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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G |
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管理番号 | 1197596 |
審判番号 | 不服2007-28435 |
総通号数 | 115 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-10-18 |
確定日 | 2009-05-14 |
事件の表示 | 特願2001-312123「トナーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年4月25日出願公開、特開2003-122048〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成13年10月10日の出願であって、平成19年1月10日付けで手続補正がなされ、平成19年9月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 本願の請求項1?請求項4に係る発明は、平成19年1月10日付け手続補正書により補正された本願明細書の、特許請求の範囲の請求項1?請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そして、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は以下のとおりである。 「少なくとも結着樹脂と、着色剤と、下記一般式(1)で示される芳香族化合物と下記一般式(2)で示されるアゾ染料のうちの少なくとも一方を含有するトナー粒子を、難水溶性無機分散剤を分散させた水系媒体中での重合法により形成する工程と、水系媒体中で該難水溶性無機分散剤を溶解除去して含水率が20?50重量%のトナー粒子を取り出す工程と、含水率を上記範囲に保持したトナー粒子を、水溶性界面活性剤を含有しない新たな水系媒体に投入して該トナー粒子表面に付着した微粒子を該水系媒体中に分散させて除去する工程と、を少なくとも有することを特徴とするトナーの製造方法。 一般式(1) F-Y-A_(1)-X-D 一般式(2) F-Y-A_(2)-N=N-A_(3)-X-D (上記式中、A_(1)は、 【化1】 を示し、 Jは水素原子、又は、炭素数1?18のアルキル基、炭素数2?18のアルケニル基、アラルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、及び水酸基からなる群より選ばれる1つ、又は2つ以上の置換基を示し、 R_(1)は水素原子、炭素数1?18のアルキル基またはアルケニル基を示し、 A_(2)、A_(3)はそれぞれ独立に、アリール基を示し、 X及びYはそれぞれ独立に、-O-、-CO-、-NH-、-NR_(2)-を示し、 R_(2)は炭素数1?4のアルキル基を示し、 D及びFはそれぞれ独立に、-H、-OH、-Na、-K、-ONa、-OKを示す。)」 2.引用例 (1)刊行物1 原査定における拒絶の理由に引用文献2として引用された、特開平11-184153号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与。) (1a) 重合工程(【0009】) 「 1.重合工程 本発明の静電荷像現像用トナーは、水系分散媒体中で、少なくとも重合性単量体及び着色剤を含有する重合性単量体組成物を重合することにより製造することができる。重合方法としては、懸濁重合、乳化重合、ソープフリー乳化重合などが挙げられるが、通常は、分散剤を含有する水系分散媒体中で、重合性単量体組成物を懸濁重合することにより、重合トナーとして静電荷像現像用トナーを製造する。そこで、以下に、懸濁重合法による重合トナーの製造方法について説明する。」 (1b) 帯電制御剤(【0020】) 「 (帯電制御剤) 本発明では、重合性単量体組成物中に帯電制御剤を含有させることができる。帯電制御剤としては、各種の正帯電性または負帯電性の帯電制御剤を用いることができる。