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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1195846
審判番号 不服2006-20881  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-20 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 平成 7年特許願第249840号「内部改質高温燃料電池での電気エネルギーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 7月12日出願公開、特開平 8-180896〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年9月27日(パリ条約による優先権主張1994年9月29日、デンマーク王国)の出願であって、平成18年6月2日に拒絶査定がなされ、同年9月20日にこれに対する審判請求がなされ、平成20年1月15日付け、及び同年5月14日付けで当審における拒絶理由が通知され、同年9月2日付けで手続補正がされたものであり、その発明は、上記の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は以下のとおりのものと認められる。
「水蒸気改質触媒の存在下における炭素質フィードガスの水蒸気改質及び燃料電池のアノード室での水蒸気改質フィードガスの電気化学反応からなり、この際、上記吸熱性の水蒸気改質反応に必要な熱は、燃料電池における発熱性電気化学的反応からの過剰熱によって供給される、内部改質高温燃料電池内で電気エネルギーを製造する方法であって、上記水蒸気改質触媒がその活性触媒成分としてニッケルを含み、そして、以下の式
【数1】
θs=1.45-9.53・10^(-5)T(°K)+4.17・10^(-5)T(°K)・lnP_(H2S)/P_(H2)[式中、P_(H2S)は燃料電池の入口における炭素質フィードガス中の硫化水素の分圧、P_(H2)は燃料電池の入口における炭素質フィードガス中の水素の分圧を表し、Tは燃料電池の入口温度(°K)を表す]で表される水蒸気改質触媒上の硫黄被覆量(θs )が0.1?0.9となるのに十分な量で、硫化水素を炭素質フィードガス中に添加することを特徴とする上記方法。」
(以下、この請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

2.当審拒絶理由の概要
当審における平成20年5月14日付けの拒絶理由の概要は、この出願の請求項1?4に係る発明はその出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。


<刊行物>
S. KANEKO ET AL、"RESEARCH AND DEVELOPMENT ON TUBULAR TYPE SOLID OXIDE FUEL CELL"、INTERLEC'91 NOVEMBER 5-8 KYOTO、NOVEMBER 1991、p. 387-392

3.刊行物の記載事項
上記の刊行物には、「管状型固体酸化物燃料電池の研究開発」に関して、以下の記載がされている。
(ア)「5.固体酸化物燃料電池(SOFC)の発電システム
・・・
5.1 内部改質
SOFCにおける発電反応に直接使用できるガスは、水素と一酸化炭素である。天然ガスや液化石油ガスのような炭化水素ガスをSOFCの燃料として使用する場合は、付加システムにより水素と一酸化炭素に改質されなければならない。
例えば、メタンの改質は以下のように表される。
CH_(4)+H_(2)O → 3H_(2)+CO 2650kcal/m^(3)N
改質反応を促進するためには、水蒸気、800℃以上の温度、熱供給と改質触媒が必要である。SOFCにおける発電区域の温度は900℃?1000℃である。発電反応からの生成熱が改質反応に使用し得る。燃料極のニッケルが改質触媒として機能し得る。そして、炭化水素燃料と水蒸気が発電区域へ供給されると、内部改質反応が容易に起こり、発電反応に使用するための水素と一酸化炭素が直ちに生成する。・・・」
(イ)「5.2 燃料の多様化
SOFCは高温で稼働するため、硫黄に対する高い抵抗性を有している。燃料極に使用されるニッケルの硫黄被毒の限界値は温度の上昇とともに上昇し、1000℃においてはおよそ100ppmの高い値に達する。他の構成要素の材料は、この濃度レベルの硫黄にほとんど影響されないから、SOFCにおける硫黄の許容レベルはおよそ100ppmである。・・・この高い硫黄抵抗性により、SOFCは多くのタイプの燃料を使用することができる。
都市ガスは通常硫黄化合物(硫黄含有約5ppm)で臭気付けされているが、付加的な脱硫手段なしにSOFCの燃料として使用され得る。
ガス化石炭ガスのような高硫黄燃料使用時にも精密な脱硫は不要である。」

