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審決分類 再審 一部無効 その他  H04N
管理番号 1195330
審判番号 再審2006-95007  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許再審公報 
発行日 2009-05-29 
種別 再審 
審判請求日 2006-10-23 
確定日 2008-09-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第3129719号発明「ビデオディスプレイ装置」の特許無効審判事件(無効2004-80013号)について、平成17年2月16日付けであった審決に対して、再審の請求があったので、次のとおり審決する。 
結論 本件再審の請求を却下する。 再審の請求の費用は、請求人の負担とする。 
理由
第一 経緯等

1.再審の請求
本件請求は、無効2004-80013号事件について平成17年2月16日付けであった、結論を要旨「特許3129719号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」とする確定した審決(原審決)に対して、無効審判被請求人(再審請求人)よりされた再審の請求である。

2.審決後の経緯
原審決があった後の経緯は概略以下のとおりである。
再審請求人(上記無効審判被請求人)は、平成17年3月22日に、原審決の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起したところ(平成17年(行ケ)第119号事件として係続、その後、知的財産高等裁判所の発足に伴い平成17年(行ケ)第10397号事件として係続。)、知的財産高等裁判所は、平成18年4月17日に、請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
再審請求人(上記訴えの原告)は、平成18年4月28日に、上記判決を不服として上告及び上告受理の申立てをしたところ(平成18年(行ツ)第187号及び平成18年(行ヒ)第212号事件として係属。)、最高裁判所は、平成18年9月21日に、上告を棄却するとともに上告審として受理しない旨の決定をした。これにより、上記判決は確定した。
これを受けて、原審決も確定した。
再審請求人は、平成18年10月23日に、本件再審の請求をした。

第二 請求

1.請求の趣旨
『無効2004-80013号事件についてなされた原審決を取消す。特許3129719号請求項1の発明は特許すべきものである。審判費用は被請求人の負担とする。』との審決を求める。

2.請求の理由
原審決には、審決に影響を及ぼすべき重要な事項についての判断の遺脱があるから、無効2004-80013号審判事件についてなされた原審決は取り消されなければならず、特許第3129719号請求項1の発明は特許とされなければならない。(請求書2頁11行?15行)
再審請求人の主張する内容は民事訴訟法第338条第1項ただし書きにおける「特段の事情」を有しているから、再審の理由に該当し、再審請求人は再審により不服を申し立てることができる。(弁駁書32頁2行?4行)

再審請求人が主張する再審理由は、要約、以下のとおりである。なお、以後「甲1」とあるのは、原審における甲第1号証(米国特許第2349013号明細書)のことをいう。

(1)再審の理由
(1-1)再審理由1(翻訳文の成立の判断の遺脱)
原審決は、翻訳文の正確性について審判被請求人に意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠り、証拠の認定において「翻訳文の成立に争いはない」と判断をした。
原審決には、意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠った、という「判断の遺脱」がある。

(1-2)再審理由2(甲1のクレーム解釈の遺脱)
原審決は、刊行物に記載された発明の認定においてした判断(「甲1に、二つの拡大レンズの間隔を目の間隔で配置したことが記載されている」とする点)において、要部翻訳文の記載(甲1のクレームを除く記載中に複数箇所ある「視覚的に離間して」との記載のうちの一部)を引用するのみで全文翻訳文の記載(甲1のクレーム中にある「視覚的に離間して」との記載)を考慮に入れていない。
原審決には、甲1のクレームに記載された事項の解釈を怠った、という「判断の遺脱」がある。

(1-3)再審理由3(特許請求の範囲の記載の解釈の遺脱)
原審決は、相違点3の検討においてした判断において、本件特許発明について特許請求の範囲の記載に基づかない認定(「特許請求の範囲の記載では二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔を規定している」とする点)をしたばかりでなく、本件特許発明の「左右の眼に注がれるとき、その光線が平行」なる構成に対して判断をしていない。
原審決には、本件特許の特許請求の範囲の記載の解釈を誤り、本件特許発明の主要構成につき判断を怠った、という「判断の遺脱」がある。

(1-4)再審理由4(光学的記載、技術常識に対する判断の遺脱)
原審決は、相違点3の検討においてした判断(「Foca1 Point は像点である」とする点)において、「光学的な技術常識」ではなく「立体視における技術常識」を勘案したばかりでなく、「Foca1 Pointは像点である」と認定するだけの光学的記載が甲1にはないこと、「Foca1 Pointは像点である」と仮定すると甲1の記載と間に矛盾が生じること、についてそれぞれ見解を示していない。
原審決には、勘案すべき技術常識を錯誤し正しい技術常識の基づく判断を怠った、という「判断の遺脱」がある。

