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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1198044
審判番号 不服2007-33632  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-13 
確定日 2009-05-28 
事件の表示 平成9年特許願第241813号「感熱可逆記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成11年3月2日出願公開、特開平11-58987〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年8月22日の特許出願であって、拒絶理由に応答して平成19年9月19日付で手続補正されたが、平成19年11月12日付で拒絶査定され、これを不服として平成19年12月13日付で審判請求されたものである。

2.本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明は、平成19年9月19日付で手続補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「基材と、該基材の少なくとも一方の面に設けた感熱可逆記録膜と、該感熱可逆記録膜上の少なくともサーマルヘッドにより記録が繰り返し行われる領域に形成された透明または半透明の絵柄層とを備え、
該絵柄層の表面粗さ(Ra)は0.2?1.5μmの範囲であり、
前記絵柄層は全ベタ絵柄と網点部を有し、
該網点部における網点の面積占有率が10?90%の範囲内であり、
前記表面粗さ(Ra)は前記絵柄層のうち前記全ベタ絵柄を表面粗さ測定装置(東洋精密(株)製サーフコム550)を用いて測定したものであることを特徴とする感熱可逆記録媒体。」(以下、「本願発明」という。)

3.引用例
3-1.引用例1
・本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-169184号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の〈ア〉?〈ケ〉の記載がある。

〈ア〉「【請求項1】
基材上に、樹脂バインダー中の有機酸を熱により白濁或いは透明化することで画像を表示する可逆記録表示部を設けたラベルを、金型内のカード面の一方の面側に該表示部をカード面の外側に向けてインサートし、他方の面側に基材上に印刷柄層を有するラベルをインサートし、両ラベル基材間に溶融樹脂を射出して一体成形するカードにおいて、前記いずれか一方のラベル基材裏面側に、ICモジュールを装着したことを特徴とする可逆記録表示部を有するICカード。
【請求項2】
前記可逆記録表示部を有するラベルが、少なくとも基材片面上に光反射層、可逆記録層、印刷柄層、保護層を順次積層してなることを特徴とする請求項1に記載の可逆記録表示部を有するICカード。」
〈イ〉「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、白濁透明による可逆記録表示部を有するICカード及びその製造方法に関するものである。」
〈ウ〉「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような問題点に着目してなされたもので、単一の射出工程により可逆表示部を有するICカードを得ると同時に、可逆記録可能な表示部を含む絵柄層を、熱ストレスによる白濁透明化特性の劣化を損なうことなく、射出成形によりICカード上に強固に設けた可逆表示部を有するICカード及びその製造方法を提供することにある。
〈エ〉「【0013】
【作用】本発明によれば、金型内の一方の面にインサートするラベルには、絵柄、文字等の印刷柄層と可逆記録可能な表示部を併せ持ち、一回の射出成形工程により可逆記録表示部を有するカードとすることができる。また、可逆記録表示部はラミネート方式で設けられたものと異なり、ラベル基材及び金型は、溶融された成形樹脂からの温度上昇を防ぐ機能があり、従って熱ストレスが加わらないため白濁透明の特性を損なうこと無く強固にカード上に設けることができることにより、可逆表示機能を有するカードを提供することが可能となる。・・・」
〈オ〉「【0015】
図2は、本発明のラベル10を更に詳細に示した断面図であり、本発明の基本的構成である。ラベル基材11の表面に可逆記録部12、印刷柄層13、必要に応じて印刷保護層14を設ける。
この可逆記録部12はラベル基材11側から光反射層12-1、必要に応じて接着層12-2、可逆記録層12-3、必要に応じて保護層12-4を設けている。また、ラベル基材11の裏面にはICモジュール接着層15、ICモジュール16を設けラベル10が構成されている。」
〈カ〉「【0021】
可逆記録層12-3は、樹脂母材のマトリックス中に分散された有機低分子物質の結晶状態の変化によって白濁・透明が可逆的に変化するもので、印刷法、コーティング法等により、膜厚4?15μm程度に設けることができる。・・・」
〈キ〉「【0022】保護層12-4は、印刷柄層13、若しくは印刷保護層14が可逆記録層12-3を含む下層を保護する役割を果たす場合、保護層12-4は特に必要としない構成層である。通常は保護層12-4を設け、印刷保護層14を設けなくとも傷等に強い印刷柄層13を設けるのが一般的である。保護層12-4は印刷法、コーティング法等により、膜厚0.5?5μm程度に設けることができる。・・・」
〈ク〉「【0023】
絵柄・文字等の印刷柄層13及び印刷柄層22は、絵柄、文字等の印刷が施されるが、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等公知の印刷方法により設けることができる。・・・」
〈ケ〉「【0029】
【実施例】<実施例1>厚み50μの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムより成るラベル基材11上に真空蒸着法によって膜厚0.05μmのAl層を形成し光反射層12-1を設けた。
この上層に可逆記録塗料をグラビア法を用いて乾燥温度120℃、塗布厚6μm塗布して可逆記録層12-3を設け、この上に保護層塗料をグラビア法を用い乾燥温度110℃、塗布厚2μm塗布して保護層12-4を形成し可逆記録部12を得た。また、オフセット印刷法により絵柄・文字等の印刷柄層13を膜厚1μで設けて、ラベル基材裏面側には、接着剤15を介してICモジュール16を設け表面ラベル10を得た。・・・
【0030】・・・表面ラベルは可逆記録可能な表示部を持ちサーマルヘッドを用いて、印可エネルギー0.45mj/dotで記録でき、更に90℃に加熱した熱板を1kg/cm2,1秒間接触させることで記録データは消去できた。・・・」

