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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K |
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管理番号 | 1194917 |
審判番号 | 不服2007-21099 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-07-31 |
確定日 | 2009-03-25 |
事件の表示 | 特願2001-100482「魚釣用スピニングリール」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 8日出願公開、特開2002-291381〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願発明 本願は、平成13年3月30日の出願であって、平成19年6月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月31日に審判請求がなされたものである。 そして、その請求項1に係る発明は、平成19年2月6日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。 「【請求項1】 リール本体に回転自在に支持されたロータと、このロータから延びる一対の腕部に回動反転可能に取り付けられた一対のベール支持部材と、これら一対のベール支持部材に支持されたベールと、一方側のベール支持部材に設けられた釣糸案内部と、この釣糸案内部の近傍に設けられ且つベール反転時にベールで拾われた釣糸を前記釣糸案内部へ導くように構成された釣糸導入部と、この釣糸導入部に形成され且つベールの端部を取付可能なベール取付部とを備えた魚釣用スピニングリールにおいて、 前記ベールを全体に亘って中空形状に形成すると共に、前記ベールの端部に接合する前記ベール取付部の接合部に中空部が形成されており、前記ベールの中空部及び前記ベール取付部の接合部の中空部内に、中空の補強部材を嵌入させることによって、前記ベール取付部の端部とベールの端部とを互いに当て付け、これらを溶着手段として溶着処理を施すことで接合したことを特徴とする魚釣用スピニングリール。」 (以下、「本願発明」という。) 2.引用刊行物に記載された発明 刊行物1:特開2000-279068号公報 刊行物2:特開平11-178485号公報 (1)刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物1には、図面とともに、以下の記載がある。 (1a)「リール本体に回転自在に支持されたロータの一対の腕部に回動反転可能に取り付けられた一対のベール支持部材と、これら一対のベール支持部材に支持されたベールとを備えると共に、一方側のベール支持部材には、釣糸案内部と、この釣糸案内部の近傍に設けられた釣糸導入部とが設けられ、釣糸導入部の先端側には、一方側のベールの端部を取付可能なベール取付部が突出形成されており、 釣糸導入部は、釣糸案内部側からベール取付部に向かうに従って徐々に縮径した表面形状を成しており、一方側のベールの端部とベール取付部とは、互いに凹凸の無い略同一表面状で且つ同径の形状に形成されていると共に、所定の接合手段によって互いに略同一軸芯上に接合されていることを特徴とする魚釣用スピニングリール。 少なくとも一方側のベールの端部とベール取付部との接合部には、夫々、所定寸法の中空部が形成されており、この中空部内に接合手段としてピンを嵌入させることによって、一方側のベールの端部とベール取付部とを互いに接合させることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用スピニングリール。」(【請求項1】、【請求項2】) (1b)「【発明の属する技術分野】本発明は、糸が引っ掛かったり糸絡みや糸傷等の発生を解消することが可能な魚釣用スピニングリールに関する。」(【0001】) (1c)「・・・釣糸導入部は、釣糸案内部の近傍に設けられており、ベール反転時に釣糸を釣糸案内部へ導くことができるように構成されている。」(【0002】) (1d)「また、少なくとも一方側のベール20の端部とベール取付部26との接合部Wには、夫々、所定寸法の中空部20a,26aが形成されており、この中空部20a,26a内に接合手段としてピン28を嵌入させることによって、ベール20の端部とベール取付部26とを互いに接合させることができるようになっている。 更に、中空部20a,26a内にピン28を嵌入してベール20の端部とベール取付部26とを互いに接合させた状態において、接合手段の構成を成す溶着部30によって、ベール20の端部とベール取付部26との接合部Wに溶着処理(例えば、ロー付け、アルゴン溶接など)を施す。」(【0020】、【0021】) (1e)「また、ベール20の端部とベール取付部26とを互いに凹凸の無い略同一表面状で且つ同径の形状に形成すると共に、所定の接合手段によって互いに略同一軸芯上に接合したことによって、段差の無い接合部Wを実現することができる。