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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1194942 |
審判番号 | 不服2007-12413 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-04-27 |
確定日 | 2009-03-27 |
事件の表示 | 特願2002- 62111「反射防止フィルム、偏光板、および画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月19日出願公開、特開2003-262702〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成14年3月7日の出願であって、平成19年2月19日付けで手続補正がなされた後、平成19年3月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年4月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年5月28日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成19年5月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について [補正却下の決定の結論]平成19年5月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「透明支持体上に、設計波長λ(=500nm)に対して下式(I)を満たす中屈折率層、下式(II)を満たす高屈折率層、下式(III)を満たす低屈折率層を順次有する反射防止フィルムであって、該反射防止フィルム構成層の少なくとも1層に下記一般式(A)で表される化合物を含有し、該反射防止フィルムにおける、5度入射における鏡面反射率の450nmから650nmまでの波長領域での平均値が0.5%以下、且つ、波長380nmから780nmの領域におけるCIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味が、CIE1976L*a*b*色空間のa*、b*値がそれぞれ0≦a*≦5、且つ、-7≦b*≦0の範囲内にあることを特徴とする反射防止フィルム。 λ/4×0.80<n1d1<λ/4×1.00 (I) λ/2×0.75<n2d2<λ/2×0.95 (II) λ/4×0.95<n3d3<λ/4×1.05 (III) (但し、式中、n1は中屈折率層の屈折率であり、d1は中屈折率層の層厚(nm)であり、n2は高屈折率層の屈折率であり、d2は高屈折率層の層厚(nm)であり、n3は低屈折率層の屈折率であり、d3は低屈折率層の層厚(nm)である) 一般式(A) (R^(1))m-Si(OR^(2))n (式中、R^(1)は置換もしくは無置換のアルキル基もしくは、アリール基を表す。R^(2)は置換もしくは無置換のアルキル基もしくはアシル基を表す。mは0?3の整数を表す。nは1?4の整数を表す。mとnの合計は4である。)」 と補正された。 本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「CIE1976L*a*b*色空間のa*、b*値」について、「-7≦a*≦7、且つ、-10≦b*≦10」を「0≦a*≦5、且つ、-7≦b*≦0」と限定するものであり、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶理由に引用された特開平11-258403号公報(以下、「引用例1」という。)、及び同じく特開2001-343503号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。 a.引用例1; 反射防止膜およびそれを配置した表示装置に関するもので、 記載事項ア.【0009】 「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、塗布組成物が経時安定性に優れ、また、大量かつ大面積製造の適性があり、それによって得られた反射防止膜は広範な波長領域において一様に低い反射率(反射率1%以下)を示し、同時に膜強度、耐久性、耐汚れ付着性、耐熱性に優れた反射防止膜を提供することにある。また、その反射防止膜を配置した表示装置を提供することにある。」 記載事項イ.【特許請求の範囲】【請求項1】 「低屈折率層が、(a)一般式Si(OR^(1))_(4)(式中R^(1)は炭素数1?5のアルキル基または炭素数1?4のアシル基を表す)で表されるアルコキシシランおよび/または(b)一般式R^(2)Si(OR^(3))_(3)(式中、R^(2)は炭素数1?10のアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、R^(3)は前記R^(1)に同義の基を表す)で表されるオルガノシラン、および/または(c)一般式R^(4)_(2)Si(OR^(5))_(2)(式中、R^(4)は前記R^(2)に同義の基、R^(5)は前記R^(1)に同義の基を表す)で表されるオルガノシラン、および(d)下記一般式(A)で表されるシラノール末端ポリシロキサンの加水分解物および/またはその部分縮合物を含有する組成物を塗設して形成されたものであることを特徴とする反射防止膜。 