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審決分類 審判 全部無効 特29条の2  B60N
管理番号 1199597
審判番号 無効2008-800248  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-11-07 
確定日 2009-06-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第4136457号発明「車両用カーペット及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4136457号の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
(1)本件特許第4136457号に係る発明についての出願は、平成14年5月24日に特許出願され、平成20年6月13日にその発明について特許の設定登録がなされた。
(2)これに対し、請求人は、平成20年11月7日に本件特許無効審判を請求した。
(3)当審において、平成20年11月27日付けで、被請求人に対して審判請求書の副本を送達(送達日 同年12月2日)し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もなかった。

II.本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】 表皮材層と、不織布からなる吸音層とが、接着樹脂層を介して一体化されてなる車両用カーペットにおいて、前記接着樹脂層が熱可塑性樹脂をTダイ型押出し機により糸状に溶融押出しされた通気性のある接着樹脂層からなり、かつ前記カーペットの厚さ方向の通気度が1?50(cm^(3)/cm^(2)・秒)であることを特徴とする車両用カーペット。
【請求項2】 前記不織布吸音層の厚さが1?15mm、前記吸音層の見掛け密度が0.01?0.5g/cm^(3)、前記吸音層を構成する繊維の繊度が0.1?30dtexの範囲である請求項1記載の車両用カーペット。
【請求項3】 前記接着樹脂層の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項1又は2記載の車両用カーペット。
【請求項4】 前記接着樹脂層の熱可塑性樹脂は、メルトフローレートが1?100で、塗布量が50?500g/m^(2)で、Tダイ型押出し機により糸状に溶融押出しされた通気性のある接着樹脂層を介して表皮材層と、不織布吸音層とが接着一体化されてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両用カーペット。
【請求項5】 連続的に供給される前記表皮材と、吸音不織布とが重ね合わされる直前に、重ね合わせ面に熱可塑性樹脂をTダイ型押出し機により、単列または複数列の糸状に溶融押出しし、表皮材と、吸音不織布とを加圧冷却し、通気性を残した状態で接着一体化することを特徴とする車両用カーペットの製造方法。」

III.当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、「第4136457号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」(請求の趣旨)との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第7号証を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。
(1)無効理由1
本件発明1?5は、本件特許の出願日前に特許出願され、本件特許の出願後に出願公開された特許出願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明であるから、本件発明1?5に係る本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件発明1?5は、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3
発明の詳細な説明は、本件発明1?5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明が記載されておらず、さらに特許請求の範囲の記載が不明確であり、本件特許は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号又は同条同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証:特願2002-26870号(特開2003-225153号 )
・甲第2号証:秋山節,「くもの巣状ホットメルト接着剤」,コンバーテック,加工技術研究会,1992年2月15日,第20巻,第2号,p.27-30
・甲第3号証:特開平5-293906号公報
・甲第4号証:特開2001-161541号公報
・甲第5号証:特開平5-117954号公報
・甲第6号証:特開平7-223478号公報
・甲第7号証:化学大辞典編集委員会,「化学大辞典9」,共立出版株式会社,昭和59年3月15日,p.242-245

2.被請求人の主張
被請求人は、指定した期間内に答弁書を提出しておらず、何も主張していない。

IV.甲号証記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証(特願2002-26870号(特開2003-225153号 ))の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、次の事項が記載されている。

a.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 カーペット表層部と、カーペット表層部の裏面に位置するバッキング部と、カーペット表層部とバッキング部との間に熱可塑性樹脂接着剤が存在するカーペットであり、該バッキング部が繊維集合体からなり、該熱可塑性樹脂接着剤が、一方向に間隔を開けて筋状に配列し、該熱可塑性樹脂接着剤を介してカーペット表層部とバッキング部とが接合していることを特徴とする通気性カーペット。
【請求項2】 熱可塑性樹脂接着剤が、10cmあたり10?40本筋状に配列しており、該接着剤の存在領域率(面積率)が20?90%であることを特徴とする請求項1記載の通気性カーペット。
【請求項3】 バッキング部を構成する繊維集合体が、面密度が100?2000g/m^(2)、厚みが1?40mmの固綿であることを特徴とする請求項1または2記載の通気性カーペット。
【請求項4】 カーペット表層部と、繊維集合体からなるバッキング部との間に、溶融させた熱可塑性樹脂接着剤を筋状に溶出し、一対の押圧ロール間に導入して圧接し、カーペット表層部とバッキング部とを接合一体化することを特徴とする通気性カーペットの製造方法。」(【特許請求の範囲】)