・以上のことから、上記〈ア〉?〈ケ〉の記載等を含む引用例1には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「50μ厚のPETフィルムのラベル基材11表面に、順次、
真空蒸着法による膜厚0.05μmのアルミニウム光反射層12-1、
グラビア法による塗布厚6μmの熱により白濁或いは透明化することで画像を表示する可逆記録層12-3、
グラビア法による塗布厚2μmの保護層12-4、
オフセット印刷法による膜厚1μmの絵柄・文字等の印刷柄層13を
積層して構成された可逆記録可能な表示部をもつラベルは、
サーマルヘッドを用いて繰り返し記録・消去でき、
また、可逆記録層12-3の上に積層される、保護層12-4と印刷柄層13とが、可逆記録層12-3を保護するラベル。」

3-2.引用例2
・本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-85052号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の〈サ〉?〈ソ〉の記載がある。

〈サ〉「【請求項2】
基板上に、結晶性有機分子と透明マトリクスポリマとを含む記録層を構成し、前記記録層上に最表層に向けて硬度が高くなるように2層以上積層した表面保護層を構成し、少なくとも前記最表層中に1次粒子の平均粒径が100nm以下の酸化物超微粒子を含有し、接触式の熱エネルギーを与える手段を用いて記録することを特徴とする可逆感熱記録媒体。」
〈シ〉「【0004】
この可逆感熱記録材料においては、記録層に直接に記録・消去を行なう感熱ヘッドが接触すると、そのときに生じる熱的変形、マトリクスポリマのヘッドへの融着、機械的損傷などのため耐久性が損なわれる問題があるので、その上にハードコートの表面保護層を形成して使用される。
【0005】また、表面保護層はゴミやホコリに対しての記録層の保護も兼ねているが、そのゴミやホコリが感熱ヘッドに付着することによって、記録画像にムラが生じてしまうという課題がある。これを解決することを目的として、保護層に微粒子を混合してその表面に0.5?3μmの表面粗さの微細凹凸形状を形成することによって、記録媒体の動きにつれてゴミやホコリが移動してヘッドに付着しないという効果を得る方法が特開平2-258287に開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、例え表面保護層を設けたとしても、感熱ヘッドの圧力による機械的損傷、熱履歴や熱ストレスによる変形や融着などを受けるといった、この記録の原理上避けられない大きな問題点があった。」
〈ス〉「【0008】
このため、書換えによる繰り返し回数を向上させるなど耐久性を向上させるには表面保護層においてもさらなる改善が大きな課題であった。
【0009】そこで、本発明は新規な構成を用い、平坦性をある程度維持し、表面保護層に感熱ヘッドに対する滑性を付与することによって、耐久性に優れる新規な可逆感熱媒体を提供することを目的としている。」
〈セ〉「【0015】
また、通常は表面保護層4は単層構成で効果が発揮されるが、記録層3の表面保護性をより高め、より優れた耐久性を実現するためには、表面保護層4を2層以上積層することが好ましい。但し、この場合表面保護層4は最表層に向けてより硬度を高める構成が望ましく、少なくとも最表層には1次粒子の平均粒径100nm以下の酸化物超微粒子5を含有すればよい。
表面保護層4を多層構造とする場合には、樹脂の種類、混合比などを調整することによって、最表層に向かって硬度を増す構成にできる。
【0016】本発明の表面保護層4の酸化物超微粒子5としては、1次粒子の平均粒径が100nm以下のものを用いることができるが、特に20nm以下の超微粒子が優れた性能を提供できた。これらは非常に小さい粒子として表面保護層4中に分散されるため、最表面に100nm以下の凹凸を形成することができる。この凹凸では光の散乱が非常に少ないため、表面保護層4の透明性を維持し、感熱ヘッド6と表面保護層4との接触面積を低減することができ、ギャップを構成する酸化物超微粒子5は感熱ヘッド6からの熱の伝導を良好に維持でき、機械的、熱的な損傷を防ぐことができる。その上にこのわずかな凹凸によって、表面保護層4と感熱ヘッド6との接触面積を低減し、感熱ヘッド6の滑性を与え、さらに機械的損傷の低減を実現できる。」