(1-5)再審理由5(接眼レンズに対する判断の遺脱)
原審決は、相違点3の検討においてした判断において、両当事者が主張もしない判断(「拡大レンズを目の位置と見ることができる」とする点)を新たに職権により示したばかりでなく、接眼レンズの基本スペック(レンズと目の間隔(アイポイント)の存在)を考慮に入れていない。
原審決には、無効理由を通知し再審請求人に意見を述べる機会を与えなかった、接眼レンズに関する技術常識を看過した、という「判断の遺脱」がある。

(2)審決取消訴訟の判決
(2-1)本件再審理由と審決取消事由との違い
再審請求人(審決取消訴訟の原告)は、審決取消訴訟においては、審決の文脈に存在する結論に近い部分の「審決の判断の誤り」を審決取消事由として主張した。審決取消訴訟の判決における判断は、このような審決取消事由に対するものである。
本件再審の請求では、上記「審決の判断の誤り」に至らせた前提事項についての判断の誤りを、再審理由として主張する。
すなわち、本件再審理由は、審決取消訴訟の判決において既に判断された事柄の前提となる事項について、その「判断の遺脱」を主張するものであり、審決取消訴訟の判決における判断の影響を受けるものではない。

(2-2)ただし書きの適用除外
民事訴訟法第338条第1項ただし書きにおける「この限りでない」は「できない」と解するのではなく、「特段の事情があればできる」または「特段の事情がない限りできない」と解するのが相当である。
ただし書きの趣旨は、上訴で主張し判断を得た事由について再審の訴えで再び主張することを禁止することにあるが(蒸し返しの禁止)、上訴で主張しても裁判所の判断が得られなかった場合は上記「特段の事情」に該当し、再審の事由とすることができる。
本件再審理由は、審決取消訴訟の判決において何ら判断が示されていないから、同条第1項に規定する再審の事由に当たる。

3.証拠方法
甲第1号証から甲第12号証の10までを提出。

第三 答弁

1.答弁の趣旨
『本件再審の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。』との審決を求める。

2.答弁の理由
再審請求人の主張は、いずれも再審請求人において本再審請求前に主張済の内容のものばかりであるから、特許法第171条第2項が準用する民事訴訟法第338条第1項但書により、同項第9号所定の再審事由には該当しておらず、また、その内容も失当のものである。(答弁書6頁12行?16行)

3.証拠方法
乙第1号証から乙第5号証までを提出。

第四 当審の判断

1.当審の判断
(1)特許法第171条第2項において準用する民事訴訟法第338条第1項は、「次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。」と規定する一方、「ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。」と規定する。
特許法で準用する場合において、上記ただし書きに規定する「控訴若しくは上告」は、特許法第178条第1項に規定する「訴え」(以下、審決取消訴訟という)に該当する。そして、上記ただし書きの規定によれば、当事者が不服の事由を審決取消訴訟により主張したとき、又は、不服の事由を知りながら審決取消訴訟によりこれを主張しなかったときは、その事由に基づいて再審の請求をすることができないことは明らかである。

(2)ところで、再審請求人が平成17年3月22日に東京高等裁判所に提起した審決取消訴訟について知的財産高等裁判所がした判決が確定したことにより原審決が確定した経緯が認められるところ、再審請求人が主張する再審理由は、いずれも、審決取消訴訟において再審請求人が既に主張したものであり、又は、これを知りながら主張しなかったものである(その詳細は、後記のとおりである)。
そうすると、再審請求人が主張する再審理由は、いずれも、特許法第171条第2項において準用する民事訴訟法第338条第1項のただし書きの規定により、不服を申し立てることができない理由である。

(3)以上によれば、本件再審の請求は、特許法第171条第2項において準用する民事訴訟法第338条第1項ただし書きの規定に照らし不適法なものであり、しかもその補正をすることができないものであるから、本件再審の請求は、特許法第174条第2項において準用する特許法第135条の規定により却下すべきものである。

