ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21D 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C21D |
---|---|
管理番号 | 1193625 |
審判番号 | 不服2007-4031 |
総通号数 | 112 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-02-08 |
確定日 | 2009-03-05 |
事件の表示 | 平成10年特許願第 57380号「低鉄損無方向性電磁鋼板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月31日出願公開、特開平11-236618〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成10年2月24日の出願であって、平成18年9月22日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月27日付けで手続補正がされたが、同年12月14日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年2月8日に拒絶査定不服の審判請求がされるとともに、同年3月9日付けで手続補正がされたものである。 第2 平成19年3月9日付けの手続補正についての補正の却下の決定 【補正の却下の決定の結論】 平成19年3月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 【決定の理由】 [1]手続補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲について、次の(1-1)を次の(1-2)とする補正を含むものである。 (1-1) 「【請求項1】 C:0.005wt%以下、 Si:1.0?5.0wt%、 Mn:0.1?2.0wt%、 Al:0.1?2.0wt% を含有し、かつS,N及びOの混入をそれぞれ S:0.0030 wt%以下、 N:0.0030 wt%以下及び O:0.0020 wt%以下 に抑制した無方向性電磁鋼スラブを熱間圧延し、次いでコイルに巻き取った後に熱延板焼鈍を施してから、中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を行い、次いで最終仕上焼鈍を施す一連の工程によって無方向性電磁鋼板を製造するに当たり、 熱延板焼鈍を、連続焼鈍の場合は900?1100℃の温度範囲にて10秒?3分間、箱焼鈍の場合は750?900℃の温度範囲にて0.5?12時間の条件で実施し、 1回目の冷間圧延を実施した後、 900?1100℃の温度範囲にて10秒?60秒の中間焼鈍により最終冷延前の鋼板の平均結晶粒径を50μm以上とし、 最終冷延を圧下率45?65%で行った後に、 900?1100℃の温度範囲にて10秒?5分間の最終仕上焼鈍を実施することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。」 (1-2) 「【請求項1】 C:0.005wt%以下、 Si:1.0?5.0wt%、 Mn:0.1?2.0wt%、 Al:0.1?2.0wt% を含有し、かつS,N及びOの混入をそれぞれ S:0.0030 wt%以下、 N:0.0030 wt%以下及び O:0.0020 wt%以下 に抑制した無方向性電磁鋼スラブを熱間圧延し、次いでコイルに巻き取った後に熱延板焼鈍を施してから、中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を行い、次いで最終仕上焼鈍を施す一連の工程によって無方向性電磁鋼板を製造するに当たり、 熱延板焼鈍を、連続焼鈍の場合は900?1100℃の温度範囲にて10秒?60秒、箱焼鈍の場合は750?900℃の温度範囲にて0.5?12時間の条件で実施し、 1回目の冷間圧延を実施した後、 900?1100℃の温度範囲にて10秒?60秒の中間焼鈍により最終冷延前の鋼板の平均結晶粒径を50μm以上とし、 最終冷延を圧下率45?65%で行った後に、 900?1100℃の温度範囲にて10秒?5分間の最終仕上焼鈍を実施することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。」 