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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800146 審決 特許
無効2009800087 審決 特許
無効2009800243 審決 特許
無効200680265 審決 特許
無効200480238 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A61K
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A61K
管理番号 1195323
審判番号 無効2005-80364  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-12-27 
確定日 2008-12-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3533392号「皮膚外用剤」の特許無効審判事件についてされた平成18年11月10日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項2に係る発明に対する部分の審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10098号、平成19年11月13日判決言渡)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3533392号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3533392号の請求項1,2に係る発明についての出願は、平成15年3月27日に特許出願され、平成16年3月12日にその発明について特許権の設定がされた。
これに対し、請求人より平成17年12月27日付けで本件無効審判の請求がなされ、平成18年3月24日付け訂正請求書(「第1訂正請求書」という。)により明細書の訂正が請求されたが、特許法第134条の2第1項の規定に適合しないため訂正が認められず、請求項1に係る発明の特許は無効とし、請求項2に係る発明の特許は無効とすることはできないとの審決がなされた。
この審決に対し、請求項2に係る発明に対する審決部分の取り消しを求め、知的財産高等裁判所に出訴され、平成19(行ケ)第10098号事件として審理された結果、平成19年11月13日に、「特許庁が無効2005-80364号事件について平成18年11月10日にした審決のうち「特許第3533392号の請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との部分を取り消す。」との判決がなされたものである。
なお、請求項1に係る発明に対する審決は、特許法第178条第3項に定める期間に審決取消の訴えがなされなかったことにより平成18年12月23日に確定したものである(当該請求項1に対する審決は、後述「参考」を参照)。
そして、特許法第134条の3第1項の指定期間内に第134条の2第1項に基づき、被請求人より平成20年2月1日付け訂正請求書(以下、「第2訂正請求書」ともいう。)により明細書の訂正が請求され、平成20年2月18日付けの当審の審尋に対し、平成20年3月4日付けで回答書が提出された。
これに対し、請求人より平成20年5月19日付け弁駁書(以下、「第2弁駁書」ともいう。)が提出され、その後、当審により平成20年7月3日付けの補正拒否の決定がなされ、特許法第134条第2項に基づく答弁指令がなされたが、その期日指定内に被請求人からは何らの応答もなされなかった。
II.請求人の主張
これに対して請求人は、第2弁駁書において
「特許第3533392号に係る平成20年2月1日付け訂正請求書に基づく訂正請求を認めない、特許第3533392号の特許請求の範囲の請求項2に係る発明についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める。
上記訂正請求が認められる場合には、上記訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求める。」
との審判を請求した。
ところで、平成20年7月3日付けの補正拒否の決定において、第2弁駁書による請求の理由の補正については、第2弁駁書の第37頁第9行から第41頁第27行(「7.6.7 特許法第36条第6項第1号違反のその他の根拠について」の項)に記載された事項による請求の理由の補正については許可しないが、それ以外の事項による請求の理由の補正については許可することが決定された。
よって、請求人の主張する無効理由の概略は、以下のとおりである。
(1)平成20年2月1日付け訂正請求書に基づく訂正請求は、新規事項を追加するものであり、また、作用効果の認定又は解釈を変更するものであり、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項または同条第4項に違反するから、認められない(第2弁駁書第3頁下から2行?第15頁19行参照)。
(2)第2訂正請求書による訂正請求が認められない場合には、平成19年(行ケ)第10098号事件の判決に即して、特許第3533392号の特許請求の範囲の請求項2に係る発明についての特許を無効にするとの審決が当然にだされるはずである(第2弁駁書第15頁20行?第20頁16行参照)。
(3)仮に第2訂正請求書の訂正請求が認められたとしても、訂正請求項1に記載の発明は進歩性を有していないので、訂正請求項1に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に基づき無効とされるべきである(第2弁駁書第20頁17行?第29頁6行参照)。
(4)仮に第2訂正請求書の訂正請求が認められたとしても、訂正請求項1の記載は明細書のサポート要件を満たしておらず、訂正請求項1に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に基づき無効とされるべきである(第2弁駁書第29頁7行?第37頁8行参照)。
そして、証拠方法として、下記甲第1号証?甲第69号証(甲第32?50号証は欠番)を提出している。
なお、請求人は、欠番に関連して、「本件無効審判の審理は、平成19(行ケ)第10098号号審決取消請求事件において、・・・・、請求人は、知的財産高等裁判所の要請に沿って、本件無効審判にて既に提出した甲第1号証?甲第31号証を同じく甲第1号証?甲第31号証として同裁判所に提出し、本件無効審判にて被請求人が提出した乙第1?9号証を甲第32?40号証として同裁判所に提出した。さらに、請求人は、本件特許の特許原簿を甲第41号証として、審判請求書、意見書や訂正拒絶理由通知などの本件無効審判にて特許庁、請求人及び被請求人により作成された書類を、甲第42?50号証として同裁判所に提出した。さらに、従来技術に関した甲第51?60号証を、上記審決取消請求事件にて新たに追加した。」、及び、「裁判所に提出した甲第1?50号証については、請求人と被請求人により特許庁に既に提出されている証拠、又は、本件無効審判において証拠として取り扱われるべきでない審判請求書などの書類であるから、新たに提出することはしない。本弁駁書における言及の如何に拘わらず、上記審決取消請求事件にて裁判所に提出した甲第51?60号証を提出し、本弁駁書にて新たに提出される証拠については甲第61号証以降の番号を付すことにする。」(第2弁駁書第3頁参照)と言及している。

甲第1号証 特許第3533392号公報(本件特許公報)
甲第2号証 特開平6-336423号公報
甲第3号証 WO 02/089758号公報
甲第4号証 特表2004-529162号公報(甲第3号証国際出願に対応する公表公報)
甲第5号証 特開2002-51734号公報
甲第6号証 WO 00/64883号公報
甲第7号証 Ann E.Hagerman and Larry G.Butlur,”The Specificity of Proanthocynidin-Protein Interactions,”The Journal of Biological Chemistry,Vol.256,No.9 pp.4494-4497,1981
甲第8号証 Lawrence J.Porter and Judith Woodruffe,Woodruffe,”Haemanalysis:The Relative Astringency of Proanthocyanidin Polymers”PHYTOCHEMISTRY,Vol.23,No.6pp.1255?1256,1984
甲第9号証 米国特許5,578,307号明細書
甲第10号証 米国特許6,426,080号明細書
甲第11号証 特開平9-59124号公報
甲第12号証 特開2000-309521公報
甲第13号証 特開2003-70424号公報
甲第14号証 平成15年9月10日付意見書
甲第15号証 特開昭62-297398号公報
甲第16号証 特開平1-216913号公報
甲第17号証 WO 96/00561号公報
甲第18号証 平成12年12月15日付ヘルスライフビジネス第12頁
甲第19号証 平成13年2月1日付ヘルスライフビジネス 第1頁
甲第20号証 特開2001-106634号公報
甲第21号証 特開平11-75708号
甲第22号証 特開2000-229834号
甲第23号証 「ピクノジェノールモイスチュアライザー」の容器と包装 箱の写真
甲第24号証 「ピクノジェノールモイスチュアライザー」の化粧品輸入 製品販売名届書(作成者 株式会社トレードピア 代表取締役社長 松下祐治 平成13年6月14日東京都知事宛提出)
甲第25号証 特許3568201号公報
甲第26号証 無効2005-80190審決
甲第27号証 乙第4号証に係る出願に関するファイル記録事項
甲第28号証 特許第3556659号公報
甲第29号証 無効2005-80322審決
甲第30号証 米国特許第5578307号明細書(甲第9号証)の一部 翻訳
甲第31号証 シュビッタース外1名著「21世紀の生体防御物質OPC」(平成9年10月30日発行)68?81頁、104?113頁
甲第32号証?甲第50号証 (欠番)
甲第51号証:特開2001-270828号公報
甲第52号証:特開2001-72569号公報
甲第53号証:特開平11-29466号公報
甲第54号証:Yoji Kato,Koji Uchida,and Shunro Kawakishi,”Oxidative Degradation of Collagen and Its Model Peptide by Ultraviolet Irradiation,”J.Agric.Food Chem.1992,49,373-379及びその一部翻訳
甲第55号証:A.W.マーチン著「ピクノジエノールについての真実(フランス海岸樹皮抽出物)」(発行日:平成9年11月1日 発行者:株式会社トレードピア)第82?89頁
甲第56号証:米国特許6,579,543号明細書及びその一部翻訳
甲第57号証:Anders Bennick,”INTERACTION OF PLANT POLYPHENOLS WITH SALIVARY PROTEINS,”Crit Rev Oral Biol Med 13(2):184-196(2002)及びその一部翻訳
甲第58号証:特許第3574612号公報
甲第59号証:特開2000-26234号公報
