• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1194877
審判番号 不服2007-25120  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-13 
確定日 2009-03-26 
事件の表示 特願2003-129116「光起電力素子」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-335711〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成15年5月7日に特許出願したものであって、平成19年6月18日付けで手続補正がなされたが、同年8月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月13日付けで拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年10月15日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

2 本件補正についての却下の決定
(1)結論
本件補正を却下する。

(2)理由
ア 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1につき、補正前の
「pin接合を3組直列に設ける光起電力素子において、光入射側からi型非晶質半導体を有する第1のpin接合と、次にi型微結晶半導体を有する第2と第3のpin接合とにより構成され、前記第2のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流が隣接する第1および第3のpin接合で発生する光電流より0.8mA/cm^(2)以上2mA/cm^(2)以下少ないことを特徴とする光起電力素子。」

「pin接合を3組直列に設ける光起電力素子において、光入射側からi型非晶質半導体を有する第1のpin接合と、次にi型微結晶半導体を有する第2と第3のpin接合とにより構成され、前記第2のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流が隣接する第1および第3のpin接合で発生する光電流より0.8mA/cm^(2)以上1.6mA/cm^(2)以下少ないことを特徴とする光起電力素子。」
に補正する内容を含むものである。

イ 補正の目的
上記アの補正の内容は、「第2のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流が隣接する第1および第3のpin接合で発生する光電流より」少ない値の範囲について、補正前の請求項1の「0.8mA/cm^(2)以上2mA/cm^(2)以下」から「0.8mA/cm^(2)以上1.6mA/cm^(2)以下」に減縮するものであるから、上記アの補正の内容に係る本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。

ウ 独立特許要件
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(ア)刊行物の記載
a 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平11-243218号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリコン系非単結晶半導体からなるp型層、i型層、n型層を有するpin接合の構成素子を複数積層した積層型光起電力素子において、
光入射側から第一のpin接合のi型層として非晶質シリコンを用い、第二のpin接合のi型層として微結晶シリコンを用い、第三のpin接合のi型層として微結晶シリコンを用いていることを特徴とする積層型光起電力素子。」

b 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平11-243219号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。

「【0005】本発明は、第一のpin接合の構成素子のi型層に微結晶半導体を用い、第二のpin接合の構成素子のi型層にアモルファス半導体を用いて、光電変換効率が高く、長時間の光照射によっても光電変換効率の変化のより少ない積層型光起電力素子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、本発明の積層型光起電力素子は、支持体上に、微結晶半導体をi型層に有するpin接合の構成素子と、アモルファス半導体をi型層に有するpin接合の構成素子とを少なくとも積層してなる積層型光起電力素子において、微結晶半導体をi型層に有するpin接合の構成素子によって電流値が律速されているものである。
【0007】また、微結晶半導体をi型層に有するpin接合の構成素子の短絡電流が、アモルファス半導体をi型層に有するpin接合の構成素子の短絡電流よりも小さく設定されていることが好ましい。」、

「【0035】また、このようなpin接合を有する光起電力素子を2つ積層したダブル構造の光起電力素子の他に、pin接合を有する光起電力素子を3つ積層したトリプル構造、およびそれ以上の積層型光起電力素子においても本発明を適用することができるものである。」

(イ)引用発明
上記(ア)aによれば、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「 シリコン系非単結晶半導体からなるp型層、i型層、n型層を有するpin接合の構成素子を複数積層した積層型光起電力素子において、
光入射側から第一のpin接合のi型層として非晶質シリコンを用い、第二のpin接合のi型層として微結晶シリコンを用い、第三のpin接合のi型層として微結晶シリコンを用いている積層型光起電力素子。」(以下「引用発明」という。)

(ウ)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明は、「光入射側から第一のpin接合のi型層として非晶質シリコンを用い、第二のpin接合のi型層として微結晶シリコンを用い、第三のpin接合のi型層として微結晶シリコンを用い」た「pin接合の構成素子」を「積層した積層型光起電力素子」であるから、本願発明の「pin接合を3組直列に設ける光起電力素子」、「光入射側からi型非晶質半導体を有する第1のpin接合と、次にi型微結晶半導体を有する第2と第3のpin接合とにより構成され」との構成を備えることが明らかである。
よって、両者は、
「pin接合を3組直列に設ける光起電力素子において、光入射側からi型非晶質半導体を有する第1のpin接合と、次にi型微結晶半導体を有する第2と第3のpin接合とにより構成される光起電力素子」
である点で一致し、
「本願補正発明は、第2のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流が隣接する第1および第3のpin接合で発生する光電流より0.8mA/cm^(2)以上1.6mA/cm^(2)以下少ないのに対し、引用発明は、そのようなものであるかどうか不明である点」(以下「相違点」という。)
で相違するものと認められる。

