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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21C
管理番号 1195174
審判番号 不服2007-26965  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-02 
確定日 2009-04-02 
事件の表示 特願2002-146377「原子炉圧力容器内構造物の点検予防保全装置及び点検予防保全方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月28日出願公開、特開2003-337192〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成14年5月21日の出願であって、平成19年1月22日付け及び平成19年7月2日付けで手続補正がなされた後、平成19年8月30日付けで、平成19年7月2日付け手続補正の却下の決定がなされるとともに、同日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年10月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年11月1日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年11月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について

[補正却下の決定の結論]平成19年11月1日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「冷却水を満たした状態の原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の点検、清掃及び予防保全を行う原子炉圧力容器内構造物の点検予防保全装置であって、
該点検予防保全装置は、前記圧力容器内に吊降ろされたフレキシブルなガイドパイプ内面に挿通され、且つ該内面をクランプして保持固定される固定機構部と、該固定機構部に対して移動可能に取付けられ、その動作が制御可能で、冷却水を満たした状態の原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の点検、清掃及び予防保全を行うための複数の関節部を有する本体部からなり、
該本体部は、高圧水供給配管と、該高圧水供給配管の関節部に設けたスイベルジョイントを介して接続したウォータジェットピーニングノズルを備え、
前記冷却水を満たした状態の原子炉圧力容器内構造物に遠隔操作によりアクセスして前記構造物の点検、清掃及び予防保全を行うため、前記ウォータジェットピーニングノズルを前記関節部およびスイベルジョイントを介して任意の方向に駆動可能としたことを特徴とする原子炉圧力容器内構造物の点検予防保全装置。」
と補正された。

本件補正は、補正前の請求項1(平成19年1月22日付け手続補正書による補正)に記載した発明を特定するために必要な事項である「ガイドパイプに対して保持固定される固定機構部」について「フレキシブルなガイドパイプ内面に挿通され、且つ該内面をクランプして保持固定される固定機構部」と限定し、同じく「複数の関節部を有する本体部」について「その動作が制御可能で、冷却水を満たした状態の原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の点検、清掃及び予防保全を行うための複数の関節部を有する本体部」と限定し、また、同じく「ウォータジェットピーニングノズルを前記関節部およびスイベルジョイントを介して任意の方向に駆動可能としたこと」について、「前記冷却水を満たした状態の原子炉圧力容器内構造物に遠隔操作によりアクセスして前記構造物の点検、清掃及び予防保全を行うため、前記ウォータジェットピーニングノズルを前記関節部およびスイベルジョイントを介して任意の方向に駆動可能としたこと」と限定するものである。
また、「原子炉圧力容港内」を「原子炉圧力容器内」とする補正、「構遺物の点検」を「構造物の点検」とする補正は、誤記の補正である。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び同第3号に規定する誤記の訂正を目的とする補正に該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶理由に引用された国際公開第02/11151号(2002年(平成14年)2月7日公開)(以下、「引用例1」という。)、及び同じく特開2000-218545号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。

a.引用例1;

原子炉炉内構造物の保全方法に関するもので、
記載事項ア.請求の範囲第2項
「2.原子炉ウェルを水抜きして原子炉圧力容器のフランジに放射線遮蔽体を設け、保全装置を前記原子炉圧力容器の内部に搬入するためのガイドパイプを前記放射線遮蔽体に取り付け、
前記原子炉圧力容器内を水抜きして前記ガイドパイプの内部に設置されたガイドレールを用いて前記保全装置を前記原子炉圧力容器の内部に搬入し、
気中雰囲気で該保全装置を用いて炉内構造物の保全作業を行うことを特徴とする原子炉炉内構造物の保全方法。」

記載事項イ.1頁7?10行
「本明細書における保全作業とは、対象となる炉内構造物に対する点検(検査)作業、加工作業、溶接作業、残留応力の改善作業、表面改質作業などを含む。これらの保全作業の内、点検作業、加工作業及び溶接作業は、一般に補修作業として知られている。」