甲第60号証:シュビッターズ・マスケリエ著「21世紀の生体防御物質 OPC」(平成9年10月30日発行)16?27頁
甲第61号証:特開平10-218769号公報
甲第62号証:特開2002-293736号公報
甲第63号証:特開昭59-51209号公報
甲第64号証:シュビッターズ・マスケリエ著「21世紀の生体防御物質 OPC」(平成9年10月30日発行)28?41頁
甲第65号証:特開平11-193221号公報
甲第66号証:特開平10-218784号公報
甲第67号証:特開2000-159669号公報
甲第68号証:特開平10-316550号公報
甲第69号証:特開2002-275076号
III.被請求人の主張
前述のように、被請求人からは、平成20年5月19日付け弁駁書副本を送達しての答弁指令に対し、何らの応答もされていない。
第2訂正請求書において、「本件発明の全ての要件を備える上記化粧水2および3が、化粧水6および7に比べて血流改善効果および保湿効果に優れることが本件明細書により十分裏付けられており、いわゆるサポート要件を満たすものである。」こと、および、「本件発明は、当業者に予測できない格別の効果を有しており、十分な特許性を有している」から、「本件発明が進歩性を有していることは明らかである。」ことを主張している。
なお、平成18年3月24日付け答弁書および平成18年9月19日付け口頭審理陳述要領書において、証拠方法として、下記乙第1号証?乙第9号証を提出している。

乙第1号証 Bull.Soc.Pharm.Bordeaux,1990年,第129巻,第51?65頁
乙第2号証 特開平8-205818号公報
乙第3号証 特開2005-13208号公報
乙第4号証 特開2004-49135号公報
乙第5号証 フレグランス・ジャーナル No.69 111?115頁(1984)
乙第6号証 株式会社東洋新薬作成の実験成績証明書
乙第7号証 国際公開WO2005/70443号公報
乙第8号証 化粧品事典、平成15年12月15日発行(平成17年4月25日第3刷)丸善株式会社、第676頁
乙第9号証 甲第7号証の抄訳
IV.訂正の適否
特許請求の範囲の訂正(訂正の内容1)と発明の詳細な説明の訂正(訂正の内容2)に分けて検討する。
(1)訂正の内容1(特許請求の範囲)
被請求人が求めている訂正の内容は、第2訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりであるところ、訂正された特許請求の範囲は、次のとおりである。(下線は、原文のとおり。)
「【請求項1】プロアントシアニジンおよびカテキン類ならびに平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲン由来のペプチドを含有する皮膚外用剤であって、該プロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し、2?4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有し、そして、該プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される、皮膚外用剤。」
(1-1)訂正事項a,bの釈明について
平成20年2月18日付けの「平成20年2月1日付けの訂正請求の(3)訂正事項のa,bは、形式的には、無効となった請求項1を訂正し、審決が取り消された請求項2を削除しようとするように記載されており不自然であるので、釈明して下さい。」との審尋に応答して、平成20年3月4日付け回答書で、平成20年2月1日付け提出の訂正請求の(3)訂正事項のa,bは、錯誤による誤記であり、本来記載されるべき訂正事項a,bは次のとおりであると釈明されている。
「訂正事項aは、「特許第3533392号」の明細書中の特許請求項1を削除する」
訂正事項bは、『明細書中の特許請求の範囲の請求項2において、まず、特許請求の範囲の減縮の目的で、カテキン類を追加した上でさらにその含有量を「プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される」と訂正した。次いで、明瞭でない記載の釈明の目的で、引用形式の誤記「または2」を削除した。そして、請求項1が削除されたので、請求項2を請求項1に訂正した。』
この釈明は、妥当なものと認められるので採用する。
この点に関し、請求人は、第2弁駁書第4頁(「7.2.1」の項)において、「上記回答書によって第2訂正請求書の記載が補正される訳ではないのであるから、上記回答書にて被請求人が何を述べようとも、被請求人が、既に無効が確定している請求項1について記載を変更し、審理の対象となる請求項2について削除をするという訂正を、第2訂正請求書において、文言上明確に請求しているという事実に変わりはない。そして、そのような訂正は、特許法第134条の2第1項各号の要請を満たすものではないから、明らかに認められない。」と主張する。
しかし、単に訂正請求書に不自然な錯誤があり、その点は釈明されたのであって、第2訂正請求書の訂正事項a,bについては釈明のとおりに解すればよく、それによって訂正明細書が変更されるわけではないことから、前記請求人の主張は失当であり、採用できない。
(1-2)訂正事項a,bの適否
訂正前の請求項2は、「前記ペプチドがコラーゲン由来のペプチドである、請求項1または2に記載の皮膚外用剤。」であり、引用する請求項1は、「プロアントシアニジンおよび平均分子量が3,000以上7,000以下のタンパク質分解ペプチドを含有する皮膚外用剤であって、該プロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し、2?4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する、皮膚外用剤。」であるから、上記訂正事項a,bは、請求項2について、引用形式の誤記(請求項2において請求項2を引用している点)を削除し、引用する請求項1の内容を取り込み、請求項1を削除し、請求項2を請求項1と訂正し、そして、(A)皮膚外用剤の必須成分として「カテキン類」を追加し、(C)その含有量について「該プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される」と限定するものである。
なお、(B)「コラーゲン由来のペプチド」は、もともと補正前の請求項2に用いられている用語で、補正前の請求項1の「タンパク質分解ペプチド」を限定するものであり、引用項1の内容を取り込むに際し置き換えたものである。((A),(C),(B)の符号は、第2弁駁書の記載に合わせ便宜的に付した。)
そして、前記「請求項2について、引用形式の誤記を削除し、引用する請求項1の内容を取り込み、請求項1を削除し、請求項2を請求項1と訂正」することは、特許法第134条の2第1項のただし書き第2号の誤記の訂正または第3号の明りょうでない記載の釈明に相当する。
(A),(C),(B)の訂正の適否については、第2弁駁書(「7.2.2」?「7.2.4」の項)において請求人は適法でないことを主張するので、合わせて以下検討する。
(1-2-1)(B)の訂正について
第2弁駁書において請求人は、「既に無効が確定している同請求項1には「タンパク質分解ペプチドを含有する」なる文言が含まれることから、「コラーゲン由来のペプチド」が「コラーゲン由来のタンパク質分解ペプチド」と同義であるとするならば、上記(B)の訂正は、新規事項の追加には当たらないと一応は判断できる。同義でないとすれば、上記(B)の訂正は、請求項2の発明特定事項の上位概念への変更に当たる。」(「7.2.2(2)」の項)と主張している。
しかし、「コラーゲン由来のペプチド」は、補正前の引用項1の「タンパク質分解ペプチド」を「コラーゲン由来のペプチド」と限定したものであって、引用項1の内容を取り込むに際し単に置き換えたものであるから、「コラーゲン由来のタンパク質分解ペプチド」と同義であると解して支障はないものと認められるから、(B)の訂正は、もともと使用されていた表現であって違法性はなく、明りょうでない記載の釈明に相当し、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の規定に適合する。
(1-2-2)(A)と(C)の訂正について
(i)当審の判断
「カテキン類」については、本件特許明細書を検討すると(下線は当審で付した)、
(ア)「例えば、2?4量体のOPCを20重量%以上含み、かつカテキン類を5重量%以上含有する・・」(特許明細書段落【0028】)、
(イ)「上記植物抽出物には、・・特にOPCとともにカテキン(catechin)類が上記原料植物抽出物中に5重量%以上含まれていることが好ましい。カテキン類とは、ポリヒドロキシフラバン-3-オールの総称である。カテキン類としては、・・・・カテキン類には、発癌抑制作用、・・・。カテキン類は、OPCの存在下で水溶性が増すと同時に、OPCを活性化する性質があり、OPCとともに摂取することによって、OPCの作用を増強する。」(同段落【0032】)、
(ウ)「カテキン類は、上記原料植物抽出物に含まれていても、タンパク質と反応せず、そしてOPCの溶解性や機能を向上させるため、プロアントシアニジン1重量部に対し、0.1重量部以上含有されていることが好ましい。より好ましくは、OPCを20重量%以上含有する原料植物抽出物に、カテキン類が5重量%以上含有されるように調製される。例えば、松樹皮抽出物のカテキン類含量が5重量%未満の場合、5重量%以上となるようにカテキン類を添加してもよい。カテキン類を5重量%以上含有し、かつOPCを20重量%以上含有する松樹皮抽出物を用いることが最も好ましい。」(同段落【0033】)、
(エ)「・・松樹皮抽出物(2?4量体:40重量%、5量体以上:8.7重量%、カテキン:5.1重量%、商標名:フラバンジェノール、株式会社東洋新薬)20gをSephadex LH-20(・・)で分離し「乾燥粉末重量で7.6gの2?4量体および1.6gの5量体以上のプロアントシアニジンを回収した。得られた5量体以上のプロアントシアニジン1gを、上記の松樹皮抽出物の粉末2gと混合し、5量体以上のプロアントシアニジンを多く含む松樹皮抽出物(2?4量体:27重量%、5量体以上:39重量%、カテキン1.7重量%)を調製した。これらの松樹皮抽出物を、最終濃度が0.2重量%となるように水溶液へ溶解した。」(同段落【0051】)ことが記載されている。
そして、
(オ)実施例1の凝集沈殿評価では、上記プロアントシアニジン溶液1mLとコラーゲン、コラーゲンペプチド、またはアミノ酸溶液各1mLを混合した旨記載され、表1の左端欄の松樹皮抽出物の(2?4量体:0.04重量%、5量体以上0.01重量%)と(2?4量体:0.03重量%、5量体以上0.1重量%)のものは、その前後の記載並びにその2?4量体と5量体以上の重量%が前記(エ)に記載の各松樹皮抽出物のそれらの重量%と良く一致していることから、それぞれ前記(エ)に記載の商標名:フラバンジェノール、株式会社東洋新薬の松樹皮抽出物(以下、「市販の松樹皮抽出物」という。)と「5量体以上のプロアントシアニジン濃度を高めた松樹皮抽出物」が使用されたものと認められ、
(カ)実施例2の血流改善効果と保湿効果の評価では、上記松樹皮抽出物の最終濃度が0.01重量%となるように使用されたとの記載から、表2の「松樹皮抽出物」と「5量体以上の割合が多いプロアントシアニジンを含む松樹皮抽出物」は、それぞれ前記(エ)に記載の「市販の松樹皮抽出物」と「5量体以上のプロアントシアニジン濃度を高めた松樹皮抽出物」が使用されたものと認められ、
