」のみ、と解さざるを得ない。

(3)「請求項1に係る発明」と「発明の詳細な説明に記載したもの」との対比
そこで、「請求項1に係る発明」と「発明の詳細な説明に記載したもの」とを対比すると、上記(1)で分節した請求項1に係る発明において、(d)、(e)、(g)が「ゲスト」を表し、(c)が「ホスト」を表し、(b)、(f)、(h)が両者を説明していることは明らかであって、これらの「ゲスト」及び「ホスト」に関する請求項1の記載内容が、発明の詳細な説明の実施例1?8に具体的に記載された、「特別の分散された相と特別の分散剤とを組み合わせたもの」である「ゲスト」又は「ホスト」の範囲を超えていることは明らかである。
そして、上記のとおり、「ゲスト」と「ホスト」はその組み合わせで決まるものであるから、実施例1?8に具体的に記載された「特別の分散された相と特別の分散剤とを組み合わせたもの」を、請求項1に記載される範囲まで、拡張ないし一般化できるということはできない。

(4)まとめ
そうしてみると、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものを超えているから、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、したがって、本願は特許法第36条第6項第1号に適合しない。

2.特許法第36条第4項について
(1)当業者がその実施をすることができる程度、について
請求項1の記載は、上記「1.(1)」に示したとおりであるから、請求項1に係る発明を当業者が実施をするためには、発明の詳細な説明に以下の記載がされていることが必要であるといえる。
1)分節(c)に挙げられた、「第一の成分」及びこれに含有されている「分散剤」が具体的にどのようなものであるか、記載されていること。
2)分節(d)に挙げられた、「第二成分」及びこれに含まれている「分散された相」が具体的にどのようなものであるか、記載されていること。
3)分節(e)に挙げられた、「コロイドを含むこと」が確認できること。
4)分節(f)に挙げられた、「分散剤および分散された相がゲル状態で存在すること」が確認できること。
5)分節(g)に挙げられた、「分散された相のコロイドがゲスト-成分であること」が確認できること。
6)分節(h)に挙げられた、「コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されていること」が確認でき、「ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布していること」が確認できること。

(2)上記1)?6)に対応する、実施例以前の段落【0030】までの、発明の詳細な説明の記載
1)、2)について
本願明細書の段落【0015】には、「分散物系の水性相中のゲル形成性添加物、例えば高分子量の可溶性多糖類または極性の架橋性成分、例えばグリセリンおよびメトキシメチロール化尿素誘導体によって、上記の自己機能化に平行して織物上での膜形成が生じる。」旨、記載され、同【0027】には、「ポリマーバインダーまたはゲル形成剤は、架橋性の重縮合ホルムアルデヒド樹脂(Luwipal 66、製造元: BASF社) またはそれの個々の成分、プレポリマーのアクリル酸-またはメタクリル酸誘導体、イソシアネート、ポリウレタン等を多重反応性基を持つ化合物、例えば多糖類、グリセリンまたはゼラチン併用してもよい。」と記載され、これらはいずれも、「第一の成分」に含有される「分散剤」と考えられるから、1)は、発明の詳細な説明に記載されている。
段落【0028】には、「撥水性化主要成分(エキステンダーとも称する)として、熱処理および相応する触媒により耐洗濯性に、繊維製品上に固定されるモノマーのまたはプレポリマーの、あるいは予備重合されているが常に脂肪変性された非極性のアクリレート、メタクリレート、イソシアネートまたはエポキシ誘導体および尿素誘導体を使用することができる。」、同【0029】には、「固定プロセスの間に相界面(固体/気体)に対して拡散しそして撥水性効果または撥油性効果に有利な位置で固定される高沸点で非極性の液体としては特にシリコーン油、脂肪変性されたエステル、エーテルまたはアミド(例えばグリセリンエステルおよび-エーテル、ソルビタンエステルおよび-エーテルを挙げることができる。
- 別のグループには固体として撥水性-または撥油性エマルジョン中に分散されそして続く熱的固定の間に全部または一部だけ溶融しそして所望の効果によってその物理的性質を持つ相界面を主体とさせる脂肪酸エステル、アルキルエーテル(C_(12)?C_(25))および例えば重縮合された脂肪酸アミドがある。」、同【0030】には、「- 第三のグループは柱状構造を形成する物質を包含する。これらには例えば微小化ワックス(粒度0.1?50μm、好ましくはほぼ20μm)、例えばポリオレフィン-および脂肪酸アミドワックス並びに脂肪変性されたアミノアルキル化生成物としてのワックスおよび疎水性二酸化珪素粒子(粒度:5?100nm)、好ましくは5?50nmの粒度を有するナノ粒子が挙げられ、これらも同様に撥水性化または撥油性化浴液中に分散されそして次いで仕上げ処理層中に固定される。かゝる物質の例には特に有利に使用される Ceridust-ワックス(Clariant)またはアエロジル(Aerosile)(Degussa) がある。」と記載され、これらはいずれも、「第二成分」に含まれている「分散された相」と考えられるから、2)は、発明の詳細な説明に記載されている。