具体的には、例えば、カルボキシル基または含窒素基を有する有機化合物の金属錯体、含金属染料、ニグロシン等が挙げられる。より具体的には、スピロンブラックTRH(保土ケ谷化学社製)、T-77(保土ケ谷化学社製)、ボントロンS-34(オリエント化学社製)、ボントロンE-84(オリエント化学社製)、ボントロンN-01(オリエント化学社製)、コピーブルー-PR(ヘキスト社製)等の帯電制御剤を挙げることができる。帯電制御剤は、重合性単量体100重量部に対して、通常、0.01?10重量部、好ましくは0.03?5重量部の割合で用いる。」 (1c) 分散剤(【0025】) 「 (分散剤) 水系分散媒体には、分散剤(分散安定剤)を含有させることが、重合性単量体組成物の液滴及び生成重合体粒子の安定性を維持する上で好ましい。分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子化合物質;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の難水溶性金属塩;が挙げられる。これらの中でも、難水溶性金属塩が分散安定性、反応後の洗浄性の観点から好ましい。難水溶性金属塩の中でも、難水溶性金属水酸化物のコロイドが特に好ましい。」 (1d) 回収工程(【0026】) 「 2.回収工程 重合反応終了後、常法に従って、酸洗浄、濾過、水洗浄などの分離・精製処理を行って、重合反応系から生成した着色重合体粒子を回収する。回収した着色重合体粒子は、通常、含水率が10?50重量%程度の湿潤状態にある。ただし、本発明では、処理すべき着色重合体粒子の含水率は特に限定されない。含水率が数%であっても、重合トナーとして不適当な量比で水分を含むものであれば、本発明の乾燥法により処理することができる。」 (1e) 実施例1(【0035】?【0036】) 「【0035】 [実施例1] ○1<当審注:○1は○囲み数字1を表す。以下同様>スチレン 83部 ○2ブチルアクリレート 17部 ○3カーボンブラック(モナーク120、キャボット社製) 7部 ○4帯電制御剤(スピロンブラックTRH、保土ケ谷化学社製) 1部 ○5オフセット防止剤(ビスコール550P、三洋化成社製) 3部 ○6ジビニルベンゼン 0.3部 上記成分を、通常の攪拌装置で攪拌、混合し、メディア型分散機であるダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製)により、均一分散して重合性単量体組成物を調製した。 【0036】次に、イオン交換水250部に塩化マグネシウム9部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム5.5部を溶解した水溶液を攪拌下で徐々に添加して水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性無機塩コロイド)分散液を調製した。次いで、上記水酸化マグネシウムコロイド分散液に上記重合性単量体組成物を投入し、通常の攪拌機で数分間攪拌後、重合開始剤のt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを4部添加し、該重合性単量体組成物に溶解させた後、連続乳化分散機であるエバラマイルダー(荏原製作所社製)を用いて造粒した。この造粒した重合性単量体組成物水分散液を、攪拌翼を装着した反応器に入れ、85℃で10時間攪拌して重合反応を行い、生成着色重合体粒子(重合トナー)を含む水分散液を得た。次に、上記により得た水分散液を攪拌しながら、硫酸により系のpHを6以下として酸洗浄(25℃、10分間)を行い、濾過により水を分離した後、新たにイオン交換水500部を加えリスラリー化して、水洗浄を行った。その後、再度濾過、脱水、水洗浄を数回繰り返し行った後、固形分を濾過分離して、含水率が25.3%の湿潤トナーを得た。」 上記(1e)の【0036】の記載事項から、刊行物1に記載のトナーは、イオン交換水を用いて調整された水酸化マグネシウムコロイド分散液を酸洗浄した後に、固形分を濾過装置により濾過した後に、新たにイオン交換水を加えリスラリー化して水洗浄を行い、濾過装置により固形分を再度濾過することにより含水率が所定のものである湿潤トナーを得るものであることがわかる。 