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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1198194
審判番号 不服2007-4961  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-15 
確定日 2009-05-27 
事件の表示 特願2002-333251「静電荷像現像用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月17日出願公開、特開2004-170483〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年11月18日の出願であって、平成19年1月12日付で拒絶査定がなされ、これに対して同年2月15日付で拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成19年3月16日付で提出された手続補正書によって補正された明細書の記載から見て、その特許請求の範囲の請求項1ないし13にに記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は以下のとおりのものである。

「【請求項1】有機溶媒中に活性水素基を有する化合物と反応可能な変性ポリエステル系樹脂をトナーバインダーとして含むトナー組成物を溶解又は分散させ、該溶解又は分散物を樹脂微粒子を含む水系媒体中で分散させ、かつ架橋剤及び/又は伸長剤と反応させ、得られた分散液から溶媒を除去して得られるトナーであって、該樹脂微粒子のガラス転移点(Tg)が40?100℃で、重量平均分子量が9000?20万であり、トナー粒子表面に存在している該樹脂微粒子の含有率が0.5?5.0wt%であることを特徴とする乾式トナー。」

3.引用例の記載
原審の拒絶の理由に引用された国際公開第01/060893号(原査定における引用例1。以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

a.「本発明は粒径が均一である樹脂分散体、樹脂粒子及びそれらの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、・・・電子写真、静電記録、静電印刷などに用いられるトナー・・・及びそれらの製造方法に関する」(1頁5?9行)

b.「本発明は・・・粒径が均一である樹脂粒子、その水性分散体及びそれらの製造方法等を提供することを目的とする。
すなわち本発明は、樹脂(a)からなる樹脂粒子(A)の水性分散液中に、樹脂(b)若しくはその溶剤溶液、又は、樹脂(b)の前駆体(b0)若しくはその溶剤溶液を分散させ、
前駆体(b0)又はその溶剤溶液を用いる場合には、さらに、前駆体(b0)を反応させて、
樹脂粒子(A)の水性分散液中で、樹脂(b)からなる樹脂粒子(B)を形成させることにより、
樹脂粒子(B)の表面に樹脂粒子(A)が付着してなる構造の樹脂粒子(C)の水性分散体(X1)を得る、水性分散体の製造方法である。
また本発明は、上記製造方法で得られる水性分散体(X1)中において、付着している樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)を脱離させた後、
水性分散体から樹脂粒子(A)を分離除去して、
樹脂粒子(B)の水性分散体(X2)を得る、水性分散体の製造方法、及び上記製造方法で得られる水性分散体(X1)中において樹脂粒子(A)を溶解させて、
樹脂粒子(B)の水性分散体(X2)を得る、水性分散体の製造方法でもある。
さらに本発明は、上記製造方法により得られる水性樹脂分散体、及び、この水性樹脂分散体から水性媒体を除去してなる樹脂粒子でもある。
さらにまた本発明は、樹脂(a)からなる樹脂粒子(A)が、樹脂(b)からなる樹脂粒子(B)の表面に付着してなる構造の樹脂粒子(C)であって、
(1):樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)の体積平均粒径の比が0.001?0.3であり、
(2):樹脂粒子(A)の体積平均粒径が0.01?30μmであり、かつ樹脂粒子(B)の体積平均粒径が0.1?300μmであり、
(3):樹脂粒子(C)の体積平均粒径/個数平均粒径の値が1.00?1.20であり、
(4):樹脂粒子(B)の表面の5%以上が樹脂粒子(A)で覆われており、
(5):樹脂粒子(C)のBET値比表面積が0.5?5.0m^(2)/gであり、
(6):樹脂粒子(C)の表面平均中心線粗さRaが0.01?0.8μmであり、
(7):樹脂粒子(C)のWadellの実用球形度が0.90?1.00であり、
(8):樹脂(a)及び/又は樹脂(b)が、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニル系樹脂及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂である、樹脂粒子でもあり、また、樹脂(b)からなる樹脂粒子であって、
(1):樹脂粒子の体積平均粒径/個数平均粒径の値が1.00?1.20であり、
(2):樹脂粒子のBET値比表面積が0.5?5.0m^(2)/gであり、
(3):樹脂粒子の表面平均中心線粗さRaが0.01?0.8μmであり、
(4):樹脂粒子のWadellの実用球形度が0.90?1.00であり、
(5):樹脂(b)がポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニル系樹脂及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂である、樹脂粒子でもある。
また本発明は、上記製造方法で得られる水性分散体(X1)中において、付着している樹脂粒子(A)及び樹脂粒子(B)を脱離させて、
樹脂粒子(A)及び樹脂粒子(B)の混合水性分散体(X3)を得る、水性分散体の製造方法でもある。」(1頁27行?3頁18行)

c.「本発明においては、樹脂(a)からなる樹脂粒子(A)の水性分散液中に、樹脂(b)若しくはその溶剤溶液又は樹脂(b)の前駆体(b0)若しくはその溶剤溶液を分散させて、必要により前駆体(b0)の反応を行い、樹脂粒子(B)を形成させる際に、樹脂粒子(A)を樹脂粒子(B)の表面に吸着させることで、樹脂粒子(B)同士又は樹脂粒子(C)同士が合一するのを防ぎ、また、高剪断条件下で樹脂粒子(C)が分裂され難くする。これにより、樹脂粒子(C)の粒径を一定の値に収斂させ、粒径の均一性を高める効果を発揮する。そのため、樹脂粒子(A)は、分散する際の温度において、剪断により破壊されない程度の強度を有すること、水に溶解したり、膨潤したりしにくいこと、樹脂(b)若しくはその溶剤溶液又は樹脂(b)の前駆体(b0)若しくはその溶剤溶液に溶解したり、膨潤したりしにくいことが好ましい特性としてあげられる。
樹脂(a)のガラス転移温度(Tg)は、樹脂粒子(C)の粒径均一性、粉体流動性、保存時の耐熱性、耐ストレス性の観点から、通常0℃?300℃、好ましくは20℃?250℃、より好ましくは50℃?200℃である。水性分散体(X1)を作成する温度よりTgが低いと、合一を防止したり、分裂を防止したりする効果が小さくなり、粒径の均一性を高める効果が小さくなる。なお、本発明におけるTgは、DSC測定から求められる値である。」(19頁17行?20頁4行)