2.再審の理由について(詳細)
再審請求人が主張する再審理由が、いずれも、審決取消訴訟において再審請求人が既に主張したものであり、又は、これを知りながら主張しなかったものであることは、以下のとおり明らかである。(なお、審決取消訴訟での主張に対する判決の判断を同主張の後に付記した。準備書面および判決の記載は一部を摘示したものであり全部ではない。下線は、当審による。)

(0)準備書面等
乙第2号証(審決取消訴訟において原告(再審請求人)が提出した準備書面(1)の写し)、乙第3号証(同じく準備書面(2)の写し)、甲第8号証(同じく準備書面(4)の写し)および甲第9号証(同じく準備書面(5)の写し)による各準備書面の成立について争いはない。
再審請求人が審決取消訴訟において上記各準備書面のとおりに主張したことについて当事者において異論はない。

(1)再審理由1(翻訳文の成立に対する判断の遺脱)
(1-1)理由(再掲)
原審決は、翻訳文の正確性について審判被請求人に意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠り、証拠の認定において「翻訳文の成立に争いはない」と判断をした。
原審決には、意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠った、という「判断の遺脱」がある。

(1-2)訴訟での主張
(a)準備書面の記載
『(1)証拠(原審甲第1号証記載の発明)の解釈の誤り
ア.原審甲第1号証記載の発明について
なお、被告の提出した翻訳文は原審審判長の慫慂によるもので、原告には審理終結通知書と共に送達されたものであり、原告は前審において検討することができなかったが、詳細に検討すると以下の通りである。』(準備書面(1):12頁12行?14行)
(b)これによれば、再審請求人は「意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠った」ことについて審決取消訴訟において既に知っていたにもかかわらず、そのこと自体を主張してはいない。これは、ただし書きにいう「これを知りながら主張しなかったとき」に該当することは明らかである。

(1-3)判決の判断
(a)判決は「意見を述べる機会を与えるべきか否かの判断を怠った」ことについて判断をしてはいないが、それは、上述したように再審請求人がそのこと自体の主張をしていないためである。
(b)他方、判決は、後記のとおり、甲1の「視覚的に離間された?(ocularly spaced?)」について、全文翻訳文(甲1のクレームに記載された「ocularly spaced」をも含む)を考慮して判断をしている。
このことは、判決が、上記主張(準備書面(1):12頁12行?14行)の趣旨に鑑み、「意見を述べる機会を与えなかった」ことは再審請求人において既に承伏済みであり、審決取消訴訟における主張の段階で既に治癒・解消されていると判断をしていることを示すものである。「意見を述べる機会を与えなかった」ことについては実質的に判断を示している。

(2)再審理由2(甲1のクレーム解釈に対する判断の遺脱)
(2-1)理由(再掲)
原審決は、刊行物に記載された発明の認定においてした判断(「甲1に、二つの拡大レンズの間隔を目の間隔で配置したことが記載されている」とする点)において、要部翻訳文の記載(甲1のクレームを除く記載中に複数箇所ある「視覚的に離間して」との記載のうちの一部)を引用するのみで全文翻訳文の記載(甲1のクレーム中にある「視覚的に離間して」との記載)を考慮に入れていない。
原審決には、甲1のクレームに記載された事項の解釈を怠った、という「判断の遺脱」がある。

