• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21D
管理番号 1193626
審判番号 不服2007-6597  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-05 
確定日 2009-03-05 
事件の表示 平成 8年特許願第305156号「IN 706 タイプの鉄- ニッケル超合金より成る高温安定性物体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月30日出願公開、特開平 9-170016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年11月15日(優先権主張 平成7年11月17日、ドイツ)の出願であって、平成18年3月29日付けで拒絶理由が通知され、同年10月24日付けで手続補正がされたが、同年11月10日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年3月5日に審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願発明は、平成18年10月24日付けで手続補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち、請求項1の記載を引用する請求項2に係る発明を、独立形式で記載したものは、次のとおりである(以下、「本願発明」という。)。

「重量百分率で
≦0.02 炭素、
≦0.10 珪素
≦0.20 マンガン
≦0.002 硫黄
≦0.015 燐
15?18 クロム
40?43 ニッケル
0.1?0.3 アルミニウム
≦0.30 コバルト
1.5?1.8 チタニウム
≦0.30 銅
2.8?3.2 ニオブ
残量 鉄
よりなる組成を有する鉄-ニッケル超合金より成る、炉中に準備した熱間硬化した出発物体を溶体化焼なまししそして続いて析出硬化することによって高温安定性物体を製造する方法において、溶体化焼なまし済み物体を1?5〔℃/分〕の間の冷却速度で、溶体化焼なましの際の焼き鈍し温度から析出硬化のための所定の温度に冷却すること、該析出硬化を複数段階で実施し、その第一段階に700?760℃の温度で少なくとも10時間、最高50時間の間熱処理しそして第二段階で600?650℃の温度で少なくとも5時間、最高20時間の間熱処理し、そしてその第一段階から第二段階への移行を炉中で冷却することによって実施することおよび析出硬化の第一段階に先立って別の熱処理段階を行い、その際に溶体化焼なまし済み出発物体を800?850℃の温度に維持すること、溶体化焼きなましを最高15時間の間、900?1000℃の温度で実施することを特徴とする、上記方法。」

3.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりである。
「本願の請求項1?2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開平4-210457号公報
刊行物2:特開昭59-211560号公報」

4.引用刊行物とその記載事項
原査定に引用された上記刊行物1には、次の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】FeおよびNiをベース成分とする超合金を、固溶化処理した後、中間時効処理し、その後、時効処理を行うFe-Ni基析出硬化型超合金の製造方法において、前記固溶化処理後の冷却を、空冷または空冷よりも遅い冷却速度で行うとともに、前記中間時効処理の処理時間を短縮し、または、中間時効処理を省略し、その後、時効処理を行うことを特徴とするFe-Ni基析出硬化型超合金の製造方法」

(b)「【0002】
【従来の技術】従来、Fe-Ni基析出硬化型超合金は、Fe-Niベースの超合金を、固溶化処理した後、油冷または油冷よりも速い冷却速度で急冷し、その後、中間時効処理を経て時効処理を行っている。上記熱処理では、十分な過冷状態と、過飽和固溶体を得るために、固溶化処理後、極力、急速に冷却することが原則とされており、冷却方法には、冷却速度が大きな油冷や水冷が採用されている。また、冷却後、時効処理に先立って、中間時効処理が行われており、この処理によって、比較的粗大で安定した相(以下「安定相」と称する)を適度に析出させてクリープ特性の改善を図っている。その後、時効処理を行って、微細な析出物を析出させ、強度を高めている
【0003】上記した従来の熱処理を具体的に説明すれば、例えば、インコネル706(商標名)合金では、925?980±15℃で固溶化処理を行った後、水冷し、845℃で3時間保持する中間時効処理を行う。次いで、720℃で8時間の時効処理を行い、さらに、これを50℃/時間の冷却速度で冷却し、引き続き620℃で8時間時効させる2段時効を行っている。なお、インコネル706では、上記中間時効処理を安定化処理と称する場合もある(例えばAMS規格)。上記した工程で製造されるFe-Ni基析出硬化型超合金は、高温強度、クリープ強度が極めて優れており、ジェットエンジンのタービンブレードなどの超耐熱材に使用されている。」