d.「樹脂粒子(A)が水や分散時に用いる溶剤に対して、溶解したり、膨潤したりするのを低減する観点から、樹脂(a)の分子量、SP値(SP値の計算方法はPolymer Engineering and Science,Feburuary,1974,Vol.14,No.2
P.147?154による)、結晶性、架橋点間分子量等を適宜調整するのが好ましい。
樹脂(a)の数平均分子量(GPCにて測定、以下Mnと略記)は、通常200?500万、好ましくは2,000?500,000、SP値は、通常7?18、好ましくは8?14である。樹脂(a)の融点(DSCにて測定)は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上である。」(20頁8頁?15行)

e.「樹脂(b)の前駆体(b0)としては、化学反応により樹脂(b)になりうるものであれば特に限定されず、例えば、樹脂(b)がビニル系樹脂である場合は、前駆体(b0)は、先述のビニル系モノマー(単独で用いても、混合して用いてもよい)及びそれらの溶剤溶液が挙げられ、樹脂(b)が縮合系樹脂(例えば、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂)である場合は、前駆体(b0)は、反応性基を有するプレポリマー(α)と硬化剤(β)の組み合わせが例示される。」(32頁24行?33頁1行)

f.「前駆体(b0)としては、反応性基を有するプレポリマー(α)と硬化剤(β)の組み合わせを用いることもできる。ここで「反応性基」とは硬化剤(β)と反応可能な基のことをいう。この場合、前駆体(b0)を反応させて樹脂(b)にする方法としては、反応性基含有プレポリマー(α)及び硬化剤(β)及び必要により溶剤(U)を含む油相を、樹脂粒子(A)の水系分散液中に分散させ、加熱により反応性基含有プレポリマー(α)と硬化剤(β)を反応させて、樹脂(b)からなる樹脂粒子(B)を形成させる方法;反応性基含有プレポリマー(α)又はその溶剤溶液を樹脂粒子(A)の水系分散液中に分散させ、ここに水溶性の硬化剤(β)を加え反応させて、樹脂(b)からなる樹脂粒子(B)を形成させる方法;反応性基含有プレポリマー(α)が水と反応して架橋するものである場合は、反応性基含有プレポリマー(α)又はその溶剤溶液を樹脂粒子(A)の水性分散液に分散させることで水と反応させて、樹脂(b)からなる樹脂粒子(B)を形成させる方法等が例示できる。
反応性基含有プレポリマー(α)が有する反応性基と、硬化剤(β)の組み合わせとしては、下記(1)、(2)などが挙げられる。
(1):反応性基含有プレポリマー(α)が有する反応性基が、活性水素化合物と反応可能な官能基(α1)であり、硬化剤(β)が活性水素基含有化合物(β1)であるという組み合わせ。
(2):反応性基含有プレポリマー(α)が有する反応性基が活性水素含有基(α2)であり、硬化剤(β)が活性水素含有基と反応可能な化合物(β2)であるという組み合わせ。
これらのうち、水中での反応率の観点から、組み合わせ(1)がより好ましい。
上記組み合わせ(1)において、活性水素化合物と反応可能な官能基(α1)としては、イソシアネート基(α1a)、ブロック化イソシアネート基(α1b)、エポキシ基(α1c)、酸無水物基(α1d)及び酸ハライド基(α1e)などが挙げられる。これらのうち好ましいものは、(α1a)、(α1b)及び(α1c)であり、特に好ましいものは、(α1a)及び(α1b)である。」(34頁26行?35頁23行)

g.「反応性基含有プレポリマー(α)の骨格としては、ポリエーテル(αw)、ポリエステル(αx)、エポキシ樹脂(αy)及びポリウレタン(αz)などが挙げられる。これらのうち好ましいものは、(αx)、(αy)及び(αz)であり、特に好ましいものは(αx)及び(αz)である。 」(36頁9行?12行)

h.「伸長及び/又は架橋反応時間は、反応性基含有プレポリマー(α)の有する反応性基の構造と硬化剤(β)の組み合わせによる反応性により選択されるが、通常10分?40時間、好ましくは30分?24時間である。」(41頁17?19行)

i.「樹脂粒子(C)は、実質的に小樹脂粒子(A)と大樹脂粒子(B)から構成され、樹脂粒子(A)が樹脂粒子(B)の表面に付着した形で存在する。・・・
樹脂粒子(C)の粒径均一性、保存安定性等の観点から、樹脂粒子(C)は、通常0.01?60重量%の樹脂粒子(A)と40?99.99重量%の樹脂粒子(B)からなり、0.1?50重量%の樹脂粒子(A)と50?99.9重量%の樹脂粒子(B)からなるのが好ましい。
樹脂粒子(C)の粒径均一性、粉体流動性、保存安定性等の観点からは、樹脂粒子(B)の表面の5%以上が樹脂粒子(A)で覆われているのが好ましく、(B)の表面の30%以上が樹脂粒子(A)で覆われているのが更に好ましい。なお、表面被覆率は、走査電子顕微鏡(SEM)で得られる像の画像解析から下式に基づいて求めることができる。
表面被覆率(%)=[樹脂粒子(A)に覆われている面積/樹脂粒子(A)に覆われている面積+樹脂粒子(B)が露出している部分の面積]×100
・・・
本発明の樹脂粒子(C)は、樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)の粒径、及び、樹脂粒子(A)による樹脂粒子(B)表面の被覆率を変えることで粒子表面に所望の凹凸を付与することができる。」(42頁11行?43頁8行)

