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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60B
管理番号 1199310
審判番号 不服2007-18714  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-05 
確定日 2009-06-18 
事件の表示 特願2005-322321「車輪用軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月24日出願公開、特開2007-126087〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成17年11月7日の出願であって、平成19年5月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年7月5日に拒絶査定に対する不服の審判請求がなされるとともに、平成19年8月6日付けで手続補正がなされたものである。

2 平成19年8月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年8月6日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本願補正発明について
平成19年8月6日付け手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、
外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、
前記車体取付フランジに前記ナックルに締結される4つのボルト孔が形成され、このボルト孔の周辺を避けて、前記各ボルト孔間の外周にR形状の切欠き部が形成された車輪用軸受装置において、
前記複列の転動体のうちアウター側の転動体のピッチ円直径がインナー側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定されると共に、前記複列の転動体の外径が同じで、前記アウター側の転動体の個数が前記インナー側の転動体の個数よりも多く設定され、前記ボルト孔のピッチをX、Yとした時、荷重方向のピッチYと、荷重方向と直交するピッチXが等しくなるように設定されていることを特徴とする車輪用軸受装置。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ナックルに締結される4つのボルト孔」について「荷重方向のピッチYに対して、荷重方向と直交するピッチXがX≦Y、好ましくは両ピッチX、Yが等しくなるように設定」を「ピッチX、Yが等しくなるように設定」とするものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)原査定の拒絶の理由に引用した文献等の記載
[刊行物1]原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本件特許出願前に頒布された刊行物である、特開2004-108449号公報(以下「引用例」という。)には、車両用や各種産業機器等に適用する転がり軸受装置に関して、次の技術事項が記載されている。
(ア)「【0023】
本実施形態では、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、上述した構成を有する転がり軸受装置100の場合、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックル(不図示)に固定され、ハブ軸2のフランジ15の車両アウタ側に車輪(不図示)が取り付けられる。このとき、外輪1のフランジ14とハブ軸2のフランジ15との間には環状の自由空間11が存在する。本実施形態では、この環状の自由空間11に着目して、図1に示すように、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D1と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D2との関係をD1>D2に設定している。但し、このD1>D2の関係は、D1を大きく設定することにより実現し、D2は一定とする。これに伴い、ハブ軸2の軌道面16を内輪3の軌道面17よりも拡径し、あわせて外輪1の車両アウタ側の軌道面12を車両インナ側の軌道面13よりも拡径している。」
(イ)「 【0029】
この試験に用いた転がり軸受装置100は、車両インナ側の玉5について、D2=49mm、直径は12.7mm、介装数は11個とし、車両アウタ側の玉4については、その直径を玉5と同じ12.7mmとした。この試験では、車両アウタ側の玉4について、D1および介装数をいろいろ変化させて転がり軸受装置100の剛性および寿命を確認した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【0031】
【表1】
表1において、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【0032】
試料2では、D1をD2の149%とし、玉4の介装数を16個としている。この場合、転がり軸受装置100は、従来例との比較において、剛性が84%と向上しており、寿命も玉4側が257%、玉5側が121%と向上している。しかも、試料1との比較においても、剛性、寿命ともに向上している。」
(ウ)通常、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックルにボルトで固定されることがであるから、図1におけるフランジ14の貫通孔はナックルを固定するボルト孔であることが明らかである。

これら記載事項(ア)?(ウ)及び図1を総合すれば、引用例には、実質的に、次の発明が記載されているものと認められる。
「外周にナックルに取り付けられるためのフランジ14を一体に有し、内周に複列の外側軌道面12,13が形成された外輪1と、外周に前記複列の外側軌道面12,13に対向する複列の内側軌道面16,17が形成されたハブ軸2と、このハブ軸2と前記外輪1の両軌道面間に転動自在に収容された複列の玉群4,5とを備え、前記フランジ14に前記ナックルに締結されるボルト孔が形成され、前記複列の玉群のうち車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D1が車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D2よりも大径に設定されると共に、前記複列の玉群4の外径が同じで、前記アウター側の玉群4の個数が前記インナー側の玉群5の個数よりも多く設定された転がり軸受装置100。」(以下「引用発明」という。)