(キ)図1には、表2の成分の化粧水1?8を被験者の左右前腕部に塗布した後の血流改善率が示されている。
してみると、実施例1,2で使用される松樹皮抽出物にカテキン類が含まれていることは明らかで、「プロアントシアニジン1重量部に対し、0.1重量部以上含有されていることが好ましい」(摘示(ウ))との記載があることから、皮膚外用剤として、カテキン類を成分とすることは、当初から開示があり、カテキン類を含有させて実施されているので、皮膚外用剤としてカテキン類を必須成分とし、「プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される」ことは、特許明細書に記載されている範囲内のことと言うべきで、また、特許請求の範囲の減縮に相当するものと言うべきである。
なお、「市販の松樹皮抽出物」におけるカテキン類の割合は、プロアントシアニジン1重量部に対し0.105(=5.1/(40+8.7))重量部で、このものは(C)の訂正の「該プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される」との構成を満たしている。
ちなみに、比較例に相当する「5量体以上のプロアントシアニジン濃度を高めた松樹皮抽出物」におけるカテキン類の割合は、プロアントシアニジン1重量部に対し0.026(=1.7/(27+39))重量部であるところ、ただ、「5量体以上のプロアントシアニジン濃度を高めた松樹皮抽出物」は、前記(エ)に記載の製造法によれば、「市販の松樹皮抽出物」2gに5量体以上のプロアントシアニジン1gを混合して得たと記載されているのであるから、得られるものが(2?4量体:26.6重量%、5量体以上:39.1重量%、カテキン3.4重量%)と計算され、カテキン量1.7重量%は計算ミスの可能性が高いが、それだけでは記載不備があるとは言えないし、いずれであっても、(C)の訂正の「該プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される」との構成を満たしていないから、支障はない。
よって、(A),(C)の訂正は、特許明細書に記載した範囲内においてしたものであり(新規事項の追加に相当せず)、かつ、特許請求の範囲の減縮に相当し、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号の規定に適合し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第3項または同条第4項の規定に適合する。
(ii)請求人の主張に対する判断
これに対し、第2弁駁書(第9頁9行?第13頁17行参照)において請求人は、次のような(α)?(γ)の点を主張しているが、いずれも次に示す理由で採用できないものである。
(α)新規事項の追加に相当するとの主張
請求人は、本件明細書の記載として段落【0014】,【0022】,【0028】,【0032】,【0033】,【0051】を挙げた後、「本件明細書には、植物抽出物や松樹皮抽出物を含む皮膚外用剤は明記されていても、植物抽出物や松樹皮抽出物の一成分としてではないカテキン類を含む皮膚外用剤は全く明記されていない。」とし、「本件明細書の記載に基づけば、本件明細書に開示されているカテキン類は、プロアントシアニジンを皮膚外用剤に含有させるために植物抽出物又は松樹皮抽出物を皮膚外用剤に含有させる場合において、その植物抽出物又は松樹皮抽出物に含有される一成分であって、植物抽出物又は松樹皮抽出物が皮膚外用剤に含有されることを条件として皮膚外用剤に存在するに過ぎないものである。このようなカテキン類を、単に「カテキン類」として一般化して特許請求の範囲に記載することは、新規事項の追加に該当する。」と主張している(「7.2.3」の(1)?(5))。
しかし、実施例を含め、松樹皮抽出物を中心に説明はされてはいても、発明としては一般化して記載されているというべきである。カテキン類については、単なる付随的に存在するような扱いではなく、OPCと同様に、その配合割合を明確に意図し、その影響を作用として明確に説明(例えば、段落【0032】,【0033】)し、その程度も図1などによって理解できるように記載されているのであるから、カテキン類を「松樹皮抽出物の一成分として」限定的に理解すべき理由はなく、特許請求の範囲に記載するに際し松樹皮抽出物が皮膚外用剤に含有されることを条件とすべき理由はない。
よって、前記請求人の主張は採用できない。
(β)実施例の不当な拡張であるとの主張
請求人は、「沈殿・懸濁に関する実験結果に関する【表1】において1段目に示された実施例「松樹皮抽出物」も、また、【表3】と図1にて保湿性と血流改善効果が示されている実施例の化粧水2及び3も、フラバンジェノールとコラーゲンペプチドの水溶液と推測され、本件発明の作用効果を奏する全ての実施例について、フラバンジェノールなる松樹皮抽出物が用いられている。しかし、フラバンジェノールなどの松樹皮抽出物に含有される成分は、プロアントシアニジンとカテキン類だけではなく、フラバンジェノールの46.2重量%はプロアントシアニジン又はカテキン類ではない成分で占められているのである(段落【0051】)。本件発明の実施例として開示されており、実験的な検証が行われているのは、あくまで松樹皮抽出物(フラバンジェノール)とコラーゲンペプチドを含む皮膚外用剤である。プロアントシアニジン及びカテキン類以外の成分を46.2重量%の割合で含むフラバンジェノールを、プロアントシアニジンとカテキン類の組合せに単純に対応するものと認めることは困難である。」、また、「松樹皮抽出物を含む皮膚外用剤と、プロアントシアニジン及びカテキン類を含む皮膚外用剤とは、概念的に明らかに別物で、作用効果の点でも同一視することはできない。」、そして、「カテキン類については、上述したように、本件明細書にはあくまで植物抽出物又は松樹皮抽出物の一成分としてのカテキン類が開示されているだけであって、植物抽出物又は松樹皮抽出物の一成分としてではなくカテキン類を皮膚外用剤に含有させる旨は、本件明細書に明記されていないのであるから、本件明細書の特許請求の範囲において単に「カテキン類」と記載することは、プロアントシアニジン及びカテキン類以外の成分を46.2重量%含む松樹皮抽出物を使用した実施例を不当に拡張することになり、新規事項の追加に当たる。」旨を主張している(「7.2.3」の(6))。
しかし、実施例は発明が成立することを説明するデータにすぎず、カテキン類の存在の影響について一般的説明がなされている状況に鑑みれば、発明を実施例に限定して解釈すべき理由はない。そして、実施例に発明の発明特定事項に係る成分以外の成分が配合されていることは当技術分野で一般的であり、対比するに足りるデータがあれば、着目する発明特定事項に係る成分の作用効果を推認できるとするのが妥当で、発明特定事項に係る成分の割合の多寡は問題ではない。実施例に植物抽出物(松樹皮抽出物)が用いられたことによって、発明をその実施例に限定すべき理由はないから、実施例を不当に拡張し、新規事項の追加に当たるとの請求人の主張は失当であり、採用できない。
(γ)カテキン類の数値限定((C)の訂正)は新規事項の追加に相当するとの主張
(γ-1)請求人は、「段落【0033】のその他の記載、段落【0028】や【0032】の記載を踏まえると、上記の記載における「プロアントシアニジン1重量部に対し、0.1重量部以上含有されていることが好ましい」は、植物抽出物におけるプロアントシアニジンとカテキン類の割合に言及していると解釈するのが妥当であって、皮膚外用剤に含まれるプロアントシアニジンの総量とカテキン類の総量の割合について言及していると認めることはできない。」また、「プロアントシアニジンとカテキン類は、植物から精製して製造される以外に、人工的に合成され得る(例えば、甲第61号証,甲第17号証,甲第62号証,甲第63号証)もので、その製造方法や皮膚外用剤に含有される形態(例えば、植物抽出物)などで限定されないものである。」から、「少なくとも、段落【0033】の記載における「プロアントシアニジン1重量部に対し、0.1重量部以上」が、皮膚外用剤に含まれるプロアントシアニジンの総量とカテキン類の総量の割合であることを、本件明細書の記載から自明な事項として導き出すことはできない。」と主張し、
さらに、「本件明細書の段落【0033】に記載されたような、植物抽出物におけるプロアントシアニジンとカテキン類に関する数値限定は、あくまで皮膚外用剤の一構成要素内における部分的な数値限定であって、皮膚外用剤に含まれるプロアントシアニジンの総量とカテキン類の総量に関する訂正(C)のような数値限定とは、技術的思想という点で明確に異なっている。」から、「本件明細書には、皮膚外用剤に含まれるプロアントシアニジンの総量とカテキン類の総量の割合が記載されておらず、また、皮膚外用剤に含まれる植物抽出物又は松樹皮抽出物におけるプロアントシアニジンとカテキン類の割合について記載されていても、皮膚外用剤に含まれる任意の製法や任意の形態のプロアントシアニジンの総量と当該皮膚外用剤に含まれる任意の製法や任意の形態のカテキン類の総量の割合について記載されていることはならないのであるから、皮膚外用剤に含まれる(任意の製法や任意の形態の)プロアントシアニジンの総量と(任意の製法や任意の形態の)カテキン類の総量に言及する訂正(C)は、新規事項の追加に該当する。」旨(「7.2.4」の(1)の項)を主張している。
しかし、段落【0033】における植物抽出物は単なる一例であり、原料植物抽出物に単にカテキン類が含まれると説明しているだけの一般的な記載と解すべきであるから、段落【0033】の記載が皮膚外用剤に含まれるプロアントシアニジンの総量とカテキン類の総量の割合であることは、明らかであり、新規事項の追加に相当するとの請求人の主張は採用できない。
(γ-2)請求人は、被請求人の根拠とする実施例と実験結果について、明細書には、(OPCリッチな)プロアントシアニジンとカテキン類との組合せの範囲については、段落【0051】の記載から計算すればプロアントシアニジン1重量部に対しカテキン類が0.105重量部含有される開示はあるものの、それ以外の組合せの記載はないこと、及び、段落【0031】には、プロアントシアニジン1重量部に対しカテキン類が0.1重量部以上含有されている場合に、凝集・沈殿が抑制されるとは記載されていないことから、訂正(C)は組合せ範囲を不当に拡張するものである旨(第2弁駁書第10頁25行?第11頁26行の「7.2.4」の(2)の項を参照)を主張している。
しかし、少なくとも、「カテキン類は、・・・プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有されていることが好ましい。」(段落【0033】)との記載があり、表2には、プロアントシアニジン1重量部に対しカテキン類が0.1重量部以上含有する例と「5量体以上のプロアントシアニジンを多く含む松樹皮抽出物を調整し、プロアントシアニジンに対するカテキンの量を0.10以下にしたもの」(段落【0051】)を使用した対比例も有る(前記(1-2-2)の(i)も参照)ことを勘案すると、(C)の訂正は組合せ範囲を不当に拡張するものとは言えない。
