• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1193522
審判番号 不服2007-11138  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-18 
確定日 2009-03-04 
事件の表示 特願2001-342183「光学用フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月14日出願公開、特開2003-139908〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成13年11月7日の出願であって、平成19年2月5日付けで手続補正がなされ、平成19年3月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成19年4月18日に審判請求がなされ、その後、当審において平成20年6月17日付けで拒絶理由通知がなされ、平成20年8月22日付けで手続補正がなされたものである。
本願の特許請求の範囲の請求項1乃至4に係る発明は、平成20年8月22日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その請求項1乃至4に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「基材フィルムの少なくとも一方の面に、(A)少なくともアンチモンドープ酸化錫及び/又はアンチモン酸亜鉛を含む金属酸化物と、熱又は電離放射線による硬化物とを含む厚さ2?20μmの屈折率1.50?1.75のハードコート層、及び(B)比重1.7?1.9、屈折率1.30?1.36及び平均粒径30?80nmの多孔性シリカとポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマーとを含み、(B)層中の屈折率が1.30?1.45の範囲にある厚さ40?200nmの低屈折率層を順次積層したことを特徴とする光学用フィルム。」

2.引用例
これに対して、当審において平成20年6月17日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平11-211901号公報(以下、「引用例1」という。)、及び同じく特開平7-48527号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

a.引用例1;

反射性物品に関するもので、
記載事項ア.【0008】
「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消しようとするものであり、制電性があり、低反射率で耐擦傷性に優れた反射防止性物品を提供することにある。」

記載事項イ.【特許請求の範囲】
「【請求項1】基板に導電性ハードコート膜と低屈折率膜を設けてなることを特徴とする反射防止性物品。
【請求項2】前記導電性ハードコートの膜導電性が10^(11)Ω/□以下であり、かつ屈折率が1.62以上であることを特徴とする請求項1記載の反射防止性物品。
【請求項3】前記低屈折率膜の屈折率が1.42以下であることを特徴とする請求項1または2記載の反射防止性物品。
【請求項4】前記導電性ハードコート膜が、スズ、インジウムおよびアンチモンの中から選ばれた成分を導電性付与主成分とするゾル粒子を含有していることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の反射防止性物品。
【請求項5】前記低屈折率膜が、一般式:
【化1】

(式中、Fはフッ素含有アルキレン基、R1、R2 はHまたはCH3、a、cは0?2の整数、bは2?14の整数を示す)、または一般式:
【化2】

(式中、Fはフッ素含有アルキレン基、d、hは0または1、e、gは0?2の整数、fは2?14の整数を示す)で示される化合物を含有し、硬化してなることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の反射防止性物品。
【請求項6】前記低屈折率膜の接触角が102度以上であることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の反射防止性物品。
【請求項7】前記基板がフィルムであることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載の反射防止性物品。」

記載事項ウ.【0015】、【0016】
「【0015】本発明で用いられる導電性ハードコート層としては、有機または無機系バインダーあるいは両者の混合系バインダーに、酸化アンチモン、酸化セレン、酸化チタン、酸化タングステン、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、酸化亜鉛、アンチモン酸亜鉛、スズドープ酸化インジウムなどの屈折率の高い金属化合物超微粒子や金、銀、アルミニウム、クロムなど金属超微粒子を含む塗膜が一般的に用いられている。金属化合物超微粒子は、一般に酸化安定性に問題があったり、調製しにくい傾向がある。
【0016】金属化合物超微粒子として、特に好ましく用いられるのは、導電性の高いアンチモンドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、アンチモン酸亜鉛、スズドープ酸化インジウムなどスズ、アンチモン、インジウムの中から選ばれる成分を主成分とするゾル粒子の場合である。」

