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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1198048
審判番号 不服2008-8764  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-09 
確定日 2009-05-28 
事件の表示 特願2004-342002「有機エレクトロルミネッセンス素子」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月 3日出願公開、特開2005- 56864〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成8年11月29日に特許出願した特願平8-319567号の一部を平成16年11月26日に新たな特許出願としたものであって、平成20年1月21日付けで手続補正がなされ、同年3月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年4月9日に審判請求がなされたものである。
本願の特許請求の範囲の請求項1乃至6に係る発明は、平成20年1月21日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その請求項1乃至6に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「陽極と陰極との間に有機発光層を含む有機層が介在してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陰極が電子注入電極層と非晶質透明導電膜とからなり、かつ前記電子注入電極層が前記有機層と接しており、前記非晶質透明導電膜が、インジウム(In)、亜鉛(Zn)及び酸素(O)からなる酸化物を用いて形成され、Inの原子比〔In/(In+Zn)〕が0.45?0.85であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特開平8-185984号公報(以下、「引用例1」という。)、及び同じく特開平6-234522号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

a.引用例1;

有機エレクトロルミネセンス素子に関するもので、
記載事項ア.【特許請求の範囲】【請求項1】
「複数の層よりなる有機薄膜と、有機薄膜の両面に設ける第1と第2の電極層とを透明基板上に層状に設け、第1の電極層は透明導電層よりなり、第2の電極層は有機薄膜上に設ける低仕事関数の金属またはその金属の合金の超薄膜の電子注入金属層と、電子注入金属層上に設ける透明導電層とよりなることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。」

記載事項イ.【0016】
「本発明の目的は、上記の課題点を解決して、素子としては透明で、しかも発光効率のよい有機EL素子を提供ことである。」

記載事項ウ.【0028】、【0029】
「【0028】
【実施例】以下、本発明の実施例おける有機EL素子の構造を図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施例における有機EL素子を示す断面図である。
【0029】図1の断面図に示すように、透明基板1の上に第1の透明導電層2と、正孔輸送層3と、発光層4と、電子輸送層5と、電子注入金属層6と、第2の透明導電層7とを順次積層するように設ける。」

記載事項エ.【0035】
「さらに、第1の透明導電層2と第2の透明導電層6は100nm?200nmの膜厚のITOやSnO_(2)で構成する。」

記載事項オ.【0036】
「さらに、正孔輸送層3は膜厚50nm?100nmのトリフェニルアミン誘導体を用い、発光層4は膜厚50nm程度のジスチリルビフェニル誘導体を用い、電子輸送層5は50nm程度のアルミキレート錯体(Alq)を用いる。」

前記記載事項ア.ないし記載事項オ.及び図1の記載からして、引用例1には、
「複数の層よりなる有機薄膜と、有機薄膜の両面に設ける第1と第2の電極層とを透明基板1上に層状に設け、第1の電極層はITOやSnO_(2)で構成する第1の透明導電層2よりなり、第2の電極層は、有機薄膜上に設ける低仕事関数の金属またはその金属の合金の超薄膜の電子注入金属層6と、電子注入金属層6上に設けるITOやSnO_(2)で構成する第2の透明導電層7とよりなる有機エレクトロルミネセンス素子。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

b.引用例2;

導電性材料に関するもので、
記載事項カ.【0004】【0005】
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ITO、ATOは粉末の状態では耐湿性が比較的低く、湿気により電気抵抗値が増大するという難点を有している。またITO、ATO粉末は還元状態では黒化するため、樹脂に添加すると樹脂製品の自由な着色が困難になるという欠点を有している。またITO、ATO焼結体からなるターゲットも還元により黒化し易いため、その特性の経時変化が問題となっている。
【0005】本発明の目的は、ITO、ATOよりも耐湿性に優れ、黒化しにくいとともに、ITO、ATOと同等の導電性を有する導電性材料およびその製造方法を提供することにある。」

記載事項キ.【0006】
「【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明の導電性材料は、InとZnを主成分とし、Inの原子比In/(In+Zn)が0.1?0.9である実質的に非晶質の酸化物からなることを特徴とする導電性材料(以下、この導電性材料を導電性材料Iという)である。」

記載事項ク.同じく【0012】
「本発明の導電性材料Iにおいて、InとZnの原子比(In/(In+Zn))は0.1?0.9であるのが好ましい。その理由は、0.1未満では導電性材料の導電性が低くなり、0.9を超えると導電性材料の耐湿、耐熱性が低下するからである。原子比(In/(In+Zn))は0.5?0.9がより好ましく、0.6?0.75が特に好ましい。」

記載事項ケ.同じく【0014】
「本発明の導電性材料Iは、ITO、ATOよりも耐湿性に優れ、還元によっても黒化しにくいとともにITO、ATOと同等の導電性を有し、前記した各種の用途(帯電防止剤、表面導電性付与剤、導電性塗料、スパッタリング用のターゲット、表示装置の透明電極など)に用いられる。」

