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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1200072
審判番号 不服2006-22984  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-11 
確定日 2009-07-10 
事件の表示 平成11年特許願第 41405号「画像形成方法及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月 8日出願公開、特開2000-242004〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成11年2月19日の出願であって、平成18年9月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月2日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成18年11月2日付け提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 静電潜像形成体上に形成された静電潜像をトナーを含む現像剤により現像した後に、転写材上に転写して画像を形成する画像形成方法に於いて、前記トナーが樹脂粒子を水系媒体中に於いて融着させた下記式で表される形状係数が1.3?2.2であるトナーであり、且つ静電潜像形成体が表面に少なくともフッ素原子及び珪素原子のいずれか一方を有する化合物を含有しその存在量(炭素原子に対する比)がXPSの測定に基づき
F/C=0.03?1.00
Si/C=0.03?1.00
の範囲にあることを特徴とする画像形成方法。
形状係数=((最大径/2)^(2)×π)/投影面積」

なお、平成18年11月2日付けの手続補正によって、請求項1及び2において「形状係数」を定義する関係式の記載が付加された。これは、当該分野においてトナー粒子の「形状係数」と呼ばれるものには拒絶の理由で示された引用文献等に記載される各種の形状係数のように定義の異なるものが複数あることを踏まえて、請求項1及び2に記載の「形状係数」が明細書【0090】に記載の定義によることを明確化するものである。
よって、上記の補正事項は平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するので、平成18年11月2日付けの手続補正は同法第17条の2第4項の規定に適合する。

3.刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された下記の刊行物1(特開平7-36207号公報)及び2(特開平10-20552号公報)には次の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

刊行物1:特開平7-36207号公報(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献等1)
(1a)「【請求項1】 帯電部材を電子写真感光体に接触させて、外部より電圧を印加して帯電を行う帯電工程の後、潜像画像を形成し、該潜像画像を現像剤を用いて顕像化し転写材に転写形成する画像形成方法において、
a)該電子写真感光体として、その表面層にフッ素及び/あるいは珪素原子を有する物質が存在し、かつXPS測定によるそれらと炭素原子との比が
F/C =0.03?1.00
Si/C=0.03?1.00
である感光体を用い、
b)該現像剤におけるトナーが、水性懸濁重合法により直接的に得られ、離型剤としてポリアルキレンを重合性単量体100質量部に対して、10?40質量部含有し、該トナーの形状係数が105?120であり、かつ、該トナーを構成する樹脂成分中に少なくとも一種以上の極性成分を含有することを特徴とする画像形成方法。」

(1b)「【0014】・・・(中略)・・・、使用するトナーの形状を球形とすることで、帯電部材と感光体表面への現像剤による傷,削れ,固着が防止され、その結果、帯電部材と感光体との接触を十分に保つことが可能となることが提案されている。
【0015】また、近年電子写真には更なる高画質化,高耐久性が望まれている。この要求に対して、トナーの形状は、真球状よりもトナー表面に凹凸を有したもの、偏平形状になったもの等が好ましいことが分かっている。すなわち、真球状であるものは、トナーの流動性付与剤等の外添剤がトナー表面に埋没しやすく、その結果として転写性が悪化し、画質の劣化を発生する。
【0016】しかしながら、このような異形化されたトナーは、前述のように、感光体表面へ傷,削れ,固着が発生しやすくなる傾向にある。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、上述の如き従来技術の問題点を解決した画像形成方法を提供することにある。
【0018】即ち、本発明の目的は、定着性,転写性に優れた高画質で感光体へのトナー固着,削れ,傷を防止した高耐久性の帯電工程、感光体、及びトナーから成る画像形成方法を提供することにある。」

(1c)「【【0021】本発明者らは・・・(中略)・・・帯電部材と感光体表面への現像剤による傷,削れ,固着を防止できる球状トナーの問題点である、耐久による外添剤の劣化を、トナー形状を異形化することで抑制し、画質の劣化を防止する。
【0022】本発明に使用されるトナーは形状係数SFが105?120であるのが好ましい。SFが105より小さいと、外添剤の劣化が発生しやすく、逆に120より大きい場合は、感光体表面、帯電部材の傷,削れ等が発生しやすく好ましくない。」