b.「【発明の属する技術分野】本発明は、オフィスビル等の床吹き出し空調方式のカーペット材や集合住宅、一般家屋の床表面に敷設して使用する防音カーペット材、自動車の内装用防音カーペット材等に関する。」(段落【0001】)

c.「【0006】また、防音性については、住居のみでなく、自動車内においても希求されており、特に自動車内装材に吸音性能を付与することが重要な課題となっている。自動車内の内装カーペットとして、通気性を有するカーペットを提供することは、上記と同様、自動車内装材のかかえる課題に対して有効に寄与できる。」(段落【0006】)

d.「【0009】本発明では、オフィスビル等の床吹き出し空調方式の床面に敷設するカーペットとして適し、また、マンションやアパート等の集合住宅に使用するカーペットとして、また、自動車の内装用のカーペットとしても有効に使用できるような、通気性に優れ、防音性にも寄与できるカーペットおよびそのようなカーペットを安価に製造することができるような製造方法を提供することを課題とする。」(段落【0009】)

e.「【0020】カーペット表層材の裏面に位置するバッキング部は、繊維集合体からなる。繊維集合体とは、繊維で構成されるものであれば特に限定されず、織物、編物、不織布、固綿(不織布、繊維堆積物等を熱等により圧縮させたもの)を用いることができる。これらの繊維集合体は、通気性が高く、カーペットに高い通気量を付与することができる。
【0021】本発明においては、クッション性および吸音・遮音性を考慮して、バッキング部は、面密度100?2000g/m^(2)、厚み1?40mmの固綿を用いることが好ましい。
【0022】固綿の面密度が100g/m^(2)未満であると、クッション性に優れるとはいいがたく、また、優位な吸音・遮音効果を奏しにくい。一方、固綿の面密度が2000g/m^(2)を超える場合、厚みが大きく嵩高なものであると、クッション性や吸音・遮音性に優れる傾向となるが、得られるカーペットの体積が大きくなりすぎてしまい、居住空間を圧迫することになり、また、厚みが小さく繊維間空隙の少ないものであると、クッション性に優れるとはいいがたく、また、消音性に劣る傾向となる。また、面密度が大きくすることは、コストアップにつながり、総じて好ましくない。
【0023】固綿の厚みについては、上記した面密度と関連するものであるが、厚みが1mm未満では、バッキン部として耐久性が乏しく、長時間の使用に耐えられず、また、クッション性にも劣る傾向となる。一方、厚みが40mmを超えると、得られるカーペット自体の厚みが大きくなりすぎてしまい、居住空間を圧迫することとなり、実用的ではない。
【0024】バッキング部を構成する繊維としては、上述したカーペット表層部に用いることができる繊維と同様のものを用いることができる。また、クッション性や吸音・遮音・消音性やその他要求性能に応じて適宜選択すればよく、例えば、高周波域の消音に効果的な5μm程度の極細繊維や低周波域の消音に望ましい30μm程度の極太繊維をそれぞれ単独または混合して用いてもよい。また、バッキング部に硬さや成形保持性を持たせるためには熱融着繊維を混合させて熱融着により一体化した固綿を用いることが好ましい。さらに、安価な屑糸等を固綿に混合させてもよい。
【0025】本発明の通気性カーペットは、カーペット表層部とバッキング部との間に、熱可塑性樹脂接着剤が、一方向に間隔を開けて筋状に配列し、該熱可塑性樹脂接着剤を介してカーペット表層部とバッキング部とが接合している。
【0026】熱可塑性樹脂接着剤は、カーペット表層部とバッキング部とを接合一体化する働きをするものであるが、それに加えて、接着剤の存在状態が、一方向に間隔を開けて配列しているために、すなわち、カーペットの全面に存在するものではなく、部分的に接着剤が存在しない領域を設けているため、カーペット表層部および繊維集合体からなるバッキング部の通気性を妨げることなく、カーペットに良好な通気量を確保することができる。
【0027】また、接着剤は、一方向に連続した筋状に配列しているので、カーペットの補強層としての役目を担うことができ、カーペットの保型性が向上する。
【0028】また、カーペット表層部として、タフトカーペットを使用した場合に、タフト糸の糸抜けを防止する目止め剤としての効果を奏することもできる。
【0029】熱可塑性樹脂接着剤としては、一般的によく知られているアクリル樹脂やウレタン樹脂等からなるものを用いてもよいが、本発明においては、特に、ポリエチレン系樹脂や酢酸ビニル系樹脂等からなるホットメルト接着剤を用いることが好ましい。本発明のカーペットを、例えば、自動車のフロアカーペットやトランクルーム内の内装カーペット等のように成形処理を要する用途において用いる場合は、ホットメルト接着剤を用いることにより、成形型枠への追従性に優れた、成形性の良好なカーペットを得ることができる。このような点からホットメルト接着剤が非常に有効である。
【0030】本発明のカーペットにおいては、熱可塑性樹脂接着剤の配列状態やその存在比率によって、カーペットの通気量を制御することができ、熱可塑性樹脂接着剤は、10cmあたり10?40本の密度で配列していることが好ましく、また、存在領域率(面積率)は20?90%であることが好ましい。」(段落【0020】?【0030】)