【化1】 式中、R^(6)は前記R^(2)に同義の基を表し、nは繰り返しを示し、数平均分子量が300?50000である。」 記載事項ウ.【0093】?【0095】 「【0093】本発明の反射防止膜は、上記の方法で組成物を塗設して形成された低屈折率層(1)が、それよりも高い屈折率を有する高屈折率層(2)の上に形成され、2層以上の層より構成されることが好ましい。低屈折率層の屈折率は1.45以下が好ましく、特に1.40以下が好ましい。高屈折率層の屈折率は1.7以上が好ましく、特に1.75以上が好ましい。また、これらの層が支持体、好ましくは透明フィルム上に塗設されていることが好ましい。 【0094】また、本発明の反射防止膜は、上記の方法で組成物を塗設して形成された低屈折率層(1)が、それよりも高い屈折率を有する高屈折率層(2)の上に形成され、高屈折率層(2)に隣接し、低屈折率層(1)の反対側に中屈折率層(3)が、さらに層(4)(支持体下塗など)の屈折率と高屈折率層の屈折率の中間の屈折率を有する中屈折率層の上に高屈折率層が形成された4層より構成されることが特に好ましい。低屈折率層に隣接する高屈折率層の屈折率として、1.7以上が好ましく、特に1.75以上が好ましい。また、これらの層が支持体、好ましくは透明フィルム上に塗設されていることが好ましい。 【0095】それぞれの層の膜厚は、層(1)が50?200nm、層(2)が50?200nm、層(3)が50?200nm、層(4)が1μm?100μmが好ましく、更に好ましくは層(1)が60?150nm、層(2)が50?150nm、層(3)が60?150nm、層(4)が5?20μm、特に好ましくは層(1)が60?120nm、層(2)が50?100nm、層(3)が60?120nm、層(4)が5?10μmである。層(4)は屈折率が1.60以下であることが好ましく、層(3)は層(2)と層(4)の中間の屈折率が好ましい。」 記載事項エ.【0098】、【0099】 「【0098】本発明の反射防止膜の他の代表例を図2に示す。下塗層20と中屈折率層22が透明フィルム(支持体)23上に形成され、高屈折率層24が中屈折層22(「中屈折率層22」の誤記)上に形成され、さらに低屈折率層21が高屈折率層24上に形成されている。中屈折層率22の屈折率は、高屈折率層24と下塗層20との間の値を有する。図2の反射防止膜は、図1の反射防止膜に比較して、更に適用可能な光の波長領域が拡がっている。 【0099】三層を有する反射防止膜の場合、中、高及び低屈折率層がそれぞれ下記の条件(3)?(5)を一般に満足する。 hλ/4×0.7<n_(3)d_(3)<hλ/4×1.3 (3) kλ/4×0.7<n_(4)d_(4)<kλ/4×1.3 (4) jλ/4×0.7<n_(5)d_(5)<jλ/4×1.3 (5) 上記式に於て、hは正の整数(一般に、1、2又は3)を表し、n3は中屈折率層の屈折率を表し、d3は中屈折率層の層厚(nm)を表し、kは正の整数(一般に、1、2又は3)を表し、n4は高屈折率層の屈折率を表し、d4は高屈折率層の層厚(nm)を表し、jは正の奇数(一般に、1)を表し、n5は低屈折率層の屈折率を表し、そしてd5は低屈折率層の層厚(nm)を表す。中屈折率層の屈折率n3は、一般に1.5?1.7の範囲にあり、高屈折率層の屈折率n4は、一般に1.7?2.2の範囲にある。」 記載事項オ.【実施例】の項中【0113】?【0115】 「【0113】(3)第1層(ハードコート層)の塗設 25重量部のジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート(商品名:DPHA、日本化薬(株)製)、25重量部のウレタンアクリレートオリゴマー(商品名:UV-6300B、日本合成化学工業(株)製)、2重量部の光重合開始剤(商品名:イルガキュアー907、チバ-ガイギー社製)及び0.5重量部の増感剤(商品名:カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)を50重量部のメチルエチルケトンに溶解した塗布液を、90μmの厚みを有するTACフィルム上にワイヤーバーを用いて塗布し、次いで塗布膜に紫外線照射してハードコート層(屈折率:1.53、層厚:5μm)を形成した。 【0114】(4)第2層(中屈折率層)の塗設 TiO_(2)の微分散液とバインダーとしてポリメチルメタクリレート(屈折率:1.48)を含む塗布液(固形分:2重量%、TiO_(2)/バインダー=22/78、重量比)を、ハードコート層の上にワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で乾燥して、中屈折率層(屈折率:1.62、層厚:78nm)を形成した。 (5)第3層(高屈折率層)の塗設 TiO_(2)の微分散液と上記バインダーを含む塗布液(固形分:2重量%、TiO_(2)/バインダー=68/32、重量比)を、中屈折率層の上にワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で乾燥して、高屈折率層(屈折率:2.00、層厚:127nm)を形成した。 【0115】(6)第4層(低屈折率層)の塗設 上記の表1および表2の組成物を高屈折率層の上に膜厚94nmとなる様にワイヤーバーを用いて塗布し、120℃、5分間乾燥して低屈折率層を形成した。層の屈折率は1.3?1.5の範囲であった。」 記載事項カ.同じく【0116】?【0118】 【0116】(7)塗設フィルムの性能評価 こうして得られた第1?4層を塗設したフィルムについて、表面反射率(光波長400?650nmの平均反射率)および膜表面強度の測定を実施した。膜表面強度は、手指先、ティッシュ、消しゴム、手指爪先でそれぞれこすり、目視観察し、手指先こすりで傷付くものを0、ティッシュでこすり傷付くものを1、消しゴムこすりで傷付くものを2、手指爪先こすりで傷付くものを3、どの方法でも傷が認められないものを4とした。結果を表3に示した。 【0117】 【表3】 【0118】本実施例から明らかなように、本発明の反射防止膜は非常に低い表面反射率と広い波長領域を有し、かつ十分に強靱な膜強度を有していることがわかる。また、指紋跡もティッシュふき取りで容易に消す事ができ耐汚れ付着性も良好であった。一方、比較例では表面反射率あるいは膜強度が不十分のものが多かった。」 記載事項キ.【0120】 「【発明の効果】本発明では、シラノール末端ポリシロキサン、アルコシキシランおよび/または有機ポリマーの縮重合反応により得られた組成物を塗布して低屈折率層を作成し、さらにその直下層の屈折率を1.7以上とすることにより、良好な光学特性、膜強度に優れた大面積の反射防止膜を安価にかつ製造適性を有した形で提供できる。」 前記記載事項ア.ないしキ.の記載からして、引用例1には、 「下塗層20と中屈折率層22が透明フィルム(支持体)23上に形成され、高屈折率層24が中屈折率層22上に形成され、さらに低屈折率層21が高屈折率層24上に形成されており、 中、高及び低屈折率層がそれぞれ下記の条件(3)?(5)を一般に満足する反射防止膜であって、 hλ/4×0.7<n3d3<hλ/4×1.3 (3) kλ/4×0.7<n4d4<kλ/4×1.3 (4) jλ/4×0.7<n5d5<jλ/4×1.3 (5) 上記式に於て、hは正の整数(一般に、1、2又は3)を表し、n3は中屈折率層の屈折率を表し、d3は中屈折率層の層厚(nm)を表し、kは正の整数(一般に、1、2又は3)を表し、n4は高屈折率層の屈折率を表し、d4は高屈折率層の層厚(nm)を表し、jは正の奇数(一般に、1)を表し、n5は低屈折率層の屈折率を表し、そしてd5は低屈折率層の層厚(nm)を表し、中屈折率層の屈折率n3は、一般に1.5?1.7の範囲にあり、高屈折率層の屈折率n4は、一般に1.7?2.2の範囲にあり、低屈折率層の屈折率n5は、1.45以下が好ましく、低屈折率層21、高屈折率層24および中屈折率層22の膜厚がそれぞれ50?200nmであり、 また、低屈折率層が、(a)一般式Si(OR^(1))_(4)(式中R^(1)は炭素数1?5のアルキル基または炭素数1?4のアシル基を表す)で表されるアルコキシシランおよび/または(b)一般式R^(2)Si(OR^(3))_(3)(式中、R^(2)は炭素数1?10のアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、R^(3)は前記R^(1)に同義の基を表す)で表されるオルガノシラン、および/または(c)一般式R^(4)_(2)Si(OR^(5))_(2)(式中、R^(4)は前記R^(2)に同義の基、R^(5)は前記R^(1)に同義の基を表す)で表されるオルガノシランを含有する組成物を塗設して形成されたものであり、 その実施例1?16には、TAC支持体フィルム上にハードコート層を形成し、ハードコート層上に中屈折率層(屈折率:1.62、層厚:78nm)を形成し、中屈折率層上に高屈折率層(屈折率:2.00、層厚:127nm)を形成し、高屈折率層上に低屈折率層(屈折率:1.3?1.5、層厚:94nm)を形成した塗設フィルムの例が記載され、それらの例では表面反射率(光波長400?650nmの平均反射率)が0.2?0.5である反射防止膜。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 b.引用例2; 防眩性反射防止フィルムに関するもので、 記載事項ク.【特許請求の範囲】 「【請求項1】透明支持体上に、防眩層と少なくとも1層の低屈折率層とがこの順序で設けられており、5度入射における鏡面反射率の450nmから650nmまでの波長領域での平均値が1.2%以下であることを特徴とする防眩性反射防止フィルム。 