記載事項ウ.3頁の「図面の簡単な説明」の項中、17?18行
「第1図は、本発明を沸騰水型原子炉(BWR)における炉内構造物の保全方法に適用した第1実施例を示すフローチャートである。」

記載事項エ.8頁4行?9頁4行
「次に、ステップS5において、RPV1内に水を満たした状態で、ガイドパイプ24を取り付ける。第3図に示すように、原子炉ウエル10の上部からRPV1の底部までの距離は、約25?30mになる。このため、ガイドパイプ24は、作業性を考慮して、長さ方向(RPVの軸方向)に複数分割した構造を採用している。放射線遮蔽体21c上で分割構造のガイドパイプ24を継ぎ足しながら天井クレーンで吊り下し、放射線遮蔽体21cの開口部,放射線遮蔽体21bの開口部,放射線遮蔽体21aの開口部,上部格子板5,炉心支持板6を貫通させる。こうして、ガイドパイプ24の下端が補修対象である炉底部近傍に位置するように、RPVの軸方向におけるガイドパイプ24の位置決めを行う。
次に、ガイドパイプ24の構造を説明する。第5図は、ガイドパイプ24の概略横断面図である。同図に示すように、円筒状のガイドパイプ24の内面には、RPVの軸方向に長く伸びたレール24aが設置されている。補修装置を取り付け可能な構造を有する台車24bがレール24aの上に設置されており、台車24bはレール24aに沿って昇降する。即ち、補修装置は、台車24bと共にRPV内に挿入される。従って、レール24aが、台車24bに取り付けられた補修装置のRPVの周方向における位置決めを行う。
また、ガイドパイプ24の外面には、4個の突起部24dが設置されている。突起部24dは、周方向に対称な4箇所に設けられており、後述するシム21gと係合してガイドパイプ24を据え付けるために使われる。台車24bの下端にはストツパ24eが設けられており、ストッパ24eの長さを変えることにより、補修装置の上下方向(RPVの軸方向)における据付け位置を調整することができる。更に、レール24aの下端にストツパを設け、補修装置据付時の上下方向における位置決めを行うこともできる。」

記載事項オ.10頁7行?14行
「ステップS7では、補修装置及びチェーン付きケーブルを台車24bに取り付ける。まず、ガイドパイプ24の上端切欠き部の下側を放射線遮蔽蓋21fで覆い、作業者の被曝防止を図る。次に、原子炉建屋のオペレーションフロアに設置された作業台車91に、ケーブル処理装置92を取り付ける。次に、作業者は、放射線遮蔽体21cから所定距離離れた作業台30上で、吊り具等を用いて補修装置29を台車24bに接近させ、位置決めピン(図示せず)で位置を合わせ、ボルト等で補修装置29を台車24bに固定する。」

記載事項カ.13頁5行?12行
「以上のようにして下降された補修装置29は、CRDハウジング8の上で停止され、この位置から先端に作業ヘッドを備えたアームを繰り出すことにより、次のステップの補修作業が行われる。作業ヘッドとしては、溶接トーチヘツド,VT(目視検査)ヘッド,加工ヘッド,PT(浸透探傷)ヘッド,UT(超音波探傷)ヘッドなどを用いることができる。これらの作業ヘッドを取替え可能な構造とすることにより、様々な補修作業に対応できる。第8図に、補修装置29を炉底部に下した後の状態を示す。」