〈ソ〉「【0030】
(実施例2)記録材料として、炭素数21で1つの不飽和基を有するエルカ酸アミド2gと塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体4gとを、テトラヒドロフラン15gに溶解し、図1に示すアルミ蒸着光反射層2を形成した0.2mmのポリエチレンテレフタレートシートの基板1上に、記録層3として15μmの厚さで形成した。その記録層3の上にさらに耐摩耗性の表面保護層4を形成した。
【0031】表面保護層4の第1層としてエネルギー線照射硬化性樹脂のウレタンアクリレート7gとオリゴエステルアクリレート3g、光重合開始剤0.5gを混合してプレポリマとして3μmの厚さでコーティング後、紫外線照射して硬化させた。次に、表面保護層4の第2層としてエネルギー線照射硬化性樹脂ウレタンアクリレート5gとオリゴエステルアクリレート5g、光重合開始剤0.5gを混合して、さらに酸化物超微粒子5として、パーフルオロオクチルトリクロルシランで表面処理した1次粒子の平均粒径約12nmのシリカ0.7gを充分に混合し、プレポリマとして3μmの厚さでコーティング後、紫外線照射して硬化させた。こうして形成した2層構造保護層の表面は平均50nmの粗さであり、透明なハードコート層ができた。
【0032】この可逆感熱記録媒体の透明化温度領域は約68?81℃で、その幅は13℃であった。この条件から感熱ヘッドによってエネルギーを与え90℃で書き込み75℃で消去したところ、表面の汚れにともなう感熱ヘッドの汚れなどによる画像ムラがなく鮮明な表示を行なうことができた。さらに耐久性を評価するために繰り返し寿命特性を測定したところ1800回以上の繰り返しに耐えた。表面保護層4の最外層に酸化物超微粒子5を加えなかったときの2倍以上の高寿命が得られた。」

・以上のことから、上記〈サ〉?〈ソ〉の記載等を含む引用例2には、次の発明が記載されていると認めることができる。

「PETフィルム基材11の表面に、順次、
真空蒸着法によるアルミニウムの光反射層2、
可逆感熱記録層3、
第1表面保護層4の1、
平均粒径が100nm(=0.1μm)以下のシリカ微粒子を含有して従来の0.5?3μmよりも微細な表面粗さの第2表面保護層4の2
が積層されており、
感熱ヘッドを用いて書き込み・消去でき、繰り返し記録の耐久性や鮮明な表示能の優れた記録媒体。」

4.対比
・本願発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「PETフィルムのラベル基材11」、「可逆記録層12-3」、「保護層12-4」、「絵柄・文字等の印刷柄層13」および「表面ラベル10」は、それぞれ、本願発明の「基材」、「感熱可逆記録膜」、「感熱可逆記録膜と絵柄層との間にある保護層」、「絵柄層」、「感熱可逆記録媒体」に相当する。(〈ア〉?〈ケ〉参照)
・また、引用例1発明の「絵柄・文字等の印刷柄層13」は、通常は傷等に強く、下層に有る「可逆記録層12-3」を保護する役割を果たすのであるから、「可逆記録層12-3」の上の「少なくともサーマルヘッドにより記録が繰り返し行われる領域に形成され」ているといえる。(〈ケ〉参照)
・そして、引用例1発明の「絵柄・文字等の印刷柄層13」は、下層に有る「可逆記録層12-3」の白濁・透明の可逆変化で画像を表示する機能を阻害しないのであるから、「透明または半透明」の態様もある。(〈ア〉、〈カ〉?〈キ〉参照)
・また、引用例1発明の「絵柄・文字等の印刷柄層13」は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等公知の印刷方法により絵柄、文字等の印刷が施されると説明されているから、それら印刷方法で常用される網点部や全ベタ絵柄の印刷があるのも当然である。
・してみれば、
本願発明と引用例1発明とは、
「基材と、該基材の少なくとも一方の面に設けた感熱可逆記録膜と、該感熱可逆記録膜上の少なくともサーマルヘッドにより記録が繰り返し行われる領域に形成された透明または半透明の絵柄層とを備え、該絵柄層は全ベタ絵柄と網点部を有している感熱可逆記録媒体。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