(2-2)訴訟での主張
(a)クレーム記載の考慮
(a1)準備書面の記載
『原審甲第1号証では、文中に度々「視覚的に離間された?(ocularly spaced relation?)」という記述が出てくるが、この「視覚的に離間された?(ocularly spaced relation?)」こそが、原審甲第1号証の発明の本質なのである。』(準備書面(1):12頁15行?18行)
『それは原審甲第1号証の以下の記述より明らかである。
1.審決5頁の翻訳文(1)で視覚的に離間された関係(ocularly spaced relation)とは目の前のレンズに対し画像を目のフォーカルアングルで照準合せするような関係(be on the focal angle of the eyes)に配置することだと言っている。
2.(注:省略)
3.(注:省略)
4.(注:省略)
5.原審甲第1号証(甲3)の請求項1で視覚的に離間された接眼レンズ(ocularly spaced eye piece)と、視覚的に離間された光透過要素(ocularly spaced light transmitting elements)を持つ光拡散部材が構成要件に含まれることが示されている。
6.同じく原審甲第1号証の請求項3でスライドが挿入された時、スライド上の画像が上記光透過要素と上記接眼レンズによりフォーカルに照準を合わせられる(focally aligned with)ようにスライドを保持する垂直リブが光拡散部材にあることが示されている。』(準備書面(1):12頁19行?13頁19行)
『つまり原審甲第1号証は図4を見てすぐにわかる通り、・・・つまり拡大レンズの中心と画像の中心を視線の一直線上に並べる発明であり、原審甲第1号証の発明者はこれを「視覚的に離間された(ocularly spaced relation)」と呼んでいる。』(準備書面(1):14頁1行?5行)
(a2)すなわち、甲1に記載された発明(その本質)の認定に当たっては甲1のクレームの記載をも考慮すべきである旨の主張を実質上既にしていることは明らかである。
(b)目の間隔とレンズの間隔
(b1)準備書面の記載
『図4における眼の位置は、一点鎖線(視点)の始点であると解釈するのが適当である。』(準備書面(1):15頁23行?末行)
『図4を詳しく観察すると、図4に示される視覚的離間の関係では、眼の間隔と拡大レンズの間隔は異なっている。図4では眼の間隔に対し拡大レンズ26の間隔、画像17の間隔、オパールグラス16の間隔は狭くなっており、拡大レンズ26の間隔より画像17の間隔の方が狭く、また画像17の間隔よりオパールグラス16の間隔が狭く、その間隔は全て目のフォーカルアングルによって決められていることが示される。』(準備書面(1):16頁5行?10行)
『審決が「拡大レンズ26を眼の位置」と判断したのは誤りである。審決は「拡大レンズ26をつけた接眼レンズ25」との記載から「拡大レンズ26を眼の位置」と判断している。しかし・・・よって、接眼レンズ25の位置と眼の位置間は離れており、拡大レンズ26と眼の位置が異なることは自明である。』(準備書面(4):9頁12行?20行)
『審決が「イ 甲第1号証の前記1(3)で適示した部分には、二つの拡大レンズの間隔を眼の間隔とし、その間隔よりも狭い間隔で画像を配置することにより、ストレスを防止し見やすくしたことが記載されており」と判断したのは誤りである。』(準備書面(4):10頁3行?6行)
(b2)すなわち、原審決が「甲1には二つの拡大レンズの間隔を目の間隔で配置したことが記載されている」と認定をした点は誤りである旨の主張を実質上していることは明らかである。

(2-3)判決の判断
(a)クレーム記載の考慮
(a1)判決の記載
『イ なお、原告は、審決甲1(甲3)中の「ocularly spaced to」を「視覚的離間」とし、拡大レンズ26、画像17、オパールガラス16を目のフォーカルアングル(focal angle)で照準合わせする関係を「視覚的離間の関係」として理解し、このような「視覚的離間の関係」にあることを、その主張の前提としているので、以下、「視覚的離間の関係」について、検討を加えることとする。
(ア) 審判甲1(甲3)には「ocularly spaced to」について、次の記載がある。 ・・・(中略)・・・
「前部部材に付いている視覚的に離間された接眼レンズと」(2頁右欄3ないし5行目)
「前記部材の一方が一対の視覚的に離間された接眼レンズを有し」(2頁右欄32ないし34行目)』(判決:17頁末行?18頁22行)
(a2)ここで、判決が引用した甲1の「2頁右欄3ないし5行目」および「2頁右欄32ないし34行目」の各記載は、甲1のクレーム中の記載である。判決が、「ocularly spaced to」に関連する「視覚的離間の関係」について、甲1のクレーム中に記載された「ocularly spaced」をも考慮して判断をしていることは明らかである。
(b)目の間隔とレンズの間隔
(b1)判決の記載
『ア 確かに、接眼レンズの位置とそれを通して対象を見る眼の位置とは正確に一致しているということはできないとしても、接眼レンズを密着させて対象を見ることに変わりはないから、眼の位置が接眼レンズ(すなわち、拡大レンズ)の位置であると見ることが不自然であるとまではいえない。』(判決:16頁15行?18行)
(b2)すなわち、判決が「甲1には二つの拡大レンズの間隔を目の間隔で配置したことが記載されている」点について判断をしていることは明らかである。

(3)再審理由3(特許請求の範囲の記載の解釈に対する判断の遺脱)
(3-1)理由(再掲)
原審決は、相違点3の検討においてした判断において、本件特許発明について特許請求の範囲の記載に基づかない認定(「特許請求の範囲の記載では二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔を規定している」とする点)をしたばかりでなく、本件特許発明の「左右の眼に注がれるとき、その光線が平行」なる構成に対して判断をしていない。
原審決には、本件特許の特許請求の範囲の記載の解釈を誤り、本件特許発明の主要構成につき判断を怠った、という「判断の遺脱」がある。

