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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1198199
審判番号 不服2007-26770  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-01 
確定日 2009-05-27 
事件の表示 特願2002-229665「魚釣用スピニングリ-ル」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日出願公開、特開2004- 65119〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年8月7日の出願であって、平成19年8月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月24日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成20年12月22日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成21年3月4日付けで回答書が提出された。

第2 平成19年10月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年10月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容及び補正後の本願発明
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする補正事項を含むものである。
「リール本体に支持された駆動軸に連動して回転する連動歯車の偏芯位置に形成された係合突起が、スプール軸の後部に取り付けられた摺動体の係合溝に係合して前記駆動軸の回転運動をスプール軸の直線往復運動に変換する往復動装置を備えた魚釣用スピニングリールにおいて、前記連動歯車の係合突起の外周にOリングからなる弾性体を嵌合することで、前記摺動体の係合溝と前記連動歯車の係合突起との間に前記Oリングからなる弾性体を介在して前記係合溝と係合突起とを摺接係合させ、前記摺動体の直線往復運動変換時における前記係合溝と係合突起との間に生じる隙間によるガタ付きを、前記弾性体で吸収したことを特徴とする魚釣用スピニングリール。」

上記補正事項は、本願の補正前の請求項1に記載の「摺動体の係合溝に介在されるOリングからなる弾性体に前記連動歯車の係合突起を挿入して摺接係合させ」ることについて、「連動歯車の係合突起の外周にOリングからなる弾性体を嵌合することで、前記摺動体の係合溝と前記連動歯車の係合突起との間に前記Oリングからなる弾性体を介在して前記係合溝と係合突起とを摺接係合させ」るものに限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

2.刊行物及びその記載内容
刊行物1:特開2002-34397号公報
刊行物2:特開平9-205949号公報
刊行物3:特開平7-203814号公報

原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物1には、次のことが記載されている。
(1a)「【0013】
【実施例】以下、図示の実施例によって本発明を説明すると、図1から図4は第1実施例で魚釣用リ-ルを魚釣用スピニングリ-ルで述べると、図1は魚釣用スピニングリ-ルの要部断面平面図、図2は魚釣用スピニングリ-ルの要部拡大断面平面図、図3は回転軸と歯車の分解拡大断面平面図、図4は回転軸と歯車の分解斜視図である。」、
(1b)「【0017】・・・回転軸筒5の中心孔5cには先端にスプ-ル18が取り付けられたスプ-ル軸7が前後往復動可能に摺動自在に挿入され、スプ-ル軸7の後端の回り止め部7aに摺動体8がビス19で取り付けられている。」、
(1c)「【0019】摺動体8は板状の本体部8aと突出部8bとで形成されている。本体部8aには縦方向の係合溝8cが形成され、突出部8bに横向きの回り止め透孔8dが形成されている。更に突出部8bには回り止め透孔8dと直交するビス孔8eが形成されてビス19が挿入されている。摺動体8はリ-ル本体1の前後方向に設けた図示しない軸杆によってスプ-ル軸7に対する回転方向の動きの規制を図りながら前後方向に移動案内可能に設けられている。摺動体8と連動歯車9の対向面は互いに接触しないように間隙が形成されて摺動体8を前後方向に移動案内している。
【0020】リ-ル本体1内の側壁面に軸筒からなる支持部1cが形成されて支持部1cに連動歯車9が転がり軸受28を介して軸承されると共に、側壁面に形成されたリブからなる環状の台部1d上に載せられている。連動歯車9は平歯車状に形成されて外周に歯部9aが形成され、中心に軸孔9bが形成されて一側面の偏心位置に係合突部9cが形成されている。連動歯車9の中心の軸孔9bに転がり軸受28が挿入されて転がり軸受28はリ-ル本体1内の軸筒からなる支持部1cに螺合されたビス29で抜け止めされている。連動歯車9の係合突部9cは摺動体8の係合溝8cに挿入されている。連動歯車9は回転軸2a外周に回り止め嵌合された歯車3に噛合されている。第1実施例では、歯車3と連動歯車9と摺動体8でスプ-ル18とスプ-ル軸7が前後往復動可能のオシレ-ト機構が構成されている。」。

