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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1195202
審判番号 不服2005-24988  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-26 
確定日 2009-03-30 
事件の表示 平成8年特許願第511056号「セッケンを含まない自己発泡性の髭剃りゲル組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成8年3月28日国際公開、WO96/09032、平成10年6月16日国内公表、特表平10-506110〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成7年9月20日(パリ条約による優先権主張1994年9月22日 米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成16年12月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの次のものである。

「1.自己発泡性ゲルの形態の髭剃り組成物であって、重量%で、65?85%の水、4?16%の、アシル基の炭素数が10?20のN-アシルサルコシン、N-アシルサルコシンを可溶化させ、4?8のpHを与えるのに十分な有機アミン塩基、1?8%の自己発泡剤、および1?10%の不揮発性パラフィン系炭化水素液体を含んでなり、前記組成物が実質的にセッケンを含まないことを特徴とする髭剃り組成物。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用刊行物
これに対して、当審において通知した平成20年5月16日付け拒絶理由通知書で引用した、本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物A?Gには、それぞれ以下のことが記載されている。

刊行物A:国際公開第94/2109号(1994年2月3日公開)
刊行物B:特開平2-32008号公報
刊行物C:関根茂他編、「化粧品原料辞典」、日光ケミカルズ株式会社他、
平成3年11月29日発行、第252頁「ステアロイルサルコシ ン」の項、第456頁「ミリストイルサルコシン」の項、
第512頁「ラウロイルサルコシントリエタノールアミン液」の 項及び同頁「ラウロイルサルコシンナトリウム」の項
刊行物D:日本化粧品技術者会編、「最新化粧品科学-改訂増補II-」、
株式会社薬事日報社、平成4年7月10日発行、第182?
183頁、「(1)陰イオン界面活性剤」の項
刊行物E:特開昭63-132817号公報
刊行物F:米国特許第5,248,495号明細書(1993年9月28日発行)
刊行物G:米国特許第3,541,581号明細書
刊行物H:国際公開第92/12700号

2-1.刊行物A(国際公開第94/2109号)の記載事項(英文のため訳文で摘示する。)
(A-1)第2頁第17?20行
「本発明の液体組成物は分配前に実質的に発泡せず、液体として分配され、一回の動作で表面上に広げた際に同時にかつ即座に発泡し、フォームとなる。」
(A-2)第3頁第18?21行
「“自己均展性液体組成物”として本発明で意図するものは、変化する周囲温度及び圧力においてディスペンサー内部で発泡しない組成物と規定され、ディスペンサーを逆さにした場合にディスペンサーの底に流れる、流動性ニュートン液体、チキソトロープ性液体、及び希薄ゲルを含む。」
(A-3)第3頁第22?24行
「“自己発泡性液体組成物”としてここで述べるものは、通常の操作条件において、フォームではなく液体として分配される組成物を意味する。この液体は一回の動作で広げた際に自発的にかつ即座に発泡する。」
(A-4)第6頁第11?12行
「本発明の組成物は、…ひげそりを含む種々の用途に有効である。」
(A-5)第10頁 表IV
「 表IV
重 量 部
-----------------------
例 … 15 …
界面活性剤溶液
----------------------------------
水 … 77.69 …
ラウリル硫酸アンモニウム … 17.56 …
(28%活性)
カルボマー1342 … 0.75 …
(100%活性)
イソオクタヘキサコンタン … 2 …
PERMETHYL
(100%活性)
トリエタノールアミン … 0.5 …
TEA(100%活性)
圧力剤/ブレンド
----------------------------------

n-ブタン … 1.5 …
鉱油 … 1.5 …

----------------------------------
22℃での圧力(kPa) … 119 …
(72°F) … (17psig) …
43℃での圧力(kPa) … 238 …
(110°F) … (34psig) … 」
(A-6)第13頁第29?32行
「…後発泡液体組成物60が…分配される。次いでこの液体は一回の動作で広げられ、この液体はフォームとなり(図示せず)、さらにこすることによりリッチな泡になる。」
(A-7)第15頁請求の範囲の請求項1
「1.主要量の水、少なくとも1種の界面活性剤、及びディスペンサー内に含まれた際にこのディスペンサーのヘッド空間に組成物を分配するための正の圧力を生ずる組成物を提供するに十分な量の少なくとも1種の気体状脂肪族炭化水素を含む二重目的圧力剤を含み液体として分配され、広げると即座に発泡する、水性、自己発泡性自己均展性液体組成物。」

