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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24B
管理番号 1195918
審判番号 不服2007-27433  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-04 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 特願2002- 98902「被切断物のワイヤ切断方法および切断用のワイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月14日出願公開、特開2003-291056〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続きの経緯
本件出願は、平成14年4月1日の出願であって、同19年5月15日付けで拒絶の理由が通知され、同19年7月17日付けで意見書及び明細書についての手続補正書が提出されたが、同19年8月31日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同19年10月4日に本件審判の請求がされたものである。


2 本願発明
本件出願の請求項1及び2に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

[本願発明]
「複数本のグルーブローラ間に架け渡されたワイヤを往復走行させ、遊離砥粒を含む砥液を供給しながら、被切断物をワイヤに相対的に押しつけて、上記遊離砥粒の研削作用により、上記被切断物を切断する被切断物のワイヤ切断方法において、
上記ワイヤの表面の粗さをRa0.08?0.20μmに調整し、上記ワイヤ表面に対する遊離砥粒の保持力を高めて被切断物をワイヤ切断する被切断物のワイヤ切断方法。」


3 引用刊行物及びその記載事項
[引用刊行物]
平成19年5月15日付けで通知した拒絶理由には、本件出願前に頒布された刊行物である次の刊行物1ないし6が引用されている。

刊行物1:実願昭63-1389号(実開平1-106160号)のマイクロフィルム
刊行物2:特開2001-105295号公報
刊行物3:実願昭62-146117号(実開昭64-52646号)のマイクロフィルム
刊行物4:特開2000-317804号公報
刊行物5:特開昭61-121817号公報
刊行物6:特開2000-328188号公報

このうち、刊行物4には、以下の事項が記載されている。

(1)刊行物4の記載内容
ア 段落【0002】?【0004】
「【0002】
【従来の技術】従来技術として、シリコンインゴット、水晶等の脆性材、炭化珪素、サファイア等の高硬度材の切断及び溝入れにワイヤソー加工機が用いられている。
【0003】ワイヤソー加工機は、ダイヤモンド等の砥粒を電着したワイヤを用いる固定砥粒方式と、ピアノ線等のワイヤにスラリ(砥粒を混ぜた加工液)をかけながら加工する遊離砥粒方式がある。どちらも細いワイヤを一方向又は往復走行させながら被削材に押しつけて切断するもので、外周刃切断、内周刃切断等のブレードを用いる加工に比べ、小さな切り代で切断できるという特長がある。
【0004】しかし、欠点として固定砥粒方式では、ワイヤのコストが高いという問題があり、現在は遊離砥粒方式が多く用いられている。また、遊離方式においても、切断メカニズムがラップ加工の原理に近いので加工時間が非常に長いという欠点があり、特に、炭化珪素、サファイア等の高硬度材料の切断ではシリコンに比べ数倍から10倍以上の時間を要するという問題がある。」

イ 段落【0010】?【0012】
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】そこで、この発明の目的は、ワイヤ強度の低下を抑えつつワイヤ表面の砥粒溜めの形成効率が高いワイヤソー加工用ワイヤ及びワイヤ処理装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】伸線したワイヤの表面は、非常に表面粗さが良好である。この平滑な面では、砥粒を引っかけるための砥粒溜めの効果は無い。しかし、ワイヤソー加工機に用いる砥粒の大きさは、数10μm程度である。この微細な砥粒を引っかけるために必要な窪みの大きさは、数μmから数10μmあればよい。
【0012】であれば、請求項1,11に記載のように、表面の粗さを粗らして微小な窪みを設けることで、砥粒溜めの効果が発揮される。このようにして、ワイヤソー加工用のワイヤ表面の表面粗さを粗くすることでワイヤ表面の砥粒溜めの形成効率を高めることができる。また、表面を粗す程度であれば、ワイヤの強度低下が無いか、極わずかに抑えることが可能である。」