(c)「【0007】ここで、本願発明が応用される超合金は、FeとNiをベース成分とし、その他必要な成分が添加されたものであり、その後、本願発明の製造工程で析出硬化によって、強度が高められるものである。ただし、本願発明としては、上記超合金のFe、Niの含有量や、他の成分の種別、含有量が特に限定されるものではない。他の成分の一例としてしては、Cr、Al、Ti、Nbが適当量添加され、S、Pなどが不可避的に含まれるものが考えられる。その代表例としては、インコネル706(商標名)合金を挙げることができる。」

(d)「【0008】そして、超合金は、析出物などを固溶させるように、固溶化処理がなされるが、その温度や、時間は、超合金の組成や、形状などによって定められる。固溶化処理後の冷却は、冷却速度が小さな空冷や、徐冷によって行われる。徐冷としては、炉冷が代表的であるが、炉内冷却に限定されるものではなく、要は、十分に遅い冷却速度で冷却する方法であればよい。但し、その速度は、少なくとも、冷却によって合金を過冷でき、後工程の時効処理によって、析出物が得られるものでなければならない。なお、上記空冷においても、そのガスの選択や、静置、送風、撹拌などの冷却方法も限定されるものではなく、適宜選択することができる。」

(e)「【0009】そして、中間時効処理は、固溶化処理を、油冷または油冷よりも速い冷却速度で冷却した場合に必要とされる中間時効処理時間よりも、短い時間で行うか、あるいは、その処理を省略する。なお、中間時効処理温度は、変更することを要しない。中間時効処理の有無や、処理時間の短縮量は、超合金の組成や、固溶化処理後の冷却速度などに従って、決定される。中間時効処理後の時効処理は、従来と同様の温度、時間などに従って行うことができる。また、所望により、処理時間を短縮して行うことも可能であり、過時効を防ぐために、時効処理時間の短縮が必須とされる場合もある。」

(f)「【0012】
【実施例】以下に、この発明の実施例を、本発明の範囲外の比較例と比較しつつ、説明する。表1に示す合金組成(含有量;重量%)からなるインコネル706合金を溶製、鍛造して、第1図に示す径640mm、厚さ240mmのディスク材4を用意し、供試合金A,Bとした。なお、合金No.欄で、「規格」と記載してある各含有量の数値は、インコネル706合金の規格値を示すものである。」

(g)「【0013】
【表1】



(h)「【0016】
【表2】



(i)「【0018】
【表3】



(j)「【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本願発明のFe-Ni基析出硬化型超合金の製造方法によれば、固溶化処理後の冷却速度を遅くするとともに、中間時効処理を短縮化、または省略することにより、熱処理効果の不均質さや、焼き割れを回避することができる。また、本願発明の製造方法によれば、小型部材はもとより、大型部材においても、均質で、十分な析出硬化が達成され、従来の製造方法によるよりも、高温強度およびクリープ特性の優れたFe-Ni基析出硬化型超合金を得ることができる。」

5.当審の判断
(1)引用発明
刊行物1の(a)には、「FeおよびNiをベース成分とする超合金を、固溶化処理した後、中間時効処理し、その後、時効処理を行うFe-Ni基析出硬化型超合金の製造方法において、前記固溶化処理後の冷却を、空冷または空冷よりも遅い冷却速度で行うとともに、前記中間時効処理の処理時間を短縮し、または、中間時効処理を省略し、その後、時効処理を行うことを特徴とするFe-Ni基析出硬化型超合金の製造方法」が記載されている。
ここで、上記製造方法の「FeおよびNiをベース成分とする超合金」における成分組成は、(c)の「本願発明が応用される超合金は、FeとNiをベース成分とし、その他必要な成分が添加されたものであり、その後、本願発明の製造工程で析出硬化によって、強度が高められるものである。・・・その代表例としては、インコネル706(商標名)合金を挙げることができる。」という記載によると、インコネル706合金であるということができ、その成分組成は、(f)の「表1に示す合金組成(含有量;重量%)・・・なお、合金No.欄で、「規格」と記載してある各含有量の数値は、インコネル706合金の規格値を示すものである。」という記載、及び(g)の「合金No.」が「規格」である成分組成によると、重量%で、C<0.06%、Si<0.35%、Mn<0.35%、P<0.020%、S<0.015%、Ni:39.00?44.00%、Cr:14.50?17.50%、Nb:2.50?3.30%、Ti:1.50?2.00%、Al<0.40%、B<0.006%、Cu<0.30%、残量Feであるといえる。
また、上記超合金は、(g)の「インコネル706合金を溶製、鍛造して・・・ディスク材4を用意し、供試合金A,Bとした。」という記載によると、上記製造方法の「固溶化処理」を行う対象物は、鍛造したディスク材であるといえるし、上記製造方法の「固溶化処理」、「中間時効処理」及び「時効処理」としては、(i)の表3の記載によると、「固溶化処理」は980℃で3時間の熱処理であり、「中間時効処理」は845℃で1時間の熱処理であり、「時効処理」は第一段階として720℃で8時間、第二段階として620℃で3時間の熱処理からなる複数段階の熱処理であるということができる。
また、上記製造方法の「冷却速度」は、(h)の表2及び(i)の表3の記載によると、平均冷却速度(℃/min)で、測定位置により、3.3、3.0及び2.9であるから、およそ3℃/minであるといえる。