上記摘記事項を総合して勘案すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載発明」という。)が実質的に記載されている。 「少なくとも重合性単量体と、着色剤と、含窒素基を有する有機化合物の金属錯体または含金属染料からなる帯電制御剤を含有する重合性単量体組成物を、イオン交換水を用いて調整した難水溶性無機塩コロイドを分散剤として含む水系分散媒体中で重合して形成する工程と、 着色重合体粒子を含む水分散液を攪拌しながら、酸洗浄を行い、濾過装置により固形分を濾過分離する、酸洗浄水分離工程と、 濾過分離した着色重合体粒子に新たなイオン交換水を加え、リスラリー化して水洗浄を行う工程と、前記濾過装置により固形分を再度濾過分離し、含水率が10?50重量%程度の湿潤状態にある着色重合体粒子を得る、再洗浄工程と、を少なくとも有する静電荷像現像用トナーの製造方法。」 (2)刊行物2 原査定における拒絶の理由に引用文献1として引用された、特開2000-275903号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与。) (2a) 従来技術(【0005】) 「一方、これら粉砕法によるトナーの問題点を克服するために、特公昭36-10231号公報、特公昭43-10799号公報及び特公昭51-14895号公報等で提案されている懸濁重合法トナーを始めとして、各種重合法トナーやその製造方法が記載されている。例えば、懸濁重合法トナーでは、重合性単量体、着色剤及び重合開始剤、更に必要に応じて添加される、架橋剤、荷電制御剤、その他の添加剤等の形成材料を均一に溶解又は分散せしめて重合性単量体組成物とした後、該単量体組成物を分散安定剤を含有する造粒相、例えば、水相中に適当な撹拌機を用いて分散させて同時に重合反応を行わせた後、分散安定剤として使用した難水溶性金属化合物を除去するために酸を加えて洗浄後、更に水洗した後、乾燥して所望の粒径を有するトナー粒子を得ている。」 (2b) 湿潤状態のトナー粒子を分離(【0007】、【0008】) 「上記したようにして懸濁重合法によって得られる着色重合体粒子は、その製法の特徴から、水系媒体中でトナー粒子を生成するため、トナー粒子を含む懸濁液中から湿潤状態のトナー粒子を分離する必要がある。通常、分離する際には、分散安定剤として使用した難水溶性金属化合物を除去するために酸を加えて洗浄し(酸洗)、次いで、水洗を行った後、濾過、デカンテーション、遠心分離等の適当な方法で、湿潤状態の着色重合体粒子を回収している。更に、分離された湿潤状態の着色重合体粒子を乾燥することによってトナー材料を得ている。 【0008】このようにして得られた着色重合体粒子をトナーとして用いた場合、常温常湿環境下では良好な画像特性が得られるが、高温高湿環境下では、画像濃度が低くなったり、カブリやムラが生じる等、必ずしも安定した画像特性が得られないという問題があった。この問題点は、洗浄を充分に行ない、着色重合体粒子中に含まれる分散安定剤として使用した難水溶性金属化合物を除去すること、詳しくは、得られる重合トナー中に含まれる難水溶性金属化合物の量が数百ppm以下となるまで完全に除去することで達成される。」 (2c) 実施例1(【0052】?【0054】) 「【0052】 【実施例】以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。 <実施例1>イオン交換水710重量部に、0.1モル/リットルのNa_(3)PO_(4)水溶液450重量部を投入し、60℃に加温した後、クリアミキサー(エム・テクニック社製)を用いて、3,500回転/分にて撹拌した。これに、1.0モル/リットルのCaCl_(2)水溶液68重量部を添加し、Ca_(3)(PO_(4))_(2)を含む水系媒体を得た。一方、分散質系は、下記のようにして調製した。 ・スチレン単量体 170重量部 ・n-ブチルアクリレート 30重量部 ・C.I.ピグメントレッド122 10重量部 ・飽和ポリエステル 20重量部 ・サリチル酸金属化合物 3重量部 ・下記の化合物(1)(DSCにおけるピーク温度59.4℃、ビッカース硬度1.5) 25重量部 【化1】<転記省略> 【0053】上記処方のうち、C.I.