3)?6)について
しかしながら、3)?6)に示した、「コロイドを含むこと」、「分散剤および分散された相がゲル状態で存在すること」、「分散された相のコロイドがゲスト-成分であること」、「コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されていること」、コロイドが「ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布していること」、については、そのようになる旨の記載があるのみで、確認方法についても確認結果についても、何ら説明されておらず、自明ということもできない。

(3)上記1)?6)に対応する、実施例に関する段落【0031】以降の、発明の詳細な説明の記載
1)、2)について
実施例1の「グリセリンモノオレエート(分散剤)」、実施例2の「トリパルミチン(分散剤)」、実施例3の「メタクリル酸ドデシルエステル(分散剤)」、実施例5の「トリパルミチン(分散剤)」、実施例7の「ソルビタンモノラウレート(Span 20)(分散剤)」なる記載からして、これらの物質は分散剤として用いられているものであるが、これらのエステルは、上記「(2)」に示したように、段落【0028】や【0029】の記載によれば、「分散された相」と考えられるから、実施例に1)、2)の内容は記載されているものの、それは、発明の詳細な説明の段落【0028】及び【0029】の記載内容と一致していない。
また、上記の実施例中のエステル類が、「分散剤」としても「分散された相」としても用いられるものであるなら、当然に「何と組み合わせて用いるときは、分散剤としての作用であって、何と組み合わせて用いるときは、分散された相としての作用である」なる条件設定が必要であるところ、そのような条件は何ら記載されていない。

3)?6)について
実施例1?8には、撥水性化浴液、撥油性化浴液の組成、織物への適用方法、効果について記載されているが、3)?6)に示した、「コロイドを含むこと」、「分散剤および分散された相がゲル状態で存在すること」、「分散された相のコロイドがゲスト-成分であること」、「コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されていること」、コロイドが「ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布していること」、については、何らの説明もなく、これらの状態であることを示唆するデータも記載されていない。また、所定の撥水・撥油効果が奏されれば3)?6)の状態である、ということが自明であるということもできない。

(4)まとめ
そうしてみると、具体的に実施例1?8を検討しても、発明の詳細な説明の記載内容からしても、請求項1に記載された事項のうち、「コロイドを含むこと」、「分散剤および分散された相がゲル状態で存在すること」、「分散された相のコロイドがゲスト-成分であること」、「コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されていること」、コロイドが「ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布していること」、については、十分なデータも説明も示されていないとせざるを得ないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、したがって、本願は特許法第36条第4項の規定に違反する。
さらに、グリセリンモノオレエート、トリパルミチン、メタクリル酸ドデシルエステル、ソルビタンモノラウレートについては、実施例の記載内容と、段落【0028】、【0029】の記載内容とが一致しておらず、これらの化合物については、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、したがって、この点においても、本願は特許法第36条第4項の規定に違反する。

3.請求人の主張
(1)主張内容
1)請求人は、平成19年10月3日付けで手続補正書とともに提出した意見書において、理由1について、次の主張をしている。
「そこで請求人は、分散された相がゲスト成分であり、分散剤がホスト成分であり、そしてこれらがゲスト-ホスト系を構成することを請求項1において明確にしました。これによってこの問題は解消しました。」

2)また、請求人は、同意見書において、理由2について、次の主張をしている。
「実施例7及び8においてゲスト-ホスト系の形成によって、『分散された相のコロイドが分散剤中に異方性に分布』すること及び『コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されて存在』すること、その結果『コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されて存在』することが実例を持って説明されており、結果的に『仕上げ処理層と周囲雰囲気との間に仕上げ処理層の面を形成』することも説明されているのです。
『分散剤および分散された相がゲル状態で存在』することにつきましては、実施例1においてゲル形成剤としてグアが記載されており、これがホスト成分のポリアクリレート水性分散物(Perapret HVN)とゲスト成分のグリセリンモノオレエートと混合されており、分散剤と分散された相とがゲル状態で存在する状態が存在することを明らかに示しています。実施例3及び6においても、ゲル形成剤のグアが使用されております。
その他の実施例については、前述した実験成績証明書に基づいて説明するつもりです。」
「ゲスト-ホスト系を説明する実施例7及び8については、説明できることではありますが、他の実施例1?6については、現在の状態では説明困難です。そこで請求人は、既にお願いしました通り、各実施例についての実験成績証明書を持ってこれらを明示したいと思っております」

(2)請求人の主張に対する当審の見解
1)上記「(1) 1)」について、「分散された相がゲスト成分であり、分散剤がホスト成分であ」るとすることは単に言葉を言い換えたに過ぎないものであって、何ら技術的に明確にしたことにはならないから、該請求人の主張は採用できない。
そして、本願が特許法第36条第6項第1号に適合しないことは、上記「1.(1)?(4)」に示したとおりである。

