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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03C
管理番号 1198490
審判番号 不服2007-2474  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2009-06-11 
事件の表示 平成10年特許願第292853号「熱現像感光材料および熱現像方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 4月21日出願公開、特開2000-112060〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年9月30日の出願であって、平成18年10月16日付けで手続補正がなされ、同年12月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年1月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月9日に手続補正がなされたものであって、その後、平成20年10月31日付けで当審からの拒絶理由が通知され、これに対して、平成21年1月5日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成21年1月5日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
潜像を形成した熱現像感光材料を熱現像部にて加熱手段に接触させることにより可視像を得る熱現像装置であって、前記加熱手段がプレートヒータからなり、かつ前記プレートヒータの一方の面に沿って複数個の押えローラが対向配設され、前記押えローラと前記プレートヒータとの間に前記熱現像感光材料を通過させて熱現像を行うことを特徴とする熱現像装置により熱現像される熱現像感光材料であって、
支持体上の一方の側に、感光性ハロゲン化銀、還元剤、非感光性有機銀塩およびバインダーを有する熱現像感光材料において、前記支持体に対して該感光性ハロゲン化銀を含有する層とは反対側の面に、最外表面層または最外表面層として機能する層としてマット剤を含有する層が設けられており、前記マット剤は、示差走査熱量計により測定して、相変化に起因する吸熱が生じ始める軟化温度が100℃以上250℃以下であって、粒子状であって、数平均粒径が6.4?8.6μmの有機化合物であることを特徴とするプレートヒータ方式用熱現像感光材料。」

3.引用刊行物
(1)刊行物
当審の拒絶理由において、刊行物2として引用された、本願の出願前に頒布された特開平10-20436号公報(以下、「刊行物A」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。)

(a)「【請求項1】 支持体の一方の面に、有機銀塩、感光性ハロゲン化銀、還元剤および超硬調化剤を有する熱現像感光材料において、
導電性金属酸化物および/または導電性高分子化合物を含むポリマー層を有することを特徴とする熱現像感光材料。」(【特許請求の範囲】)

(b)「【0176】本発明における熱現像感光材料は、前述のように、支持体の一方の側に少なくとも1層のハロゲン化銀乳剤を含む感光層を有し、他方の側にバック層(バッキング層)を有する、いわゆる片面感光材料であることが好ましい。
【0177】本発明において片面感光材料は、搬送性改良のためにマット剤を添加しても良い。・・・。マット剤としては任意のものを使用でき、・・・。例えば具体的にはマット剤として用いることのできる有機化合物の例としては、水分散性ビニル重合体の例としてポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-α-メチルスチレン共重合体、ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ポリビニルアセテート、ポリエチレンカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなど、セルロース誘導体の例としてはメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなど、澱粉誘導体の例としてカルボキシ澱粉、カルボキシニトロフェニル澱粉、尿素-ホルムアルデヒド-澱粉反応物など、公知の硬化剤で硬化したゼラチンおよびコアセルベート硬化して微少カプセル中空粒体とした硬化ゼラチンなど好ましく用いることができる。無機化合物の例としては・・・。マット剤の大きさ、形状に特に限定はなく、任意の粒径のものを用いることができる。本発明の実施に際しては0.1μm?30μmの粒径のものを用いるのが好ましい。・・・。
【0178】本発明においてバッキング層のマット度としてはベック平滑度が250秒以下10秒以上が好ましく、さらに好ましくは180秒以下50秒以上である。
【0179】本発明において、マット剤は感光材料の最外表面層もしくは最外表面層として機能する層、あるいは外表面に近い層に含有されるのが好ましく、またいわゆる保護層として作用する層に含有されることが好ましい。」

(c)「【0180】本発明においてバッキング層の好適なバインダーは透明または半透明で、一般に無色であり、天然ポリマー合成樹脂やポリマーおよびコポリマー、その他フィルムを形成する媒体、例えば:ゼラチン、・・・がある。」(【0180】)