(γ-3)請求人は、技術的思想の裏付けについて、段落【0031】では、カテキン類に言及することなく5量体と2?4量体の割合を規定し、段落【0033】では、5量体と2?4量体の割合を限定することなくカテキン類の割合を規定していることから、それらの技術思想は個々に開示されているだけで、これら技術思想の組合せは本件明細書に開示された実験結果や実施例に裏付けられたものではなく、開示されたこれら技術思想の組合せが本件明細書の記載の範囲内であると認められないし、開示された実験結果に基づけば、本件発明は作用効果を奏さない皮膚外用剤を含むと判断され、新規事項に相当する旨(第2弁駁書第11頁27行?第13頁17行の「7.2.4」の(3)の項を参照)を主張している。
しかし、前記(γ-2)における理由と同じ理由で、(C)の訂正は組合せ範囲を不当に拡張するものとは言えないし、新規事項に相当するとも言えない。
(2)訂正の内容2(発明の詳細な説明)
被請求人が求めている訂正の内容は、第2訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりであるところ、発明の詳細な説明にについての訂正事項c.?p.は次のとおりである。
「c.明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】の1行目の「本発明は、プロアントシアニジンを含有する皮膚外用剤に関し、」を、「本発明は、皮膚外用剤に関し、」と訂正する。
d.明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】の「2?4量体のプロアントシアニジンと一定の分子量のペプチドとを組み合わせることによって、タンパク質の凝集沈殿が起こらず、」を「2?4量体のプロアントシアニジンとカテキン類と一定の分子量のペプチドとを組み合わせることによって、凝集沈殿が起こらず、」と訂正する。
e.明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】の記載を、「すなわち、本発明は、プロアントシアニジンおよびカテキン類ならびに平均分子量3,000以上7,000以下のコラーゲン由来のペプチドを含有する、皮膚外用剤を提供し、該プロアントシアニジンは、5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し、2?4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有し、そして、該プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される。」と訂正する。
f.明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】および【0010】の記載を削除する。
g.明細書の発明の詳細な説明の段落【0031】の8行目?9行目の「タンパク質」を「コラーゲン由来ペプチド」と訂正する。
h.明細書の発明の詳細な説明の段落【0037】を「本発明の皮膚外用剤のもう一つの必須成分は、コラーゲンを分解して得られる平均分子量が7,000以下のペプチド(本明細書において、コラーゲン由来ペプチドという)である。コラーゲン由来ペプチドとしては、コラーゲンを酸、アルカリ、または酵素を用いて分解したものであれば特に限定されるものではない。ペプチドに分解されたコラーゲンは、べたつきのない使用感が得られるだけでなく、優れた保湿効果も有する。」と訂正する。
i.明細書の発明の詳細な説明の段落【0040】の4行目?5行目の「分子量が約200以上、好ましくは約3,000以上」を「分子量が約3,000以上」と訂正する。
j.明細書の発明の詳細な説明の段落【0042】の1行目?2行目の「タンパク質分解ペプチド、好ましくはコラーゲンペプチドを」を「コラーゲンペプチドを」と訂正する。
k.明細書の発明の詳細な説明の段落【0043】の1行目?2行目の「本発明の皮膚外用剤には、上記プロアントシアニジンおよびタンパク質分解ペプチド以外に」を「本発明の皮膚外用剤には、上記プロアントシアニジンおよびカテキン類ならびにコラーゲン由来ペプチド以外に」と訂正する。
l.明細書の発明の詳細な説明の段落【0047】の1行目?3行目の「本発明の皮膚外用剤は、通常用いられる方法により、プロアントシアニジンおよびタンパク質分解ペプチドと他の成分とを混合して調製することができ、」を「本発明の皮膚外用剤は、通常用いられる方法により、プロアントシアニジンおよびカテキン類ならびにコラーゲン由来ペプチドと他の成分とを混合して調製することができ、」に訂正する。
m.明細書の発明の詳細な説明の段落【0048】の3行目および段落【0065】の3行目?4行目の「タンパク質分解ペプチド」を「コラーゲン由来ペプチド」に訂正する。
n.明細書の発明の詳細な説明の段落【0057】の5行目?6行目の「2?4量体のプロアントシアニジンを5量体以上のプロアントシアニジンよりも多く含む松樹皮抽出物」を「2?4量体のプロアントシアニジンを5量体以上のプロアントシアニジンよりも多く含み、かつカテキンを含む松樹皮抽出物」に訂正する。
o.明細書の発明の詳細な説明の段落【0057】の8行目?10行目の「2?4量体のプロアントシアニジン(OPC)またはプロアントシアニジンとしてOPCを多く含む松樹脂抽出物」を「2?4量体のプロアントシアニジン(OPC)またはプロアントシアニジンとしてOPCを多く含み、かつカテキンを含む松樹脂抽出物」に訂正する。
p.明細書の発明の詳細な説明の段落【0063】の2行目?3行目および段落【0064】の2行目?3行目の「2?4量体の割合が多いプロアントシアニジンを含有する松樹皮抽出物」を「2?4量体の割合が多いプロアントシアニジンを含有し、かつカテキンを含有する松樹皮抽出物」に訂正する。」
上記訂正事項c.?p.は、前記訂正事項a.とb.による特許請求の範囲の訂正に合わせて、訂正前の内容に対応する内容を記載している明細書の発明の詳細な説明における記載を訂正するものと認められるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認める。
ところで、請求人は、上記訂正について次のような主張をしている(第2弁駁書第13頁18行?第15頁19行参照)が、いずれも失当であり、採用できない。
(i)段落【0033】の記載からカテキン類によってOPCの溶解性が向上したとしても、それによってコラーゲンペプチドとプロアントシアニジンの反応に起因した凝集・沈殿が当然に抑制されるとは考えることはできないし、段落【0056】の表1に開示された実験からも、カテキン類による凝集・沈殿の抑制効果或いはカテキン類によるOPCの溶解性を把握することができないから、段落【0007】の訂正(訂正事項d)については新規事項の追加に該当し、さらには、本件発明の作用効果の認定又は解釈を変更するものである旨、及び段落【0057】の訂正(訂正事項n)についても同様である旨を請求人は主張している。
しかし、訂正事項d,nは、カテキン類について言及したことによって、訂正前のカテキン類について言及していない場合の作用効果に、新たな作用効果を追加したものではなく、いずれも単に特許請求の範囲の訂正に合わせカテキン類についても言及したにすぎないものと解すべきあり、新規事項の追加に該当し、さらには作用効果の認定又は解釈を変更するものであるとの請求人の主張は採用できない。
(ii)段落【0008】の訂正(訂正事項e)は、上記訂正(A)及び(C)と同様に新規事項の追加に該当し、段落【0043】と【0047】の訂正(訂正事項k,l)は、上記訂正(A)と同様に新規事項の追加に該当すると請求人は主張している。
しかし、上記(A)と(C)の訂正は、前記「(1)(1-2)(1-2-2)」で検討したように新規事項の追加に該当しないから、同様に訂正事項e,k,lは、新規事項の追加に該当しない。
(iii)段落【0063】及び【0064】の訂正(訂正事項p)は、カテキン含有があたかも特別なことであるかのような内容になっていて、本件発明の作用効果の認定又は解釈に影響を与える旨を主張している。
しかし、いずれも単に特許請求の範囲の訂正に合わせカテキン類についても言及したにすぎないものと解すべきであり、新規事項の追加に該当しないし、作用効果の認定又は解釈を変更するものであるとの請求人の主張は採用できない。
(3)むすび
以上のとおり、上記訂正事項a.?p.に係る訂正は、特許法第134条の2第1項のただし書き、及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。
V.容易性の判断
(1)本件発明
本件明細書についての上記訂正請求は、上記「IV.」で検討したとおり認められるものであり、訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】プロアントシアニジンおよびカテキン類ならびに平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲン由来のペプチドを含有する皮膚外用剤であって、該プロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し、2?4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有し、そして、該プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される、皮膚外用剤。」
(2)各号証の記載事項(なお、下線は当審で付した。)
(2-1)甲第2号証(特開平6-336423号公報)
(2-1-i)「【請求項1】プロアントシアニジンとムコ多糖類及び/又はタンパク質とを有効成分として含有する皮膚外用剤。
【請求項2】プロアントシアニジンがブドウ抽出物に含有されるものである請求項1記載の皮膚外用剤。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】,【請求項2】参照)
(2-1-ii)「【0005】すなわち本発明は、プロアントシアニジンとムコ多糖類及び/又はタンパク質とを有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用剤を提供するものである。
【0006】本発明の有効成分であるプロアントシアニジンは、ブドウ果実の搾汁粕又は種子の他、トチの実の殻、つるこけもも、大麦、小豆、松・樫・山桃等の樹皮等に含まれる化合物である。
【0007】さらに詳しく言えば、このプロアントシアニジンは前記のごとき各種の植物中に存在する縮合型タンニン、すなわちフラバン-3-オールまたはフラバン-3,4-ジオールを構成単位として縮合もしくは重合により結合した化合物群(オリゴマーの混合物)であって、これらは酸処理によりシアニジン、デルフィニジン、ペラルゴニジン等のアントシアニジンを生成するところからこの名称が与えられているものである。」(段落【0005】?【0007】参照)
(2-1-iii)「【0008】従って、本発明のプロアントシアニジンとしては、前記構成単位の2?10量体、さらにはそれ以上の高分子プロシアニジン、プロデルフィニジン、プロペラルゴニジン等のプロアントシアニジンおよびそれらの立体異性がすべて含まれるが、このうち、溶解性等の優れている次の式
【化1】構造式省略
(式中、・・・中略・・・である)で表されるフラバン-3-オールまたはフラバン-3,4-ジオールを構成単位とした2?10量体、特に2?4量体のプロアントシアニジンを好適に使用することができる(特開昭61-16982号公報参照)。」(段落【0008】参照)
(2-1-iv)「【0010】プロアントシアニジンは、ブドウ果実の搾汁粕又は種子から抽出されたブドウ抽出物に、通常その成分として、フラバノールに換算して10%以上(固形分換算)含まれており、ブドウ抽出物は最も経済的なプロアントシアニジン源ということができる。以下、本発明においてはプロアントシアニジン源としてこのブドウ抽出物を例に取り説明をおこなう。」(段落【0010】参照)