(3-2)訴訟での主張
(a)レンズ間隔と画像間隔の規定
(a1)準備書面の記載
『請求人は本件特許発明を二つの拡大光学系と二つのディスプレイの位置関係のみに置き換えて解釈しようとしているが、本件特許発明は人間の眼の配置なくしては、解釈不可能である。』(準備書面(1):10頁3行?5行)
『3(3)ウ 本件発明は特許請求の範囲の記載より明らかなようにレンズ、眼、画像の位置関係を規定しているのである。眼の位置を考慮しない、「特許請求の範囲の記載では、二つのレンズの間隔と二つの画像(審決9頁16行)」のみに限る議論は本件発明とは無縁の議論と言わざるをえない。」(準備書面(1):40頁8行?12行)
(a2)すなわち、原審決は本願発明について「特許請求の範囲の記載では二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔を規定している」という請求項の記載に基づかない認定をした旨の主張を既にしていることは明らかである。
(b)眼に注がれる光線が平行
(b1)準備書面の記載
『本件特許発明の構成要件Dは、「かつ左右の眼が各々画面の虚像に向けられるとき、人間の眼の間隔をde、拡大光学系の像倍率をmとすると、各々のディスプレイの画面の中心から(de/2)×(1/m)だけ水平方向の外側の点からの光線が左右の拡大光学系を通って左右の眼に注がれるるとき、その光線が平行となるように配置すること、」である。・・・このように、基本的な構成要件の判断をさけ、あるいは基本的な構成要件を満たさないことを無視してなされた審決は取り消されなければならない。』(準備書面(2):35頁14行?36頁3行)
(b2)すなわち、原審決は本件特許発明の「左右の眼に注がれるとき、その光線が平行」なる構成に対して判断していない旨の主張を既にしていることは明らかである。

(3-3)判決の判断
(a)レンズ間隔と画像間隔を規定
(a1)判決の記載
『ア 本件特許請求の範囲の「左右の眼が各々の画面の虚像に向けられるとき、人間の眼の間隔をde、拡大光学系の像倍率をmとすると、各々のディスプレイの画面の中心から(de/2)×(1/m)だけ水平方向の外側の点からの光線が左右の拡大光学系を通って左右の眼に注がれるとき、その光線が平行となるように配置する」は、第1図に示されるように、ディスプレイの画面の中心位置と、拡大光学系の中心位置(光軸が通るレンズの位置)との関係(ディスプレイの画面の中心が拡大光学系の中心より(de/2)×(1/m)だけ内側に位置する)を規定しているから、「二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔を規定している」ということができる。』(判決:19頁17行?24行)
(a2)すなわち、審決がした「特許請求の範囲の記載では二つのレンズの間隔と二つの画像の間隔を規定している」との認定につきこれが特許請求の範囲の記載に基づくものであるとの判断をしていることは明らかである。
(b)眼に注がれる光線が平行
(b1)判決の記載
『審判甲1(甲3)に記載された発明も、また、本件発明と同様に、各々の画像17の中心からde/2mだけ水平方向の外側の点から光線が左右のレンズ26(拡大光学系)を通って左右の眼に注がれるときに、その光線が平行となるように配置したものであるということができる。』(判決:21頁20行?23行)
『なお、拡大レンズと眼との間に間隔があるとしても、拡大レンズに密着した位置から真後ろに目を移動して間隔を設ければ、眼は単に光軸上を後ろに移動したにすぎないから、左右の眼に入射される光線が平行のままであることは明らかであり、この場合においても、画像の中心の内寄せ量が(de/2)×(1/m)であることは変わらない。』(判決:21頁24行?22行2行)
(b2)すなわち、甲1に記載された発明も「本件発明と同様に」その光線が平行となるように配置したものであるとの判断等は、本件特許発明が「その光線が平行となる」構成であることを前提としたものである。判決が、本件特許発明は「その光線が平行となる」構成であると判断していることは明らかである。