ピグメントレッド122、サリチル酸金属化合物とスチレン単量体100重量部をアトライター(三井三池化工機製)を用いて3時間分散し、着色剤分散液を得た。次に、着色剤分散液に上記処方の残りすべてを添加し、60℃に加温し30分間溶解混合した。これに、重合開始剤である2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)10重量部を溶解し、重合性単量体組成物を調製した。得られた重合性単量体組成物を、前記水系分散媒中に投入し、回転数を維持しつつ15分間造粒した。その後、高速撹拌機からプロペラ撹拌羽根に撹拌機を変え、内温を80℃に昇温させて、50回転/分の条件下で重合を10時間継続させた。 【0054】上記のようにして行なった重合終了後、得られたスラリーを冷却し、希塩酸を添加してCa_(3)(PO_(4))_(2)を溶解させた後、真空濾過装置(イーグルフィルター、濾過面積0.1m^(2))を用い、下記の条件で、濾過、水洗を行った。スラリー供給量と洗浄水量との比を1:2とし、連続的に供給した。又、運転真空圧力は24kPaで行なった。この結果、含水率33%の湿潤着色重合体粒子を得た。ここで、得られた湿潤着色重合体粒子中に含まれる難水溶性金属化合物の含有量を測定したところ、250ppmであった。湿潤着色重合体粒子中の難水溶性金属化合物量は、蛍光X線分析装置SYSTEM3080(理学電機工業(株)製)を使用し、JIS K0119「けい光X線分析通則」に従って、蛍光X線分析を行うことにより測定した。」 上記摘記事項を総合すると、刊行物2には、以下の技術的事項が実質的に記載されている。 「分散安定剤として難水溶性金属化合物を分散させた水系媒体中での重合法によりトナー粒子を形成する工程と、水系媒体中で該難水溶性無機金属化合物を溶解除去した後に洗浄する工程と、湿潤状態のトナー粒子を取り出した後に乾燥させる工程を経ることにより製造したトナー粒子を用いて安定した画像特性を得るためには、洗浄工程において洗浄を十分に行うことにより、トナー粒子中に含まれる難水溶性金属化合物の量が数百ppm以下となるようにする必要があること」 3.本願発明1(前者)と刊行物1記載発明(後者)の対比 前者の「一般式(1)で示される芳香族化合物」及び「一般式(2)で示されるアゾ染料」は、「荷電制御剤」であり(本願明細書の段落【0046】参照)、後者の「帯電制御剤」に相当するものである。そして、後者の「着色重合体粒子」は、「結着樹脂」と、「着色剤」と、「帯電制御剤」とを含有する「トナー粒子」に該当するものである。 そして、前者の「重合法により形成する工程」と後者の「重合工程」とは、「少なくとも結着樹脂と、着色剤と、荷電制御剤とを含有するトナー粒子を、難水溶性無機分散剤を分散させた水系媒体中での重合法により形成する工程」である点で、共通する。 ここで、トナー粒子の再洗浄工程に関して、本願明細書に、以下の記載がある。 「【0069】 (実施例1)トナー粒子分散液Aに塩酸を加え、リン酸カルシウムを溶解させて濾過してリン酸カルシウムを除去し、含水率26重量%のトナー粒子を得た。 【0070】このトナー粒子を10倍量のイオン交換水に投入し、攪拌機で3時間撹拌して十分に分散させた後に40時間静置した。・・・。」 上記の記載事項によると、後者における「固形分を濾過装置により濾過する工程」は前者における「トナー粒子を取り出す工程」に相当し、前者における、「トナー粒子を、水溶性界面活性剤を含有しない新たな水系媒体に投入」することは、トナー粒子を新たなイオン交換水によりリスラリー化することであることは明らかであるから、後者の「濾過分離した着色重合体粒子に新たなイオン交換水を加え、リスラリー化する工程」は、前者の「含水率を上記範囲に保持したトナー粒子を、水溶性界面活性剤を含有しない新たな水系媒体に投入」することに相当する。 また、両者はともに、トナー粒子が湿潤状態で再洗浄工程に移行する点で共通する。 そうすると、両者は、 「少なくとも結着樹脂と、着色剤と、荷電制御剤を含有するトナー粒子を、難水溶性無機分散剤を分散させた水系媒体中での重合法により形成する工程と、 水系媒体中で該難水溶性無機分散剤を溶解除去して、湿潤状態のトナー粒子を取り出す工程と、 湿潤状態のトナー粒子を、水溶性界面活性剤を含有しない新たな水系媒体に投入する、再洗浄工程と、 を有する、トナーの製造方法。」 