2-2.刊行物B(特開平2-32008号公報)の記載事項
(B-1)公報第2頁左上欄第11?15行
「…アニオン活性剤として泡立ちが良く、かつ低刺激性を有するカルボン酸型アニオン活性剤、特にアシルサルコシン塩等のアミノ酸のアシル化物を配合することが提案、実施されている…」
(B-2)公報第3頁左下欄第15?同頁右下欄第5行
「…N-アシル-N-アルキルアミノ酸として具体的には、…、N-ラウロイルザルコシン、N-ミリストイルザルコシン、N-パルミトイルザルコシン、…、およびこれらの混合物などが挙げられ、その塩としては、モノエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、…などを例示することができる。」
(B-3)公報第7頁上欄


2-3.刊行物C(「化粧品原料辞典」、第252,456及び512頁)の記載事項
(C-1)第252頁左欄
「ステアロイルサルコシン…

特徴 末端のカルボキシル基が未中和なので製剤時にナトリウム,カリウム,アンモニウム,トリエタノールアミンなどの対イオンを自由に選択できる.ステアロイルサルコシン塩は,温和な脱脂性と殺菌力を示す洗浄剤である.耐硬水性に優れ洗浄力はセッケンに劣らない.…」
(C-2)第456頁左欄
「ミリストイルサルコシン…

特徴 目的に応じて対イオンを選んで使用することができる.起泡力はやや酸側で最大値を示す.塩は皮膚や毛髪に対する作用が温和であり,生分解性に優れていて,セッケンと比較して耐硬水性に優れ,洗浄力はセッケンに劣らない.…」
(C-3)第512頁左欄
「ラウロイルサルコシントリエタノールアミン液…

ラウリン酸とN-メチルグリシンとの縮合物のトリエタノールアミン塩水溶液である….

特徴 緩和な脱脂性と殺菌性をもつ洗浄剤である.皮膚や毛髪に対する作用が温和で,生分解性がよい.水への溶解性が良好であり,他のアニオン活性剤,カチオン活性剤,両性活性剤との相溶性がよい.起泡性,湿潤性の優れた界面活性剤である.耐硬水性に優れ,洗浄力はセッケンに劣らない.熱,酸,アルカリに対して安定である.

[商品]ソイポンSLTA(川研ファインケミカル)」
(C-4)第512頁左欄?右欄
「ラウロイルサルコシンナトリウム…

特徴 緩和な脱脂性と殺菌性をもつ洗浄剤である.起泡性,湿潤性の優れた界面活性剤である.耐硬水性に優れ,洗浄力はセッケンに劣らない.熱,酸,アルカリに対して安定である.
用途 …ひげそり用クリーム,…」

2-4.刊行物D(「最新化粧品科学-改訂増補II-」第182?183頁)の記載事項
(D-1)第183頁
「d.アミノ酸系界面活性剤
代表的なものとしてN-アシルサルコシン塩,N-アシルグルタミン酸塩などがあげられる。アミノ酸系界面活性剤の共通する特徴である,AS塩(審決注;アルキル硫酸塩)やAES塩に比べて泡質が軽く,やや粗い泡になるが,皮膚や目に対する刺激の面でマイルドである。
…」
2-5.刊行物E(特開昭63-132817号公報)の記載事項
(E-1)公報第1頁右下欄第7?14行
「[産業上の利用分野]
本発明は、…、カルボン酸塩型アニオン界面活性剤及び…を含有してなり、皮膚に対して刺激が少なく、ひげを柔軟にし剃り易く、また、剃り上がりもなめらかで使用性が良好なシェービングフォーム組成物に関する。」
(E-2)公報第3頁右上欄下から6行?同頁右下欄11行
「本発明の組成物の成分として用いられる(3)カルボン酸塩型アニオン界面活性剤としては、例えば、…

iii)一般式

(式中、Rは炭素8?18のアルキル基またはアルケニル基、Mはアルカリ金属、有機アミン、塩基性アミノ酸の一種または二種以上を表す。)で表されるN-アシルサルコシン塩型アニオン界面活性剤あるいは、
…等の高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物などで表される一般式中に、
-COO^(-)基
を持つアニオン界面活性剤を挙げることができる。」
(E-3)公報第6頁右上欄第6行?同頁左下欄末行
「実施例9
次の配合料なるひげ剃り用エアゾール組成物を調整し(カチオン界面活性剤/アニオン界面活性剤のモル比7/3)、実施例1?8と同様の方法にて評価した。
(重量%)
ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン 10.0
C_(22)アルキルトリメチルアンモニウム
クロライド(平均分子量404) 1.0
ラウロイルサルコシンナトリウム
(平均分子量310) 0.33
ジプロピレングリコール 8.0
グリセリルモノステアレート 1.0
ステアリルアルコール 1.5
ビタミンEアセテート 0.2
香料・色材 適量
噴射剤(L.P.G.) 5.0
イオン交換水 残部
(結果)
このシェービングフォーム組成物はひげ柔軟効果に優れ、そり易く皮膚に対して刺激が少ないものであった。」