f.「【0036】本発明のカーペットは、上記の構成を有するものであり、その通気量は、3cc/cm^(2)・秒以上であることが好ましい。通気量が3cc/cm^(2)・秒未満であると、本発明が目的とする通気量を有しているとはいい難い。より好ましくは、5cc/cm^(2)・秒以上である。」(段落【0036】)

g.「【0038】次に本発明のカーペットの好ましい製造方法について説明する。
【0039】図1は、カーペットの製造方法の一例を示す概略図である。カーペット表層部(2)と、繊維集合体からなるバッキング部(3)との間に、溶融させた熱可塑性樹脂接着剤(4)を筋状に溶出し、一対の押圧ロール(5)間に導入して圧接し、カーペット表層部とバッキング部とを接合一体化することにより、本発明の通気性カーペット(1)を得ることができる。図1においては、カーペット表層部の表側が図の下部に位置し、カーペット表層部の裏面に熱可塑性樹脂接着剤が溶出されている。
【0040】間隔を開けて接着剤を筋状に溶出するに際しては、巾方向に一定の間隔で口金を設けて、その口金より溶出させて、カーペット表層部等を機械方向(巾方向と直交する方向)に走行させると、容易に筋状の接着剤を形成することができる。
【0041】また、公知のTダイに、巾方向に開口部と堰止め部を交互に有する樹脂吐出部を設置することにより、開口部より接着剤を溶出させて、筋状の接着剤を形成することができる。特に、カーペットの押出しラミネートバッキングとしてよく知られている、ポリエチレン樹脂等を押し出しラミネートする装置に、巾方向に開口部と堰止め部を交互に有する樹脂吐出部を設置することにより、特別な機械を要することなく、また、加工スピードを上げることができるので、コスト的にも優位で、効率よくカーペットを製造することができる。」(段落【0038】?【0041】)