これらの記載及び図面の記載によれば、刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。
「リール本体の回転軸2a外周に回り止め嵌合された歯車3に噛合されて回転する連動歯車9の偏心位置に形成された係合突部9cが、スプール軸7の後部に取り付けられた摺動体8の係合溝8cに係合して前記回転軸2aの回転運動をスプール軸7の直線往復運動に変換するオシレ-ト機構を備えた魚釣用スピニングリール。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物2には、次のことが記載されている。
(2a)「【請求項1】 本体ケーシングと、この本体ケーシングに回転可能に設けられた回転枠と、この回転枠の回転軸芯上で軸方向に往復移動するスプール軸と、このスプール軸の先端に設けられたスプールとを備えたスピニングリールにおいて、上記本体ケーシングに設けられるとともに、ハンドル軸の回転により回転されるオシレート歯車と、このオシレート歯車の回転により回転される回転体と、上記本体ケーシングの内面に形成されたカム溝と、このカム溝に挿入されるとともに、上記回転体に設けられた第一突部と、上記スプール軸の他端に設けられたオシレータと、このオシレータに形成されたガイド溝と、このガイド溝に挿入されるとともに、上記回転体に設けられた第二突部と、上記第一突部および上記第二突部の少なくともいずれか一方の外周に配設された筒状部材と、を備え、
上記筒状部材は、この筒状部材が直接接触する上記本体ケーシングまたは上記オシレータを形成する材料よりも軟質の材料で形成されていることを特徴とするスピニングリール。」、
(2b)「【0004】・・・ハンドル109を操作してハンドル軸102が回転すると、連結歯車103も回転し、オシレート歯車104が回転する。すると、長孔104aを貫通している従動ピン105がカム溝101aおよび長溝106aに沿って移動する。これにより、オシレータ106、ひいてはスプール108が図中左右方向にほぼ等速状態で往復動する。
【0005】また、従動ピンとカム溝との間にある程度の大きさのクリアランスを取り、摩擦抵抗を低減させ、スムーズな移動とすることも考えられる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上述のような構造では、従動ピンが傾くことによりスプールの移動にガタ付きが生じ、スムーズな移動が行なわれない。また、従動ピンが傾くことにより、長孔、カム溝、従動ピンが摩耗し易いといった問題点がある。・・・
【0007】また、クリアランスを設けた場合には、スプール軸の軸方向移動が安定せず、結果的にスプールとリール本体との間で移動時にガタが生じるといった問題点がある。
【0008】本発明は上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、スプールがほぼ等速運動するとともに、スプールの移動をスムーズにすることができ、各部品の耐久性を向上させることのできるスピニングリールを提供することを目的とする。」、
(2c)「【0015】また、図2において、リール本体1には軸受6を介して管軸7が回転可能に設けられており、この管軸7内にはハンドル軸8が挿着されている。さらに、管軸7には連結歯車部7aが設けられており、リール本体1に形成されたボス部1aに回転可能に設けられたオシレート歯車9に噛合されている。また、リール本体1の内面には、長軸が前後方向(図2中左右方向)になるような略楕円形状のカム溝1bが形成されている。また、オシレート歯車9の図2中上方には回転体10が配設されている。この回転体10はリール本体1の形成材料であるアルミニウムよりも強度的に強い材料であるステンレスで成形されている。また、この回転体10の適所には長孔10aが穿設されており、この長孔10a内にリール本体1のボス部1aが挿入されている。また、回転体10のリール本体1と対向する側の面には第一突部10bが形成されており、この第一突部10bはオシレート歯車9に形成された長孔9aを貫通して、リール本体1のカム溝1b内に係合されている。そして、この第一突部10bの外周にはリール本体1の形成材料であるアルミニウムよりも強度的に弱い材料であるとともに、潤滑性を有するポリアセタールで成形されたカラー11が回転可能に設けられている。このカラー11がリール本体1のカム溝1bと接触するため、回転体10がカム溝1bと直接接触することがなく、リール本体1のカム溝1bが磨耗等するのを有効に防止することができる。
【0016】一方、図3において、スプール軸4の基端部にはビス12を介してオシレータ13が固定されている。このオシレータ13には図3中上下方向に長い長溝13aが形成されている。この長溝13aには回転体10に形成された第二突部10cに回転可能に設けられたカラー14が移動可能に収納されている。ここで、このカラー14はオシレータ13を成形するアルミニウムよりも強度的に弱い材料であるとともに、潤滑性を有するポリアセタールで成形されている。このカラー14がオシレータ13の長溝13aと接触するため、回転体10が長溝13aと直接接触することがなく、オシレータ13の長溝13aが磨耗等するのを有効に防止することができる。」、
(2d)「【0034】
【発明の効果】本発明は、上述のように構成したことにより、摩擦抵抗を小さくすることができるので、釣糸の巻取を軽快に行なうことができる。また、本体ケーシングまたはオシレータに形成された溝の磨耗は、筒状部材が磨耗するため、減少させることができ、ひいてはスプールの軸方向の移動によるガタを抑えることができ、耐久性を向上させることができる。さらに、オシレート機構部に生じる微小なガタにより発生する振動を筒状部材が吸収するため、回転を円滑にすることができる。・・・」。