(2-1-v)「【0018】また、タンパク質としては、例えばコラーゲン、エラスチン、ケラチンおよびこれらの誘導体ならびにその塩類を挙げることができ、特にコラーゲンが好ましい。」(段落【0018】参照)
(2-1-vi)「【0027】参考例4
ブドウ抽出物の製造:ブドウ種子20重量部に、80%(v/v)エタノール80重量部を加え、室温で3日間抽出した後濾過し、ブドウ抽出物を得た[乾燥固形分として2.4%(W/V)、プロアントシアニジンをフラバノール換算で66%(乾燥固形分当り)含有]。」(段落【0027】参照)
(2-1-vii)「【0046】実施例 5
洗浄料:次に示す処方及び下記製法で洗浄料を調製した。

(2-2)乙第1号証(Bull.Soc.Pharm.Bordeaux,1990年,第129巻,第51?65頁)(なお、フランス語であるため、翻訳文で摘示する。)
(2-2-i)「薬剤調合を目的とする植物エキスにおけるプロシアニドール類の定量」(第51頁のタイトル参照)
(2-2-ii)「I-分離され同定されたフラバノール
15種類のフラバノール分子が準備され、そのうち12種類のプロシアニドールが下表に列挙されている。記述を簡略にするために、以下のシンボルでもって示されている。



」(第55頁参照)
(2-2-iii)「III-植物エキスにおけるプロシアニンドール類の定量の適用
治療のための使用を目的として研究された植物エキスは、次のものからもたらされる。
-ブドウVitis vinifera L.の種、葡萄酒醸造の二次的生成物
-フランス海岸松Pinus pinaster Aitonの樹皮、森林伐採の残物」(第57頁19?25行参照)
(2-2-iv)「1.ブドウの種のエキス
C.L.H.P.によるブドウの種のエキスにおけるプロシアニドール定量決定は、先に規定した操作条件(溶離溶媒の中に可溶化されたエキス50μgが分析時に注入される)で実施された。
1.1.クロマトグラム
15のピークが数えられ、その内14が番号でもって図面に表わされ、同定され、定量決定された(Fig.2)。Fig.2 省略
1.2.このエキスにおける溶離されたフラバノール化合物含有量
C.L.H.P.によって定量決定することのできる、プロシアニドール及び溶離されたフラバン-3-オールモノマーの総含有量は、エキス100gに対して53.2gであると認定される。・・・中略・・・
1.3.それぞれの縮合度によるフラバノールの分布
プロシアニドールは、定量決定されたフラバノールの67.5%を構成しているが故に、圧倒的に多数を占めていると言える。
フラバン-3-オールモノマー
このエキスは、同じ割合で(+)-カテキンと(-)-エピカテキンを含有している。第三のモノマー、(-)-エピカテキン-3-O-ガレートは検出されたが、その含有量は一般的に、定量決定されたフラバノールの1%を越えない。
プロシアニドール
最も多く現れる二量体は、下表からわかるように、(-)-エピカテキンによって構成されている。


・・・中略・・・
定量決定の過程で溶離されないプロシアニドールは、20mlのメタノールのカラムの通過によって集められる。このプロシアニドールは、Bate-Smith分析によって定量決定された34%フラバノールとして認定される。
このブドウの種のエキスにおいて、0.5?1の間に含まれる値である比E/C=0.93は、概ね同じ割合で一度にカテキン誘導体とエピカテキン誘導体を内包したタンニンと規定される。」(第57頁28行?第61頁下から16行参照)
(2-2-v)「2.フランス海岸松の樹皮のエキス
フランス海岸松の樹皮のエキスにおけるプロシアニドール定量決定の分析プロトコルは、あらゆる点で葡萄の種のエキスに対して規定された分析プロトコルに類似している。
2.1.クロマトグラム
このエキスにおいて同定され、定量決定されたフラバノール化合物の数は7個である(Fig.3)。Fig.3 省略
2.2.このエキスにおける溶離されたフラバノール化合物含有量
フランス海岸松の樹皮のエキスにおけるC.L.H.P.による定量決定の過程で溶離されたフラバノール・オリゴマー含有量は、エキス100gに対して37.1gであると認定される。
2.3.それぞれの縮合度によるフラバノールの分布
定量決定されたプロシアニドールは、定量決定されたフラバノール化合物の61.7%を構成している。
フラバン-3-オールモノマー
このエキスは、ほとんど全部的に(+)-カテキンを、即ち定量決定されたフラバノールの36%を含有している。しかしながら、(-)-エピカテキンが検出され、定量決定されたフラバノールの2.4%を構成している。

C-C-CとE-E-Cの三量体は17.5%を、即ち、それぞれ5.7%と11.8%を構成している。このような様々な濃度の分布によって、Sephadexカラムの上における分離の後になされた、様々な化合物の重量に関する評価が確認される。
・・・中略・・・
定量決定の過程で溶離されなかったプロシアニドールは、Bate-Smith反応によって評価され、注入されたフラバドールの37%に上る。
松の樹皮のエキスにおいて、フラバン-3-オールモノマー含有量の比E/Cは、0.1に等しい。
この比は0.1?0.5の間に含まれ、カテキンが優位のタンニンを規定する(Fig.4)。
・・・中略・・・」(第61頁下から15行?第62頁末行)
(2-2-vi)「Fig.4フラバノールエキスの組成

」(第63頁参照)
(2-3)甲第62号証(特開2002-293736号公報)
(2-3-i)「【0045】
【発明の効果】(-)カテキン、(+)カテキン、レスベラトロール類、それを含有する植物やその抽出物には生体中のメーラード反応を阻害する効果を有しているので、これらを含有する経口組成物や外用剤組成物は、シワの形成や皮膚柔軟性の低下の予防、加齢に伴う血管組織老化の予防、糖尿病に伴う皮膚組織、血管組織および水晶体の老化の予防に有用である。」(段落【0045】参照)
(2-4)甲第65号証証(特開平11-193221号公報)
(2-4-i)「【0002】
【従来の技術】化粧品分野において、植物ポリフェノール類(タンニン類)は古くから収斂剤もしくは発汗抑制剤、すなわち皮膚のタンパク質、特に汗腺の開口部を凝固、収縮させることにより発汗を抑制する薬剤として用いられてきた。また、近年はポリフェノール類の中でも特に茶ポリフェノール類であるカテキン類やテアフラビン類が、その抗菌性、抗う蝕性、消臭能、抗酸化性などの性質が注目され、歯磨き、石けん等に添加されている。・・・(後略)。」(段落【0002】参照)
(2-4-ii)「【0015】次に、本発明における化粧品とは、化粧用及び医薬部外品として用いるクリーム、乳液、化粧水、歯磨きなどがある。クリームにはその使用目的から、皮膚の清浄・化粧落とし用としてクレンジングクリーム、皮膚の血液循環促進用としてマッサージクリーム、皮膚の保護・保湿・柔軟用としてエモリエントクリーム、ナリシングクリーム、ナイトクリーム、化粧下地としてベースクリームなどのほか、にきび用の外用剤(医薬部外品)などがある。乳液にはその使用目的から、皮膚の清浄・化粧落とし用としてクレンジングローション、クレンジングミルク、皮膚の保護・保湿・柔軟用としてエモリエントローション、ハンドローション、ボディーローション、皮膚の血行促進用としてマッサージミルク、マッサージローションなどがある。」(段落【0015】参照)
(2-5)甲第66号証(特開平10-218784号公報)
(2-5-i)「【0013】本発明に係るアレルギー性皮膚炎治療用外用薬は、茶葉抽出物を有効成分として用いている。本発明で適用される茶葉抽出物の主成分は、カフェイン類、茶ポリフェノール類(カテキン類、タンニン類、テアフラビン類)およびフラボノイド類であり、その他、タンパク質、アミノ酸類、糖類および植物色素、ビタミン類等の様々な有機成分を含む。・・・(後略)。」(段落【0013】参照)
(3)対比、判断
甲第2号証には、上記(2-1)での摘示事項、特に、タンパク質としてコラーゲンやケラチンが明示されている(摘示(2-1-v)参照)こと、及び、実施例5においてケラチン加水分解物が使用されている(摘示(2-1-vii)参照)ので、甲第2号証のコラーゲンについてもその加水分解物を使用する場合も含まれると解されることから、以下の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されていると認められる。
「プロアントシアニジンおよびコラーゲン由来のペプチドを含有する皮膚外用剤。」
そこで、本件発明と甲第2号証発明とを対比する。
両発明は、「プロアントシアニジンおよびコラーゲン由来のペプチドを含有する皮膚外用剤。」で一致し、次の相違点1?3で相違する。
<相違点>
1.甲第2号証には、本件発明の特定事項である、コラーゲン由来のペプチドの平均分子量が3,000以上7,000以下であることが規定されていない点
2.甲第2号証には、本件発明の特定事項である、プロアントシアニジンが、5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し、2?4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有するものであることが規定されていない点
3.甲第2号証には、本件発明の特定事項である、カテキン類を含有すること、及び、プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有されることが規定されていない点
ところで、平成19年(行ケ)第10098号事件の判決において、相違点2については、甲第2号証自体の記載内容及び技術常識から当業者にとり容易想到と判断されると判示され(判決書第63頁14?16行参照)、相違点1については、甲第12号証の記載と甲第36号証(乙第5号証)の技術常識から当業者にとり容易想到と判断されると判示されている(判決書第74頁下から2行目?第75頁1行,第75頁5行?第84頁16行参照)。
そして、相違点3は、第2訂正請求書での訂正請求によって新たに発明特定事項とされたものである。
そこで、相違点3について検討する。
甲第2号証発明において、皮膚外用剤に含有されるプロアントシアニジンとしては、実施例にも用いられているブドウ種子抽出物が具体的に説明されているところ、例えば、被請求人が提出した乙第1号証(摘示(2-2-iv)参照;プロシアニドールはプロアントシアニジンのことである。)には、ブドウ種子抽出物についてカテキン類((+)カテキン、(-)エピカテキンなど)が含まれることが明らかにされていることからみると、甲第2号証の発明において具体的に用いられるブドウ種子抽出物(抽出物を単にろ過したもの;摘示(2-1-vi)参照)に、記載はないもののカテキン類は適宜含有されているものというべきである。
更に、甲第62号証(段落【0045】など)や甲第65号証(段落【0002】,【0015】など)、甲第66号証(段落【0013】など)に記載されているように、カテキン類を含有させた皮膚外用剤は知られているのであるから、甲第2号証発明の皮膚外用剤において、プロアントシアニジンとして用いられるブドウ種子抽出物に含有されるカテキン類をあえて除去すべき理由はなく、カテキン類が存在する状態で用いてみる程度のことは当業者が容易に想到し得たものといえる。