j.「本発明の樹脂粒子(B)は、樹脂粒子(A)の樹脂粒子(B)に対する粒径比、及び、水性分散体(X1)中における樹脂粒子(A)による樹脂粒子(B)表面の被覆率、水性分散体(X1)中における樹脂粒子(B)/水性媒体界面上で樹脂粒子(A)が樹脂粒子(B)側に埋め込まれている深さ、を変えることで、粒子表面を平滑にしたり、粒子表面に所望の凹凸を付与したりすることができる。
樹脂粒子(A)による樹脂粒子(B)表面の被覆率や樹脂粒子(A)が樹脂粒子(B)側に埋め込まれている深さは、以下のような方法で制御することができる。」(45頁6行?13行)

k.「製造例1
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に、スチレン化フェノールポリエチレンオキサイド付加物(エレミノールHB-12、三洋化成工業社製)47部とビスフェノールAジグリシジルエーテル(エピコート828、油化シェル社製)232部を投入し均一に溶解させた。攪拌下で反応容器に水を滴下した。水を31部投入したところで、系が乳白色に乳化した。更に水を224部滴下し、乳濁液(1)を得た。加熱して、系内温度70℃まで昇温した後、エチレンジアミンを20部を水446部に溶解した液を70℃を維持したまま2時間かけて滴下した。滴下後、70℃で5時間、90℃で5時間反応・熟成してアミン硬化エポキシ樹脂水性分散液[微粒子分散液A1]を得た。[微粒子分散液A1]をレーザー式粒度分布測定装置LA-920(堀場製作所製)で測定した体積平均粒径は、0.81μmであった。また、[微粒子分散液A1]の一部を遠心分離し、更に水を加えて遠心分離する工程を2回繰り返した後、乾燥して樹脂分を単離した。該樹脂分のTg(DSCで測定、以下Tgについて同様)は120℃であった。

製造例2
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に、水683部、メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩(エレミノールRS-30、三洋化成工業製)11部、スチレン139部、メタクリル酸138部、過硫酸アンモニウム1部を仕込み、400回転/分で15分間撹拌したところ、白色の乳濁液が得られた。加熱して、系内温度75℃まで昇温し5時間反応させた。さらに、1%過硫酸アンモニウム水溶液30部加え、75℃で5時間熟成してビニル系樹脂(スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩の共重合体)の水性分散液[微粒子分散液A2]を得た。[微粒子分散液A2]をLA-920で測定した体積平均粒径は、0.15μmであった。[微粒子分散液A2]の一部を乾燥して樹脂分を単離した。該樹脂分のTgは154℃であった。

製造例3
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応容器中に、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物343部、イソフタル酸166部及びジブチルチンオキサイド2部を入れ、常圧で230℃で8時間反応し、さらに10?15mmHgの減圧で5時間反応した後、110℃まで冷却し、トルエン中にてイソホロンジイソシアネート17部を入れて110℃で5時間反応を行い、次いで脱溶剤し、重量平均分子量72,000、遊離イソシアネート含量0.7%の[ウレタン変性ポリエステル(1)]を得た。
上記と同様にビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物570部、テレフタル酸217部を常圧下、230℃で6時間重縮合し、数平均分子量2,400、水酸基価51、酸価5の変性されていない[ポリエステル(2)]を得た。
[ウレタン変性ポリエステル(1)]200部と[ポリエステル(2)]800部を酢酸エチル2,000部に溶解、混合し、[樹脂溶液1]を得た。[樹脂溶液1]の一部を減圧乾燥し、樹脂分を単離した。該樹脂分のTgは55℃であった。
ビーカー内に、水500部、ノニルフェノールエチレンオキサイド14モル付加物(ノニポール200、三洋化成工業製)4部を入れ均一に溶解した。TK式ホモミキサーで18,000rpmに撹拌しながら、[樹脂溶液1]を投入し15分間撹拌した。ついでこの混合液を撹拌棒および温度計付の反応容器に移し、昇温して酢酸エチルを留去し、さらに98℃まで昇温して5時間反応させて、[ウレタン変性ポリエステル(1)]の水伸長反応物と[ポリエステル(2)]の混合物からなる[微粒子分散液A3]を得た。[微粒子分散液A3]をLA-920で測定した体積平均粒径は、0.21μmであった。また、[微粒子分散液A3]の一部を遠心分離し、更に水を加えて遠心分離する工程を2回繰り返した後、乾燥して樹脂分を単離した。該樹脂分のTgは64℃であった。

製造例4
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に、ポリカプロラクトンジオール(分子量2,000)787部、ポリエーテルジオール(分子量4,000、EO含量50重量%、PO含量50重量%)800部を仕込み、120℃で減圧脱水した。脱水後の水分は0.05%であった。次いでHDI55.5部、水添MDI65.5部及びジブチル錫ジラウレート0.6部を添加し80℃で5時間反応を行った。得られた生成物を[水溶性高分子T1]とする。
次いで、[微粒子分散液A]100部、[水溶性高分子1]1部及び水107部を混合攪拌し、乳白色の液体を得た。これを[分散液1]とする。

製造例5
水784部、[微粒子分散液A2]136部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの48.5%水溶液(「エレミノールMON-7」、三洋化成工業製)80部を混合攪拌し、乳白色の液体を得た。これを[分散液2]とする。

製造例6
水634部、[微粒子分散液A3]286部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの48.5%水溶液(「エレミノールMON-7」、三洋化成工業製)154部を混合攪拌し、乳白色の液体を得た。これを[分散液3]とする。