(1d)「【0027】更に電子写真感光体の表面層に、フッ素及び/あるいは珪素原子を炭素原子との比が、
F/C 0.03?1.00, Si/C 0.03?1.00
の範囲で存在させることにより、上記課題を解決できることを見い出した。
【0028】ここでF/C,Si/Cを規定する理由としては、感光体表面が上記本発明と組み合せた場合、より本発明の目的を達成する構成となっている。すなわち、F,Siは感光体表面エネルギーを下げるものであり、転写性、付着性を低下させる。一方、炭素原子の存在はその表面エネルギーを上げるものである。この比を規定することにより、転写性が良く、画質の劣化やクリーニング不良を発生しない構成となりうることを本発明者らは見い出した。
【0029】ここで、本発明のトナーに対して感光体表面層のF/C,Si/Cがそれぞれ0.03未満であると、感光体表面エネルギーが高く、トナーの転写性を悪化させる。一方、F/C,Si/Cがそれぞれ1.00を超えると、クリーニング部材との摩擦係数が下がり逆にトナーのすり抜け、クリーニング不良を発生してしまう。」

(1e)「【0092】更に、本発明のトナーは異形化処理が処されていることが必要であり、処理方法としては、一般に知られている手段であればいずれの方法を用いても良い。いくつかの処理例を以下に挙げる。
(1)メカノケミカル法:トナー粒子と樹脂微粒子を混合後、メカノケミカル手法によりトナー粒子の表面に樹脂微粒子を融着させる。
(2)乾式加熱処理法:トナー粒子と樹脂微粒子を混合後、流動加熱層中にて混合加熱を行いトナー粒子の表面に樹脂微粒子を融着させる。
(3)湿式加熱処理法:液体若しくは気体中にて、トナー粒子と樹脂微粒子を混合後、液体中にて加熱処理を行いトナー粒子の表面に樹脂微粒子を融着させる。
(4)重合時に樹脂微粒子を添加する方法:重合法によりトナー粒子を得る場合、あらかじめ樹脂微粒子をモノマー中に添加しておくか、又は重合過程に樹脂微粒子を添加し、樹脂微粒子や分散媒体の物性をコントロールすることにより、樹脂微粒子をトナー粒子表面に移行させ、重合を完結させる。
(5)膨潤後に乾燥する方法:トナー粒子をいったん溶剤に浸漬し膨潤させた後、加熱気流中若しくは減圧下に乾燥する。
(6)懸濁重合時に、懸濁粒子の安定性を乱しジャガイモ形状,ダルマ形状の如き異形粒子を得る方法もある。懸濁粒子の安定性を乱す方法としては、分散機の回転数を途中で変更する方法,重合系内のpH値を変更する方法がある。
(7)懸濁重合反応終了後、機械的な力を加えることで、トナー粒子を変形させる方法。(当審注:文中、(数字)は原文では○囲みの数字で記載)」

(1f)「【0096】また、本発明におけるトナーの形状係数SFは以下のようにして求めた。
【0097】日立製作所製フィールドエミッション走査電子顕微鏡S-800によりトナーをランダムに100個以上抽出し、ニレコ社製の画像処理解析装置Luzex3を用いて次式によって求めた。
【0098】
【数1】




(1g)「【0193】
【表1】


【0194】
【表2】




(1h)「【0195】[実施例1]重合トナーbを図1に示す接触帯電装置において、感光体Cへの当接圧50g/cm,帯電部材に印加される直流電圧-600V,交流電圧2,000Vpp,周波数150Hzとした画像形成装置(キヤノン製レーザービームプリンターLBP-SX改造機)を用い、トナー画像を形成する連続3000枚の実写テストを行った。
【0196】結果を表3に示した。
【0197】[実施例2?4,比較例1?4]表3に示したトナーとドラム及び実施例1と同様の画像形成装置を用い評価を行った。結果を表3に示した。
【0198】[実施例5,比較例5]重合トナーdと感光体D又はFを用い、図1に示すような接触帯電装置を有する画像形成装置(キヤノン製NP-8500改造機)にて、連続3,000枚の実写テストを行った。結果を表3に示した。
【0199】
【表3】