h.「【0044】実施例1
カーペット表層部としては、ナイロン繊維を主成分としたパイル糸が、ポリエステル繊維不織布からなる基布にタフトされたタフトカーペットを用い、バッキング部としては、繊維径約15μmのポリエステル短繊維からなる固綿(面密度500g/m^(2)、厚み10mm)を用いた。
【0045】巾方向5mm間隔で堰止め部を設けたダイを有する押出しラミネ-ト装置を用いて、カーペット表層部の裏面に、溶融ポリエチレン樹脂(ホットメルト接着剤)を平方メートルあたり50gとなるように筋状に押し出し、接着剤側に固綿を配置するように、カーペット表層部、接着剤、固綿を一対の平滑ロール間に導入して、線圧98N/cmの圧力で圧接し、接合一体化させてカーペットを得た。
【0046】このときの接着剤は、巾方向10cmあたり20本の筋状に配列し、存在比率は50%であった。
【0047】実施例2
実施例1において、接着剤を押出す際の量を平方メートルあたり70gとしたこと以外は、実施例1と同様にしてカーペットを得た。」(段落【0044】?【0047】)

i.「【0051】得られた実施例1、2、比較例1のカーペットについて、下記の評価を行った。
(1)カーペットの通気性(cc/cm^(2)・秒):JIS L 1096 6.27.1(A法)のフラジール法にて測定を行った。」(段落【0051】)

上記a.請求項1の「熱可塑性樹脂接着剤が、一方向に間隔を開けて筋状に配列し、該熱可塑性樹脂接着剤を介してカーペット表層部とバッキング部とが接合していること」という記載からみて、カーペット表層部とバッキング部とは、樹脂接着剤層を介して一体化されているといえる。
上記a.請求項3の記載によれば、バッキング部の面密度は100?2000g/m^(2)、厚みは1?40mmである。そして、バッキング部の面密度が100g/m^(2)、厚みが1mmのとき、見掛け密度は0.1g/cm^(3)となる。バッキング部の面密度が2000g/m^(2)、厚みが40mmのとき、見掛け密度は0.05g/cm^(3)となる。バッキング部の面密度が2000g/m^(2)、厚みが1mmのとき、見掛け密度は2g/cm^(3)となる。バッキング部の面密度が100g/m^(2)、厚みが40mmのとき、見掛け密度は0.0025g/cm^(3)となる。したがって、バッキング部の見掛け密度は0.0025?2g/cm^(3)であるといえる。
上記e.段落【0024】及びh.段落【0044】の記載によれば、バッキング部は、繊維径5?30μmのポリエステル繊維からなる。また、ポリエステル繊維の比重は1.38である(例えば、社団法人化学工学協会,「化学工学便覧」,丸善株式会社,昭和63年3月18日,p.1353参照。)。したがって、繊維径5?30μmのポリエステル繊維の繊度は、0.27?9.76dtexであるといえる。
上記h.段落【0045】の記載によれば、ポリエチレン樹脂は平方メートルあたり50gとなるように押し出されており、上記h.段落【0047】の記載によれば、ポリエチレン樹脂は平方メートルあたり70gとなるように押し出されている。したがって、熱可塑性樹脂接着剤の塗布量は50?70g/m^(2)であるといえる。
図1には、カーペット表層部と、バッキング部とが連続的に供給され、重ね合わされる直前に、重ね合わせ面に熱可塑性樹脂接着剤をTダイにより、単列の筋状に溶出することが図示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、先願明細書には、次の2つの発明が記載されていると認められる。
「カーペット表層部と、不織布からなる吸音性を有するバッキング部とが、樹脂接着剤層を介して一体化されてなる自動車用カーペットにおいて、前記樹脂接着剤層が熱可塑性樹脂接着剤をTダイにより筋状に溶出された通気性のある樹脂接着剤層からなり、かつ前記カーペットの厚さ方向の通気量が3cc/cm^(2)・秒以上であり、
前記不織布からなる吸音性を有するバッキング部の厚みが1?40mm、前記吸音性を有するバッキング部の見掛け密度が0.0025?2g/cm^(3)、前記吸音性を有するバッキング部を構成する繊維の繊度が0.27?9.76dtexの範囲であり、
前記樹脂接着剤層の熱可塑性樹脂接着剤がポリエチレン系樹脂であり、
前記樹脂接着剤層の熱可塑性樹脂接着剤は、塗布量が50?70g/m^(2)で、Tダイにより筋状に溶出された通気性のある樹脂接着剤層を介してカーペット表層部と、不織布からなる吸音性を有するバッキング部とが接合一体化されてなる自動車用カーペット。」(以下、「先願明細書発明1」という。)及び