製造例7
ポリビニルアルコール(「PVA-235」、(株)クラレ製)1部を水100部に溶解した。これを[分散液4]とする。

製造例8
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に、ヒドロキシル価が56のポリカプロラクトンジオール[「プラクセルL220AL」、ダイセル化学工業(株)製]2,000部を投入し3mmHgの減圧下で110℃に加熱して1時間脱水を行った。続いてIPDIを457部を投入し、110℃で10時間反応を行い末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。該ウレタンプレポリマーの遊離イソシアネート含量は3.6%であった。これを[プレポリマー1]とする。

製造例9
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に、エチレンジアミン50部とMIBK50部を仕込み、50℃で5時間反応を行った。得られたケチミン化合物を[硬化剤1]とする。

実施例1
ビーカー内に[プレポリマー1]150部と[硬化剤1]6部とを混合しておき、[分散液1]250部を添加した後、ウルトラディスパーザー(ヤマト科学製)を使用し、回転数9000rpmで1分間混合した。
混合後、撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に混合液を投入し、50℃で10時間反応を行い水性分散体(XF1)を得た。次いでブロッキング防止剤[「サイロイド978」、富士デヴィソン化学製]1部及び耐光安定剤[「DIC-TBS」、大日本インキ化学工業製]0.5部を加えて濾別、乾燥を行い樹脂粒子(F1)を得た。

実施例2
ビーカー内に[プレポリマー1]150部、[硬化剤1]6部、酢酸エチル40部とを混合しておき、[分散液2]457部を添加した後、TKホモミキサー(特殊機化製)を使用し、回転数12,000rpmで10分間混合した。
混合後、撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に混合液を投入し、50℃で10時間で脱溶剤及び反応を行い、水性分散体(XF2)を得た。次いで濾別、乾燥を行い樹脂粒子(F2)を得た。

実施例3
水性分散体(XF2)100部に、5%水酸化ナトリウム水溶液100部を加え、TKホモミキサー(特殊機化製)を使用し、40℃に温調し回転数12,000rpmで10分間混合して、(F2)の表面に付着した[微粒子分散液A2]由来の微粒子を溶解させた。次いで遠心分離で上澄みを除去し、さらに水100部を加えて遠心分離する工程を2回繰り返した後、乾燥して樹脂粒子(F3)を得た。

実施例4
ビーカー内に[プレポリマー1]150部、[硬化剤1]6部、酢酸エチル40部とを混合しておき、[分散液3]457部を添加した後、TKホモミキサー(特殊機化製)を使用し、回転数12,000rpmで10分間混合した。混合後、撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に混合液を投入し、50℃で10時間で脱溶剤及び反応を行い、水性分散体(XF4)を得た。次いで濾別、乾燥を行い樹脂粒子(F4)を得た。
・・・

実施例5
ビーカー内に[樹脂溶液1]240部、離型剤としてトリメチロールプロパントリベヘネート(融点58℃、溶融粘度24cps)20部、着色剤として銅フタロシアニン4部を入れ、50℃にてTK式ホモミキサーで12,000rpmで撹拌し、均一に溶解、分散させて[樹脂溶液1B]を得た。
ビーカー内にイオン交換水500部、[分散液1]500部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を入れ均一に溶解した。ついで50℃に昇温し、TK式ホモミキサーで12,000rpmに撹拌しながら、[樹脂溶液1B]300部を投入し10分間撹拌した。ついでこの混合液を撹拌棒および温度計付のコルベンに移し、昇温して酢酸エチルを留去し、さらに98℃まで昇温して5時間反応させて、水性分散体(XF5)を得た。次いで濾別、乾燥を行い樹脂粒子(F5)を得た。

実施例6
ビーカー内に[樹脂溶液1]240部、離型剤としてトリメチロールプロパントリベヘネート(融点58℃、溶融粘度24cps)20部、着色剤として銅フタロシアニン4部を入れ、50℃にてTK式ホモミキサーで12,000rpmで撹拌し、均一に溶解、分散させて[樹脂溶液1B]を得た。
ビーカー内に、[分散液2]500部を入れ均一に溶解した。ついで50℃に昇温し、TK式ホモミキサーで12,000rpmに撹拌しながら、[樹脂溶液1B]214部を投入し10分間撹拌した。ついでこの混合液を撹拌棒及び温度計付のコルベンに移し、昇温して酢酸エチルを留去し、さらに98℃まで昇温して5時間反応させて、水性分散体(XF6)を得た。次いで濾別、乾燥を行い樹脂粒子(F6)を得た。

実施例7
水性分散体(XF6)100部に、5%水酸化ナトリウム水溶液100部を加え、TKホモミキサー(特殊機化製)を使用し、40℃に温調し回転数12,000rpmで10分間混合して、(F6)の表面に付着した[微粒子分散液A2]由来の微粒子を溶解させた。次いで遠心分離で上澄みを除去し、さらに水100部を加えて遠心分離する工程を2回繰り返した後、乾燥して樹脂粒子(F7)を得た。

実施例8
ビーカー内に[樹脂溶液1]240部、離型剤としてトリメチロールプロパントリベヘネート(融点58℃、溶融粘度24cps)20部、着色剤として銅フタロシアニン4部を入れ、50℃にてTK式ホモミキサーで12,000rpmで撹拌し、均一に溶解、分散させて[樹脂溶液1B]を得た。ビーカー内に、[分散液3]500部を入れ均一に溶解した。ついで50℃に昇温し、TK式ホモミキサーで12,000rpmに撹拌しながら、[樹脂溶液1B]214部を投入し10分間撹拌した。ついでこの混合液を撹拌棒及び温度計付のコルベンに移し、昇温して酢酸エチルを留去し、さらに98℃まで昇温して5時間反応させて、水性分散体(XF8)を得た。次いで濾別、乾燥を行い樹脂粒子(F8)を得た。」(46頁7行?52頁19行)

l.「物性測定例1
実施例1?8及び比較例1?2で得た樹脂粒子(F1)?(F8)と(G1)、(G2)を水に分散して粒度分布をコールターカウンターで測定した。体積分布の変動係数とは、(標準偏差/体積平均粒径×100)の計算式より算出される値である。また各粒子の表面被覆率、BET比表面積,表面平均中心線粗さを測定した。その結果を表1に示す。
表1