記載事項エ.【0018】?【0020】
「【0018】ハードコート層に用いられるバインダーとしては、ハードコート層の硬度を高くするために、通常は塗工時に三次元架橋していなくても、塗工後に三次元架橋した状態にできるバインダーが使われる。このような目的のために使用される代表的化合物としては、(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、シラン系化合物がある。以下にその例を挙げる。
【0019】(メタ)アクリレート化合物としては、脂肪族、脂環族、芳香族系モノ(メタ)アクリレート類、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2,2-ビス{3、5-ジブロモ-4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3、5-ジブロモ-4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル}プロパンなどの多官能(メタ)アクリレート類がある。これらの化合物は、単独または混合されて用いられるが、一般的には三次元架橋性のないモノ(メタ)アクリレート類だけが単独で用いられない。
【0020】これらの(メタ)アクリレート化合物は、アゾ系、パーオキサイド系などのラジカル重合開始剤を用いて、好ましくは低酸素濃度下の条件で熱重合されるか、アセトフェノン系、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、アントラキノン系、チオキサンソン系などの光ラジカル重合開始剤を用い、好ましくは低酸素濃度下の条件下で光(UV)重合される。また、これらの化合物は、電子線重合も可能である。」

記載事項オ.【0035】
「本発明の導電性ハードコート膜は、通常0.4?10μm程度の膜厚である。0.4μ未満では硬度、導電性が不足する場合がある。また、10μmを超えるとクラックが入りやすくなる。」

記載事項カ.【0049】
低屈折率膜に関して、
「本発明の好ましい態様は、(メタ)アクリレート化合物または/およびエポキシ化合物と化学結合できるシラン系化合物を使用する場合である。このため、シラン系化合物としては、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのように、(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物と化学結合できるものが特に好ましく使用される。」の記載。

記載事項キ.【0065】、【0066】
(参考例1)ハードコート膜に用いる金属化合物超微粒子としてアンチモン酸亜鉛を用い、該ハードコート膜の膜厚をおよそ3μm、屈折率を1.66とした例。

記載事項ク.【0069】、【0070】
(参考例3)ハードコート膜に用いる金属化合物超微粒子としてアンチモン酸亜鉛を用い、該ハードコート膜の膜厚をおよそ3μm、屈折率を1.63とした例。

前記記載事項ア.ないし記載事項ク.の記載からみて、引用例1には、
「基板フィルムに、アンチモンドープ酸化スズ又はアンチモン酸亜鉛などの屈折率の高い金属化合物超微粒子と、低酸素濃度下の条件下で熱重合、或いは光(UV)重合、電子線重合され、三次元架橋されたバインダーとを含む厚さ0.4?10μm、屈折率1.62以上(参考例1では屈折率1.66,参考例3では屈折率1.63)の導電性ハードコート膜、及び(メタ)アクリレート化合物または/およびエポキシ化合物と化学結合したシラン系化合物の硬化物を含む低屈折率膜を設けてなる、反射防止性物品。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

b.引用例2;

反射防止層を有する光学材料に関するもので、
記載事項ケ.【0004】
「本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、光学材料用基体の耐衝撃性などの特性が損なわれることなく、かつ反射防止層の密着性が十分であり、画像の解像度が低下することがない反射防止層を有する光学材料を容易に、生産性良く、低コストで得ることができる反射防止層を有する光学材料の製造方法を提供することにある。」

記載事項コ.【0005】
「【課題を解決するための手段】本発明者は、多孔質シリカよりなる無機微粉末をバインダーに混合することによって、前記課題を解決しうることを見いだし、本発明を完成した。即ち、本発明の反射防止層を有する光学材料は、屈折率が1.46以上の光を透過する光学材料用基体と、この光学材料用基体の表面を覆う反射防止層とからなる光学材料であって、該反射防止層は平均粒径0.3?100nmの多孔質シリカよりなる無機微粉末がバインダー中に分散したものからなり、前記光学材料用基体よりも0.02以上低い屈折率を有し、かつ厚さが50?5000nmのものであることを特徴とする。」

