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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1196416 |
審判番号 | 不服2007-30368 |
総通号数 | 114 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-11-08 |
確定日 | 2009-04-22 |
事件の表示 | 特願2005- 33441「ディスク装置のスピンドルモータ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 2日出願公開,特開2005-143295〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願の発明 本願は,平成14年2月20日に出願した特願2002-42629号の一部を平成17年2月9日に新たな特許出願としたものであって,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「軸部材と、該軸部材と一体に回転するディスクハブと、該軸部材を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置とを備え、ステータとロータとの間の励磁力で前記軸部材及びディスクハブを回転させるディスク装置のスピンドルモータにおいて、 前記動圧軸受装置は、ハウジングと、該ハウジングの内周に固定された軸受スリーブと、軸部およびフランジ部を有する軸部材と、前記軸受スリーブの内周面と前記軸部の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で前記軸部をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で前記フランジ部をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備え、 前記軸受スリーブが焼結金属で形成され、前記ハウジングにレーザビーム溶接又は高周波パルス接合で固定されていることを特徴とするディスク装置のスピンドルモータ。」 2.引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-289242号公報(以下「引用例」という。),特開2002-48133号公報(以下「周知例1」という。),特開平8-336265号公報(以下「周知例2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。 (2-1)引用例 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、情報機器,音響・映像機器,事務機用の流体軸受スピンドルモータに係り、特に、ノート型パソコン等に使用される磁気ディスク装置(HDD),ファンモータ等に最適な流体軸受スピンドルモータに関する。 【0002】 【従来の技術】従来のこの種の流体軸受スピンドルモータとしては、例えば図3に示すようなHDD用スピンドルモータがある。このものは、ベース1に立設した円筒部1aに快削黄銅からなるスリーブ2が固着されており、そのスリーブ2にステンレス鋼からなる軸3が回転自在に挿通されている。この軸3の上端には逆カップ状のハブ4が一体的に取り付けられていて、軸3とスリーブ2との間には動圧流体軸受部が介在している。 【0003】すなわち、軸3の下端にはステンレス鋼からなる円板状のスラストプレート5が圧入により固着されていて、スラストプレート5の両平面がスラスト流体軸受Sのスラスト受面5s,5sとされている。そして、上面側のスラスト受面5sには一方の相手部材であるスリーブ2の下端面が対向し、このスリーブ2の下端面がスラスト流体軸受Sのスラスト軸受面2sとされている。 【0004】また、スラストプレート5の下方には、他方の相手部材であり快削黄銅からなるカウンタープレート6が配置され、ベース1に固定されている。このカウンタープレート6の上面がスラストプレート5の下面側のスラスト受面5sに対向して、スラスト流体軸受Sのスラスト軸受面6sとされている。上記スラスト受面5s,5s及びスラスト軸受面2s,6sのうち少なくとも両スラスト受面5s,5sに、エッチングにより形成されたヘリングボーン状又はスパイラル状の動圧発生用の溝(図示せず)を備えてスラスト流体軸受Sが構成されている。 【0005】さらに、軸3の外周面には、上下に間隔をおいて一対のラジアル受面3rが形成されている。また、このラジアル受面3rに対向させて、スリーブ2の内周面にラジアル軸受面2rが形成されている。そして、ラジアル受面3rとラジアル軸受面2rとの少なくとも一方に、例えばヘリングボーン状の動圧発生用の溝7を備えて、ラジアル流体軸受Rが構成されている。 