本件補正は、補正前の請求項1に係る発明について、「熱延板焼鈍を、連続焼鈍の場合は900?1100℃の温度範囲にて10秒?3分間」とあるのを、補正後は、「熱延板焼鈍を、連続焼鈍の場合は900?1100℃の温度範囲にて10秒?60秒」とするものであり、熱延板焼鈍の時間を限定するものであるから、発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、また、本件補正後の請求項1に記載された発明は、本件補正前の請求項1に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 [2]刊行物及び刊行物の主な記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、「特開昭57-35626号公報」(以下、「刊行物1」という。)、「特開昭53-66816号公報」(以下、「刊行物2」という。)、「特開平5-214444号公報」(以下、「刊行物3」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。 (1)刊行物1:特開昭57-35626号公報 (1a)「即ち、本発明の要旨はC:0.010%以下、Si:4.0%以下、Al:1.0%以下を含むあるいはこれに加えてS:0.003%以下、O:0.003%以下、N:0.003%以下を含む無方向性珪素鋼板用スラブを、通常の工程で製品厚みとなる鋼帯とし、この鋼帯を非酸化性雰囲気中にて短時間再結晶焼鈍を行なう・・・(中略)・・・磁気特性のすぐれた無方向性珪素鋼板の製造方法にある。」(第2頁右上欄第19行?同頁左下欄第13行) (1b)「次に本発明の鋼成分について・・・(中略)・・・さらに磁気特性を高めるためN、S、Oをそれぞれ0.0030%以下とする。N、S、Oともその含有量が多くなると不純物を生成し再結晶粒を細粒とするので0.0030%以下と規定する・・・(中略)・・・。 本発明は上記の成分に調整された溶鋼を連続鋳造法によりスラブとされるか、あるいは造塊分塊法によりスラブとされる。 次いで通常の工程で熱間圧延される。 その後1段の冷間圧延により製品厚みとするか、中間焼鈍をはさんで2段またはそれ以上の冷間圧延により製品厚みとされる。或は熱延板を焼鈍し、次いで1段の冷間圧延により製品厚みとするか、中間焼鈍をはさんで2段またはそれ以上の冷間圧延により製品厚みとされる。 次に本発明の最終再結晶焼鈍たる段階短時間再結晶焼鈍について述べる。」(第3頁左下欄第11行?第4頁左上欄第7行) (1c)「実施例1 C:0.0025%、Si:3.20%、Al:0.610%を含みS:0.0020%、N:0.0015%、O:0.003%を含有する無方向性珪素鋼スラブを加熱後圧延し1.8m/m厚みとした後、980℃で2分間熱延板焼鈍を行い、酸洗後0.7m/mの中間厚みとし、980℃で1分間中間焼鈍を行い、そのあと0.35m/m厚に冷延した。 その冷延板をH_(2)30%露点-15℃の連続焼鈍炉において、1075℃で2分間の従来法(A)と、875℃で1分前段低温均熱に引続き1075℃で0.2分間の後段高温均熱の本発明法(B)の2通りで焼鈍し、25cmエプスタインで磁性を測定し次の結果を得た。」(第4頁左下欄第4?17行) (2)刊行物2:特開昭53-66816号公報 (2a)「本発明は、B_(50)が1.67T以上と高い磁束密度を有し、かつ鉄損W15/50が、板厚0.5mmの場合290W/kg、板厚0.35mmの場合240W/kg以下の磁束密度が高く鉄損の低い無方向性珪素鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。」(第2頁左下欄第4?8行) (2b)「本発明者等は前記本発明方法の2回冷延により無方向性珪素鋼板を製造する条件のうち、第1回冷間圧延後中間焼鈍を施した際の結晶粒の大きさと最終冷延率が成品の集合組織に及ぼす影響を解明し、さらに中間焼鈍後の結晶粒の必要な大きさが与えられる成分及び処理条件を決定することにより本発明は完成されたもので、本発明によれば、第1表に示す現在審議中の改訂JIS規格による鉄損がS9?S7級に相当し、かつ磁束密度B_(50)が前記規格値のうち下限値1.56に較べ約0.1Tesla高い電磁性能を有する無方向性珪素鋼板をえることができる。」