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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B |
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管理番号 | 1196104 |
審判番号 | 不服2006-11219 |
総通号数 | 114 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-06-01 |
確定日 | 2009-04-08 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第261008号「化合物半導体結晶の育成方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月21日出願公開、特開平10-101468〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年10月1日の出願であって、平成18年2月10日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成18年4月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年4月28日付けで拒絶査定がなされ、平成18年6月1日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、平成18年8月31日に前記審判に係る請求書の手続補正書の提出がなされたものである。 2.本願発明 本願請求項1?3に係る発明は、それぞれ平成18年4月3日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】縦型容器に原料融液を収容し、成長界面に対向して隔壁を水平に保持し、成長方向に温度勾配を形成し、上記縦型容器の底部より原料融液を冷却固化して化合物半導体結晶を育成する方法において、上記隔壁は上記原料融液中に配置されており、該隔壁から超音波を発振させ、成長界面で反射した超音波を上記隔壁で受信して上記隔壁と成長界面との距離を測定し、その測定値により、上記隔壁の昇降速度、上記縦型容器の昇降速度及び/又は上記温度勾配の移動速度を制御して、上記隔壁と成長界面との距離を一定に保持することを特徴とする化合物半導体結晶の育成方法。」 3.引用刊行物記載の発明 (3-1)引用刊行物1 本願出願前に頒布された刊行物である特開平03-205391号公報(原査定の拒絶理由で引用された引用文献2であり、以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「縦型容器に収容した原料融液を底部より冷却固化して単結晶を育成する方法において、上記容器内壁との間に狭い間隙を設けて水平バッフルを原料融液に浸漬させ、固液界面とバッフルとの距離を一定範囲内に保持し、かつ、該バッフルと上記容器との間隙から原料融液が逆流しないように、該バッフルを徐々に上昇させることを特徴とする単結晶の育成方法。」(特許請求の範囲の請求項1) (イ)「本発明は、垂直ブリッジマン法又は垂直グラディエントフリージング法によって、・・・GaAs、InP等のIII-V族化合物半導体、CdTe、ZnSe等のII-VI族化合物半導体・・・を育成する方法及びその装置に関する。」(第1頁右欄第16行?第2頁左上欄第1行) (ウ)「第1図は、本発明の1具体例である垂直ブリッジマン装置の断面を示した概念図である。・・・ルツボ底部には種結晶4が置かれ、原料融液2には・・・水平バッフル板1が浸漬されており、該バッフル板を昇降させるためには、駆動軸14が付設されている。・・・これらの装置は外部容器10内に置かれている。」(第2頁右下欄第11行?第3頁左上欄第2行) (エ)「単結晶の育成は、ルツボに原料を収容し、・・・ヒータにより・・・温度勾配を形成し、縦型容器を徐々に降下させることにより、種結晶4から単結晶3を育成する。単結晶の固液界面13は、原料融液の融点にある。」(第3頁左上欄第8?13行) (オ)「種々の実験を行ったところ、次の関係を見いだした。即ち、該固液界面13とバッフル板1の下面との距離をL_(1)とし、単結晶1の直径をD_(1)とするときに、L_(1)≦D_(1)/2の範囲内で一定の距離L_(1)を保持してバッフル板を上昇させることにより、バッフル板と固液界面との間の原料融液量を限定し、該原料融液内の不純物濃度の不均一性を抑制することができ、不純物濃度の均一な単結晶を高い歩留りで育成することができる。」(第3頁左上欄第14行?右上欄第3行) ここで、引用刊行物1に記載されている上記(ア)?(オ)の事項について検討する。 (あ)上記(イ)の記載より、上記(ア)の「単結晶」には「化合物半導体」結晶を含むことが明らかである。 (い)上記(ウ)の「原料融液2には・・・水平バッフル板1が浸漬されており、該バッフル板を昇降させるためには、駆動軸14が付設されている」との記載からみて、水平バッフル板は駆動軸によって昇降可能に保持されているといえる。 (う)上記(ウ)には「外部容器10内に置かれている」「ルツボ底部には種結晶4が置かれ」と記載されており、上記(エ)には「温度勾配を形成し、縦型容器を徐々に降下させることにより」種結晶から単結晶が育成されることが記載されているから、上記(ア)における「温度勾配」は「結晶の育成方向」に形成されていることは明らかである。 (え)上記(オ)の「固液界面13とバッフル板1の下面との距離」を一定に保持するとの記載からみて、上記(ア)における「水平バッフル」は下面を有した板状体で、固液界面に対向しているといえる。 以上より、上記(ア)?(オ)の記載事項を本願請求項1の記載ぶりに則して記載すると、引用刊行物1には、 「縦型容器に原料融液を収容し、固液界面に対向して水平バッフル板を保持し、結晶の育成方向に温度勾配を形成し、上記縦型容器の底部より原料融液を冷却固化して化合物半導体結晶を育成する方法において、上記水平バッフル板は上記原料融液に浸漬させ、該バッフル板を上昇させることにより、該バッフル板と固液界面との距離を一定に保持する化合物半導体結晶の育成方法」 の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (3-2)引用刊行物2 本願出願前に頒布された刊行物である特開平08-086573号公報(原査定の拒絶理由で引用された引用文献4であり、以下、「引用刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。 (カ)「本発明は、温度勾配炉のカートリッジに関するものである。」(段落【0001】) (キ)「【実施例】・・・図1は本発明の温度勾配炉のカートリッジの一実施例の概略を表す断面図である。 2はコンテナであり、・・・その内部には、試料1が内装されるようになっている。 3は超音波探触子であり、・・・振動子4が・・・コンテナ2にろう付けされている。 ・・・10は超音波位置検出器であり、・・・前記の超音波探触子3に接続され、・・・固液境界面の現在位置を割り出し表示し得るように構成されている。 ・・・矢印11は、温度勾配炉の温度勾配進行方向(結晶成長進行方向)を・・・示す。 次に作動について説明する。 ・・・試料1の単結晶の成長を図る。 ・・・超音波探触子3の振動子4を作動させ、該振動子4から・・・超音波パルスaを送信させ、試料1の固液境界面12により反射される超音波パルスaが振動子4によって受信されるまでの時間を超音波位置検出器10によって測定し、ビーム路程を算出し、固液境界面12の現在位置を割り出し表示させる。」(段落【0010】?【0021】) 上記(カ)及び(キ)の事項により、引用刊行物2には、 「単結晶の成長に当たり、超音波を発振させ、固液境界面で反射した超音波を受信するまでの時間を測定して、その路程を算出して固液境界面の位置を把握する方法」(以下、「引用発明2」という。) が記載されているといえる。 4.比較・検討 (4-1)本願発明1と引用発明1とを比較する。 ここで、 (さ)引用発明1の「水平バッフル板」は、その名称からみて、水平の板状体からなる隔壁であることは明らかであり、固液界面との距離を一定に保持しているから、引用発明1の「水平バッフル板」が本願発明1の「水平に保持した」「隔壁」に相当することは明らかである。また、引用発明1における原料融液中に隔壁を「浸漬」するとは、本願発明1の「原料融液中に配置」することに他ならない。 (し)結晶の育成は、温度勾配の方向に沿って原料融液が固液界面より冷却固化して結晶成長することが技術常識であるから、引用発明1の「固液界面」が本願発明1の「成長界面」に相当し、引用発明1の「結晶の育成方向に温度勾配を形成」が本願発明1の「成長方向に温度勾配を形成」に相当することは明らかである。 そうすると、本願発明1と引用発明1とは、 「縦型容器に原料融液を収容し、成長界面に対向して隔壁を水平に保持し、成長方向に温度勾配を形成し、上記縦型容器の底部より原料融液を冷却固化して化合物半導体結晶を育成する方法において、上記隔壁は上記原料融液中に配置されており、上記隔壁と成長界面との距離を一定に保持する化合物半導体結晶の育成方法」 である点で一致し、 隔壁と成長界面との距離を一定に保持するに際し、本願発明1では「隔壁から超音波を発振させ、成長界面で反射した超音波を上記隔壁で受信して上記隔壁と成長界面との距離を測定し、その測定値により、上記隔壁の昇降速度、上記縦型容器の昇降速度及び/又は上記温度勾配の移動速度を制御して」いるのに対し、引用発明1では「隔壁を上昇させる」のみである点、 で相違する。 (4-2)上記相違点について検討する。 