産業上の利用の可能性
本発明の方法は以下の効果を有する。
1.無機微粉末を用いることなく、粒径が均一な樹脂粒子分散液及び樹脂粒子が得られる。
2.水中の分散により樹脂粒子が得られるため、従来の製法に比べ安全かつ低コストで樹脂粒子を製造できる。
3.粉体流動性、保存安定性に優れた樹脂粒子が得られる。
4.耐熱性に優れる樹脂粒子や加熱溶融して機械的物性に優れた塗膜を与える樹脂粒子を製造できる。
上記効果を奏することから、本発明の製造方法から得られる樹脂分散体及び樹脂粒子は、スラッシュ成形用樹脂、粉体塗料、液晶等の電子部品製造用スペーサー、電子測定機器の標準粒子、電子写真、静電記録、静電印刷などに用いられるトナー、各種ホットメルト接着剤、その他成形材料等に有用な樹脂粒子として極めて有用である。」(52頁25行?54頁末行)

m.「請求の範囲
・・・
2.樹脂粒子(C)が、0.1?50重量%の樹脂粒子(A)と50?99.9重量%の樹脂粒子(B)からなる請求項1記載の製造方法。」(55頁13行?14行)

以上の事項から、引用例1には以下の発明が記載されていると認められる。
「活性水素化合物と反応可能な官能基(α1)を有する、ポリエステル(αx)骨格の反応性基含有プレポリマー(α)及び溶剤を含む油相を、樹脂(a)からなる樹脂粒子(A)の水系分散液中に分散させ、伸長及び/又は架橋反応させ、脱溶剤し、水性樹脂分散体から水性媒体を除去してなる樹脂粒子であって、樹脂(a)のガラス転移温度(Tg)は50℃?200℃で、樹脂(a)の数平均分子量が2,000?500,000であり、樹脂粒子(B)の表面を覆う樹脂粒子(A)が0.1?50重量%で樹脂粒子(B)が50?99.9重量%である電子写真、静電記録、静電印刷などに用いられるトナー」
(以下、「引用例発明」という。)

原審の拒絶の理由に引用された特開平10-293420号公報(原査定における引用例8。以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

n.「【0080】有機系改質微粒子の添加量としては、芯粒子の表面上を覆うことのできる量を改質微粒子の粒径から算出し、芯粒子表面上の被覆率やどの層に付着させるかによって決定するのが一般的である。本発明においては、付着混合処理において芯粒子表面上に付着させることができる量であれば固定化あるいは成膜化の改質処理は可能であり、その添加量は一般的に芯粒子の重量に対し20重量部以下であると考えられる。
【0081】しかしながら、芯粒子の重量100重量部に対する有機系改質微粒子の添加量は、0.1重量部?15重量部とすることがより望ましい。本発明による製造方法を利用した場合、改質微粒子の添加量が0.1重量部より少ない場合には、芯粒子表面上の改質微粒子の存在量が少なく、芯粒子表面上を十分に覆うことができずに保存性を欠いたり、また、芯粒子そのものの球形化が起こりやすく、表面改質させたことにより期待される機能の効果がほとんど現れない等の問題がある。また、15重量部より多い添加量では芯粒子上の改質微粒子層が厚くなることによって、本発明の方法のような瞬間的な熱処理では芯粒子表面に十分な熱が加わらず改質微粒子の融着固定化あるいは成膜化が達成されず、剥離、離脱によるフィルミングや飛散、画像カブリ等の問題が発生する可能性が高くなる。さらに高温の処理を施す場合には、球形化が進行したり、粒子同士の融着が起こり望ましくない。」

o.「【0100】本発明における重合体微粒子は、芯粒子の表面に固定化あるいは成膜化されて、低温定着性を有する芯粒子を保護するための耐熱性保護膜(殻)を形成することにより、トナーの耐熱性(保存安定性)を向上させる機能を有している。
【0101】そのため、上記重合体微粒子および上記芯粒子の熱的特性は、上記重合体微粒子のガラス転移点(Tg_(2 ))が上記芯粒子のガラス転移点(Tg_(1) )よりも高く、かつ、上記芯粒子のガラス転移点が40℃?65℃であり、上記重合体微粒子のガラス転移点が58℃?100℃となっている。重合体微粒子のガラス転移点の範囲が上記に調整されていることにより、本実施の形態のトナーは、低温定着性と、耐ブロッキング性および経時安定性とを兼ね備えている。
【0102】上記重合体微粒子のガラス転移点が58℃未満である場合には、トナーを保存するトナーボトル内等においてトナーの自重によりトナーが変形しやすくなる。このため、隣接するトナー粒子間の接触面積が大きくなり、トナー粒子間力が増大するので、トナー粒子が互いに融着してブロッキングが発生しやすくなる。さらに、連続コピー時の現像槽内での熱的ストレス等により、重合体微粒子の融解、離脱等が生じ、トナー自体あるいはキャリア等の摩擦帯電部材の劣化を引き起こす。このため、画像品質の劣化を招き、トナーの経時安定性を保持できなくなる。一方、上記重合体微粒子のガラス転移点が100℃を超える場合には、特に低温での定着性が悪くなり、低温定着用の設計された芯粒子が低温定着性を発現できず、トナーの低温定着性を保持できなくなる。」

p.「【0149】
【表5】

【0150】
上記の得られたサンプルT4、T11?T14各々に、実施例1と同様に、流動化剤としてシリカ(R972、日本アエロジル株式会社)を0.3重量部添加混合し、1万枚の実写評価を行った結果と、上記(1)(4)(5)式に関する数値とを表6に示す。・・・
【0151】
【表6】