〈相違点1〉
本願発明が「絵柄層の網点部における網点の面積占有率が10?90%の範囲内である」と特定しているのに対し、引用例1発明ではそのような特定がなされていない点。

〈相違点2〉
本願発明が「絵柄層の表面粗さ(Ra)について、絵柄層のうち全ベタ絵柄を表面粗さ測定装置(東洋精密(株)製サーフコム550)を用いて測定すると、0.2?1.5μmの範囲である」と特定しているのに対し、引用例1発明ではそのような特定がなされていない点。

5.判断
5-1.相違点1についての検討
・「絵柄層の網点部における網点の面積占有率が10?90%の範囲内である」との特定に関して、本願明細書には、具体的な測定方法や手順が明確に示されていないし、数値限定の臨界的な意義も特段説明されておらず、単に「この範囲から外れると、サーマルヘッドのヘッドタッチが低下したり、絵柄層の意匠性が低下するので好ましくない。」というばかりである。(【0038】段落など)
・そして、拒絶理由通知(平成19年7月12日付)に於ける「ベタ塗り等の極端な場合を除いた数値範囲にすぎず、数値規定の技術的意味が不明」との指摘事項(D)に対して、審判請求人は、意見書(平成19年9月19日付)及び審判請求理由で、
『本願の図3に示される市松模様で、A領域が100%ベタで、例えば網点部であるB領域が95%網点であるとすると、A領域とB領域の色のコントラストがつかず、図3の市松模様が認識できなくなり、意匠性が低下します。』(平成19年9月19日付意見書の中の「(2-4)指摘項目(D)について」から抜粋)との意匠性低下と、サーマルヘッドのヘッドタッチ性低下の2点を繰り返し主張するのみである。
・絵柄層の意匠性は、絵柄パターンや繰り返しサイズに依存するところが大きいし、サーマルヘッドのヘッドタッチ性は、網点パターンや層厚や下層(保護層)との兼ね合いで大きく左右されるものであるにもかかわらず、それらの要素を何ら取り上げること無く、唐突に、「網点の面積占有率:10?90%」を規定してもその技術的な意義は認め難い。
・結局、「絵柄層の網点部における網点の面積占有率が10?90%の範囲内である」との特定は、絵柄の認識し易さなどに配慮して極端な面積占有率を排したものに過ぎず、当業者が、絵柄層の印刷形成にあたり、当然考慮して容易になし得るものと認めざるを得ない。