【0006】そして、円筒部1aの外周にはステータ8が固定され、ハブ4の内周面下側に固定されているロータ磁石9とギャップを介して周面対向して駆動モー夕Mを形成しており、軸3とハブ4とが一体的に回転駆動される。軸3が回転すると、スラスト流体軸受S及びラジアル流体軸受Rの各動圧発生用の溝のポンピング作用により、各流体軸受S,Rの軸受すきまの潤滑剤に動圧が発生して、軸3はスリーブ2及びカウンタープレート6と非接触となり支承される。」 ・図3には,スピンドルモータの軸3の下端にスラストプレートが固着されて「軸部材」を構成し,該「軸部材」が動圧流体軸受部により,回転自在に非接触支持された態様が示されている。 上記の記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には,次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「軸部材と,該軸部材と一体に回転するハブ4と,該軸部材を回転自在に非接触支持する動圧流体軸受部とを備え,ステータ8とロータ磁石9との間の励磁力で前記軸部材及びハブ4を回転させるディスク装置のスピンドルモータにおいて, 前記動圧流体軸受部は,円筒部1aと,該円筒部1aの内周に固着されたスリーブ2と,軸3およびスラストプレート5を有する軸部材と,前記スリーブ2の内周面のラジアル軸受面2rと前記軸3の外周面のラジアル受面3rとの間の軸受すきまに発生する潤滑剤の動圧で前記軸3をラジアル方向に非接触支持するラジアル流体軸受Rと,スラスト軸受すきまに発生する潤滑剤の動圧で前記スラストプレート5をスラスト方向に非接触支持するスラスト流体軸受Sとを備え, 前記スリーブ2が快削黄銅からなり,前記円筒部1aに固着されているディスク装置のスピンドルモータ。」 (2-2)周知例1 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、情報機器,音響・映像機器,事務機器用の流体軸受装置に係り、特に、ノート型パソコン等に使用される磁気ディスク装置(HDD),ファンモータ等に最適な流体軸受装置に関する。」 ・「【0071】・・・また、軸13,スリーブ12等のスピンドルモータを構成する部材の材質は、特に限定されるものではなく、スピンドルモータを構成する部材に通常使用されるステンレス鋼,銅合金,焼結金属,焼結含油金属,プラスチック,セラミック等の材料であれば問題なく使用できる。」 (2-3)周知例2 ・「【0023】 【実施例】図1は本願第1発明に係る第1実施例の扁平モータの断面図である。図1に示す扁平モータ11において、軸受スリーブ2の内部軸方向には一対の軸受メタル12a,12bが固定されており、この軸受メタル12a,12bに回転軸13が回転可能に支持されている。」 ・「【0026】更に、軸受スリーブ2は、永久磁石19による回転軸13の傾きと逆方向に同じ傾きをもつように、シャーシ1のセンター穴1dに浮いた状態で組付けられ、この浮き状態の位置決め後の仮固定は接着剤36で行われ、最終的にはレーザ溶接で組付け固定されている。」 ・「【0031】次に、シャーシ1のセンター穴1dの周囲と軸受スリーブ2のフランジ部との隙間に接着剤36を充填して硬化させることで仮固定する。最後に、レーザ溶接にてシャーシ1と軸受スリーブ2を固定する。図3はレーザ溶接の第1実施例を示す説明図である。図3(A)に示すように、シャーシ1のセンター穴1dの周縁部の複数個所をレーザ光出射ユニット41からのレーザ光42で照射し、その部分に溶接点43を形成される。例えば図3(B)に示すように、等間隔で3個所の溶接点43が形成される。」 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると,その機能・作用からみて,後者における「ハブ4」が前者における「ディスクハブ」に相当し,以下同様に,「動圧流体軸受部」は「動圧軸受装置」に,「ロータ磁石9」は「ロータ」にそれぞれ相当している。 また,後者の「円筒部1a」と前者の「ハウジング」とは,いずれも軸受スリーブを支持する部材であるから「支持部材」との概念で共通する。 加えて,後者の「固着された」は前者の「固定された」に,「スリーブ2」は「軸受スリーブ」に,「軸3」は「軸部」に,「スラストプレート5」は「フランジ部」に,「スリーブ2の内周面のラジアル軸受面2r」は「軸受スリーブの内周面」に,「軸3の外周面のラジアル受面3r」は「軸部の外周面」に,「軸受すきま」は「ラジアル軸受隙間」に,「発生する」は「生じる」に,「潤滑剤」は「潤滑油」に,「動圧」は「動圧作用」に,「ラジアル流体軸受R」は「ラジアル軸受部」に,「スラスト軸受すきま」は「スラスト軸受隙間」に,「スラスト流体軸受S」は「スラスト軸受部」に,それぞれ相当している。 また,後者の「スリーブ2が快削黄銅からな」る態様と,前者の「軸受スリーブが焼結金属で形成され」る態様とは,「軸受スリーブが金属で形成され」るとの概念で共通する。 