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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62B
管理番号 1196056
審判番号 不服2007-21994  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-09 
確定日 2009-04-09 
事件の表示 特願2006-270707「酸素を常時吸入する必要のある患者専用の酸素ボンベ運搬用カート」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月17日出願公開、特開2008- 87624〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成18年10月2日の出願であって、平成19年7月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成19年8月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成19年9月7日に手続補正がなされたものである。

II.平成19年9月7日付けの手続補正についての却下の決定
[補正却下の結論]
平成19年9月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
車軸の両端に車輪を回転可能に取付け、前記車軸に、酸素ボンベを起立状態で載置するため車軸が下にある配置とした載置台と、この載置台の両側に位置する牽引用の把手とを設けた酸素を常時吸入する必要のある患者専用の携帯酸素ボンベ運搬用カートにおいて、前記車軸に取付けた車輪は最大外径6cm以下とし、前記把手が、両側縦柱の上端に握り部を有する下向きコ字状で、両側縦柱がその間に酸素ボンベが納まる間隔となり、前記載置台上に載置した酸素ボンベを、この酸素ボンベの上下方向の中心線が車軸の軸心と交差する配置で載置することができるように形成され、この両側縦柱間に、載置台上に載置した酸素ボンベを、この酸素ボンベの上下方向の中心線が車軸の軸心と交差する配置で把手に固定する固定手段を設けた酸素を常時吸入する必要のある患者専用の携帯酸素ボンベ運搬用カート。」と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に補正前の請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項をさらに加えて限定したものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
原査定の平成19年4月9日付け拒絶理由で引用した実願平01-087605号(実開平03-026662号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている。

a:「【実用新案登録請求の範囲】
ガスボンベや液体ボンベ等を運搬する二輪式運搬車であって、被運搬物が載せられる載置部と該載置部の後端から上方に延びる立設部とからなる本体を有し、この本体の載置部の後端部の下面側に車幅方向に車軸支承用パイプが配設されていると共に、このパイプに車軸が挿通されて、その車軸の両端に車輪が取り付けられていることを特徴とする二輪式運搬車。」

b:「第1?6図は本実施例の二輪式運搬車を示すもので、これらの図面に示すように、この二輪式運搬車1は周縁が鉄パイプでなる本体2を有し、該本体2の下方部分がガスボンベや液体ボンベ等の被運搬物が載せられる載置部3とされていると共に、その載置部3の後端から上方に延びる部分が立設部4とされている。
上記載置部3には、車幅方向に延びる被運搬物用支持部材5が配設されている。この支持部材5は、上記本体2の両側部を構成する鉄パイプに両端が結合されたパイプ材6と、このパイプ材6に立設されて被運搬物の載置時にその前方への移動を阻止する板材7とからなり、当該載置部3の前端から所定量だけ後方に位置されている。
また、上記立設部4には、車幅方向に延びる第1?3部材8?10が各々所定の高さ位置に配設されている。このうちの第2部材9は弓状に湾曲した形状とされており、その両端にリング部9a、9aが設けられている。そして、載置部3に載せられる被運搬物の前方への倒れは、例えば両リング部9a、9a間に紐を張り渡すことによって防止する一方、後方への倒れは第1、第2部材8、9で被運搬物の側面ないし背面を受けることによって防止するようになっている。
そして、本考案の特徴として、この運搬車1においては、上記載置部3の後端部の下面側に車幅方向に延びる車軸支承用パイプ11が配設されている。この車軸支承用パイプ11は、両端が本体両側部の鉄パイプに溶接によって結合されている。
そして、この車軸支承用パイプ11内に車軸12が挿通されて、該車軸12の両端にゴムタイヤでなる車輪13、13が取り付けられている。」(4頁17行?6頁8行、第1図?第6図)

上記記載から引用例1には、
車軸の両端に車輪を回転可能に取付け、前記車軸に、ボンベを起立状態で載置する載置部と、この載置部の両側に位置する牽引用の把手とを設けたボンベ運搬用二輪式運搬車において、ボンベの倒れを防止するための部材を設けたボンベ等を運搬する二輪式運搬車、が記載されているものと認められる。