記載事項キ.13頁17行?14頁下から5行
「次に、ステップS9で、補修装置29を用いて炉内構造物の補修作業を行う。まず、補修作業前に、補修対象である炉内構造物(以下、補修対象物という)の周辺に位置するCRDハウジングなどを通して、作業状況をモニターするためのカメラをRPV1の下側から挿入する。
補修作業に使用する補修装置29の一例を、第9図を用いて説明する。第9図は、10軸の多関節機構を備えた補修装置の概略構成図である。フレーム29aがガイドパイプの台車24bに固定されており、第1関節29bがフレーム29aに対して上下方向(RPVの軸方向)に移動する。
第2関節29c,第4関節29e,第5関節29f及び第7関節29hは、第9図の紙面に垂直な軸を中心に回転する。第3関節29d,第6関節29g及び第8関節29iは、第9図の上下方向の軸を中心に回転する。この回転方向は、RPVの周方向に対応する。第9関節29kは、先端に設置した補修治具(溶接トーチ等)29mを図中の矢印方向に揺動する。アーム29jは取り外し可能で、その長さを変えることによって様々な箇所に対応できる。
第9図に示す多関節型の補修装置を用いて炉底部の溶接部にアクセスし、溶接部の補修を行う方法について、第10図により説明する。補修装置が備える複数の関節のうち、例えば第1関節29bの軸方向移動軸,第5関節29f及び第7関節29hの回転軸,第3関節29dの周方向回転軸,第9関節29kの揺動軸を駆動して、第10図のように姿勢制御することにより、補修治具29mの先端を、CRDハウジング8とスタブチューブ80の溶接部及びスタブチユーブ80とRPV下鏡1cの溶接部に接近させる。
各関節の駆動は、カメラ40aでモニターしながら、補修装置とその周りの炉内構造物とが干渉しないように遠隔で制御する。このための制御装置及びモニター用ディスプレイは、例えば、オペレーティングフロア上の制御盤28内に設置すれば良い。このようにして溶接部に接近させた補修治具29mを用いて、カメラ40aでモニターしながら、溶接部の補修を行う。」

記載事項ク.21頁2?15行
「アニュラス部41はシユラウド4とRPV1の隙間部分であり、炉心スプレイ配管42及び給水スパージャがアニュラス部41の上側に存在する。このため、ガイドパイプ24をアニュラス部41に真っ直ぐに下ろすことは困難である。
このため、ステップS2において、シュラウド4に放射線遮蔽体21bを設置するとともに、ガイドパイプ24の先端をアニュラス部41に導くための円筒状のガイド部材24cを取り付ける。」

記載事項ケ.21頁22行?22頁2行
「このようにガイドパイプ24の一部を曲げてアニュラス部41に挿入するためには、ガイドパイプ24のうち、少なくともガイド部材24cよりも下側の部分を、フレキシブルパイプ等の曲がり易い(屈曲可能な)構造にした方がよい。ガイドパイプ24全体をフレキシブルパイプで構成した方が、更に好ましい。」

前記記載事項ア.ないしケ.の記載からして、引用例1には、
「原子炉圧力容器内を水抜きした気中雰囲気で原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の保全作業を行う原子炉圧力容器内構造物の保全装置であって、
該保全装置(補修装置29)は、前記圧力容器内に吊り下されたフレキシブルなガイドパイプ24内面のレール24a上に設置された台車24bに固定されたフレーム29aと、該フレーム29aに対して移動可能に取付けられ、その動作が制御可能で、原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の保全作業を行う複数の関節29b、29c、29d、29e、29f、29g、29h、29i、29kとアーム29jと先端に設置した補修治具(溶接トーチ等)29mからなり、
補修対象物の周辺にあるカメラ40aで作業状況をモニターしながら原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の保全作業を行うため、前記補修治具(溶接トーチ等)29mを、前記複数の関節およびアーム29jを介して任意の方向に駆動可能にした原子炉圧力容器内構造物の保全装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

b.引用例2;

ウオータージェットピーニング装置に関するもので、
記載事項コ.【0001】
「【発明の属する技術分野】本発明はウオータージェットピーニング装置に係り、特に狭隘部に配置した大口径円筒状構造物外表面の残留応力を軽減するウオータージェットピーニング装置に関する。」

記載事項サ.【0002】、【0003】
「【0002】
【従来の技術】発電プラントにおける原子炉圧力容器とシュラウド壁間には、ジェットポンプライザ管およびジェットポンプディフューザ等の溶接部を有する大口径円筒状構造物が配設されている。これらの溶接部および溶接時の熱的影響を受ける部分には引張り応力が残留し、応力腐食割れの原因となる。したがって、前記引張り応力を低減し、あるいは残留引張り応力を残留圧縮応力に改善して応力腐食割れを防止する必要がある。
【0003】金属表面層に圧縮残留応力を付与する方法として、ウオータージェットピーニング法が知られている。ウオータージェットピーニング法は、例えば特開平4-362124号公報に示されるように、流体中に置かれた平板状の金属材料に対向して流体中にノズルを設け、このノズルから金属材料に向かって噴流を噴出して、キャビテーションにより発生した気泡を含むジェット噴流を前記金属表面に衝突させる。この衝突によってキャビテーション気泡は崩壊し、崩壊時の水撃作用により金属表面を叩いて表面層に圧縮残留応力を与える方法である。」