ウ 段落【0018】?【0021】
「【0018】図1には、本実施形態におけるマルチワイヤソー加工機の加工部の概要図を示す。本加工機は、ワイヤにスラリをかけながら加工する遊離砥粒方式が採用されている。
【0019】棒状のローラ1,2,3が回転可能に支持され、このローラ1,2,3の間には1本のワイヤ4が多数平行に張設されている。また、ワイヤ4の両端側がガイドプーリ5,6,7,8にて案内されながら移動することができるようになっている。ローラ1はモータ9の出力軸と連結され、モータ9の駆動によりワイヤ4が移動する。詳しくは、ワイヤ4はその移動方向が反転しながら往復走行するようになっている。また、図示はしていないがワイヤ走行路の途中にワイヤ4にスラリ(砥粒を混ぜた加工液)をかける箇所が設けられている。
【0020】なお、図1ではワイヤ4を往復走行させたが、一方向にのみワイヤ4を移動させるワイヤソー加工機に適用してもよい。一方、加工テーブル10には被加工材(被削材)11がセットされ、加工テーブル10がワイヤ4に対し接近・離間する上下方向に移動できるようになっている。よって、加工テーブル10の上動により被加工材11がワイヤ4に押しつけられ切断等の加工が行われる。
【0021】また、上下に配置されたガイドプーリ7,8の間にはワイヤソー加工用ワイヤの処理装置12が設けられている。この処理装置12により、ワイヤに対し表面処理が施されてワイヤ表面の粗さが粗くされる。このように表面加工されたワイヤ4が加工に供される。」

エ 段落【0024】
「【0024】次に、このように構成した処理装置12の作用を説明する。放電電極15とワイヤ4との間に電圧が印加された状態でワイヤ通過孔16をワイヤ4が通過するときに、ワイヤ4と放電電極15との間に電流が流れる。これにより、ワイヤ表面が粗され、ワイヤ4の一部が除去され、図3(b)に示すような微小な窪み21が多数形成される。つまり、図3(a)に示すごとく、伸線したワイヤ20に対し、図3(b)に示すように、表面の粗さが粗くされて多数の微小な窪み21が形成される。窪み21のサイズ(径および深さ)は、数μm?数10μmであり、この窪み21にワイヤ加工に用いる砥粒を溜めることができる。」

オ 段落【0028】?【0029】
「【0028】このように表面に多数の微小な窪み21が形成されたワイヤ4を用いてワイヤソー加工が行われる。つまり、ワイヤソー加工機において、ワイヤ4を往復走行させながら被加工材11が押しつけられ切断や溝入れ加工が行われる。このワイヤソー加工の際に、窪み21に、ワイヤー加工に用いる砥粒(スラリに含まれる砥粒)が引っ掛かり、加工の効率を向上させることができる。つまり、伸線したワイヤ20はその表面が平滑であり、ワイヤ加工に用いる砥粒を引っかけることができないが、図3(b)のワイヤでは砥粒の大きさは数10μm程度であり、数μm?数10μmの窪み21には砥粒を引っかけることができる。
【0029】このワイヤ表面の砥粒溜めの形成効率は従来方式に比べ高く、かつ、この時の処理はワイヤ表面を粗らす程度なので、ワイヤの強度低下が無いか、あるいは極めてわずかに抑えることができる。」

(2)引用発明
上記摘記事項アの段落【0003】及び摘記事項ウの段落【0019】の記載からみて、刊行物4記載の砥粒が遊離砥粒であることは明らかであり、また、遊離砥粒方式のワイヤ切断において、遊離砥粒の研削作用により被加工物を切断することも技術常識である。

してみるに、上記摘記事項を技術常識を勘案しながら本願発明に照らして整理すると、刊行物4には次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「複数本のローラ間に張設されたワイヤを往復走行させ、遊離砥粒を混ぜた加工液を供給しながら、被加工材をワイヤに相対的に押しつけて、上記遊離砥粒の研削作用により、上記被加工物を切断する被加工物のワイヤ切断方法において、上記ワイヤの表面に径及び深さが数μm?数10μmの多数の微少な窪みを形成してワイヤの表面の粗さが粗くなるよう調整し、上記ワイヤ表面に対する遊離砥粒留めの形成効率を高めて被加工物をワイヤ切断する被加工物のワイヤ切断方法。」