原査定の上記拒絶理由で引用した特開2001-247039号公報(以下「引用例2」という)には、以下の事項が記載されている。

c:「【請求項1】 酸素ボンベを起立状態で搭載する面状の底部と、該底部の前端部及び左右両端部から上方へ延長する面状の囲い部とからカート本体を形成し、前記囲い部に前記酸素ボンベの胴部を保持する固定具を設けると共に、前記底部の前方側に左右一対の車輪を設け、前記底部の後方側に支持脚を設け、前記囲い部に牽引用の把手を設けた酸素ボンベ用カート。」(【特許請求の範囲】、図1?11)

d:「【発明の属する技術分野】本発明は、在宅医療等で用いる酸素ボンベを搬送するためのカートに関し、更に詳しくは、酸素ボンベの積み下ろしを安全に行うことを可能にした酸素ボンベ用カートに関する。
【従来の技術】近年、肺機能の疾患等により通常の空気呼吸では必要量の酸素を摂取できず、常時、酸素発生手段から酸素を吸入する必要がある患者の在宅医療を可能にするために、家庭用の酸素供給装置や携帯用の酸素ボンベが種々開発されている。そのため、患者は自宅では酸素供給装置から酸素を吸入し、自宅と病院との往復や短時間の外出では酸素ボンベから酸素を吸入することができる。
上述のような携帯用の酸素ボンベは軽量化が図られているものの、カバン等に収納して長時間携帯することは困難である。そのため、酸素ボンベを搬送するための専用カートが提供されている。従来、この種の酸素ボンベ用カートとしては、スチール製のパイプ材を組み立てたカート本体に、酸素ボンベを保持する固定具を設けると共に、車輪や支持脚や把手を設けたものが一般的である。
しかしながら、スチール製のパイプ材を用いたカートの場合、パイプ材が隙間を開けて並ぶ底部に円筒状の酸素ボンベを起立状態で搭載したときの安定性が悪く、しかも酸素ボンベの周囲には実質的に囲いが無いため、積み下ろしを行う際に酸素ボンベが倒れ易いという問題があった。この酸素ボンベが倒れると、体力のない患者にとって立て直し作業が大変な重労働になり、また倒れた際のショックで、チューブが外れた場合には患者が酸素を吸入できなくなったり、或いは酸素ボンベや付属機器が故障するという重大な事故を引き起こす恐れがある。」(段落【0001】から【0004】)

原査定の上記拒絶理由で引用した実願昭62-054254号(実開昭63-160264号)のマイクロフィルム(以下「引用例3」という)には、以下の事項が記載されている。
e:「本考案は、ドラム缶の運搬車に関するものである。」(1頁16?17行、第1?4図)
f:「本考案においては、ドラム缶の積み降ろしの際には、籠体底面が地面について出し入れされ、また運搬時は、ハンドルを引き降ろすことにより、籠体が上昇し籠体の荷重が支持部の車輪枢着点を通る鉛直線上に位置させることができるようになる。」(3頁15?20行)
g:「運搬時にあっては、ドラム缶を乗せた籠体の重心の位置が側方から見てほぼ支持部に対応し、ハンドル側にモーメントがかかりにくく、取扱いが簡単になるなど、実用性にすぐれた効果を奏するものである。」(7頁5?9行)

原査定の上記拒絶理由で引用した.実願昭52-135287号(実開昭54-062265号)のマイクロフィルム(以下「引用例4」という)には、以下の事項が記載されている。
h:「車輪6の中心軸7の直上にカゴの重心があるから走行は極めて軽快である。」(3頁1から2行、第1図)

3.対比
引用例1の「二輪式運搬車」は、本願補正発明の「運搬用カート」に相当し、引用例1の「載置部」は、本願補正発明の「載置台」に相当し、引用例1の「立設部4」は、載置部の両側から縦に柱状に延びて上端に牽引用の握り部が設けられ、下向きコの字状になっているから、本願補正発明の「把手」に相当する。
また、引用例1の「第2部材9」は弓状に湾曲した形状とされており、その両端にリング部9aが設けられ両リング部9a間に紐を張り渡すことによってボンベが倒れること防止するものであるから、本願補正発明の「固定手段」に相当する。
以上の点を考慮して、引用例1に記載された発明と本願補正発明を対比すると、両者は次の点で一致する。
車軸の両端に車輪を回転可能に取付け、前記車軸に、ボンベを起立状態で載置する載置台と、この載置台の両側に位置する牽引用の把手とを設けたボンベ運搬用カートにおいて、前記把手が、両側縦柱の上端に握り部を有する下向きコ字状で、前記載置台上に載置したボンベを把手に固定する固定手段を設けたボンベ運搬用カート。

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明は、酸素を常時吸入する必要のある患者専用の携帯酸素ボンベ運搬用カートであるのに対し、引用例1に記載された発明は、ガスボンベや液体ボンベ等を運搬する運搬用カートである点。

(相違点2)
本願補正発明は、載置台は酸素ボンベを起立状態で載置するため車軸が下にある配置となっているのに対し、引用例1に記載された発明は、載置台と車軸との位置関係は明確ではない点。

(相違点3)
本願補正発明は、車軸に取付けた車輪は最大外径6cm以下であるのに対し、引用例1に記載された発明は、車輪の外径については記載がない点。

(相違点4)
本願補正発明は、把手が、両側縦柱がその間に酸素ボンベが納まる間隔となり、載置台上に載置した酸素ボンベを、この酸素ボンベの上下方向の中心線が車軸の軸心と交差する配置で載置することができるように形成され、この両側縦柱間に、載置台上に載置した酸素ボンベを、この酸素ボンベの上下方向の中心線が車軸の軸心と交差する配置で把手に固定するのに対し、引用例1に記載された発明は、そのような構造となっていない点。