(d)「【0202】
【実施例】
実施例1
《有機酸銀乳剤の調製》・・・ゲル状のベヘン酸/ステアリン酸銀および臭化銀の混合物をポリビニルブチラール・・・で分散し、さらにポリビニルブチラール・・・に分散し有機酸銀塩乳剤(平均短径0.05μm、平均長径1.2μm、変動係数25%の針状粒子)を得た。
《乳剤層塗布液の調製》上記で得た有機酸銀乳剤に銀1モル当たり以下の量となるように各薬品を添加した。・・・還元剤としてR-I-5を0.3モル・・・を撹拌しながら添加した。・・・
《乳剤面保護層塗布液》・・・を調製した。
《バック面を有した支持体の作成》両面が塩化ピニリデンを含む下塗りからなる100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、支持体から近い順に下記処方の導電層および保護層を順次塗布した。
(1) 導電層
・・・
(2) 保護層
ケミパールS-120(三井石油化学K.K製) 33mg/m^(2)
(ポリオレフィン水性分散物)
マット剤(ポリメチルメタクリレート粒子、 20mg/m^(2)
平均粒子サイズ 5.0μm)
スノーテックスC(日産化学K.K製) 17mg/m^(2)
化合物-1 5mg/m^(2)
化合物-3 5mg/m^(2)
ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム 2mg/m^(2)
メガファックスF-176P 3mg/m^(2)
・・・
《感光層面の塗布》上記のバック面を塗布した支持体の反対側の面に、乳剤層塗布液を銀が2g/m^(2)となるように塗布した後、乳剤面上に乳剤面保護層塗布液を乾燥厚さ2μmとなるように塗布した。こうして、本発明のサンプル1を作成した。
【0212】《比較サンプルの作成》本発明のサンプル1のバック面の導電層と保護層を除き、・・・以下の塗布量となるように水溶液でバック層とバック面表面保護層を順次塗布した。バック層塗布量はゼラチン1.5g、・・・であり、バック面表面保護層はゼラチン1.5g、平均粒径2.5μmのポリメチルメタクリレート20mg、・・・である。
・・・その他はサンプル1と全く同様にして比較サンプル1Aを作成した。
・・・《写真性能の評価》・・・感光材料を露光した後、バック面をヒートドラムに120℃20秒接触させて現像し、得られた画像の評価を濃度計により行った。」(【0202】?【0219】)

これらの記載によれば、刊行物Aには次の発明(以下、「刊行物A発明」という。)が記載されているものと認められる。

「支持体の一方の側に、感光性ハロゲン化銀、還元剤、有機銀塩およびバインダーを有する熱現像感光材料において、搬送性改良のために、バッキング層であって、最外層または最外表面層として機能する層に、マット剤として有機化合物の微粒子であって、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のマット剤を含有する熱現像感光材料。」

(2)対比・検討
本願発明におけるマット剤には、本願明細書段落【0021】の記載から明らかなとおり、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のマット剤が含まれる。
一方、刊行物A発明のマット剤は微粒子であるから、粒子状といえる。
また、刊行物Aの「バッキング層であって、最外層または最外表面層として機能する層に、マット剤として有機化合物の微粒子であって、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のマット剤を含有する」ことと、本願発明の「支持体に対して該感光性ハロゲン化銀を含有する層とは反対側の面に、最外表面層または最外表面層として機能する層としてマット剤を含有する層が設けられており、前記マット剤は、示差走査熱量計により測定して、相変化に起因する吸熱が生じ始める軟化温度が100℃以上250℃以下であって、粒子状であって、数平均粒径が6.4?8.6μmの有機化合物である」ことは、「支持体に対して該感光性ハロゲン化銀を含有する層とは反対側の面に、最外表面層または最外表面層として機能する層としてマット剤を含有する層が設けられており、前記マット剤は粒子状であって、有機化合物である」点で共通する。

よって、本願発明と、刊行物A発明とは、
「支持体の一方の側に、感光性ハロゲン化銀、還元剤、有機銀塩およびバインダーを有する熱現像感光材料において、バッキング層あるいは最外層または最外表面層として機能する層としてマット剤を含有する層が設けられており、前記マット剤が粒子状であって、有機化合物である、熱現像感光材料。」
である点で一致し、以下の相違点1ないし3で相違する。

相違点1:本願発明は、「潜像を形成した熱現像感光材料を熱現像部にて加熱手段に接触させることにより可視像を得る熱現像装置であって、前記加熱手段がプレートヒータからなり、かつ前記プレートヒータの一方の面に沿って複数個の押えローラが対向配設され、前記押えローラと前記プレートヒータとの間に前記熱現像感光材料を通過させて熱現像を行うことを特徴とする熱現像装置により熱現像される熱現像感光材料」であって、「プレートヒータ方式用熱現像感光材料」であるのに対し、刊行物A発明は、そのような特定がない点。

相違点2:マット剤に関し、本願発明は、「示差走査熱量計により測定して、相変化に起因する吸熱が生じ始める軟化温度が100℃以上250℃以下のマット剤」であるのに対し、刊行物A発明は、「ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のマット剤」であるものの、軟化温度についての特定がない点。

相違点3:マット剤に関し、本願発明は、「数平均粒径が6.4?8.6μm」であるのに対し、刊行物A発明には、数平均粒子の範囲の特定がない点。

まず、上記相違点1について検討する。
相違点1の「潜像を形成した熱現像感光材料を熱現像部にて加熱手段に接触させることにより可視像を得る熱現像装置であって、前記加熱手段がプレートヒータからなり、かつ前記プレートヒータの一方の面に沿って複数個の押えローラが対向配設され、前記押えローラと前記プレートヒータとの間に前記熱現像感光材料を通過させて熱現像を行うことを特徴とする熱現像装置により熱現像される熱現像感光材料」、「ブレートヒータ方式用熱現像感光材料」との発明特定事項については、熱現像記録材料がその熱現像の際どのような現像手段によってなされるかは任意に選択できるものであって、この発明特定事項自体に熱現像記録材料の構成における格別な技術的意義はない。
そして、刊行物A発明では、具体的には、「バック面をヒートドラムに120℃20秒接触させて現像」されることが記載されているが、同じく、熱現像装置として、「前記加熱手段がプレートヒータからなり、且つ該プレートヒータの一方の面に沿って複数個の押さえローラが対向配設され、該押さえローラと前記プレートヒータとの間に前記熱現像感光材料を通過させて」加熱する方法は周知である。(特開昭57-27260号公報(第1図?第4図)、特開平6-186723号公報【図7】。)

