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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1193237
審判番号 不服2006-26641  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-27 
確定日 2009-02-23 
事件の表示 特願2000-111123「電子写真感光体、それを用いた電子写真方法、電子写真装置および電子写真装置用プロセスカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月26日出願公開、特開2001-296681〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年4月12日の出願であって、平成18年10日12日付けでなされた拒絶査定に対し、同年11月27日付けで審判請求がなされるとともに、同年12月19日付けで手続補正書が提出されたもので、その後、当審において、平成20年10月1日付けで、平成18年12月19日付けの手続補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶理由の通知がなされ、これに対し、同年11月27日付けで手続補正書が提出されたものである。

本願の請求項1?12に係る発明は、平成20年11月27日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】 導電性支持体上に少なくとも、平均粒径の異なる、酸化チタンとシリカからなる二種の無機化合物を含有する中間層、電荷発生層、電荷輸送層を順次形成してなる電子写真感光体において、上記中間層はアルキッド樹脂とメラミン樹脂を含有するとともに、該中間層に含まれる無機化合物の一方の平均粒径をD_(1)とし、他方の無機化合物の平均粒径をD_(2)とした場合、D_(2)/D_(1)≦1/5の関係を満たし、かつ導電性基体より最も離れた表面側からの少なくとも1層に、高分子電荷輸送物質を含有するものであり、該高分子電荷輸送物質が、下記一般式(1)で表わされることを特徴とする電子写真感光体。
【化1】


(式中、R_(1)、R_(2)、R_(3)はそれぞれ独立して置換もしくは無置換のアルキル基又はハロゲン原子、R_(4)は水素原子又は置換もしくは無置換のアルキル基、R_(5)、R_(6)は置換もしくは無置換のアリール基、o、p、qはそれぞれ独立して0?4の整数、k、jは組成を表わし、0.1≦k≦1、0≦j≦0.9、nは繰り返し単位数を表わし5?5000の整数である。Xは脂肪族の2価基、環状脂肪族の2価基、または下記一般式で表わされる2価基を表わす。
【化2】


式中、R_(101)、R_(102)は各々独立して置換もしくは無置換のアルキル基、アリール基またはハロゲン原子を表わす。l、mは0?4の整数、Yは単結合、炭素原子数1?12の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキレン基、-O-、-S-、-SO-、-SO_(2)-、-CO-、-CO-O-Z-O-CO-(式中Zは脂肪族の2価基を表わす。)または、
【化3】


(式中、aは1?20の整数、bは1?2000の整数、R_(103)、R_(104)は置換または無置換のアルキル基又はアリール基を表わす。)を表わす。ここで、R_(101)とR_(102)、R_(103)とR_(104)は、それぞれ同一でも異なってもよい。)

2.引用例記載の発明
これに対して、当審において通知した拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物1(特開平11-327180号公報)、及び、刊行物2(特開平3-146958号公報)には、以下に摘示する事項が記載されている。 (なお、下線は当審で付した。)

〔刊行物1の記載事項〕
(1a)「【請求項1】導電性基体上に感光層を有する電子写真用感光体において、導電性基体より最も離れた表面側から少なくとも1層に、高分子電荷輸送物質及び金属セッケンからなる潤滑剤を含有することを特徴とする電子写真用感光体。
【請求項2】 前記、導電性基体より最も離れた表面側から少なくとも1層に、潤滑剤とともに含まれる高分子電荷輸送物質が下記(1)式で表されることを特徴とする請求項1に記載の電子写真用感光体。


・・・(1)
式中、R_(1)、R_(2)、R_(3)はそれぞれ独立して置換若しくは無置換のアルキル基又はハロゲン原子、R_(4)は水素原子又は置換若しくは無置換のアルキル基、R5、R6は置換若しくは無置換のアリール基、o、p、qはそれぞれ独立して0?4の整数、k、jは組成を表わし、0.1≦k≦1、0≦j≦0.9、nは繰り返し単位数を表わし5?5000の整数である。Xは脂肪族の2価基、環状脂肪族の2価基、又は下記一般式で表わされる2価基を表わす。