4.当審の判断
(1)刊行物に記載された発明
刊行物の(ア)の記載によると、刊行物には、SOFCの燃料として天然ガスや液化石油ガスのような炭化水素ガスを使用する場合、燃料極のニッケルを水蒸気改質触媒として水蒸気と反応させて水素及び一酸化炭素に改質すること、改質されたガスが発電区域で発電に使用されること、SOFCの発電区域の温度は900℃?1000℃であり、吸熱性の改質反応に必要な熱は発電区域の反応生成熱によって供給されること、水蒸気改質は燃料電池の内部で行われることが記載されているといえ、また(イ)の記載によると、1000℃で稼働するSOFCにおいて、硫黄化合物を硫黄含有5ppmで添加された都市ガスや、硫黄化合物を100ppmまで含むガス化石炭ガスを水蒸気改質する場合、脱硫の必要はないことが記載されているといえる。
以上によると、上記刊行物には、「水蒸気改質触媒の存在下における炭化水素燃料ガスの水蒸気改質及び燃料電池のアノード室での水蒸気改質ガス化石炭ガスの電気化学反応からなり、この際、上記吸熱性の水蒸気改質反応に必要な熱は、燃料電池における発熱性電気化学的反応からの過剰熱によって供給される、内部改質高温燃料電池内で電気エネルギーを製造する方法であって、上記水蒸気改質触媒がその活性触媒成分としてニッケルを含み、燃料電池の入口温度が1000℃の場合、前記炭化水素燃料ガスは、硫黄成分を5?100ppm含有している上記方法」の発明が記載されているといえる(以下「刊行物発明」という。)。

(2)本願発明と刊行物発明との対比
本願発明(前者)と、刊行物発明(後者)とを対比すると、後者の「炭化水素燃料ガス」は前者の「炭素質フィードガス」に相当するとともに、その具体例である天然ガスや液化石油ガス、ガス化石炭ガス等の硫黄成分は、主として硫化水素であることが周知であるから(例えば、特開平6-228573号公報【0009】、特開平4-308745号公報【0002】、特開昭63-123801号公報第1頁右欄参照)、その「硫黄成分」はほぼ硫化水素由来のものとみなすことができる。
そうすると、両者は「水蒸気改質触媒の存在下における炭素質フィードガスの水蒸気改質及び燃料電池のアノード室での水蒸気改質フィードガスの電気化学反応からなり、この際、上記吸熱性の水蒸気改質反応に必要な熱は、燃料電池における発熱性電気化学的反応からの過剰熱によって供給される、内部改質高温燃料電池内で電気エネルギーを製造する方法であって、上記水蒸気改質触媒がその活性触媒成分としてニッケルを含み、上記炭素質フィードガスは硫化水素を含む上記方法」の点で一致し、以下の点Aで相違する。

相違点A:前者は、「【数1】
θs=1.45-9.53・10^(-5)T(°K)+4.17・10^(-5)T(°K)・lnP_(H2S)/P_(H2)[式中、P_(H2S)は燃料電池の入口における炭素質フィードガス中の硫化水素の分圧、P_(H2)は燃料電池の入口における炭素質フィードガス中の水素の分圧を表し、Tは燃料電池の入口温度(°K)を表す]で表される水蒸気改質触媒上の硫黄被覆量(θs )が0.1?0.9となるのに十分な量で、硫化水素を炭素質フィードガス中に添加するのに対して、後者は、燃料電池の入口温度が1000℃の場合、炭素質フィードガスがほぼ硫化水素由来の硫黄成分を5?100ppm含む点