記載事項サ.【0008】
「本発明において用いられる光学材料用基体は、その屈折率が1.46以上のものであることが必要であり、屈折率が1.46未満の光学材料用基体を用いると、実質的に反射防止効果が発現されない場合がある。そして、屈折率が1.54以上の光学材料用基体を用いると、十分に優れた反射防止効果が得ることができる。このように、光学材料用基体の屈折率は1.46以上であることが必要であるが、本発明においては、屈折率が比較的低くて、例えば1.54未満のガラスまたはプラスチック基体に反射防止層を形成する場合に、当該ガラスまたはプラスチック基体の表面に、屈折率が1.46以上、好ましくは1.54以上の有機物質よりなる表面層を形成し、これによって表面部分の屈折率を調整したものを光学材料用基体として用いることができる。この表面層の屈折率は、この表面層が形成されるガラスまたはプラスチック基体の屈折率と近似していることが好ましい。この表面層は、ハードコート層としての性質を有するものとして形成することも可能である。」

記載事項シ.【0009】
「本発明においては、光学材料用基体の表面を覆うように反射防止層が形成される。この反射防止層は、多孔質シリカからなる無機微粉末(以下、多孔質シリカ微粉末と略す。)をバインダー中に分散させてなるものである。この多孔質シリカ微粉末としては、例えば高度に絡み合った枝別れしたポリマー状に生成したシリカを使用することができる。このような多孔質シリカ微粉末は低密度であり、そのため粒子内に空隙が存在しているため、それ自身の屈折率は、通常のシリカ(屈折率=1.46)と比較して著しく屈折率が低い(屈折率=1.2?1.4)。このため優れた反射防止効果を得ることができる。反射防止層がこのような優れた反射防止効果を得るには、少なくとも光学材料用基体の屈折率よりも0.02以上低い屈折率を有することが必要である。このような多孔質シリカ微粉末は、例えば、シリコンのアルコキシドを用い、アルカリの存在下において加水分解することによって得ることができる。」

記載事項ス.【0014】?【0016】
「【0014】またバインダーとしては、上述した樹脂のほかに、本発明においては、加熱により硬化する被膜を形成する金属アルコキシドをバインダーとして用いることができ、特に低屈折率の反射防止層が形成されることから、シリコンのアルコキシドを用いることが好ましい。そして、シリコンのアルコキシドとしては、アルコキシシランまたはカーボンファンクショナルポリオルガノシロキサンが用いられる。
【0015】アルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトシキシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトシキシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、プロピルトリブトシキシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトシキシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジブトシキシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン等がある。
【0016】カーボンファンクショナルポリオルガノシロキサンとしては、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキルトリアルコキシシラン、メタクリロキシアルキルトリアルコキシシラン、ビニルトリアルコキシシラン、γ-グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン、アミノアルキルトリアルコキシシランなどがある。」

記載事項セ.【0017】
「上述したバインダーは、反射防止層形成用塗布液において、多孔質シリカ微粉末が分散された分散媒中に分散もしくは溶解される。これらのバインダーについては、単一種で用いてもよく、二種以上の混合物として用いても良い。特にバインダーがシランのアルコキシドであるときには、加水分解させて熟成させることにより、好適な反射防止層形成用塗布液を得ることができる。反射防止層形成用塗布液は、光学材料用基体に対して容易に塗布することができるよう、上述の多孔質シリカ微粉末とバインダーとを水または有機溶剤よりなる分散媒中に適当な濃度で均一に分散させたものとする。」

記載事項ソ.【0021】
「本発明においては、反射防止層の厚さは50?5000nm、好ましくは100?3000nmの範囲内とされる。」

記載事項タ.【0023】
「また、このような反射防止層を光学材料用基体の表面に形成するには、反射防止層形成用塗布液を光学材料用基体の表面に塗布して硬化させればよいので、製造が極めて容易で、生産性が高いことより、低コストで光学材料を提供できる。このようにして反射防止層を形成すると、蒸着法を用いていないことから、光学材料用基体の耐衝撃性などの特性が損なわれることなく、かつ反射防止層の密着性が十分であり、また、多孔質シリカ微粉末の平均粒子径が0.3?100nmの非常に粒子径の小さいものであるため、画像の解像度が低下することがない反射防止層を有する光学材料を提供できる。」