式中、R_(101)、R_(102)は各々独立して置換若しくは無置換のアルキル基、アリール基又はハロゲン原子を表わす。l、mは0?4の整数、Yは単結合、炭素原子数1?12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキレン基、-O-、-S-、-SO-、-SO_(2)-、-CO-、-CO-O-Z-O-CO-(式中Zは脂肪族の2価基を表わす。)または、


(式中、aは1?20の整数、bは1?2000の整数、R_(103)、R_(104)は置換又は無置換のアルキル基又はアリール基を表わす。)を表わす。ここで、R_(101)とR_(102)、R_(103)とR_(104)は、それぞれ同一でも異なってもよい。」(特許請求の範囲)
ここで、上記「(1)式」を以下「刊行物1記載の一般式(1)」という。

(1b)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、この高性能、長寿命、高信頼性を高いレベルで達成する有機系電子写真用感光体を提供することにあり、特に画質再現性、耐摩耗性に優れ、耐久性及び光感度に優れた有機系電子写真用感光体を提供することにある。」(段落【0013】)

(1c)「本発明に用いられる電子写真感光体には、導電性支持体(21)と感光層(23)(積層タイプの場合には、電荷発生層(31))との間に下引き層(25)を設けることができる。下引き層(25)は、接着性を向上する、モアレなどを防止する、上層の塗工性を改良する、残留電位を低減するなどの目的で設けられる。下引き層(25)は一般に樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤を用いて塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶解性の高い樹脂であることが望ましい。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、アルキッド-メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂などが挙げられる。また、酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物、あるいは金属硫化物、金属窒化物などの微粉末を加えてもよい。これらの下引き層は、前述の感光層の場合と同様、適当な溶媒、塗工法を用いて形成することができる。」(段落【0145】)

(1d)「実施例1
φ30mmのアルミニウムドラム上に、下記組成の下引き層用塗工液、電荷発生層用塗工液、電荷輸送層用塗工液を順次、塗布、乾燥することにより、3.5μmの下引き層、0.2μmの電荷発生層、25μmの電荷輸送層を形成して、本発明の電子写真感光体を得た。
(下引き層用塗工液)
アルキッド樹脂 6部
(ベッコゾール 1307-60-EL、大日本インキ化学工業製)
メラミン樹脂 4部
(スーパーベッカミン G-821-60、大日本インキ化学工業製)
酸化チタン 40部
メチルエチルケトン 200部
(電荷発生層用塗工液)
オキソチタニウムフタロシアニン顔料 2部
ポリビニルブチラール(UCC:XYHL) 0.2部
テトラヒドロフラン 50部
(電荷輸送層用塗工液)
ステアリン酸亜鉛 0.3部
塩化メチレン 100部
下記構造の高分子電荷輸送物質 10部


」(段落【0158】?【0161】)

ここで、刊行物1でいう「下引層」が「中間層」であることは、その設置状態及び技術常識に基づいて明らかである。

したがって、これらの摘示事項を含む全体の記載からみて、
刊行物1には、「導電性基体上に少なくとも、酸化チタンからなる無機化合物を含有する中間層、電荷発生層、電荷輸送層を順次形成してなる電子写真感光体において、該中間層はアルキッド樹脂とメラミン樹脂を含有し、導電性基体より最も離れた表面側からの少なくとも1層に、高分子電荷輸送物質を含有するものであり、該高分子電荷輸送物質が、刊行物1記載の一般式(1)で表わされる電子写真感光体。」の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

〔刊行物2の記載事項〕
(2a)「支持体と感光層との間に光干渉防止中間層を設けてなる電子写真感光体において、該光干渉防止中間層が平均粒径が0.2?0.5μmの無機粉体と平均粒径0.05μm以下の超微粒子無機粉体とを樹脂中に分散させたことを特徴とする電子写真感光体。」(【請求項1】)

(2b)「その目的は、光の干渉による濃度ムラの発生を防止した電子写真感光体を提供することを解決すべき課題とするものである。」(第2頁左上欄第17?20行)