で一致し、以下の点で相違する。 (1)相違点1 荷電制御剤について、 前者は、「一般式(1)で示される芳香族化合物」と「一般式(2)で示されるアゾ染料」のうちの少なくとも一方を含有するのに対して、後者は、「含窒素基を有する有機化合物の金属錯体または含金属染料からなる」ものである点。 (2)相違点2 トナー粒子の湿潤状態について、前者は、「水系媒体中で該難水溶性無機分散剤を溶解除去した含水率が20?50重量%のトナー粒子」としているのに対して、後者は、「着色重合体粒子を含む水分散液を攪拌しながら、酸洗浄を行い、濾過装置により固形分を濾過分離する、酸洗浄水分離工程と、濾過分離した着色重合体粒子に新たなイオン交換水を加え、リスラリー化して水洗浄を行い、前記濾過装置により固形分を再度濾過分離して、含水率が10?50重量%程度の湿潤状態にある着色重合体粒子を得る」ものであるが、酸洗浄水分離工程後のトナーの含水率について記載されていない点。 (3)相違点3 再洗浄工程について、 前者は、「トナー粒子表面に付着した微粒子を水系媒体中に分散させて除去する」としているのに対して、後者における再洗浄工程において、「トナー粒子表面に付着した微粒子を水系媒体中に分散させて除去する」ことが記載されていない点。 4.判断 そこで、これらの相違点について検討する。 (1)相違点1について、 本願明細書の段落【0006】において従来例として示されている特開平4-170557号公報の第6頁右下欄から第7頁右下欄にかけて、周知の「一般式(2)で示されるアゾ染料」が種々記載されており、これらの多くは、本願明細書の段落【0036】に、「本発明において用いられる上記一般式(2)で示されるアゾ染料として、好ましくはヒドロキシ基を2個以上有するモノアゾ染料であり、具体的には下記一般式(3)または(4)で示される化合部」とされているものであって、さらに、本願明細書の段落【0066】に、実施例として唯一使用されている荷電制御剤がモノアゾ染料の鉄錯体であることが記載されていることからみても、本願発明1で規定している「一般式(2)で示されるアゾ染料」は、普通に用いられているモノアゾ染料の金属錯体からなる帯電制御剤を含む広範ものであることは明らかである。 一方、刊行物1記載発明における「含窒素基を有する有機化合物の金属錯体からなる」荷電制御剤として、具体的に使用されるものに、「スピロンブラックTRH(保土ケ谷化学社製)、T-77(保土ケ谷化学社製)、ボントロンS-34(オリエント化学社製)」が含まれることが、前記「2.(1b)」に記載されている。 そして、本願明細書の段落【0006】において従来例として示されている特開平4-347863号公報に、「【0015】含金属アゾ染料としては、通常、負帯電性付与剤として使用されているオリエント化学工業(株)製のボントロンS-32,S-34,S-37保土ヶ谷化学(株)製のスピロンブラックTRHあるいはICI(株)製のプロトナーCCA7等、また、置換基を有してもよい芳香族オキソカルボン酸化合物としてはオリエント化学工業(株)製のボントロンE-81、E-84、E-88等のカルボン酸塩又は錯体等が挙げられるがこれに限定されるものではない。」と記載されているし、また、「保土谷化学工業(株)製のT-77が、本願明細書の段落【0066】において、実施例において唯一使用されるものと同様、モノアゾ染料の鉄錯体であることも周知である。 そうすると、本願発明1における「一般式(2)で示されるアゾ染料」からなる帯電制御剤は、刊行物1記載発明における帯電制御剤である「含窒素基を有する有機化合物の金属錯体からなる」荷電制御剤として具体的に使用されるものを含むものであることは明らかである。 してみると、相違点1は実質的な相違点ではない。 (2)相違点2について、 刊行物1記載発明における濾過装置は、酸洗浄水分離工程、および、濾過分離したトナー粒子(着色重合体粒子)に新たなイオン交換水を加え、リスラリー化して水洗浄を行った後の固形分の再度濾過分離時に使用されるものである。 そして、前記「2.