これらの記載及び図面の記載によれば、刊行物2には次の発明が記載されていると認められる。
「リール本体に支持されたハンドル軸に連動して回転するオシレート歯車の回転により回転される回転体10の偏心位置に形成された第一突部10bが、リール本体1のカム溝1bに係合し、回転体10の偏心位置に形成された第二突部10cが、スプール軸の後部に取り付けられたオシレータ13の長溝13aに係合して、前記ハンドル軸の回転運動をスプール軸の直線往復運動に変換するオシレート機構部を備えた魚釣用スピニングリールにおいて、
前記回転体の第一突部10b及び第二突部10cの外周に、潤滑性を有するポリアセタールで成形されたカラー11、14が回転可能に設けられ、
本体ケーシングまたはオシレータに形成された溝の磨耗を減少させることができ、ひいてはスプールの軸方向の移動によるガタを抑えることができる魚釣用スピニングリール。」(以下、「刊行物2記載の発明」という。)

原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物3には、次のことが記載されている。
(3a)「【請求項1】 ハンドルの回転を前後動運動に変換するリ-ル本体内に設けたオシレ-ティング機構の摺動子に先端部にスプ-ルを有するスプ-ル軸の後部を取り付けて該スプ-ル軸を前後動して成る魚釣用スピニングリ-ルにおいて、前記摺動子とリ-ル本体との間にころがり部材を介在させ、前記摺動子を前後方向にころがり案内させたことを特徴とする魚釣用スピニングリ-ル。」、
(3b)「【0006】本発明の目的は前記欠点に鑑み、摺動方式の滑り摩擦に対して転がり摩擦にすると共に、スプ-ル軸線に対する平行度の影響を緩和して軽快で円滑な巻取り操作性が得られる魚釣用スピニングリ-ルを提供することである。」、
(3c)「【0011】前記リ-ル本体1内の回転軸筒4のピニオン4aより前側に連動歯車20と逆転防止爪車21が回転軸筒4に回り止め嵌合されている。リ-ル本体1内にはスプ-ル軸18と平行にトラバ-スカム軸6が支承されている。トラバ-スカム軸6の先端には小歯車22が回り止め嵌合されて小歯車22は前記連動歯車20に噛合されている。前記トラバ-スカム軸6には前記摺動子5が嵌合されて摺動子5内に設けた係合子23がトラバ-スカム溝6aに係合されている。リ-ル本体1内の底面には前後方向の凹部の底面1aと縦壁面1bと、蓋体2の突出板2aの先端縦壁面2bで溝aが形成されている。
【0012】前記摺動子5にはスプ-ル軸18の後部が回り止め嵌合される貫通孔5aとトラバ-スカム軸6が貫通される貫通孔5bと係合子23が挿入される穴5cが形成されて一側に止め板24がビス25で固定されている。摺動子5の下側には凸軸5dが形成されてボ-ルベアリングからなるころがり部材7が嵌合されてビス26で取り付けられている。ころがり部材7はリ-ル本体1の溝aに挿入されている。摺動子5は金属や合成樹脂で形成されている。
【0013】前記魚釣用スピニングリ-ルの動作は、ハンドル10が回転されると・・・トラバ-スカム軸6が連動回転されて摺動子5とスプ-ル軸18が前後に往復動される。回転軸筒4が回転され、スプ-ル軸18が前後に往復動される時、摺動子5はころがり部材7がリ-ル本体1の溝aに挿入されているので、ころがり案内支持される。」、
(3d)「【0014】摺動子5がころがり案内支持される時、リ-ル本体1と摺動子5の摺接は転がり摩擦となり、・・・平行度の不具合による摩擦抵抗の増大は発生しない。・・・凸軸5dは細く形成して弾性を持たせて平行度の誤差を吸収してもよい。この時金属の摺動子5に細い合成樹脂製の凸軸5dを一体的に固定して積極的に弾性を持たせてもよい。
【0015】前記のように魚釣用スピニングリ-ルが構成されると、摺動子5がころがり案内支持されることで転がり摩擦となると共に、平行度の不具合による摩擦抵抗の増大は発生せず、軽快で円滑な巻取り操作性が得られ、摺動子5の回転方向のガタが極力防止できるので、耐久性が向上し、長期間、安定したオシレ-ト機能が得られる。」、
(3e)「【0024】第4実施例では、摺動子5の下側に2本の細い凸軸5e、5fが形成されている。凸軸5e、5fにはゴムなどの弾性体からなるころがり部材8が回転自在に夫々嵌合されてEリング27で抜け止めされている。ころがり部材8はリ-ル本体1の溝aの間に挿入されている。他の構成は前記第1実施例と略同一である。」。
(3f)【図8】には、次の図面が記載され、摺動子5の下側の2本の細い凸軸5e、5fに嵌合されたころがり部材8がリール本体の溝の壁に接触していることが示されている。