上記(1a)?(1f)より、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「帯電部材を電子写真感光体に接触させて、外部より電圧を印加して帯電を行う帯電工程の後、潜像画像を形成し、該潜像画像を現像剤を用いて顕像化し転写材に転写形成する画像形成方法において、
a)該電子写真感光体として、その表面層にフッ素及び/あるいは珪素原子を有する物質が存在し、かつXPS測定によるそれらと炭素原子との比が
F/C =0.03?1.00
Si/C=0.03?1.00
である感光体を用い、
b)該現像剤におけるトナーが、水性懸濁重合法により得られ、下記式で定義される該トナーの形状係数が105?120である画像形成方法。
形状係数SF=(PERI/AREA)×(1/4π)
(PERI:トナーの投影図の周長 AREA:トナーの投影面積)」

刊行物2:特開平10-20552号公報(原査定の拒絶の理由で引用された引用文献等6)
(2a)「【請求項1】 ガラス転移点58?70℃、軟化点80?130℃、数平均分子量2000?10000および重量数平均分子量/数平均分子量2?10のポリエステル系樹脂からなる体積平均粒径0.1?1μmの樹脂粒子の凝集体粒子からなり、この凝集体粒子の体積平均粒径が4?10μmであることを特徴とする静電潜像現像用トナー。
・・・(中略)・・・
【請求項3】 前記凝集体粒子の形状係数が120?160であることを特徴とする請求項1記載の静電潜像現像用トナー。
・・・(中略)・・・
【請求項6】 ガラス転移点58?70℃、軟化点80?130℃、数平均分子量2000?10000および重量数平均分子量/数平均分子量2?10のポリエステル系樹脂、着色剤および非水溶性有機溶剤からなる着色樹脂溶液を水中に乳化分散させてO/W型エマルジョンを形成し、次いで前記有機溶剤を除去することにより体積平均粒径0.1?1μmの着色樹脂粒子を形成した後、この着色樹脂粒子を凝集させて体積平均粒径4?10μmの凝集体粒子からなるトナー
粒子を得ることを特徴とする静電潜像現像用トナーの製造方法。
【請求項7】 前記着色樹脂粒子を形成後、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化バリウム、塩化カルシウムおよび塩化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種の凝集剤の水溶液を添加して着色樹脂粒子を凝集させ、その後加熱処理を行うことにより凝集体粒子を形成することを特徴とする請求項7記載の静電潜像現像用トナーの製造方法。」

(2b)「【0009】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上述した問題を解決する静電潜像現像用トナーを提供することにある。
【0010】本発明の目的は、画像濃度ムラや画像のカブリがなく高精細画像が得られる静電潜像現像用トナーを提供することにある。
【0011】また、本発明の目的は、ブレードクリーニング性に優れた静電潜像現像用トナーを提供することにある。
【0012】また、本発明の目的は、色再現性およびOHPの透光性に優れた画像が得られる静電潜像現像用トナーを提供することにある。
【0013】また、本発明の目的は、非磁性一成分現像方式に使用した場合でも、現像ローラと規制ブレードとの圧接部(規制部)における固着の問題を解決した静電潜像現像用トナーを提供することにある。
【0014】また、本発明の目的は、上述した問題を解決する静電潜像現像用トナーの製造方法を提供することにある。」

(2c)「【0017】
【発明の実施の形態】本発明のトナーは、少なくとも特定のポリエステル系樹脂からなる体積平均粒径0.1?1μmの樹脂粒子の凝集体粒子からなり、この凝集体粒子の体積平均粒径が4?10μm、好ましくは4?8μmである。
【0018】樹脂粒子の体積平均粒径が0.1μmより小さいと、ブレードクリーニング性を十分に向上させることが困難になり、1μmより大きいと上記粒径の凝集体粒子を安定して製造することが困難になる。」

(2d)「【0052】本発明においては、O/W型エマルジョンを攪拌しながら加熱して非水溶性有機溶剤を除去することにより、水系媒体中に0.1?1μmの着色樹脂粒子が分散された懸濁液を得る。この懸濁液中に凝集剤を添加して着色樹脂粒子を凝集させ、これを加熱処理した後、水系媒体を除去して凝集体粒子を単離し、洗浄後乾燥し、必要に応じて分級処理を行いトナー粒子を得ることができる。このようにして得られたトナー粒子は、その形状が真球状でないためクリ-ニング性に優れている。」