記載事項チ.【0027】[実施例3]
「(1)プラスチック基体
厚さ2mmの板状のアクリル板を用いた。この屈折率は1.48であった。一方、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン35重量部とメチルトリメトキシシラン20重量部と0.1N塩酸8重量との混合物63重量部に、五酸化アンチモンゾル(30重量%)50重量部とエチルアルコール52重量部を添加して、表面層形成用塗布液Fを調整した。そして、上記アクリル板の表面にこの表面層形成用塗布液Fをディッピング法により塗布し、90℃で1時間加熱して硬化させ、平均厚さ3000nm、屈折率1.55の表面層を形成して、プラスチック基体を得た。
(2)・・・・・・・・・・・・」

記載事項ツ.【0028】[実施例4]
「(1)プラスチック基体
厚さ180μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。この屈折率は1.65であった。一方、このポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に実施例3で調整した表面層形成用塗布液Fをバーコート法により塗布して、110℃で20分間加熱して硬化させ、平均厚さ4000nm、屈折率1.55の表面層を形成し、プラスチック基体を得た。
(2)反射防止層形成用塗布液
実施例1調整した多孔質シリカゾル75重量部とビニルトリメトキシシラン10重量部とγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン20重量部と0.1N塩酸5重量部とをエチルアルコール中に混合分散させて固形分5.0重量%の反射防止層形成用塗布液Cを調整した。
(3)反射防止層
上記表面層を形成したプラスチック基体の表面に上記反射防止層形成用塗布液Cをバーコート法により塗布して、110℃で20分加熱して硬化させ、平均厚さ100nm、屈折率1.40の反射防止層を形成して、光学材料を得た。この光学材料の評価結果を下記表1に示す。

記載事項テ.【0029】[実施例5]
「(1)プラスチック基体
板状の眼鏡用ジエチレングリコールビスアリルカーボンコートボネート板を用いた。この屈折率は1.49であった。一方、この板の表面に実施例3で調整した表面層形成用塗布液Fをディッピング法により塗布して、120℃で1時間加熱して硬化させ、平均厚さ2500nm、屈折率1.55の表面層を形成し、プラスチック基体を得た。
(2)反射防止層形成用塗布液
上記実施例1で調整した多孔質シリカゾル90重量部とメチルトリメトキシシラン20重量部とテトラエトキシシラン30重量部と0.1N塩酸9重量部とをエチルアルコール中に混合分散させて固形分5.0重量%の反射防止層形成用塗布液Dを調整した。
(3)反射防止層
上記表面層を形成したプラスチック基体の表面に上記反射防止層形成用塗布液Dをディッピング法により塗布して、120℃で2時間加熱して硬化させ、平均厚さ120nm、屈折率1.39の反射防止層を形成して、光学材料を得た。この光学材料の評価結果を下記表1に示す。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(a)引用発明の反射防止性物品は、基板フィルムに、導電性ハードコート膜及び低屈折率膜を設けてなるものであるから、引用発明の対象である「反射防止性物品」は、本願発明の対象である「光学用フィルム」に相当するといえる。

(b)引用発明の「アンチモンドープ酸化スズ又はアンチモン酸亜鉛などの屈折率の高い金属化合物超微粒子」は、本願発明の「少なくともアンチモンドープ酸化錫又はアンチモン酸亜鉛を含む金属酸化物」に相当する。

(c)引用発明の「低酸素濃度下の条件下で熱重合、或いは光(UV)重合、電子線重合され、三次元架橋されたバインダー」は、本願発明の「熱又は電離放射線による硬化物」に相当する。

(d)引用発明の「導電性ハードコート膜」は、本願発明の「ハードコート層」の概念中に包含される。

(e)引用発明の「低屈折率膜」は、本願発明の「低屈折率層」に相当する。

前記(a)乃至(e)に記載したことからして、本願発明と引用発明の両者は、
「基材フィルムの少なくとも一方の面に、(A)少なくともアンチモンドープ酸化錫又はアンチモン酸亜鉛を含む金属酸化物と、熱又は電離放射線による硬化物とを含むハードコート層、及び(B)低屈折率層を順次積層したことを特徴とする光学用フィルム。」
である点で一致し、次の相違点が存在する。