この結果、釣糸が引っ掛かって糸絡みや糸傷等が生じ易いといった従来の問題を解消することができる。」(【0024】) (1f)図2(c)、図3(b)には、ベール取付部の端部とベールの端部とを互いに当て付けて接合した点が開示されている。 以上の記載事項(1a)?(1f)から見て、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下、「刊行物1記載の発明」という。) 「リール本体に回転自在に支持されたロータと、このロータから延びる一対の腕部に回動反転可能に取り付けられた一対のベール支持部材と、これら一対のベール支持部材に支持されたベールと、一方側のベール支持部材に設けられた釣糸案内部と、この釣糸案内部の近傍に設けられ且つベール反転時にベールで拾われた釣糸を前記釣糸案内部へ導くように構成された釣糸導入部と、この釣糸導入部に形成され且つベールの端部を取付可能なベール取付部とを備えた魚釣用スピニングリールにおいて、 前記ベールの少なくとも一方側の端部に所定寸法の中空部を形成すると共に、前記ベールの端部に接合する前記ベール取付部の接合部に中空部が形成されており、前記ベールの中空部及び前記ベール取付部の接合部の中空部内に、ピンを嵌入させることによって、前記ベール取付部の端部とベールの端部とを互いに当て付け、溶着処理を施すことで接合した魚釣用スピニングリール。」 (2)刊行物2 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物2には、以下の点が図示されている。 (2a)「ハンドルの回動で連動回転するローターにベール、釣糸誘導部及び釣糸案内部を有する釣糸案内部材を軸着して釣糸巻取り位置と釣糸放出位置に反転可能に構成して釣糸を釣糸案内部材でスプールに巻取るようにした魚釣用スピニングリールにおいて、前記釣糸案内部材のベールを板材で中空状に形成したことを特徴とする魚釣用スピニングリール。 ハンドルの回動で連動回転するローターにベール、釣糸誘導部及び釣糸案内部を有する釣糸案内部材を軸着して釣糸巻取り位置と釣糸放出位置に反転可能に構成して釣糸を釣糸案内部材でスプールに巻取るようにした魚釣用スピニングリールにおいて、前記釣糸案内部材のベール及び釣糸誘導部を板材で一体の中空状に形成したことを特徴とする魚釣用スピニングリール。」(【請求項1】、【請求項2】)。 (2b)「・・・魚釣用スピニングリールのローター1の両側に公知のように反転可能に軸着された釣糸案内部材2は、一端をローター1に軸着したベール3と該ベール3の他端に設けられた釣糸誘導部4と該釣糸誘導部4との間に案内ローラー5を支持しかつローター1に軸着された釣糸案内部6とからなり、・・・ しかして前記ベール3は特にステンレス、ジュラルミン、アルミニウム、チタン等の板材Aを図7のように巻回及び屈曲して断面環状の中空状に形成される・・・ 従ってこのようにベール3を断面環状の中空状に形成するときは、ベール3の軽量化による釣糸案内部材2の軽量化が可能となり魚釣り操作及びリールの携帯運搬が容易になるばかりか、釣糸案内部材2を装着したローター1の回転バランスも安定せしめることができ、魚釣り操作を円滑容易に行うことができる。」(【0006】?【0008】)。 (2c)「図3に示す第2実施例は、図8に示すように板材A′を巻回してベール3と釣糸誘導部4とを一体の中空状に巻回形成し、・・・この第2実施例及び第3実施例のようにベール3及び釣糸誘導部4を一体に中空状に形成するときは、釣糸案内部材2の軽量化を一層促進できると共に該部分の部品点数及びコストの削減を図ることができる。」(【0009】)。 以上の記載事項(2a)?(2c)から見て、刊行物2には、以下の発明が記載されているものと認められる。(以下、「刊行物2記載の技術」という。) 「ハンドルの回動で連動回転するローターにベール、釣糸誘導部及び釣糸案内部を有する釣糸案内部材を軸着して釣糸巻取り位置と釣糸放出位置に反転可能に構成して釣糸を釣糸案内部材でスプールに巻取るようにした魚釣用スピニングリールにおいて、前記釣糸案内部材のベール及び釣糸誘導部を板材を中空状に形成して軽量化して、釣糸案内部材を装着したローターの回転バランスを安定せしめることができ、魚釣り操作を円滑容易に行うことができる魚釣用スピニングリール。」 3.対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明におけるピンも、ベール及びベール取付部の接合部分を補強する機能を有していることが明らかであり、刊行物1記載の発明の「ピン」が本願発明の「補強部材」に相当する。また、ベールについて、本願発明は全体に亘って中空形状に形成されているのに対し、刊行物1記載の発明は、少なくとも一方側の端部に所定寸法の中空部を形成していることから、両者は、ベールの「少なくとも一方側の端部に所定寸法の中空形状に形成」している点で共通している。さらに、刊行物1記載の発明における「溶着処理を施すことで接合」は、本願発明における「溶着手段として溶着処理を施すことで接合」と同義であると言える。 