【0152】
これによれば、・・・
【0155】
さらに、サンプルT12、T4ではすべての評価が良好であったので、PMMA改質微粒子の芯粒子に対する添加量は1重量部?5重量部がより好ましい。」

原審の拒絶の理由に引用された特開平11-327201号公報(原査定における引用例6。以下、引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

q.「【0089】樹脂被膜形成用の樹脂微粒子の付着工程は、離型剤微粒子等を凝集粒子表面に付着して離型剤層を形成した後に、付着粒子(離型剤層を形成した凝集粒子)分散液中に樹脂微粒子分散液を添加混合して付着粒子表面に樹脂微粒子をさらに付着させるものであり、後述の融合工程において加熱融合して、トナー粒子表面に樹脂被膜(シエル)を形成するものである。前記添加混合の方法は、特に制限されることはないが、例えば、徐々に連続的に行ってもよいし、複数回に分割して段階的に行ってもよい。このように添加混合することにより、微小な粒子の発生を抑制し、既に添加されている粒度分布粒子のうち、遊離している離型剤粒子をも同時に凝集粒子の離型剤層表面に付着させる効果をも有するため、トナーの粒度分布をシャープにすることができる。また、得られる静電荷像現像用トナーは、表面から内部にかけての組成や物性を段階的に変化させることも可能である。特に、トナー内部の離型剤層の位置や層厚を変化させることができ、トナーの構造を容易に制御することができる。
【0090】この樹脂被膜は着色剤や離型剤等がトナー粒子表面に露出することを防止できる。その結果、離型剤は定着時にトナー表面に染みだし、離型機能を有効に発揮させることができる。・・・また、この樹脂被膜を構成する樹脂として、ガラス転移点の高い樹脂を選択することにより、トナーの熱保存性と定着性とを両立させ、かつ帯電性に優れた静電荷像現像用トナーを製造することができる。」

r.「【0095】トナー表面の樹脂被膜を構成する樹脂のガラス転移点が、トナー内部に存在する樹脂のガラス転移点と比較して高くなるように選択すると、トナーの保存性や流動性と、最低定着温度とを両立させることが可能になる。」

原審の拒絶の理由に引用された特開平5-281782号公報(原査定における引用例4。以下、引用例4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

s.「【0013】本発明においては、トナーを構成する樹脂微粒子として、母体粒子のバインダー樹脂の軟化点よりも高く、かつ160℃以下の軟化点を有し、フッ素化アルキル(メタ)アクリレートを30重量%より多く含有する樹脂微粒子を用いる。すなわち、樹脂微粒子の軟化点は下記の関係式を満たすことが必要である。母体粒子のバインダー樹脂の軟化点<樹脂微粒子の軟化点≦160℃樹脂微粒子の軟化点が前記関係式を満たすことにより、耐フィルミング性の向上と低温定着性や離型性が良好となる。樹脂微粒子の軟化点が母体粒子のバインダー樹脂の軟化点よりも低い場合には、樹脂微粒子が変形しすぎて十分な耐フィルミング性が得られない。一方、樹脂微粒子の軟化点が160℃を超える場合には、低温定着性や離型性が悪化する。また、樹脂微粒子のガラス転移点は55℃以上であることが好ましい。ガラス転移点が55℃以上であれば、耐ブロッキング性が向上する。」

4.対比
そこで、本願発明1と引用例発明とを以下に対比する。

引用例発明の「活性水素化合物と反応可能な官能基(α1)を有する、ポリエステル(αx)骨格の反応性基含有プレポリマー(α)及び溶剤を含む油相」は、本願発明1の「有機溶媒中に活性水素基を有する化合物と反応可能な変性ポリエステル系樹脂をトナーバインダーとして含むトナー組成物を溶解又は分散させ」た「溶解又は分散物」に、相当する。

引用例発明の「油相を、樹脂(a)からなる樹脂粒子(A)の水系分散液中に分散させ」は、本願発明1の「該溶解又は分散物を樹脂微粒子を含む水系媒体中で分散させ」に相当する。

引用例発明の「伸長及び/又は架橋反応させ」は、本願発明1の「架橋剤及び/又は伸長剤と反応させ」に相当する。

引用例発明の「脱溶剤し、水性樹脂分散体から水性媒体を除去してなる」は、本願発明1の「得られた分散液から溶媒を除去して得られる」に相当する。

引用例発明の「電子写真、静電記録、静電印刷などに用いられるトナー」は、本願発明1の「乾式トナー」に相当する。

したがって、本願発明1と引用例発明とは
「有機溶媒中に活性水素基を有する化合物と反応可能な変性ポリエステル系樹脂をトナーバインダーとして含むトナー組成物を溶解又は分散させ、該溶解又は分散物を樹脂微粒子を含む水系媒体中で分散させ、かつ架橋剤及び/又は伸長剤と反応させ、得られた分散液から溶媒を除去して得られる乾式トナー。」で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1では「トナー粒子表面に存在している該樹脂微粒子の含有率が0.5?5.0wt%」であるとともに「樹脂微粒子のガラス転移点(Tg)が40?100℃」であるのに対して、引用例発明では「樹脂粒子(B)の表面を覆う樹脂粒子(A)が0.1?50重量%」であるとともに「樹脂(a)のガラス転移温度(Tg)は50℃?200℃」である点。

(相違点2)
本願発明1では「樹脂微粒子の重量平均分子量が9000?20万」であるのに対して、引用例発明では「樹脂(a)の数平均分子量が2,000?500,000」である点