これらの記載によれば、刊行物3には次の発明が記載されていると認められる。
「ハンドルの回転を、ハンドル軸に連動して回転するトラバ-スカム軸6を介して摺動子5とスプ-ル軸18の前後動運動に変換するオシレ-ティング機構を有する魚釣用スピニングリ-ルにおいて、
前記リ-ル本体の溝a内を摺動する、摺動子5の凸軸5e、5fに、弾性体からなるころがり部材8を回転自在に嵌合し、前記摺動子5を前後方向にころがり案内させた魚釣用スピニングリ-ル。」(以下、「刊行物3記載の発明」という。)

3.対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「回転軸2a」、「係合突部9c」、「オシレ-ト機構」は、それぞれ補正発明の「駆動軸」、「係合突起」、「往復動装置」に相当し、刊行物1記載の発明において、「連動歯車9」は、「回転軸2a外周に回り止め嵌合された歯車3に噛合されて回転する」ものであるから、「駆動軸に連動して回転する」ものといえる。
したがって、両者は、
「リール本体に支持された駆動軸に連動して回転する連動歯車の偏芯位置に形成された係合突起が、スプール軸の後部に取り付けられた摺動体の係合溝に係合して前記駆動軸の回転運動をスプール軸の直線往復運動に変換する往復動装置を備えた魚釣用スピニングリール。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
補正発明では、連動歯車の係合突起の外周にOリングからなる弾性体を嵌合することで、前記摺動体の係合溝と前記連動歯車の係合突起との間に前記Oリングからなる弾性体を介在して前記係合溝と係合突起とを摺接係合させ、前記摺動体の直線往復運動変換時における前記係合溝と係合突起との間に生じる隙間によるガタ付きを、前記弾性体で吸収しているのに対し、刊行物1記載の発明は、係合突起の外周にOリングからなる弾性体を嵌合しておらず、上記作用を有していない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
刊行物2記載の発明は、駆動軸の回転運動をスプール軸の直線往復運動に変換する往復動装置(刊行物2記載の発明における「オシレート機構」)において、係合溝(同「カム溝1b」及び「長溝13a」)に係合する係合突起(同「第一突部10b」及び「第二突部10c」)に、潤滑性を有するポリアセタールで成形されたカラーを設けることで、係合溝の摩耗を防止し、ガタの発生を防止しようとするものであり、係合溝と係合突起間のガタ付きを防止することは、公知の課題であったことが示されている。
一方、刊行物3記載の発明は、トラバースカム軸を用い、駆動軸の回転運動をスプール軸の直線往復運動に変換する往復動装置(刊行物3記載の発明における「オシレ-ティング機構」)において、リ-ル本体1の溝aに係合する、摺動子5の凸軸に、弾性体からなるころがり部材8を回転自在に嵌合するものである。
そして、刊行物3には、「弾性体からなるころがり部材8」を示す【図8】に、ころがり部材8がリール本体の溝の壁に接触していることが示されており(記載事項(3f))、さらに「ころがり部材8が回転自在に夫々嵌合されてEリング27で抜け止めされている。」(記載事項(3e))と記載されていることからみて、「弾性体からなるころがり部材8」は、摺動子5の下側の凸軸に嵌合するリング状のものと認められる。
また、刊行物3には、摺動子5の凸軸を細く形成して弾性を持たせると、平行度の不具合による摩擦抵抗の増大は発生せず、摺動子5の回転方向のガタが極力防止できることが記載されており(記載事項(3d))、凸軸に嵌合するころがり部材に弾性を待たせることによっても同様の作用、すなわち係合溝(リール本体の溝)と係合突起(摺動子5の凸軸)の間に生じる隙間によるガタ付きを、ころがり部材の弾性により吸収することが示唆されている。