【請求項2】?【請求項4】・・・・・・・・・・・・ 【請求項5】波長380nmから780nmの領域におけるCIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味が、CIE1976L*a*b*色空間のL*、a*、b*値がそれぞれL*≦10、0≦a*≦2、-5≦b*≦2を満たす色味であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の防眩性反射防止フィルム。」 記載事項ケ.【0012】 「本発明の防眩性反射防止フィルムは、CIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味が、CIE1976L*a*b*色空間のL*、a*、b*値で定量化したときに、それぞれL*≦10、0≦a*≦2、-5≦b*≦2の範囲内に入るように設計されていることが好ましい。これを満たす正反射光の色味はニュートラルな色味である。CIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味は、5度入射における波長380nmから780nmの領域における鏡面反射率の実測値と光源D65の各波長における分光分布の積を算出して得られた分光反射スペクトルから、CIE1976L*a*b*色空間のL*値、a*値、b*値をそれぞれ算出することで定量化することができる。L*値が10より大きいと、反射防止性が十分でない。a*値が2より大きいと反射光の赤むらさき色が強く、0未満では逆に緑色が強くなり好ましくない。また、b*値が-5未満では青味が強く、2より大きいと黄色が強くなり好ましくない。」 (3)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 (a)引用発明の対象である「反射防止膜」は、塗設フィルムの体をなしているので(実施例1?16)、本願補正発明の対象である「反射防止フィルム」に相当するといえる。 (b)引用発明の「透明フィルム(支持体)23」は、本願補正発明の「透明支持体」に相当する。 (c)引用発明の「下塗層20と中屈折率層22が透明フィルム(支持体)23上に形成され、高屈折率層24が中屈折率層22上に形成され、さらに低屈折率層21が高屈折率層24上に形成された反射防止膜」は、本願補正発明の「透明支持体上に、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層を順次有する反射防止フィルム」に相当する。 (d)引用発明の「(a)一般式Si(OR^(1))_(4)(式中R^(1)は炭素数1?5のアルキル基または炭素数1?4のアシル基を表す)で表されるアルコキシシラン」、「(b)一般式R^(2)Si(OR^(3))_(3)(式中、R^(2)は炭素数1?10のアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、R^(3)は前記R^(1)に同義の基を表す)で表されるオルガノシラン」、「(c)一般式R^(4)_(2)Si(OR^(5))_(2)(式中、R^(4)は前記R^(2)に同義の基、R^(5)は前記R^(1)に同義の基を表す)で表されるオルガノシラン」はそれぞれ、本願補正発明の「一般式(A) (R^(1))m-Si(OR^(2))n(式中、R^(1)は置換もしくは無置換のアルキル基もしくは、アリール基を表す。R^(2)は置換もしくは無置換のアルキル基もしくはアシル基を表す。mは0?2の整数を表す。nは2?4の整数を表す。mとnの合計は4である。)」とする化合物の一般式(A)の定義中に包含される化合物であるといえる。 また、引用発明の「低屈折率層が、(a)一般式Si(OR^(1))_(4)(式中R^(1)は炭素数1?5のアルキル基または炭素数1?4のアシル基を表す)で表されるアルコキシシランおよび/または(b)一般式R^(2)Si(OR^(3))_(3)(式中、R^(2)は炭素数1?10のアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、R^(3)は前記R^(1)に同義の基を表す)で表されるオルガノシラン、および/または(c)一般式R^(4)_(2)Si(OR^(5))_(2)(式中、R^(4)は前記R^(2)に同義の基、R^(5)は前記R^(1)に同義の基を表す)で表されるオルガノシランを含有する組成物を塗設して形成されたものである」ということについては、低屈折率層は反射防止フィルム構成層のうちの1層であるから、引用発明には、本願補正発明にいう「反射防止フィルム構成層の少なくとも1層に一般式(A)で表される化合物を含有している」ことが記載されているといえる。 (e)本願補正発明の低、高及び中屈折率層3層の光学膜厚は、該3層が式(I)?(III)を満足するものであることからして、設計波長λに対してλ/4-λ/2-λ/4の構成を採っていることは明らかである。 