2)上記「(1) 2)」について、実施例1?8を検討しても、発明の詳細な説明の記載内容からしても、請求項1に記載された事項のうち、「コロイドを含むこと」、「分散剤および分散された相がゲル状態で存在すること」、「分散された相のコロイドがゲスト-成分であること」、「コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されていること」、コロイドが「ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布していること」、については、十分なデータも説明も示されておらず、本願が特許法第36条第4項の規定に違反することは、上記「2.(1)?(4)」に示したとおりである。

3)ところで、請求人が主張するところの、「実験成績証明書」とは、平成20年6月2日付けの手続補足書において「参考資料1」として提出された実験成績証明書と認められるから、これについて検討する。
(ア)実験成績証明書の内容
「実験成績証明書の翻訳文」と題された参考資料に記載された項目を列挙すると次のとおりである。
「(1頁目)
実験報告書
(2頁目)
実施のための宣誓
実験目録
1.ナノ被覆物の種類の特定
2.ナノ被覆物の光学的評価
3.特徴的な液での接触角測定により仕上げ処理効果の定量的測定
(3頁目)
4.ナノ仕上げ処理物の摩擦耐久性測定
5.家庭での洗濯に対する洗浄耐久性の測定
(4頁目)
結果
1.ナノ被覆物の種類の決定
2.ナノ被覆の光学的評価
(7頁目)
3.特徴的な液体での接触角測定により仕上げ処理効果の定量的測定
4.ナノ仕上げ処理物の耐摩耗性の測定
(8頁目)
5.家庭での洗浄に対する洗濯耐久性の測定
(11頁目)
6.皮膚親和性/細胞毒性
7.水蒸気透過抵抗R_(et)
(12頁目)
総合評価」

(イ)実験成績証明書の検討
この実験成績証明書が、どのようなサンプルについて実験を行ったものであるのかについては、当該実験成績証明書には記載されていないが、平成20年5月30日付けで提出された上申書には、「実験したサンプルは、本願の実施例4のサンプルに相当するものです。」と説明されている。
そこで、一応、本願の実施例4のサンプルを実験したものとして、上記「2.(1)」に示した項目中の、「コロイドを含むこと」、「分散剤および分散された相がゲル状態で存在すること」、「分散された相のコロイドがゲスト-成分であること」、「コロイドが仕上げ処理層の表面の領域に濃縮されていること」、コロイドが「ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布していること」がわかるかについて、検討する。
実験成績証明書の「結果 1.ナノ被覆物の種類の決定」の項に、「本発明のサンプルの仕上げ処理の際にゾル-ゲル被覆とフロロカーボン仕上げ処理の組み合わせが適している。」と説明され、また、「結果 2.ナノ被覆の光学的評価」の項及び上記上申書に「該証明書の第4頁には、仕上げ処理層とその周りの雰囲気との間の相境界を形成するナノスケール構造が2000倍及び4000倍の拡大写真で示されています。」と説明されていることからすると、「仕上げ処理層と周囲雰囲気との間に仕上げ処理層の面を形成」しており、ゲル状態が存在していることはわかるものの、「コロイドを含むこと」、「分散された相のコロイドがゲスト-成分であること」、コロイドが「ホスト成分としての分散剤中に該分散剤とゲスト-ホスト系を構成して異方性に分布していること」、については、依然として不明である。

(ウ)まとめ
したがって、実験成績証明書を検討しても、当審の上記「1.」、「2.」の検討内容及び検討結果に変わりはない。

4)また、請求人は、平成19年10月5日付け及び平成20年6月2日付けで手続補足書を提出しているので、これについても検討する。
平成19年10月5日付け手続補足書において、参考資料1?8が提出され、平成20年6月2日付け手続補足書において、参考資料1として「ホヘンスタイン研究所の実験成績証明書及びその訳文」が、参考資料2として「平成19年10月3日付けで提出した意見書に添付の参考資料1?8の部分訳」が提出された。
ところで、平成20年6月2日付け手続補足書において参考資料1として提出された「ホヘンスタイン研究所の実験成績証明書及びその訳文」については、上記「3)」で既に検討した。
また、平成19年10月5日付け手続補足書において提出された参考資料1?8を検討することは、実質的には、平成20年6月2日付け手続補足書において提出された参考資料2を検討することであるから、ここでは、平成20年6月2日付けで提出された参考資料2を検討すれば足るところ、該参考資料2は、商品名で示されたものが具体的にどのような物質であるかを示すものであるので、該参考資料2を検討しても、当審の上記「1.」、「2.」の検討内容及び検討結果に変わりはない。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願は、特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていないから、その余のことを検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-07 
結審通知日 2008-09-02 
審決日 2008-09-17 
出願番号 特願2001-573085(P2001-573085)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C09K)
P 1 8・ 537- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智中村 浩  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
鈴木 紀子
発明の名称 紡織繊維、織物および布の仕上げ処理  
代理人 江崎 光史  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 奥村 義道  
代理人 三原 恒男  

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