よって、刊行物1発明において、これら周知の熱現像装置を用いて、上記相違点1の構成を採用することは、適宜為しうることである。

次に上記相違点2について検討する。
刊行物A発明において、マット剤は搬送性改良のために含有させるものであるから、熱現像装置での搬送性を考慮して、マット剤を選択することは当業者の創意工夫の範囲内である。

そして、上記相違点1で検討したとおり、刊行物1発明において本願発明記載の熱現像装置を適用することは適宜なし得ることであるが、その際、当該熱現像装置での搬送性、すなわち、熱現像時にマット剤を含有する層が接触する熱現像部での加熱手段、特に、その加熱温度下における、摩擦特性を改良すべくマット剤を選択することも、当業者の創意工夫の範囲であると認められる。
加えて、例えば、特開平10-197983号公報の段落【0006】?【0007】には、熱現像感光材料において、ポリメチルメタクリレートなどのガラス転移温度のポリマーの微粒子を添加する例では、100℃以上といった高温で熱現像する場合、現像中にマット剤が変形してマット剤の効果が低減し、形状の規定されていないシリカ微粒子は、表面がざらつくという問題がある旨が記載されているように、熱現像感光材料において、熱変形、表面の粗さを考慮して、マット剤を選択することは、当然考慮すべき技術課題である。
してみると、刊行物Aに記載されたマット剤より、加熱下でも変形せず、滑性が期待できるポリテトラフルオロエチレンを選択したり、具体的に使用されたポリメチルメタクリレートより耐熱性を向上させた、架橋ポリメチルメタクリレートを用いることは当業者が容易になし得たことである。
また、出願人が審判請求における請求の理由で、軟化温度100℃のマット剤として示した「ポリスチレン」、その架橋型で、より高い軟化温度を調整しうる「スチレン-ジビニルベンゼン共重合体」等を、摘記事項(b)に示した刊行物Aに記載された有機化合物のなかから選択することも当業者が容易になし得たことである。
その軟化温度の数値範囲については、下限値は、120℃にてプレートヒータに接することから、120℃付近での軟化の程度を考慮して決定すべきであり、上限値は、同じくプレートヒータに対する硬さを考慮して決定すべきであるように、当業者が搬送性の向上を考慮して適宜決定できる事項である。
そして、下限値に関する比較例も軟化温度が、「示差走査熱量計により測定して、相変化に起因する吸熱が生じ始める軟化温度」であるところ、90℃と低く、120℃での相変化の程度が高いと予測される。
さらに、上限値に関する比較例は1000℃以上であり、しかも、形状の規定されていないシリカ微粒子であり表面が粗くなるものであるから、ヒータ面の傷の作用効果に関する軟化温度の範囲の臨界的意義は認められない。

したがって、本願発明は、刊行物Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

相違点3について、検討する。
刊行物Aには、マット剤として、「0.1?30μmの粒径のものを用いることが好ましい」と記載され、「平均粒子サイズ 5.0μm」のものを用いているが、上記相違点2についての検討したことと同様に、適用される熱現像装置に対応して、マット剤を選択することは当業者の創意工夫の範囲であり、粒径の範囲も当業者が必要に応じて決定しうることである。
そして、本願出願当初明細書の段落【0023】に「上記のマット剤は必要に応じて異なる種類の物質を混合して用いることができる。マット剤の大きさは数平均粒径が0.2μm 以上30μm 以下であることが好ましく、1μm 以上15μm 以下であることがさらに好ましい。」と記載されていたように、本願発明の「数平均粒径が6.4?8.6μm」との限定に格別の技術的意義がないことは明らかである。
また、搬送性を考慮してのマット剤の作用効果は、搬送される媒体の表面より、該マット剤がどの程度突出しているかが、大きく作用するところ、本願明細書には、特定の組成、固形分塗布量のハレーション防止層塗布液およびバック面保護層塗布液を塗布した場合のみが記載されていることから、「数平均粒径が6.4?8.6μm」との数値範囲は、特定の状態下での範囲の決定したにすぎないといえる。

上記の相違点1ないし3に係る構成を合わせてみても、熱現像装置を適用することに伴い、マット剤の耐熱性の指標となる軟化点や、粒径を調整することは当業者の通常の創作能力の発揮であるから、この点に進歩性は見出せない。

そして、マット剤が搬送性を考慮して選択される点からみて、当業者の予測しえない顕著な効果であるとも認められない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物Aに記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-09 
結審通知日 2009-04-14 
審決日 2009-04-27 
出願番号 特願平10-292853
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 伊藤 裕美
赤木 啓二
発明の名称 熱現像感光材料および熱現像方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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