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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M |
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管理番号 | 1194906 |
審判番号 | 不服2006-25829 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-11-16 |
確定日 | 2009-03-25 |
事件の表示 | 平成11年特許願第111227号「選択分離膜」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月31日出願公開、特開2000-300663号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成11年4月19日を出願日とする出願であって、平成18年10月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成18年11月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書の手続補正がなされ、さらに、当審において平成20年10月29日付けで補正却下の決定がなされるとともに拒絶理由が通知され、これに対して、平成20年12月2日付けで明細書の手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年12月2日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「疎水性高分子と親水性高分子とからなる血液処理用の乾燥選択分離膜モジュールにおいて、40%エタノール水溶液で抽出される該親水性高分子が選択分離膜の血液接触側膜面積1m^(2)あたり1.3mg以下、かつ親水性高分子が実質的に非架橋であることを特徴とする血液処理用の乾燥選択分離膜モジュール。」 2.引用例の記載事項 (2-1)当審による拒絶理由に引用された本願出願前に頒布された特開平6-165926号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。 (a)【請求項1】ポリスルホン系ポリマーからなる、内表面に緻密層をもつ非対称構造の中空繊維膜であって、該中空繊維膜はポリスルホン系ポリマーを主成分とし、少なくとも1重量%のポリグリコール類と1?8重量%のビニルピロリドン系ポリマーを含有し、かつ中空繊維膜の内表面の緻密層に存在するポリスルホン系ポリマーとビニルピロリドン系ポリマーの重量比率が90:10?60:40で、しかも中空繊維膜の内表面の上記緻密層に存在するビニルピロリドン系ポリマーの重量比率が外表面層に存在するビニルピロリドン系ポリマーの重量比率の少なくとも 1.1倍であることを特徴とするポリスルホン系中空繊維膜。」 (b)「【0035】凝固液には水、アルコール類、グリコール類等のポリスルホン系ポリマーの非溶媒、または貧溶媒の単独、あるいは2種類以上の混合液、さらにこれらと溶媒との混合液が用いられるが、ポリスルホン系ポリマーの貧溶媒または非溶媒の作用のあるもので極性溶媒、ポリグリコール類及びビニルピロリドン系ポリマーと相溶性がある溶液であれば特に制限はない。」 (c)「【0036】凝固浴で凝固した中空繊維膜は、次いで水洗または40?70℃以下の温水洗浄で溶媒、ポリグリコール類、ビニルピロリドン系ポリマーが抽出除去される。この際ポリグリコール類は大部分が、ビニルピロリドン系ポリマーは余剰分が抽出されるが、どちらも完全には抽出されず膜中に残存する。ポリグリコール類、ビニルピロリドン系ポリマーが中空繊維膜中に残存する理由としては凝固の際に膜中に取り込まれ固定化されるためと推測される。」 (d)「【0037】次に、場合によっては80℃以上の熱水処理を行う。熱水処理を予め行っておくと、溶媒、ポリグリコール類、ビニルピロリドン系ポリマーの洗浄効率が向上する上に熱に対する安定性が向上し、たとえば 100℃以上の高圧蒸気減菌を行った際に中空繊維膜の収縮等が防止できるので有効である。」 (e)「【0038】本発明では上記工程の後、さらに中空繊維膜をポリスルホン系ポリマーに対して貧溶媒作用を有する溶液によって処理し、膜全体、特に外表面側の余剰のビニルピロリドン系ポリマーの抽出除去を行う。貧溶媒作用を有する溶媒とは、ポリスルホン系ポリマーに対して溶解はしないが膨潤等の何らかの作用を有するもので、かつビニルピロリドン系ポリマーを溶解するものをいい、アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、重量平均分子量 600以下のポリエチレングリコールの単独や混合液またはそれらの1重量%以上の水溶液が例示できる。また処理方法には、中空繊維膜を凝固して洗浄した後に引き続き抽出処理する方法と、膜を乾燥してモジュールを作製したのちにモジュール毎に抽出処理する方法があるが、例えば膜を乾燥させたときに中空繊維膜同士の膠着が発生しモジュール化時の障害となり得る場合は前者の方法を用い、膠着の問題はあまりなくモジュール化後の方が効率的である場合は後者の方法を用いるというように、製造条件、工程通過性、製造効率、コスト等を考慮して選択することができる。また、両方で処理することも可能である。該処理は製造安定性を向上し、さらにビニルピロリドン系ポリマーの含有量や分布状態を血液処理に適した状態に調節することを目的としているので、処理液組成や処理時間はこの点を充分考慮して設定する必要がある。」 (f)「【0039】水洗、熱水洗処理、貧溶媒作用を有する溶液での処理等を行うと余剰のポリグリコール類やビニルピロリドン系ポリマーが抽出除去され、中空繊維膜中に取り込まれ固定化されたものだけが残存するため、使用時にこれらが溶出することはほとんどない。」 (g)「【0040】本発明の中空繊維膜は、透析型人工腎臓装置承認基準に示された「透析器の品質および試験法」の透析膜の溶出物試験(以下これを人工腎臓承認基準と略称する)に記載されている方法により、溶出物の評価を行うと、紫外線吸収スペクトルとして、層長10mmで波長 220?350nm における吸光度が 0.1以下であり、そのままの状態でも人工腎臓承認基準に合格するものである。このように、本発明の中空繊維膜は、例えば、熱処理、アルカリ加熱処理、γ線処理等の従来公知の手段によりビニルピロリドン系ポリマーを架橋構造化し、水に対して不溶化する処理を特別に行わなくても、血液処理装置、特に透析型人工腎臓に使用できる。」 (h)「【0041】これらの処理を終えた中空繊維膜は、たとえば枠等に捲き取り、乾燥される。乾燥した中空繊維膜は束ねられ、その両端部はポリウレタンなどの熱硬化性ポリマーによりハウジングに固定されモジュール化される。該モジュールは、EOG滅菌、高圧蒸気滅菌等の公知の方法で滅菌処理された後、体液等の処理装置として、血液透析、血液濾過、血液濃縮などに供される。」 (i)上記(f)および(g)の記載事項からして、引用例1には、「水洗、熱水洗処理、貧溶媒作用を有する溶液での処理等を行うと余剰のポリグリコール類やビニルピロリドン系ポリマーが抽出除去されるため、従来公知の手段によりビニルピロリドン系ポリマーを架橋構造化して水不溶化する処理を特別に行わなくても、使用時にこれらが溶出することはほとんどなく(吸光度が0.1以下)、血液処理装置、特に透析型人工腎臓に使用することができる」ことが記載されているに等しい。 (j)EOG滅菌(エチレンオキサイドガスによる滅菌)がガスを用いた乾燥処理であること自体、当業者における自明の技術事項であることから、上記(h)の記載事項において、EOG滅菌を行う場合、引用例1には、「モジュール化された乾燥中空繊維膜をEOG滅菌(乾燥処理)した後、体液等の処理装置として、血液透析、血液濾過、血液濃縮などに供する」こと、つまり、「乾燥中空繊維膜モジュールを、体液等の処理装置として、血液透析、血液濾過、血液濃縮などに供する」ことが記載されているに等しい。 上記(a)ないし(j)の記載事項より、引用例1には、 「ポリスルホン系ポリマーを主成分とし、少なくとも1重量%のポリグリコール類と1?8重量%のビニルピロリドン系ポリマーを含有する『血液透析、血液濾過、血液濃縮などに供される』乾燥中空繊維膜モジュールにおいて、中空繊維膜からビニルピロリドン系ポリマーが溶出することはほとんどなく、かつビニルピロリドン系ポリマーが架橋構造化されていない、『血液透析、血液濾過、血液濃縮などに供される』乾燥中空繊維膜モジュール。」の発明が開示されている。 (2-2)当審による拒絶理由に引用された本願出願前に頒布された国際公開第98/52683号(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある。 (k)請求の範囲の記載 「3.中空糸膜内側を40%アルコール水溶液で循環抽出した時のポリビニルピロリドンの溶出量が膜面積1m^(2)当たり0.5mg以下である請求項1記載のポリスルホン系中空糸膜型血液浄化膜。」 (l)明細書第7頁第23から26行 「具体的には、中空糸膜をモジュールに組み込み、中空糸膜の内側すなわち血液側に40%エタノール水溶液を37℃で4時間循環した際のPVPの溶出量が膜面積1m^(2)当たり0.5mg以下である。」 上記(k)および(l)の記載事項より、引用例2には、 「ポリビニルピロリドンを含有するポリスルホン系の中空糸膜型血液浄化膜において、40%エタノール水溶液で抽出される該ポリビニルピロリドンが浄化膜の血液側膜面積1m^(2)あたり0.5mg以下である、中空糸膜型血液浄化膜。」の発明が開示されている。 3.対比判断 本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。 ○引用例1記載の発明の「ポリスルホン系ポリマー」、「ビニルピロリドン系ポリマー」、「『血液透析、血液濾過、血液濃縮などに供される』」、「中空繊維膜」、「乾燥中空繊維膜モジュール」、「ビニルピロリドン系ポリマーが架橋構造化されていない」は、 本願発明の「疎水性高分子」、「親水性高分子」、「血液処理用の」、「選択分離膜」、「乾燥選択分離膜モジュール」、「親水性高分子が実質的に非架橋である」のそれぞれに相当する。 ○引用例1記載の発明の「ポリスルホン系ポリマー(疎水性高分子)を主成分とし、少なくとも1重量%のポリグリコール類と1?8重量%のビニルピロリドン系ポリマー(親水性高分子)を含有する」ことは、ポリグリコール類が1重量%(少量)である場合を含み、これは、本願発明の「疎水性高分子と親水性高分子とからなる」ことに相当する。 ○引用例1記載の発明の「中空繊維膜(選択分離膜)からビニルピロリドン系ポリマー(親水性高分子)が溶出することはほとんどなく」と、本願発明の「40%エタノール水溶液で抽出される該親水性高分子が選択分離膜の血液接触側膜面積1m^(2)あたり1.3mg以下」であるとは、「選択分離膜からの親水性高分子の溶出がほとんどなく」という点で共通する。 上記より、引用例1記載の発明は、「疎水性高分子と親水性高分子とからなる血液処理用の乾燥選択分離膜モジュールにおいて、選択分離膜からの該親水性高分子の溶出がほとんどなく、かつ親水性高分子が実質的に非架橋である、血液処理用の乾燥選択分離膜モジュール。」に相当するものであり、この点において本願発明と一致し、以下の点で相違する。 本願発明では、疎水性高分子と親水性高分子とからなる血液処理用の選択分離膜からの親水性高分子の溶出がほとんどない程度が「40%エタノール水溶液で抽出される親水性高分子が選択分離膜の血液接触側膜面積1m^(2)あたり1.3mg以下」であるのに対して、 引用例1記載の発明では、親水性高分子の溶出がほとんどないものの、この程度が「40%エタノール水溶液で抽出される親水性高分子が選択分離膜の血液接触側膜面積1m^(2)あたり1.3mg以下」であるかどうか明らかでない点。(以下、「相違点」という。) 相違点について検討する。 上記2.(2-2)で示したように、引用例2には、 「ポリビニルピロリドンを含有するポリスルホン系の中空糸膜型血液浄化膜において、40%エタノール水溶液で抽出される該ポリビニルピロリドンが浄化膜の血液側膜面積1m^(2)あたり0.5mg以下である、中空糸膜型血液浄化膜。」の発明が開示されている。 ここで、引用例2記載の発明の「ポリスルホン系」、「ポリビニルピロリドン」、「中空糸膜型血液浄化膜」、「血液側膜面積」、「ポリビニルピロリドンを含有するポリスルホン系の」は、 本願発明の「疎水性高分子」、「親水性高分子」、「血液処理用の選択分離膜」、「血液接触側膜面積」、「疎水性高分子と親水性高分子とからなる」のそれぞれに相当していることから、 引用例2記載の発明は、「疎水性高分子と親水性高分子とからなる血液処理用の選択分離膜において、40%エタノール水溶液で抽出される該親水性高分子が選択分離膜の血液接触側膜面積1m^(2)あたり0.5mg以下である、血液処理用の選択分離膜。」