5-2.相違点2についての検討
・「絵柄層の表面粗さ(Ra):0.2?1.5μm」との特定に関して、特許請求の範囲でいう「表面粗さ測定装置(東洋精密(株)製サーフコム550)」なる装置の存在は確認できないが、近似する社名の「東京精密(株)」からは、表面粗さ測定装置「サーフコム」シリーズとして種々の型番の製品が上市されているようである。
そして、本願明細書には、具体的な測定方法や手順(カットオフ値などの測定パラメータをどの様に選択・設定したのか等)が明確に示されていないし、数値限定の臨界的な意義や裏付けも説明されていない。
・拒絶理由通知(平成19年7月12日付)に於ける「数値限定の臨界的な意義や裏付けが無いし、実施例・比較例の内容不明」との指摘事項(E)に対して、審判請求人は、意見書(平成19年9月19日付)及び審判請求理由で、下記のような「偶然性」や「装置測定限界」などという不明瞭な釈明を繰り返すのみである。
『(2-5)指摘項目(E)について
(イ)発明の詳細な説明には絵柄層は、全ベタ絵柄部分、網点分部等からなるものであるところ、この絵柄層のどの部分で表面粗さを測定したのか記載されていないと指摘されています。
これに対して、補正後の請求項1では、「前記表面粗さ(Ra)は前記絵柄層のうち前記全ベタ絵柄を表面粗さ測定装置(東洋精密(株)製サーフコム550)を用いて測定したものである」と明記されており、ご指摘の瑕疵は解消されたものと思料します。
(ロ)実施例において、絵柄のパターン、網点率を変えているにも関わらず、表面粗さが変化していないと指摘されています。
上記の項目(2-2)において参考図2、3に示しましたように、表面粗さと、絵柄のパターンおよび網点率とは独立したものであり、絵柄のパターンと網点率が変化すること
により表面粗さが必ず変化するというものではありません。表面粗さは、絵柄層の形成手段、形成材料、形成条件等により決まってきます。本願の実施例1と実施例2では、ご指摘にように、絵柄のパターン、網点率を変えています。そして、使用する材料も実施例1ではザ・インクテック(株)製UVカルトンM-OPニスであり、実施例2では大日精化工業(株)製セイカビームOPニスであり両者は異なりますが、ここでは偶然に表面粗さの測定結果が同じ値となっています。
(ハ)保護層の表面粗さが0μmとなっていることが記載されているが、出願時の技術常識を参酌しても、表面平滑度を0μmとすることは不可能ではないかと指摘されています。
本願では、表面粗さ測定装置(東洋精密(株)製サーフコム550)を用いて測定しています。本願の実施例において保護層の表面粗さが0μmとなっているのは、保護層の表面状態が、使用する表面粗さ測定装置の測定限界未満の平滑さを有しているためです。また、補正後の請求項1では、使用する表面粗さ測定装置を特定しています。したがって、本発明における表面粗さは明りょうなものであると思料します。
(二)絵柄層の表面粗さを0.2?1.5μmとした場合に、絵柄層にコントラストの高い画像ができること、又は、画像耐久性が向上することに関して、発明の詳細な説明に臨界的意義及び裏付けが示されていないと指摘されています。
しかし、本願の段落【0036】には、「感熱可逆記録膜3,13上の像を目視で認識することをより困難にするため、および、高い意匠性を付与するために、光透過性を有しつつ光を散乱しやすい形状が好ましい」として、絵柄層の表面粗さを0.2?1.5μmとすることが記載されており、表面粗さを0.2?1.5μmとすることの臨界的意義及び裏付けが示されているものと思料します。』(平成19年9月19日付意見書の中の「(2-5)指摘項目(E)について」から抜粋)
・審判請求人が意見書及び審判請求理由で主張している「絵柄層の表面粗さを0.2?1.5μmとした場合に、コントラストの高い画像ができる」との作用効果(上記した釈明の摘記事項(ニ)参照)は、下地・背景である保護層の表面粗さ(Ra):0μmと、絵柄層の表面粗さ(Ra):0.5μmとの相違からもたらされるものであるから(本願明細書の実施例1?実施例2参照)、絵柄層の表面粗さ(Ra)規定だけで奏される意義・作用効果とは認められない。
・本願出願前に頒布された引用例2には、可逆感熱記録層の上に、表面保護層を2層設け、外側の第2表面保護層は微細な表面粗さをもつものとすることで、繰り返し記録の耐久性を高める技術が示されているから、該技術を引用例1発明に適用して、外側の第2表面保護層に相当する絵柄層を微細な表面粗さをもつものとすることで、画像耐久性の向上をはかることは、当業者にとって容易に想到し得る。
そして、絵柄層の微細な表面粗さを「(Ra):0.2?1.5μm」とすることは、平均粒径が100nm(=0.1μm)以下のシリカ微粒子を配合して0.5?3μmよりも微細な表面粗さとする引用例2発明の技術をもとに、当業者が適宜設定し得る設計的事項に過ぎず、その数値規定に特段の意義や作用効果が認められないことは前述の検討のとおりである。
・このように、上記相違点1,相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、引用例1発明及び引用例2発明の記載事項に基づいて当業者が想到容易な事項であり、かかる発明特定事項を採用したことによる本願発明の効果も当業者が容易に予測し得る程度のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明及び引用例2発明の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-30 
結審通知日 2009-03-31 
審決日 2009-04-13 
出願番号 特願平9-241813
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 靖記  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
淺野 美奈
発明の名称 感熱可逆記録媒体  
代理人 皿田 秀夫  
代理人 米田 潤三  

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