(2c)「本発明に用いる超微粒子無機粒子の粒径は共に分散させる他の無機粉体の粒径より小さいほど効果が高く、0.05μm以下であることが、必要である。これ以上になると光の干渉防止に対する十分な効果が得られない。
中間層中に分散する平均粒径0.2?0.5μmの無機粉体としては、一般に用いられる粉体でよいが、近赤外光に吸収のほとんどない白色、またはこれに近いものが高感度化を考えた場合に望ましい。このような粉体としては、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、アルミナ、シリカに代表されるような金属酸化物などが挙げられ、吸湿性がなく環境変動の少ないものが望ましい。
超微粒子無機粉体としては、シリカ、酸化マグネシウム、アルミナ、窒化はう素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ等を挙げることができる。」(第2頁左下欄第1?18行)

(2d)「実施例1
アルキッド樹脂〔ベッコーゾルTD-50-30(大日本インキ化学工業製)〕100gとメラミン樹脂〔ベッカミンP-138(大日本インキ化学工業製)〕70gとをメチルエチルケトン300gに溶解し、これに平均粒径0.25μmの酸化チタン微粉末〔TP-2(富士チタン工業製)〕572gと平均粒径0.02μmの超微粒子シリカ〔130(日本アエロジル製)〕16gとを加え、ボールミルで24時間分散し、更にメチルエチルケトン180gを加えて希釈し、中間層用溶液を作成した。これを厚さ0.2mmのアルミニウム板〔A1080(住友軽金属社製)〕に塗布し、150℃、20分乾燥し、厚さ2μmの中間層を形成した。」(第4頁左上欄第14行?右上欄第7行)

ここで、実施例1での、平均粒径0.25μmの酸化チタン微粉末と平均粒径0.02μmの超微粒子シリカにおける平均粒径比は、0.02μm/0.25μm=1/12.5である。また、実施例2,4も同じ比であり、実施例3は、0.04μm/0.25μm=1/6.25、実施例5は、0.01μm/0.5μm=1/50である。なお、実施例2?5も、実施例1同様に、大きい方の微粒子は酸化チタンで、小さい方の微粒子はシリカである。

(2e)「実施例6?10、比較例8?13
実施例1?5および比較例1?5、7における中間層用塗布液を、各々直径40mm、長さ250mmのアルミニウムドラムに塗布し、150℃、30分乾燥し、2μmの中間層を形成した。
次にブチラール樹脂〔XYSG(ユニオンカーバイト社製)〕5gをシクロへキサノン150gに溶解し、これに下記構造式(1)のトリスアゾ顔料10gを加えてボールミルにて48時間分散した。
更にシクロへキサノン250gを加え12時間分散した。これを固形分1.5重量%になるように撹拌しながら、シクロヘキサンで希釈した。こうして得られた電荷発生層用塗布液を前記中間層上に塗布し、130℃で30分乾燥し、厚さ0.3μmの電荷発生層を形成した。
次に下記構造式(II)の電荷輸送物質60g、ポリカーボネート樹脂〔パンライトL-1250(帝人化成社製))60g、シリコーンオイル(KF-50(信越化学工業製))0.01gを900gの塩化メチレンに溶解した。こうして得られた電荷輸送層塗布液を前記電荷発生層上に塗布し100℃で30分乾燥させ、厚さ22μmの電荷輸送層を形成し、中間層が各々実施例1?5および比較例1?5、7の中間層用塗布液からなる実施例6?10および比較例8?13の電子写真感光体を作成した。
以上のようにして得られた各々の電子写真感光体を像形成光に半導体レーザー(780nm)を用いたレーザープリンタLP1060-SP3 ((株)リコー製)改造機にて中間調画像を出力させ、光干渉による濃度ムラの評価を行なった。表1に結果を示す。」(第5頁左下欄第8行?第6頁左上欄第5行)(当審注:構造式(I),(II)の記載は省略する)

(2f) 表1によれば、中間層が平均粒径が0.2?0.5μmの無機粉体と平均粒径0.05μm以下の超微粒子無機粉体とを樹脂中に分散させてなる、各実施例により得られた感光体の画像評価結果は、いずれも濃度ムラが生じないことが記載されている。(第6頁表1)