記載事項シ.【0009】
「【課題を解決するための手段】加圧流体を導入し、キャビテーションにより発生した気泡を含有する噴流を流体中で発生するノズルと、前記気泡を含有する噴流を流体中に配設した大口径の円筒状構造物に噴射して、該円筒状構造物表面をピーニング施工するウオータージェットピーニング装置において、前記噴流の噴射方向は前記円筒状構造物の接線に対して45度以下であることを特徴とする。」

記載事項ス.【発明の実施の形態】の項中、【0049】?【0052】
「【0049】次に、本発明の第4の実施形態を図14ないし図16を用いて説明する。
【0050】図14は、ノズルヘッドに取り付けたノズルに、その噴射方向を可変にする首振り機構を備えたウオータージェットピーニング装置を示す図である。ノズル121の噴射方向を図示矢印Dに示すように首振り可能にすることにより、円筒構造物の外表面をむらなく施工することができる。また、ノズルをノズルヘッドに固定した固定式ノズルに比してノズルの搭載数を軽減することができる。また固定式ノズルに比して、ノズルの設置位置精度を厳しくする必要がない。
【0051】図15は、ノズルの首振り機構を示す図であり、図15aはノズルの首振り機構の平面図、図15bはノズルの首振り機構の側面図である。
【0052】図において、131はノズル、132はノズルヘッド、133はノズル131を図示矢印方向に揺動するための電動式の駆動部であり、駆動部133はノズルヘッド132内に設けられる。135はスイベルジョイントであり、スイベルジョイント135はノズル131が揺動しても高圧ホース134からの高圧水をとぎれることなくノズルに供給することができる。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

(a)引用発明の「保全作業」は、点検(検査)作業を含む(上記記載事項イ.)ものであるから、本願補正発明にいう「点検及び予防保全」の概念を包含するものと認められる。従って、引用発明の「保全装置」は、本願補正発明の「点検予防保全装置」に相当する。

(b)引用発明の「フレーム29a」は、ガイドパイプ24内面のレール24a上に設置された台車24bに固定されるもので、本願補正発明の「固定機構部」は、フレキシブルなガイドパイプ内面に挿通され、且つ該内面をクランプして保持固定されるものであるが、いずれも、「保全装置」(本願補正発明では「点検予防保全装置」。)の「ガイドパイプ内面に挿通されたガイドパイプ内移動部」である点で一致する。

(c)上記(b)引用発明の「該フレーム29aに対して移動可能に取付けられ、その動作が制御可能で、原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の保全作業を行う複数の関節29b、29c、29d、29e、29f、29g、29h、29i、29kとアーム29jと先端に設置した補修治具(溶接トーチ等)29m」は、本願補正発明との対比において、上記(b)も参照すれば「該ガイドパイプ内移動部に対して移動可能に取付けられ、その動作が制御可能で、原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の予防保全を行うための複数の関節部を有する本体部」に相当する。

(d)引用発明の「先端に設置した補修治具(溶接トーチ等)29m」と本願補正発明の「ウオータージェットピーニングノズル」とは、「予防保全機能を有する部材」である点で一致する。

前記(a)?(d)に記載したことからして、本願補正発明と引用発明との両者は、
「原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の予防保全を行う原子炉圧力容器内構造物の点検予防保全装置であって、
該点検予防保全装置は、前記圧力容器内に吊降ろされたフレキシブルなガイドパイプ内面に挿通されたガイドパイプ内移動部と、該ガイドパイプ内移動部に対して移動可能に取付けられ、その動作が制御可能で、原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の点検及び予防保全を行うための複数の関節部を有する本体部からなり、
前記原子炉圧力容器内構造物に遠隔操作によりアクセスして前記構造物の点検及び予防保全を行うため、予防保全機能を有する部材を前記関節部等を介して任意の方向に駆動可能とした原子炉圧力容器内構造物の予防保全装置。」
である点で一致し、次の相違点が存在する。