4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ローラ」は、ローラであるという限りにおいて、本願発明の「グルーブローラ」と共通している。
また、引用発明の「張設された」は本願発明の「架け渡された」に相当し、以下同様に、「遊離砥粒を混ぜた加工液」は「遊離砥粒を含む砥液」に、「被加工物」は「被切断物」に、それぞれ相当する。
さらに、引用発明の「遊離砥粒留めの形成効率を高めて」なる事項は、上記摘記事項オの段落【0028】の記載からみて、遊離砥粒の引っ掛かり、すなわち遊離砥粒の保持力を高めていることは明らかであるから、本願発明の「遊離砥粒の保持力を高めて」に相当する。

してみるに、両者の一致点と相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
「複数本のローラ間に架け渡されたワイヤを往復走行させ、遊離砥粒を含む砥液を供給しながら、被切断物をワイヤに相対的に押しつけて、上記遊離砥粒の研削作用により、上記被切断物を切断する被切断物のワイヤ切断方法において、上記ワイヤの表面の粗さを調整し、上記ワイヤ表面に対する遊離砥粒の保持力を高めて被切断物をワイヤ切断する被切断物のワイヤ切断方法。」

[相違点1]
本願発明は、ワイヤを「グルーブローラ」間に架け渡しているのに対し、引用発明は「ローラ」間に架け渡しているものの、該ローラがグルーブローラであるか否か明らかでない点。

[相違点2]
本願発明は、「ワイヤの表面の粗さをRa0.08?0.20μmに調整し」ているのに対し、引用発明では、「ワイヤの表面に径及び深さが数μm?数10μmの多数の微少な窪みを形成してワイヤの表面の粗さが粗くなるよう調整し」ており、表面の粗さを粗く調整しているものの、粗さをRaとして求めた場合にいかなる範囲となるか明らかでない点。


5 判断
ア 相違点1について
ワイヤ切断の技術分野において、グルーブローラ間にワイヤを架け渡して切断を行うことは、例示するまでもなく従来周知の技術であり、引用発明のローラとして、周知技術であるグルーブローラを用いることは、当業者にとって容易である。

イ 相違点2について
ワイヤ切断の技術分野において、ワイヤ表面の粗さが大きすぎると断線しやすく、逆に粗さが小さすぎると切断効率が低下することは技術常識であり(例えば、上記刊行物1第5ページ第7行?第12行等を参照のこと)、また、最適なワイヤ表面の粗さは、使用するワイヤ、遊離砥粒及び被切断物により異なることも、当業者にとって自明である。
さらに、ワイヤ切断用のワイヤの表面の粗さをRaとして求め、粗さをRa0.020μm以下に調整することも上記刊行物6の請求項3記載のごとく、格別な数値ではない。
してみるに、引用発明においても、断線が生じることなく高い切断効率で切断を行うことが求められていることは明らかであるから、引用発明において、使用するワイヤ、遊離砥粒及び被切断物に応じて上記技術常識を勘案して、ワイヤの表面の粗さを断線が生じることなく高い切削効率で切断が行える値に調整し、相違点2に係る本願発明の粗さRaの数値範囲とすることは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得たことである。

ウ 本願発明の効果について
本願発明によってもたらされる効果も、引用発明、周知技術及び技術常識から、当業者であれば予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。


6 結び
以上のとおり、本願発明は、刊行物4記載の発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件出願の請求項2に係る発明について判断するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-09 
結審通知日 2009-02-10 
審決日 2009-03-04 
出願番号 特願2002-98902(P2002-98902)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B24B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 健児筑波 茂樹  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 鈴木 孝幸
佐々木 一浩
発明の名称 被切断物のワイヤ切断方法および切断用のワイヤ  
代理人 安倍 逸郎  

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