相違点(1);
ハードコート層(A)について、本願発明は、厚さが2?20μmで、屈折率が1.50?1.75であるのに対して、引用発明は、厚さが0.4?10μmで、屈折率が1.62以上(参考例1では屈折率1.66,参考例3では屈折率1.63)である点、

相違点(2);
低屈折率層(B)が、本願発明は、比重1.7?1.9、屈折率1.30?1.36及び平均粒径30?80nmの多孔性シリカとポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマーとを含み、(B)層中の屈折率が1.30?1.45の範囲にある厚さ40?200nmの層であるのに対して、引用発明は、多孔性シリカとポリシロキサン系ポリマーとを含む層ではない点。

4.当審の判断
相違点(1)、(2)について検討する。

相違点(1)について;

ハードコート層の厚さについて、本願発明と引用発明とでは、2?10μmの範囲において一致していることは明らかである。
そして、光学用フィルムの耐擦傷性などを考慮して、ハードコート層の厚さの上限値、下限値を定めることは、当業者が容易になし得ることである。
また、ハードコート層の屈折率について、本願発明と引用発明とでは、1.62?1.75の範囲において一致していることは明らかである。
そして、ハードコート層の厚さの実用的な上限値、下限値の範囲を定めることは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、相違点(1)に係る本願発明の発明特定事項は、格別のことではない。

相違点(2)について;

(a)引用例2には、屈折率が1.46以上の光を透過する光学材料用基体と、この光学材料用基体の表面を覆う反射防止層とからなる光学材料であって、該反射防止層は、屈折率1.2?1.4及び平均粒径0.3?100nmの多孔質シリカよりなる無機微粉末がバインダー中に分散したものからなり、前記光学材料用基体よりも0.02以上低い屈折率を有し、かつ厚さが50?5000nmのものである光学材料、が記載されている(記載事項コ.及びシ.)。
また、引用例2には、「光学材料用基体の屈折率は1.46以上であることが必要であるが、本発明においては、屈折率が比較的低くて、例えば1.54未満のガラスまたはプラスチック基体に反射防止層を形成する場合に、当該ガラスまたはプラスチック基体の表面に、屈折率が1.46以上、好ましくは1.54以上の有機物質よりなる表面層を形成し、これによって表面部分の屈折率を調整したものを光学材料用基体として用いることができる。この表面層の屈折率は、この表面層が形成されるガラスまたはプラスチック基体の屈折率と近似していることが好ましい。この表面層は、ハードコート層としての性質を有するものとして形成することも可能である。」旨記載されている(記載事項サ.)。
引用例2の実施例4,5には、反射防止層の屈折率が1.39,1.40の例が記載されている。(記載事項ツ.及びテ.)

(b)さらに、引用例2には、反射防止層バインダーに関して、次のように記載されている。
引用例2の記載事項ス.【0014】には、「バインダーとしては、上述した樹脂のほかに、本発明においては、加熱により硬化する被膜を形成する金属アルコキシドをバインダーとして用いることができ、特に低屈折率の反射防止層が形成されることから、シリコンのアルコキシドを用いることが好ましい。そして、シリコンのアルコキシドとしては、アルコキシシランまたはカーボンファンクショナルポリオルガノシロキサンが用いられる。」と記載され、同【0015】にはアルコキシシランの具体例が、同【0016】にはカーボンファンクショナルポリオルガノシロキサン(「カーボンファンクショナルポリオルガノシラン」の誤記と思われる)の具体例が記載されている。
引用例2の記載事項セ.には、「特にバインダーがシランのアルコキシドであるときには、加水分解させて熟成させることにより、好適な反射防止層形成用塗布液を得ることができる。」旨記載されている。

ところで、審判請求人は平成20年8月22日付け意見書において、刊行物2に記載の反射防止層における「カーボンファンクショナルポリシロキサン」について次のように述べ、本願発明の「ポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマー」には当たらないと主張する。