(第2頁右下欄第1?12行) (2c)「Sは0.005%より多いと、またOは0.0025%より多いと200?500Åの微細介在物が多量に発生し、軽圧下による歪エネルギーを利用せずに短時間で鋼板の結晶粒を成長させる際の阻害要因となるので、SとOはそれぞれ0.005%以下、0.0025%以下にする必要がある。特にSは0.003%以下Oは0.002%以下が好ましい。」(第3頁右上欄第1?9行) (2d)「中間焼鈍後の平均粒径は大きいほど最終焼鈍後の特性値は大きく改善され、平均粒径が0.1mm以上のとき最もよい結果が得られる。」(第6頁右上欄第9?11行) (3)刊行物3:特開平5-214444号公報 (3a)「最終冷間圧延前の組織の再結晶粒の大きさが大きいほど磁気特性が向上することも良く知られている。この理由は、最終冷間圧延前の再結晶粒が粗大であると、最終焼鈍後にゴス方位と呼ばれる磁気特性に有利な結晶方位を多く含んだ集合組織が発達し易いからであると考えられている。このため、冷間圧延時に鋼帯が破断するなどのトラブルを招かない範囲内で、最終冷間圧延前の再結晶粒を粗大化させるプロセスが採用されている。」(【0006】) [3]本願補正発明1についての当審の判断 (1)刊行物1に記載された発明 (1a)の「C:0.010%以下、Si:4.0%以下、Al:1.0%以下を含むあるいはこれに加えてS:0.003%以下、O:0.003%以下、N:0.003%以下を含む無方向性珪素鋼板用スラブを、通常の工程で製品厚みとなる鋼帯とし、この鋼帯を非酸化性雰囲気中にて短時間再結晶焼鈍を行なう」及び「磁気特性のすぐれた無方向性珪素鋼板の製造方法にある。」との記載によれば、刊行物1には、次のとおりの無方向性珪素鋼板の製造方法が記載されているといえる。 「C:0.010%以下、Si:4.0%以下、Al:1.0%以下を含むあるいはこれに加えてS:0.003%以下、O:0.003%以下、N:0.003%以下を含む無方向性珪素鋼板用スラブを、通常の工程で製品厚みとなる鋼帯とし、この鋼帯を非酸化性雰囲気中にて短時間再結晶焼鈍を行なう磁気特性のすぐれた無方向性珪素鋼板の製造方法。」 ここで、前記無方向性珪素鋼板の製造方法は、製品厚みとなる鋼帯を得る「通常の工程」を含むものであるが、該「通常の工程」とは、(1b)の「次いで通常の工程で熱間圧延される。その後1段の冷間圧延により製品厚みとするか、中間焼鈍をはさんで2段またはそれ以上の冷間圧延により製品厚みとされる。或は熱延板を焼鈍し、次いで1段の冷間圧延により製品厚みとするか、中間焼鈍をはさんで2段またはそれ以上の冷間圧延により製品厚みとされる。」との記載によれば、熱間圧延し、熱延板焼鈍を施し、中間焼鈍を施し、冷間圧延を行う工程を含むものと認められる。 また、(1b)の「本発明の最終再結晶焼鈍たる段階短時間再結晶焼鈍」との記載によれば、「短時間再結晶焼鈍」とは、「最終再結晶焼鈍」を指すものと認められる。 さらに、(1c)には、「実施例1」として、前記無方向性珪素鋼板の製造方法の無方向性珪素鋼スラブの具体的な成分組成を、「C:0.0025%、Si:3.20%、Al:0.610%を含みS:0.0020%、N:0.0015%、O:0.003%を含有する」ものとし、熱延板焼鈍及び中間焼鈍の具体的な条件を、それぞれ「980℃で2分」及び「980℃で1分間」とすると共に、中間焼鈍前の具体的な中間厚みを「0.7m/m」とし、冷延後の具体的な厚みを「0.35m/m厚」とし、及び、冷延後に行う焼鈍、即ち、最終再結晶焼鈍の具体的な条件を「875℃で1分前段低温均熱に引続き1075℃で0.2分間の後段高温均熱」としたものが記載されている。 よって、前記無方向性珪素鋼板の製造方法における「通常の工程」を、(1b)に記載された工程で置き換えると共に、「短時間再結晶焼鈍」を「最終再結晶焼鈍」で言い換え、さらに、前記の無方向性珪素鋼スラブの成分組成、熱延板焼鈍及び中間焼鈍の条件、中間焼鈍前の中間厚み、冷延後の厚み、及び短時間再結晶焼鈍を、それぞれ(1c)に記載された無方向性珪素鋼スラブの具体的な成分組成、熱延板焼鈍及び中間焼鈍の具体的な条件、中間焼鈍前の具体的な中間厚み、冷延後の具体的な厚み、及び最終再結晶焼鈍の具体的な条件で置き換えて、本願補正発明1の記載ぶりに則り整理すると、刊行物1には次の発明が記載されているといえる。 