記載事項コ.【実施例】の記載
導電性粉末のIn/(In+Zn)が、実施例1は0.66,実施例3は0.63,実施例4は0.67,実施例5は0.85,実施例6は0.67,実施例7は0.60,実施例8は0.70である記載。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(a)引用発明の「複数の層よりなる有機薄膜」は、ジスチリルビフェニル誘導体等を用いた発光層4を含むものであり(記載事項オ.)、有機発光層を含むものであるから、本願発明の「有機発光層を含む有機層」に相当するといえる。

(b)引用発明の「ITOやSnO_(2)で構成する第1の透明導電層2よりなる第1の電極層」は、本願発明の「陽極」に相当する。

(c)引用発明の「有機薄膜上に設ける低仕事関数の金属またはその金属の合金の超薄膜の電子注入金属層6」は、本願発明の「有機発光層を含む有機層と接した電子注入電極層」に相当し、また、引用発明の「第2の電極層」は、本願発明の「陰極」に相当するといえる。

(d)前記(a)?(c)にて述べたことからして、引用発明の「複数の層よりなる有機薄膜と、有機薄膜の両面に設ける第1と第2の電極層とを透明基板1上に層状に設ける」ことは、本願発明の「陽極と陰極との間に有機発光層を含む有機層が介在してなる」ことに相当する。

(e)本願発明の「非晶質透明導電膜」と引用発明の「ITOやSnO_(2)で構成する第2の透明導電層7」とは、「透明導電膜」の概念に包含されるものである点で一致する。

前記(a)?(e)に記載したことからして、本願発明と引用発明の両者は、
「陽極と陰極との間に有機発光層を含む有機層が介在してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陰極が電子注入電極層と透明導電膜とからなり、かつ前記電子注入電極層が前記有機層と接している有機エレクトロルミネッセンス素子。」
である点で一致し、次の相違点が存在する。

[相違点]
陰極を構成する透明導電膜が、本願発明は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)及び酸素(O)からなる酸化物を用いて形成され、Inの原子比〔In/(In+Zn)〕が0.45?0.85の非晶質透明導電膜であるのに対して、引用発明は、ITOやSnO_(2)で構成する透明導電膜である点。

4.当審の判断
前記相違点について検討する。

引用例2には、ITO、ATOよりも耐湿性に優れ、黒化しにくいとともに、ITO、ATOと同等の導電性を有する導電性材料として、InとZnを主成分とし、Inの原子比In/(In+Zn)が0.1?0.9、より好ましくは0.5?0.9、特に好ましくは0.6?0.75である実質的に非晶質の酸化物からなるもの(以下、InとZnを主成分とし実質的に非晶質の酸化物を「非晶質IZO」と称す。)を用いること、さらに、該非晶質IZO導電性材料は表示装置の透明電極に用いられることが記載されている。
また、有機EL素子の分野において、電極及び有機層に湿気が入ると有機EL素子が劣化することは例示するまでもなく周知事項であって、かつ、引用例2には、非晶質IZOは、ITO、ATOよりも耐湿性に優れるとともに、ITO、ATOと同等の導電性を有すること、また、表示装置の透明電極に用いられることが記載されているのであるから、引用発明の陰極を構成する透明導電膜として、電子注入電極層及び該層に接した有機層に湿気が入るのを防止するために、ITOに換えて非晶質IZOを用いることは、当業者が容易に想到できたことである。

つぎに、本願発明は、非晶質IZOのInの原子比〔In/(In+Zn)〕が0.45?0.85であることを発明特定事項としているので、この点について検討する。
本願明細書の実施例1?4の記載によれば、Inの原子比〔In/(In+Zn)〕が0.67,0.84の例が記載されているだけであって、下限値を0.45、上限値を0.85とすることに格別臨界的意義があるとは認められない。
これに対して、引用例2には、Inの原子比〔In/(In+Zn)〕が0.1?0.9、より好ましくは0.5?0.9、特に好ましくは0.6?0.75である非晶質IZOが、ITO、ATOよりも耐湿性に優れるとともに、ITO、ATOと同等の導電性を有する非晶質IZOであることが記載されており、しかも、引用例2の実施例1,実施例3?8には、本願発明の実施例1?4の0.67,0.84と同じ値か、或いはそれと近似した値の例が示されている。
よって、本願発明の「非晶質IZOのInの原子比〔In/(In+Zn)〕が0.45?0.85である」とする発明特定事項は、引用例2の記載事項に基づいて容易になし得た事項である。

そして、本願発明の作用効果も、引用例1及び2に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-26 
結審通知日 2009-03-31 
審決日 2009-04-13 
出願番号 特願2004-342002(P2004-342002)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 聡  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 村田 尚英
森林 克郎
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 大谷 保  

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