相違点(1);
本願補正発明の複数の関節部を有する本体部は、高圧水供給配管と、該高圧水供給配管の関節部に設けたスイベルジョイントを介して接続したウォータジェットピーニングノズルを備えたものであり、また、本願補正発明の対象である点検予防保全装置は、冷却水を満たした状態の原子炉圧力容器内構造物を点検予防保全するものであり、且つ、点検及び予防保全だけでなく、清掃も行うものであるのに対して、引用発明の複数の関節部を有する本体部は、溶接トーチ等の補修治具であり、また、引用発明の対象である保全装置は、原子炉圧力容器内を水抜きした気中雰囲気の原子炉圧力容器内構造物を点検及び予防保全するものであり、且つ、清掃機能を有するものではない点、

相違点(2);
本願補正発明は、ウォータジェットピーニングノズルを高圧水供給配管の関節部およびスイベルジョイントを介して任意の方向に駆動可能としたものであるのに対して、引用発明は、そのようなものではない点、

相違点(3);
ガイドパイプ内面に挿通されたガイドパイプ内移動部について、本願補正発明は、ガイドパイプ内面をクランプして保持固定される固定機構部であるのに対して、引用例1では、フレーム29aを固定した台車24bがガイドパイプ内面をクランプして保持固定される旨の記載がない点。

(4)当審の判断
前記相違点(1)?(3)について検討する。

相違点(1)について;

引用例2の記載事項コ.、サ.には、発電プラントにおける原子炉圧力容器とシュラウド壁間には、ジェットポンプライザ管およびジェットポンプディフューザ等の溶接部を有する大口径円筒状構造物が配設されているが、これらの溶接部および溶接時の熱的影響を受ける部分には引張り応力が残留し、応力腐食割れの原因となるので、前記引張り応力を低減し、あるいは残留引張り応力を残留圧縮応力に改善して応力腐食割れを防止する必要があるが、そのために、金属表面層に圧縮残留応力を付与する方法として、ウオータージェットピーニング法が知られており、例えば特開平4-362124号公報に示されるように、流体中に置かれた平板状の金属材料に対向して流体中にノズルを設け、このノズルから金属材料に向かって噴流を噴出して、キャビテーションにより発生した気泡を含むジェット噴流を前記金属表面に衝突させる点が、記載されている。
さらに、引用例2の記載事項ス.には、ノズルヘッドに取り付けたノズルに、その噴射方向を可変にする首振り機構を備えたウオータージェットピーニング装置について、また、該ノズルの首振り機構として、高圧ホース134と、ノズルヘッド132内に設けられ、ノズル131を揺動するための電動式の駆動部133と、スイベルジョイント135を有するものが記載されている。

そして、上記記載は、「原子炉圧力容器内の構造物」について論じられているので、その場合、「流体中に置かれた平板状の金属材料に対向して流体中にノズルを設け、」における「流体」が「原子炉圧力容器内の冷却水」であることは自明あり、また、「ウオータージェットピーニング装置」は「予防保全する装置」といえる。

したがって、原子炉圧力容器内構造物を予防保全する装置において、前記構造物の溶接部および溶接時の熱的影響を受ける部分の引張り応力を低減し、あるいは残留引張り応力を残留圧縮応力に改善して応力腐食割れを防止するために、複数の関節部を有する本体部として、引用発明のものに換えて、高圧水を供給する管の関節部に設けたスイベルジョイントを介して接続したウオータージェットピーニングノズルを備えたものを使用するとともに、冷却水を満たした状態でその使用を行うことは、引用例2の記載事項を基に当業者が容易になし得ることである。
高圧水を供給する管として、ホースに換えて配管を用いることも容易なことである。
また、前記本体部としてウオータージェットピーニングノズルを備えたものを使用した場合には、本願補正発明の装置と同様、対象表面のクラッドを除去する機能、即ち、清掃機能を自ずと有するものと認められる。