(3)判断
刊行物発明では、燃料電池の入口温度(T)が1000℃の場合、炭素質フィードガスは硫黄成分を5?100ppm含有しているから、これらの値に基づき、本願発明の【数1】の式で表される水蒸気改質触媒上の硫黄被覆量(θs)を計算すると、刊行物発明における炭素質フィードガス中の硫黄成分100ppmは、硫黄と硫化水素の分子量≒32:34であるから、【数1】におけるP_(H2S)/P_(H2)≒5.3×10^(-6)?106×10^(-6)を用い、Tに1273(°K)を代入して計算すると、θsの値は0.1?0.9の範囲内となり、刊行物発明と本願発明のθsの値とは重複する。
そうすると、上記相違点Aは、以下の点Bに置き換えることができる。
相違点B:前者は、炭素質フィードガスが硫化水素を添加するものであるのに対して、後者は、炭素質フィードガスが硫化水素を含有するものである点
そこで、上記相違点Bについて検討すると、刊行物の(イ)には、燃料ガス中の硫黄成分は、内部改質高温燃料電池のニッケル触媒に対する被毒作用を有するが、入口温度が1000℃の燃料電池においては、含有量が100ppmまでであれば、ニッケル触媒への硫黄被毒は燃料電池の動作に重大な影響を及ぼさない旨が記載されているから、上記の記載に接した当業者にとって、刊行物発明に係る硫黄成分の含有量の許容上限値を確認しようとすることは、ごく自然なことと認められる。
そして、硫黄成分がニッケル触媒に及ぼす被毒作用の程度は、炭素質フィードガス中の硫黄成分が含有物であっても添加物であっても、ガス中における含有量が同じであれば何ら変わりないことが明らかであるところ、硫黄成分の含有量にばらつきのある多種類の炭素質フィードガスよりも、硫黄成分を含有しないか又は既知量の硫黄成分を含有する基準ガス中に種々の規定量の硫化水素を添加した炭素質フィードガスの方が、上記確認のための試料ガスとして、含有量の測定や調製のし易さに優れることは、当業者にとって周知の事項と認められる。
そうすると、刊行物発明に係る硫黄成分の許容上限値を確認しようとして、硫黄成分として硫化水素を含有する炭素質フィードガスに替えて、硫黄成分を含有しないか又は既知量の硫黄成分を含有する基準ガスに規定量の硫化水素を添加した炭素質フィードガスを試料ガスとすることは、当業者が格別の創作力を要することなくなし得ることと認められる。
したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易になし得たものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)補足
なお、当審においては、平成20年1月15日付けの拒絶理由通知書に[理由2]として、【数1】の式の公知性に疑義があるから、特許法第36条第4項、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない旨を指摘し、同年5月14日付けの拒絶理由通知書の<追記>においても、上記疑義が解消しない旨を指摘した。
これに対して、請求人は、平成20年4月17日付けの意見書に添付して本願優先日前公知の「"Catalyst Deactivation in Synthesis Gas Production, and Important Synthesis” Haldor Topsoe A/S 278-283 (1985) 」(以下「参考文献1」という。)を、さらに平成20年9月2日付けの意見書に添付して本願優先日後公知の「“Correlating Sulfur Poisoning of SOFC Nickel Anodes by a Temkin Isotherm” Electrochemical and Solid-State Letters, 11 (10) B178-B180 (2008)」(以下、「参考文献2」という。)を提出し、参考文献2には、【数1】の式が記載され、参考文献1には参考文献2に記載の式とほぼ同じ式が記載されているから、参考文献1に記載された式の誤記を訂正し、参考文献1に記載しないパラメータ(P_(H2S)、P_(H2))の意味を参考文献2の記載から類推すれば、【数1】の式は公知である旨の主張をしている。
しかしながら、参考文献1を本願優先日後公知の参考文献2を参酌して解釈する点に、依然として疑義を禁じ得ない。
また、仮に、参考文献1に【数1】の式が記載されていると認定し、その公知性を認めたとしても、参考文献1、278頁下から6行?末行、参考文献2、B178頁左欄下から11行?右欄2行には、【数1】の式は理論式に基づいて実験値に合う定数を定めたものであり、θsが0や1に近い場合に有効ではない旨が記載されているから、θsが0.1や0.9及びその近傍の値の場合には、【数1】の式自体が有効か無効か判断することができない。
一方、本願の発明の詳細な説明及び図面には、【数1】の式に基づいた計算結果を根拠として、本願発明の課題が解決できる旨は記載されているが、【数1】の式でθs=0.1?0.9を満たす燃料ガスを用いて燃料電池を発電し、本願発明の課題を解決したことを示す実施例は記載されていない。
そうすると、請求項1に記載されたθsが0.1や0.9及びそれに近い値の場合に、本願発明の課題が解決できることが、発明の詳細な説明には明確かつ十分に記載されているとはいえないとともに、請求項1に記載したθsの範囲は、発明の詳細な説明の記載に十分にサポートされていないから、請求項1は発明の詳細な説明に記載された事項であるともいえない。
したがって、本願は、特許法第36条第4項及び第6項第1号の規定を満たしていないともいえる。

5.むすび
以上のとおり、当審における拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-02 
結審通知日 2008-10-28 
審決日 2008-11-11 
出願番号 特願平7-249840
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H01M)
P 1 8・ 537- WZ (H01M)
P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蛭田 敦  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 平塚 義三
坂本 薫昭
発明の名称 内部改質高温燃料電池での電気エネルギーの製造方法  
代理人 江崎 光史  
代理人 奥村 義道  

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