これらの記載を含む全体の記載からみて、
刊行物2には、中間層として、平均粒径が0.2?0.5μmの無機粉体(実施例1?5では酸化チタン)と平均粒径0.05μm以下の超微粒子無機粉体(実施例1?5ではシリカ)とを樹脂中に分散させたものを用いる(そして、両者の平均粒径の比は、実施例1?5では、1/6.25、1/12.5、1/50であり、いずれも1/5以下である。)ことにより、干渉縞の発生を防止して、画像の濃度ムラが防止された電子写真感光体が得られること、が記載されているものと認められる。

3.対比・判断
本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の「導電性基体」「刊行物1記載の一般式(1)」は、それぞれ、本願発明1の「導電性支持体」「一般式(1)」に相当するから、
両者は、「導電性支持体上に少なくとも、酸化チタンの無機化合物を含有する中間層、電荷発生層、電荷輸送層を順次形成してなる電子写真感光体において、該中間層はアルキッド樹脂とメラミン樹脂を含有し、かつ導電性基体(導電性支持体)より最も離れた表面側からの少なくとも1層に、高分子電荷輸送物質を含有するものであり、該高分子電荷輸送物質が、一般式(1)で表わされる、電子写真感光体。」である点で一致し、
次の点で相違する。

〔相違点〕
本願発明1では、中間層に含まれる無機化合物が、平均粒径の異なる、酸化チタンとシリカからなる二種類の無機化合物であり、無機化合物の一方の平均粒径をD_(1)、他方の無機化合物の平均粒径をD_(2)とした場合、両者の比が、D_(2)/D_(1)≦1/5の関係を満たすことを規定するのに対し、
刊行物1記載の発明では、中間層に含まれる無機化合物が、酸化チタンのみの一種類である点。

以下、相違点について検討する。

まず、本願発明1で上記相違点の構成を採用することの技術的意義を確認すると、
明細書の【0148】【0147】には、「本発明で用いられる無機物質としては酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等の金属酸化物などが挙げられ、これらをボールミル等の粉砕方法を用いて微粉末にしたものが用いられる。本発明では導電性支持体上に平均粒径の異なる二種類の無機化合物を含む中間層を設け、この中間層に含まれる無機化合物のうち、一方の無機化合物の平均粒径をD_(1)とし、他方の無機化合物の平均粒径をD_(2)とした場合、D_(2)/D_(1)≦1/5の関係を満たせばよいが、好ましくは上記関係を満たす条件のうち、一方の無機化合物が平均粒径0.1μm以下、他方の無機化合物の平均粒径が1μm以下であることが好ましい。」との記載があるが、ここでは、平均粒径の異なる二種類の無機化合物が酸化チタンとシリカである場合に意味があることまでは記載されていない。
そこで、本願の実施例、比較例をみることとし、特に無機化合物に着目すると次のとおりである。なお、()内は平均粒径である。

実施例1:シリカ(0.04μm)、酸化チタン(0.4μm)、
[両者の粒径比D_(2)/D_(1)=1/10]
実施例2:シリカ(0.04μm)、酸化チタン(0.3μm)、
[両者の粒径比D_(2)/D_(1)=1/7.5]
実施例3:シリカ(0.04μm)、酸化チタン(0.25μm)、
[両者の粒径比D_(2)/D_(1)=1/6.25]
実施例4?12:実施例1と同様。
比較例1:無機化合物なし。
比較例2:シリカなし。酸化チタン(0.25μm)のみ。
比較例3:シリカ(0.04μm)のみ。酸化チタンなし。
比較例4:アルミナ(0.1μm)、酸化チタン(0.3μm)、
[両者の粒径比D_(2)/D_(1)=1/3]