「連続的に供給されるカーペット表層部と、不織布からなる吸音性を有するバッキング部とが重ね合わされる直前に、重ね合わせ面に熱可塑性樹脂接着剤をTダイにより、単列の筋状に溶出し、カーペット表層部と、不織布からなる吸音性を有するバッキング部とを圧接し、良好な通気量を確保した状態で接合一体化する自動車用カーペットの製造方法。」(以下、「先願明細書発明2」という。)

(2)甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
j.28頁表2には、くもの巣状ホットメルト接着剤のメルトインデックスが、概ね4?100g/10minであることが記載されている。

k.29頁図5には、Material IとMaterial IIとの間にホットメルト接着剤を用いて接着一体化するときに、Heating rollers とPressure rollers(cooling)とを用いることが記載されている。

(3)甲第3号証
甲第3号証(特開平5-293906号公報)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
l.「【産業上の利用分野】本発明は部分接着ラミネートに関し、更に詳しくは、基材である織物、不織布等に合成樹脂フィルムを部分接着ラミネートすることにより、風合及び引裂強度に優れた積層材料を製造する方法に関するものである。」(段落【0001】)

m.「【0010】本発明における熱可塑性樹脂の押出しラミネート加工方法を図5に示す。同図において、第1繰出機11より基材12を繰り出し、基材同士でポリサンドする場合は、第2繰出機19より他の基材20も繰り出し、Tダイ押出機13より熱可塑性樹脂14を押出し、プレスロール15と冷却ロール16で押圧して基材に貼り合わせ、あるいは基材同士を貼り合わせ積層一体化し、得られた積層材料17を巻取機18で巻き取る。」(段落【0010】)

V.無効理由に対する当審の判断

1.無効理由1について
1-1.本件発明1について
(1)対比・判断
本件発明1と先願明細書発明1とを対比すると、先願明細書発明1の「カーペット表層部」は、各文言の意味、機能又は構成等からみて本件発明1の「表皮材層」に相当し、以下同様に、「吸音性を有するバッキング部」は「吸音層」に、「樹脂接着剤層」は「接着樹脂層」に、「自動車用カーペット」は「車両用カーペット」に、「熱可塑性樹脂接着剤」は「熱可塑性樹脂」に、「Tダイ」は「Tダイ型押出し機」に、「筋状」は「糸状」に、「溶出」は「溶融押出し」に、「通気量」は「通気度」に、「cc/cm^(2)・秒」は「(cm^(3)/cm^(2)・秒)」に、それぞれ相当する。
先願明細書発明1においては、カーペットの厚さ方向の通気量が3cc/cm^(2)・秒以上であり、本件発明1の1?50(cm^(3)/cm^(2)・秒)と数値範囲が重複しているから、その重複する範囲内において両発明の通気度は一致しているといえる。

してみると、本件発明1と先願明細書発明1とは、
「表皮材層と、不織布からなる吸音層とが、接着樹脂層を介して一体化されてなる車両用カーペットにおいて、前記接着樹脂層が熱可塑性樹脂をTダイ型押出し機により糸状に溶融押出しされた通気性のある接着樹脂層からなり、かつ前記カーペットの厚さ方向の通気度が1?50(cm^(3)/cm^(2)・秒)である車両用カーペット。」である点で一致するので、両者は同一である。