なお、引用発明の「保全作業」は、点検(検査)作業を含むものである(上記「(3)対比(a)」参照。)が、この点は、引用例1の記載事項キ.には、「溶接部に接近させた補修治具29mを用いて、カメラ40aでモニターしながら、溶接部の補修を行う。」旨記載されており、原子炉圧力容器の点検用にカメラを用いることが知られていることからも裏付けられており、予防保全装置にカメラを内臓させるようにして、予防保全装置自体に原子炉圧力容器内構造物の点検機能を持たせることは、当業者が容易になし得ることである。

よって、相違点(1)に係る本願補正発明の発明特定事項を限定することは、引用発明、及び引用例2の記載事項を基に容易になし得ることである。

相違点(2)について;
「相違点(1)について」の項で述べたことからして、ウォータジェットピーニングノズルを高圧水供給配管の関節部およびスイベルジョイントを介して任意の方向に駆動可能とすることは、引用発明、及び引用例2の記載事項を基に容易になし得ることである。

相違点(3)について;
引用発明においても、構造物の保全作業を行う際に、台車24bがガイドパイプ内面に保持固定されなければならないことは当業者にとって自明であり、一般に、ある物を保持固定する手段として、クランプして保持固定することも、格別のことではない。
よって、相違点(3)に係る本願補正発明の発明特定事項を限定することは、当業者が容易になし得ることである。

本願補正発明の作用・効果についても、引用発明、及び引用例2の記載事項から予測される範囲を出ない。

したがって、本願補正発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

平成19年11月1日付けの手続補正は前記のとおり却下され、平成19年7月2日付けの手続補正は既に却下されているので、本願の請求項1に係る発明は、平成19年1月22日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)

「冷却水を満たした状態の原子炉圧力容器(「容港」は誤記と認める。)内構造物に遠隔制御によりアクセスして構造物(「構遣物」は誤記と認める。)の点検、清掃及び予防保全を行う原子炉圧力容器内構造物の点検予防保全装置であって、
該点検予防保全装置は、前記圧力容器内に吊降ろされたガイドパイプに対して保持固定される固定機構部と、該固定機構部に対して移動可能に取付けた複数の関節部を有する本体部からなり、該本体部は、高圧水供給配管と、該高圧水供給配管に関節部に設けたスイベルジョイントを介して接続したウォータジェットピーニングノズルを備え、該ウォータジェットピーニングノズルを前記関節部およびスイベルジョイントを介して任意の方向に駆動可能としたことを特徴とする原子炉圧力容器内構造物の点検予防保全装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.項で検討した本願補正発明から「ガイドパイプに対して保持固定される固定機構部」の限定事項である「フレキシブルなガイドパイプ内面に挿通され、且つ該内面をクランプして保持固定される固定機構部」との構成を省き、同じく「複数の関節部を有する本体部」の限定事項である「その動作が制御可能で、冷却水を満たした状態の原子炉圧力容器内構造物に遠隔制御によりアクセスして前記構造物の点検、清掃及び予防保全を行うための複数の関節部を有する本体部」との構成を省き、また、同じく「ウォータジェットピーニングノズルを前記関節部およびスイベルジョイントを介して任意の方向に駆動可能としたこと」の限定事項である「前記冷却水を満たした状態の原子炉圧力容器内構造物に遠隔操作によりアクセスして前記構造物の点検、清掃及び予防保全を行うため、前記ウォータジェットピーニングノズルを前記関節部およびスイベルジョイントを介して任意の方向に駆動可能としたこと」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加して限定したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-29 
結審通知日 2009-02-03 
審決日 2009-02-17 
出願番号 特願2002-146377(P2002-146377)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21C)
P 1 8・ 575- Z (G21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今浦 陽恵  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 安田 明央
村田 尚英
発明の名称 原子炉圧力容器内構造物の点検予防保全装置及び点検予防保全方法  
代理人 武 顕次郎  
代理人 武 顕次郎  

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