(2)」の末尾で指摘したように、刊行物2には、 「分散安定剤として難水溶性金属化合物を分散させた水系媒体中での重合法によりトナー粒子を形成する工程と、水系媒体中で該難水溶性無機金属化合物を溶解除去した後に洗浄する工程と、湿潤したトナー粒子を取り出した後に乾燥させる工程を経ることにより製造したトナー粒子を用いて安定した画像特性を得るためには、洗浄工程において洗浄を十分に行うことにより、トナー粒子中に含まれる難水溶性金属化合物の量が数百ppm以下となるようにする必要があること」が実質的に記載されている。 刊行物1記載発明における濾過装置による酸洗浄水分離時において、トナー粒子(着色重合体粒子)の含水率が多すぎるとトナー粒子中に含まれる軟水溶性分散剤の量が多くなり望ましくないことは、刊行物2に記載の上記技術的事項からみて明らかであるから、刊行物1記載発明において、酸洗浄水分離工程後のトナー粒子(着色重合体粒子)の含水率が、固形分の再度濾過分離時と同様の10?50重量%程度の湿潤状態にあるものとすることは当業者が必要に応じて行うべき設計的事項であると考えられる。 してみると、刊行物1記載発明において、酸洗浄水分離工程後のトナー粒子(着色重合体粒子)の含水率を20?50%とすることにより、相違点2に係る構成を有するものとすることは、当業者が適宜行う事項である。 (3)相違点3について、 刊行物2には、「トナー粒子表面に付着した微粒子」について言及されていない。 しかしながら、本願明細書の記載によれば、「トナー粒子表面に付着した微粒子」は、芳香族化合物やアゾ染料を含有するトナー粒子を、上記水系媒体中での重合法によって製造する場合に、この微粒子が生成し(【0010】)、微粒子が付着したトナー粒子を、新たな水系媒体に投入すると、自己分散性を有する微粒子のみトナー粒子表面から離れて水系媒体中に分散し、かかる工程により、微粒子をトナー粒子から容易に除去することができるものである(【0017】)し、実施例において使用されている荷電制御剤は、刊行物1に記載されているのと同様に、モノアゾ染料の金属錯体である。 そして刊行物1に記載の実施例1においても、アゾ染料を含有するトナー粒子を、水系媒体中での重合法によって製造していることから、「トナー粒子表面に付着した微粒子」が生成しているというべきである。 そして、刊行物1の実施例1の再洗浄工程において、この微粒子が付着したトナー粒子を、新たなイオン交換水を加えることによりリスラリー化していることからみて、微粒子がトナー粒子から除去されているというべきである。 また、再洗浄を行うことは、トナー粒子中に含まれる微粒子の数を減少させることを目的としていることは、刊行物2に記載されている技術的事項でもある。 そうすると、刊行物1に「トナー粒子表面に付着した微粒子を除去する」ことは、明記こそされてはいないが、刊行物1の実施例1の再洗浄工程において、「トナー粒子表面に付着した微粒子」が除去されることは明らかであって、刊行物1に記載の実施例1の再洗浄工程と本願発明1の再洗浄工程とは、実質的にこの点において相違していないので、刊行物1記載発明も、事実上、相違点3に係る構成を具備しているということができる。 してみると、上記相違点3は実質的な相違点ではない。 (4)まとめ 上述のとおり、相違点1及び相違点3は、いずれも実質的な相違点ではなく、また、刊行物1記載発明において、相違点2に係る構成を有するものとすることは、当業者が適宜行うことである。 そして、本願発明1の効果が、刊行物1記載発明の効果と比較して、格別のものということもできない。 5.むすび 以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術的事項、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-03-10 |
結審通知日 | 2009-03-17 |
審決日 | 2009-03-30 |
出願番号 | 特願2001-312123(P2001-312123) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G03G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 淺野 美奈 |
特許庁審判長 |
山下 喜代治 |
特許庁審判官 |
伊藤 裕美 伏見 隆夫 |
発明の名称 | トナーの製造方法 |
代理人 | 渡辺 敬介 |
代理人 | 山口 芳広 |