(4)再審理由4(光学的記載、技術常識に対する判断の遺脱)
(4-1)理由(再掲)
原審決は、相違点3の検討においてした判断(「Foca1 Point は像点である」とする点)において、「光学的な技術常識」ではなく「立体視における技術常識」を勘案したばかりでなく、「Foca1 Pointは像点である」と認定するだけの光学的記載が甲1にはないこと、「Foca1 Pointは像点である」と仮定すると甲1の記載と間に矛盾が生じること、についてそれぞれ見解を示していない。
原審決には、勘案すべき技術常識を錯誤し正しい技術常識の基づく判断を怠った、という「判断の遺脱」がある。

(4-2)訴訟での主張
(a)光学的記載、矛盾点
(a1)準備書面の記載
『原審甲第1号(甲3)には「Focal Point」以外の光学的関係の記載が一切ないので、「Focal Point」を像点であると断定することは誤りである。』(準備書面(4):7頁20行?22行)
『「像点」とは光学系では物点の共役点のことを示す。つまり、拡大レンズの持つ焦点と、物点によってのみ「像点」が定まる。これは幾何光学の最も基本的な基礎概念であり、この定義があるからこそレンズの公式が成立するのである。原審甲第1号証(甲3)に拡大レンズ26の光学的関係を示す記載はない。
「甲第1号証の前記1(3)で指摘した部分」には「レンズ26と画像17間の軸方向距離に依存し」と記載されている。レンズ26に対して物点(画像17)が移動すれば、その共役点である「像点」も移動する。もし仮に「Focal Point」が像点であるなら、「Focal Point」を固定点として論じた「その距離は通常の目のフォーカルアングル(Focal Angle)に対応し」の記載と明らかに矛盾する。従って、「Focal Point」が「像点」では有り得ない。』(準備書面(4):7頁末行?8頁10行)
『また、審決は、
「立体視における技術常識を勘案すると、甲第1号証の図4における「Focal Point」は、・・・左右の画像の対応する点が結像する箇所を示しており、その箇所に両眼の焦点が合っていると理解できる。なお、左右の画像は中心でなくとも対応する点であればよいことは明らかである。」
としているが「像点」の定義に関して「立体視における技術常識」は全く関係しない。2本の直線の交差する箇所は、画像17の共役点である「像点」を示さず、結像する箇所ではない。左右それぞれの拡大レンズが作り出す像(単眼で見た像)の形成される点を論題としているのであって、両眼で見たときの像ではない。』(準備書面(4):8頁11行?21行)
『従って、審決が「Focal Point」を像点と判断したのは誤りであって、左右の視線が交差する点(輻輳点、注視点)でしかない。』(準備書面(4):9行?10行)
(a2)すなわち、「Focal Point」に虚像が形成されると断定できるだけの光学的記載が甲1にはないこと、および、「Foca1 Pointは像点である」と仮定すると甲1の記載との間に矛盾が生じること、以上について見解を示していない旨の主張を、実質既にしていることは明らかである。
(b)技術常識、共役点
さらに、「像点」の定義に関して、「立体視における技術常識」は関係しないとする一方で、「像点は、物点の共役点であり、拡大レンズの焦点と物点の位置によってのみ定まる」(幾何光学の最も基本的な基礎概念)ことに基づき甲1の記載との矛盾を指摘しているので、勘案すべき技術常識を錯誤している旨、正しい技術常識に基づくべきである旨の主張を既にしていることも明らかである。
(c)審決での見解の提示
再審請求人は、光学的記載が甲1にはないこと自体、甲1の記載と間に矛盾が生じること自体について、審決が見解を示していないと主張する。
(c1)審決は、「(3)相違点3について」とする項目において、「成立に争いのない審判甲第5号証によれば、「Focal Point」は「焦点」の意味が示され、用例として「俗には像点(image point)の意に用いることもある」と示されている。」と記載している。この記載によれば、「Focal Point」の意義について直接参照すべき記載が甲1にはないと判断をしたからこそ、二次的に「審判甲第5号証」(研究社「新英和大辞典第五版」)を参照したことは明らかである。光学的記載が甲1にはないことにつき見解があるというべきである。
(c2)認定判断事項につき他記載と間の矛盾の有無を検討するのは、同事項の当否について後にする確認行為であり、当該認定判断に至るための必要的手順というべきものではない。主張は、「審理の段階で矛盾点について検討をしていれば誤りはなかった」という事情を述べる類のものであり、矛盾の有無を審決で検討しなかったことは「判断の遺脱」には当たらない。