そうすると、刊行物1記載の発明において、係合溝と係合突起間のガタ付きを防止するために、係合突起に弾性体からなるOリングを嵌合することは、刊行物2、3記載の発明に基づいて当業者が容易になしうることである。

なお、請求人は、回答書において、刊行物3における技術思想は、補正発明のように、スプール軸方向に沿った方向のガタ付きを防止するものではなく、摺動子5の「回転方向」のガタを防止するものである旨主張する。
しかし、刊行物3記載の発明は、係合溝(リール本体の溝)の方向が補正発明の係合溝とは異なるとしても、係合突起(摺動子5の凸軸)に嵌合する部材に弾性を待たせることで、係合溝と係合突起間に生じる隙間によるガタ付きを防止しようとするものであり、刊行物1記載の発明に、刊行物3記載の発明を適用することが困難であるとはいえない。

そして、補正発明の効果は、刊行物1ないし3記載の発明から当業者が予測しうる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

したがって、補正発明は、刊行物1ないし3記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成19年10月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成19年6月6日受付の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によ
り特定される次のとおりのものである。
「リール本体に支持された駆動軸に連動して回転する連動歯車の偏芯位置に形成された係合突起が、スプール軸の後部に取り付けられた摺動体の係合溝に係合して前記駆動軸の回転運動をスプール軸の直線往復運動に変換する往復動装置を備えた魚釣用スピニングリールにおいて、前記摺動体の係合溝に介在されるOリングからなる弾性体に前記連動歯車の係合突起を挿入して摺接係合させ、前記摺動体の直線往復運動変換時における前記係合溝と係合突起との間に生じるガタ付きを、前記弾性体で吸収したことを特徴とする魚釣用スピニングリ-ル。」

2.刊行物の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物1ないし3の記載内容は、前記「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
請求項1に係る発明は、前記「第2」で検討した補正発明における、「連動歯車の係合突起の外周にOリングからなる弾性体を嵌合する」との限定事項を省略し、「摺動体の係合溝に介在されるOリングからなる弾性体に前記連動歯車の係合突起を挿入して摺接係合させ」としたものである。
そうすると、請求項1に係る発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する補正発明が、前記「第2 4.」に記載したとおり、刊行物1ないし3記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明も、同様の理由により、刊行物1ないし3記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-26 
結審通知日 2009-03-30 
審決日 2009-04-13 
出願番号 特願2002-229665(P2002-229665)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01K)
P 1 8・ 575- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上田 泰中村 圭伸関根 裕  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 伊波 猛
家田 政明
発明の名称 魚釣用スピニングリ-ル  
代理人 水野 浩司  

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