「C:0.0025%、 Si:3.20%、 Al:0.610% を含有し、かつS,Nの混入をそれぞれ S:0.0020%、 N:0.0015%及び O:0.0030% 含有する無方向性珪素鋼スラブを熱間圧延し、熱延板焼鈍を行い、中間焼鈍を行い、冷延を行い、最終再結晶焼鈍を施す一連の工程によって磁気特性のすぐれた無方向性珪素鋼板を製造するに当たり、 980℃で2分間熱延板焼鈍を行い、 0.7m/mの中間厚みとし、 980℃で1分間中間焼鈍を行い、 0.35m/m厚に冷延し、 875℃で1分前段低温均熱に引続き1075℃で0.2分間の後段高温均熱で最終再結晶焼鈍する磁気特性のすぐれた無方向性珪素鋼板の製造方法。」(以下、「刊行物1発明」という。) (2)本願補正発明1と刊行物1発明との対比 本願補正発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における0.7m/mの中間厚みを0.35m/mにする「冷延」の圧下率は50%と認められ、また、該「冷延」の後、「最終再結晶焼鈍」が行われるものであるから、該「冷延」は、「最終冷延」を指すものと認められる。 そして、刊行物1発明の「%」及び「m/m」は、それぞれ「wt%」及び「mm」と言い換えることができ、また、刊行物1発明の「磁気特性のすぐれた無方向性珪素鋼板」は、「無方向性電磁鋼板」と言い換えることができ、さらに、刊行物1発明の「冷延」及び「最終再結晶焼鈍」は、「冷間圧延」及び「最終仕上焼鈍」とそれぞれ言い換えることができるものである。 よって、両者は、 「C:0.0025wt%、 Si:3.2wt%、 Al:0.610wt% を含有し、かつS,Nの混入をそれぞれ S:0.0020 wt%、 N:0.0015 wt% 含有する無方向性電磁鋼スラブを熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を施してから、中間焼鈍を行い、冷間圧延を行い、次いで最終仕上焼鈍を施す一連の工程によって無方向性電磁鋼板を製造するに当たり、 熱延板焼鈍を実施し、 980℃の温度にて1分間の中間焼鈍を行い、 最終冷延を圧下率50%で行った後に、 最終仕上焼鈍を実施する無方向性電磁鋼板の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点イ:無方向性電磁鋼スラブの成分組成におけるMnの含有量について、本願補正発明1では、「0.1?2.0wt%」とするのに対し、刊行物1発明では、Mnの含有量が不明である点 相違点ロ:無方向性電磁鋼板の成分組成におけるOの含有量について、本願補正発明1では、「0.0020 wt%以下」に抑制しているのに対し、刊行物1発明では、「0.0030 wt%」である点 相違点ハ:本願補正発明1では、熱間圧延後にコイルに巻き取った後熱延板焼鈍を行うのに対し、刊行物1発明では、熱間圧延後に熱延板焼鈍を行うものの、熱間圧延後にコイルに巻き取った後熱延板焼鈍を行うものであるか否か不明である点 相違点ニ:本願補正発明1では、熱延板焼鈍後中間焼鈍前に行う「1回目の冷間圧延」と、中間焼鈍後に行う「最終冷延」とによって、「中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延」を行うのに対し、刊行物1発明では、中間焼鈍後に「冷延」を行うものの、中間焼鈍前に冷間圧延を行うか否か不明である点 相違点ホ:熱延板焼鈍に関し、本願補正発明1では、「連続焼鈍の場合は900?1100℃の温度範囲にて10秒?60秒、箱焼鈍の場合は750?900℃の温度範囲にて0.5?12時間」で実施するのに対し、刊行物1発明では、「980℃で2分間」で実施する点 相違点ヘ:本願補正発明1では、中間焼鈍により最終冷延前の鋼板の平均結晶粒径を「50μm以上」とするのに対し、刊行物1発明では、中間焼鈍により最終冷延前の鋼板の平均結晶粒径を50μm以上とするか否か不明である点 相違点ト:最終仕上焼鈍に関し、本願補正発明1では、「900?1100℃の温度範囲にて10秒?5分間」で実施するのに対し、刊行物1発明では、「875℃で1分前段低温均熱に引続き1075℃で0.2分間の後段高温均熱」を実施する点 (3)相違点についての判断 前記相違点イ?