4.相違点についての判断
(1)相違点1について。
引用例1にはガスボンベを運搬するカートであることは記載されてはいるが、それ以上の具体的用途については記載されていない。しかし、酸素を常時吸入する必要のある患者専用の携帯酸素ボンベ運搬用カートは引用例2に記載されているように、ガスボンベの運搬用カートの用途としては公知のものであって、そのような用途に限定することに何ら困難性は認められない。

(2)相違点2について。
載置台と車軸の位置関係に関し、車軸が載置台の下となるようにすることは、例えば引用例2の図3にも記載されているように公知の態様であり、このような構成とすることは当業者が適宜容易に定め得る設計事項にすぎない。

(3)相違点3について。
本願補正発明では、車軸に取付けた車輪は最大外径6cm以下であるが、重心を下にするために車輪の外径を小さくすることは周知の事項であるし、また、最大外径6cm以下という数値による限定についても車輪の外径を小さくするということ以上の格別の技術的意義があるものとは認められない。

(4)相違点4について。
本願補正発明は、把手が、両側縦柱がその間に酸素ボンベが納まる間隔となり、載置台上に載置した酸素ボンベを、この酸素ボンベの上下方向の中心線が車軸の軸心と交差する配置で載置することができるように形成されているが、この特定事項の技術的意義は、本願明細書の記載によれば、カート上に載置した酸素ボンベの総重量の重心を常に車軸上に集約してこれを車輪で支持することができ、カートを前傾にして手で引いたときに、酸素ボンベの重量が車軸で支持されることにより、把手にかかる酸素ボンベの重量を軽減させ、これにより、カートを引く患者の持ち手や胸への荷重負担を大幅に減少させる、というものである(段落【0013】)。
運搬用カートにおいて、運搬するものの重心が車軸の軸心の上にくるようにすることにより、把手に掛かるモーメントを軽減して運搬しやすくすることは、引用例3及び4に記載されているように公知の事項である。
してみれば、引用例1に記載の発明においても運搬しやすくするように設計することは当然必要とされる課題であるから、運搬物(本願補正発明においては、酸素ボンベ)の総重量の重心を常に車軸上に集約してこれを車輪で支持する構造とすることは当業者が容易になし得ることである。その際、把手が、両側縦柱がその間に酸素ボンベが納まる間隔となり、載置台上に載置した酸素ボンベを、この酸素ボンベの上下方向の中心線が車軸の軸心と交差する配置で載置し、固定手段で固定することは、当業者が適宜容易になし得る設計事項にすぎない。
また、本願補正発明の効果についても、引用例1乃至4から当業者が予測できる程度のものであって、何ら格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例1?4に記載されたもの及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると認められるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.上記補正却下された後の本願発明について
1.本願発明の記載事項
平成19年9月7日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という)は、平成19年6月15日付け手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「車軸の両端に車輪を回転可能に取付け、前記車軸に、酸素ボンベを起立状態で載置する載置台と、この載置台の両側に位置する牽引用の把手とを設けた酸素を常時吸入する必要のある患者専用の酸素ボンベ運搬用カートにおいて、前記車軸が載置台の下にあり、この車輪は最大外径6cm以下とし、前記載置台上に酸素ボンベを、この酸素ボンベの上下方向の中心線が車軸の軸心と交差する配置で取付けるようにしたことを特徴とする酸素を常時吸入する必要のある患者専用の酸素ボンベ運搬用カート。」

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は前記II.2に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.1で検討した本願補正発明の把手に関し、請求項2に記載された「把手が、両側縦柱の上端に握り部を有する下向きコ字状に形成され、両側縦柱がその間に酸素ボンベが納まる間隔に形成され、この両側縦柱間に、載置台上に載置した酸素ボンベを、この酸素ボンベの上下方向の中心線が車軸の軸心と交差する配置で把手に固定する固定手段を設けた」という旨の限定が削除されたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含むものに相当する本願補正発明が、前記II.4に記載したとおり、引用例1?4に記載されたもの及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に当業者が容易に発明をすることができたものである。

4..むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?4に記載されたもの及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本件審判の請求は成り立たない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-04 
結審通知日 2009-02-10 
審決日 2009-02-23 
出願番号 特願2006-270707(P2006-270707)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出口 昌哉沼田 規好  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 横溝 顕範
柴沼 雅樹
発明の名称 酸素を常時吸入する必要のある患者専用の酸素ボンベ運搬用カート  
代理人 田川 孝由  
代理人 鎌田 文二  
代理人 東尾 正博  
代理人 鳥居 和久  

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