に相当するものである。 そうすると、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とは、「疎水性高分子と親水性高分子とからなる血液処理用の選択分離膜」という点で共通していることから、 引用例1記載の発明において、疎水性高分子と親水性高分子とからなる血液処理用の選択分離膜からの親水性高分子の溶出がほとんどない程度を示すために、引用例2記載の発明における、この程度を示す指標としての「40%エタノール水溶液で抽出される親水性高分子が選択分離膜の血液接触側膜面積1m^(2)あたりどれくらいになるか」を適用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 そして、引用例1記載の発明において、この指標を適用する際、抽出量を例えば1.3mg以下にすることは、以下(イ)ないし(ハ)の点からして、当業者であれば適宜決定する設計事項である。 (イ)本願明細書には、例えば「【0012】以上の研究により、40%エタノール水溶液で抽出される該親水性高分子が、該選択分離膜の被処理液側膜面積1m^(2) 当たり10mg以下にすることにより、安全性が著しく向上した選択分離膜が得られることを見出し、本発明に到達した。」との記載、【0025】【表1】の表示があるものの、抽出量を1.3mg以下にすることにおける1.3mgの臨界的意義を示す明記がないことから、この1.3mg以下にすることに格別の技術的意義があるとはいえない点。 (ロ)上記2.(2-1)(i)の記載事項からして、引用例1記載の発明では、「使用時にこれらが溶出することはほとんどなく(吸光度が0.1以下)」となっており、ここで、0.1以下の吸光度は、ゼロに近い吸光度を包含しており、そうである以上、引用例1記載の発明において、上記指標を適用したときの抽出量が1.3mg以下である場合もあり得るということができる点。 (ハ)余剰の親水性高分子(ポリビニルピロリドン)を抽出除去する処理について、 本願発明では、明細書の「【0022】実施例1 ポリビニルピロリドン(K-90,BASF社製)0.025g/mL の水溶液を、水溶液の水に対する浴比が2.5 ?3.0 倍の貧溶媒であるアセトン中へ滴下し、再沈殿法により積極的に低分子量体を除去したポリビニルピロリドンを収率90% で得た。これを以下、精製ポリビニルピロリドンと称する。精製前のポリビニルピロリドンと、精製時に排除した分画のゲルパーミエーションクロマトグラフィーのプロファイルを図1、図2に示す。図より明らかなように、精製時に低分子分画(透過時間が長い方向)のみが選択的に排除されていることがわかる。・・・ポリビニルピロリドンの溶出は中空糸内膜面積1m^(2) あたり1.0mgであった。」との記載からして、例えば貧溶媒による処理を行っており、 一方、上記2.(2-1)(f)の記載事項からして、引用例1記載の発明では、「水洗、熱水洗処理、貧溶媒作用を有する溶液での処理等」を行っていることから、 両者は、類似の処理を行っているということができ、そうである以上、引用例1記載の発明において、上記指標を適用したときの抽出量が本願発明と同程度である場合もあり得るということができる点。 したがって、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例1及び2記載の発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。 そして、本願発明の作用効果は、引用例1及び2記載の発明から当業者であれば十分に予測し得ることである。 よって、本願発明は、引用例1及び2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび したがって、本願発明は、引用例1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-12-26 |
結審通知日 | 2009-01-13 |
審決日 | 2009-01-27 |
出願番号 | 特願平11-111227 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北村 英隆 |
特許庁審判長 |
亀丸 広司 |
特許庁審判官 |
吉澤 秀明 豊永 茂弘 |
発明の名称 | 選択分離膜 |
代理人 | 柿澤 紀世雄 |