5.判断
5-1.(相違点1について)
5-1-1.(出願人の主張)
引用例発明は、請求人も認めるように、『ガラス転移点(Tg)については本件発明1で規定する「40?100℃」という数値範囲が示され、また、トナー粒子表面に存在している該樹脂微粒子の含有率については本件発明1で規定する「0.5?5.0wt%」という数値範囲を包含する数値範囲が示されて』いる。
これに対して、請求人は、ガラス転移点及び樹脂微粒子含有率の数値範囲について、以下のように主張する。
「しかしながら、引用文献1の表1を参照しますと、引用文献1の実施例1、2、4、5、6、8における樹脂微粒子の含有率(%)はそれぞれ、16.4、10.5、10.5、33.7、18.8、18.9という値であり、本件発明における「0.5?5.0wt%」という数値範囲を大きく外れています。
また、引用文献1には、製造例1でTg=120℃、製造例2でTg=154℃、製造例3でTg=64℃の樹脂微粒子を含む微粒子分散液A1?A3を得たこと、実施例1、5で微粒子分散液A1、実施例2、6で微粒子分散液A2、実施例4、8で微粒子分散液A3を用いたことが記載されています。
そうすると、各実施例における樹脂微粒子の含有率及び微粒子分散液のTgとの関係は次のようになります。
実施例1 Tg:120℃ 樹脂微粒子含有率:16.4
実施例2 Tg:154℃ 樹脂微粒子含有率:10.5
実施例4 Tg: 64℃ 樹脂微粒子含有率:10.5
実施例5 Tg:120℃ 樹脂微粒子含有率:33.7
実施例6 Tg:154℃ 樹脂微粒子含有率:18.8
実施例8 Tg: 64℃ 樹脂微粒子含有率:18.9
一般に明細書に記載する実施例としては、出願人が最良と思われるものを記載するのが普通ですが、上記のように、引用文献1で好ましい例として記載されている実施例はいずれも本件発明1で規定するTg:40?100℃及び樹脂微粒子含有率:0.5?5.0wt%を満たしておらず、わずかに実施例4、8における樹脂微粒子のTgが本件発明1で規定する数値範囲に入っているのみです。
・・・
上記しましたように、引用文献1で好ましい例とされているものは、樹脂微粒子のTgが64?154℃の範囲で、含有率も10.5?33.7%と言う極めて多くの量を配合しているものであり、これは本件発明1で規定している範囲とは全く異なるものであり、このような条件では、「水系造粒の造粒性」と「トナーの定着性能」の両立という本件発明1の効果を奏することはできません。」(平成18年9月8日付手続補正書5頁16行?末行参照)

そこで、指摘のTgと含有率に関する範囲を設定したことによる、「水系造粒の造粒性」と「トナーの定着性能」に関する作用効果を、検討する。

5-1-2.(ガラス転移点 Tgについて)
本願明細書には、以下の記載がある。
「【0021】該樹脂微粒子は、トナー形状(円形度、粒度分布など)を制御する目的で添加される。この、樹脂微粒子は、油相を水系媒体中に分散させた際に、油滴表面に付着して、油滴が適度に合着して粒径を収斂させて油滴粒子を安定化させる機能を有しており・・・
【0022】本発明のトナーにおいては、この樹脂微粒子のガラス転移点(Tg)が40?100℃であり、重量平均分子量が9千?20万であり、トナー粒子に対する含有率が0.5?5.0wt%であることが重要である。・・・
【0023】樹脂微粒子のTgが40℃未満、及び/又は重量平均分子量が9千未満では、トナーの保存性が悪化してしまい、保管時および現像機内でブロッキングの発生が見られ、また、樹脂微粒子のTgが100℃以上、及び/又は重量平均分子量が20万以上では、樹脂微粒子が定着紙との接着性を阻害し、定着下限温度の上昇が見られる。」

上記【0021】によれば、そもそも樹脂微粒子の添加の目的は、油滴表面に付着して、油滴が適度に合着して粒径を収斂させて油滴粒子を安定化させ、トナー形状(円形度、粒度分布など)を制御する点にある。そして、上記【0021】【0023】の記載から見て、本願発明1の樹脂微粒子のTgは「粒径を収斂させる」という点とともに「トナーの保存性」と「トナーの定着性能」という観点から、「40℃-100℃」で選択されているといえる。

これに対して、引用例発明における樹脂微粒子のTgは、上記cの記載を参照すると、引用例発明における樹脂微粒子でも(トナーの)「粒径を収斂させる」という「粒径均一性」の観点と(トナーの)「保存時の耐熱性」の観点とから選択されることが記載されている。なお、選択範囲は「20℃?250℃」であり、実施例は64?154℃(上記k参照)である。
また、「トナーの保存性」「トナーの定着性能」という課題が引用例1と共通している引用例2,3の記載、並びに、「トナーの定着性能」という課題が引用例1と共通している引用例4の記載を参照すると、表面に樹脂微粒子を有するトナーにおいて、「トナーの保存性」と「トナーの定着性能」という観点からTgの範囲を選択することが引用例2,3に記載(上記oqr参照)され、また「トナーの定着性能」という観点からTgの範囲を選択することが引用例4に記載(上記s参照)されている。そして、特に引用例2では「58℃?100℃」(上記o参照)が選定されている。

以上のことから、引用例発明において、本願発明1と同様に(トナーの)「粒径を収斂させる」という観点とともに「トナーの保存性」「定着性能」を考慮して最適化を図り、樹脂微粒子のTgを「40℃-100℃」としたことに、格別の技術的困難性はない。