(4-3)判決での判断
(a)光学的記載
(a1)判決の記載
『イ ・・・「Foca1 Point」は、焦点を意味するものではない。
そして、像点は、像形成の点であるが、審判甲1(甲3)には、像形成について記載がなく、また、「Focal Point」は、上記アのとおり、図4に記載されているものの、明細書には何の記載もないから、「Focal Point」が像点を意味するものであるとは速断することはできない。
ウ しかしながら、審判甲1(甲3)には以下の記載がある。
(記載(ア)ないし(ウ)、詳細省略)
記載(ア)ないし(ウ)の記載によれば、・・・「Focal Angle」は・・・いわゆる「輻輳角」と認められるところ、これとともに、「Focal Point」も・・・いわゆる「注視点」であると認められる。
エ そして、見ようとするする対象は、審判甲1(甲3)においては、「像」であるから、「Focal Point」が「像点」であると理解しても、不合理であるとはいえない。』(判決:13頁末行?15頁13行)
(a2)すなわち、判決は、「Foca1 Pointは像点である」とする光学的記載が甲1にはないこと、「Focal Point」は「注視点」であること、以上を認めた上で、「Focal Pointは像点である」と理解しても不合理であるとはいえないと判断しており、光学的記載がないことについて判断を示していることは明らかである。
(b)技術常識、矛盾点、共役点
(b1)判決の記載
『なお、上記ウ(ウ)の審判甲1(甲3)の記載によれば、オパールガラス16と画像17との間の横方向の距離は、「通常の目のフォーカルアングル(focal angle of the normal eyes)に対応」し、かつ、「レンズ26と画像17間の軸方向距離に依存」するから、レンズ26に対して物点(画像17)が移動し、これにより、その共役点である像点が移動するとしても、通常の目のフォーカルアングル(focal angle of the normal eyes)に応じて、「Focal Point」(・・・交差する箇所)が移動した像点に一致するように、オパールガラス16と画像17との間の横方向の距離を決めればよいのであるから、「Focal Point」が像点を意味するものであると理解したからといって、上記第3の1(1)イで原告が主張するような矛盾は生じない。』(判決:15頁13行?24行)
(b2)すなわち、判決は、「レンズ26に対して物点(画像17)が移動し、これにより、その共役点である像点が移動するとしても、」とした上で「上記第3の1(1)イで原告が主張するような矛盾は生じない。」としており、再審請求人のいう「光学的な技術常識」(物点と像点との共役的関係)を参酌し、その上で、「Foca1 Pointは像点である」と仮定すると甲1の記載と間に矛盾が生じることについて判断を示していることは明らかである。

(5)再審理由5(接眼レンズに対する判断の遺脱)
(5-1)理由(再掲)
原審決は、相違点3の検討においてした判断において、両当事者が主張もしない判断(「拡大レンズを目の位置と見ることができる」とする点)を新たに職権により示したばかりでなく、接眼レンズの基本スペック(レンズと目の間隔(アイポイント)の存在)を考慮に入れていない。
原審決には、無効理由を通知し再審請求人に意見を述べる機会を与えなかった、接眼レンズに関する技術常識を看過した、という「判断の遺脱」がある。