ところで、乙第1号証において、摘示の記載を検討すると、ブドウ種抽出物については、定量決定したフラバノールの67.5%(%は、重量に関する評価との記載から重量%と認める)がプロシアニドールであるから残りの32.5%が単量体(即ちカテキン類)であるといえ、二量体の合計が29.7%,三量体の合計が28.2%、四量体が9.6%(=67.5%-29.7%-28.2%;定量分析では四量体まで定量されている。)である(これらの組成比はFig.4に図示されている)ところ、定量決定の過程で溶出せずメタノールで溶出されたプロシアニドールが34%あってこれらが全て5量体以上であると仮定しても、カテキン類が21.45%(=32.5%×(100%-34%))に対し残りプロシアニドールの合計78.55%(=100%-21.45%)であるから、プロアントシアニジン1重量部に対しカテキン類が0.27重量部であって、プロアントシアニジン1重量部に対しカテキン類が0.1重量部以上含有することは明らかであり、また、5量体のプロアントシアニジン34%に対し2?4量体44.55%(=67.5%×(100%-34%))であるから5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し2?4量体のプロアントシアニジンが1重量部以上であることも明らかである。また、甲第2号証の段落【0006】には、プロアントシアニジンは、ブドウ種子の他、松樹皮などに含まれる化合物であることも記載されているところ、乙第1号証における松樹皮抽出物については、二量体と三量体の合計(61.7%,Fig.4等から4量体はない)に対する単量体であるカテキン類の合計38.4%(36%+2.4%)は、定量分析で溶出せずメタノールで溶出されたプロシアニドールが37%あることを勘案したとしても、ブドウ種抽出物の場合と同様に計算し、プロアントシアニジン1重量部に対しカテキン類が0.1重量部以上含有すること、及びプロアントシアニジンについて2?4量体が5量体以上のものより多いことも明らかである。
結局のところ、乙第1号証における「ブドウ種抽出物」及び「松樹皮抽出物」に含有される2?4量体に対するカテキン類の量は、本件発明で規定されている量比を満たしているものと認められることから、プロアントシアニジン1重量部に対しカテキン類が0.1重量部以上を含有する松樹皮やブドウ種の抽出物は格別特異なものとは言えない。
そうすると、相違点3に係る本件発明の発明特定事項は、当業者が容易に採用し得たものである。
一方、「プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される」ことによる効果についてであるが、平成19年(行ケ)第10098号事件の判決書の第84頁の(5)において、「本件発明2が甲2発明との相違点1,2につき容易想到であることからすると、化粧水2,3につき血流改善等に効果がみられるとの点は、その比較対象となった化粧水6,7等について、これらが当業者の認識する従来技術に属する製品であるとは到底認められないから、本件発明2に従来技術から当業者には予測もつかない顕著な効果があると認めることもできないというべきである。」と判示されている。
そして、相違点1,2に加え3についても容易想到であることからすると、「プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される」との構成が追加されたことによって、実施例となる化粧水2,3の例で市販品(商標名:フラバンジェノール、株式会社東洋新薬)がそのまま用いられ、比較例となる化粧水6,7の例ではその市販品に5量体以上のプロアントシアニジン(市販品から分離精製したもの)を添加することによって製作したもの(本件明細書段落【0051】参照)が変るわけではなく、「比較対象となった化粧水6,7等について、これらが当業者の認識する従来技術に属する製品であるとは到底認められない」との判断を変更できるわけではないから、訂正請求項1に係る発明に従来技術から当業者には予測もつかない顕著な効果があると認めることもできない。
よって、本件発明は、本件出願前の刊行物である甲第12号証と乙第5号証、乙第1号証、甲第62号証、甲第65号証、甲第66号証の記載を勘案の上、本件出願前の刊行物である甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
VI.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、請求人が主張する他の理由については判断するまでもなく、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
皮膚外用剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】プロアントシアニジンおよびカテキン類ならびに平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲン由来のペプチドを含有する皮膚外用剤であって、該プロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し、2?4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有し、そして、該プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される、皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、皮膚外用剤に関し、さらに詳細には、優れた肌質の改善効果を有する皮膚外用剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
プロアントシアニジンは、フラバン-3-オールおよび/またはフラバン-3,4ジオールを構成単位とする重合度が2以上の縮重合体からなる縮合型タンニンであり、古くから肌の収斂性を高め、整肌効果を目的として使用されていた。近年、プロアントシアニジンは、抗酸化作用や美白効果などの種々の活性を有することから、食品や化粧品への応用が図られている(特許文献1および2)。例えば、タンパク質を配合した化粧料にも応用されている(特許文献3?6)。また、特に溶液中におけるタンニンとタンパク質の安定性を高める種々の改良もなされている(特許文献7)。
【0003】
一方、プロアントシアニジンは、タンパク質との結合能力が高い性質を持つため、ゼラチン高融点ゲルの製造やコラーゲンの架橋剤としても用いられてきている(特許文献8および9)。
【0004】
しかし、プロアントシアニジンはタンパク質との結合能力が極めて高いため、プロアントシアニジンの抽出方法や植物種などによっては、タンパク質と結合して凝集沈殿や懸濁を生じる。そのため、製剤化が困難なだけでなく、コラーゲンやプロアントシアニジンが沈殿し、それぞれの有する生体への効果が非常に低下するという問題から、製剤や化粧品への応用範囲が限られていた。
【0005】
【特許文献1】
特開昭61-16982号公報
【特許文献2】
特開平2-134309号公報
【特許文献3】
特開平11-75708号公報
【特許文献4】
特開2000-60482号公報
【特許文献5】
特開平6-336423号公報
【特許文献6】
特開2002-238497号公報
【特許文献7】
特開2002-51734号公報
【特許文献8】
特開平2-163046号公報
【特許文献9】
特開2001-8634号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、プロアントシアニジンによる生体への効果が損なわれず、さらにプロアントシアニジンが有するタンパク質の収斂性に関する問題を解決した皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、驚くべきことに、2?4量体のプロアントシアニジンとカテキン類と一定の分子量のペプチドとを組み合わせることによって、凝集沈殿が起こらず、その結果、それぞれの効果が相殺されずに得られることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、プロアントシアニジンおよびカテキン類ならびに平均分子量3,000以上7,000以下のコラーゲン由来のペプチドを含有する、皮膚外用剤を提供し、該プロアントシアニジンは、5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し、2?4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有し、そして、該プロアントシアニジン1重量部に対し、カテキン類が0.1重量部以上含有される。
【0009】
(削除)
【0010】
(削除)
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の皮膚外用剤について説明する。なお、以下に説明する構成は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができることは当業者に明らかである。
【0012】
本発明の皮膚外用剤に用いられるプロアントシアニジンとは、フラバン-3-オールおよび/またはフラバン-3,4-ジオールを構成単位とする重合度が2以上の縮重合体からなる化合物群をいう。
【0013】
このプロアントシアニジンとしては、重合度の低い縮重合体が多く含まれるものが好ましく用いられる。重合度の低い縮重合体としては、重合度が2?30の縮重合体(2?30量体)が好ましく、重合度が2?10の縮重合体(2?10量体)がより好ましく、重合度が2?4の縮重合体(2?4量体)が特に好ましい。この重合度が2?4の縮重合体を、本明細書ではOPC(オリゴメリック・プロアントシアニジン;oligomeric proanthocyanidin)という。プロアントシアニジンは、ポリフェノール類の一種で、植物が作り出す強力な抗酸化物質であり、植物の葉、樹皮、果物の皮もしくは種の部分に集中的に含まれている。プロアントシアニジン、特にOPCは、具体的には、松、樫、山桃などの樹皮、ブドウ、ブルーベリー、イチゴ、アボガド、ニセアカシア、コケモモの果実もしくは種子、大麦、小麦、大豆、黒大豆、カカオ、小豆、トチの実の殻、ピーナッツの薄皮、イチョウ葉などに含まれている。また、西アフリカのコーラナッツ、ペルーのラタニアの根、日本の緑茶にも、OPCが含まれることが知られている。OPCは、ヒトの体内では、生成することのできない物質である。
【0014】
本発明の皮膚外用剤に含有されるプロアントシアニジンとしては、上記の樹皮、果実もしくは種子の抽出物のような医薬品、医薬部外品、または化粧料の原料を使用することができる。特に、松樹皮の抽出物を用いることが好ましい。松樹皮は、プロアントシアニジンの中でもOPCに富むため、プロアントシアニジンの原料として好ましく用いられる。
【0015】
以下、OPCを豊富に含む松樹皮の抽出物を例に挙げて、プロアントシアニジンの調製方法を説明する。
【0016】
松樹皮抽出物としては、フランス海岸松(Pinus Martima)、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダなどのマツ目に属する植物の樹皮抽出物が好ましく用いられる。中でも、フランス海岸松(Pinus Martima)の樹皮抽出物が好ましい。
【0017】