5-1-3.(樹脂微粒子の含有率について)
本願明細書には、以下の記載がある。
「【0021】該樹脂微粒子は、トナー形状(円形度、粒度分布など)を制御する目的で添加される。この、樹脂微粒子は、油相を水系媒体中に分散させた際に、油滴表面に付着して、油滴が適度に合着して粒径を収斂させて油滴粒子を安定化させる機能を有しており・・・
【0022】本発明のトナーにおいては、この樹脂微粒子のガラス転移点(Tg)が40?100℃であり、重量平均分子量が9千?20万であり、トナー粒子に対する含有率が0.5?5.0wt%であることが重要である。・・・
【0023】・・・含有率が、0.5wt%未満の時、トナーの保存性が悪化してしまい、保管時および現像機内でブロッキングの発生が見られ、また、含有率が5.0wt%以上では、樹脂微粒子がワックスのしみ出しを阻害し、ワックスの離型性効果が得られず、オフセットの発生が見られる。
・・・
【0025】・・・トナー表面上に残存する樹脂微粒子が皮膜化またはトナー表面全体を密に覆う状態となり、離型剤微粒子がトナー内部のバインダー樹脂成分と定着紙との接着性を阻害し、定着下限温度の上昇が見られ、さらに粒径、及び形状制御も困難になる。・・・トナー表面上に残存する樹脂微粒子が凸部として大きく突出したり、粗状態の多重層として樹脂微粒子が残存し、現像部撹拌時のストレスにより、離型剤微粒子の脱離が見られる。」
5-1-2でも触れたが、そもそも樹脂微粒子の添加の目的は、油滴表面に付着して、油滴が適度に合着して粒径を収斂させて油滴粒子を安定化させ、トナー形状(円形度、粒度分布など)を制御する点にある。そして、上記【0022】【0023】【0025】の記載から見て、本願発明1の樹脂微粒子の含有率は「トナー形状(円形度、粒度分布など)」とともに「トナーの保存性」と「トナーの定着性能」という観点から、「0.5?5.0wt%」で選択されているといえる。

これに対して、上記iの記載を参照すると、引用例発明では、「粒径均一性」「形状」に加えて「保存安定性」「定着性能」のために、樹脂微粒子の表面被覆率すなわち含有率を選択しているといえる。
また、「トナーの保存性」「トナーの定着性能」という課題が、引用例1と共通している引用例2,3の記載を参照すると、表面に樹脂微粒子を有するトナーにおいて、「トナーの保存性」と「トナーの定着性能」という観点から樹脂微粒子の含有量を選択することが引用例2,3に記載(上記nq参照)され、特に引用例2の実施例においては「1重量部?5重量部とすることがより好ましい」(上記p参照)と記載されている。

以上のことから、引用例発明に於いて、本願発明と同様に「粒径均一性」「形状」という観点とともに「保存安定性」「定着性能」を考慮して最適化を図り、樹脂微粒子の含有率を「0.5?5.0wt%」としたことに、格別の技術的困難性はない。

なお、上記の範囲「0.5?5.0wt%」より下の比較例5のトナー及
び上記の範囲「0.5?5.0wt%」より上の比較例6のトナーと、両比較例とガラス転移点がほぼ同じ程度の実施例5-7のトナーとを比較した場合、比較例5のトナーではブロッキングが見られ、比較例6のトナーでは定着不良が生じた。しかし、実施例5-7と比較例5.6との間で見られた、含有率の違いによってもたらされるこれらの差異は、「保存安定性」「定着性能」の点から見て当業者が予測し得た程度の差異であり、格別なものとはいえない。

5-1-4.
よって、相違点1に係る本願発明1の構成は、引用例発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

5-2.(相違点2について)
本願発明1では、明細書【0023】において「トナーの保存性」「定着紙との接着性」という観点から、重量平均分子量が「9000?20万」の範囲で選択されている。
これに対して、引用例発明では樹脂(a)の数平均分子量が「2,000?500,000」の範囲で選択されている。

そこで、本願発明1に規定される「重量平均分子量」と、引用例発明に規定される「数平均分子量」とを比較する。
乳化重合・懸濁重合では、一般的に系全体で均一な重合反応が行われ、分子量分布の狭い高分子の生成が期待できる。(R. G. Gilbert: Emulsion Polymerization: A mechanistic Approach; Academic Press: London,1995、A.Buttle, et al.:DECHEMA Monographs, 134, 497 (1998)参照。)
したがって、本願発明1や引用例発明で実施される、油相を水系媒体中に分散させた系で重合させた場合(本願明細書【0020】【0021】及び上記f参照)、分子量分布の狭い高分子が生成されるものと考えられるから、数平均分子量と重量平均分子量とは、数値に多少差が出てくるものの、桁数まで異なることは通常考えられない。
そこで、本願発明の重量平均分子量の数値と、引用例発明の数平均分子量の数値とを比較すると、前者が「9000?20万」であるのに対して後者は「2,000?500,000」となり、数値に違いがあるものの桁数までは大きく違わない。してみると、本願発明と引用例発明との間で、「重量
平均分子量」は大きく違わないということができる。

そもそも、樹脂微粒子は保存時や定着時にトナーバインダー樹脂とともに用いられることから、その分子量は当然トナーバインダー樹脂と同程度の範囲とすることは、当然である。そして、本願発明の樹脂微粒子の重量平均分子量「9000?20万」の範囲であることは、バインダー樹脂の重量平均分子量としては格別のものではない。

以上のことから、引用例発明において「重量平均分子量」を選択することに、格別の技術的困難性はない。
よって、相違点2に係る本願発明1の構成は、引用例発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

5-3.(本願発明1の作用効果)
本願発明1が奏する作用効果は、引用例1記載の発明及び従来周知の技術から、当業者が予測できる効果の総和であって格別のものではない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の請求項2以降に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-31 
結審通知日 2009-04-02 
審決日 2009-04-15 
出願番号 特願2002-333251(P2002-333251)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 柏崎 康司
特許庁審判官 山下 喜代治
淺野 美奈
発明の名称 静電荷像現像用トナー  
代理人 酒井 正己  
代理人 小松 秀岳  
代理人 加々美 紀雄  

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