(エ)判断
a 前記(ア)bによれば、引用例2には、光電変換効率が高く、長時間の光照射によっても光電変換効率の変化のより少ない積層型光起電力素子を提供するために、支持体上に、微結晶半導体をi型層に有するpin接合の構成素子と、アモルファス半導体をi型層に有するpin接合の構成素子とを少なくとも積層してなる積層型光起電力素子において、微結晶半導体をi型層に有するpin接合の構成素子の短絡電流が、アモルファス半導体をi型層に有するpin接合の構成素子の短絡電流よりも小さく設定し、微結晶半導体をi型層に有するpin接合の構成素子によって電流値が律速されるようにする技術が記載されており、当該技術は、pin接合を有する光起電力素子を3つ積層したトリプル構造、およびそれ以上の積層型光起電力素子においても適用できることが記載されているものと認められる。

b 引用例2でいう「pin接合の構成素子の短絡電流」は、本願補正発明でいう「pin接合で発生する光電流」に相当する。
してみると、光起電力素子において、光入射側からi型非晶質半導体を有する第1のpin接合と、次にi型微結晶半導体を有する第2と第3のpin接合とにより構成され、pin接合を3組直列に設ける光起電力素子である引用発明において、第2のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流が、i型非晶質半導体を有する第1のpin接合で発生する光電流より少ないものとすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。
また、その際に、第2のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流が、i型非晶質半導体を有する第1のpin接合で発生する光電流よりどの程度少ないものとするかは、設計上の必要に応じて、当業者が適宜実験的に定め得るものというべきである。
c さらに、第3のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流についても、設計上当然定まるべきものというべきところ、第2のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流との関係においてみるに、これより多い、少ない、あるいは、同程度の3種類しかないから、第2のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流を、第3のi型微結晶半導体を有するpin接合で発生する光電流より少ないものとすることに格別の困難性を要するものとはいえない。

d しかるところ、本願明細書(本件補正後のもの。)には、「表4の結果からわかるように、第2のpin接合で発生する光電流が最少で、隣接するpin接合で発生する光電流との差が0.8mA/cm^(2)以上の場合に変換効率が向上しており、また、長時間にわたり特性に変化が少なく信頼性が高い。」(【0075】)との記載がある。
しかし、表4をみると、第2のpin接合で発生する光電流が、第1及び第3のpin接合で発生する光電流より、それぞれ、0.9mA/cm^(2)及び0.8mA/cm^(2)少ない「実施例2」の初期変換効率及び劣化後変換効率は、それぞれ、12.3%及び11.8%であるところ、第2のpin接合で発生する光電流が、第1のpin接合で発生する光電流より0.5mA/cm^(2)少なく、第3のpin接合で発生する光電流と差がない「比較例1」の初期変換効率及び劣化後変換効率は、それぞれ、12.3%及び11.7%であり、初期変換効率については全く差がなく、本願補正発明が、初期変換効率を向上させたものということはできない。また、劣化後変換効率についても、0.1ポイントの、いわば微差があるにとどまり、加えて、実施例1ないし実施例3と比較例2及び比較例3とは、劣化後変換効率が初期変換効率から0.5ポイント低下するものである点において全く差がないことに照らせば、表4の結果をもって、本願補正発明が、格別、「長時間にわたり特性に変化が少なく」したものということはできない。
そうすると、本願補正発明が、第2のpin接合で発生する光電流を最少としたこと、さらには、隣接するpin接合で発生する光電流との差が0.8mA/cm^(2)以上としたことによって、変換効率を格別向上させたものともいえないし、長時間にわたり特性の変化を格別少なくしたものともいえず、本願補正発明において、第2のpin接合で発生する光電流を最少とし、隣接するpin接合で発生する光電流との差が0.8mA/cm^(2)以上としたことに格別の技術的意義があるものと認めるに到らない。

e また、本願明細書には、「なお、本発明における上記電流差は、0.8mA/cm^(2)以上2mA/cm^(2)以下が好ましく、より好ましくは0.8mA/cm^(2)以上1.6mA/cm^(2)以下であり、0.8mA/cm^(2)以上1.4mA/cm^(2)以下が特に好ましい。上記の電流差が2mA/cm^(2)を超える場合には、短絡電流が著しく低下し、変換効率の向上が見込めなくなる。」(【0021】)との記載があるが、同記載をもって、本願補正発明において、第2のpin接合で発生する光電流と、隣接する第1および第3のpin接合で発生する光電流との差を1.6mA/cm^(2)以下とした点に、設計的事項の域を超えるほどの技術的意義があるものとは認められない。

f 以上の検討に照らせば、引用発明において、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、引用例2記載の技術に基づき、当業者が設計的に適宜定め得る程度のことといわざるを得ない。

(オ)まとめ
以上の検討によれば、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであって、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
(1)本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成19年6月18日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項2に記載された事項によって特定されるものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記2(2)アにおいて、補正前のものとして示したとおりのものである。

(2)判断
前記2(2)イのとおり、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。
しかるところ、前記2(2)ウで検討したとおり、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものである本願補正発明が、引用例1に記載された発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、減縮前の本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用例1に記載された発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-23 
結審通知日 2009-01-27 
審決日 2009-02-09 
出願番号 特願2003-129116(P2003-129116)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 万里子  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 岩本 勉
小牧 修
発明の名称 光起電力素子  
代理人 渡辺 敬介  
代理人 山口 芳広  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