フランス海岸松は、南仏の大西洋沿岸の一部に生育している海洋性松をいう。このフランス海岸松の樹皮は、プロアントシアニジン、有機酸、ならびにその他の生理活性成分などを含有し、その主要成分であるプロアントシアニジンに、活性酸素を除去する強い抗酸化作用があることが知られている。
【0018】
松樹皮抽出物は、上記の松樹皮を水または有機溶媒で抽出して得られる。水を用いる場合には、温水または熱水が用いられる。抽出に用いる有機溶媒としては、食品あるいは薬剤の製造に許容される有機溶媒が用いられ、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、および1,1,2-トリクロロエテンが挙げられる。これらの水および有機溶媒は単独で用いてもよいし、組合わせて用いてもよい。特に、熱水、含水エタノール、および含水プロピレングリコールが好ましく用いられる。
【0019】
松樹皮からプロアントシアニジンを抽出する方法は、特に限定されないが、例えば、加温抽出法、超臨界流体抽出法などが用いられる。
【0020】
超臨界流体抽出法は、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体である超臨界流体を用いて抽出を行う方法である。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)などが用いられ、二酸化炭素が好ましく用いられる。
【0021】
超臨界流体抽出法では、目的成分を超臨界流体によって抽出する抽出工程と、目的成分と超臨界流体とを分離する分離工程からなる。分離工程では、圧力変化による抽出分離、温度変化による抽出分離、または吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離のいずれを行ってもよい。
【0022】
また、エントレーナー添加法による超臨界流体抽出を行ってもよい。この方法は、超臨界流体に、例えば、エタノール、プロパノール、n-ヘキサン、アセトン、トルエン、その他の脂肪族低級アルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、またはケトン類を2?20W/V%程度添加し、得られた抽出流体で超臨界流体抽出を行うことによって、OPC、カテキン類(後述)などの目的とする抽出物の抽出溶媒に対する溶解度を飛躍的に上昇させる、あるいは分離の選択性を増強させる方法であり、効率的に松樹皮抽出物を得る方法である。
【0023】
超臨界流体抽出法は、比較的低い温度で操作できるため、高温で変質・分解する物質にも適用できるという利点;抽出流体が残留しないという利点;および溶媒の循環利用が可能であり、脱溶媒工程などが省略でき、工程がシンプルになるという利点がある。
【0024】
また、松樹皮からの抽出は、上記の方法以外に、液体二酸化炭素回分法、液体二酸化炭素還流法、超臨界二酸化炭素還流法などにより行ってもよい。
【0025】
松樹皮からの抽出は、複数の抽出方法を組み合わせてもよい。複数の抽出方法を組み合わせることにより、種々の組成の松樹皮抽出物を得ることが可能となる。
【0026】
本発明の皮膚外用剤に用いられる松樹皮抽出物は、具体的には、以下のような方法により調製されるが、これは例示であり、この方法に限定されない。
【0027】
フランス海岸松の樹皮1kgを、塩化ナトリウムの飽和水溶液3Lに入れ、100℃にて30分間抽出し、抽出液を得る(抽出工程)。その後、抽出液を濾過し、得られる不溶物を塩化ナトリウムの飽和溶液500mlで洗浄し、洗浄液を得る(洗浄工程)。この抽出液と洗浄液を合わせて、松樹皮の粗抽出液を得る。
【0028】
次いで、この粗抽出液に酢酸エチル250mlを添加して分液し、酢酸エチル層を回収する工程を5回行う。回収した酢酸エチル溶液を合わせて、無水硫酸ナトリウム200gに直接添加して脱水する。その後、この酢酸エチル溶液を濾過し、濾液を元の5分の1量になるまで減圧濃縮する。濃縮された酢酸エチル溶液を2Lのクロロホルムに注ぎ、攪拌して得られる沈殿物を濾過により回収する。その後、この沈殿物を酢酸エチル100mlに溶解した後、再度1Lのクロロホルムに添加して沈殿させる操作を2回繰り返す洗浄工程を行う。この方法により、例えば、2?4量体のOPCを20重量%以上含み、かつカテキン類を5重量%以上含有する、約5gの松樹皮抽出物が得られる。
【0029】
上記松樹皮のような原料植物に由来する抽出物は、OPCを乾燥重量換算で好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上含有する。このようにOPCを高い割合で含有する原料として、松樹皮抽出物が好ましく用いられる。
【0030】
なお、上記のように水やエタノールを用いて植物体から抽出した抽出物中には、5量体以上のプロアントシアニジンも含有するが、プロアントシアニジンの極性溶媒への溶解度から、そのほとんどは10?20量体以下である。
【0031】
上記松樹皮抽出物のようにOPCを含有するプロアントシアニジンは、コラーゲンペプチドと凝集沈殿や懸濁を生じにくい。OPCを多く含有するほど沈殿は生じにくく、通常は20重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上含有するプロアントシアニジンが用いられる。特に、5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し、OPCを1重量部以上の割合で含有するプロアントシアニジンが好ましい。5量体以上のプロアントシアニジンが含有されているにもかかわらず、凝集沈殿が起こらない理由は明らかではないが、上記所定の比率以上でOPCを含有する場合は、プロアントシアニジンとコラーゲン由来ペプチドとの凝集沈殿や懸濁を防止することができる。
【0032】
上記植物抽出物には、プロアントシアニジン、特にOPCとともにカテキン(catechin)類が上記原料植物抽出物中に5重量%以上含まれていることが好ましい。カテキン類とは、ポリヒドロキシフラバン-3-オールの総称である。カテキン類としては、(+)-カテキン、(-)-エピカテキン、(+)-ガロカテキン、(-)-エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレートなどが知られている。上記松樹皮のような原料植物由来の抽出物からは、狭義のカテキンといわれている(+)-カテキンの他、ガロカテキン、アフゼレキン、ならびに(+)-カテキンまたはガロカテキンの3-ガロイル誘導体が単離されている。カテキン類には、発癌抑制作用、動脈硬化予防作用、脂肪代謝異常の抑制作用、血圧上昇抑制作用、血小板凝集抑制作用、抗アレルギー作用、抗ウイルス作用、抗菌作用、虫歯予防作用、口臭防止作用、腸内細菌叢正常化作用、活性酸素やフリーラジカルの消去作用、抗酸化作用などがあることが知られている。カテキン類には、血糖の上昇を抑制する抗糖尿病効果があることが知られている。カテキン類は、OPCの存在下で水溶性が増すと同時に、OPCを活性化する性質があり、OPCとともに摂取することによって、OPCの作用を増強する。
【0033】
カテキン類は、上記原料植物抽出物に含まれていても、タンパク質と反応せず、そしてOPCの溶解性や機能を向上させるため、プロアントシアニジン1重量部に対し、0.1重量部以上含有されていることが好ましい。より好ましくは、OPCを20重量%以上含有する原料植物抽出物に、カテキン類が5重量%以上含有されるように調製される。例えば、松樹皮抽出物のカテキン類含量が5重量%未満の場合、5重量%以上となるようにカテキン類を添加してもよい。カテキン類を5重量%以上含有し、かつOPCを20重量%以上含有する松樹皮抽出物を用いることが最も好ましい。
【0034】
プロアントシアニジン、特にOPCは、上述のように抗酸化物質であるため、美白効果、しわの防止効果、およびアトピー性皮膚炎などに対する抗炎症効果が特に高く、さらに縮合型タンニンとしての効果、すなわち肌の引き締め効果によるたるみの防止などの効果も得られる。
【0035】
さらにOPCは、抗酸化作用のほか、ビタミンCの保護効果もあるため、肌におけるコラーゲン産生能を増強し、優れた肌質改善効果をも有する。
【0036】
本発明の皮膚外用剤は、プロアントシアニジンを、好ましくは組成物中に乾燥重量換算で0.00001重量%?5重量%、より好ましくは0.001重量%?2重量%、さらに好ましくは0.01重量%?1重量%含有する。
【0037】
本発明の皮膚外用剤のもう一つの必須成分は、コラーゲンを分解して得られる平均分子量が7,000以下のペプチド(本明細書において、コラーゲン由来ペプチドという)である。コラーゲン由来ペプチドとしては、コラーゲンを酸、アルカリ、または酵素を用いて分解したものであれば特に限定されるものではない。ペプチドに分解されたコラーゲンは、べたつきのない使用感が得られるだけでなく、優れた保湿効果も有する。
【0038】
コラーゲンは、動物の結合組織を構成する主要タンパク質であり、骨、腱、皮膚、血管壁などに多く含まれる。分子内に1または複数の3重らせん構造を有し、構成するポリペプチド鎖のアミノ酸配列が異なる種々のタイプが存在する。コラーゲンの変性物であるゼラチンは、コラーゲンを含む原料を温(熱)水抽出することにより得られる分子量30万から数万程度の水溶性タンパク質であり、アルカリ処理ゼラチン(等電点4.8?5.3)と酸処理ゼラチン(等電点7?9)とがある。
【0039】
コラーゲンまたはゼラチンからのコラーゲンペプチドの具体的な調製方法を、以下に説明する。まず、牛、豚などの皮または骨を、アルカリ溶液に2?3ヶ月浸漬するアルカリ処理または希塩酸などに短期間浸漬する酸処理を施して、原料に含まれる不純物を除去し、かつ抽出を容易にするための前処理を行う。例えば、原料が牛骨である場合は、骨の中にリン酸カルシウムなどの無機質が含まれているため、予め希塩酸に漬けて無機質を除去し、これを温(熱)水抽出することによりゼラチンを得る。温(熱)水抽出は、一般には、最初の抽出温度は50?60℃で、2回目以降は抽出温度を徐々に上げ、最終的には煮沸させる。次いで、得られたゼラチンを、通常用いられる酸あるいは酵素で加水分解することにより、コラーゲンペプチドを得ることができる。
【0040】
こうして得られたコラーゲンペプチドは、平均分子量が約7,000以下、好ましくは約6,000以下である。このような分子量を有するコラーゲンペプチドのうち、OPCとともに溶液中で安定に溶解し、そして本発明において皮膚外用剤としての効果を得るためには、分子量が約3,000以上、より好ましくは約5,000以上のペプチドを用いる。平均分子量が7,000より大きくなると、高分子のプロアントシアニジン(10?30量体)が結合し、沈殿や懸濁を生じやすくなる。
【0041】
このような分子量のコラーゲンペプチドは、市販のものを容易に入手することができる。例えば、動物性コラーゲン由来のコラーゲンペプチドとしては、ニッピペプタイドPBF、ニッピペプタイドPRA(いずれも(株)ニッピ製)、SCP-5000、SCP-3100(いずれも新田ゼラチン(株)製)、コラーゲンペプチドDS(協和ハイフーズ株式会社製)、ファルコニックスCTP(一丸ファルコス株式会社製)などが挙げられる。このような動物由来のコラーゲンペプチド以外では、動物性コラーゲンとアミノ酸組成が類似しているものが好ましく、例えば、コラーゲン類似ペプチドとして、ニンジン(Daucus carota L.)由来ペプチドが挙げられる。
【0042】
本発明の皮膚外用剤は、コラーゲンペプチドを、組成物中に乾燥重量換算で好ましくは0.00001重量%?10重量%、より好ましくは0.0001重量%?5重量%含有する。