「(k)刊行物2段落0016に開示されているカーボンファンクショナルポリオルガノシロキサンの概念について、説明をしておきます。
拒絶理由通知書では、カーボンファンクショナルポリオルガノシロキサンをポリマーと認定されていますが、これは本願発明のポリシロキサン系ポリマーではありません。
このことを今回の手続補正書によって、「ポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマー」と補正することによって、ポリオルガノシロキサンは本願発明のポリシロキサン系ポリマーでないことがより明確になりました。
カーボンファンクショナルポリオルガノシロキサンの「ポリ」は、ポリシロキサンのポリであり、ポリシロキサンは、決して高分子ポリマーを意味していません。シロキサンとは、Si-O-Si結合を含むものの総称であります。一般式で書けば、「H3SiO-(H2SiO)n-SiH3」であります。ケイ素原子の数が2個の場合は、ジシロキサンといい、3個の場合はトリシロキサンと呼ばれています(理化学辞典参照)。ジシロキサン、トリシロキサン、テトラシロキサンもポリシロキサンと呼ばれています。一般に、ジシロキサンからシリコーンオイル、シリコーングリースなどの低分子量のオリゴマーをポリシロキサンと称しています。しかし、高分子量の固形物質のシリコーンゴムもポリシロキサンの概念に入ることもあります。
また、カーボンファンクショナルポリオルガノシロキサンとは、炭素官能基を末端基に有するポリオルガノシロキサンであります。官能基としては、ハロゲン官能基、重合活性ビニル官能基、アミノ官能基、エポキシ官能基等の有機官能基を末端基に有するポリオルガノロキサンであります(刊行物2段落0016)。
いずれにしても、ポリオルガノロキサンであります。
本願発明の「ポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマー」の原料として用いる「ポリオルガノシロキサン系化合物」の概念の中に、カーボンファンクショナルポリオルガノシロキサンは、入るものであります。
従って、「カーボンファンクショナルポリオルガノシロキサン」は、本願発明のポリシロキサン系ポリマーではありません。」

この点について、検討する。
まず、本願発明の「ポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマー」は、光学用フィルムの「低屈折率層」(B)に含まれるのであるから、当然に完成品となった後の「低屈折率層」中での状態が「ポリシロキサン系ポリマー」であり、それは「ポリオルガノシロキサン系化合物」を「加熱処理」することによって得られるものと解される。
そして、本願明細書の【0012】にも、ポリオルガノシロキサン系化合物を用いたハードコート形成用材料を含む塗工液をコーティングして塗膜を形成した後、加熱処理して「ポリシロキサン系ポリマー」を得ることが記載されている。
一方、刊行物2には、【0016】に「カーボンファンクショナルポリオルガノシロキサン」として化合物が列挙されているが(記載事項ス.)、これらは、いずれもアルキルトリアルコキシシランのアルキル基に官能基を有するものである。すなわち、刊行物2の【0016】に記載される化合物は、正確には審判請求人が意見書(k)で述べている「ポリオルガノシロキサン系化合物」ではなく、その原料単量体であるシラン化合物、すなわち本願明細書に記載の一般式[1]:R^(1)_(n)Si(OR^(2))_(4-n)で表される化合物においてn=1であり、R^(1)に官能基が置換したものである。
しかしながら、アルキルトリアルコキシシランを塗膜形成材料として用いる場合は、刊行物2に「特にバインダーがシランのアルコキシドであるときには、加水分解させて熟成させることにより、好適な反射防止層形成用塗布液を得ることができる」と記載され(記載事項セ.)、また本願明細書にも「一方、nが1?3の化合物では、非加水分解性基を有するので、部分又は完全加水分解により、ポリオルガノシロキサン系ハードコート形成用材料が得られる。」(【0007】、第3頁第4欄第44?47行)とあるように、ポリオルガノシロキサン系化合物を形成させてから塗工を行うことは通常の方法である。したがって、刊行物2の実施例には詳細が明記されていないものの、以下の(c)で述べるように、「カーボンファンクショナルポリオルガノシロキサン」が「ポリシロキサン系化合物」の状態で塗布されると考えられることは、請求人が意見書の(k)で述べるとおりである。