これに対して、引用発明の実施例1?16は、中屈折率層(屈折率:1.62、層厚:78nm)、高屈折率層(屈折率:2.00、層厚:127nm)、低屈折率層(屈折率:1.3?1.5、層厚:94nm)であるから、同じく設計波長λに対してλ/4-λ/2-λ/4の構成を採っているといえる。 (f)引用発明の「中屈折率層の屈折率n3、中屈折率層の層厚d3」は、本願補正発明の「中屈折率層の屈折率n1、中屈折率層の層厚d1」に相当し、引用発明の「高屈折率層の屈折率n4、中屈折率層の層厚d4」は、本願補正発明の「高屈折率層の屈折率n2、高屈折率層の層厚d2」に相当し、また、引用発明の「低屈折率層の屈折率n5、低屈折率層の層厚d5」は、本願補正発明の「低屈折率層の屈折率n3、低屈折率層の層厚d3」に相当する。 前記(a)?(f)に記載したことからして、本願補正発明と引用発明との両者は、 「透明支持体上に、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層を順次有する反射防止フィルムであって、該反射防止フィルム構成層の少なくとも1層に下記一般式(A)で表される化合物を含有する反射防止フィルムであって、低、高及び中屈折率層3層の光学膜厚は、設計波長λに対してλ/4-λ/2-λ/4の構成を採っている反射防止フィルム。 一般式(A) (R^(1))m-Si(OR^(2))n (式中、R^(1)は置換もしくは無置換のアルキル基もしくは、アリール基を表す。R^(2)は置換もしくは無置換のアルキル基もしくはアシル基を表す。mは0?2の整数を表す。nは2?4の整数を表す。mとnの合計は4である。)」 である点で一致し、次の相違点が存在する。 相違点(1); 本願補正発明は、 設計波長λ(=500nm)に対して中屈折率層が下式(I)を、高屈折率層が下式(II)を、低屈折率層が下式(III)をそれぞれ満足するのに対して、 λ/4×0.80<n1d1<λ/4×1.00 (I) λ/2×0.75<n2d2<λ/2×0.95 (II) λ/4×0.95<n3d3<λ/4×1.05 (III) (但し、式中、n1は中屈折率層の屈折率であり、d1は中屈折率層の層厚(nm)であり、n2は高屈折率層の屈折率であり、d2は高屈折率層の層厚(nm)であり、n3は低屈折率層の屈折率であり、d3は低屈折率層の層厚(nm)である) 引用発明は、 設計波長λに対して中屈折率層が下式(3)を、高屈折率層が下式(4)を、低屈折率層が下式(5)をそれぞれ満足するものである点、 λ/4×0.7<n3d3<λ/4×1.3 (3) λ/2×0.7<n4d4<λ/2×1.3 (4) λ/4×0.7<n5d5<λ/4×1.3 (5) 相違点(2); 反射防止フィルムの表面反射率について、本願補正発明は、5度入射における鏡面反射率の450nmから650nmまでの波長領域での平均値が0.5%以下であるのに対して、引用発明は、その実施例1?16において、光波長400?650nmの平均表面反射率が0.2?0.5である点、 相違点(3); 反射防止フィルムの波長380nmから780nmの領域におけるCIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味が、本願補正発明は、CIE1976L*a*b*色空間のa*、b*値がそれぞれ0≦a*≦5、且つ、-7≦b*≦0の範囲内にあるのに対して、引用例1には、前記a*値、b*値についての記載がない点。 (4)当審の判断 前記相違点(1)?(3)について検討する。 相違点(1)について; 引用発明の反射防止フィルムにおいて、中屈折率層の屈折率n3は1.5?1.7の範囲にあり、高屈折率層の屈折率n4は1.7?2.2の範囲にあり、低屈折率層の屈折率n5は1.45以下が好ましいとしており、低屈折率層21、高屈折率層24および中屈折率層22の膜厚がそれぞれ50?200nmであるとしている。 したがって、引用発明の中屈折率層の光学膜厚n3d3(本願補正発明のn1d1)が、設計波長λ(=500nm)に対して本願補正発明の式(I)、λ/4×0.80<n1d1<λ/4×1.00を満足するものを包含することは、明らかである。 同様に、引用発明の高屈折率層の光学膜厚n4d4(本願補正発明のn2d2)が、設計波長λ(=500nm)に対して本願補正発明の式(II)、λ/2×0.75<n2d2<λ/2×0.95を満足するものを包含すること、および、引用発明の低屈折率層の光学膜厚n5d5(本願補正発明のn3d3)が、設計波長λ(=500nm)に対して本願補正発明の式(III)、λ/4×0.95<n3d3<λ/4×1.05を満足するものを包含することは、明らかである。 よって、本願補正発明と引用発明とで相違点(1)に実質的な差異を認めることはできない。 相違点(2)について; 引用発明は、光波長400?650nmの平均表面反射率が0.2?0.5(%)であるから、5度入射における鏡面反射率の450nmから650nmまでの波長領域での平均値が0.5%以下とすることは、当業者が容易になし得ることである。 