(5-2)訴訟での主張
(a)技術常識
(a1)準備書面の記載
『審決が「拡大レンズ26を眼の位置」と判断したのは誤りである。
審決は「拡大レンズ26をつけた接眼レンズ25」との記載から「拡大レンズ26を眼の位置」と判断している。しかし、接眼レンズとは「眼に接するレンズ」ではあるが。この場合の「接する」は「接近する」(close)の意味で、「接触する」(contact)の意味ではない。接触眼レンズであるコンタクトレンズは、接眼レンズとは全く別の物である。一般に接眼レンズにはアイポイント(接眼レンズと眼の間隔)という基本スペックが存在する。よって、接眼レンズ25の位置と眼の位置間は離れており、拡大レンズ26と眼の位置が異なることは自明である。』(準備書面(4):9頁13行?21行)
(a2)すなわち、接眼レンズに関する技術常識を看過した旨の主張を実質既にしていることは明らかである。
(b)意見を述べる機会
(b1)当事者等に通知し意見を申し立てる機会を与えなければならない「当事者又は参加人が申し立てしない理由」(特許法153条)とは、条文・証拠・重大な事実等に関連するものをいう。審決がした「拡大レンズを目の位置と見ることができる」との判断は、結論を導く過程においてした単なる事実の認定にすぎず、上記理由とはそもそも性格を異にするものである。「意見を述べる機会が与えられなかった」ことをもって「判断の遺脱」はあったとすることはできない。
(b2)乙第1号証によれば、再審請求人は無効審判の手続きにおいて以下のとおり陳述をしている。
『4.議論の簡略化のためレンズと眼の間隔t=0とする
1点鎖線と眼の間隔の解釈は被請求人と請求人との間で大きく異なる処である。ここでは厳密には異なるが議論の簡略化のため、レンズと眼の間隔t=0、つまりレンズと眼は実質的に接していると考える事とする。したがって、1点鎖線はt=0ゆえ視線でも作像線でもあり、また眼の間隔とレンズの間隔はt=0ゆえ等しい。
上記の定義は、被請求人・請求人双方の主張に特段の変更を要求するものではない。この点にこだわると議論が進まず、また全ての議論に1点鎖線と眼の間隔の解釈が絡んでくるので複雑化してしまう。』(口頭審理陳述要領書:5頁3行?8行)
すなわち、再審請求人は、自ら、無効審判の手続きにおいて「拡大レンズを目の位置と見ることができる」ことにつき意見を述べている。
また、無効審判の手続きにおいて「意見を述べる機会が与えられなかった」としても、その後審決取消訴訟の場において意見を述べる機会がありしかも同機会において上記趣旨の主張を実際にしている(準備書面(1):26頁1行?27行末行)。
これらの点からみても、「意見を述べる機会が与えられなかった」ことをもって「判断の遺脱」はあったとすることはできない。

(5-3)判決の判断
(a)判決の記載
『ア 確かに、接眼レンズの位置とそれを通して対象を見る眼の位置とは正確に一致しているということはできないとしても、接眼レンズに眼を密着させて対象を見ることに変わりはないから、眼の位置が接眼レンズ(すなわち、拡大レンズ)の位置であるとみることが不自然であるとまではいえない。』(判決:16頁15行?18行)
(b)すなわち、判決の「接眼レンズの位置とそれを通して対象を見る眼の位置とは正確に一致しているということはできない」との判断は光軸方向についても判断したものであるところ、「正確に一致しない」との判断は光軸方向に距離があることを認めた上での記載であることが認められる。この距離が再審請求人のいう「レンズと目の間隔(アイポイント距離)」に対応するものであることは明らかである。
判決は、実質上接眼レンズに関する技術常識(アイポイント距離)を考慮に入れて判断をしているということができ、接眼レンズに関する技術常識を看過したとすることはできない。

(6)審決取消訴訟の判決について
(6-1)本件再審理由と審決取消事由との違い
再審請求人は、本件再審理由は「審決取消事由」の「前提となる事項」であり、審決取消訴訟では判断が示されていない旨、主張する。
本件再審理由が再審請求人のいうような「前提となる事項」であり「審決取消事由」とは性格・階層を異にする事項であるにせよ、その「前提となる事項」を含めて再審請求人が審決取消訴訟において主張をしたこと、および、その「前提となる事項」を含めて審決取消訴訟の判決において判断が示されていることは前記のとおりであるから、「前提となる事項」である点をもって再審の理由に当たるとする当該主張は結果的に当を得ない。

(6-2)ただし書きの適用除外
再審請求人は、本件再審理由は、審決取消訴訟の判決において何ら判断が示されていないからただし書きの規定の適用を受けず、再審の理由とすることができる旨、主張をする。
しかし、前記のとおり、本件再審理由については、いずれも、同判決において判断が示されており、当該主張は当を得ない。

第四 むすび

以上、本件再審の請求は、特許法第171条第2項で準用する民事訴訟法第338条第1項の規定に該当しないので不適法な請求であり、その不適法な請求はその補正をすることができないものであるから、特許法第174条第2項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
審判に関する費用については、特許法第174条第2項で準用する同法第169条第2項でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2007-10-03 
結審通知日 2007-10-05 
審決日 2007-10-26 
出願番号 特願平1-102877
審決分類 P 5 123・ 09- X (H04N)
最終処分 審決却下  
前審関与審査官 山崎 達也  
特許庁審判長 新宮 佳典
特許庁審判官 乾 雅浩
奥村 元宏
登録日 2000-11-17 
登録番号 特許第3129719号(P3129719)
発明の名称 無  
代理人 水谷 直樹  

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