(2e)「【0055】本発明トナーは、形状係数SF1がトナー100個の平均値で、120?160、好ましくは130?150である。SF1が120以下では球状になりクリーニング性に問題が生じ、160以上では不定形になりトナー表面が欠けて微粉が発生し耐久性に問題がある。
【0056】この形状係数SF1は粒子の長径/短径の差(歪み性)を示すパラメータであり、粒子の形状が球形に近い程100に近い値となる。
【0057】形状係数SF1は本発明においてイメージアナライザー(ルーゼックス500:日本レギュレータ社製)により測定し、下記式で定義される形状係数SF1を示す。
【0058】
【数2】


【0059】
上記式中、最大長とは粒子の投影像における最大長の平均値、面積とは粒子の投影面積の平均値を示す。」

(2f)「【0107】
【表1】



(2g)「【0115】
【表2】

【0116】比較例1のトナーは、凝集させる粒子が大きいために、トナー粒径が大きく荒れた画像になる。また、トナー形状が不定形になりトナー微粉が発生し耐久性に劣る。比較例2のトナーは、凝集させる粒子が小さいために、トナー形状が球形になり、クリーニング不良が発生する。」

4.対比
本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、後者の「電子写真感光体」「潜像画像」「顕像化」「転写材に転写形成する」は、前者の「静電潜像形成体」「静電潜像」「現像」「転写材上に転写して画像を形成する」に相当する。
また、後者の「水性懸濁重合法」と前者の「樹脂粒子を水系媒体中に於いて融着させ」る方法とは、両者とも水系媒体中で造粒するトナー製造方法である点で共通し、後者の「下記式(省略)で定義される該トナーの形状係数が105?120である」と前者の「下記式(省略)で表される形状係数が1.3?2.2である」とは、両者とも、トナーの形状を真円との差異を数値化することによって表したときに、その数値が、真円の場合を含まない特定の範囲にあるような形状である点で共通している。
そうすると、本願発明1と刊行物1発明とは、
「静電潜像形成体上に形成された静電潜像をトナーを含む現像剤により現像した後に、転写材上に転写して画像を形成する画像形成方法に於いて、前記トナーが、水系媒体中で造粒されたものであって、トナーの形状を真円との差異を数値化することによって表したときに、その数値が、真円の場合を含まない特定範囲にあるトナーであり、且つ静電潜像形成体が表面に少なくともフッ素原子及び珪素原子のいずれか一方を有する化合物を含有しその存在量(炭素原子に対する比)がXPSの測定に基づき
F/C=0.03?1.00
Si/C=0.03?1.00
の範囲にあることを特徴とする画像形成方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
トナーの形状を示す指標が、本願発明1では「「形状係数=((最大径/2)^(2)×π)/投影面積」で表される形状係数」であるのに対し、刊行物1発明では「形状係数SF=(PERI/AREA)×(1/4π)(PERI:トナーの投影図の周長 AREA:トナーの投影面積)で表される形状係数SF」であり、かつ、本願発明1では「水系媒体中で造粒されたものであって、トナーの形状を真円との差異を数値化することによって表したときに、その数値が、真円の場合を含まない特定範囲にあるトナー」が「樹脂粒子を水系媒体中に於いて融着させた形状係数が1.3?2.2のトナー」であるのに対し、刊行物1発明では「水性懸濁重合法により直接的に得られた形状係数SFが105?120のトナー」である点。