相違点(3)について; 引用例2には、「本発明の防眩性反射防止フィルムは、CIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味が、CIE1976L*a*b*色空間のL*、a*、b*値で定量化したときに、それぞれL*≦10、0≦a*≦2、-5≦b*≦2の範囲内に入るように設計されていることが好ましい。これを満たす正反射光の色味はニュートラルな色味である。CIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味は、5度入射における波長380nmから780nmの領域における鏡面反射率の実測値と光源D65の各波長における分光分布の積を算出して得られた分光反射スペクトルから、CIE1976L*a*b*色空間のL*値、a*値、b*値をそれぞれ算出することで定量化することができる。L*値が10より大きいと、反射防止性が十分でない。a*値が2より大きいと反射光の赤むらさき色が強く、0未満では逆に緑色が強くなり好ましくない。また、b*値が-5未満では青味が強く、2より大きいと黄色が強くなり好ましくない。」と記載されている。 そして、設計波長λ(=500nm)に対して中屈折率層が前記式(I)を、高屈折率層が前記式(II)を、低屈折率層が前記式(III)をそれぞれ満足する引用発明の多層反射防止フィルムのうち、波長380nmから780nmの領域におけるCIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味が低減されるようにするために、CIE1976L*a*b*色空間のa*、b*値がそれぞれ0≦a*≦5、且つ、-7≦b*≦0の範囲内にあるように選定することは、引用例2の記載事項を基に当業者が容易になし得ることである。 したがって、本願補正発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (5)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 平成19年5月28日付けの手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成19年2月19日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。) 「透明支持体上に、設計波長λ(=500nm)に対して下式(I)を満たす中屈折率層、下式(II)を満たす高屈折率層、下式(III)を満たす低屈折率層を順次有する反射防止フィルムであって、該反射防止フィルム構成層の少なくとも1層に下記一般式(A)で表される化合物を含有し、該反射防止フィルムにおける、5度入射における鏡面反射率の450nmから650nmまでの波長領域での平均値が0.5%以下、且つ、波長380nmから780nmの領域におけるCIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味が、CIE1976L*a*b*色空間のa*、b*値がそれぞれ-7≦a*≦7、且つ、-10≦b*≦10の範囲内にあることを特徴とする反射防止フィルム。 λ/4×0.80<n1d1<λ/4×1.00 (I) λ/2×0.75<n2d2<λ/2×0.95 (II) λ/4×0.95<n3d3<λ/4×1.05 (III) (但し、式中、n1は中屈折率層の屈折率であり、d1は中屈折率層の層厚(nm)であり、n2は高屈折率層の屈折率であり、d2は高屈折率層の層厚(nm)であり、n3は低屈折率層の屈折率であり、d3は低屈折率層の層厚(nm)である) 一般式(A) (R^(1))m-Si(OR^(2))n (式中、R^(1)は置換もしくは無置換のアルキル基もしくは、アリール基を表す。R^(2)は置換もしくは無置換のアルキル基もしくはアシル基を表す。mは0?3の整数を表す。nは1?4の整数を表す。mとnの合計は4である。)」 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は、「CIE1976L*a*b*色空間のa*、b*値」について、前記2.項で検討した本願補正発明の「0≦a*≦5、且つ、-7≦b*≦0」から、「-7≦a*≦7、且つ、-10≦b*≦10」の構成としたもので、それぞれ上限値、下限値の範囲を拡げたものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-01-23 |
結審通知日 | 2009-01-28 |
審決日 | 2009-02-10 |
出願番号 | 特願2002-62111(P2002-62111) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 勇 |
特許庁審判長 |
末政 清滋 |
特許庁審判官 |
森林 克郎 安田 明央 |
発明の名称 | 反射防止フィルム、偏光板、および画像表示装置 |
代理人 | 矢澤 清純 |
代理人 | 高松 猛 |