上記記載及び認定事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明が記載されているといえる。

「重量%で
<0.06 炭素、
<0.35 珪素
<0.35 マンガン
<0.015 硫黄
<0.020 燐
14.50?17.50 クロム
39.00?44.00 ニッケル
<0.40 アルミニウム
1.50?2.00 チタニウム
<0.30 銅
2.50?3.30 ニオブ
<0.006 硼素
残量 鉄
よりなる組成を有する鉄およびニッケルをベース成分とする超合金より成る、鍛造したディスク材を固溶化処理しそして続いて時効処理する方法において、固溶化処理済みディスク材を、およそ3℃/minの平均冷却速度で、固溶化処理の際の温度から中間時効処理のための所定の温度に冷却すること、該析出硬化を複数段階で実施し、その第一段階に720℃の温度で8時間の間熱処理しそして第二段階で620℃の温度で3時間の間熱処理し、析出硬化の第一段階に先立って中間時効処理を行い、その際に固溶化処理済み出発物体を845℃の温度に維持すること、固溶化処理を3時間の間、980℃の温度で実施する上記方法。」(以下、「引用発明」という。)

(2)本願発明と引用発明との対比
まず、引用発明の「鉄およびニッケルをベース成分とする超合金」、「ディスク材」、「固溶化処理」、「平均冷却速度」、「中間時効処理」及び「時効処理」は、それぞれ、本願発明の「鉄-ニッケル超合金」、「物体」、「溶体化焼なまし」、「冷却速度」、「別の熱処理段階」及び「析出硬化」に相当する。
引用発明の「鍛造したディスク材」に関して、インコネル706合金相当の成分組成を有する鉄-ニッケル超合金を固溶化処理に先立って熱間鍛造することは、例えば、特開平4-341538号公報の【0017】に記載されるように、本願出願時の技術常識であるから、引用発明の上記「鍛造」とは熱間鍛造を指すことは明らかであり、また、熱間加工である該熱間鍛造によって「ディスク材」が加工硬化していることも明らかである。一方、本願発明の「熱間硬化」も熱間加工による加工硬化であることは明らかであるから、引用発明の「鍛造した」は、本願発明の「熱間硬化した」に相当するといえる。さらに、引用発明の「ディスク材」は、固溶化処理等の熱処理のために、炉中に載置する準備が行われることも明らかである。すると、引用発明の「鍛造したディスク材」は、本願発明の「炉中に準備した熱間硬化した出発物体」に相当するといえる。
そして、(j)の「本願発明の製造方法によれば・・・高温強度およびクリープ特性の優れたFe-Ni基析出硬化型超合金を得ることができる。」及び(b)の「冷却後、時効処理に先立って、中間時効処理が行われており、この処理によって、比較的粗大で安定した相(以下「安定相」と称する)を適度に析出させてクリープ特性の改善を図っている。・・・インコネル706では、上記中間時効処理を安定化処理と称する場合もある(例えばAMS規格)。上記した工程で製造されるFe-Ni基析出硬化型超合金は、高温強度、クリープ強度が極めて優れており」という記載によると、引用発明の上記製造方法を施された「ディスク材」は、安定化処理とも称される中間時効処理により安定相を析出して、高温強度及び高温クリープ特性、すなわち耐熱性に優れたものであり、一方、本願発明の「高温安定性物体」も耐熱性に優れたものといえるから、引用発明の上記製造方法を施された「ディスク材」は、本願発明の「高温安定性物体」に相当するといえる。