1-2.本件発明2について
(1)対比・判断
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、更に、「前記不織布吸音層の厚さが1?15mm、前記吸音層の見掛け密度が0.01?0.5g/cm^(3)、前記吸音層を構成する繊維の繊度が0.1?30dtexの範囲である」ことを、発明特定事項に付加したものである。
そこで、本件発明2と先願明細書発明1とを対比すると、先願明細書発明1の「不織布からなる吸音性を有するバッキング部」は、各文言の意味、機能又は構成等からみて本件発明2の「不織布吸音層」に相当し、以下同様に、「厚み」は「厚さ」に、「吸音性を有するバッキング部」は「吸音層」に、「自動車用カーペット」は「車両用カーペット」に、それぞれ相当する。
先願明細書発明1においては、不織布からなる吸音性を有するバッキング部の厚みが1?40mmであり、本件発明2の1?15mmと数値範囲が重複している。
先願明細書発明1においては、吸音性を有するバッキング部の見掛け密度が0.0025?2g/cm^(3)であり、本件発明2の0.01?0.5g/cm^(3)と数値範囲が重複している。
先願明細書発明1においては、吸音性を有するバッキング部を構成する繊維の繊度が0.27?9.76dtexの範囲であり、本件発明2の0.1?30dtexの範囲と数値範囲が重複している。
両発明は、不織布吸音層の厚さ、不織布吸音層の見掛け密度、及び不織布吸音層の繊維の繊度について、数値範囲が重複しているから、その重複する範囲内において不織布吸音層としては同一のものということができる。

してみると、本件発明2と先願明細書発明1とは、
「前記不織布吸音層の厚さが1?15mm、前記吸音層の見掛け密度が0.01?0.5g/cm^(3)、前記吸音層を構成する繊維の繊度が0.1?30dtexの範囲である請求項1記載の車両用カーペット。」である点で一致するので、両者は同一である。

1-3.本件発明3について
(1)対比・判断
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項をすべて含み、更に、「前記接着樹脂層の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である」ことを、発明特定事項に付加したものである。
そこで、本件発明3と先願明細書発明1とを対比すると、先願明細書発明1の「樹脂接着剤層」は、各文言の意味、機能又は構成等からみて本件発明3の「接着樹脂層」に相当し、同様に、「熱可塑性樹脂接着剤」は「熱可塑性樹脂」に、「自動車用カーペット」は「車両用カーペット」に、それぞれ相当する。
先願明細書発明1の「ポリエチレン系樹脂」は、ポリオレフィン系樹脂であるから、本件発明3の「ポリオレフィン系樹脂」に相当する。
してみると、本件発明3と先願明細書発明1とは、
「前記接着樹脂層の熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項1又は2記載の車両用カーペット。」である点で一致するので、両者は同一である。

1-4.本件発明4について
(1)対比
本件発明4は、本件発明1乃至本件発明3のいずれか一つの発明特定事項をすべて含み、更に、「前記接着樹脂層の熱可塑性樹脂は、メルトフローレートが1?100で、塗布量が50?500g/m^(2)で、Tダイ型押出し機により糸状に溶融押出しされた通気性のある接着樹脂層を介して表皮材層と、不織布吸音層とが接着一体化されてなる」ことを、発明特定事項に付加したものである。
そこで、本件発明4と先願明細書発明1とを対比すると、先願明細書発明1の「樹脂接着剤層」は、各文言の意味、機能又は構成等からみて本件発明4の「接着樹脂層」に相当し、以下同様に、「熱可塑性樹脂接着剤」は「熱可塑性樹脂」に、「Tダイ」は「Tダイ型押出し機」に、「筋状」は「糸状」に、「溶出」は「溶融押出し」に、「カーペット表層部」は「表皮材層」に、「不織布からなる吸音性を有するバッキング部」は「不織布吸音層」に、「接合一体化」は「接着一体化」に、「自動車用カーペット」は「車両用カーペット」に、それぞれ相当する。
先願明細書発明1においては塗布量が50?70g/m^(2)であり、本件発明4においては塗布量が50?500g/m^(2)であり、塗布量に関する両発明の数値範囲は重複しているから、その重複する数値範囲内において両発明の塗布量は一致しているといえる。

してみると、本件発明4と先願明細書発明1とは、本件発明4の用語を用いて表現すると、
「前記接着樹脂層の熱可塑性樹脂は、塗布量が50?500g/m^(2)で、Tダイ型押出し機により糸状に溶融押出しされた通気性のある接着樹脂層を介して表皮材層と、不織布吸音層とが接着一体化されてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両用カーペット。」である点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点A:本件発明4では、熱可塑性樹脂のメルトフローレートが1?100であるのに対して、先願明細書発明1では、熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂接着剤)のメルトフローレートがどの程度か明らかでない点。