トについて検討する。 (3-1)相違点イについて 無方向性電磁鋼板は、通常、Mnを含有するから、刊行物1発明の無方向性電磁鋼スラブも、Mnを含有しているものと認められる。 また、無方向性電磁鋼板の製造方法において、Sによる熱間脆性を防止するために、Mnの含有量を「Mn:0.1?2.0wt%」の範囲とすることは、本願出願前周知の事項(例えば、刊行物3の段落【0030】を参照)であり、かつ、刊行物1発明もSを含むから、刊行物1発明においてSによる熱間脆性を防止する目的で、無方向性電磁鋼スラブにおけるMnの含有量を前記周知の範囲に設定することは、当業者が容易に想到し得た事項である。 そして、本願補正発明1において、Mnの含有量を「0.1?2.0wt%」に限定したことによる効果も格別顕著でない。 してみれば、相違点イは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3-2)相違点ロについて 刊行物1の(1b)の「次に本発明の鋼成分について・・・(中略)・・・さらに磁気特性を高めるためN、S、Oをそれぞれ0.0030%以下とする。N、S、Oともその含有量が多くなると不純物を生成し再結晶粒を細粒とするので0.0030%以下と規定する」との記載によれば、刊行物1発明において、磁気特性を高める目的のために、鋼成分へのOの混入を、0.0030wt%以下に規定すべきことが示唆されているといえる。 そして、前記目的のために、Oの含有量を「0.0020 wt%以下」に抑制することは、当該技術分野において通常行われていることである(例えば、刊行物2の(2c)を参照)から、刊行物1発明において、磁気特性をさらに向上させる目的で、Oの含有量を0.0020wt%以下に抑制することは、当業者が容易に想到し得た事項である さらに、本願補正発明1において、Oの含有量を「0.0020 wt%以下」に抑制したことによる効果も格別顕著でない。 してみれば、相違点ロは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3-3)相違点ハについて 無方向性電磁鋼板の製造方法において、熱間圧延後コイルに巻き取った後熱延板焼鈍を行うことは一般的に行われている事項であるから、刊行物1発明においても、熱間圧延後にコイルに巻き取った後熱延板焼鈍を行っているものと認められる。仮にそうでないとしても、無方向性電磁鋼板の製造方法において、熱間圧延後にコイルに巻き取った後熱延板焼鈍することは、本願出願前周知の事項(例えば、刊行物1の「実施例1」、刊行物3の【実施例】を参照)であるから、刊行物1発明において、熱間圧延後にコイルに巻き取った後熱延板焼鈍することは、当業者が容易に想到し得た事項である。 してみれば、相違点ハは、実質的な相違点ではないか、当業者が容易に想到し得たことである。 (3-4)相違点ニについて 刊行物1の(1c)の「加熱後圧延し1.8m/m厚みとした後、980℃で2分間熱延板焼鈍を行い、酸洗後0.7m/mの中間厚みとし、980℃で1分間中間焼鈍を行い」との記載によれば、熱延板焼鈍が終了した時点で1.8mmであった板厚が、中間焼鈍を開始する時点で0.7mmの中間厚みに加工されているのであるから、刊行物1発明の熱延板焼鈍と中間焼鈍との間では、冷間圧延が行われているものと認められる。仮に、熱延板焼鈍と中間焼鈍との間で、冷間圧延を行うことが明らかでないとしても、(1b)の「或いは熱延板を焼鈍し、次いで1段の冷間圧延により製品厚みとするか、中間焼鈍をはさんで2段またはそれ以上の冷間圧延により製品厚みとされる。」との記載によれば、中間焼鈍の後だけでなく、中間焼鈍の前、すなわち、熱延板焼鈍と中間焼鈍の間においても、冷間圧延を行ってもよいことが刊行物1に示唆されているといえるから、刊行物1発明において、熱延板焼鈍と中間焼鈍の間で、冷間圧延を行うことは、当業者が容易に想到し得た事項である。 してみれば、相違点ニは、実質的な相違点ではないか、当業者が容易に想到し得たことである。 (3-5)相違点ホについて 無方向性電磁鋼板の製造方法において、磁気特性を改善するために、熱延板焼鈍の処理時間を、「連続焼鈍の場合は900?1100℃の温度範囲にて10秒?60秒、箱焼鈍の場合は750?900℃の温度範囲にて0.5?12時間」の範囲とすることは、本願出願前周知の事項(例えば、特開平5-209224号公報の段落【0030】?【0032】、特開平7-188751号公報の段落【0029】、特開平6-279858号公報の段落【0029】を参照)であるから、刊行物1発明において、磁気特性をさらに向上させる目的で、熱延板焼鈍の処理時間を、前記周知の範囲に設定することは、当業者が容易に想到し得た事項である。 そして、本願補正発明1において、熱延板焼鈍の処理時間を、「連続焼鈍の場合は900?1100℃の温度範囲にて10秒?60秒、箱焼鈍の場合は750?900℃の温度範囲にて0.5?12時間」に限定したことによる効果も格別顕著でない。 してみれば、相違点ホは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3-6)相違点ヘについて 最終冷延前の鋼板の平均結晶粒径が大きいほど鉄損等の磁気特性が改善されることが本願出願前周知の事項(例えば、刊行物2の(2a)?(2d)、刊行物3の(3a)を参照)であり、しかも、前記平均結晶粒径の下限値を「50μm」とすることも本願出願前周知の事項(例えば、特開平2-310316号公報の第3頁右下欄第9?17行、第4頁左下欄第7?17行を参照)であるから、刊行物1発明において、磁気特性をさらに向上させる目的で、前記平均結晶粒径の最適範囲を「50μm以上」と定めることは、当業者が容易に想到し得たことであるし、また、前記平均結晶粒径が該最適範囲を満たすように中間焼鈍の処理条件を調整することも当業者が容易に想到し得たことである。 してみれば、相違点ヘは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3-7)相違点トについて 刊行物1発明は、「875℃で1分」なる処理条件の前段の最終仕上焼鈍と、それに引き続く「1075℃で0.2分間」なる処理条件の後段の最終仕上焼鈍とからなる2段階の最終仕上焼鈍を行うものであるが、前段及び後段の最終仕上焼鈍の処理条件である「875℃で1分」及び「1075℃で0.2分間」は、共に「900?1100℃の温度範囲にて10秒?5分間」なる本願補正発明1の最終仕上焼鈍の処理条件を満たし、しかも、前段と後段の合計の最終仕上焼鈍の処理時間が5分以内であるから、本願補正発明1の最終仕上焼鈍の処理条件は、刊行物1発明の最終仕上焼鈍の処理条件を包含するものと認められる。 仮に包含しないとしても、無方向性電磁鋼板の製造方法において、最終仕上焼鈍の処理条件を「900?1100℃の温度範囲にて10秒?5分間」とすることは、当該技術分野において一般的に行われていることであるから(例えば、刊行物3の段落【0042】、特開平5-209224号公報の段落【0034】、特開平6-279858号公報の段落【0038】を参照)、刊行物1発明において、「875℃で1分前段低温均熱に引続き1075℃で0.2分間の後段高温均熱」するという最終仕上焼鈍の処理条件に換えて、前記一般的な処理条件を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項である。 そして、本願補正発明1において、最終仕上焼鈍の条件処理を「900?1100℃の温度範囲にて10秒?5分間」に限定したことによる効果も格別顕著でない。 してみれば、相違点トは、実質的な相違点ではないか、当業者が容易に想到し得たことである。 (4)小括 したがって、本願補正発明1は、刊行物1?3に記載された発明、及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 [4]むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明についての審決 [1]本願発明 平成19年3月9日付けの手続補正は前記のとおり却下すべきものであるから、本願発明は、平成18年11月27日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 C:0.005wt%以下、 