[刊行物2]原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された、本件特許出願前に頒布された刊行物である、特開2005-308134号公報(以下「刊行物2」という。)には自動車の車輪の懸架装置に用いられる複列アンギュラ型の転がり軸受ユニットが記載されており、図3とともに次の技術事項が記載されている。
(エ)「【0040】
上記外輪1の軸方向中間部で複列の外輪軌道7、7の間部分に取付孔10bを、この外輪1の内外両周面同士を連通させる状態で、水平方向に形成している。そして、この取付孔10bに上記センサユニット21を挿通し、このセンサユニット21の先端部22を、上記外輪1の内周面から突出させている。従って、この先端部22に設置した上記各公転速度検出用センサ23a、23bの検出面は上記各公転速度検出用エンコーダ25a、25bの被検出面の上下方向中間部に、軸方向に対向する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【0044】
逆に言えば、上記各公転速度検出用センサ23a、23bの検出面が上記各公転速度検出用エンコーダ25a、25bの被検出面の上端部又は下端部に対向する状態に組み付ける事はできない。これに対して、図3の(B)に示す様に、静止側フランジ27の四隅部に形成した4個の取付孔28a?28dのうち、隣り合う取付孔28a?28d同士のピッチA?Dを総て同じ(A=B=C=D)にすると、上記各公転速度検出用センサ23a、23bの検出面が上記各公転速度検出用エンコーダ25a、25bの被検出面の上端部又は下端部に対向する、好ましくない状態に組み付けられる可能性を生じる。この様に、組立作業者が特に注意しないと、この様な好ましくない状態に組み立てられる構造は、(所定方向に組み付ける限り)先に特許出願を行なった、特願2003-387380号に係る発明の技術的範囲には属しても、本発明の技術的範囲からは外れる。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較すると、
引用発明の「転がり軸受装置100」は、本願補正発明の「車輪用軸受装置」に相当し、以下、「ハブ軸2」は「内方部材」に、「外側軌道面12,13」は「外側転走面」に、「外輪1」は「外方部材」に、「フランジ14」は「車軸取付フランジ」に、「複列の内側軌道面16,17」は「内側転走面」に、「複列の玉群」は「複列の転動体」に、「ボルト孔」は「ボルト孔」に、「車両アウタ側の玉群4」は「アウター側の転動体」に、「車両インナ側の玉群5」は「インナー側の転動体」にそれぞれ相当している。

このことから、本願補正発明と引用発明とは、
「外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、前記車体取付フランジに前記ナックルに締結されるボルト孔が形成され、前記複列の転動体のうちアウター側の転動体のピッチ円直径がインナー側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定されると共に、前記複列の転動体の外径が同じで、前記アウター側の転動体の個数が前記インナー側の転動体の個数よりも多く設定された車輪用軸受装置」の点で一致し、
以下の点で相違する。
相違点:ナックルに締結されるボルト孔が形成された車体取付フランジについて、本願補正発明では「4つのボルト孔が形成され、このボルト孔の周辺を避けて、各ボルト孔間の外周にR形状の切欠き部が形成され、ボルト孔のピッチをX、Yとした時、荷重方向のピッチYと、荷重方向と直交するピッチXが等しくなるように設定されている」のに対し、引用発明においては、このような構成が明らかでない点。