引用発明1の「隔壁を上昇させることにより、隔壁と成長界面との距離を一定に保持する」ことに関し、引用刊行物1には、「一定の距離L_(1)を保持してバッフル板を上昇させることにより、バッフル板と固液界面との間の原料融液量を限定」すると記載されているのみで、距離L_(1)を測定するための具体的手段は明記されていないものの、上記(3-1)(オ)記載の見いだされた知見からみて、結晶の育成を行っている間、当該距離L_(1)を的確に一定に保持、隔壁を上昇させることが好ましいことは明らかである。 ところで、引用刊行物2には、上記(3-2)で摘示した引用発明2が記載されているから、引用発明1において、上記「一定の距離L_(1)」を一定に保持するために、同じ単結晶製造技術の分野の発明である引用刊行物2記載の方法を適用し、超音波を発振させ、固液境界面で反射した超音波を受信するまでの時間を測定して、その路程を算出して固液境界面の位置を把握することは、当業者であれば困難なく成し得たことである。 また、引用発明1は、隔壁と成長界面との距離L_(1)を一定とするものであるから、成長界面で反射した超音波を受信して成長界面の位置を測定する引用発明2の方法を適用するに当たっては、超音波の発振は隔壁からでなくてはならないことは明らかであり、超音波の路程を算出して成長界面の位置を測定する方法を用いれば、隔壁と成長界面との距離は当然に測定されるといえる。 さらに、引用発明1において、単結晶を育成する際には原料が収容された縦型容器を温度勾配下で徐々に降下させ、単結晶の固液界面は原料融液の融点にあるようにし(上記(3-1)(エ))、隔壁を上昇させることにより「一定の距離L_(1)」を保持して結晶の育成を行っている(上記(3-1)(オ))ことからみても、温度勾配下で原料融液を底部から冷却固化して結晶を育成する方法においては、隔壁、縦型容器及び温度勾配炉の各々の位置関係によって形成される「隔壁と成長界面との距離」を一定に保つために、「隔壁の昇降速度」や「縦型容器の昇降速度」及び/又は「温度勾配の移動速度」を制御すべきことは当然のことであって、当該制御は、当業者であれば適宜成し得ることである。 そして、本願明細書及び図面を参照しても、本願発明1が引用刊行物1及び2に記載されている発明に比して、格別顕著な効果を奏しているものとも認められない。 よって、本願発明1は、引用刊行物1及び2に記載の発明に基づいて、容易に成し得たものである。 なお、審判請求人は、平成18年8月31日付け手続補正書で補正された審判請求書において、 (1)「引例3,4は、形成された結晶側から結晶表面の状態を検出するものであるのに対して、本発明では融液側から、水平隔壁と結晶との表面間距離を測定するものであると言う点で技術的に全く異なる。仮に、引例1,2に引例3,4を適用するのであれば、むしろ、本願の図1の種結晶4のさらに下方の、るつぼを支える回転ロッドの先端に超音波センサーを取り付ける構成となり、これでは本発明の構成を達成できないことになる」(上記請求書の(3)4)iv))点、 (2)「本願発明は、超音波による隔壁と成長界面との距離Lの反射波の時間差ΔTの測定を行いさえすれば、隔壁と成長界面との距離Lの検出を正確に行うことができるといった顕著な効果を奏するもの」(上記請求書の(3)5))である点、 を主張しているので、これらの主張について検討する。 上記(1)について、上記相違点の検討のところで述べたとおり、引用発明1に引用発明2の方法を適用すれば、上記相違点に係る本願発明の超音波の発振位置が自ずと導出されるものである。 また上記(2)について、引用刊行物2記載の発明においても、上記(3-2)の摘示からして、測定すべき距離における超音波の反射波の時間差ΔTを測定することによって距離を検出していることは明らかであり、当該距離の検出手段を、測定すべき距離が融液中にある引用発明1に採用した際に、本願発明同様、「ΔTの測定を行いさえすれば、隔壁と成長界面との距離Lの検出を正確に行うことができる」効果が奏されることは当業者が予測し得る程度のことにすぎないから、本願発明の効果が、格別顕著なものとは認められない。 したがって、審判請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-01-27 |
結審通知日 | 2009-02-03 |
審決日 | 2009-02-16 |
出願番号 | 特願平8-261008 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C30B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 則充 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
木村 孔一 天野 斉 |
発明の名称 | 化合物半導体結晶の育成方法及びその装置 |
代理人 | 久保田 千賀志 |
代理人 | 山口 幹雄 |
代理人 | 中野 稔 |
代理人 | 二島 英明 |