よって、両者は、 「リール本体に回転自在に支持されたロータと、このロータから延びる一対の腕部に回動反転可能に取り付けられた一対のベール支持部材と、これら一対のベール支持部材に支持されたベールと、一方側のベール支持部材に設けられた釣糸案内部と、この釣糸案内部の近傍に設けられ且つベール反転時にベールで拾われた釣糸を前記釣糸案内部へ導くように構成された釣糸導入部と、この釣糸導入部に形成され且つベールの端部を取付可能なベール取付部とを備えた魚釣用スピニングリールにおいて、 前記ベールの少なくとも一方側の端部に所定寸法を中空形状に形成すると共に、前記ベールの端部に接合する前記ベール取付部の接合部に中空部が形成されており、前記ベールの中空部及び前記ベール取付部の接合部の中空部内に、補強部材を嵌入させることによって、前記ベール取付部の端部とベールの端部とを互いに当て付け、これらを溶着手段として溶着処理を施すことで接合した魚釣用スピニングリール。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点1) 本願発明は、ベールを全体に亘って中空形状に形成しているのに対して、刊行物1記載の発明は、ベールの少なくとも一方側の端部に所定寸法の中空部を形成しているものの、ベール全体に亘って中空形状に形成しているか不明である点。 (相違点2) 補強部材について、本願発明は、中空であるのに対し、刊行物1記載の発明は、中空であるか不明である点。 4.判断 相違点について検討する。 (相違点1について) 上記のように、刊行物2には、ベールを全体に亘って中空形状に形成した点が記載されており、刊行物1記載の発明におけるベールにこの点を適用して、全体に亘って中空形状に形成することは、当業者が容易になし得たことである。 してみると、本願発明の上記相違点1に係る構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。 (相違点2について) 上記のように、刊行物2には、釣糸案内装置を魚釣用スピニングリールにおいて、ベールを軽量化することにより、釣糸案内部材を装着したローターの回転バランスを安定させるため、ベールや釣糸誘導部を中空状に形成した点が記載されている。 一方、筒状の部材同士を連結するに際し、連結部材を中空状に形成することは、様々な技術分野において従来行われている技術である(慣用技術である例として、以下の文献を例示する。1.特開2000-295946号公報(竿体の連結構造において、第1中竿と第2中竿との連結部分に中空状のインロー芯を配置した点)、2.特開2000-264246号公報(車体用フレーム及びその製造方法において、接合されるパイプ状形材13同士の内側にパイプ状の連結部材12が配置されて当接し合うパイプ状形材13同士が連結された点)、3.特開2000-279063号公報(インロー継ぎ釣竿において、大径竿管と小径竿管との間に中空状の継ぎ棒を配置した点。これにより連結部において極端に剛性が上がることが抑制され、また、軽量化が図れることが記載されている。))。 さらに、本願発明の詳細な説明には、ベールの端部のみを中空形状とした実施例や、釣糸導入部24が中空である実施例の他に中実に形成された実施例が示されている点を考慮すると、ベール取付部近傍の部材を中空とするか中実とするかは、当業者が適宜決定する事項に過ぎないことが明らかである。 よって、刊行物1記載の発明において、ベール及びその近傍をより軽量化してロータの回転バランスを向上させるため、ベールをベール取付部に接合する補強部材をも中空状に形成することは、当業者が容易になし得たことである。 してみると、本願発明の上記相違点2に係る構成を想到することは、当業者が容易になし得たことである。 請求人は「中空の接合部と補強部材の接合構成により、曲げ荷重の程度に応じて柔軟に弾性変形して応力を分散できるようになり、ベール端部の亀裂が解消でき、接合部を効果的に補強できる」という効果についても主張しているが、上記慣用技術の例3.にも記載されているように、管状の部材同士を中空の連結部材で連結することにより、連結部分での応力集中が防止できることは、自明の作用・効果でしかなく、上記効果を含む請求人が主張するいずれも効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の技術及び慣用技術から当業者が予測し得る程度のものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の技術及び慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-01-22 |
結審通知日 | 2009-01-26 |
審決日 | 2009-02-09 |
出願番号 | 特願2001-100482(P2001-100482) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A01K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 木村 隆一 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
草野 顕子 宮崎 恭 |
発明の名称 | 魚釣用スピニングリール |
代理人 | 水野 浩司 |