さらに,後者の「(スリーブ2が)円筒部1aに固着されている」態様と,前者の「(軸受スリーブが)ハウジングにレーザビーム溶接又は高周波パルス接合で固定されている」態様とは,「(軸受スリーブが)支持部材に固定されている」との概念で共通する。 したがって,本願発明と引用発明とは, 「軸部材と、該軸部材と一体に回転するディスクハブと、該軸部材を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置とを備え、ステータとロータとの間の励磁力で前記軸部材及びディスクハブを回転させるディスク装置のスピンドルモータにおいて、 前記動圧軸受装置は、支持部材と、該支持部材の内周に固定された軸受スリーブと、軸部およびフランジ部を有する軸部材と、前記軸受スリーブの内周面と前記軸部の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で前記軸部をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、スラスト軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で前記フランジ部をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備え、 前記軸受スリーブが金属で形成され、前記支持部材に固定されているディスク装置のスピンドルモータ。」の点で一致し,以下の点で相違する。 [相違点1] 軸受スリーブを支持する支持部材に関して,本願発明では,「ハウジング」であるのに対し,引用発明では「円筒部」である点。 [相違点2] 軸受スリーブの材質に関し,本願発明では「焼結金属」であるのに対し,引用発明では,「快削黄銅」である点。 [相違点3] 軸受スリーブと支持部材との固定手段に関し,本願発明では,「レーザビーム溶接又は高周波パルス接合」で固定しているのに対し,引用発明ではそのような特定はなされていない点。 4.判断 上記各相違点について以下検討する。 ・相違点1について 周知例2に開示されるように,スピンドルモータの軸受装置において,軸部(回転軸13)を支持する軸受スリーブ(軸受メタル12a)をハウジング(軸受スリーブ2)で支持するよう構成することは,周知技術である。 したがって,引用発明において,上記周知技術を採用して,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得るものである。 ・相違点2について 周知例1(【0071】段落参照)や特開2001-271829号公報(【0018】段落参照)に開示されるように,スピンドルモータの軸受スリーブ(スリーブ12,軸受部材7)を焼結金属で形成することは周知技術である。 したがって,引用発明において,上記周知技術を採用して,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得るものである。 ・相違点3について スピンドルモータにおいて,軸受装置を構成する部品をレーザビーム溶接で固定することは,周知例2(【0031】段落,図3等を参照。シャーシ1と軸受スリーブ2とをレーザ溶接で固定する点。)や特開平6-339246号公報(【0023】段落,図1,図2等を参照。ハウジング17の平坦部19とラジアル軸受14(本願発明の軸受スリーブに相当)とをレーザ溶接で固定する点。)に開示されるように周知技術である。 そして,軸受装置を構成する部品の一つである軸受スリーブとその支持部材としてのハウジングとをレーザビーム溶接で固定することに格別の阻害要因が存在するとは認められないから,引用発明において,相違点1に係る構成を採用して軸受スリーブをハウジングで支持するよう構成するに際し,上記周知技術を採用して,軸受スリーブをハウジングにレーザビーム溶接で固定するよう構成して,相違点3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得るものである。 そして,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び上記各周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 よって,本願発明は,引用発明及び上記各周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-02-24 |
結審通知日 | 2009-02-25 |
審決日 | 2009-03-10 |
出願番号 | 特願2005-33441(P2005-33441) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安食 泰秀 |
特許庁審判長 |
大河原 裕 |
特許庁審判官 |
田中 秀夫 小川 恭司 |
発明の名称 | ディスク装置のスピンドルモータ |
代理人 | 田中 秀佳 |
代理人 | 城村 邦彦 |
代理人 | 白石 吉之 |