(4)判断
そこで、上記相違点について検討する。
ナックルに締結されるボルト孔が形成された車体取付フランジについて、「4つのボルト孔が形成され、このボルト孔の周辺を避けて、各ボルト孔間の外周にR形状の切欠き部が形成され」た車体取付フランジは従来周知である(例えば、特開2001-253206号公報の図3,4、上記刊行物2の図2,3参照)。
また、一般に車体取付フランジを4つのボルトで締結する際、4つのボルト孔を円周方向等間隔位置に設定することは上記刊行物2の図3(B)及び上記(2)の記載事項(エ)から明らかなように、設計上ごく当然のことであるから(特開2001-105806号公報の【0008】【発明が解決しようとする課題】の「従来の車輪用軸受装置では、ハブ輪1を回転自在に支持する車軸軸受4を構成する外輪15を製作する上で、その外輪15のフランジ25の円周方向等間隔位置にナックル14に固定するための複数の雌ねじ26を螺設しなければならない・・・」の記載を参照)、従来周知である「4つのボルト孔が形成され、このボルト孔の周辺を避けて、各ボルト孔間の外周にR形状の切欠き部が形成され」た車体取付フランジにナックルを締結する際に4つのボルト孔を円周方向等間隔位置に、そのピッチが等しくなるように設定することは設計的な事項に過ぎない。
さらに、刊行物2におけるセンサユニット21は水平方向に形成された取付孔10bに挿通されている(上記(2)の記載事項(エ))ことから、刊行物2の図(B)のピッチAとピッチBは水平方向のセンサユニット21の取付孔10bと垂直方向に、そしてピッチCとピッチDは水平方向あると認められる。
車輪用軸受装置の車体取付フランジには、荷重は垂直方向にかかること(必要であれば、原査定の拒絶の理由に引用文献7として引用された特開2005-291457号公報の図6を参照)を考慮すれば、刊行物2における垂直方向のピッチAあるいはピッチBは本願補正発明の「荷重方向」となり、刊行物2における水平方向のピッチCあるいはピッチDは本願補正発明の「荷重方向と直交する方向」となる。
刊行物2のピッチAあるいはピッチBは本願補正発明の荷重方向のピッチYに、刊行物2のピッチCあるいはピッチDは本願補正発明の荷重方向と直交するピッチXに相当することになり、荷重方向と荷重方向と直交する方向にそれぞれピッチを設定していることが刊行物2の図(B)に記載されているといえるから、ピッチの等しい4つのボルト孔を荷重方向のピッチと、荷重方向と直交するピッチとすることは刊行物2の記載事項や図3(B)から当業者であれば容易に成し得たものといえる。
してみれば、引用発明のナックルに締結される車体取付フランジのボルト孔について、上記相違点の構成、すなわち「4つのボルト孔が形成され、このボルト孔の周辺を避けて、各ボルト孔間の外周にR形状の切欠き部が形成され、ボルト孔のピッチをX、Yとした時、荷重方向のピッチYと、荷重方向と直交するピッチXが等しくなるように設定されている」構成となすことは引用発明、刊行物2の記載事項および周知技術から当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、刊行物2の記載事項および周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2の記載事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願発明について
(1)本願第1発明
平成19年8月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成19年2月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
外周にナックルに取り付けられるための車体取付フランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、
外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体とを備え、
前記車体取付フランジに前記ナックルに締結される4つのボルト孔が形成され、このボルト孔の周辺を避けて、前記各ボルト孔間の外周にR形状の切欠き部が形成された車輪用軸受装置において、
前記複列の転動体のうちアウター側の転動体のピッチ円直径がインナー側の転動体のピッチ円直径よりも大径に設定されると共に、前記複列の転動体の外径が同じで、前記アウター側の転動体の個数が前記インナー側の転動体の個数よりも多く設定され、前記ボルト孔のピッチをX、Yとした時、荷重方向のピッチYに対して、荷重方向と直交するピッチXがX≦Y、好ましくは両ピッチX、Yが等しくなるように設定されていることを特徴とする車輪用軸受装置。」(以下「本願第1発明」という。)

(2)刊行物等
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物等、および、その記載事項は、前記「2(2)」に記載したとおりである。

(3)判断
本願第1発明は、前記「2」で検討した本願補正発明の限定事項である「ナックルに締結される4つのボルト孔」について「ピッチX、Yが等しくなるように設定」を「荷重方向のピッチYに対して、荷重方向と直交するピッチXがX≦Y、好ましくは両ピッチX、Yが等しくなるように設定」とするものである。
そうすると、本願第1発明の構成要件の「ピッチXがX≦Y、好ましくは両ピッチX、Yが等しくなる」を限定した「ピッチX、Yが等しくなる」とする構成要件の本願補正発明が、前記「2(4)」に記載したとおり、引用発明、刊行物2の記載事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願第1発明も、同様の理由により、引用発明、刊行物2の記載事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願第1発明は、引用発明、刊行物2の記載事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-17 
結審通知日 2009-04-20 
審決日 2009-05-07 
出願番号 特願2005-322321(P2005-322321)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60B)
P 1 8・ 575- Z (B60B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小関 峰夫  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 中川 真一
渡邉 洋
発明の名称 車輪用軸受装置  
代理人 越川 隆夫  

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