2-5.刊行物F(米国特許第5,248,495号明細書)の記載事項(英文のため訳文で摘示する。)
(F-1)第1欄第4?7行
「技術分野
この発明は、優れた皮膚調整特性を持つ、2級ノニオン界面活性剤を含まない、後発泡ひげそりゲル組成物に関するものである。」
(F-2)第4欄第33?末行
「a.ゲル化剤
ゲル化剤を本発明のひげそりゲル組成物に含ませることができる。これらゲル化剤は、特にセルロース原料から誘導されたものであって、ゲルの密度及び熱安定性を改良し、さらに泡に対して優れた潤滑性を供給する。

本発明のゲル組成物は、約15,000cps?約60,000cps、好ましくは、約20,000cps?約40,000cpsの粘度を有する。…
上記粘度を達成するために、ゲル化剤は本発明では、約2%以内、しかし好ましくは、1%より多くない量で使用される。…本発明において好ましいゲル化剤は、アルキル変性セルロースポリマー、特に、…ヒドロキシプロピルセルロース、…の中から選ばれる。本発明において最も好ましいものは、…ヒドロキシプロピルセルロース、…である。」
(F-3)第6欄
「 例
--------------------------------
ひげそりゲル組成物 重量

-----------------
成分 #1 #2 #3 #4
--------------------------------

ヒドロキシプロピルセルロース*** 0.05 0.10 0.08 0.075

--------------------------------
…」

2-5.刊行物G(米国特許第3,541,581号明細書)の記載事項(英文のため訳文で摘示する。)
(G-1)第1欄第10?18行
「開示の要約
パッケージから実質的に泡立つことなく分配することができる安定な後発泡ゲルを含む、適切な分配手段を備えたパッケージ。分配された後、ゲルは、周囲が静止状態では実質的に泡立たないままである。適切な状態では、ゲルは、ひげそりに好適な、実質的に均一な泡質を持った泡を生成する。」
(G-2)第6欄第22?45行
「この発明に従って使用されるゲル化助剤は、この分野でよく知られており、セルロース、ショ糖及びグルコースのような天然に存在する物質の水溶性誘導体として分類される。

…好ましくは、ゲル化助剤は、組成物全量に対して重量で約0.05%?約1.5%使用される。
好適なショ糖誘導体としては、市販のCarbopol934,…(用語“Carbopol”は登録商標である)が例示される。」
(G-3)第6欄第46行?第7欄第36行
「この発明のひげそり組成物では、セルロース誘導体が、ひげそり刃に対する優れた潤滑性を提供し、さらにゲル化剤としても機能する。好適なセルロース誘導体は、以下に例示される。

(c)ヒドロキシアルキルセルロース、…。このタイプの製品は、…及び
“Klucel”の商標で上市されている。…Klucel-HAを使用する場合には、最低約0.01%が必要であり、最大約0.4%使用できる。…」
(G-4)第14欄
「 表I
---------------------------------