Si:1.0?5.0wt%、 Mn:0.1?2.0wt%、 Al:0.1?2.0wt% を含有し、かつS,N及びOの混入をそれぞれ S:0.0030 wt%以下、 N:0.0030 wt%以下及び O:0.0020 wt%以下 に抑制した無方向性電磁鋼スラブを熱間圧延し、次いでコイルに巻き取った後に熱延板焼鈍を施してから、中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を行い、次いで最終仕上焼鈍を施す一連の工程によって無方向性電磁鋼板を製造するに当たり、 熱延板焼鈍を、連続焼鈍の場合は900?1100℃の温度範囲にて10秒?3分間、箱焼鈍の場合は750?900℃の温度範囲にて0.5?12時間の条件で実施し、 1回目の冷間圧延を実施した後、 900?1100℃の温度範囲にて10秒?60秒の中間焼鈍により最終冷延前の鋼板の平均結晶粒径を50μm以上とし、 最終冷延を圧下率45?65%で行った後に、 900?1100℃の温度範囲にて10秒?5分間の最終仕上焼鈍を実施することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。」(以下、「本願発明」という。) [2]原査定の理由の概要 原審の拒絶の理由の概要は、本願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された次の刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 刊行物1:特開昭57-35626号公報 刊行物2:特開昭53-66816号公報 刊行物3:特開平5-214444号公報 [3]刊行物の主な記載事項及び刊行物1発明の認定 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3の主な記載事項は、前記「第2[2]」に、刊行物1発明の認定は、前記「第2[3](1)」に記載したとおりである。 [4]当審の判断 前記「第2[3]」においてその独立特許要件を検討した本願補正発明1は、前記「第2[1]」に示すとおり、本願発明において、「熱延板焼鈍を、連続焼鈍の場合は900?1100℃の温度範囲にて10秒?3分間」との発明特定事項に関して、連続焼鈍の場合の熱延板焼鈍時間の上限を「60秒間」と規定することにより、発明を特定するために必要な事項を限定したものである。 このように発明を特定するために必要な事項をより狭い範囲に限定的に減縮した本願補正発明1が、刊行物1?刊行物3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると認められることは、前記「第2[3]」に示すとおりであるから、本願発明も、本願補正発明1に対するのと同様の理由により、刊行物1?刊行物3に記載された発明、及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 [5]むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明、及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、拒絶すべきでものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-12-17 |
結審通知日 | 2009-01-06 |
審決日 | 2009-01-21 |
出願番号 | 特願平10-57380 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C21D)
P 1 8・ 121- Z (C21D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 陽一 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
守安 太郎 平塚 義三 |
発明の名称 | 低鉄損無方向性電磁鋼板の製造方法 |
代理人 | 来間 清志 |
代理人 | 藤谷 史朗 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 杉村 興作 |
代理人 | 澤田 達也 |