(c)そこで、「ポリシロキサン系化合物」の状態で塗布された後の工程から得られる反射防止層バインダーについて、引用例2の記載事項ス.及びセ.の記載事項を基に、引用例2の実施例4(記載事項ツ.),実施例5(記載事項テ.)等から検討する。
まず、実施例4では、加熱により硬化する被膜を形成するシリコンアルコキシドとして、ビニルトリメトキシシランとγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとを用い、表面層を形成したプラスチック基体の表面に反射防止層形成用塗布液Cを塗布して、110℃で20分加熱して硬化させ、平均厚さ100nm、屈折率1.40の反射防止層を形成している。
該実施例4の記載では、前記ビニルトリメトキシシランとγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとを、記載事項セ.の記載内容のように加水分解させて熟成させているのかどうか明確ではないが、上記(b)で述べたように、アルコキシシランやポリオルガノシロキサンから塗布液を調整する際に加水分解させて熟成させることは普通に行われている技術であり、前記ビニルトリメトキシシランとγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとを加水分解させて熟成させた場合には、本願発明にいう「ポリオルガノシロキサン系化合物」が生成され、その後の加熱による硬化処理により、本願発明にいう「ポリシロキサン系ポリマー」が生成されることは、明らかである。

したがって、引用例2の実施例4の記載および記載事項セ.の記載を基に、多孔性シリカと共に用いる反射防止層(本願発明の「低反射率層」に相当)バインダーとして、本願発明にいう「ポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマー」を用いることは、容易なことである。
同様の理由により、引用例2の実施例5の記載および記載事項セ.の記載を基に、多孔性シリカと共に用いる反射防止層(本願発明の「低反射率層」に相当)バインダーとして、本願発明にいう「ポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマー」を用いることは、容易なことである。

(d)翻って、引用発明の低屈折率層(B)は、本願発明の多孔質シリカとポリシロキサン系ポリマーとを含む低屈折率層とは異なるものではあるが、光学用フィルム用に使用する低屈折率層は、光学用フィルムの使用目的に応じて適宜変更し得るものと認められる。
そして、引用例2に関して前記(c)項で述べたように、多孔性シリカと共に用いる低反射率層バインダーとして、本願発明にいう「ポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマー」を用いることは容易なことであるし、また、引用例2の反射防止層(低反射率層)の密着性が十分であることが知られているから(記載事項ケ.及びタ.)、低屈折率層の密着性が十分なものとするために、引用発明の低屈折率層を、多孔質シリカとポリオルガノシロキサン系化合物を加熱処理して得たポリシロキサン系ポリマーとを含む低屈折率層に換えて使用することは、引用例2の記載事項を基に当業者が容易になし得たことである。
もっとも、多孔性シリカが、本願発明は、屈折率1.30?1.36、平均粒径30?80nmであるのに対して、引用例2のものは、屈折率1.2?1.4、平均粒径0.3?100nmであり、また、低屈折率層(B)が、本願発明は、(B)層中の屈折率1.30?1.45、厚さ40?200nmであるのに対して、引用例2のものは、(B)層中の屈折率1.39又は1.40(実施例4,5)、厚さ50?5000nm、好ましくは100?3000nmであるが、多孔性シリカの屈折率、平均粒径、及び、低屈折率層の該層中の屈折率、厚さについて、本願発明と引用例2のものとでは、それぞれ一致する範囲が有ることは明らかであり、光学用フィルムの使用目的に応じて、低屈折率層に使用する多孔性シリカの屈折率、平均粒径、及び、低屈折率層の該層中の屈折率、厚さのそれぞれの上限値、下限値を定めることは、容易になし得ることである。
本願発明の多孔性シリカの比重を1.7?1.9と限定した点も、格別のことではない。

したがって、相違点(2)に係る本願発明の発明特定事項は、引用例2の記載に基づいて当業者が容易になし得るものである。

そして、本願発明の作用・効果についても、引用発明、及び引用例2に記載された発明から予測し得る範囲内のもので、格別のものではない。

よって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-24 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-20 
出願番号 特願2001-342183(P2001-342183)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 勇  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 森林 克郎
淺野 美奈
発明の名称 光学用フィルム  
代理人 内山 充  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