成分(重量%) --------------------
1 2 3 4
---------------------------------

Kulcel-HA・・・・・・・ 0.067 0.075 0.075 0.075

Carbopol934・・・・・ 0.180 0.225 0.225 0.180

---------------------------------」

3.対比

上記刊行物Aにおける組成物は、「ひげそりを含む種々の用途に有効である。」(A-4)とされるものであり、またその請求の範囲第1項(A-7)及び実施例15(A-5)の記載から見て、以下の発明が記載されているものと解される。
「ひげそり組成物として有用な、以下の組成物。
水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77.69 重量部
ラウリル硫酸アンモニウム(28%活性)・・・・・ 17.56 重量部
カルボマー1342(100%活性)・・・・・・・ 0.75 重量部
トリエタノールアミン(100%活性)・・・・・・ 0.5 重量部
圧力剤としてのn-ブタン及び鉱油・・・・・・・・ 各1.5 重量部
イソオクタヘキサコンタン(PERMETHYL)・ 2 重量部
を含む、液体として分配され、広げると即座に発泡する、自己発泡性、自己均展性液体組成物。」(以下、「引用発明」という。)
ここで、引用発明と本願発明とを対比すると、水の含有量は両発明で重複するものであり(なお、引用発明の組成物の総量は101.5重量部)、また、前者の圧力剤は後者の自己発泡剤に相当するものであって、その含有量も重複するものであるし、さらに前者のイソオクタヘキサコンタンは後者の不揮発性パラフィン系炭化水素液体に相当するものであって、その含有量も重複している。そして、引用発明は、セッケンを含まないものである。
したがって、両者は、ともに
「自己発泡性ひげそり組成物であって、重量%で、65?85%の水、1?8%の自己発泡剤、および1?10%の不揮発性パラフィン系炭化水素液体を含んでなり、前記組成物が実質的にセッケンを含まない髭剃り組成物」で一致しており、以下の点で相違する。
[相違点1]
引用発明では、ラウリル硫酸アンモニウム(28%活性)を17.56重量部(101.5重量部中)含有するのに対して、本願発明では、4?16%の、アシル基の炭素数が10?20のN-アシルサルコシンを、該N-アシルサルコシンを可溶化させ、4?8のpHを与えるのに十分な有機アミン塩基とともに含有する点。
[相違点2]
引用発明では、「液体として分配され、広げると即座に発泡する、自己発泡性、自己均展性液体組成物」としているのに対して、本願発明では、「自己発泡性ゲルの形態」としている点。

4.当審の判断

4-1.相違点1について
まず、相違点1について検討する。
本願発明では、N-アシルサルコシンを有機アミン塩基で中和して使用するものであり(明細書第3頁下から8行?第4頁13行)、その際に用いる有機アミン塩基の具体的化合物としては請求項4や例1?5においてトリエタノールアミンがあげられている。そこで、引用発明におけるラウリル硫酸アンモニウムに代えて、N-アシルサルコシンをトリエタノールアミン塩の形態で使用することが当業者にとって容易であるか否かについて、まず検討する。
N-アシルサルコシンの中和物であるN-アシルサルコシン塩を含むN-アシルアミノ酸塩は、皮膚に対して低刺激性の陰イオン性界面活性剤として周知のものであって(例えば、(B-1)?(B-3),(C-1)?(C-4),(D-1)及び(E-1)?(E-3)参照)、その中でもN-ラウロイルサルコシン酸塩(「ラウロイル基」は炭素数12のアシル基)は、ひげそり組成物にも使用されていた(例えば、(C-4),(E-1)?(E-3)参照)ものである。
一方、引用発明におけるラウリル硫酸アンモニウムは、陰イオン性界面活性剤であるアルキル硫酸塩に分類されるものであって、一般に、洗浄力は強いものの、皮膚刺激性を有していること、及び、この皮膚刺激を改善するための界面活性剤としてN-アシルアミノ酸塩が提案されていたことは、本願優先権主張日前において当業者に周知の事項であった(例えば、特開昭63-75096号公報(公報第2頁左上欄)、特開昭62-298515公報(公報第1頁右下欄?同第2頁左上欄)及び特開平3-7799号公報(公報第2頁左上欄)参照)。
また、N-アシルサルコシンを中和して塩とする際に、トリエタノールアミンを対イオンとして自由に選択し得るものであったことは、上記刊行物Cにも記載されている(C-1)ことであって、殊に「(N-)ラウロイルサルコシントリエタノールアミン液」についてはこの形態で市販もされていたものである(C-3)。
してみると、上記引用発明におけるラウリル硫酸アンモニウムに代えて、N-ラウロイルサルコシンを含む炭素数10?20のアシル基をもつN-アシルサルコシンをトリエタノールアミン塩の形態で使用することは当業者が容易になし得たものである。
そして、N-アシルサルコシンを4?16重量%で使用する点については、通常、使用する界面活性剤の量は、その種類や所望の性能等に応じて適宜調整されるものであることに加えて、引用発明におけるラウリル硫酸アンモニウムの量が実質的には4.8重量%程度(17.56×0.28/101.5)であることをも考慮すると、N-アシルサルコシンの量を4?16重量%とすることは、当業者が適宜行う程度のことに過ぎない。
さらに、トリエタノールアミンを「4?8のpHを与える量」で使用することについては、皮膚のpHが5?7程度の弱酸性であって、皮膚刺激性を緩和するためにこの程度のpH域とすることは、本願優先権主張日前からごく普通に行われていたことであり(例えば、特開昭62-298515公報(公報第2頁右上欄)、特開平3-153796号公報(公報第2頁右上欄)及び特開平3-111500号公報(公報第1頁右下欄?同第2頁左上)参照)、これも当業者が適宜行う程度のことに過ぎないものである。
また、「N-アシルサルコシンを可溶化させ」なる点に関しては、特段の事情がなければ、添加する各成分は、通常溶解状態とされるものであるし、市販のラウロイルサルコシントリエタノール液も水溶液の形態とされていたものである(C-3)ことから、この点についても当業者が通常行う程度のことに過ぎない。
したがって、相違点1については、当業者が格別の創意工夫を要することなくなし得たものである。