【0043】
本発明の皮膚外用剤には、上記プロアントシアニジンおよびカテキン類ならびにコラーゲン由来ペプチド以外に、医薬部外品、化粧料などに通常使用される他の成分を、該皮膚外用剤の効果を損なわない範囲で含有してもよい。このような成分としては、例えば水、他の薬効成分、他の油剤、保湿剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、吸収促進剤、香料、色素、保存剤、増粘剤、キレート剤、防腐防黴剤などを挙げることができる。ここで他の薬効成分としては、活性酸素除去剤、抗酸化剤、消炎鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、止痒剤、殺菌剤、ビタミン剤、ホルモン剤などが挙げられる。
【0044】
また、プロアントシアニジンの安定性を高める目的で、酸化防止剤を添加しても良い。これにより、肌のタンパク質や油脂類の酸化を防止し、肌質を改善および保護する効果を得ることができる。
【0045】
酸化防止剤としては、ビタミンAなどのカロテノイド類、ビタミンB類、アスコルビン酸、ビタミンE、およびこれらの誘導体またはこれらの塩、L-システイン及びこれらの誘導体やその塩、リボフラビン、SOD、マンニトール、ハイドロキノン、トリプトファン、ヒスチジン、ケルセチン、没食子酸およびその誘導体、BHT、BHA、ならびにボタンピ抽出物、トマト抽出物、パセリ抽出物、メリッサ抽出物、オウゴン抽出物などの植物抽出物が挙げられる。
【0046】
この中でも、アスコルビン酸は、プロアントシアニジンの安定性を高めるだけでなく、肌へ相乗的に効果を発揮し、肌質の改善効果(例えば、ハリやツヤが良くなる効果)および血管保護効果も高める。アスコルビン酸を添加する場合は、プロアントシアニジンに対して、重量比で、好ましくは1:0.1?50、より好ましくは1:0.2?20となるように、本発明の皮膚外用剤に含有され得る。なお、アスコルビン酸の量は、上記比より多くてもかまわない。
【0047】
本発明の皮膚外用剤は、通常用いられる方法により、プロアントシアニジンおよびカテキン類ならびにコラーゲン由来ペプチドと他の成分とを混合して調製することができ、医薬品、医薬部外品、化粧品、トイレタリー用品として使用できる。例えば、化粧水、化粧クリーム、乳液、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、ヘアリンス、トリートメント、ボディシャンプー、洗顔剤、石鹸、ファンデーション、白粉、口紅、リップグロス、頬紅、アイシャドー、整髪料、育毛剤、水性軟膏、油性軟膏、目薬、アイウォッシュ、歯磨剤、マウスウォッシュ、シップ、ゲルなどが挙げられる。また、シップやゲルのような担体や架橋剤に保持・吸収させ、局部へ貼付するなどの方法により、局所的な長時間投与を行うこともできる。
【0048】
本発明の皮膚外用剤の一日の適用量は、特に限定されず、好ましくは、プロアントシアニジンとして0.00001g?1gの範囲内である。この範囲内のプロアントシアニジンに対して適切なコラーゲン由来ペプチドの量は、好ましくは0.0001g?0.1gである。
【0049】
本発明の皮膚外用剤は、適切な量を適用した場合、肌質の改善効果および血流改善効果を有する。特に、OPCが乾燥重量換算で20重量%以上含有される抽出物をプロアントシアニジンとして用いた場合、特に優れた効果が得られる。
【0050】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明がこの実施例により制限されないことはいうまでもない。
【0051】
(プロアントシアニジンの調製)
松樹皮抽出物(2?4量体:40重量%、5量体以上:8.7重量%、カテキン:5.1重量%、商標名:フラバンジェノール、株式会社東洋新薬)20gを、Sephadex LH-20(ファルマシアバイオテク株式会社製)に供して分離し、乾燥粉末重量で7.6gの2?4量体および1.6gの5量体以上のプロアントシアニジンを回収した。得られた5量体以上のプロアントシアニジン1gを、上記の松樹皮抽出物の粉末2gと混合し、5量体以上のプロアントシアニジンを多く含む松樹皮抽出物(2?4量体:27重量%、5量体以上:39重量%、カテキン1.7重量%)を調製した。これらの松樹皮抽出物を、最終濃度が0.2重量%となるように水溶液へ溶解した。
【0052】
なお、Sephadex LH-20による分離は、以下の条件で2回行った。まず、水で膨潤させたSephadex LH-20をカラム体積で500mLとなるように50×500mmのカラムに充填し、500mLのエタノールで洗浄した。上記松樹皮抽出物10gを200mLのエタノールに溶解し、これをカラムに通液して吸着させた後、100?80%(v/v)エタノール-水混合溶媒でグラジエント溶出し、100mLずつ分取した。各画分について、シリカゲルクロマトグラフィー(TLC)により、2?4量体のOPCの各標品(2量体:プロアントシアニジンB-2(Rf値:0.6)、3量体:プロアントシアニジンC-1(Rf値:0.4)、4量体:シンナムタンニンA_(2)(Rf値:0.2))を指標として、OPCの溶出を検出した。TLCの条件は、以下のとおりである:
TLC:シリカゲルプレート(Merck & Co.,Inc.製)
展開溶媒:ベンゼン/ギ酸エチル/ギ酸(2/7/1)
検出試薬:硫酸およびアニスアルデヒド硫酸
サンプル量:各10μL
【0053】
OPCが検出された画分を集め、凍結乾燥して粉末を得た。次いで、OPCが検出されなくなったカラムに、50%(v/v)水-アセトン混合溶媒1000mLを通液し、5量体以上のプロアントシアニジンを溶出させ、回収した画分を凍結乾燥させて粉末を得た。
【0054】
(コラーゲンおよびコラーゲンペプチドの調製)
コラーゲン(平均分子量30万:株式会社高研製)、ニッピペプタイドPA-100(平均分子量10,000:株式会社ニッピ製)、コラーゲンペプチドDS(平均分子量7,000:協和ハイフーズ社製)、SCP-5000(平均分子量5,000:新田ゼラチン株式会社製)、ファルコニックスCTP(平均分子量3,000:一丸ファルコス株式会社製)、ニッピペプタイドPA-10(平均分子量1,000:株式会社ニッピ製)、およびグリシン(分子量75:和光純薬工業株式会社製)を用いて、これらのコラーゲン、コラーゲンペプチド、またはアミノ酸が10.0重量%となるように水溶液を各10mLずつ調製した。
【0055】
(実施例1:凝集沈殿評価)
上記のように調製したコラーゲン、コラーゲンペプチド、またはアミノ酸溶液各1mLに、上記プロアントシアニジン溶液1mLを混合し、1週間室温で放置し、1週間後に沈殿および懸濁の有無を目視により観察した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1からわかるように、5量体以上のプロアントシアニジンと分子量のコラーゲンペプチドまたはコラーゲンとの混合液では、いずれも懸濁または沈殿が観察された。これに対して、2?4量体のプロアントシアニジンと分子量7,000以下のコラーゲンペプチドまたはアミノ酸との混合液では、ほとんど懸濁が見られなかった。2?4量体のプロアントシアニジンを5量体以上のプロアントシアニジンよりも多く含み、かつカテキンを含む松樹皮抽出物では沈殿が見られなかった。また、平均分子量300,000のコラーゲンを用いた場合は、ゲル化した固形分が析出した。このように、2?4量体のプロアントシアニジン(OPC)またはプロアントシアニジンとしてOPCを多く含み、かつカテキンを含む松樹脂抽出物は、分子量7,000以下のコラーゲンペプチドと懸濁または沈殿を生じず、混合物溶液として安定であることがわかった。
【0058】
(実施例2:血流改善効果および保湿効果の評価)
上記松樹皮抽出物の最終濃度が0.01重量%およびコラーゲンペプチドの最終濃度が0.01重量%となるように、表2に記載の組み合わせで化粧水1?8を調製した。
【0059】
【表2】

【0060】
20?50歳の健常人10人を被験者とした。まず、各被験者の左右前腕部各4箇所ずつ計8箇所に2.0cm平方のマーキングをし、血流計(レーザー血流画像化装置PIM II;Sweden Permied社)を用いて皮下の血流量を測定し、その平均値をaとした。測定後、調製した化粧水1?8を0.1mlずつ各マーキング部位に塗布し、塗布後0.5時間、1時間、1.5時間、および2時間後に皮下の血流量を測定し、その平均値をbとした。得られた各時間における血流量の平均値から、下記の式を用いて血流改善率を算出した:
血流改善率(%)=100×(b-a)/a
結果を図1に示す。
【0061】
また、塗布2時間後に、化粧水塗布部位の電気伝導率(単位:μmho(マイクロモー))を、高周波伝導度測定装置(SKICON-200、IBS社)を用いて測定し、その平均値を算出して保湿性を評価した。結果を表3に示す。なお、電気伝導率は、水分量を反映する。
【0062】
【表3】

【0063】
図1からわかるように、平均分子量が1,000、3,000、5,000、または10,000のコラーゲンペプチドと2?4量体の割合が多いプロアントシアニジンを含有し、かつカテキンを含有する松樹皮抽出物とを含有する化粧水を用いた場合に、高い血流改善効果が得られた。
【0064】
表3より、平均分子量が1,000、3,000、5,000、または10,000のコラーゲンペプチドと2?4量体の割合が多いプロアントシアニジンを含有し、かつカテキンを含有する松樹皮抽出物とを含有する化粧水は、他の化粧水に比べて、電気伝導率が高く、比較的高い保湿性があった。また、平均分子量が1,000のコラーゲンペプチドを用いた場合は、5量体以上の割合が多いプロアントシアニジンを含む松樹皮抽出物との混合物であっても、比較的高い保湿効果が得られた。
【0065】
【発明の効果】
本発明の皮膚外用剤は、従来のプロアントシアニジンとタンパク質分解ペプチドとの組み合わせによって得られるよりも、さらに優れた血流改善効果および保湿効果を有する。本発明の皮膚外用剤は、プロアントシアニジンとコラーゲン由来ペプチドとの凝集沈殿が生じにくいため、それぞれの有するその他の作用・効果も損なわれることなく発揮され得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】
種々の化粧水塗布後の皮膚における血流改善率の推移を示すグラフである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-10-15 
結審通知日 2008-10-17 
審決日 2008-10-28 
出願番号 特願2003-87733(P2003-87733)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A61K)
P 1 113・ 832- ZA (A61K)
P 1 113・ 841- ZA (A61K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 弘實 謙二
穴吹 智子
登録日 2004-03-12 
登録番号 特許第3533392号(P3533392)
発明の名称 皮膚外用剤  
代理人 丸山 敏之  
代理人 宮野 孝雄  
代理人 北住 公一  
代理人 長塚 俊也  
代理人 南條 博道  
代理人 南條 博道  

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