そうすると、本願発明と引用発明は、
「重量百分率で
≦0.02 炭素、
≦0.10 珪素
≦0.20 マンガン
≦0.002 硫黄
≦0.015 燐
15?17.50 クロム
40?43 ニッケル
0.1?0.3 アルミニウム
1.5?1.8 チタニウム
<0.30 銅
2.8?3.2 ニオブ
を含有する鉄-ニッケル超合金より成る、炉中に準備した熱間硬化した出発物体を溶体化焼なまししそして続いて析出硬化することによって高温安定性物体を製造する方法において、溶体化焼なまし済み物体を、およそ3℃/分の冷却速度で、溶体化焼なましの際の焼き鈍し温度から別の熱処理段階のための所定の温度に冷却すること、該析出硬化を複数段階で実施し、その第一段階に720℃の温度で熱処理しそして第二段階で620℃の温度で熱処理し、そして析出硬化の第一段階に先立って別の熱処理段階を行い、その際に溶体化焼なまし済み出発物体を845℃の温度に維持すること、溶体化焼なましを3時間の間、980℃の温度で実施する上記方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点イ:鉄-ニッケル超合金の組成に関し、本願発明では、「≦0.30 コバルト」のように、コバルトの含有量を規定するのに対し、引用発明では、コバルトの含有量を規定せず、その含有量が不明である点。

相違点ロ:溶体化焼なまし済み物体を冷却する際に、本願発明では、溶体化焼なましの際の焼き鈍し温度から析出硬化のための所定の温度に、1?5〔℃/分〕の間の冷却速度で冷却するのに対して、引用発明では、溶体化焼なましの際の焼き鈍し温度から別の熱処理段階のための所定の温度に、1?5〔℃/分〕の間である、およそ3〔℃/分〕の冷却速度で冷却するものの、その後に、別の熱処理段階のための所定の温度から析出硬化のための所定の温度に、1?5〔℃/分〕の間の冷却速度で冷却するか否かが不明である点。

相違点ハ:析出硬化の保持時間が、本願発明では、第一段階を「少なくとも10時間、最高50時間の間」とし、第二段階を「少なくとも5時間、最高20時間の間」とするのに対して、引用発明では、第一段階を8時間、第二段階を3時間とする点。

相違点ニ:析出硬化の第一段階から第二段階への移行を、本願発明では、「炉中で冷却する」のに対して、引用発明では、炉中で冷却するか否かが不明である点。

(3)相違点についての判断
上記相違点イ?ニについて検討する。
(3-1)相違点イについて
引用発明は、コバルトの含有量について何ら規定していないことからして、コバルトを積極的に含有させるものではないと解されるが、コバルトが、炭素、銅、硫黄や珪素と同様に、ニッケルに不可避的に付随する不純物成分として、ニッケルに混入してしまう元素であることは、本件出願前に広く知られた技術事項であるから(例えば、「化学大辞典3 縮刷版」共立出版、1993年、714?715頁を参照されたい)、多量のニッケルを含有する合金である引用発明の鉄-ニッケル超合金が、不純物成分として コバルトを含有するであろうことは、当業者が容易に予測できたことといえる。
そうすると、引用発明において、炭素、銅、硫黄や珪素等の不純物成分の上限を規定したのと同じように、コバルトにも着目して、その上限を規定する程度のことは、当業者であれば容易になし得たことである。
そうすると、上記相違点イは容易に想到し得たことであるといえる。