5.検討
上記の相違点について検討する。
上記(2a)?(2f)によれば、刊行物2には、画像濃度ムラや画像のカブリがなく高精細画像が得られ、かつブレードクリーニング性に優れたトナーとして、水系媒体中で樹脂粒子を凝集させた後に加熱処理してなる、「形状係数SF1」の平均値が好ましくは130?150であるトナーが記載されている。
刊行物2に記載の「形状係数SF1」は、(2d)に示される定義から見て本願発明1の「形状係数」に100を乗じたものに等しいから、刊行物2に記載の「形状係数SF1」が130?150という範囲は本願発明1の「形状係数」に換算すれば1.3?1.5に相当し、これは本願発明1の範囲の内にある。そして、水系媒体中で樹脂粒子を凝集させた後に加熱処理することは、本願発明1の「樹脂粒子を水系媒体中に於いて融着」させることに相当する。したがって、刊行物2に記載のトナーは本願発明1の「樹脂粒子を水系媒体中に於いて融着させた形状係数が1.3?2.2のトナー」に相当する。
上記(1b)?(1h)によれば、刊行物1発明は、電子写真における更なる高画質化や高耐久性の要求に対して、トナーの形状は、真球状よりもトナー表面に凹凸を有したもの、偏平形状になったもの等が好ましいことが分かっている反面、異形化トナーには感光体表面への傷、削れ、固着が発生しやすい傾向があることを踏まえた上で、画質劣化やクリーニング不良を防ぐ手段として、感光体表面のF/CまたはSi/Cの範囲を規定すると同時にトナーの形状を「形状係数SF」が特定の範囲とするものである。
そして、刊行物1発明の画像形成方法はトナーのクリーニング不良を防ぐために感光体を特定のものにするところ、刊行物2に記載のトナーはブレードクリーニング性に優れたものであり、画像形成方法における両者の課題は共通する。また、両者のトナーは、いずれも水系媒体中で造粒するものであって、かつ、球状粒子であることの問題を軽減するために、不定形に由来する問題が発生しない程度の範囲でトナー粒子を異形化したトナーである点で一致している。
してみると、刊行物1発明において、水系媒体中で造粒され球状粒子との差異が特定の範囲内にある形状のトナーとして、「水性懸濁重合法により直接的に得られる形状係数が105?120のトナー」に換えて、刊行物2に記載のクリーニング性に優れたトナーを採用し、本願発明1のようになすことは、当業者であれば容易に想到するものである。
また、高画質や優れたクリーニング特性に加えて本願発明1が目的とする高耐久という効果について見ると、本願発明1の実施例に対して、比較例1は、「形状係数」が1.19と過小の場合にクリーニング不良の発生、画像濃度、カブリ濃度の点で、10万枚印刷時の耐久性に劣ることを示している(【表1】?【表3】)。そして(2f)(2g)によれば、刊行物2には、トナーの「形状係数SF1」が118、すなわち本願発明1の「形状係数」に換算すれば1.18の比較例2では「形状係数」が1.32?1.53(「形状係数SF1」が132?153)の実施例1?5に比べて画像濃度ムラ、クリーニング性、カブリ等の点で1万枚印刷時の耐久性に劣ることが示されている。両者の例は画像形成方法で用いる感光体が異なっており、耐久性の大きさそのものを単純に比較はできないが、同じ感光体に形状の異なるトナーを適用した場合、「形状係数」が1.3を超えている場合は各特性に十分な耐久性が見られるのに対して1.2を下回る場合には耐久性が低下するという傾向は一致している。
また、本願発明1において、「形状係数」に上限値を設ける理由は明細書【0092】によると「不定形化が高くなり、機械的なストレスを受けた場合にトナーの破砕が発生し、微粉の発生が起こりやすくなり、接触式帯電部材の汚染を引き起こしやすくなる問題」が挙げられているが、刊行物2にも(2e)のとおり、「形状係数SF1」が過大になると微粉が発生し問題となることが記載されている。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明を参照しても、例えば感光体の表面特性が異なればトナー形状と耐久性の関係が異なる傾向を見せるという事実なども見当たらないので、刊行物2のトナーが見せる「形状係数SF1」と耐久性との関係は、クリーニング特性に優れる刊行物1発明の電子写真感光体を使用した画像形成方法においても、同様の傾向を示すことが推測される。
そうしてみると、刊行物2記載のトナーの「形状係数SF1」の範囲はその上限値が異なっているものの本願発明1の範囲の内にあること、刊行物2のトナーと本願発明1とで「形状係数」に上限値を設けることの技術的意味は同じであることを考慮すれば、刊行物2に記載のトナーを採用するに当たって許容できるトナー形状の範囲をトナーや感光体の材料等に応じて適宜調整し、「形状係数」として本願発明1のように設定することは当業者の通常の創作能力の範囲を超えるものではなく、本願発明1の効果も、刊行物1及び刊行物2に記載の事項から当業者が予測できる範囲を超えた格別顕著なものとは言い難い。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-31 
結審通知日 2009-04-07 
審決日 2009-05-22 
出願番号 特願平11-41405
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 淺野 美奈
伏見 隆夫
発明の名称 画像形成方法及び画像形成装置  

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