(2)判断
上記相違点Aについて検討する。
熱可塑性樹脂のメルトフローレートについてみてみると、小川伸,「英和プラスチック工業辞典」,5版,株式会社工業調査会,1992年5月25日,p.588、メルトインデックスの項目に「ポリエチレンのメルトインデックスは0.1?20の範囲にある。」と記載され、また甲第2号証28頁表2には、ホットメルト接着剤のメルトインデックスが、概ね4?100g/10minであることが記載されているように、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂のメルトフローレートは概ね1?100g/10minの範囲であることは明らかである。そうすると、先願明細書発明1の熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂接着剤)のメルトフローレートの数値範囲も、本件発明4の熱可塑性樹脂のメルトフローレート1?100の範囲と重複するものと認められる。
してみると、本件発明4と先願明細書発明1とは同一である。

1-5.本件発明5について
(1)対比
本件発明5と先願明細書発明2とを対比すると、先願明細書発明2の「カーペット表層部」は、各文言の意味、機能又は構成等からみて本件発明5の「表皮材」に相当し、以下同様に、「不織布からなる吸音性を有するバッキング部」は「吸音不織布」に、「熱可塑性樹脂接着剤」は「熱可塑性樹脂」に、「Tダイ」は「Tダイ型押出し機」に、「単列」は「単列または複数列」に、「筋状」は「糸状」に、「溶出」は「溶融押出し」に、「圧接」は「加圧」に、「良好な通気量を確保した」は「通気性を残した」に、「接合一体化」は「接着一体化」に、「自動車用カーペット」は「車両用カーペット」に、それぞれ相当する。

してみると、本件発明5と先願明細書発明2とは、本件発明5の用語を用いて表現すると、
「連続的に供給される前記表皮材と、吸音不織布とが重ね合わされる直前に、重ね合わせ面に熱可塑性樹脂をTダイ型押出し機により、単列または複数列の糸状に溶融押出しし、表皮材と、吸音不織布とを加圧し、通気性を残した状態で接着一体化する車両用カーペットの製造方法。」である点で一致し、次の点で一応相違する。

相違点B:本件発明5では、表皮材と吸音不織布とを加圧冷却しているのに対して、先願明細書発明2では、表皮材(カーペット表層部)と吸音不織布(不織布からなる吸音性を有するバッキング部)とを加圧しているものの、冷却しているかどうか明らかでない点。

(2)判断
上記相違点Bについて検討する。
先願明細書発明2においても、表皮材と吸音不織布とを接着一体化する以上、溶融した熱可塑性樹脂を固めるために冷却することが必要となることは明らかである。しかも、ホットメルト接着剤を二つの材料の間に用いて接着一体化するときに、加圧することに加え冷却を施すことは、例えば甲第2号証(29頁図5 Pressure rollers(cooling)など参照。)、甲第3号証(段落【0010】、図5の冷却ロール16など参照。)などに見られるように従来周知の技術である。したがって、上記相違点Bは、単なる周知手段の付加にすぎず、本件発明5と先願明細書発明2とは実質同一である。

1-6.むすび
本件発明1?4は、先願明細書発明1と同一であり、本件発明5は、先願明細書発明2と実質同一であり、しかも、本件発明1?5の発明者が先願明細書発明1及び先願明細書発明2の発明者と同一であるとも、また、本件特許の出願時に、その出願人が先願明細書発明1及び先願明細書発明2の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明1?5は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

VI.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?5についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、その他の無効理由について検討するまでもなく無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-21 
結審通知日 2009-04-24 
審決日 2009-05-11 
出願番号 特願2002-151096(P2002-151096)
審決分類 P 1 113・ 16- Z (B60N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩田 洋一  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 吉澤 秀明
豊永 茂弘
登録日 2008-06-13 
登録番号 特許第4136457号(P4136457)
発明の名称 車両用カーペット及びその製造方法  
代理人 奥村 茂樹  

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