4-2.相違点2について
次に、相違点2について検討する。
通常、この分野で「自己発泡性」という場合には、(1)容器から分配(放出)する際に同時に発泡する「即時発泡タイプ」と、(2)容器から分配(放出)された際には、液体又はゲル状で、これをその後手で擦る等の動作をした場合に発泡する「後発泡タイプ」と、の二種類のタイプの製品がある。
そこで、本願発明及び引用発明がこの二つのタイプのうちの何れであるかを検討する。
まず、本願発明では、単に「自己発泡性」とするものであるが、本願明細書の「皮膚の上に広げる時にゲルを泡に変える揮発性成分を含むゲルの形態で適量放出される。」(明細書第1頁第4?5行)などの記載から見て、「後発泡タイプ」のものと解せられる。
これに対して、引用発明に関しては、「液体として分配され、広げると即座に発泡する、自己発泡性」とされており、分配と発泡とが別の段階で行われる「後発泡性タイプ」であることが伺われる一方、「広げると即座に
(intsantaneouly on spreading)」とも表現されており、「即時発泡タイプ」とも一応解しうるものである。
しかしながら、刊行物Aの他の箇所の記載においては、例えば、「…表面上に広げた際に同時にかつ即座に発泡し、フォームとなる。(…and foams
spontaniously and instantaneouly when spread on a surface …)」(A-1)及び「次いでこの液体は一回の動作で広げられ、この液体はフォームとなり(図示せず)、さらにこすることによりリッチな泡になる。(The
liquid is then spread with single motion whereby the liquid develops
into a foam (not shown) which turns into a rich lather on further
rubbing.)」(A-6)と記載されていて、「広げる(spread)」動作は、手のひら或いは他の皮膚上の「表面上」で「こする」などの動作を意味するものと解することができる上、「“自己発泡性液体組成物”とは、…フォームではなく液体として分配される組成物を意味する。この液体は一回の動作で広げた際に自発的にかつ即座に発泡する。(“Self-foaming liquid
composition”, as described herein, refers to a composition which is
dispensed as a liquid … , and not as a foam. The liquid foams
spontaneously, and instantaneouly on spreading with single motion.)」(A-3)と記載されていることから、容器からの分配(放出)時にはフォーム(泡)とはならずに液体のままであって、その後の動作で発泡するものと解される。すなわち、引用発明の組成物も「後発泡タイプ」のものと解される。
してみれば、本願発明も引用発明も両者ともに「後発泡タイプ」のものであって、この点において両発明は差異があるものとすることができない。
次に、本願発明では「ゲル」とされている一方、引用発明は「液体組成物」とされているものであるので、以下この点について検討する。
刊行物Aの請求の範囲等においては「液体組成物」とするものであるが、明細書中では「“自己均展性液体組成物”…は、…希薄ゲルを含む。」(A-2)と記載されているし、さらに、少なくとも刊行物Aの実施例15(A-5)については、ゲル化剤を配合した後発泡タイプのひげそり組成物に関する刊行物F及び同Gにおけるゲル化剤の配合量と同程度のゲル化剤が配合されている((F-1)?(F-3)及び(G-1)?(G-4)参照)ことから、ゲル形態になっているものと解されるので、引用発明における「液体組成物」はゲル形態のものも含むものと解される。
したがって、本願発明では「ゲル」とされているのに対して、引用発明では「液体組成物」とされている点に関しても、両発明が実質的に差異があるものとすることができない。
すなわち、上記相違点2によっては、実質的に差異があるものとすることができないものである。

5.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は刊行物A?G及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2008-10-31 
結審通知日 2008-11-04 
審決日 2008-11-17 
出願番号 特願平8-511056
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 貴子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 弘實 謙二
川上 美秀
発明の名称 セッケンを含まない自己発泡性の髭剃りゲル組成物  
代理人 中村 行孝  
代理人 佐藤 一雄  

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