そして、本願発明1では、無機化合物が酸化チタンとシリカからなることが規定されているが、D_(2)/D_(1)に関しては、「無機化合物の一方の平均粒径をD_(1)、他方の無機化合物の平均粒径をD_(2)とした場合、両者の比が、D_(2)/D_(1)≦1/5の関係を満たす」と規定するのみであり、D_(2)、D_(1) のそれぞれに該当するのは、酸化チタン、シリカのうちどちらであるかは限定されておらず、したがってどちらでもよい旨の規定であるといえるが、
実施例では、酸化チタンが大きい粒子D_(1)で、シリカが小さい粒子D_(2)であり、その場合に良好な評価結果が得られているのであり、その逆の、シリカが大きい粒子D_(1)で、酸化チタンが小さい粒子D_(2)である場合については、評価結果がどうなるかは不明である。
また、比較例において、大きい粒子D_(1)と小さい粒子D_(2)が併用されているのは、比較例4のみであるが、その比較例4は酸化チタンとアルミナの併用の例であり、酸化チタンとアルミナの併用ではD_(2)/D_(1)=1/3のときに評価結果がよくないことはわかるが、酸化チタンとシリカの併用でも、D_(2)/D_(1)=1/3のときに評価結果がよくないかどうかは不明というほかない。
したがって、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項については、作用効果が十分に確認されておらず、本願発明1は効果が不明確である範囲を含んでいるというべきであり、本願発明1のD_(2)/D_(1)≦1/5について、臨界的意義を認めることができない。

次に刊行物1,2の記載事項について検討すると、
刊行物1記載の発明において採用される下引き層(中間層)は、感光体支持体とその上に設けた感光層との接着性を向上する、上層の塗工性を改良する、残留電位を低減するなどの目的と共に、モアレ(干渉縞)を防止することを目的として設けられることが明記されている(1c)。
一方、刊行物2には、モアレ防止を目的として、支持体上に設ける中間層に、平均粒径の異なる、酸化チタンとシリカからなる二種の無機化合物を含有させ、それらの平均粒径が0.2?0.5μm及び0.05μm以下にするものが示されており(2a、2d)、これによりモアレを防止し、画像の濃度ムラを有効に防止する効果が得られること(2b,2e,2f)が記載されている。
ここで、刊行物2記載の、酸化チタンとシリカからなる二種の無機化合物の「平均粒径が0.2?0.5μm及び0.05μm以下」であるというは、本願の実施例で使用されている無機化合物の平均粒径を完全に包含するものである。しかも、刊行物2の実施例についてみても、次のとおり、シリカと酸化チタンの平均粒径、両者の粒径比(これは本願発明1の範囲に入っている。)はともに、本願の実施例で使用されているものにかなり近い値であることが理解される。
実施例1,2,4:シリカ(0.02μm)、酸化チタン(0.25μm )[両者の粒径比D_(2)/D_(1)=1/12.5]
実施例3:シリカ(0.04μm)、酸化チタン(0.25μm)
[両者の粒径比D_(2)/D_(1)=1/6.25]
実施例5:シリカ(0.01μm)、酸化チタン(0.5μm)
[両者の粒径比D_(2)/D_(1)=1/50]

そうしてみると、刊行物1記載の発明における下引き層(中間層)について、モアレ防止のために、同じ目的をねらった発明である刊行物2に記載された技術的事項を適用してみようとすることは、当業者ならば容易に考えることであり、
具体的には、刊行物1記載の発明において、中間層に含有する無機微粒子について、酸化チタンのみに代えて、酸化チタンとシリカからなる二種の無機微粒子として、しかも、2種の無機微粒子の平均粒径の比を、1/6.25、1/12.5、1/50など、1/5以下のものを採用し、上記相違点に係る本願発明1のごとくなすことは、当業者が容易に想到し得ることであるといわざるを得ない。

なお、本願発明1の作用効果については、上記のとおり、本願発明1は効果が確認されない範囲を含んでいるものであるが、仮に効果が確認されているとしても、次のことがいえる。すなわち、本審決での容易想到性の判断では、本願の課題である、長期使用後の電気特性の劣化防止等について、検討していないが、上記のとおり、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の技術事項とは、中間層によるモアレ防止という点で共通しており、組合せ容易の動機付けとなるものが存在するから、本願の課題によらなくとも、本願発明1の構成に到達することは、当業者であれば容易であるといえる。そして、その結果、本願の課題も併せて解決されてしまうのであるから、本願発明1の効果を格別のものとすることはできない。

したがって、本願発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明である。


4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-11 
結審通知日 2008-12-18 
審決日 2009-01-07 
出願番号 特願2000-111123(P2000-111123)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
淺野 美奈
発明の名称 電子写真感光体、それを用いた電子写真方法、電子写真装置および電子写真装置用プロセスカートリッジ  
代理人 武井 秀彦  

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