(3-2)相違点ロについて
刊行物1には、従来、例えば、インコネル706(商標名)合金では、925?980±15℃で固溶化処理を行った後、水冷し、845℃で3時間保持する中間時効処理を行い、次いで、720℃で8時間の時効処理を行い、さらに、これを50℃/時間の冷却速度で冷却し、引き続き620℃で8時間時効させる2段時効を行っていたが(【0003】参照)、上記した合金を、発電用ガスタービンディスクなどの大型部材に使用すると、製造工程の急冷時に、材料の表層部と内部とで、小型部材ではみられないような極めて大きな冷却速度差が生じてしまい、この冷却速度差によって、合金に大きな熱応力が生じて、割れが発生し易くなり、また、熱処理効果も、冷却速度差によって著しく差が生じてくるので、機械的性質が、位置によって異なり非常に不均質になるという課題があったので(【0004】参照)、このような課題を解決するため、固溶化処理後の冷却を空冷または空冷よりも遅い冷却速度で行うこと(【0006】参照)、但し、その速度は、少なくとも、冷却によって合金を過冷でき、後工程の時効処理によって、析出物が得られるものでなければならないこと(【0008】参照)が記載されていると認められる。
以上によれば、引用発明は、固溶化処理後の冷却に際し、表層部と内部とで冷却速度差が生じて割れが発生したり、機械的性質が位置によって不均質になったりすることがないように十分に遅い冷却速度であるとともに、他方で、少なくとも冷却によって合金を過冷却でき、後工程の時効処理によって、析出物を得ることができる冷却速度を確保できるように冷却速度を定めたものであって、このような冷却速度の具体的な値として、およそ3℃/分という冷却速度を用いたものということができる。
ここで、時効処理のためには、固溶化処理後、冷却によって時効温度まで過冷状態、すなわち、過飽和固溶体の状態を保持する必要があることは当業者が通常知ることであるから、引用発明において、固溶化処理の際の温度から中間時効処理のための所定の温度、言い換えると、溶体化焼なましの際の焼き鈍し温度から別の熱処理段階のための所定の温度に、およそ3〔℃/分〕の冷却速度で冷却したのと同様に、中間時効処理のための所定の温度から時効温度、言い換えると、別の熱処理段階のための所定の温度から析出硬化のための所定の温度への冷却についても、焼割れの発生や熱処理効果の不均一が回避でき、しかも、過冷状態を得ることができる冷却速度である、およそ3〔℃/分〕の冷却速度を用いて冷却する程度のことは、当業者が容易に想到することができたことといえる。
してみれば、上記相違点ロは容易に想到し得たことである。

(3-3)相違点ハについて
時効処理において、処理時間とともに硬度や強度が上昇し、相当の時間が経過すると硬度や強度はピークを示した後に、過時効となって低下することは広く知られていることであり、時効処理に際し、所望の硬度や強度が得られるように、処理時間を定めることは当業者が適宜行うことができることといえる。
一方、析出硬化型超合金に時効処理を行うに際し、所定の温度にて5?35時間のように、相当の長時間均熱保持することも、本願出願前に当業者に普通に知られていたことである(例えば、特開昭62-218515号公報を参照されたい。)。
そうすると、引用発明において、所望の硬度や強度に応じて、時効処理の処理時間、すなわち、析出硬化の保持時間の適切な範囲を再検討して、第一段階を少なくとも10時間、最高50時間の間とし、第二段階を少なくとも5時間、最高20時間の間とすることは、当業者が容易に想到することができたことといえる。
してみれば、上記相違点ハは容易に想到し得たことである。

(3-4)相違点ニについて
インコネル706合金の時効処理において、その第一段階から第二段階への冷却を炉冷とすることは、特開平4-341538号公報の【0004】に記載されるように、本願出願前に周知の事項である。
すると、インコネル706合金の成分組成を有する超合金の時効処理であることが明らかな引用発明において、時効処理の第一段階から第二段階への冷却を炉冷とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
してみれば、上記相違点ニは容易に想到し得たことである。

(4)小括
したがって、上記相違点イ?ニは当業者が容易に想到し得たことであるといえるから、本願発明は、引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-21 
結審通知日 2008-09-16 
審決日 2008-09-30 
出願番号 特願平8-305156
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 3L案件管理書架D鈴木 葉子  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 山本 一正
近野 光知
発明の名称 IN 706 タイプの鉄- ニッケル超合金より成る高温安定性物体の製造方法  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 奥村 義道  
代理人 江崎 光史  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